ペルソナ Blood-Soul   作:龍牙

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第二十四夜

「行くぞ!」

そう叫びイクサへと変身した明彦はシースターファンガイアタイプへと向かって行く。

ボクシングスタイルの構えと共に右腕にイクサナックルを装着し、シースターファンガイアタイプへと肉薄し、パンチの連打を浴びせる。

(…妙だな…。)

今までの例から考えるとファンガイアタイプへと再生した大型シャドウは、確実にその戦闘能力を上昇させているのだ。だが、反撃するのではなく、目の前のシースターファンガイアタイプはイクサの攻撃をただ受け続けている。

そんなシースターファンガイアタイプへと疑問を覚えながら、奏夜は剣を構えながらすぐにイクサに加勢出来るような体勢をとりながら、シャドウの動きを観察する。

だが、こちらが優勢なのなら、下手に魔法攻撃やゆかりの弓で攻撃する為にイクサを下がらせる事はないと考える。

電撃に対する体勢を持ったペルソナを宿している明彦の変身しているイクサが戦っているのだから、それだけでも目の前のシャドウに対して圧倒的に優位な状態で戦っていると言える。だから、単純に電撃耐性を持つが故の優位なのかもしれない。

『っ!? 胸の中央に何かエネルギーが集まってます! 気を付けて、今までよりも強力なのが来ます!』

通信を通じて聞こえてくるのは風花からの警告。目の前のシャドウの得意としていた攻撃は『電撃』…ならば、電撃のダメージを軽減させる“耐性”を持つ明彦が変身しているイクサにはダメージは少ないだろうと判断する。

「岳羽さん、避難していて…桐条先輩、魔法で援護を、ぼくも前に出て真田先輩に加勢します。」

「分かった。」

「うん、分かった。」

美鶴の返事にやや遅れてゆかりの返事が響く。奏夜も現在宿しているペルソナが電撃無効の耐性を持つ『ドッガ』で有る事から自分への電撃は無意味で有る事は理解して居る。それを確信しながら、奏夜は剣を構えてシースターファンガイアタイプへと切りかかる。

「逃がすか!」

イクサの猛攻から逃げようとするシースターファンガイアタイプへと右ストレートを放ち、動きを止め、

「最後だ!!!」

追撃に大ぶりの一撃を放とうとした瞬間…

「っ!?」

奏夜はシャドウの仮面が愉悦に歪んだような感覚を覚えた。

「真田先輩、嫌な予感がする、離れて…。」

高位電撃魔法(ジオダイン)

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!」

シースターファンガイアタイプから放たれた雷がピンポイントにイクサへと落され、“電撃を軽減させる耐性”を持つはずの明彦が悲鳴を上げて崩れ落ちる。

「な!? 明彦!!!」

「そんな、嘘でしょう!?」

「真田先輩!!!」

そして、崩れ落ちるイクサへとシースターファンガイアタイプは今までのお返しとばかりに、イクサへと蹴りを放ち背中から何度も踏みつける。

(…迂闊だった…。今のは中位の魔法じゃない…高位の電撃魔法…。まさか、そんな魔法まで使えるなんて。)「ドッガ!!! ソニックパンチ!」

明彦の体制は完全に無効化する奏夜のドッガと違い、耐性によるダメージの軽減とは言ってもダメージは受ける。故に…軽減される以上のダメージを与える強力な電撃を受けてはダメージは大きいのだ。

そして、“シースターファンガイア”は体の中央に“エレクトロコア”と呼ばれる器官を持ち、体内に蓄電させている電気を集中させ、対象に稲妻を落す能力を持っていた。

明彦の電撃耐性を超えた高位の電撃魔法…シースターファンガイアタイプは弱点の補強ではなく純粋に元々の能力を強化したと言う訳である。幸いというべき点は、それがワンランク上の対象が単独の『ジオダイン』であり、広範囲に渡って電撃を降らせる『マハジオダイン』では無かった点だろう。

召喚器の引き金を引き、倒れるイクサに尚も追撃を続けているシースターファンガイアタイプへと紫の巨人(ドッガ)の拳が放たれる。

無防備な体勢でドッガの拳を受けたシースターファンガイアタイプは吹き飛ばされる。

シースターファンガイアタイプが吹き飛ばされた瞬間を逃さず倒れる奏夜、ゆかり、美鶴の三人はイクサへと駆け寄る。

「真田先輩、大丈夫ですか?」

「明彦、無事か?」

「ああ…なんとかな。」

慌てて倒れていたイクサに駆けより、ゆかりと美鶴がそう聞くと、明彦はそんな返事を返す。

「すみません、あんな物を使ってくるなんて…真田先輩…完全に予想外でした。」

そう、完全に今のは予想外の攻撃だったのだ。今までの相手も再生前に使っていたスキルこそ使えていたが、より強力な物を使ったと言う事はなかった。だが…

(…迂闊だった…。山岸さんの時のシャドウも再生した後は能力を強化していたのに…。)

