ペルソナ Blood-Soul   作:龍牙

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第十夜

現在、寮を出た奏夜達三人(二年生トリオ)は駅前で美鶴の到着を待っていた。曰く、外でのバックアップには準備が必要と言う事で、三人は先行して駅前で待機と言う事になっていたのだ。

「……まだかな?」

「すぐ来んだろ。」

「…………。」

ゆかりと順平の二人がそんな言葉を洩らし、奏夜は空に浮かぶ満月を眺めていた。三者三様の様子を見せる三人。

だが、順平の言葉通り美鶴はすぐに来るだろう。万が一彼女が遅れて影時間が開けてしまったら、現実に矛盾が出来あがってしまう。それを防ぐ為には影時間の終了前にシャドウを倒す必要が有る。

だが、事態は切迫しているのだ、影時間は一時間だけ、故にタイムリミットは僅か一時間だけなのだ。

「紅君? あっ、今夜は満月か……影時間で見ると不気味ね。」

「…そうかな? ぼくは綺麗だと思うけどね。」

「そうなんだ? …私はちょっと、ダメかな。」

魔性が増した月を美しいと思ってしまうのは、自身の中に流れる『闇の一族(ファンガイア)』の血故とも考えて、自嘲気味に笑ってしまう。

空にはキバの力によって作りかえられる夜や現実の夜とは違う、碧色の光を放つ満月の月が浮かんでいた。

(…満月…彼の言った言葉は本当の事だったのか?)

空に浮かぶ満月を眺めながら改めてそんな考えを浮かべる。満月…月齢が大型シャドウの出現する目安となるのなら、それはそれで対処がし易い事この上ない。十分に準備が整ってから迎え撃てるのならば、強敵であっても打ち勝てる可能性の芽を得る事が出来る。

(…この先、今のぼくで対処できない相手が出て来ないなんて言い切れないからね。影時間じゃ、次狼さん達の力を借りる事も出来ないからな。)

過去の戦い…転校前に街中に出現したシャドウを相手にキバの力を訓練してきたが、何故か何度やっても、『ガルルフエッスル』を始めとするアームズモンスターを召喚する為のフエッスルを使っても、効果が現れないのだ。

故に影時間の中に置いてキバの力で頼れるのは『キバフォーム』のみなのだ。そのキバフォームの力にしてもみても自分が『100%使いこなしているか?』と問われれば『否』と答えるしかないのだ。

そんな事を考えていると此方へと近づいてくるエンジン音が聞こえてくる。

(エンジン音!? まさか、シルフィー姉さん!?)

「って、あれ?」

慌てて視線を向けて見れば、こちらに向かってくるのは美鶴が解析用の機材を積んでいる『白いバイク』だった。

(…オイオイ、マジかよ? あれって、『イクサリオン』じゃねぇか?)

奏夜のポケットの中から顔を出してそのバイクを見た瞬間、キバットが驚きも露にしてそう心の中で呟く。

だが、奏夜とキバットの驚きは質が違う物なのだ。奏夜が驚いたのは『影時間で機械が動いていると言う事』である。自分が知る限り、本来、影時間の中では全ての機械が『唯一の例外』を除いて動きを止めるのだ。

