本篇も是を入れて残すところ後二話。
※前々回の話を投稿し終えたあと、前回の話の最後を変えました。そちらをお読み頂いて、この話を読んでくださると幸いです!すみません!
では楽しんで下さい!
最後までお付き合い、よろしくお願いします!!
「ハッハッハッ!僕に掛かればあんな謎、一瞬だよ!」
「はい!流石は乱歩さんです!」
「然し…
晩香堂。
既に陽は沈み、無数の星々と下弦だけが宙に浮いている。
其処には乱歩、国木田、太宰が集っていた。
乱歩は駄菓子を貪り、国木田は乱歩の発言に高揚しつつ相槌を打ち、感嘆の声を漏らす太宰はぺらぺらと積み上げられた書類を
「国木田、作戦通りに各所に通達」
「
「太宰」
「はい」
「此処からが正念場だ。谷崎と“Q”が来次第、直ぐに取り掛かる」
「判っています」
国木田が駆けて行き、乱歩と太宰の声だけが室内を木霊する。
乱歩が手に入れた“
「……乱歩さん」
「な、何だよ太宰」
「そんなに
「ぼ、僕が八の事を心配してるとでも云うのかっ!」
「其処まで云ってませんが……」
先程から何処か落ち着かない雰囲気の乱歩に、太宰は
多種多様な菓子を何時も食べている乱歩だが、今は普段と食す速度がかなり速いのだ。太宰でなくとも察する事は十分に出来る。
「谷崎戻りました!」
「
「「はい!」」
深夜《
「やァ
「…」
向かい合うは
フィッツジェラルドは敵愾心剥き出しの敦の眼光を流し、手に持つワイングラスをスワリングし、口に運ぶ。舌で転がし、風味を楽しみ、喉に通す。
「睨むのは止めて欲しいところだが」
「………僕を使って何をする
「私の家族を救う。其れだけだよ」
「結論を訊いているンじゃない!手段を訊いているンだ!」
「ふむ…そうだな、そろそろ話しても良い頃合いか」
敦がフィッツジェラルドに
顔を合わす度に敦はフィッツジェラルドに噛み付いていた。
観念したのか、若しくは計画の為か、フィッツジェラルドは立てられている計画を口にする。
「我々は或る『本』を探している」
「『本』……?」
「世界に一冊のみ存在する本だ。どんな炎や異能でも傷付かないとされている。其の本が此の横浜の地に封印されていると、或る予言異能者が予知した」
「其の『本』と僕に何の関係が……」
「君が文字通り“
「な、に……」
「既に其の作戦は動き始めている。横浜の街を灰と化せる異能を持つ
「ポートマフィア!?何でポートマフィアと
敦が声を荒らげる。
マフィアと
「とは云え個人的に、だがね。マフィアの幹部である『羊』と組んだだけだ。
「────ッ!」
「所詮、此の世は“金”と云う“力”で動くのだよ。“金”で
「違う…!」
「何がだね?“自由”とは“金”で
フィッツジェラルドの云う『羊』とは、ポートマフィアの幹部である『中原中也』の事だ。
無論、
世界の辻褄合わせ、
二人の会話が途切れた時を見計らってか、部屋の隅から機械越しに情報が伝わる。
『フィッツジェラルド様、客人が二名、到着致しました』
「御苦労。此処に来る迄にかなりの時間を要した様だな。其の二名の身元は情報通りか?」
『はい。“Q”と思われる少年は不気味な
「此処にお連れしろ」
『
プツンと通信が切れた音が室内に響き、静寂が支配する。
敦は此の状況を打開させようと思考を巡らせるが、良い答えが出ない。
コンコンッと此の部屋をノックする音がして、フィッツジェラルドだけで無く、敦も顔を向ける。
入り給へ、とフィッツジェラルドが云うとゆっくり扉が開いた。
(………あれ?)
敦の頭に疑問符が浮かんだ。
何故なら少年が持つ人形は、
少年かと思われる人物も背丈は通信通りなのだが、服こそ可愛らしく
(……鏡花、ちゃん?)
敦が其の答えに辿り着くのに時間はそう掛からなかった。
何せ、目の前の人物が持つ“兎の縫いぐるみ”は鏡花と出逢って間も無い頃、
入室した人物は一言も喋らない。煮え切らないのか、不機嫌そうにフィッツジェラルドが口を開いた。
「少年、君と同伴した『羊』は何処だ?」
「……」
「黙り、か。緊張でもしているのか?
