ペルソナ Blood-Soul   作:龍牙

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第四十二夜

キバDF(ドッガフォーム)はドッガハンマーを握ったまま己が倒したシャドウ…ジャスティスとチャリオッツの残した仮面へと注意を向け続けていた。

そして、黒い泥の様な物を引き摺りながら半分に割れた二枚の仮面はゆっくりと浮かび上がり一つとなり、黒い泥を粘土の様に捏ね回しながら新たな肉体を作り上げる。

其処までは今まで道理だが、今までとは違う部分が一つだけ有った。今までは一体の大型シャドウから一体のファンガイアタイプが再生された。だが、今この瞬間だけは違っていた。それは…

「なんだ…あれは?」

美鶴からそんな言葉が零れる。

戦車のシャドウの仮面によって引き上げられたものから形作られるのは、『ライノセラスファンガイア』の物。

正義のシャドウの仮面が引き上げたものが形作るのは『マンティスファンガイア』の物。

だが、割れた事が原因なのか、二枚の仮面は各々のファンガイアの半身しか作り上げる事が出来ない様子だ。

だが、再度黒いものを練り合わせると、マンティスファンガイアの頭と武器、ライノセラスファンガイアの両腕と体を持ったファンガイアタイプが誕生する。最後にファンガイアの形となった黒い泥に割れた二枚の仮面が一つとなり装着されると色彩を得たファンガイアタイプは動き出す。

『敵、ファンガイアタイプ、再生しました。』

マンティスファンガイアにライノサラスファンガイアを鎧の様に纏わせた様な姿のファンガイアタイプのシャドウ…『キメラファンガイアタイプ』が動き出した瞬間に風花の声が響く。

「これがシャドウの再生でありますか。」

初めて大型シャドウ戦に参戦するアイギスからそんな感想が零れる。

「…フッ…!」

先手必勝とばかりに相手が動き出すよりも先にキバDF(ドッガフォーム)がドッガハンマーをキメラファンガイアタイプへと叩きつける。

だが、キメラファンガイアタイプは叩きつけられたハンマーを両腕を交差させる事で受け止める。

パワーに特化したライノセラスファンガイアだったが、先代のキバの代にドッガフォームに変身したキバによって倒された個体であり、ドッガフォームのパワーに対抗できるのは、意図しない二種のファンガイアタイプの融合が関係しているのだろう。

(…こいつ、二種類のファンガイアが融合した原因で強化されたって事か?)

ドッガハンマーの一撃やドッガフォームのパワーにさえ対抗できるキメラファンガイアタイプに対してキバットはそんな考えを浮かべる。

振り下ろそうとしたドッガハンマーを持ったキバDF(ドッガフォーム)の腕をキメラファンガイアタイプが掴む。

「クッ!」

それに対して相手にキックを打ち込む事で距離を取ろうとしたキバDF(ドッガフォーム)だが、キメラファンガイアタイプはマンティスファンガイアの大鎌でキバDF(ドッガフォーム)の体を切りつける。

「ガハァッ!」

キバDFの体を切りつけると腕を放し、鈍重な装甲を纏った姿からは想像できない様な軽快な動きでキバDF(ドッガフォーム)から後退して距離を取る。

このシャドウのモデルとなったであろうマンティスファンガイアは両腕で振るっていた大鎌をキメラファンガイアタイプは片手で操っている。これもどちらかの大型シャドウがパワーに優れたライノセラスファンガイアになろうとした事が原因だとしたら…。

(これじゃあ、二体の方がまだ戦い易い!?)

どちらか片方を相手にしたとしてもドッガフォームのパワーでなら圧倒する事も可能だっただろう。少なくとも、ライノセラスファンガイアとなった方のシャドウなら十分勝ち目は有った。

―刹那五月雨撃―

キバDF(ドッガフォーム)がそんな事を考えているとキメラファンガイアタイプは大鎌を振るい空中に光弾を大量に出現させてキバDF(ドッガフォーム)へと打ち出す。

「ッ!?」

本来ドッガフォームはパワーと防御の面には特化していてもスピードでは他のフォームに比べて劣っている。少なくとも、キメラファンガイアタイプの光弾による一斉射撃を回避しきれる程のスピードは持っていない。その為にキメラファンガイアタイプの攻撃に対して防ぐしか出来ないのだ。

『くれな…キバが危険です!』

思わずキバの事を奏夜の呼び名で呼びそうになった風花は慌ててそう言い直す。

「先輩どうします、このままじゃあ!?」

「ああ。だが…。」

ゆかりの言葉に美鶴は倒れているイクサへの変身が解除された順平と明彦へと視線を向ける。

「ですが、このままキバが敗れた場合、あのシャドウに対しては順平さんと真田さん抜きでは我々の勝機は無いと考えます。」

アイギスの言葉に思わず同意してしまう。だが、ペルソナの恩恵が有るとは言え生身でキバDF(ドッガフォーム)を襲う光弾の中に飛び込むのは単なる自殺行為だろう。仮に自分がイクサに変身したとしても、指揮官の立場である自分が下手に前線には立てない。

