息抜きに別の二次小説書いたりとかしましたが、それにしても時間がかかり過ぎました。
感想欄で応援、そして叱咤激励してくれた読者の皆さんへ感謝を。
お待たせしました。年内最後。お楽しみ下さい。
※3月6日に後半を大きく改変しました。
混乱させるかもしれませんが、お楽しみ下さい。
「フルハウス」
「もぅ〜〜!強過ぎるよ!」
地下の一室。とは云っても清掃が行き届いており、塵一つ無い。
其の中心では
「ねぇねぇ
「何だ“Q”」
「何時まで此処に居るの?」
「もう直ぐ迎えが来る。其迄の辛抱だ」
“
子供に対して物腰はとても柔らかいが
そんな様子に“Q”と呼ばれた子供は気付いた様子は無い。ただ勝負に負けた事を嘆き、変わらぬ現状に不満を漏らすだけだ。
「僕は早く“狂気”が見たいんだよ!」
「“狂気”?」
「そ!愛し合う恋人が醜怪に踊り、正義を掲げる人が正義の名のもとに罪無き人に強靭を振るう!そんな血と苦痛が入り混じる人の狂態が見たいんだ!」
「ほぅ」
人間が息をする、そんな生きる上でしなければならない行為であるかの様に、Qは人が狂う姿が見たいのだと嬉々として語った。
Aは其の話に感嘆の声を漏らす。中々に興味深い言葉の羅列であったからだ。
「私達が今している
「…?
「此の
「此の沢山の紙切れで?唯の遊びで?僕みたいな異能を使わなくても?」
首を傾けながらQはAに尋ねる。
Aは首肯し、口元に笑みを
「最初に私は君との勝負で負けたね?」
「うん、今になって
「其の通り。私が経営している店では
「ふーん」
「
「其れのどこが狂気と通じるのさ?」
「Q、そう答えを急かさないで
「むぅ…はぁい」
「続けよう。単純且つ簡潔、つまり君と同じ様に半刻もすれば
「へぇ〜!」
「故に一攫千金を目論み、此の
「え?えっとねぇ……『Aさんってば弱いんだ!もう一回しよ!』だったかな?」
「そう、君が云っていた様に私は君に態と負けた。すると君は味を占めた様に私に何度も何度も勝負を吹っ掛けてきた。私の勝数が多くなり、君が此の
「う、うん……」
「私と君との間にはチップ…要するに賭金は無かった訳だが君は徐々に此の
Aは耐え切れず哄笑する。
“欲”と云う
“
Qは目の前の男の
再度、
「A様、
「
「うん!」
Qは何処か冒涜的な風貌をした片足だけの人形を大事に抱え、何時もの背丈に合う
巨漢の男に続いて入室して来たのは
「Qを
「…Q」
「はーい!」
男は呟く様に声を発した。
Aの呼び掛けに快活に返事をしたQは其の男の隣に並ぼうと一歩踏み出した。Aは其の小さな背に声を掛けることも、悲痛に顔を歪める事もない。ただ顔に浮かべているのは欲望だけを煮詰めた様な
「Qは引き渡した。さァ“森鷗外”の首を
Aは
マフィアの
本来、敵である
「ハッ」
Aの目途の言に対しての男の返答は嘲笑。
僅かな瞬刻、Aは呆気に取られ凝然と目を丸くする。嘲笑されたのだと脳が理解に追い付いた時、憤怒へと表情が変貌した。
膨れ上がった激情に身を任せ、Aは男に右の拳を振るう。
男は其の拳を避ける事なく、Aと同じく右手で正面から受け止めた。高く重い音が一室に響き渡る────が。
「がぁ…!あ゛ぁっ……!」
単純な握力。純粋な力。圧倒的な力量差。
Aは両膝を震わせ、苦痛の声を漏らし、其の場に崩れ落ちる。憤怒に染まっていた表情は苦悶と激痛に歪んでいる。余裕な笑みの一切は消え、其の顔が表しているのは恐怖のみだ。
「─────ッ!」
声に成らぬ気合の声を漏らし、
男は冷静に
「────ッッ!」
人間の構造上、“
巨漢の男は其の躰からして鍛えてあるのは明白だ。人体の弱点である鳩尾に貰ったとは云え、一撃で崩れるほど
飛び掛ける意識を足腰に力を入れる事で
「ガ────ッ!!」
無理矢理引き上げた後の視界は“黒”に埋め尽くされていた。
直後、鈍痛が鼻頭を襲い、刹那の内に全身へと広がる。視界の“黒”が男の革靴の
Aは男の握力で破砕されかけた右手を
「おっ御前達!構えろ!!」
Aの直属の部隊は五十人。此の一室に居るのは十人だ。一人は既に意識を刈り取られているので実質九人の部下に銃を構えるよう命令を飛ばしている。取り繕えていない声は震えている。
男は其の命令を意に介した様子も無く、後退るAに足を向ける。恐怖を刻む為か