嘘吐き、と敦は怒声を飛ばすのを堪える。
少年の正体が“鏡花”だと判った今、無闇に感情的になってはならないと流石に理解している。何かを悟る為に頭を回す事に集中する。
だがそんな思考を吹き飛ばす様に少年が声を漏らした。
「私はもう逃げない」
「……『私』だと?」
そう口にして少年
開放された敦の左手に、右手をそっと重ねる。驚いた敦が鏡花を見て、鏡花は敦を見上げている。
「其の太刀筋…思い出したよ。君はあの時の
「……」
沈黙は肯定。
フィッツジェラルドは計画が狂い出した事を認識する。だが余裕綽々の笑みを崩さない。絶対的強者の余裕がフィッツジェラルドにはあった。
「“Q”では無かったと云う事は同伴した人物も『羊』とは異なるか」
「然り」
扉を黒獣が喰い破り、黒衣の青年が現れる。
「芥川ッ!?」
「吼えるな人虎、耳に障る」
声を張り目を剥く敦とは違い、芥川は冷静其のものだ。
芥川の躰から滲み出る殺気をフィッツジェラルドは笑顔で受け流す。強者の余裕、
「鏡花、貴様の役儀を果たせ。此処は
「…ん」
「えっ!?」
鏡花は敦の手を力強く掴み、其のまま手を引いて駆け出した。
崩れ落ち積み重なった扉を飛び越え、壁塁の如く並んだ機械の通路をひた走る。
「見す見す、逃がす訳ないだろう…!」
「貴様の相手は
一条の黒鎌がフィッツジェラルドの首筋に掻き斬ろうと襲い掛かるが、躰を反る事で回避する。
フィッツジェラルドの目に芥川が映る。敦と鏡花は既に視界から消えていた。
敦は鏡花と芥川が繋がっている事に驚き、突然走り始めた鏡花に引っ張られ、何があって何をしているのか理解が及ばない。
為されるが儘に任せていた敦だったが、かなり離れた事を機に足に力を入れて鏡花の動きを止めた。
「きょっ鏡花ちゃん」
「何?」
「色々判ンないよ!説明してくれないと…!」
「説明する暇は無い。
話を切り上げ、再び駆け始める鏡花。
敦は困惑の表情を隠さない。だが何が正解か判らない現状で鏡花の行動に背く事は、選択肢として論外である事は理解していた。
「敦さんっ
「賢治くん!?」
二つの大きな
此の
八幡と谷崎の功績でタンデムローターを手に入れた探偵社は其れを使い
搭乗員には八幡と直接契約を結んでいた芥川、白兵戦で無類の強さを誇る賢治、万が一の『細雪』とタンデムローターを操縦出来る谷崎、Qと容姿が似ている鏡花が選ばれた。
「敦くんッ鏡花ちゃんッ!早く乗ってくれ!」
「うん……」
谷崎の切羽詰まった叫びが警鐘を鳴らす。鏡花は先に乗り込んだ。既に大型のタンデムローターは二枚の
敦は────何か引っ掛かりを憶えた。
敦は何かに気付けそうで気付けない。重大な事を見落としている。そんな感覚。
探偵社の必死な形相、
────
────俺の声は届いたと思う。だが芯には響いていなかった
────若しかしたら敦、御前なら…
「あの
敦は気付いた。想起した八幡の言葉と共に。
自分と同じ様な孤児で、
ルーシー・モード・モンゴメリ───彼女が居なかった。
交わした言葉こそ数少ない。
だが其れは
敦は孤独を知っている。独りを知っている。身が引き裂けるほどの苦痛と悲哀を知っている。
考えるよりも先に、四肢が爆ぜる様に動いた────敦は武装探偵社の一員だから。
「僕は
「────まッ待って…!」
閉まり始めるタンデムローターの乗口に声を飛ばし、敦は殺到する視線を背に受け、自分を呼び止める声を背後に押しやって、機械の通路を駆け抜ける。 振り返る事は無かった。
そんな後ろ姿を見る鏡花は『待って』の後の言葉が続かなかった。伸ばした手は空を切り、力無くして落ちる。
「ほいっと」
「え…っ……きゃっ!」
突然、躰が浮いたかと思うと、次の瞬間船内へ投げられた。
受け身を取り、振り向くと投げた張本人であろう賢治が親指を立てて檄を飛ばす。
「伝えたい事は伝えなきゃ!言葉にしないと判りません!牛さんだって人だって其れは同じです!!」
「…………うん!」
力強く顎を引いた鏡花は、もう見えない敦の背中を追って疾駆する。
何時だったか。
『生きたい』と切望する一人の少女を
今、此処で起きている事象はあの時の再演なのかも知れない。演じる
誰もが
「……ッ!」
「此の程度かな?
