第二十二夜
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キャッスルドランの中のこの城の主が座するべき玉座が置かれた部屋の中、一通りの演奏を終えると奏夜は風花へと向き直り一礼し、そのヴァイオリン『ブラッディ・ローズ』を再び玉座へと戻す。
今まで聞いた事の無いような素晴らしい演奏…拍手を忘れ、並の一流の音楽家のそれを凌駕するのではないかと思えるほどの音色に聞き惚れていた風花に視線を向け、奏夜は軽く溜息を付く。
「…ごめん、今のはとても人に聞かせられる音色じゃなかった…。」
「え? 今まで聞いた事が無いくらい綺麗な音色だったのに…。」
「…父さんや兄さんのそれに比べたらまだまだだなんだけどね。…ちょっと気になる事があって、演奏に集中できなかった…。」
風花の賞賛の言葉に苦笑を浮かべながらそう返し、表情を変えるとそう告げた。最後に謝罪する様に『こんなんじゃ、ブラッディ・ローズを使わせてもらう資格は無いね。』と付け加える。
「…気になる事…ですか?」
「うん、ちょっとね。」
「あの、頼りにならないかも知れませんけど、私で良ければ…。」
風花のその言葉に僅かに考え込み…意を決すると奏夜は…。
「…この事も、ぼく達の事と一緒に誰にも話さないで欲しい…。」
「はい。」
そう前置きし、奏夜は言葉を告げる。
「…全ては今回の事件についての調査の時…。…実は調べている間に気になる話しを聞いたんだ…。」
『所詮は根も葉もない噂』と聞き流していた話の一つだったのだが…その中で真偽を確かめたい事が有った。それは『10年前の学園で大勢の生徒が理由も無く不登校となった事件』についてである。
どちらかと言えば、奏夜よりも、左右非対称の二つ後の後輩の専門なのだろうが…奏夜が調べられる範囲で調べてみてもそれは怪しすぎる話だった。
「…どう考えても変な話だ。それに、叔父さんの伝で調べて貰ったんだけど…10年前には桐条グループの研究所で事故が起こったらしい。…それに…父の…先代の黄金のキバの死もその時だ。」
「…桐条グループって…先輩の…。」
「うん、知っていると思うけど、桐条グループは先輩の実家だ。」
そう、それを調査する過程で奏夜達ペルソナ使いを集めた『桐条 美鶴』…その実家である桐条グループの存在が浮かび上がってきたのだ。
「それについて調べているんだけど、全然成果が上がらなくてね。」
「あの…話して良いのか分からないんですけど…実は私…ゆかりちゃんに…。」
先日の昼休み、風花はゆかりに一つ頼み事をされたのだ。…丁度、奏夜が独自のルートで調べている事と同じ10年前の事件に付いて…。
ゆかりは、それが恐らく何故タルタロス等と言うものが存在しているのかに繋がると考えているそうだ。更に奏夜と同様に美鶴が自分達に何かを隠しているのではないかと言う疑問を持っているらしい。
(…なるほど…岳羽さんもぼくと同じ事を考えているみたいだな…。)
シャドウが現われたのが最近の話ではないと言うのは奏夜も知っている。それと同時に美鶴はタルタロスの誕生の理由を知っている。そして、それを自分達に隠している。それは…タルタロスの誕生や事故は父の死にも関係しているはずだと言う核心がある。
「…何も無きゃそれでいいか…。どっちにしても個人で出来る事は限られているからね…。」
風花のペルソナ能力による情報収集、しかも最近知った事だが彼女自身もパソコンを利用したネットワークを駆使した情報収集能力に長けている。彼女が調べられる情報は噂よりも信憑性の高い物に繋がるだろう。
(…だから、岳羽さんは山岸さんに頼んだのか…。)
そう考えながら溜息を付き、
「山岸さん…悪いけど…調べた事はぼくにも教えて欲しい…。」
「はい。」
