ペルソナ Blood-Soul   作:龍牙

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第七十一夜

「ごめんね、つき合わせちゃって」

「ううん、いいの。一人じゃ大変そうだし」

「「あれ?」」

 医療品の買い物帰りの奏夜と風花が寮に帰ると一人項垂れている順平の姿があった。

「順平……何やっているのさ?」

「あぁ、紅、山岸……聞いてくれよぉ……!」

 半泣きですがり付こうとしてくる順平と風花の間にさり気無く立つ奏夜。何が有ったのかは分からないが、新しい武器を手に入れてご機嫌だったと言うのに、極楽から地獄にでも叩き落されたと言う表現がぴったりな彼を見ながら、順平には悪いが『声を掛けたのは失敗だった』と思ってしまう。

「今日さ、オレ……チドリのとこに久々に言ってきたんだよ~。そしたらぁ……そしたらさぁ……!」

 順平には悪いがさり気無く風花を遠ざけていく。実際聞いてないし、どうやって気付かれない様に風花にこの場を離れてもらうかと考えていたりする。

 ……どうでも良いがすっかりと恋人同士にしか見えない二人である。間違いなく女教皇のコミュレベルはMAXに違いない。女教皇のカテゴリーの最強ペルソナも普通に作れるだろう。

「もう来るなって言われたんだよ~!!!」

 その後長々と聞かされたが要点はその一点だ。

「紅……教えてくれよ! いったいオレどうすりゃ良いんだよ~!」

「いや、なんで其処でぼくに聞くのさ、順平?」

「うっせー、どう見てもお前が一番適任だろうが!? 真田先輩じゃ意味ないし、天田になんて聞けるかよ!」

「そりゃそうだ」

 消去法で自分だったと考える奏夜だが、多分比較対象が無くても奏夜を迷わず選んだだろう。恋愛事に興味無さそうな明彦と、小学生(・・・)な乾。前者は意味ないだろうし、後者に至っては小学生相手に恋愛相談など出来るわけが無い。……乾は結構もてていそうだが。

 それに対して奏夜は傍から見れば普通に風花との関係は恋人同士に見える。……しかも、かなり上手く行っている様にしか見えない。

「特にそのイヤホン、山岸の手作りとか言ってただろう!?」

「あー……変えたのに気付いたからそう言ったっけ?」

 ……普通にコミュレベルMAXだった様子だ。

「お前以外に……お前以外にこんな事、誰に相談しろってんだよぉ!!!」

「……だから、ぼくに言わないでよ。だいたい。あのストレガの子が元気ないなら、こんな所でそんな事言ってないで力になれば良いだけだよ」

「そっか、そうだよな。サンキュー、紅」

 アドバイスになったのかどうかは分からないが、力なくとぼとぼと歩いていく順平だった。

 朝のホームルーム前。奏夜、ゆかり、順平の三人が談笑していた。とは言っても、現在はアイギスがまだ奏夜との戦いの結果大き過ぎるダメージを負ってしまっているので、どちらかと言うと無理に明るい話題を探していると言った様子だが。

「はぁ……」

「もう、何時でも落ち込んでないでシャキッとしなさい。鬱陶しいなぁ」

「鬱陶しい!? 良いじゃん、ちょっとくらい落ち込んだって!」

「いや、鬱陶しいってのは言いすぎかもしれないけど、順平が落ち込んでるのって昨日からだからね」

 ゆかりの軽口に順平も言い返せる程度には回復している物の、現在進行形で未だに落ち込んでいた。

「うっせーよ、紅。お前の場合、自分の立場考えてから言ってくれよ」

「確かに、それは言えてる」

「何か、物凄く酷い言われように聞こえるんだけど」

 明らかに奏夜と風花の状況を考えると、振られた順平にはどう考えても言われたくないと言ったところだろう。

「つかさ、聞いた? 今日うちのクラスに転校生が来るらしいぜ」

「転校生?」

「……家庭の事情って奴も有るだろうけど……11月のこんな時期に?」

「ああ。なんか、噂流れてたぜ」

「本当に落ち込んでるの、順平? その状態でもそんな噂をチェックしてる君に一番ビックリだよ。それに……」

 そう言って教室を見回すがアイギスが休んでいる事以外は何時も通りだ。それが意味しているのは転校生の事が話題に上がっていないと言う事だ。改めて順平の情報網の広さと落ち込んでいても変わらない行動力には恐れ入る。

