八幡の異能を少しずつ明かしていきます。
乱歩の口調難しいな。感想待ってます。
『精神的に向上心のない奴は馬鹿だ』
漱石が八幡によく云っていた言葉だ。八幡にとって此の言葉は骨の髄まで染み付いているし、耳に蛸が出来るくらい聞いている。だから何の行動を起こせば正解へと繋がるのかを自ずと理解していた。
観客は出口に意識を向けているので、混乱に乗じて関係者入口にいる警備員に“異能”をかける。警備員は八幡をスタッフ扱いし、八幡はスタッフルームへと入った。 『誰?』の様な雰囲気が流れる前に、記憶上、八幡を後輩と思っている先輩と江上以外のスタッフ全員に触れ、異能力を掛けていった。
「比企谷君。状況は把握しているかしら?」
「えぇ。江上さん、報告したい事が……客が一人逃げました」
「何ですって!?」
客が混乱している
「私が福沢さんに報告に行きます。客もそろそろ落ち着いてくる頃でしょうから」
「そうね…。あの人の目を見て
福沢に組伏せられている男性を見て、女性の中にある抜け出そうと云う気持ちは消えるだろう。人間は混乱していても自分より混乱している者を見れば落ち着くものだ。
江上に消えた客の搜索と市警の連絡を頼み、八幡は福沢の元へ駆け足でむかう。福沢は福沢で何かを探している様子だった。
「比企谷君か。乱歩は…私と一緒に居た少年は見なかっただろうか?」
「…残念ながら力に成れそうにありません」
「そうか…其れで何か動きがあったのか?」
「…『村上』さんが亡くなったようです」
「惜しい人を亡くした。村上殿の演技は私の心の中に残っている。後悔が後を絶たん…。」
八幡はスタッフに
「之が本題なんですが…客が一人逃げました。勿論、全てを封鎖した上で…です」
「…其の者の人相と座席は?」
「紳士風の中年男性、足が悪いのか木製のステッキを持っていたとか…。上演開始には居たという確認は取れていますが、後半は…。判らないようです」
福沢は心当たりがあった様で顔を
「私が関係者の部屋も含めて乱歩さんを探しましょう。福沢さんは市警と連絡を取って犯人確保に尽力して貰えませんか?」
「…相判った。乱歩を頼む、比企谷君」
「福沢さんもお気を付けて」
福沢への心配は間違いなく杞憂に終わるだろうが云わずにはいられなかった。福沢と別れた八幡はスタッフルームを含め劇団員の部屋や道具置き場を物色していく。物色しながら八幡は八幡なりに推理を進めて行った。
八幡と犯人以外、若しくは…乱歩以外、犯人は消えた客、つまり“夏目漱石”だと思っている筈だ。其れが犯人の権謀術数だ。漱石が犯人で無いと知っている八幡だからこそ到達できる推理であり、犯人にとっての大誤算でもある。
八幡は最後に劇場の搬入口へと来た。此の搬入口は『村上』が救急車で運ばれたと
其の搬入口の
「
振り向くと、警察学校の制服に身を包んだ“江戸川乱歩”がいた。先に会った時と違う点は古ぼけた“眼鏡”を掛けていることだ。
「…偶然ですよ。其れで乱歩さんは何故此処に?」
「偶然ねぇ。ま、いっか。君と同じだよ。犯人探し」
「…私が犯人だと?」
「君が犯人な訳がない。何故なら其の『シリコンゴム製の詰め巻き』を今、回収しているからだ。共犯の可能性も僕達と関わっている時点で有り得ない」
迷いなく、堂々と真相を
「貴方は何者だ?」
「僕かい?僕は“異能者”だ。
八幡は判ってしまった。前半の劇の最後の慟哭は此の乱歩だったのだと。そして福沢が出した結論は未熟な乱歩の非凡の才を“異能”だと置き換える事だったのだと。
「今度は此方が聞く番だよ。君は何者だい?」
嘘は見抜かれると八幡は直感していた。故に偽りの無い自分の本心を曝け出した。
「一介のスタッフですよ。そして貴方の一番最初の
「
此所まで上手く運ぶと八幡は逆に不安になったが
「このゴムは此の事件の
八幡の背中をバンバンと何度も叩き、颯爽と何処かへ乱歩は消えて行ってしまった。台風の様な行動力と発言に八幡は暫く呆然としていた。
そして、事件の点と点が結びつき始め歯車が回り始めた。