ペルソナ Blood-Soul   作:龍牙

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第十四夜

その日、学園に登校した奏夜は一つの噂話を何度も耳にしていた。登校中の生徒同士の話しだけでなく、教室でも聞こえてくる噂に対して、『興味無し』と言う姿勢を貫いているのだ。

実際、自分の知る人造キバット【レイキバットmk-2】を連れた『先輩』の言葉には、不確かな噂に対する危険性も伝えられている。例え嘘であっても、多くの者が信じてしまったそれは『嘘』が『真実』へと変えられてしまうのだ。

…………もっとも、奏夜が聞いた先輩の言葉には、『噂が真実となる』と言う訳の分からない言葉も存在していた気もしたが…それはどうでも良い事なので省略する。

その為に教室内で持ちきりになっている噂にも興味はないので、聞く必要も無い。

もっとも、そんな無責任な噂の中にも真実があり、歪められて伝えられた真実、そして、火元となった事実が有るかもしれないが。

第一、自分が必要以上に聞かないでも、楽しんで聞いているであろう人間を一人だけ知っているのだし。

「おっはよーさん! お前もう聞いた? 今朝からこの話しで持ちきりだぜ。」

「知らない。…そんな噂には興味無いからね。」

朝の挨拶と共に順平がそんな事を言ってきた。そんな順平に対して、実際興味が無いので、苦笑を浮かべながらそう返す。

「まあ、聞けよ、事が事だし知っておいた方が良いっつの!」

(…『事が事』?)「それってどう言う事?」

順平の言葉に表情を変えながら奏夜はそう聞き返す。

「おっ、乗ってきたな。隣のクラスのE組の女子が昨日の晩から夜通し“行方知れず”でさ、それが今朝んなって校門の前でブッ倒れてたんだと! 事情は目下のナゾで噂じゃ意識も戻ってないらしい。」

(…“夜”に“意識不明”…妙に“影時間”や“影人間”に符合する所が有るな。…もしかしたら、シャドウが関わっている事件かも…。)

順平から噂を聞きながら、そんな考えを張り巡らせて行く。『夜=影時間』、『意識不明=影人間』と、符合するのだ。その噂が真実か否かは桐条先輩や理事長を通せばある程度確認できるだろう。

「今回の難事件、正直オレも………お手上げ侍。」

(…もし、この事件にシャドウが関わっているとすれば…寮やモノレールに出てきた大型シャドウやファンガイアタイプに関係しているかもしれない。)

思考の渦の中に入っていた奏夜は順平の言葉(ギャグ)も、態々用意したであろう丁髷(ちょんまげ)のカツラも全面的に無視していた。

「あ、ごめん…何か言った?」

「……もういいよ……。」

何か言いたそうな順平に気が付いて、そう言う奏夜に酷く落ちこんだ様子でそう返す順平。はっきり言って奏夜には悪意0%なのだが、そう言う対応は…はっきり言って余計にダメージは有ると思う。

「何がお手上げ侍よ。…バカじゃないの。」

「お、ゆかりっち。」

教室に入って来たゆかりが言いきったのだった。…しかも、そう言って席に座った後、溜息を吐く事で一拍置き、

「てか、バカじゃないの?」

「二回言うな!!!」

二回続けて貶された。しかも、

「…え、えーと。御免、順平…フォローできない。」

「お前のがもっと酷いっての!!! ってか、バカって言われた方がまだマシだ!」

奏夜に至っては冥福でも祈る様に手を合わせて、心の篭った言葉で謝られた。…まだ、バカにされた方が救いはあるのではないだろうか?

「…そう言えば、珍しいね。岳羽さんが遅いなんて。」

「先生に話してきたの。今朝倒れてた子、実は私、昨日部活の帰りに見たのよ。」

「…岳羽さんが知っているのか…。……根も葉もない噂じゃなかったみたいだね……。」

身内に倒れていた人物を知っている者が居るなら、噂は…少なくとも、本当に人が倒れていたという程度の真実は存在しているのだろうと考える。

「うん、知っているって程じゃないんだけどね。で、その時、ちょっと、ヤな話聞いちゃって…。いわゆるイジメグループって奴? その子イジメグループの一人だったみたいで。」

「うわ。」

心底嫌そうな表情を浮かべてしまう奏夜だった。

はっきり言って、そんな人間が影人間になろうが、ファンガイアにライフエナジーを吸収されようがどうでもいい…寧ろ、そんな奴を襲ったシャドウやファンガイアを心配したくなる気分である。