奏夜の頼みを風花は快諾する。少なくとも…今現在、背中を預ける仲間としては美鶴の事は信頼している。だが…彼女は…風花以外のS.E.E.Sのメンバーはいずれ、敵対する危険を含んだ相手である可能性も有るのだ。
「ありがとう。」
「いえ、気にしないで下さい。」
そう言ってもらえると気分も少しは楽になる。と考えながら、視線を天井へと向ける。
「それにしても…順平にはどう思われても、また“余計な”無茶をされる訳には行かないからね。」
「あ…すみません…私が戦えないから…。」
「ああ、気にしなくて良いよ、元々ある程度こっちの戦力が揃ったら順平は一度戦線から離れて謹慎してもらう予定だったし…頼りないだろうけど山岸さんの護衛は必要だからね。」
そう、リーダーとして年長者である美鶴や明彦と相談していたタルタロスの番人級やモノレールの一件での順平の暴走に対する処分。タダでさえ少ない戦力を下手に削るのは得策ではないと考えて先送りにしてきたが…風花の参加で美鶴が戦線に復帰した事でやっと処分を下す事が出来た訳である。
元々情報収集能力に特化している為に戦闘力の乏しい風花のペルソナ能力を考え護衛を一人置く事になった時、順平への処分をリーダーとして奏夜が言い渡した訳である。
処分の内容は『次の満月の日の大型シャドウとの戦いが終わるまでタルタロスの中での戦いも含めて、前線から外れて風花の護衛に廻る事』である。
当然ながら順平からは文句が出たが、風花の護衛の必要性と過去の二度に渡る致命的な命令無視…それによって、仲間を危機に陥れたとして美鶴達と話し合った結果であると告げた。
同時にゆかりからも、こちらは美鶴にだが…文句は出たが、その処分は奏夜が言い出した事、流石に何事も無しで済ますには順平の命令違反は致命的過ぎると言って、フォローしておいた。
そして、順平にはトドメとばかりに勝手に風花の護衛を無視して前線に向かったりしたら、タルタロス内ではその場で見捨てて自分達は帰還して、タルタロスから生きて戻ったとしても再び一ヶ月の謹慎期間の延長。大型シャドウ戦で護衛の無視の場合は、S.E.E.Sのメンバーからの除名まで言い渡したのだ。
実際、二回とも奏夜の力がなければ全滅の危険も有ったのだから、彼にゲーム気分で戦われては迷惑と考えている奏夜としては当然の処分である。寧ろ…今回の順平への処分は戦力不足を理由に先送りになっていた為に遅すぎるくらいである。
「でも、あれは少し言い過ぎだったとは思いますけど…。」
「…まあ、それはぼくも自覚しているけど…一度言っておかなきゃ拙いとも思ったからね。」
風花の言葉に奏夜はそう言葉を返す。確かに言い過ぎたとは自覚している。思い出すのは順平への処分を言い渡した後の遣り取りだった。
「んだよ、二回とも勝てたんだから良いじゃねぇか、何でそんな事を今更!」
「…そうだね…。今更だとは思うけど…真田先輩と桐条先輩が復帰してくれて、やっと処分が出来る様になった。」
順平の怒声を奏夜は涼しい顔で受け流す。
「…それに…ぼくも君の行動で勝てていたら処分はもっと軽い物でも良かったとは思う…。でもね…。」
静かに視線を順平へと向けながら、
「一つ目…こっちの体制を整える必要の有った番人級との戦いで、勝手に敵に向かって行って態々不利な状況での戦闘にした事。二つ目、ぼくの指示を無視して効果のない攻撃を続けた事…。どっちにしても一歩間違えたら、全滅の危険も有った。」
「う…。…んな事、もう済んだことだろ、どうだって…。」
「悪いけど、『済んだ事』で済ます気はないよ。三度目はモノレールでの単独行動…戦力を分散してシャドウに各個撃破の機会を作って上げた事…こっちは番人級にまで襲われたんだけどね…。しかも、三体…。」
「ああ、伊織には伝えてなかったが、あの時、紅と岳羽を襲ったのは“番人級”だった。それは間違いない。」