(…改めて思うが、紅は戦いながら全員の事を見ていたのか…。一種の才能だな。)

(美鶴達が知っている範囲なのでキバの事は除外されるが)複数のペルソナを使えると言うだけではない、前に出て戦いながら指揮を取っていた奏夜の事を思い出す。リーダーとしての、指揮官としての資質…それを持っていた彼の有り難味が理解できる。

「(…やはり、紅には来て貰うべきだったか…。)仕方ない、岳羽、一番ダメージの軽い明彦の回復を優先させるぞ。アイギスはその間此方の護衛を頼む。」

「はい!」

「了解で有ります。」

「山岸はキバとファンガイアタイプの動きに変化が有ったら報告を頼む。」

「分かりました。」

「仕方ねぇ! こうなったらこっちも、出血大サービスだ! 奏夜、向こうが二つなら…。」

「こっちは全員で相手をする…だね?」

キバットの言葉に従ってキバDF(ドッガフォーム)はベルトからガルル、バッシャー、シルフィーと残りの四魔騎士(アームズモンスター)達を呼び出すための三つのフエッスルを取り出す。

『山岸さん…少しだけ無茶する…。』

『無茶って、大丈夫なんですか!?』

『…多分…。でも、無茶をしないと…残念ながら勝てそうに無いしね!』

通信を通じて風花とそんな会話を交わすとキバットに残る三つのフエッスルを順番に加えさせる。

「オッシャー、ガルルセイバー!」

先ずはガルルセイバー、

「バッシャーマグナム!!」

続いてバッシャーマグナム、

「最後だ! シルフィーアロー!!!」

 最後に吹き鳴らすのはシルフィーアロー。父である渡の代では三人だった魔騎士達(アームズモンスター)の力が四つとなって奏夜だけのキバの力となる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キャッスルドラン内…

~~~~~♪ ~~~~~♪♪ ~~~~~~♪♪♪

「あれ? これって?」

「オレ達もか。」

鳴り響くフエッスルの音色を聞くとそう言って立ち上がるラモンと次狼の二人。だが…

「うふふ…前回に続いて早速の二回目の呼び出し…光栄です、奏夜様ぁ~!!!」

幸せ全開と言った様子で不思議な踊りを踊っているシルフィーの事を意図的に無視しつつ、次狼とラモンは本来の姿ガルルとバッシャーに戻り、彫像の姿に変わるとキバの元へと飛んで行く。

「はっ! こんな事をしている場合では!? 奏夜様、ただいま参ります。」

正気に戻ると一礼と共に彫像態へと変わりシルフィーもまたキバの元へと飛翔する。

キメラファンガイアタイプの光弾から守る様にキバDF(ドッガフォーム)の前に出現したガルル、バッシャー、シルフィーのペルソナカードが現われ、それが砕けて出現した三つの彫像がキメラファンガイアタイプの光弾を弾き、三つの彫像はキバの中へと消えていく。

「オォォォォォォオ!!!」

その瞬間、ドッガフォームの両腕が変わる。ドッガフォームの強力を与えていた物から左腕が青いガルルフォームの物に、右腕が緑のバッシャーフォームの物へと変わる。そして、新たに背中に緑色のマントが、腰に新たな装甲が追加される。そして、最後に頭部の仮面がキバフォームのものへと戻り、変身は完了する。

これこそが、奏夜、キバット、ガルル、バッシャー、ドッガ、シルフィーの六つの力を一つに終結した、今の時点での彼にとっての最強のフォーム『仮面ライダーキバ・ドガバシキバフォーム』。奏夜やキバット、四魔騎士(アームズモンスター)達の負担は大きい物になるが、それでもその力は単独で扱うよりも大きい物になる。

もっとも、父の代ではシルフィーが加わっていなかったので、この姿は『ドガバキフォーム』と言うべき姿と名前だったのだが…。

―ミリオンショット―

キバDGBSF(ドガバシキバフォーム)に対して先ほどよりも破壊力の増した光弾を放つキメラファンガイアタイプだが、キバDGBSF(ドガバシキバフォーム)は…。

「無駄だよ。」

そう呟いてキメラファンガイアタイプの放った光弾を避け、キメラファンガイアタイプへと向かって走り出す。

「ッ!?」

それに対して慌てる様に光弾の数を増やし、キバDGBSF(ドガバシキバフォーム)の逃げ場を塞ぐが、一発一発の破壊力が落ちた事を幸いに、歩みを止める事無く自分に直撃しそうな物だけをバッシャーマグナムで迎撃しつつキメラファンガイアタイプへと近づきガルルセイバーで切り裂く。

