「はあ!!!」
キバのラッシュがシャドウの仮面に討ち込まれ、それを粉砕し、シャドウを構成する体を消滅させる。
「ニ体目!!!」
キバの回し蹴りがニ体目のシャドウの体を打ち砕き、三体目から繰り出される炎の魔法を避けながら、ベルトから赤いフエッスルを取り出す。
「ウェイク・アップ!」
「はぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!」
足のヘルズゲートが開放され、解き放たれた魔力を集中させた必殺の一撃『ダークネスムーンブレイク』が討ち込まれ、同時にヘルズゲートが再び閉じると同時にタルタロスの床にキバの紋が刻まれ、シャドウが跡形も無く粉砕された。
「ったく、奏夜一人にどれだけ手間かけてんだよ、こいつ等!」
最後の一体のシャドウを粉砕したキバのベルトから離れ、その周りを飛び回りながらそう言うキバツトにキバの仮面の奥で苦笑を浮かべながら、答える。
「ぼくって、かなり嫌われてるみたいだね。」
「別に嫌われたって、良いだろう、こいつ等になら。」
更なる番人級の増援に対する警戒をし変身を解かず、キバの姿のまま周囲を見回す。その瞬間、キバに対して恐怖心を感じたのか、通常のシャドウ達は即座に逃げ出して行く。
「そうだね。」
「しっかし、良かったって言うべきかねぇ、これは?」
「最初の賭けには勝ったけど、真田先輩や順平とははぐれちゃたし、連絡がつかない…って、状況から考えると最後のは“幸い”かな?」
実は仲間との分断はタルタロスの中を探索していると稀に怒り得る事態なのだ。それを考えると、半分は落ち着いていられるのだが、問題は残りの半分…『イレギュラー』の部分なのだ。
下手をしたら順平と明彦の二人とは、これが永遠の別れになってしまったとも考えられるのだから。
(…二人はまだいい方だ…。今は行方不明になっている彼女を探さないと。)
そう考えてキバットへと視線を向けると、キバットはベルトの止り木へと座す。そして、ゆっくりと歩を進めて行く。それに合わせ、キバの進行方向に居るシャドウ達が道を開ける。それは、王の為に道を開く様に…。
―…誰…? …貴方達は…人なの…?―
通信とは違う声が届いた瞬間、反射的にペルソナをガルルからシルフィーへと変えようとしたが、直にそれを思いとどまった。
(…人って、呼べるのかな、ぼくは?)「聞こえた場所は向こうか。…真田先輩達と合流したら、適当に逃げて変身解除して再度合流。」
「オウ!」
向かうべき方向と今後の行動の概要を定め、キバはタルタロスの床を蹴り、走り出した。
―ここは…どこ? なぜ、ここにいるの?―
「えーと、何処に居るから分からないけど、出て来て貰えれば、全部説明する! …って、お前達じゃない!」
彼の言葉に従った訳でもないのだろうが数体のシャドウが姿を表す、とっさにシルフィーへとペルソナを切換え『
「チッ!」
自分の迂闊さに舌打ちしつつ、素早く放たれたキバの裏拳と回し蹴りでシャドウ達を粉砕する。
「早く会わないと、彼女もシャドウに…。」
折角の保護対象からのコンタクト…それを妨害してしまっては意味が無いと、ペルソナを通信ジャミング能力を持つシルフィーからガルルへと切換えようとした時、
―……いえ。―
今までとは違い、今度はキバの言葉へと
「っ!? ぼくの声が聞こえてる!? 聞こえてるなら、返事をして貰える!?」
―あ、はい。
声から帰ってきた言葉はそれだった。しかも、今までのそれとは違って、鮮明に聞こえている。
(なるほど、シルフィーのペルソナや
「えーと、君の側にシャド…いや、訳の分からないバケモノみたいな物はいる? それに襲われて怪我とかは…?」
―いえ、襲われてませんから。今のところ見つからずに済んでます。―
(なるほど…彼女のペルソナ能力か…。しかも、桐条先輩のペルソナやシルフィーとは違って、完全な援護型の能力。)