有る意味、奏夜の心境としては今回の事件は一番厄介な事件とも言えるだろう…。

「何か…今回の事件と関係有るのかなって…。」

「岳羽さん…もしかしたら、良い感してるのかもしれないよ。」

奏夜はゆかりの言葉に苦笑を浮かべながらそう答えるのだった。あとは、先輩達にも報告しておいた方がいいだろうと、今夜辺り話す事を決めたのだった。

それから一周間程過ぎた日の夜。ラウンジの電源を落した真っ暗な部屋の中…順平が身を乗り出して……雰囲気の為だろう自分の顔を顎の下から懐中電灯で照らしている事によって、彼の顔を暗がりに不気味に照らし出している。

事の始まりは順平が言い出した『学生用のネット掲示板』についての話題からだった。

「先週、E組の子が校門の前で倒れてんの見つかったっしょ? あれ、怪談に出てくるオンリョウの仕業じゃねーかってさ。」

「………ッ………オンリョウとか、マジ止めてよ……ウソくさいッ!」

そんな順平とゆかりの会話に端を発し、

「その怪談と言うのは、どんな話しだ?」

っと、興味をそそられたのか、美鶴が乗ってきて、順平に尋ねた。

丁度今朝、奏夜はその生徒の事について、シャドウに襲われた可能性を相談して見たのだ。美鶴もシャドウの仕業ではないのかと考えていたらしく、ここ数日の学園の雰囲気を案じていたのだ。

彼女が興味を持ったのも彼が相談した事が理由にもなっているのだろう。

その後…この手の話しが苦手なゆかりが必死に止めようとするも、美鶴の一言で話を聞く事に決定してしまい…現在に至ると言う訳である。

その間、奏夜と明彦は『興味なし』とでも言う様にのんびりと食後のお茶を飲んでいたのだった。

さて、余談だが…奏夜にも『この手の話は信じるか?』と話を振られたのだが、奏夜は『吸血鬼なら無条件で信じるけどね』と、どちらとも取れない返答で返したのだった。

キバ…吸血鬼の王(キング・ヴァイパイア)の後継者の一人らしい発言であった…。どうでも良いが、狼男と半魚人とフランケンシュタインを見たと言っても奏夜は信じただろう。身内にも居るし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「皆さん、どうもこんばんは…伊織順平アワーのお時間です…。」

(…何それ…?)

(…なんだそりゃ…?)

思わず心の中でツッコミを入れてしまう奏夜とキバットであった。実際、暗がりの中でならポケットから外に出した所で目立たないだろうと考えた結果、部屋の中を飛びまわっているのだが、まだ誰も気がついていない。

「世の中には…どーも不思議なことって、あるようなんですよ…。ご存知ですか? 遅くまで学校にいると…『死んだはずの生徒が現われて、喰われるよ。』って、怪談。私の知り合いの、まぁ仮にTとしておきましょう。」

(…ん…T…? ああ…『彼』だね。)

イニシャルが『T』と言われると思い浮かぶ人間が居るので、順平の言う人間が彼であるのは間違いないだろうと考える。……まあ、特に彼の存在が今後、本編に関係する可能性はないのでここでは詳しく触れない事とする。

「Tがね、言うんです。「伊織さぁ、オレ、変なもの見ちゃった…。」って。あまりに真剣なもんだから、「何が~?」って、私聞きました。」

(…ファ…。)

完全によく有る話と判断し、興味を無くした奏夜は、欠伸をかみ殺しながら、既に明後日の方向に視線を向けている。

「彼、首傾げながらね、「実は例のE組の子なんだけどね……事件の前の晩、学校来てるとこ見たよ。」って言うんです。「うそだ~。そんなんあるかい、うそだ~。」って、私、彼に言ってやりましたよ」

今まで興味無さげに聞いていた順平の言葉の中に有ったキーワードに奏夜が反応する。

(…事件の前の晩…学校に来た。)

(オイオイ、それって。)

特に言葉を交わして居ない筈の奏夜とキバットの思考が一瞬だけシンクロする。

「「E組の子、夜遊びする様な人間じゃない。」でも彼真っ青な顔で、確かに見たって、ガタガタガタガタ震えてる…。…私、考えましたよ。そうなんだ、倒れていたE組の彼女ぉ…?」

奏夜の意識が思考の中に居る間にも順平の話しは続いていく。

(…ふーん…当たりみたいだね。今回の戦いの舞台は学園の近くか…そもそも、シャドウの巣であるタルタロスに姿を変える学校が、今まで戦いの舞台にならなかった方が可笑しいんだ。)