「ってか、何でウチのクラス? これで三人目でしょ?」

 ゆかりが疑問の声を上げる。四月の奏夜の転校に始まって夏休み明けのアイギスに、今日もう一人の転校生と三人続けて転校してくると言うのは疑問を感じずには居られない。

 奏夜は完全に偶然でアイギスは幾月辺りの作為があったのだろうが、今回も奏夜に続けての偶然だろう。

「何だかイベントの多いクラスだね、ウチって。漫画とかの主人公のクラスじゃないんだし」

「いや、変身ヒーローやってるお前がんな事言うなよ」

「そうだよね、紅くんって主人公って言う要素強いでしょ」

 そんな奏夜の言葉にツッコミを入れる順平とゆかり。変身ヒーローやってる時点でどう考えても主人公(騒動の中心)だろう。

「……そう言う順平だってイクサに変身したよね」

「一度だけだろ、オレは」

 そんな時、廊下から聞こえてくる足音に気が付いた順平が、入り口の扉に注目する。それに習って奏夜とゆかりも視線を其方へと向ける。

 扉を開けて入ってくる担任の鳥島。そして、その後ろから整った顔立ちの少年が続いて入ってくる。

「っ!?」

 その顔を見た瞬間、一人の人物の顔と重なる。

(……彼に見覚えがある……? いや、単なる偶然……なのか?)

「静かに、静かに! 今日は転校生の紹介から入るわよ!」

 男子生徒が転校してきた事に対する女生徒のが中心になったざわめきを出席簿を数回机に叩きつける事で沈静化させ、転校生の紹介に入る。

「えっと、名前は『望月 綾時』。ご両親の都合で海外生活が長かったそうで、日本の事には不慣れだそうなので、みんな色々教えてあげてね。じゃあ、望月君。軽く自己紹介してもらえるかしら?」

「はい。『望月 綾時』と言います。みんな、仲良くしてもらえると嬉しいな」

 そう言って綾時がウインクしてみせると、一斉に黄色い悲鳴が上がる。

(……声まで同じ……そんな事が……。偶然にしては出来すぎてる!)

 転校生の登場に各々の反応を示す教室の中で唯一、奏夜だけが驚愕の表情を浮べていた。記憶の中の『彼』とまったく同じなわけがない。

 記憶の中に居るのは小学生程度の年齢だが、同年代まで成長させればこんな風になるだろうと言うイメージで綾時と彼は重なる。

(……なんでこんなに似てるんだ……ファルロスに)

 偶然が重なりすぎている。外見や声までも似た転校生。しかも、彼がいなくなったのはつい最近と……此処まで重なると一種の必然さえ感じてしまう。

「えっと、席は……あ、其処空いてるわね」

 指差したのはアイギスの席。

「あの、アイギスは病欠で……」

「そうだったわね。じゃあ……」

 空いている席を適当に言ったのか改めて他に空いている席を見つける。

「あっ、其処も空いてるわね」

「いや、先生。其処はただのサボりで……」

「サボりなんて居ないのと同じよ」

 まったくの正論である。

「人生はね、椅子取りゲームなのよ。自分の居場所を空けておいたら、直ぐに他の誰かにもってかれちゃうんだから」

 奏夜が思考の中に沈んでいる間に鳥海はサボりの席へと転校生を誘導する。

「はいは~い、静かに。連絡事項言ったら幾らでも望月君と話して良いから、静かにしなさい」

 尚もざわめいている女生徒達をそう言って黙らせる。

「すまない、心配をかけた」

 その日の晩実家でのゴタゴタが有る程度片付いたであろう美鶴と、修理が完了したアイギスが復帰した。多少キバとの戦闘中の記憶にダメージはある物の無事にアイギスは元のまま戻って来た。

