ペルソナ Blood-Soul   作:龍牙

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第五十六夜

一時離脱させられた事を利用してキバ・エンペラーフォームへと変身した奏夜は戦場に飛び込むと同時にストレングスへとパンチを放つ。

「なに、あれ!?」

「金色のキバだと。キバにはまだ我々の知らない姿があるのか?」

一応、S.E.E.Sのメンバー達の前では、ドガバシキバフォームは置いておいて、バッシャーフォームとドッガフォームしか見せていないので美鶴の言葉はその事が原因だろう。

実際、ガルルフォームは奏夜が単独で戦っていた時、シルフィーフォームも分断させられた時に変身したので仲間達には目撃されていない。少なくとも、S.E.E.Sのメンバーで奏夜の意思で扱える全ての姿を知っているのは風花だけだろう。奏夜の意思で操ることの出来ない正体不明の黒いキバ(デスフォーム)の姿だけは例外では有るが。

付け加えるなら最近は私生活でもマシンキバーは使用していたりするが、主にキバの姿の時はブロンブースターに合体していて、バイクから奏夜とキバの関係が分からない様にすると言う念の入れようだったりする。

閑話休題(それはさておき)

キバE(エンペラー)が合流する前も厄介な攻撃方法を持っているフォーチュンを先に倒そうとしていたのだが、どうやってもフォーチュンには攻撃が当たらない。

そう、攻撃を無効にする耐性でも持っているのかと疑問に思っていたが、戦っている感覚では攻撃が何か見えない壁で阻まれているのではなく、もっと別の何か…何らかの方法で守っている様に思えてならないのだ。

(…やっぱり…)

フォーチュンへと放った拳の感触を確かめる様に何度か手を開く。その感覚は物理攻撃…この場合は打撃を無効にされた時の感覚とは明らかに違う。

美鶴達の様子を見ると二人の武器でもダメージは発生しなかったのだろう。…その感覚からフォーチュンが物理攻撃に対する完全な防御力を有しているとは考え辛い。そうなると考えられる理由は一つ。

(アイツの仕業か)

『はい、そうみたいです』

キバEが結論にたどり着くと丁度風花が彼にそんな通信を送る。

『皆さん、もう一体のシャドウが守っているみたいです。先にもう一体のシャドウを倒してください』

そして、改めてフォーチュンを守っているストレングスを先に倒すように全員へと通信を送る。少なくとも、これまで二体の大型シャドウが出て来た時は何らかの方法で互いに援護しあっていた。前例から考えても風花の言葉は間違っていないだろう。

「なるほど、もう一体のシャドウが守っている間にあのイカサマルーレットを仕掛けてくると言うわけか」

『そうみたいです』

敵の戦術は簡単だ、ストレングスがフォーチュンを能力を完全に守りつつ前衛として戦い、運任せとは言えフォーチュンが(イカサマ)ルーレットで援護すると言う形なのだろう。まあ、ディーラーが敵である以上イカサマされるのも仕方ないと言えば仕方ないが。

(…あのルーレットは結構厄介だから、先に倒したかったけど…)

そう、さっきは運良くダメージだけで済んだが、他の効果を持っている危険性も有る。それを考えると…。

(…イカサマ前提だと、ダメージが軽くなるのが当たり、って所かな)

流石に致命傷やそれに匹敵する大ダメージは見逃せないが、軽いダメージだけなら十分に許容範囲だ。

感電や凍結、毒などの状態異常に関しては完全に論外、ペルソナのスキルの中に-前者二つは攻撃スキルの付加効果として存在するが-有る攻撃スキルも以外と強敵との戦闘には有効なのだし。

(なら…)

「オッシャー、キバって行くぜ!」

マントを翻しながらファイティングポーズを取り、キバEはストレングスへと向かう。

―マッドアサルト―

そんなキバEを迎え撃たんとストレングスが突進してくる。相手の巨体の生み出すパワーは侮れないと咄嗟に判断し、地面を蹴って飛び蹴りを放つ。そのままストレングスの体を蹴って大きく後ろに跳ぶ。

(…今までの経験から考えると、多分この大型シャドウも剛毅のアルカナに属している、だとすれば攻撃魔法は使ってこないはず)