「………
向けられる銃口を恐れた様子は無い。ただ男はそう呟いた。
無論、其の男の一言で銃を下げたAの部下は居ない。
「構わんッ!!撃てッ!!」
「はァ…忠告したからな」
引き金が引かれ、撃鉄が自動的に稼働し、何十もの弾丸が男に向かって射出される。火薬が炸裂し、
───────。
沈黙が一室を支配したのは刹那の間だけであった。
空が降ってきたような轟音が止むと、次に部屋を支配したのは阿鼻叫喚の嵐だった。
『あ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!』
部下達から血煙が噴出する。血液が濃霧の様に其の部屋ごと包み込み、地獄と化した。
云うまでも無いがAの部下は銃火器について訓練は受けている。即ち射線上に味方は居ない筈なのだ。
「────ぇ」
其の血の池の如し地獄絵図に加わらなかったのは、腰が抜けて地に手を付いていた“A”と男に意識を刈り取られた巨漢の男、そして背丈が大人の平均にまで達していないAの直属の部下でたった一人の少年だった。
Aは見ていた。何発かは眼前まで迫っていた
「……有り得ない、有り得ない有り得ないッ!私は生まれ
目も当てれない
「御前は王だ」
「………あ゛?」
「裸の、な」
「貴様ァァァァァァ!!」
Aに男が触れる。男を包む朱殷の光がAにも移り、やがて存在其のものを此の世の
死屍累々の一室に現存するのは足下を浸す程の血溜まりと生き残りの少年、意識を刈り取られている巨漢の男、そして血
「おっおい!」
男が踵を返し、此の一室から去ろうと扉に手を掛けた時、Aの部下である少年が声を震わせながら問うた。目尻には涙が浮かんである。
「こ、此の場所はマフィアの
もう此の少年の“記憶”にAは存在しない。其れは此の少年に限らず、だ。
“A”と云う存在の“記憶”があるのは此の世でたった一人、Aに対して“異能”を使った
男は少年に背を向けた儘、
「“
✕ ✕ ✕ ✕ ✕ ✕ ✕ ✕
豪華客船から出た時にはさざ波を立てる入江に、既に月影は其の姿を浸していた。
横浜の湾口をのぞむ雑踏は潮の音と宵闇の喧騒とぶつかり、弾け、月光は街の
「…終わったンですね、八幡さん」
「あァ」
瞳を揺らす谷崎は続きの言葉を発さない。谷崎の隣には俺と谷崎を交互に覗き込むQが首を傾げている。
「谷崎、後は頼む」
「はい」
谷崎とQの背中が小さくなっていく。其れを見送り、俺は月光が反射する横浜湾を眺める。
「………そう簡単に感傷に浸らせては呉れない、か」
濃密な“死”の気配。
闇夜に準じ、長身痩躯の男が虚無の瞳を覗かせ距離を詰めてくる。其の瞳には虚無と同じく
「フィッツジェラルド君との契約に、従い……眠い…面倒臭い、が……君を、捕らえ」
「欺瞞に溢れる“和”を嫌い 汝の誇大する“偽善”を滅ぼさん 故に“本物”を求め 正義を為す」
もう俺には
だが、
欺瞞では無い。
自己犠牲でも無い。
偽善だなんて云わせやしない。
俺は他者を救うと云う行為に酔っているンじゃ無い。
今迄はそうだった。自分の存在価値を、他者や世界に必要とされる事で見出し、満足感や安心感に浸っていた。
そんな仕組みを取っ払ってまで、俺を受け入れてくれた。何を云っているのかと、そんな事を気にしていたのかと、彼等は笑い、呆れ、そして────或る人は泣いてくれた。決して其の姿は見せては呉れなかったけれど。
其の強さを。
自身を強く魅せようとする其の勇壮さを。
此の気持ちが、理性では無い“感情”が、恐らく“答”で。
────小町、先生、紫苑、漸く踏み出せた。
墓前に添える言葉は、そんな使い古された陳腐な言葉になりそうだ。
だから俺は居場所を────“本物”を。
「契約を……………果たそう」
「終局、か……」
二度と失いたくないから────護ろう。
目の前にある今を─────。
そして何時か訪れる未来を────。
一応先に報告しておきます
この作品、この章で終わらせるつもりなんです。
この章で自分が書きたいことはきちんと盛り込むことが出来てますから。後は執筆時間と疲労次第です。
では皆さん、良いお年を!
迷ヰ犬怪奇譚を楽しみましょう。感想、評価お待ちしてます!!