 イクサナックルもシステム自体を改良する余地が有るらしく、デスフォームとなったキバに破壊されたとは言え旧イクサの完全なるコピーであるBイクサのパーツの幾つかを移植する事で『ライジングイクサ』への強化を可能にする為に改造中らしい。

 色々と大変だっただろうに美鶴は桐条のラボの方に、アイギスの修理だけでなく戦力の強化の為に色々と手を回してくれていたらしい。

 丁度振られたばかりで落ち込んでいた順平が馬が合ったのか、綾時と仲良くなって本格的に元気になったのは良かったと思う。……流石にあのまま落ち込まれ続けたら、順平には悪いが鬱陶しい。

 悪い事に悪い事が重なるように、良い事には良い事が重なると思っていた翌日、学校に復帰したアイギスに綾時が声を掛けたとき、

「あなたは、ダメです」

 全否定。会って数分で睨みつけた挙句彼の事を全否定。妙にアイギスらしくないと思うが、幾月にされた洗脳の後遺症かと言う疑いも持ってしまうが、敵意を持っている時点で明らかに後遺症説は否定できる。

(一体何が?)

 疑問を覚えると奏夜だが、奏夜の中の何かが警鐘を鳴らしている様に思える。出来る事ならば永遠に来て欲しくなかったその時の幕が遂に開いてしまったとでも言うように。

(……何か有るのか……。ファルロスが消えた時期に来た彼に似た転校生。……しかも、丁度消えた時期は12体のシャドウを倒し終わったこの時期。でも、仮にファルロスが彼だとしても、何でアイギスが敵意を向けるんだ?)

 恐怖に繋がりそうなその疑問について考える事を放棄する。……いや、放棄するとか無いと言うべきだろう。だが、

「ダメって……まだ食事にも誘ってないのに」

 能天気に困惑の表情を浮べている綾時を見て思わずずっこけそうになる。どう見てもあれは的外れすぎて演技には見えない。

(いや、そんな事よりも……彼の心の音色は……)

 不思議な音色だ。何処か無を感じさせながらも酷く懐かしく落ち着く音が聞こえてくる。……いや、正しくは重なっているというべきだろうか? 無を感じさせる音色の奥に、不協和音にならないように、まったく別の……酷く懐かしく聞いていると落ち着く音色が重なっている。

 まったく別の二つの音楽が重なるのは不思議な感覚だ。まるで……

(……何を考えてるんだぼくは。流石にそれは失礼にも程が有るだろう)

 『まるで人間ではない』と言う言葉を飲み込む。恐らくはファンガイアの物とも違うその心の奏でる音色、個性と言うにはあまりにも……あまりにも人間離れしすぎているその音色には困惑してしまう。

(はぁ……今日は文化部の方の部活が有ったな。気晴らしに思いっきりヴァイオリンでも弾こう……)

 最近考える事が多く趣味であるヴァイオリンの演奏をしていなかった事を思い出す。ブラッディーローズの様な最上級の品には比べる事も失礼なほどに劣るが、それでも思いっきり演奏を楽しめるのは悪くない。偶には人前で演奏したくなるのも人情と言う奴だ。

 ……何気に楽しみにしていた学園祭での演奏の機会が無くなった事は不満だったりする。

 なお本編とは関係ないが、S.E.E.Sで撮影された自主制作映画は数年後、とある町で公開される事になるのだが……本作の本編とは関係ない。

 ふと、部活に行く途中で一人で居る綾時を見かけた時、彼の側に白い円盤状の物体が一瞬だけ見えたがそれは気のせいだったのだろうかと言う疑問が浮かんだ。見えたのは僅か一瞬だけ……だが、それを知っている者が居ればこういってたに違いないだろう。………………『サガーク』と。


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