「『羅生門』!」
「其れ依り礼儀知らずが仕事相手は最悪だ。
殺到する黒獣を両掌で握り潰すフィッツジェラルド。
再び芥川は黒獣と黒刃を飛ばすが容易くいなされ、地に叩き付けられた。
フランシス・スコット・キー・フィッツジェラルド。
異能力『
消費した自身の財産の金額に比例して、身体能力を強化させる事が出来る。フィッツジェラルドは幾つもの企業を有する大富豪である為、強化に際限が無いように思えてしまう。
今、フィッツジェラルドが支払った額は十万ドル。異能力を使うと
「『羅生門・
芥川の黒外套から巨大な腕が発現する。其の漆黒の腕は手先は尖爪で、フィッツジェラルドを切り裂かんと肉薄する。
「
左脚を軸に旋回し、右足刀を肉薄する黒腕に叩き込む。
身体強化された蹴りは瞬時に黒腕を向かいの壁まで吹き飛ばし、壁に打ち付ける。
すかさずフィッツジェラルドは芥川に肉薄し、強化された拳を腹に振り上げた。
咄嗟の『空間断裂』で迎撃を防いだ芥川だったが、フィッツジェラルドの拳の風圧と衝撃に、黒腕と同じ壁まで繰り返し跳ね、叩き付けられた。
「ガ……ッ!」
「其れは対等な者同士が行う作法だ。目上の人間に求める事は不遜極まりない」
見下すフィッツジェラルドと見上げる芥川。
奇しくもフィッツジェラルドの云う様に芥川が下だと位置付けられた。物理的に、ではあるが。
「
「………フッ」
思わず笑い声が漏れる。
訝しむ様に眉を顰めたフィッツジェラルドの視線が芥川を射抜く。
「
「貴様の云う狙撃手は既に捕縛されているぞ」
「…何だと?」
「奴は
「私は────」
壁に寄り掛かる芥川の胸倉を掴み、フィッツジェラルドは壁に叩き付ける。
標本の蟲の様に縫い付けられた芥川だが嘲笑の笑みは崩さない。胸倉を掴むフィッツジェラルドの手首を掴み返す。
「雇われた従者は貴様に
「……」
「無様だな成金背広。貴様が唯一神の如く信を置いていた“金貨”は天之暦数の“死”には抗えぬようだ。貴様の云う“自由”は
「────ッ!!」
芥川の胴体にフィッツジェラルドの強化された拳が突き刺さる。
又も
「そんなもの……」
「ガハ!ッ……が────ッ」
「私が一番知っている!」
憤怒と悲哀と哀切と自戒と────。
フィッツジェラルドは激情を顕にした。入り混じった複数の感情が顔を醜く歪めていた。
云われなくても、云われずとも…そんな言葉を吐きながらフィッツジェラルドは芥川に拳を奮った。己を痛め付ける様に放つ拳は芥川の異能障壁に放射線状に亀裂を走らせた。
「妻ゼルダは娘の死を受け止めきれず心を病み、今も尚、妄想の中に逃げ込んでいる」
「娘……」
「金で生死は
其れは、何時も金で物を云わせてきたフィッツジェラルドの新たな『覚悟』だった。
横浜を阿鼻叫喚の地獄へと化そうが、自らの資産を
─────風の切る音。
芥川の胸倉を掴むフィッツジェラルドの助骨に、白毛が生え揃う虎の左脚が突き刺さる。
「ガッ……!」
声にならぬ呻き声を上げたフィッツジェラルドは幾度と跳ねながら地を滑って行く。
フィッツジェラルドが顔を上げた先、芥川の前に悠然と佇む少年────中島敦は壁に背を預けている芥川を一瞥する事もなく、フィッツジェラルドに虎眼を向けた。
「借りは返したぞ芥川」
敦の云う“借り”は先程鏡花と共にフィッツジェラルドを含めた
芥川は敦の横顔に視線を飛ばしながら、怒気を滲ませた声を漏らす。
「何故戻って来た人虎…!」
「勘違いするな。僕は僕の為に戻って来ただけだ。御前を扶ける為じゃない」
「そうでは無い!貴様を此処から出奔させる事が危急の目途だと何故判らぬ!」
「
躰の
「ぅ、ラァッ!」
だが────。
敦は気合の声を漏らすと、肉薄するフィッツジェラルドの勢いに逆らわず、手首を取り、躰を斜めに引きながらフィッツジェラルドの肘を支え、其のまま躰を後方に引き、フィッツジェラルドを向かいの壁に叩き付けた。
「グッ────ハッ!」
幾ら身体強化されているとは云え、身体強化に依る加速された勢いに依る全体重が乗った衝撃はかなり