奏夜の言葉に美鶴が補足すると、順平は黙ってしまう。
「…それで、過去3回の君の勝手な行動…何処にぼく達の利益になる所があったのか、教えてもらえるかな?」
「さっさと倒せて…。」
「…一度戻って次の日に体制を立て直せていればもっと安全に戦えたよ。大型シャドウが出現する日まで一周間以上有った、一日くらいなら時間が掛かっても問題は無かった。」
「…オレが攻撃して引きつけて…。」
「完全に無視されていたよ。ぼくは物理攻撃は効かないから、魔法で攻撃しろって言ったよね。寧ろ、引き付ける所か、こっちの攻撃をし難くして、敵の盾になって大技の準備をさせていた。…味方の援護じゃなくて、敵の援護をしてどうする気なのさ?」
「………。あの時は急がなきゃ危なかったじゃ…。」
「ああそうだね、それほど大きな被害が無かったのはあの時だけだね。……それで、大して意味は無い所か、勝手に敵に囲まれてピンチになってたのは何処の誰かな?」
「ちょっと、紅くん、それ言い過ぎじゃない!」
奏夜の言葉に抗議する様にゆかりが叫ぶが、
「いや、紅の言葉は正しい。どの戦いでも紅の力が有ったからこそ無事で済んだが、一歩間違えれば命が無かっただろう。」
「「…………。」」
「…それで…何か言う事は…?」
奏夜を弁護する様に告げられた美鶴の言葉に順平もゆかりも黙り…冷たささえも含んだ視線で順平を睨みつけそう問う。
「…………。」
「沈黙は肯定と取らせてもらう。期限は次の大型シャドウとの戦いが終わるまで君は山岸さんの護衛を兼ねた謹慎。この場合の命令違反は通常一回に付き一ヶ月の期間の延長…また、大型シャドウとの戦いの場合はS.E.E.Sのメンバーからの除名…いいですよね、桐条先輩?」
「ああ、仕方ないだろう。」
美鶴は奏夜の言葉に頷きそう答える。
そもそも、美鶴が復帰した時に順平の処分に付いては相談したが…最悪の場合のメンバーからの除名には難色を示した。だが…『命令を守っていれば良い。』と言う言葉と、『これが通らないのならば、リーダーを桐条先輩と交代して、自分がS.E.E.Sを抜ける。』と言った事が決まり手だろう。
奏夜と順平…天秤にかけたら優先すべきは最強の戦力である奏夜を選んだのだろう。…そもそも、命令を守っていれば順平も次の大型シャドウとの戦いの後は戦線に復帰できるのだから。
「それって…言う事を聞かない人は要らないって事ですか…?」
ゆかりが美鶴に向かってそう言うが、
「それは違うよ。言う事を聞かない人が要らないんじゃない。勝手な行動で味方を危険に曝すような奴は強敵より危険だから必要無いって言う事だよ、岳羽さん。…それに、期限も大型シャドウとの戦いが終わるまでの間だけだから。ぼくもそう何度もフォローできるとは限らないからね。」
「…それなら、仕方ないけど…。」
奏夜は苦笑を浮かべながら、そう答えるとゆかりも納得したようにそう呟く。
「へっ、流石はリーダー様。仲間を助けて大活躍、ですか……。」
敵意を込めた視線を奏夜へと向け、そんな事を口走る。
「ちょっと、順平、アンタ何言ってんの?」
「あーあ、ヨユーですな。オレみたいな雑魚には羨ましいこって、実力十分のリーダー様は一味違いますな。」
ゆかりの言葉を無視して順平は奏夜に向かってそう言い続け、作戦室から出る為にドアへと歩いていく。
「…順平、ちょっと待て。」
冷たさを称えた抗いがたい、“王”の言葉(命令)が告げられる。
「んだよ、役立たずのオレに何か用かよ、リーダー様よ?」
「うん、忘れ物だよ。」
今までの冷たさも感じさせないほどいつも通りの口調の中に、何よりも強制力の有る言葉…それに気付かず順平は、露骨に舌打ちしながら奏夜へと振りかえる。
「スイマセンねぇ、リーダー様に面倒をかけ。」
バァン!!!
