和を嫌い正義を為す   作:TouA(とーあ)

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早くてもう、伍話目。

八幡の異能を少しずつ明かしていきます。

乱歩の口調難しいな。感想待ってます。


探偵

『精神的に向上心のない奴は馬鹿だ』

 

 

 漱石が八幡によく云っていた言葉だ。八幡にとって此の言葉は骨の髄まで染み付いているし、耳に蛸が出来るくらい聞いている。だから何の行動を起こせば正解へと繋がるのかを自ずと理解していた。

 

 観客は出口に意識を向けているので、混乱に乗じて関係者入口にいる警備員に“異能”をかける。警備員は八幡をスタッフ扱いし、八幡はスタッフルームへと入った。 『誰?』の様な雰囲気が流れる前に、記憶上、八幡を後輩と思っている先輩と江上以外のスタッフ全員に触れ、異能力を掛けていった。

 

 

 

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 「比企谷君。状況は把握しているかしら?」

 

 「えぇ。江上さん、報告したい事が……客が一人逃げました」

 

 「何ですって!?」

 

 

 客が混乱している最中(さなか)、犯人は次の段取りに変転(シフト)している筈だ。潰す為に八幡は自分が持ち得る最大の情報のカードを切りスタッフを動かす。そして、“銀狼”を味方に付ける。

 

 

 「私が福沢さんに報告に行きます。客もそろそろ落ち着いてくる頃でしょうから」

 

 「そうね…。あの人の目を見て(たお)れない女性は居ないでしょうから」

 

 

 福沢に組伏せられている男性を見て、女性の中にある抜け出そうと云う気持ちは消えるだろう。人間は混乱していても自分より混乱している者を見れば落ち着くものだ。

 江上に消えた客の搜索と市警の連絡を頼み、八幡は福沢の元へ駆け足でむかう。福沢は福沢で何かを探している様子だった。

 

 

 「比企谷君か。乱歩は…私と一緒に居た少年は見なかっただろうか?」

 

 「…残念ながら力に成れそうにありません」

 

 「そうか…其れで何か動きがあったのか?」

 

 「…『村上』さんが亡くなったようです」

 

 「惜しい人を亡くした。村上殿の演技は私の心の中に残っている。後悔が後を絶たん…。」

 

 

 八幡はスタッフに()()()()()の情報を福沢に伝えた。之は戯言の可能性が高く真偽は定かではなく八幡は半信半疑だった。裏社会に置いて雑な情報ほど危険な物は無いと知っているからだ。

 

 

 「之が本題なんですが…客が一人逃げました。勿論、全てを封鎖した上で…です」

 

 「…其の者の人相と座席は?」

 

 「紳士風の中年男性、足が悪いのか木製のステッキを持っていたとか…。上演開始には居たという確認は取れていますが、後半は…。判らないようです」

 

 

 福沢は心当たりがあった様で顔を(しか)めた。八幡は漱石の隣に居たので判っていた事ではあったが…。悩む福沢に八幡は案を持ち掛けた。

 

 

 「私が関係者の部屋も含めて乱歩さんを探しましょう。福沢さんは市警と連絡を取って犯人確保に尽力して貰えませんか?」

 

 「…相判った。乱歩を頼む、比企谷君」

 

 「福沢さんもお気を付けて」

 

 

 福沢への心配は間違いなく杞憂に終わるだろうが云わずにはいられなかった。福沢と別れた八幡はスタッフルームを含め劇団員の部屋や道具置き場を物色していく。物色しながら八幡は八幡なりに推理を進めて行った。

 

 

 八幡と犯人以外、若しくは…乱歩以外、犯人は消えた客、つまり“夏目漱石”だと思っている筈だ。其れが犯人の権謀術数だ。漱石が犯人で無いと知っている八幡だからこそ到達できる推理であり、犯人にとっての大誤算でもある。

 

 八幡は最後に劇場の搬入口へと来た。此の搬入口は『村上』が救急車で運ばれたと()()()()()()()場所だった。即ち、最もきな臭い場所である。

 其の搬入口の塵芥(ゴミ)箱が何故か八幡は気になった。要するに勘である。探ってみると上に一般塵芥(ゴミ)が有り、全て取り除くと『肌色のゴム製の何かの膜』が大量に出てきた。

 

 

 「真逆(まさか)、僕より先に見つける人が居るなんてねぇ……」

 

 

 振り向くと、警察学校の制服に身を包んだ“江戸川乱歩”がいた。先に会った時と違う点は古ぼけた“眼鏡”を掛けていることだ。

 

 

 「…偶然ですよ。其れで乱歩さんは何故此処に?」

 

 「偶然ねぇ。ま、いっか。君と同じだよ。犯人探し」

 

 「…私が犯人だと?」

 

 「君が犯人な訳がない。何故なら其の『シリコンゴム製の詰め巻き』を今、回収しているからだ。共犯の可能性も僕達と関わっている時点で有り得ない」

 

 

 迷いなく、堂々と真相を()てる。乱歩の目は全てを見透かし、非人道的な様に見えた。八幡の背中に一筋の汗が垂れる。事件の真相は見抜かれてもいい。然し、()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 「貴方は何者だ?」

 

 「僕かい?僕は“異能者”だ。(いず)れ、此の業界では知らない者はいない“世界一の名探偵”になる男だ。憶えておくと善い」

 

 

 八幡は判ってしまった。前半の劇の最後の慟哭は此の乱歩だったのだと。そして福沢が出した結論は未熟な乱歩の非凡の才を“異能”だと置き換える事だったのだと。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 「今度は此方が聞く番だよ。君は何者だい?」

 

 

 嘘は見抜かれると八幡は直感していた。故に偽りの無い自分の本心を曝け出した。

 

 

 「一介のスタッフですよ。そして貴方の一番最初の愛好家(ファン)だ」

 

 「愛好家(ファン)…。そうか、そうか!!君は僕の愛好家(ファン)第一号なんだね!君は本当に運がいいよ!何せ今から僕の前人未到、空前絶後の奇跡の(わざ)を目撃する事が出来るのだからね!」

 

 

 此所まで上手く運ぶと八幡は逆に不安になったが如何(どう)やら自分に対する疑心は消えた様で安心した。消えたと云うより消したの方が正しいのだが…。

 

 

 「このゴムは此の事件の決定的証拠(ハードエヴィデンス)だ!協力、感謝するよ愛好家(ファン)一号君!!僕は今から準備があるから君は劇場に戻るといいよ!!後は()使()()()()()()()()()()()()!!」

 

 

 八幡の背中をバンバンと何度も叩き、颯爽と何処かへ乱歩は消えて行ってしまった。台風の様な行動力と発言に八幡は暫く呆然としていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、事件の点と点が結びつき始め歯車が回り始めた。

 

 

 

 

 

 

 


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