そう、それは予想しようと思えば考えられていた結果…。今回の相手はそれが直接的な攻撃手段に現われただけであるのだから。

「気にするな…紅。こいつとオレだったから、この程度で済んだんだからな。」

何時の間にか変身を解除した明彦がそう言って奏夜へとイクサナックルを差し出した。そう耐性があるからこそ、イクサに変身していたからこそ、明彦はダメージ程度で済んだのだ。

…特にあれが全体攻撃が可能だったら…受けたのがダメージを軽減できる明彦ではなく、耐性のない美鶴や、電撃が弱点であるゆかりだったらと考えると、それだけでも背筋が寒くなる。

「選手交代だ。自分の失敗を悔やむなら、取り戻して来い。」

「はい。自分のミスはぼくの手で取り戻します。」

明彦からイクサナックルを受け取り、感慨深くそれを握り締める。

「紅くん、早く変身して!」

美鶴が明彦の回復に当たっている間、シースターファンガイアタイプを近付けさせない様にゆかりが矢を放っているが、シースターファンガイアタイプは矢が突き刺さる事も構わずに奏夜達へと近づいて行く。

(イクサ…お爺ちゃんも使っていた力…。)「分かってる!」

左手の掌にイクサナックルを叩きつけ、

《レ・デ・ィ・ー》

右手を大きく振り上げ、力を与える言葉を叫び、

「変身!!!」

ベルトへとイクサナックルを装着させる。

《フ・ィ・ス・ト・オ・ン》

ベルトより現れた十字架が白い人型の騎士を作り上げてそれが奏夜の体と重なっていく。そして、十字架を象った頭部が開き、その中から赤い瞳が現れる。

仮面ライダーイクサはセーブモードから、バーストモードへと代わり、奏夜はイクサカリバーを握る。

(…使わせてもらいます…この(イクサ)を!!!)「さあ、行くよ!!!」

素早く奏夜はシースターファンガイアタイプとの距離を詰め、イクサカリバーによる斬撃を浴びせる。

「はぁ!」

後を振り返るほどに勢いで横一線に切り裂く。続いて廻し蹴りを放ちシースターファンガイアタイプを弾き飛ばす。

『気を付けて下さい! 反撃来ます!』

聞こえてくる風花の警告を聞きながら、イクサ(奏夜)はイクサカリバーをソードモードからガンモードへと変形させ、

「そうはさせないよ!!!」

それをシースターファンガイアタイプへと連射する。

「…あの…桐条先輩…。イクサってあんな武器も有ったんですか?」

「ああ。」

「なら、どうして真田先輩は使わなかったんですか?」

「…明彦が使えると思うか?」

「……思いません……。」

「悪かったな!」

「まあ、それはこれから慣れて行けばいいだろう。」

目の前で繰り広げられている奏夜の変身したイクサとそれと戦うシースターファンガイアタイプとの戦いを観戦しながらそう呟くS.E.E.Sの残りの面々で有った。

「だが、まさか初めてであそこまで使いこなせるとは…。あれは一つの才能だな。」

自由自在にイクサシステムを使いこなしている奏夜を見ながら美鶴はそう呟くのだった。

ガンモードを連射しながら、シースターファンガイアタイプとの距離を詰め、

「はあ!!!」

蹴り飛ばす。

そして、距離を取った所で腰のスロットから《青いフエッスル》を取り出し、

「待て、紅、それは…。」

それを使おうとした奏夜を止める様に美鶴が叫ぶが、

《ガ・ル・ル・フェ・イ・ク》

イクサの前に奏夜の中に宿していない『ガルル』のペルソナカードが現われ、カードの中のガルルが咆哮すると同時にカードが砕け、ガルルセイバーが現われ、それをイクサカリバーと同時に握り、イクサカリバーとガルルセイバーの二刀流の体勢になる。

「な!? 何故、あれが使えるんだ?」

思わず驚きを隠せずにそう叫ぶ美鶴であった。だが、

「いや、待て…複数のペルソナを持つ紅だからこそ、使えると言うわけか…。」

「あの…あれって一体…?」

「…オミットされたイクサのシステムの代わりに用意された機能なのだが…。ペルソナを物質化して封印する代わりに武器にする装備だ。」

「なるほど、だから、複数のペルソナを使える紅だけが使えると言う訳か。」

「私達が使ったら、ペルソナが使えなくなっちゃいますからね。」

「ああ。武器にした所で、ペルソナが使えなくては意味は無いからな。」

そう、本来のフェイクフェスルの変わりに装備されたペルソナの物質化・武器化の機能…封印の言葉通り、ペルソナを仕えなくなる代わりに武器として扱えると言う物。

他の人間の場合、ペルソナが使えなくなっても複数のペルソナを扱える奏夜ならば、ペルソナが封印されても別のペルソナを扱えると言う訳である。

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!」

イクサはガルルセイバーとイクサカリバーの二刀流でシースターファンガイアタイプに斬撃を浴びせて行く。

(…悪くないけど…やっぱり、キバの鎧に比べて使い難い気がするな…。)

