和を嫌い正義を為す   作:TouA(とーあ)

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すみません、先週は大学祭の為、お休みさせて頂きました。

これからは一週間一回投稿をきちんと成し遂げるので、宜しくお願いします。

今回は過去を混ぜるのでここで時系列のおさらいを。

原作17年前
──八幡 齢9
──小町 齢7
→親から真実を告げられ、逃走。
→鷗外に助けられ、時任の家へ。

・原作15年前
──八幡 齢11
──小町 齢9
→時任の家に蟒蛇が来襲。
→夏目漱石に拾われる。


・原作13年前
 第一章『武装探偵社設立篇』
──八幡 齢13
──乱歩 齢13
──福沢 齢32 

です。ではどうぞ!!

※これは先週様の一話です。今週末には今週分を更新します



改竄

 

 低い天井に薄暗い地下室、其の部屋を一言で云うのならば異質だ。

 古代人形(アンティークドール)複製人形(レプリカドール)、球体関節人形。布と綿で出来た小ぶりな人形も有れば、今にも動き出しそうな精巧な等身大人形が其の部屋には置かれて在った。其の(すべ)てが目を閉じ、 ソファやショーケースやの枠組みに腰掛けている。僅かだが和人形も飾られてある。

 

 

「…」

 

 

 片手に持つ紙の文字列に視線を落としている男が一人。

 鳥打(ハンチング)帽に遮光眼鏡。死者の様に白い肌。革手袋を嵌めた手は火の入っていない細煙管(キセル)をくるくると弄んでいる。その男は焦りも哀しみも喜びも、他の凡百(あらゆる)表情も浮かべていない。ただ静かに其の紙を見詰めていた。

 

 カツン、と男の前の机に紅茶杯(ティーカップ)が置かれる。冷え切った室内では其の紅茶でさえも異物の様に感じる。

 男は紅茶を淹れてくれた女に礼も視線もやらずに少し啜った。そして一言。

 

 

「君はアレだな辻村君。紅茶を不味く淹れるのが上手いのか?」

 

「なっ!?淹れて貰って其の云い草は何ですか!!」

 

 

 男の名を“綾辻行人”。通称【殺人探偵】と云う。

 女の名を“辻村深月”。異能特務課の自称エージェントである。

 

 

「別に私は淹れて欲しいとは一言も発していないのだが……嗚呼(あぁ)成程。メイドとしての意識が芽生え始めたのか。良い事だ」

 

「私はメイドじゃありません!其・れ・に、インスタントなら誰が淹れても味は其処まで変わらないでしょう!?」

 

「以前、私の気まぐれで君に紅茶を淹れてあげたな?味は如何(どう)だった?」

 

「え?普通に美味しかったですが……ま、真逆」

 

「同じだ」

 

「………今度は美味しいと云わせてみせます」

 

「期待せずに待っておこう」

 

「ち、塵も積もれば山と成るって云いますし!」

 

「所詮、塵だ」

 

「〜〜〜〜〜ッ!!」

 

 

 悔し涙を瞳に溜めながら辻村は綾辻をキッと睨む。

 綾辻はと云うと何時もの事なので特に気にした様子は無く、寧ろ其の辻村の反応を見て、ほくそ笑んでいた。

 ムスッとしている辻村に綾辻は一息置いて何時もの冷たい声で問い掛けた。

 

 

「君から見て────」

 

「え?」

 

「君から見て“比企谷八幡”はどの様に写った?」

 

「あぁ探偵社の。えっと…一言で表すなら“摑めない人”です」

 

「続け給え」

 

「摑めないと云うより、判らない、が正しいかもしれません。私は()だ特務課としては若輩ですけど、其れなりの人は見てきました。でも彼処(あそこ)まで感情が見えない人は初めてです」

 

「………」

 

「あ、そう云えば私が持って来た其の紙も比企谷さんの経歴のものですよね」

 

「久々に話して、少し気になってね」

 

 

