ゆかりのペルソナのイオが放つ
攻撃で受けた衝撃によって後方に飛ばされるのだが、何事も無かったかのようにラヴァーズは何事も無い様にフワフワと宙に浮いている。
二人の攻撃が効いていない訳ではない。だが…ラヴァーズの様子からはダメージを受けている様には見えない。
「…何と言うか…。」
「…手が出せないな…オレ達…。」
女性陣二人の猛攻を眺めながら手の出しようの無い奏夜と明彦の二人でした。
「…真田先輩…本当に何もなかったんですか?」
「…紅…お前こそ…。」
「「あ、あははは…。」」
思わず顔を見合わせながら乾いた笑いを浮かべてしまう二人であった。
そして、二人は同時にこうも思う。…『今後、この事については“絶対に”触れないようにしよう』と。
『あの、紅君…敵の解析できたけど…必要…なのかな?』
そんな二人に風花の言葉が聞こえてくる。
「ああ、山岸さん…ごめん、教えてもらえる。」
『はい。敵、恋愛タイプ、
全員に聞こえるように風花がアナライズの結果を報告する。
「ッ!? 魅了って…拙い!?」
思わず風花の報告を聞き、最前線で尚も猛攻を続けているイクサセーブモード(美鶴)とゆかりの二人へと視線を向ける。
「ああ、今のあいつらには特に、な。」
明彦も風花の報告によって危険性に気が付いたのだろう。グローブを握りラヴァーズを睨み付ける。
精神攻撃に対して冷静さを欠いている今の二人では簡単に引っかかってしまう事だろう。…敵をバラバラに分散して自分の得意な精神攻撃をしやすくする下地を作る。上手く考えられた作戦だ。知能であっても、本能による行動であっても恐ろしい以外に言葉は無い。
そう思って動き出そうとした瞬間、ラヴァーズは部屋の天井近くまで飛び上がって二人の攻撃を回避する。
「ああ、この! 逃げるなぁ!!!」
「こいつ!」
女性陣二人が悔しげな声を上げた時、奏夜はペルソナの一つガルルを呼び出す。
「二人とも、そこを退いて、叩き落す。真田先輩、追撃よろしくお願いします!」
「ああ!」
ふわふわと浮いて攻撃を避け様としているのならば、強制的に叩き落せば良い。そして、奏夜のペルソナ・ガルルにはそれが可能なのだ。
「食らえ…グラ…。」
―中位火炎魔法(マハラギオン)―
奏夜が重力魔法で強制的にラヴァーズを叩き落そうとした時、部屋中を包むほどの炎が巻き起こる。
「ぐっ!」
「きゃあ!」
「くっぅ!」
火炎(アギ)系の魔法に耐性が無い奏夜、明彦、ゆかりの三人が吹き飛ばされる。…弱点では無いとは言え、かなり無防備な状態で火炎魔法を受けたのだから、ダメージは小さくは無い。
だが、そんなダメージが小さい程度(・・・・・・・・・・)の三人よりも被害が大きい者がこの場では一人存在している。
「うわぁぁぁぁぁぁああ!!!」
火炎(アギ)系を弱点として持っている美鶴の存在である。イクサの持つ防御力によってダメージは軽減しているが、それでも弱点で有る炎の魔法を受けたのだから、そのまま床を転がって倒れる。
「桐条先輩!? 岳羽さん、桐条先輩に回復を、真田先輩、ぼくと前に…。」
「ああ!」
「あ、うん。分かった。」
素早く明彦とゆかりに指示を出し、奏夜は片手剣を持って切り掛かっていく。
乾いた音と共に撃ち出される蒼き人狼のペルソナ、使用するのは重力系でもなく、疾風系でもない攻撃スキル。それを使う指示を出した瞬間、奏夜は僅かながら全身から体力が抜ける事を感じる。
「食らえ…月影!!!」
奏夜と重なった蒼き人狼のペルソナが両腕の爪により、ラヴァーズの体を引き裂く。
「ポリデュークス!!!」
続いて加えられるのは明彦のペルソナ・ポリデュークスの拳(ソニックパンチ)。連続して打ち込まれる物理攻撃。それによって傷を負っているはずなのだが、ラヴァーズはそれを気にした様子さえ見せない。
「くっ、ダメか!?」
「まあ、そう簡単に行くとは思ってなかったですけどね。」
悔しげに叫ぶ明彦に奏夜は冷静に返す。今まで散々ゆかりとイクサセーブモード(美鶴)の猛攻を受け続けていたのだから、全力とは言え簡単に倒せる訳が無い。
そんな奏夜と明彦に対して、ラヴァーズは反撃として透き通ったピンク色の体の中から矢を放つ。
「「ッ!?」」
二人はそれを後に跳ぶ事で回避する。それと同時にラヴァーズの体に突き刺さる氷の礫と矢。
「美鶴!?」
「岳羽さん!?」
その攻撃の主に向かって振り向く。
「紅、明彦、心配を掛けてすまない。」