相手の攻撃パターンをそう推測する。断言こそ出来ないが恐らくはキバEの推測は間違っていないだろう。少なくとも、それはペルソナのスキルが使えないキバの姿の奏夜にとっては大助かりだ。

―五月雨斬り―

「はぁ!」

距離を詰めた瞬間激突するキバEのラッシュとストレングスの放つスキル。

「いつもの事だが凄まじいな」

「でも、どうするんですか?」

目の前では文字通りキバEとストレングスの正面からのぶつかり合いが繰り広げられている。最強フォームに変身したライダーと高い力を持った大型シャドウの正面からの殴り合いの中に飛び込むのは、ペルソナ使いとは言え打たれ強い方ではない二人には自殺行為だろう。

―ヒートウェイブ―

「ハァ!!!」

ストレングスの放った衝撃波を地面を殴りつける事で起した衝撃を使って相殺させながら防ぐ。キバEが反撃に移ろうとした瞬間、

―運命の輪―

再び振ってくる巨大なルーレット盤、そしてその中央に立つフォーチュン。高速で回転し始めるルーレット盤に対して、

(そんな物に…何度も付き合う気は無い!!!)

最初のイカサマのお礼か思いっきり力を込めてルーレット盤を殴りつける。

「ちょっと!」

「拙い、気をつけろ!」

キバの攻撃で回転が弱まりながら止まり始めるルーレットに対して思わず警戒する美鶴とゆかり。だが、

殴られた衝撃でイカサマをするよりも早く回転が止まり、青い面を指す。そして、青い面に止まった瞬間、キバEと美鶴、ゆかりの三人の足元が光だし、

「っ!?」

「なに!?」

「今度は何!?」

足元から輝く光が三人を包んだ瞬間、

「「「あれ?」」」

何も起こらなかった。いや、寧ろ何時もよりも力が漲っている感じがする。能力を強化するスキルを使った時の感覚にも似ているが…。

『あの、皆さんの攻撃力と防御力が上がってます。さっきのは皆さんを強化してくれたみたいで、当たりです』

風花からの連絡で何が起こったのか初めて理解できた。

「なるほど、どうやらヤツラにばかり有利と言う訳でもなかったようだな」

(取り敢えず、ダメージになるどうかは別にして……殴り飛ばせばイカサマをする間も無い、か)

相手が態々ステータスを強化してくれたのだ、この好機(チャンス)を逃す手は無い。そう考えたキバEと美鶴が動く。

「岳羽、援護を頼む!」

「はい! イオ!」

ゆかりの中から打ち出される彼女のペルソナ『イオ』。そして、

―中位疾風魔法(マハガルーラ)―

ゆかりのペルソナ・イオから打ち出された風の刃がストレングスを切り裂く。風の刃によって切り裂かれたストレングスの目の前に、キバEの飛び蹴りが飛び込んでくる。

「!!!」

キバEの飛び蹴りが決まった瞬間、キバEは直ぐにその場を離れる。

「今だ! ペンテシレア!」

―中位凍結魔法(マハブフーラ)―

美鶴の放った冷気がストレングスを凍結させる。

「ガルルフィーバー!」

タツロットのスロット面を回転させ、揃ったのはガルルの絵柄。キバEの手元に出現する魔獣剣ガルルセイバーのグリップの先端にタツロットを接続。

「はぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

グリップの先端に接続したタツロットから放出させれる炎によって上昇し、ストレングスを上空から、

-EMPEROR(エンペラー) HOWLING(ハウリング) SLASH(スラッシュ)!!!-

ストレングスを真っ二つに切り裂く。

『敵シャドウの反応消失…待って、再生はしてないけどまだ微弱に生きてます、油断しないで。あっ、もう一体のシャドウの反応出現します』

ストレングスを倒した瞬間、ストレングスの力によって隠されていたフォーチュンの反応が出現する。ストレングスはまだファンガイアタイプへの再生はしていないが、これでフォーチュンを倒す事が出来る。