 綾辻が片手に持っている紙は辻村が異能特務課から持って来た“比企谷八幡”の経歴及び其の他諸々が書かれてある物だ。之は綾辻が辻村に頼んだ物だ。

 

 

「私も見ましたけど()()()()()()()()()()()()?両親と妹が()()()した以外、何も目立った項目が無い」

 

「君は本気でそう云っているのか?」

「本気…では無いですけど、其の経歴書は“事実”に基づいて書かれてあります。嘘偽りは無い筈です…まぁたった其れだけであんな目や異質な雰囲気を纏えるとは到底思えませんが」

 

「其れだよ辻村君。此の経歴書は“事実”に基づいて書かれている。だが“真実”では無い筈だ。辻褄こそ合ってはいるがね」

 

 

 綾辻の言葉に辻村はむぅと唸った。良く理解出来ていないからである。綾辻が云わんとしている事は()だ判るが、其れが何故、経歴詐称に結び付くのか理解出来なかったのだ。

 

 

「此処からは私の推理になる。然し他言無用だ。探偵は仮説を話してはならない、其れが矜持で探偵が探偵たる意義だからな」

 

「はい……」

 

「先ず比企谷君の家族が彼以外居ないのは恐らく正しい。詐称する程でも無いからな。とは云え此の事故死は真実では無いだろうし、私の“異能”で死亡した訳もない」

 

「そ、そうですね」

 

「では何故、改竄されたのか。其の改竄を“異能者”の管理を務める特務課が容認したのか。其処が一番の疑問点だが、察しは付く」

 

「え?」

 

「簡単だよ、比企谷君の過去を変える事で特務課に其れ以上の利益が齎された、其れだけだ。だとするのならば“異能者”である比企谷君の過去を改竄し、特務課の管理下に置くことなく野放しにしている状態を容認()()()()()此の状況を、比企谷君に深く関わる()()()()()()()()と云う結論に辿り着く」

 

「な、成程……」

 

 

 

「────夏目漱石」

 

 

 

「ぇ?せ、先生が何故其の御人の名前を?」

 

「個人的な付き合いがある。神出鬼没である故に会おうと思って会える訳でも無いが……比企谷君と出逢ったのも彼が引き合わせたからだ。何かしらの益が有ると思っての行動だろう」

 

「……夏目漱石と云う人物について私が知る所は、横浜を護る為の“三刻構想”を唱えた人であり、異能特務課が総動員して彼を捕縛しようとしても一向に捕まらない人であったと云う事と、彼の異能力は不明ですが一説によると『万物を見抜く能力』であると云う事です。他の素性は一切知りません」

 

「だろうな。もう十四年になるが、夏目殿は『比企谷君は時任が遺した最後の意志だ。儂は其れを見届ける義務がある』と私に語った。………今迄一向に姿を現さず、裏社会や政府に知らぬ者は居らず、異能者が全力を上げても捕縛出来ず、影から横浜を牛耳っていた人物が何故一人の少年に固執していたのかと思っていたが……今なら判る、夏目殿こそが比企谷君の過去の経歴を変える様、特務課に要請したのだと」

 

「……」

 

「特務課が其れに対する交換条件として提示したのが“万物を見抜く”最強の“異能”を持つ“夏目漱石”と云う人物を“管理下”に置くことだった……そして其れが成立し、比企谷君の過去が改竄された。“真実”を隠し、“事実”を造り上げた」

 

「で、ではっ!」

 

「待て、最初に云っただろう?之は仮説に過ぎないと。実際、比企谷君の過去は何一つ判ってはいないのだから」

 

 

 そう一言呟くと綾辻は“之で終い”と云わんばかりに黙した。

 辻村は理解はしたが納得は出来なかった。ふと、辻村は三社が会合した時に八幡がこう云っていた事を想い出した。

 

 

────冗談抜かすな。

 

────御前たち政府は(また)、自身の保身だけを考えてやがるのか。

 

────御前達は何時もそうだ。自分の身が危うくなれば保身の為に平気で味方を切り捨てる。其れがどれだけ政府の為に尽力した者であろうが、だ。次に切り捨てるのは横浜の街と住民の凡てか?