キバットはそれ以上に…『自分の良く知っているマシン』の存在に対して驚きを浮かべていたのだ。彼女の乗るマシン『イクサリオン』の事に…。

「遅れてすまない。」

バイクを停めヘルメットを外した美鶴が奏夜達にそう告げた。

「バ・・バイク。」

「すげぇ…。」

「要点だけ言うぞ。」

ゆかりと順平が驚きの声を黙殺しつつ、美鶴は作戦内容を説明する。

「今日は情報のバックアップをここから行う。君等の勝手はこれまで通りだ。シャドウの位置は駅から少し行った辺りに有る列車の内部。そこまでは線路上を歩く事になる。」

「線路を歩くって……それ、危険なんじゃ…。」

美鶴の説明に順平が疑問を告げるが、

「…影時間は機械は動きを止める…ですよね?」

今まで黙っていた奏夜が口を開きそう言葉を続けた。

「気付いていたのか。その通りだ、影時間には機械は止まる。むろん列車もだ。動くはずは無い!!」

「…や、でも、そのバイク……。」

そう先ほどまで立派に動いていた機械(バイク)を見せられていたのだ、動くはずも無いと自信を持って言われても信じられる訳が無いのだ。

その順平の疑問に美鶴は『フフ』と笑い、バイクの車体を軽く叩き、

「このバイク、『イクサリオン』は『特別製』だ。」

少し誇らしげに言って見せる。その説明で(何処がどう特別なのか等、解らない点も有るが)順平は納得する。なにしろ、解析用の機材を積んでいるのだから、動かなければ何の意味もない。

(イクサリオン…って。父さんから聞いた『イクサ』の…。)

(オイオイ…マジでイクサリオンだったのかよ。)

奏夜とキバットはそんな事を考えていたのは彼等しか知らない事である。

「状況に変化が有ったら、私が逐一伝える。それでは、現場の指揮を頼んだぞ!」

「はい。」

美鶴の激励の言葉に落ち着いた口調で答える。だが、心の中で奏夜は『どうやって、キバに変身するべきか?』等と考えているのだが…。

(正直言うと。)

奏夜の方へと視線を向けながら、順平は思う。

(先輩がコイツをリーダーにしたのも分かる。……コイツからは“特別な何か”を感じる!! オレみたいな凡人とは違うってか? ちくしょ…。)

奏夜は確かに特別であろう…『キバ』と言う名の力を父より受け継いでいる事、複数のペルソナを操ると言う力…だが、順平は気付いていないそんな表面的な物ではない、本当の意味で特別な何かは別に有るのだ。

その時、彼女の無線が鳴る。美鶴はそれに応答すると、

「よし。では、作戦開始だ!」

美鶴の号令の元に奏夜達は動き出した。

三人が線路に上がって直ぐに美鶴からの通信で伝えられてきたのは目的の位置だった。シャドウの居る列車は前方約200メートルに停車しているモノレールの中。時間が時間なので、有る程度の人数は限られるだろうが乗客に被害が出る前に対処しなければ拙い。モタモタしている時間は無い。

やがて、モノレールが見えてくると彼等は立ち止まり、

「これ……だよね?」

「そう…だよね?」

奏夜は疑問系でゆかりの言葉に同意を示す。走行中に影時間に入った為なのだろうが、線路上に停車している列車と言う光景は珍しい事この上ない。

『三人とも聞こえるか?』

通信機を通して美鶴の声が三人の耳に届く。

「はい、大丈夫です。」

「でも、今着いたんですけど、パッと見じゃ特に…。」

『敵の反応は間違い無く、その列車からだ。三人とも離れ過ぎない様注意して進入してくれ。』

『了解』と答える。だが、『一応は走行中の列車にどうやって進入するか?』と考えながらモノレールへと近づく。

運良く扉は開いていたが、ここはホームでは無いので列車に付いている梯子を上る必要があるようだった。

(あれ?)

先ほどまでの考え…今停車しているのは影時間に入った為に停車しているに過ぎず、今は『走行中』なのだ。と言う考えからの違和感が奏夜の頭を過り、彼の本能が『危険』を告げる。

「へへっ、腕が鳴るぜっ!!! つーか、ペルソナが鳴るぜッ!!!」

順平の能天気な声であと少しで形を作り出しそうな疑問と、今まで頭の中でなっていた警鐘が掻き消されてしまった。

既にゆかりが梯子を上っているのを見て、近づこうとした時、その視界の中に揺れるスカートの裾が見えた瞬間、慌てて顔を横へと向ける。

その瞬間、彼女は片手でスカートの裾を押さえ、奏夜と順平を睨みつける様に見ると

「ノゾかないでよ……。」

先に気が付いて既に目を逸らしていた奏夜は兎も角、思いっきり睨み付けられた順平は慌てて横を向くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