確かにあの少年の言う通り援護型の能力は今の自分達には必要な能力だろう。今、それを行っている美鶴のペルソナは本来は戦闘型で、本来ならば専門外の事に使っているのだから。
―「あの。」―
「「うわ!?」」
行き成り重なって聞こえた声にキバとキバットが驚いて叫んだ瞬間、キバットがキバットベルトから離れた時、変身が解除されてしまう。
振り返るとそこには月光舘学園の制服を着た小柄な少女だった。
「い、何時からそこに?」
「怪我が無いか聞かれた後だったんですけど…ごめんなさい、人だったなんて思わなくて。」
「………あー、えーと…君が確認するけど、山岸風花さんでいいのかな?」
「どうして私の…。」
「ぼくは『紅 奏夜』。隣のクラスの転校生で、君を助けにきた。ぼく以外にも二人居るんだけどね。」
その小柄な少女の言葉に思わず引き攣った笑顔を浮かべながら、頭の中にキバの姿を描いて見る。…残念ながら一目では人間とは思えない。
「それに、そこにいる蝙蝠さんって…?」
「おっと、初めまして、お嬢さん。オレ様はキバットバットⅢ世だ。」
「え、えぇ! こ、蝙蝠が喋った!? それに、あの姿は…。」
「あー…えーと、何から説明するべきか…。」
キバの姿を見られた以上仕方がないと判断し、覚悟を決める。
「…これから話す事は、君の知らない世界の真実の一旦…知らない方が幸せなのかもしれない事実の一つだ。」
奏夜はかつてこの世界に存在した闇の一族、十三の魔族の中で最大の勢力で有ったファンガイア一族の事、そして、先代のキバである父の事を話す。
「…ファンガイアに…キバ…そんな事があったなんて…。」
「残念ながら、これは事実だよ。でも、君はぼくの居場所が…。」
「いえ。あ…。」
「っ!? 大丈夫!? まさか、ここに来るまでにシャドウに…。」
突然崩れ落ちる彼女の体を奏夜は慌てて受け止める。そして、回復魔法をかけようとペルソナをシルフィーからバッシャーへと切換えようとした時、
「あ、はい安心したら気が抜けちゃって。」
(…十日も影時間の中に居たんだ、無理も無いか。)「…でも、どうして君は今までシャドウ…ああ、ここに出る化け物の事なんだけど…それに襲われずに済んだね。」
奏夜の問いに風花は悩みながら口を開く。
「ええと…なんて言ったらいいか。負のエネルギーって言うんですか? なんとなく居場所がわかるんです…。そう言う負のエネルギーの逃げる様な流れの中に別の…生体エネルギーが有って貴方を見つけて…。」
「なるほど…。ぼくから逃げるシャドウの動きと、生体エネルギーでぼくの居場所を…。」
「あの…それで、ここ、一体何処なんですか? 私、学校にいたはずなのに、なんでこんな…。」
「それについての説明は…ここから脱出してからでいいかな? 結構長くなりそうだし。それと…ぼくのキバやキバットの事についてはぼくの仲間には黙っていて欲しいんだ…。」
「いいですけど…。どうして…ですか?」
風花の問いに奏夜は心から哀しそうに…そして、冷たく言葉を続けて行く。
「………『人類の敵』…キバの事はそう伝えられているらしいから…だから、黙っていてもらいたい…。ッ!? キバット…ポケットの中に隠れて…。」
「おう。」
キバットがポケットの中に隠れた事を確認すると、奏夜は風花を庇う様に後に下げ、素早く後を振り向き小剣を構える。
そして、近づいてきた影へと剣を向ける。互いに奏夜の剣と、影の拳が放たれる寸前…
「真田先輩。」
その人影が明彦である事を確認すると、奏夜は慌ててバックステップで後ろへと下がる。その数ミリ先で明彦のパンチも止められていた。
「なんだ、紅か。骨の有るシャドウがいると思ったんだが…後は伊織…。」
すると、後から新たな影がゆっくりと明彦へと近づいて行くが、
パァン!!!