路地裏…

「どうした。……やれよ。抵抗はしねえ」

乾に槍を首元に突きつけられながらも表情一つ変えずに言い切る。

「俺のやった事だ、報いは受けるさ。散々シャドウを相手にしてきたんだ、その槍を振るうのも慣れたもんだろ」

荒垣の言葉は自嘲するようにも、乾を挑発するようにも聞こえる。

「お前の言ったとおりだ。俺は……忘れたかった」

それは心からの本心なのだろうか、それとも…。だが、必死で忘れようとすればするほど忘れられなくなるものだ。必死で忘れようとすればするほど、その事を思い出してしまうのだから。

「仲間と放れたのも、ビビって薬で力を抑えたのも、要はそのためさ」

そう言って荒垣は空を見上げる。

「けど……無駄だった。体が忘れねぇんだ。気が付けば此処へ来ちまう」

それが此処に何時も荒垣が居た理由。

「あの頃とは見る影もねぇし、見たくもねえ場所なのにな…」

「……いいのかよ、少しは抵抗しろよ」

その荒垣の言葉を聞いていた乾の表情に険しい物が浮かぶ。

「お前はそれでいいのかよ!!!」

「一つだけ忠告しとくぜ」

荒垣は乾の必死の叫びに対して答える事も無くそう告げる。

「こんな俺の命でも、奪えばお前は俺と同じ重みを背負う事になる。そいつだけは覚悟してくれ」

その重さは決して軽い物ではない。それが人を殺すという事だ。荒垣は何時もその重さを背負ってきた。

何処まで逃げても、向き合っても、その重さは生きている限り永遠に変わる事も無い。いや、もしかしたら、それは死んでからも背負い続けなければならないのかもしれない。その重さを背負う事が、人を殺す覚悟と言うことだろう。

どう考えても、乾の年齢で背負うには重過ぎる、押しつぶされてしまいそうな覚悟だ。

「今は憎しみしかなくても、いつか必ず背負っちまう」

少なくとも、“仇”である以上一時的に憎しみがその罪の重さを軽くしてくれるだろう。だが、復讐の熱は果たしてしまえば何時かさめてしまう。その時に彼は背負わなければならない、人を殺した事の罪を。

その言葉に答えるように乾は槍を一閃。微動だにしなかった荒垣の頬が切られる。

「ふざけるな!!!」

心からの憎悪を込めた声で叫ぶ。

「そんなの、背負うもんか!!!」

心からの憎悪を込めて睨みつけながら、乾は叫ぶ。

「まったくその通りですよ」

「「っ!!」」

突然その場に新たな第三者の声が響く。

ゆっくりと奥の闇の中からストレガの一人であるタカヤが歩いてくる。

「そんな重みなど背負うはずがない、背負う必要も無い。少年……貴方の行いは“復讐”なのです」

まるで何かに宣言するようにタカヤは告げる。

「殺されたのだから、殺してもいいはず…。それは、いたって単純で、純粋な行動だ」

奪われたから奪い返す、騙されたから騙し返す、そして、殺されたから殺す。それは単純な復讐の形。そして、永遠に途切れずに続く憎しみの連鎖。

「テメェは!」

タカヤの顔を見た瞬間荒垣の顔に驚愕が浮かぶ。

「仲間が一人欠けてしまってね。先回りがしづらくなりました。思わぬところに遭遇ですよ」

そう告げたタカヤの顔にどこか楽しげな笑みが浮かぶ。この場に居合わせたのは本当に、完全な偶然だったのだろう。

「しかし、恐れる必要は有りません。これは通過点に過ぎない! あなた方は救われるのです」

何か重要な事を知っていると言う顔でタカヤは言葉を続ける。

「どのみち、あなたは死ぬ運命………。その“復讐”が成されなくともね。ペルソナの制御に薬を使い出して随分と立つはずです。あなたはもう長くない」

「………!」

「自分の体の事でしょう、分かっているはずです」

薬を提供している側だからこそ言える言葉。既に荒垣の命は長くは無い。それは乾にとって衝撃的過ぎる一言。

「もしかしたら、こうなる事を自ら望んだりしてたのでしょうか」

「どう言うことだよ、勝手に……………死んじゃうって言うのか? ぼくが何をしなくても」

それは、乾の決意も努力も無意味に帰してしまうほど重すぎる事実。

「そんなのアリかよ!!!」


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