その言葉が言いきられる前に奏夜の拳が順平へと叩き付けられ、開けられかけたドアを通して部屋の外まで殴り飛ばされた。
『紅(くん)!!!』
「……ッ……テメェ、何すんだよ!!!」
「…忘れ物だよ…。君さ…いい加減にしてくれないかな? 君さ…リーダーの責任って何か知ってる?」
冷たい視線で順平を見下ろしながら、奏夜はそう言葉を続けて行く。
「知るかよ、そんなモン!」
「…だったら、教えて上げるよ…。リーダーの責任はね…“仲間の命を預かる事”…命令すると言うのは、場合によっては仲間を犠牲にしてしまう事にも繋がるんだよ。ぼくが指示を一つ間違えただけで、誰かが死ぬ、そう言う事も有るって考えた事は有る?」
「な!? ……そんな事、ある訳ねぇだろ!!!」
奏夜の言葉に順平はそう反論する。
順平の中のリーダーと言う存在のイメージと掛け離れた奏夜の言葉が受け入れられないのだろう。仲間達の先頭に立って華々しく活躍し、尊敬を集める最も素晴らしい存在…それが彼の中のリーダーと言う存在なのだ。
「…ぼく達の戦いは遊びでも、セーブしてやりなおせるゲームでもないんだ。負けたらそこで死ぬ。それで終わりだ。リーダーと言う立場にはそう言う責任が有る。…少なくとも、ぼくもそんな役割はゴメンだけどね…君にだけは譲れないよ。」
「…………。」
そう言って奏夜は無言のまま俯いている順平を置いて作戦室のドアを閉める。
「…悪いけど、ぼくも勝手に命令無視して暴走した挙句に仲間を危険に曝すような相手は仲間として認めたく無いし、そんな命を預かりたくも無い、責任も背負いたくもない。次の大型シャドウとの戦いが終わるまでゆっくりと考えるといい。…自分がなりたいと思っていた物が本当はどう言う物なのか。」
そう言って奏夜は完全に作戦室のドアを閉める。
「お騒がせして、すみませんでした。そう言う訳で次の大型シャドウを倒した後、山岸さんの護衛はリーダーのぼくを除いて、岳羽さん、順平、真田先輩、桐条先輩の四人に交代制でして貰います。」
「分かった。」
「それで、順番は兎も角、大型シャドウとの時はどうする?」
美鶴の言葉に奏夜は少し考え込む。
満月の夜に出現する事が分かり一ヶ月に一回現われると言う事がはっきりしたのだ。
「…そうですね。その順番は、次の戦いが終わった後に“全員揃って”決める事にしましょう。新しい人が参加した時は、その時毎に改めて決め直すと言う事で。ただ、大型シャドウ戦の時は岳羽さん単独での護衛は止めた方が良いと思います。」
「っ!? それって…。」
「分かった、それで構わないが、何故岳羽だけなんだ?」
美鶴の言葉に奏夜はゆっくり口を開く。
「岳羽さんのペルソナ能力は風での攻撃はできるけど、どちらかと言えば回復や援護に特化した魔法が多いですし、武器は消耗品である弓と単独で護衛を任せた時、危険が大きくなる可能性が高いと判断しました。」
「なるほど、その点、私や明彦、伊織の武器は消耗品ではなく…。」
「はい。岳羽さん以外は魔法が使えなくなったとしても、最悪は武器だけである程度戦えるので、ぼく達が大型シャドウを倒すまでの間持ち堪えられる可能性が高いと判断しました。」
奏夜が美鶴の言葉にそう補足する。
「確かに私の武器は消耗品だから、矢が無くなっちゃったら、戦えないか。」
「やれやれ、仕方ないか。」
「…………。」
奏夜の言葉にゆかりと明彦が各々の反応を見せる中、
「紅くん…順平のこと、良いの?」
「さあね。あれで潰れる様ならそれまでだ。少なくとも、今のままの彼を放置して置くよりも、ここで潰れてくれた方がまだ安心だからね。」