順平が列車の中に入り、最後に殿として奏夜が中へと入る。列車の内部には当然ながら乗客が象徴化していた。深夜と言う時間帯が幸いとして、数は少ないが、車両の内部に棺が存在している光景とは…なんとも言えない不気味さと、ホラー映画のワンシーンを連想させる。

「これ、人間……つか、乗客だよね?」

「象徴化って奴なんだろうけど…まあ、これはこれで幸いって奴かな?」

周囲の光景を眺めながら呟かれた、ゆかりの言葉に奏夜が答える。象徴化している人間はシャドウに教われる事は無い。つまりは一応は安全と言う事だろう。

「“象徴化”って奴か、マジ気味ワリィ。」

棺に近づきながら順平が呟く。そして、ポケットの中からキバットが飛び出し、奏夜の肩へと止まる。

(おい、奏夜。)

(どうしたの、キバット?)

(いや、さっきから気になっていたんだけどよ。)

耳元で小声で続けられるキバットの言葉に耳を傾ける。キバットの疑問も先ほど奏夜と同じ違和感を感じていたのだろう…。キバットのその言葉に奏夜の顔が青褪める。先ほどの違和感の正体と本能が鳴らしていた警鐘が意味する『危険』の正体に気がついたのだ。

「あれ、ちょっと待って…。」

そんな時、ゆかりも口を開く。

「なんで駅でも無いのにドアが開いていたんだ!?」

「こんな駅でも無いとこに止まっているのにドア全開っておかしい!」

同時に言葉が告げられると同時に列車のドアが一斉に閉まろうとする。慌てて順平がドアに駆け寄るが無情にもドアは閉まってしまう。

「気が付いてた?」

「…ちょっと遅かったけどね。」

悔しそうに奏夜とゆかりの二人はそんな会話を交わす。

(やれやれ、罠だったって訳かよ。気を付けろよ、奏夜…そろそろあちらさんも次の手を打ってくるぜ。)

(分かってる。気を引き締めたほうが良い…。それに、ここが最後尾なのは、まだ運が良かったかもしれない…後から襲われる危険もないしね。)

キバットはそう言って奏夜のポケットの中に再び隠れていく。そして、奏夜は武器で有る剣を構えて周囲の様子を覗う。

「くそっ、開かねぇ! ちっくしょヤラレた、つか指すげーイテェし! 見てほら! ここんトコ、指先ヘコんでんだろ!?」

そう言って右手を見せてくる順平に思いっきり緊張感をそがれてしまう。

『どうした、なにが有った!?』

次に響いてきたのは美鶴からの通信。

「オレっちの指さ「それが…閉じ込められたみたいで。」」

能天気な事を喚いている順平を平手で殴り飛ばして、ゆかりが説明をする。

「岳羽さんの言う通りです。列車の中に閉じ込められました、位置は列車の最後尾です。」

奏夜はゆかりの説明に詳しい状況を付け加えて説明する。

『シャドウの仕業だな。確実に君等に気付いていると言う事だ。何が来るかわからない、より一層注意してくれ!』

「「はい。」」

美鶴の言葉に奏夜とゆかりの返事が重なる。そして、横目で列車のドアを見る。

(キバに変身できれば脱出も簡単だけど…飽く迄、それは非常手段だな。こんな所でドアが開いてたら影時間終わった後で危険だろうし。ん?)

前方から何かの気配を感じ、前方へと視線を向ける。

「いる。」

奏夜が前方へと視線を向けると車両を隔てるドアが開き、テーブルにシャドウを意味する仮面が付き、ナイフ、グラス、皿、お玉の様な物が舞うと言う奇怪な姿のシャドウが姿を見せて直に奥に戻っていく。明らかに此方を挑発している。