フィッツジェラルドは壁に叩き付けられた衝撃で肺から空気が吐き出された上に、五臓六腑が揺れ動き、胃酸が責め登った。奥歯を噛み締め、其れを呑み込む。
「貴方が…
「別に……理解は求めていない、がね」
国木田の足捌き、鏡花の殺気感知、八幡の御技。
敦がフィッツジェラルドに掛けた
そんな敦に、射殺す様な、憎悪に満ち満ちた眼差しを芥川が向ける。口から飛び出したのは罵倒だった。
「人虎!此の策に逆らう事は
「何で…!今は其れ処じゃないだろう!!」
「
「太宰、さん?
「太宰さんは!此の世の誰よりも敬慕する
「あの人って…
唖然とする敦と怒りに
敦も芥川も孤児だった。
太宰に拾われ、他者を護る事を選んだ敦。
太宰に去られ、殺戮者と成った芥川。
皮肉なもので、相反する二人を繋ぎ止めているのは太宰だ。
切なる想いを聞き、漸く敦は芥川の憎悪の
芥川の持つ苦悶が敦の胸を
そんな二人を、身を起こしたフィッツジェラルドが哄笑する。
「────面白い、君達は実に似た者同士だ」
「こんな奴と────」
「一緒に────」
「「するなッッ!!」」
フィッツジェラルドの言に激昂する敦と芥川。
彼が云う様に、二人は似た者同士なのだ。
敦は他者の為に血を吐いて闘えば、誰かが『生きる価値有り』と許可を呉れるのだ、と。
芥川は誰よりも強く在り続ける事、そして戦果を上げ続ける事で太宰から認めて欲しいのだ、と。
二人の抱えている孤独感と寂寥感、そして────他者からの承認を得たいと云う欲求は酷く似ている。
けれど同質のものでは無い。だからこそ二人は吼え猛るのだ。
「そうか────では、聞こう。
相容れない其の想いが、
「……貴方の“覚悟”が
「……其の様なもの、持ち合わせておらぬ。
「では、
「ハッ…ハッ……」
息を切らし、少女が疾走る。
少女が目指すは此の
『鏡花ちゃん、聞こえるね?』
「ん」
インカムを通して小さく返事をする鏡花。
相手は作戦の総指揮を取っている太宰だ。太宰は切羽詰まっている事を念頭に置くように、鏡花に云う。
『君達が乗っている
「…うん」
賢治に背中を押され、と云うより投げられ敦と合流した後。
鏡花は敦にある事を頼まれていた。
────赤毛の少女を扶けて欲しい
太宰からの報告で、此の船が横浜の市街へ墜落しようとしているのは知っていた。そして其れは、フィッツジェラルドの
つまり、裏の首謀者が居るのだと太宰はそう云った。其の首謀者に
芥川や探偵社の面々が此の船に乗り込んだ際、捕縛した中に
『鏡花ちゃん』
「……」
『君は君自身を信じる事が出来ないと思う。判るさ、君の才能は暗殺に長けている。人を救うより、余程ね。生き方の選択肢が光の当たる探偵社では間違っていると、だから探偵社員には成れないと、君はそう思っている」
「……ッ」
「だけどね、誰もが生き方の正解を知りたくて、誰もが闘って居るンだ。答えは誰も教えては呉れない、だから君は、君の事を信じなくて良い。でもね、敦君が信じる、君を信じる事は出来る筈だよ』
「─────!」
「じゃあまた、
ラヴクラフト、そう呼ばれる人外の者は『
軟体生物の様な形状に、不気味に蠢く触手、其れには吸盤も付いており、
先に戦闘した禍狗は、触手を幾ら切り、破壊したとしても瞬時に再生すると、そう云っていた。故に最初から“忘却”する
そして、奴の触手が躰に触れた時、八幡は悟った。
───奴の持つ触手の一つ一つが、一つの“神”である、と
何が其れを悟らせたのか判らない。
人外の力を持つ、若しかすると世界に干渉する二つの“異能”だからこそ、互いに互いが共鳴し、影響し合った結果なのかも知れない。
此の現象を有識者はこう呼ぶ事がある────特異点、と。
世界の契約に依り、生み出された化物が────。
世界から其の契約さえも忘却させる化物に────。
相反する二つの“何か”が、互いに交わる事で、世界に特異点が生まれ墜ちたと結論付けるのは至極正当では無いか?