「ここからが反撃よ!」
戦線に復帰したゆかりと
「っ!?」
素早くそれを切り払う。ハートの鏃の付いた『キューピットの矢』を連想させるそれに妙な感覚を覚える。
「(…こいつ…この攻撃…。)精神攻撃…こいつ…まさか…『精神攻撃』する事を狙っている。」
その矢にも目の前のシャドウの有する魅了の力が有ると仮定すれば、その推測は正しいだろう。だが、その先が見えてこないのだ。
反撃を開始した三人の攻撃を避けながら、時折ハートの矢を放って反撃するラヴァーズの姿を睨み、剣を構えて床を蹴る。ガルルのペルソナの与える身体能力の強化の恩恵を最大限に利用し、ラヴァーズへと切り掛る。
「はぁぁぁぁぁああ!!!」
「紅君、何してたのよ!」
剣戟を回避したラヴァーズの体を蹴り着地する奏夜の背中に向かってゆかりが叫ぶ。
「…桐条先輩、岳羽さん、真田先輩…もう一度言う…相手の魅了には要注意。それと…あの矢には絶対に当たらないように!」
「魅了は兎も角、あの矢にも当たるなと言うのは、どういう事だ?」
「多分ですけど…あの矢にも魅了の効果が有ります。…ぼく達を混乱させての同士討ち…なんて可愛い考えだったら、良いんですけどね…。」
真田の問い掛けに対してラヴァーズに注意を向けながらそう答える。
「そんなの、使われる前に返り討ちにしてやるわよ!!!」
「その通りだ!」
戦闘による精神高揚も手伝って必要以上に冷静さを欠き始めている二人に対して内心溜息を付いてしまうが、それほど速くない矢ならば簡単に防ぐ事はできるので油断せずに居れば問題ないだろう。
(まあ、二人の言う事も一里有るか。)
敵が何かを狙って魅了攻撃を続けていると言うのならば、それをさせる前に倒してしまえばいいのだから。
「岳羽さん、魔法と弓で援護…。」
「うん、分かった。」
「桐条先輩はガンモードのイクサカリバーを使って援護…でも、炎の魔法には注意してください。」
「分かった。」
「真田先輩もぼくと一緒に物理攻撃を…でも、矢にだけは気を付けて下さい。」
「ああ、分かった!」
三人に素早く指示を出す。冷静さを欠いている女性陣は危険を避ける為に援護を任せて、奏夜は床を蹴りラヴァーズへと向かって走り出す。
「ハァァァァァァァア!!!」
「オォォォォォォォオ!!!」
奏夜の剣戟と明彦の拳がラヴァーズへと向けて放たれようとした瞬間、そのハート型の体を上下に動かし、両脇にある羽の様な物を一度羽ばたかせる。
それを見た瞬間、奏夜の本能的な部分は警鐘を鳴らす。
『注意してください、精神攻撃! 魅了です!!!』
「なっ!? 拙い!?」
風花の警告が聞こえ、奏夜の叫びが響いた瞬間、
―
破壊ではなく気色が悪いほど心地よい光が部屋中を包み込む。
心の中に入り込もうとする異常な感覚。敵であるラヴァーズに対して吐き気のする愛おしさを感じてしまう。感覚を狂わせる愛おしさと、それを拒絶するように感じられる嫌悪感。
片手剣を床へと突き刺し、空いた手で自分の顔を殴り、心の入り込もうとする感覚を振り払う。
「はぁ…はぁ…。(耐えられたけど、最悪の気分だ…。)」
横を振り向くと明彦も耐えられた様だ。呼吸を整えながらラヴァーズへと視線を向けると、奏夜達の横を通り過ぎていく影が二つ…。
「敵見ーけ。」
「ああ、こっちもだ。」
明らかに正気を失っている虚ろな瞳で弓を向けるゆかりと、イクサの仮面の奥でその瞳の色を窺い知る事は出来ないが、奏夜と明彦にイクサカリバーを向け、恐らくはゆかりと同じ瞳の色をしているであろう美鶴。
「真田先輩…。」
「魅了の回復はできないのか?」
「…残念ながら、バッシャーはもう少し成長しないと無理です。」
「そうか。……なら、ケガをさせない程度にやるしかないな。」
「…でも、イクサシステム付きだとそれも難しいですよ…。」
「なら…二人を避けてあいつを叩き潰すしかないか。」
「そうですね。」
「なーに話してるのよ!?」
離し終わると同時にゆかりが奏夜達に向かって矢を放つ。しかも、容赦なく急所を狙っている。
「くっ! 岳羽さん…目を覚ませ!」
「うるさいわよ、このスケベ!!!」
「って、ええ!?」
『な、何か有ったの、ゆかりちゃん!? 紅君、どういう事!?』
「って、山岸さん、違うから!!!」
本当に正気を失っているのか分からないゆかりの言葉に思わずそう叫んでしまう奏夜に罪はないだろう。…寧ろ、風花の方が余計にその言葉に食らい付いているが。