 

 

 今思えば“比企谷八幡”は政府に対して過剰に反応していた様に思える。政府が腐っている事は京極夏彦(先の事件)で痛感した。現実は想像以上に腐敗しているのだと知ったが、今になって彼が辻村に向けて来た想いは、言質を取るだけの、失言を引き出す為だけの、陽動だけでは無い様な気がした。

 

 

(安直だけど“比企谷八幡”の過去には政府が関わった“何か”が有るのかも知れない)

 

 

 辻村は“比企谷八幡”と云う存在を測れない。其れは目の前の綾辻も同等であるのだが。

 測れないからこそ第三者の目線で“比企谷八幡”と云う存在を見る事が出来た。其れは或る種の非凡の才である。

 

 

「………何だ京極」

 

 

 綾辻は忌々しげに部屋の隅を見た。

 だが辻村は綾辻が誰かと会話している様に見えるだけで、部屋の隅に視線を向けても誰も居ない。即ち、綾辻が独り言を話している様にしか見えないのである……だが見慣れた光景だ。

 

 

「ん?……煮干し?何を云っているんだ貴様は」

 

 

 綾辻は首を振り、視線を逸らした。

 辻村は綾辻が呟いた素っ頓狂な言葉に笑いを堪えるのに必死だった。

 

 

「ぷっ…綾辻先生、煮干しって何ですか?……ぷぷっ」

 

「京極が煮干しを買っておく事を勧める…と。辻村君、後で覚えておけ」

 

「ひっ!…其れはそうと何故煮干し何ですか?次の事件の犯人が“化猫”とでも?」

 

「化猫、ね。其の“物の怪”ほど世に浸透しつつも定義が大雑把なものも無いだろう。生態が謎だから、人間にだけ懐くから、仏道と共に渡って来たから、莫迦莫迦(バカバカ)しい………何だと?俺に逢いに来る?ハァ、死人は死人らしく口を噤んでおけ。貴様の妄言に付き合うほど暇では無い」

 

 

 冥府の最深部さえ震わせる様な声で呟き、誰よりも冷酷な目で部屋の隅を一瞥した。其の所為(せい)か再び部屋に冷たい空気が流れた。(いや)、その所為では無い。

 綾辻は目を見開き、片手に持っていた細煙管(キセル)を落とした。

 辻村は綾辻の視線を追った。綾辻が見ていたのは自分の足下だった。

 

 

 

───────にゃぁお……。

 

 

 

 愛らしい一匹の三毛猫が静かに厳然と佇んでいた。

 

 

 

 

 

 




皆さん大好き綾辻先生と辻村ちゃん。ちょっとだけ京極先生。
京極出して!と云う意見が多かったのでほんの少しだけ出しました。
今回の話は後々繋がりますのでお楽しみに!

【映画 Dead Apple】
PVを30回は見て、文スト好きの友人と語り合うのが最近の日課です。

澁澤龍彦先生『cv.中井和哉』さん。
もうね、この情報だけで死んだ。PVに織田作が出てて死んだ。

TouAがPVで気付いたこと、また予想。

・龍頭抗争の話が基軸(黒の時代より前)なので織田作が出た。織田作が預かってた孤児は龍頭抗争で親を亡くした子達。

・敦、鏡花、芥川が自分の異能と戦っていた

・外伝で中也が云っていた安吾に対しての『借り』が映画で判りそう。→中也が安吾の首を絞めていた為。

・鏡花ちゃんがお母さんと背中合わせの一枚絵が…(泣)
→異能(夜叉白雪)との戦闘だから?かも知れない。

・恐らく、太宰とドストエフスキーの初邂逅が龍頭抗争だったのでは?


皆さんの意見もお聞きしたいです!!語り合いましょうぞ!


感想や評価をお待ちしてます!また今週末に!

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