時折反撃に電撃を放ってくるが、それらは全て奏夜の宿しているペルソナ『ドッガ』の持つ電撃無効の能力によって阻まれ、ダメージを与えられる物理的な攻撃ははっきり言って低い部類に入っている。

今のイクサは能力だけでも完全にファンガイアタイプを圧倒しているのだ。そうでは有るが、イクサシステムに使い難さを感じてしまう。それは、こう言う場合にキバの鎧と言う力を扱っているが故なのだろうか、扱い慣れていない故なのだろうか?と言う疑問が浮かんでくる。

(…それにしても…このファンガイアタイプ…。)

だが、それ以上に浮かぶのは…別の疑問。

(…そんなに強くない…。)

魔法主体の相手の魔法を封じてしまえばこんな物かもしれないが、それでも目の前のファンガイアタイプは弱い部類に入ってしまう。

(…気にする必要も無いか…。倒すべき相手で有る事には変わりない!!!)「トドメだ!」

金色のフエッスルを取り出し、イクサベルトのフエッスルリーダーにそれを読み込ませる。

《イ・ク・サ・カ・リ・バ・ー・ラ・イ・ズ・アッ・プ》

「はぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!」

ガルルセイバーを床に突き刺し、イクサカリバーを頭の上で両手で構えると、イクサカリバーの刀身が輝き始める。

背景に太陽を背負い、シースターファンガイアタイプをイクサカリバーによって一刀両断に切り裂く。これが、仮面ライダーイクサ・バーストモードの必殺技

「イクサ・ジャッジメント!!!」

『イクサ・ジャッジメント』がシースターファンガイアタイプを切り裂き、シースターファンガイアタイプは爆散する。

『討伐終了確認しました。お疲れ様でした。』

「ふう…。」

風花の戦闘終了の言葉を聞き、奏夜はイクサベルトからイクサナックルを外し、変身を解除する。

(…やっぱり、妙だな…。…簡単に終りすぎた…。)

現時点では一番イクサを使いこなせる自分がイクサを使ったとは言え、相手の攻撃の大半を無力化したとは言え、簡単に倒せてしまったと言う事実が奏夜には妙に納得できないのだ。しかも、モノレールの時、風花の時と言い、何かして来たはずのシャドウが今回に限って正攻法なのが気になるのだ。

「じゃ、帰りましょうか。……こんなトコ早く出よう。」

「ああ、そうだな。しかし、今回はあっさりしてたな。」

(…シャドウの反応が無いなら、これで終わりって事だろうね…。気にし過ぎも良くないか。)「そうだね。早く帰ろうか。ああ、これ、返します。」

イクサナックルを明彦に返しながら奏夜もゆかりの言葉に同意する。

「あ、れ? うそっ!? 扉が開かない!?」

扉を開けようとしたゆかりがそんな叫び声を上げる。

「なに!? そんな、バカな…。」

美鶴も加わって開けようとするが強い力で抑えられている様に扉は動かない。確認してみるが、鍵も開いている。

「くっ、二人共そこを退け!」

イクサナックルを使い明彦が扉を殴りつけるが、それでも壊れる様子も無い。

(やっぱり、これは…。)「山岸さん…シャドウの反応は!?」

奏夜は慌てて風花に向かってそう叫ぶ。

『えっ? はい。………。えっ……そんな、なぜ? 部屋の中にシャドウ反応! さっき倒したのとは……別のシャドウ!? いつのまに? どこ? どこにいるの?』

風花の焦った声が聞こえてくる。開かない扉、部屋の中に有るシャドウの反応……これはどう考えても完全に罠。

(…仲間を囮に罠にかけるなんて…随分とぼく達を高く評価してくれるね…。)

四人とも違いに他の三人の背中を守りながら、武器を構え部屋の中を見回す。

(…どこだ…? 何処に居る?)

丸く大きなベッドが有る中央の部屋。ベッドの向こうにはガラス張りのバスルーム、ベッドの横に奏夜の全身を映し出せそうなほどの大きさの鏡が置いてあり、部屋の景色を映し出していた。

(…あれ…?)

部屋の様子を眺めた瞬間奏夜は一瞬の違和感に襲われる。そして、違和感を感じた鏡へと視線を向ける。

(…この鏡…。)

部屋の中を映し出している鏡へと視線を向ける。ふと、横を見てみるとゆかりもその鏡へと視線を向けていた。

「あれ、この鏡、何か変じゃない?」

「ぼく達の姿を映していない。」

二人の言葉が響いた瞬間、鏡から発した光によって部屋の中が照らし出し、それを最後に奏夜の意識は眠りの中へと落ちて行った。


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