其れが両方の“記憶”に流れ込むのは、世界に干渉し過ぎた故の弊害か、報奨か。
────あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッッ!!
然し、片やただの人間。
世界の
再度記す、奴の一つ一つの触手は、一つの“神”である。
つまり、“忘却”するには此の特異点を幾度と経験し、通過し、耐え切らなければならない。そして其の選択肢は───
責苦・苦痛・惨痛・憂悶・心労・懊悩・患苦・悶え・痛苦・悩乱・苦悩・苦患…懊悩煩悶とした絶叫が延々と木霊していた。
轟々とした声が途絶えた時、其れは何かが終わった事を意味していた。
「…………ァ」
明滅する視界の中で、名状し難い化物は既に消えていた。
世界から、記憶から、現世から、因果から、消えた、
感覚が揺り戻った時、八幡の全身は生温かいものが包んでいた。
其れは自身の血だ。目、鼻、耳、口…穴と云う穴から、血が流れ落ち、八幡の躰を
(か、い…じょ…しない、と……)
飛び掛ける意識を心で留める。明滅する視界を、破砕し掛ける脳を、沸騰した血流を、限界に痙攣する躰を、気を抜けば、ただの肉塊へと成り果ててしまいそうな己を。
手に入れた居場所を、護りたい仲間を、信じてくれた親友を、伝える事がある彼女の所に帰るのだと。
「駄目ですよ、貴方には
─────バンッ
飛び掛ける意識を、強引に引き戻したのは烈々な痛覚。
小さな衝撃の後に駆けるは内臓が裏返るような鈍痛。思わず支えていた手を、鈍痛疾走る助骨に当て、認識する───撃たれたのだ、と。
支えが無くなった躰が血の池に沈む。“忘却”の
「
「貴方の異能『本物』や今の貴方の
「簡単な事でした。貴方は其の衣服の繊維の“記憶”を弄っていますね?ですから、今の状態でも貴方の衣服は影響を受けていない。此の結論により、異能攻撃が貴方に最も有効であると確証を得ました」
「貴方を撃った此の銃、見覚えありますよね?」
「ラヴクラフト、彼と契約したのは私です。武装探偵社が箱根で
「ラヴクラフトには此の銃の回収だけを命じていました。其れさえ叶えば後は場を整えるだけですから。あァ、彼は私の事を“フィッツジェラルド”と誤解していた様ですね。まァそうさせたのは私ですが」
「貴方は今、人外の類であるラヴクラフトと邂逅し、世界の
「貴方の“罪”は世界を改変するかの如き、神さえ亡き者にさせる『異能』を発現させたこと。ですから、其の“罪”を貴方の手で贖いなさい。貴方自身が貴方に“罰”を下しなさい」
「────世界から“異能”を消し去るのです」
はい、ここまで。
まず謝罪です。3月中に終わらなくてすみませんでした!本当にすみませんでした。
四月には終わらせます。絶対に!ほんとに!
では毎度恒例謝辞。
『美沙』さん、高評価有難うございます!残り少ない、この小説でもてもとても励みになっています!有難うございます!
ではまた近日中に。
次回、本篇完結。乞うご期待!