与えられたペルソナという力に酔いしれ、幻想の中のリーダーと言う物に憧れ、その立場を与えられた奏夜の苦労も知らずに、彼に嫉妬していのだが…それを助長したのは、華々しく活躍する奏夜の力(存在)も彼の嫉妬を助長してしまっていたのだろう。
「私としては、伊織には立ち直ってくれる事を期待したいな。…それに、次の大型シャドウとの戦闘についてだが、理事長から良い物を預かった。」
そう言って美鶴はトランクをその場にいる全員に見える様に置いた。
「良い物ですか?」
「ああ、ファンガイアタイプや大型シャドウ…そして、キバに対する対策になる品だ。」
「ッ!?」
そう言って美鶴がトランクを開くと、奏夜は思わず絶句してしまう。そこに入っていたのはナックルのような物とベルトだった。
(まさか…これは…。)
「…武器か? 確かにオレや紅には良い物かもしれないが、それだけじゃ対策にはならないだろう?」
「それにこっちのベルトって。」
「この二つは『イクサシステム』と言うパワードスーツの装着用のツールだ。理事長は元々対ファンガイア用に作られた物である為、恐らくはファンガイアタイプとの戦闘にも役立つだろうと言っていた。」
「あの、パワードスーツって、影時間の中じゃ機械は動かないって聞いたんですけど?」
美鶴の説明に風花はそう質問する。当然の疑問だろう、どれだけ強力なパワードスーツも動かなければ単なる拘束具なのだから。
「心配無い。私が機材の運用に使っていたイクサリオンだが、あのマシンは元々このイクサシステムの支援用のマシンだった。当然、イクサリオンと同様、このイクサシステムも影時間の中に対応できる様になっている。」
そして、ベルトを取り上げてテーブルの上に置くと、
「そして、イクサシステムは私達が使う事になった時に召喚機も内蔵された。ペルソナも問題無く使う事が出来る。他に何か質問は有るか?」
美鶴の言葉に奏夜が手を上げる。
「あの、それはどう言う状況で使う事に…。」
「主にキバやファンガイアタイプ、そして、大型シャドウと戦う時にのみ使用を許可しよう。タルタロスの中で使っていては成長を妨げる危険もあるからな。だが、紅、リーダーであるお前の判断で危険と判断したら、使ってくれても構わない。」
「…分かりました…。」
(…まさか、イクサを見れるとは思わなかったな…。)
父と共に戦った戦士の一人である名護啓介を始めとして、そのプロトタイプはアームズモンスターの一人ガルルこと、次狼に祖父である音也が使った対ファンガイア様のシステム。それは『素晴らしき青空の会』解散後に行方知れずとなったと聞いていたのだが…。
「…あの、桐条先輩の持ってたイクサシステムって、やっぱり、紅くんの言ってた…。」
「…間違いない…。あれは、ぼくの知っている“イクサシステム”と同じ物だよ。」
「それじゃあ…紅くんが危険なんじゃ…。」
心配そうにそう呟く風花に微笑を浮かべながら奏夜は
「大丈夫だよ。あれが本物のイクサなら、ファンガイアタイプにも対抗できるはずだから、ぼくが変身する必要も無くなるはずだよ。最悪、ぼくがイクサに変身すればいいしね。」
話で聞いた程度だが、イクサの事はS.E.E.Sのメンバーの中では奏夜が一番知っているのだ。寧ろ奏夜自身がイクサに変身すれば、それだけキバへの変身する頻度を低下させる事が出来る。
「…“本物”ならね…。」
あのイクサシステムを見た時に奏夜が微かに感じた違和感。
…機械に対して言うべきではないかもしれないが…あのイクサからは戦いの中で磨かれた力強さを全く感じさせなかったのだ。父と共に戦ったイクサの事を知っているであろう、キバットが見れば何か分かるかもしれないが…。
…奏夜の中に浮かんだ微かな疑問…それがどう言う事になるのか…それは誰にも分からない事である。
そして、7月7日…七夕の夜…次なる試練の夜を迎えるのだった。