ふと、横に視線を向ける。イクサセーブモードの攻撃を必死になって避けている明彦は今回の作戦の最大の被害者だろう。
『ああ!? 気を付けて、最高位ランクの攻撃が来ます!!!』
攻撃を避け続けている奏夜達に風花の警告が響く。ラヴァーズの上に現れる巨大なハート…。妙に可愛らしいのだが…外見からは想像できない凶悪さを有している事は直に…直感的に理解できてしまった。
(…くっ!!! 仕方ない…怪我の一つや二つ覚悟しよう。)
イクサの相手をする羽目になった明彦には期待できない。そう考え、奏夜は回避の為の足を止め、ラヴァーズへと向かって走り出す。
「きゃあ!」
矢を番えた瞬間を狙ってゆかりに足払いを仕掛け体勢を崩させると、片手剣を投げ捨てながら召還器を手に取る。呼び出すのは一撃必殺の攻撃力を誇る紫紺の巨人…相手のスキル発動の前に敵を叩く。
「ドッガ!!!」
巨人のペルソナが豪腕を叩き合わせ、空中に浮かぶと同時に巨大な紫紺の鉄拳となり、それがラヴァーズへと振り下ろされる。
それと同時に落下するラヴァーズの上に浮かぶハート。
ぶつかり合うのは二つの高位攻撃スキル。
―サンダースラップ!!!―
―ハートブレイカー!!!―
激突するは紫電を纏った鉄拳とハートの破裂した衝撃。二つのスキルの激突…。
だが、それは…特定条件化のみ攻撃力の発生する全体攻撃と単体に対して最大の破壊力を持った雷撃の鉄拳…。
その二つのスキルの性質の違いがこのぶつかり合いの結果を分けたのだ。
「行っけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえ!!!」
ハートを砕き、叩きつけられた紫紺の鉄拳はラヴァーズの体をガラスの様に砕き、その破片は影となって消滅して行った。
「はぁ…はぁ…はぁ…。」
最後に床に硬い物が落ちる乾いた音が響く。其れと同時に、
「お、終わったのか?」
ボロボロになった明彦が奏夜へと話しかける。間違いないだろう…彼がこの戦いの最大の被害者だ。
「ラヴァーズ…どうやら、また私は精神攻撃を受けたようだな……。なにやら、かなりすっきりした気分だが…?」
正気を失っていたとは言え、スッキリとした表情でベルトを外し変身を解いた美鶴。……間違いなく、明彦を相手にストレス解消したのだろう。
「なんだか私は余計にイライラが溜まった気がする。」
攻撃を避けられ続けた挙句に転ばされたら無理もないだろう。余計にイライラした様子のゆかりだった。
「気を付けて…みんな…。多分、再生が来るよ…。」
『はい、紅君の言うとおりです。敵の反応、健在です!』
そう言葉が響くと同時に人型の黒い泥人形と共にラヴァーズの仮面…『Ⅵ』の数字が刻まれた『恋人』のアルカナの象徴する仮面が浮かび上がる。
黒い泥人形は子供の粘土細工の様に人の形から、人とカメレオンを混ぜ合わせた形へと練り上げていく。かつて先代のキバと戦ったファンガイア『カメレオンファンガイア』の物へとその形を作り上げていく。
ゆっくりと黒い泥に仮面が装着され、完全に一体化すると同時に、焼き上げられた陶器のように硬さと色彩をえる。
第六のファンガイアタイプ…『カメレオンファンガイアタイプ』がその姿を現したのだ。
「第二ラウンド…の二回目か…。」
「いい加減…勘弁して欲しいね…。」
「まったくだな。」
「そうですね。」
カメレオンファンガイアタイプと対峙しながらそれぞれの武器を構え、美鶴が再びイクサへと変身しようとした時、カメレオンファンガイアタイプは咆哮する。其れと同時に…
『気を付けて下さい。………き……ま…す。』
「山岸さん!?」
風花からの通信が警告と共に段々と途切れていく。そして、完全に通信が途切れた瞬間、パーティーメンバーそれぞれの前に鏡が現れて、その姿を飲み込んでいく。
「またか!?」
カメレオンファンガイアタイプを睨みつけながら、鏡の中に吸い込まれていく感覚と共に奏夜は、
「キバット!」
「オゥ! ガブ!!!」
鏡に飲み込まれながら、キバットが奏夜の腕を噛み、腕から頬へとかけてステンドグラスのような物が浮かび上がり、全身に魔皇力が迸り、同時に彼の腰にカテナが巻きつき、キバットベルトが出現する。
「変身!!!」
バックル部分にキバットが座しキバの鎧を身に纏い奏夜は仮面ライダーキバへとその姿を変えると同時に鏡の中へと消えていったのだった。