「食われたんですよ! 死んだはずの生徒にッ!! 夜中に学校にいたから食われて、だから倒れていたんだって!!!」

奏夜の表情が楽しそうにクスクスと笑っているのにも気付かず、順平のよく有る怪談話は続いていく。

「私、ぞくーっとしました。ドゥーっと冷や汗が溢れ出ました…。」

丁度順平の話しがクライマックスを迎えている様なので、飛びまわっているキバットへと視線を向けて、戻ってくる様に促す。

「世の中には、どーも不思議なことって、あるようなんですよ。…まぁ、全部私の推測なんですがね…。」

丁度、キバットが奏夜のポケットに収まった所で、順平の話は終わりを告げ、ラウンジに灯りが戻る。

「どう思う……明彦、紅?」

「フム。調べる価値はありそうだな。」

「ぼくも同感です。少なくとも…調べなくて良い様な話じゃなさそうですから。」

美鶴が明彦と奏夜に意見を求める。それは必然とも謂えるのだろうが、二人共肯定の意思を示していた。

「しっかし、ゆかりっち。お化けがニガテとは、チョイ情けないよな。」

「な!? 情けないって言った!? いーわよ、だったら調べ様じゃないの! 事件の真相を!? これから週末まで色んな人にテッテーテキに話しを聞いて回るワケ!!! お手上げ侍とか言ったら許さないからね!!!」

順平のからかいの言葉に強く反応したゆかりがそう叫んで宣言する。

(…えーと、ぼくは間違いなく、シャドウの仕業だと思うんだけどね…。)

「紅君も、いい!?」

そんな二人の様子を今までの情報からシャドウの仕業と推理して苦笑を浮かべていた奏夜にまでも、『ズビシャァッ』と擬音が付く位の勢いで指を刺すゆかり。

「怪談なんて、ゼッタイ嘘に決まってるんだからーーーーーーーー!!!」

そう高らかに宣言するゆかりを一瞥しつつ、テーブルに突っ伏している奏夜であった。巻き込まれてしまった奏夜にしてみれば、面倒な事この上ないだろう。

そして、先輩達はと言うと…。

「それは助かる。気味の悪い話だからな。」

「じゃ、宜しくな。あー、怖い怖い。まあ、がんばれよ。」

そんな風に暖かい(?)励ましの言葉を与えてくれたのだった。どうでもいいが、奏夜は奏夜で、自分の言葉と先輩達の励ましの言葉で自分の先程の発言を後悔するように俯いているゆかりを見つめながら、どうするべきかと苦笑を浮かべるのだった。

さて、自室に戻った奏夜は先程の話で得た情報を元に立てた推測をキバットと交換していた。…それによると、キバットも奏夜と同じ考えに至ったらしい。

「まあ、ぼくは…吸血鬼の噂だったら、信じちゃうかもね。」

「そいつは同感だな。」

「さてと…。」

キバットと話した後、奏夜は表情を変えて別の場所…ベッドの方へと視線を向ける。

「こんばんは、また会いに来たよ。」

そこには奏夜のベッドに腰掛けている囚人服に似た白と黒の縞模様の服を着た少年…前回の大型シャドウの出現を教えてくれた少年の姿がそこには有った。

「っ!? お前は。」

「や、こんばんは。そろそろ来る頃と思ったよ。」

そこに居た少年の姿を目撃したキバットと内心、彼が現れる事を予想していた奏夜がそれぞれ反応する。

「君も、コウモリモドキ君も覚えててくれて、嬉しいよ。なんだか大変そうだけど、もうすぐまた月が満ちる。」

「って、誰がコウモリモドキだ!!! いいか、よーく、聞けよ! オレ様は誇り高いキバットバット……。」

「キバット…落ち着いて。それで…やっぱり…試練…大型シャドウが出てくると言う事でいいんだよね。」

少年から告げられたコウモリモドキの言葉に怒って自分の種族の事から話していこうとするキバットを落ち着かせながら、後半の言葉を少年へと告げる。

「ふふ。そういうことだね……気をつけて。」

そう告げると、ドアの方へと振り返り、少年の持つ気配は急激に薄れていった。

「うん、さようなら。」

「フフ……それじゃあまた、会いに来るよ。」

「うん。…おやすみ。」

奏夜から投げかけられた言葉に一瞬だけキョトンとすると、少年は微かに嬉しそうな微笑を浮かべ、

「おやすみなさい。」

そう言葉を返したのだった。

「うーん…。しっかし、やっぱり、あいつとは何処かで会ったような気がするんだけどなぁー…? …何処だったかな?」

翼を組んで首をひねっているキバットに視線を向け、奏夜も思考の中へと意識を持って行く。

(…キバットの言葉も気になるけど、今は目先の事を優先しよう…大型シャドウの出現…満月の夜は近い…丁度、向こうが関わっている事件も分かっている事だし。)

そこまで考えると、カレンダーへと視線を向ける。先月の大型シャドウ・ファンガイアタイプの出現した日をメモッておいたそれへと視線を向け、

(…そろそろ、本格的に先輩達にも対策を練ってもらおうかな? 流石に、三度目なら、先輩達も偶然とは思わないだろうしね。)

大型シャドウ出現が満月の日に集中している事に気が付いている奏夜が買った月齢が書かれているカレンダーに書いてある月齢…次の満月の日を一瞥しながら、奏夜はそう呟くのだった。


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