明彦の裏拳が
「OH…。」
「ん? 伊織か…。」
「やあ、真田先輩、順平。見ての通り、山岸さんも無事だよ。」
「そうか…。良く無事だったな。」
「とにかく、山岸さんの体力も限界でしょうから、早くここから脱出しましょう。」
奏夜の言葉に明彦が頷く事で答えた瞬間、
「っ!? …な…に……これ…今までより、ずっと大きい。」
風花がなにかに怯える様に言い始める。今までよりもずっと大きな力…想像できるのは満月の夜に出てくる大型のシャドウ。
「…なんて大きな…負のエネルギー!!!」
そう叫ぶと崩れ落ちてそのまま床に座り込んでしまう。そんな風花に近づこうとした明彦の顔をタルタロスの窓の外に浮かぶ満月の光が照らした。
「…満、月…?」
空に浮かぶ満月を眺めながら明彦はそう呟いた。
「おい! 四月に寮が襲われた日も満月だったか!?」
「な…なんスか、いったい?」
そう。それは、奏夜だけが知っている情報…今回の事で確証が得られ、明彦にも気付けたのだろう。
「満月でした。先月の…。」
「モノレールの時も満月だ。そういうことか! くそ!! つながらないか。」
奏夜の答えを聞き、通信を入れようとするが、タルタロスの一階部分に入るはずのエントランスの美鶴には通信が繋がらない。
「これを持っていってくれ。」
明彦が召喚器を取り出して、風花へと差し出す。
「こっ…これって…。」
流石に行き成り拳銃を取り出されたら、戸惑わずには入られないだろう。
「お守りのようなものだ。弾は出ない。」
「うん、大丈夫だから、それは絶対に離さない様にして貰える。急ぎましょう…多分、エントランスですよ。」
「ああ! 急いで戻るぞ!」
弾が出ないと言う説明だけしか出来ないが、今の状況ではそれが限界なのだろう。明彦の言葉に僅かにフォローするように言った後、告げられた奏夜の言葉に明彦もそう叫ぶ。二人の表情にも焦りの感情が浮かんでいた。
「あの…? 何が一体どうしたんスか?」
一人だけ状況を理解していない順平が疑問を浮かべてそう聞いてくる。
「月の満ち欠けはシャドウの力に大きく影響を及ぼす。もっとも、これは人間も同じだがな………。」
「?」
明彦の言葉にも順平はまだ疑問を浮かべていた。
「順平…説明しているヒマは無いから、言葉だけを飲み込んでもらうよ。出たんだよ、大型シャドウが! 奴等は満月の夜に現われるんだ!!!」
「急ぐぞ、紅、伊織!」
「山岸さんも急いで!」
「はい!」
明彦のその叫び声と共に奏夜達は一人を除いて走りだして行く。
「ちょ…ちょっと!!!」
一人取り残されていた順平が暫く呆然としてた後、慌てて奏夜達を追い掛けて走り出すのだった。
「フッ…。」
破壊されたイクサリオンとサポート用の機材、そして、美鶴とゆかりの二人…女性陣の視線の先にいるのは…
「予告も無しにニ体もお出ましとは…少しばかし反側なんじゃあないか?」
美鶴達の前に存在しているのはニ体の大型シャドウ…一体は皇帝の様な印象を与えるが、奏夜が見たら『貧相な王だ』とでも表するであろう二つのキバの鎧に比べれば貧相な姿をしたシャドウ『エンペラー』と、同じく女性的な特徴を持つ同じく女帝の印象を与えるシャドウ『エンプレス』…。
「しかし…。」
そう告げる美鶴はレイピアを取りだし、自身の米神に押し当てた召喚器のトリガーを引く。
「ペンテシレアッ!」
炸裂音と共に放たれた彼女の喚び声に応え、神話の女王が現われる。
「この私の“ペンテシレア”が、“処刑”する!!!」
高らかに美鶴はそう宣言するのだった。
そう、奏夜参戦後、S.E.E.Sの最初期のメンバー…一人目のペルソナ使い桐条美鶴がここに前線へと復帰するのだった。;