「待ちやがれ!」

『待て! 敵の行動が妙だ、イヤな予感がする。』

その挑発に乗った順平が追いかけようとするが、それを美鶴が止める。その言葉にしたがって順平は足を止めていた。

「追っかけないと逃がしちまうっスよッ!?」

だが、彼が足を止めたのは、飽く迄『待て』と言われたからであって、状況を理解している訳でもなければ、冷静になった訳でも無い様だ。思わず、彼が自分の望むリーダーになって『オレに続け』と言いながら無謀にもシャドウに突っ込んでいき、見事に全滅すると言う未来を幻視してしまう。

(リーダーになりたいなら、状況を理解する事を覚えようよ…。)

既に彼に対して怒りを通りすぎて悲しみさえ浮かんでしまう奏夜であった。

『現場の指揮は紅、君だ。この状況…どう思う?』

「…間違いなく罠ですね。慎重に先に進むべきです。」

『私も同意見だ。うかつに追うべきじゃないな。』

そう言った後後ろにいるゆかりに視線を向ける。彼女も奏夜の言葉に納得したのだろう、頷く事で返す。

だが、それに納得できない者がこの場にはただ一人存在していた。

「………んでだよ……。」

順平である。

「なんでだよ!? あんなのオレらで倒せんじゃん!!! イチイチ、お前の意見なんかいらねェよ!!」

「はぁ…。」

この後に及んでまだそんな事を言っている順平に対して、頭を抱えながら深々と溜息をついた。

(…頭痛い…。)

そんな順平の言葉に頭痛さえ覚えてしまう。

「てか、オレ一人でだってやれるっつーの!!!」

「あっ!!!」

そう叫んで順平は一人で勝手にシャドウを追いかけて列車の中を進んで行ってしまう。

「コラ、順平ッ!?」

ゆかりが慌てて声をかけるが、順平はそれにも答えずに、一人で先に行ってしまったのだ。ゆかりは順平を追いかけようとしたが、

『危ない、後だ!!!』

「岳羽さん!」

「!?」

美鶴と奏夜の声が同時に響く。此方の戦力が分散された所で、シャドウが強襲を仕掛けて来たのだ。それに気が付いたゆかりが後を振り向くが、既に回避できるタイミングではない。だが、

「ペルソナ…。」

シャドウ達は一つだけ大きなミスを犯していたのだ。戦力を分散させたのは正しかっただろう…分散した所を襲撃したのも間違っていない…だが、

「ガルル!!!」

咆哮と共に奏夜の内より出でた蒼き人狼、ウルフェン族最強の戦士『ガルル』の姿を模したペルソナがゆかりを強襲したシャドウを薙ぎ払う。

そう、ここに居るのは最強の戦力…『紅 奏夜』なのだ。

「…すごい。」

更に呼び出した新しい蒼い人狼のペルソナに驚きを隠せないゆかりは思わずそう呟いてしまう。

「怪我はない? 立てる?」

「う、うん。」

「だったら、援護お願い…まだ生きてるし…新手だ!」

先ほど薙ぎ払った…テーブルの様な姿に『魔術師(マジシャン)』のアルカナを意味する仮面を付けたシャドウ『泣くテーブル』が立ちあがり、更に真上からニ体の同型のシャドウが合流する。

『気を付けろ、紅…そいつ等は…。』

「分かってます…『番人』級でしょう?」

「うそでしょ!?」

美鶴の通信と奏夜の言葉に思わずゆかりがそんな叫び声を上げる。無理も無い、前回のバスタードライブ戦での苦戦も記憶に新しい番人級のシャドウ、この先で強力な大型シャドウが待っていると言うのに目の前には強力な番人級が三体も存在しているのだ。この連戦ははっきり言ってきつい。

『キバに変身しないと不利かな、これは?』等と考えながら、片手に剣を、片手に召喚器を構える。

「番人級が相手となると…ぼく達としても後の事を考えながらって訳には行かない…全力で仕留めさせてもらう。」

額に付きつけた召喚器のトリガーを引く。

「重力魔法(マハグライ)!!!」

奏夜の中より撃ち出されたペルソナより放たれる暴力的な重力が先制攻撃でシャドウ達に叩きつけられる。


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