「!?!?!?」

シルフィーフォームの持っていた感知能力と、ガルルフォームのスピード…その二つを持って避けられない攻撃は無い。回転する様に大鎌の斬撃を避けながらガルルセイバーで切りつけ、バッシャーマグナムを放つ。

「ふん!!!」

そして、背後に回りこむとドッガハンマーを取り出して背中に叩きつける。

「!?」

キメラファンガイアタイプは吹き飛ばされた事を良い事に、そのまま防空壕の奥へと逃げ出していく。

『敵ファンガイアタイプ、逃げ出しました!』

「なに!? 逃がす訳には行かない、追うぞ!」

「明彦、動けるのか?」

「ああ、何とかな。」

風花の報告に回復した明彦が立ち上がって追おうとするが、そんな彼等の間を一台の金色のバイクが疾走して行く。

「っ!?」

「何、今の?」

「バイクでしたが、誰も乗っていませんでした。」

無人で疾走するそのバイク…マシンキバーとブロンの合体したブロンブースターへと飛び乗ってキバDGBSF(ドガバシキバフォーム)は逃げ出したキメラファンガイアタイプを追跡する。

「逃がさないよ…。」

シルフィーアローを取り出しブロンブースターを走らせながら前方を逃げるキメラファンガイアタイプとの距離を詰めながらシルフィーアローに紅い光の矢を出現させそれを放ち、キメラファンガイアタイプの足を止める。

「トドメだ!!!」

「行くぜ、ウェイク! アップ!!!」

キバDGBSF(ドガバシキバフォーム)がブロンブースターの上に立ち、ウェイックアップフエッスルを吹き鳴らしながら飛びまわるキバットがキバが振り上げた右足へと触れた瞬間、蝙蝠の翼を象った門『ヘルズゲート』が開放される。

そのままブロンブースターをカタパルトの様に利用してヘルズゲートの開いた右足を前へと向けて一直線にキメラファンガイアタイプへと打ち出される。

「っ!?」

『DARKNESS MOON BREAK!!!』

キバDGBSF(ドガバシキバフォーム)が放った必殺キック『ダークネスムーンブレイク』が叩きつけられた瞬間、キメラファンガイアタイプの全身に皹が入り、

「ふっ!」

左足で蹴ってキメラファンガイアタイプからキバDGBSF(ドガバシキバフォーム)が離れると、キバの紋が浮び上がりキメラファンガイアタイプはそのまま爆散する。

『敵シャドウの反応、消滅しました。』

元の場所で風花の報告を聞きS.E.E.Sの面々が臨戦態勢を解く。

「今回は…キバの助けがなかったら、本当に危なかったな。」

「で、でも、今までの作戦も全部…。」

「紅が居ない…それだけで私達は…。」

「あっ。」

美鶴は悔しげにそう呟く。確かに今までの作戦…大型シャドウとの戦いでは必ず奏夜の存在が有った。四月の時は兎も角、五月のモノレールは危ない所だった。六月の風花救出の時は奏夜、順平、明彦の男性陣が中心となって、七月のホテルの時は…色々と思い出したくないだろう。後始末も含めて。

「後はここから脱出するだけだが、それも幸いキバのお蔭で何とかなったな。」

「そうだな。」

そう言って扉の方へと視線を向けると、ドッガフォームのキバが此処に入る為に開いた扉が視界に入る。

「…改めて痛感したよ…私達はどれだけ紅に頼り切っていたか…と言う事に。」

「確かに。」

改めて考えてみれば、今回の一件での危機は完全に自分達の油断にあった。蘇生用のスキルは稀少では有るが、その存在は知っていたと言うのに、敵がそれを使って来ると言う可能性を完全に失念していた。

その失敗が今回は最悪の形で表になってしまったと言う事だ。

(オレ何にも役に立てて無いじゃんかよ。折角、こいつを使わせて貰ったって言うのによ。)

自身の手の中にあるイクサナックルを握り締めながら順平は悔しげにそう呟く。ジャスティスを倒したと思って油断していた結果、味方がピンチに陥ってしまった。以前にも奏夜に言われた事を思い出すと改めて自分の無力さを痛感してしまう。

「あ、あの…。」

声を掛け辛い暗い空気が漂う中、辛うじて風花が口を開くがそれでも空気は変わらない。今回の作戦は、たった一人…奏夜と言う要が消えただけでコレほどまでに自分達が無力なのだと、痛いほどに理解してしまう結果に終わった。


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