和を嫌い正義を為す   作:TouA(とーあ)

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お気に入り700超え有難うございます!日間ランキングにも久々に乗ることが出来ました!

今回は久し振りに読み応えのある一話になったかなぁと。最近は短かったですから。

言いたいことは後書きにて。

ではどうぞ!


約束

 

「久作君が居ない?」

 

「は、はい!座敷牢は既に(もぬけ)の殻でした。然し逃亡してからの時間は余り経っていないと考えられます!」

 

 

 ポートマフィア本部・最上階。

 森鷗外は部下の報告に目を丸くした。其の表情から読み取れる言葉は“驚愕”の一言に尽きた。だが少しだけ口が吊り上がっている事から此の状況を楽しんでいる事が判る。

 

 

「有難う、下がって良いよ」

 

「失礼しました!」

 

 

 部下が下がってから鷗外はクックックと哄笑した。

 気持ち悪い、と隣からエリスが云うが何時もの事であったので気にはならなかった。

 

 

「久作君を座敷牢から解放出来る程の力を持つのは幹部クラスだろうね。自ずと犯人は見えて来るが…まァ彼だろうね」

 

「リンタロウ、何でそんなに嬉しそうなの?裏切られたのに」

 

「裏切られたとは思ってないさ。計画が前(だお)しになっただけだからね」

 

「ふーん……変なの」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

横浜・瑞穂埠頭《敦・太宰》

 

 

「すぅ……ふぅ」

 

「ふわぁ……むにゃむにゃ」

 

 

 耳朶を抜ける潮風と沈み行く陽が僅かに街の(あかり)となり長閑(のどか)な夕暮の雰囲気を際立たせていた。

 其れは“戦争”と云う平穏無事とは程遠い言葉に似付かわしく無い程、静寂で異様な雰囲気を醸し出している。

 

 

「…ねぇ敦君」

 

「……あっは、はい!」

 

「そんなに緊張しないの。肩の力抜きなよ」

 

「そ、そうですね…」

 

(こりゃ駄目だ)

 

 

 後輩のぎこち無い行動と機械の様な表情の固さに口をへの字に曲げる太宰。

 敦は逆にどうして太宰がそんなに緊張しないのか不思議でならなかった。依頼内容からして敦からしてみれば驚天動地の事であったからだ。

 

 

 芥川と組合(ギルド)の衝突、其れ依り数刻前。

 探偵社宛に一通の依頼が入った。事務員を通じて依頼が届いたのである。何故事務員かと云うと晩香堂へ本拠を移しているのもあるが戦争時は危急の依頼以外取り次ぐ事は止めていたからだ。依頼内容は下記に記す。

 

 

 ➕ ➕ ➕ ➕ ➕ ➕

 

 

 謹啓

 

 僭越ながら、此の横浜湾港某所に大容量の殺傷爆弾を設置させて頂きました。

 猶、此の爆弾の刻限は明日の黎明であり、其の期限までの事件解決を強く所望する次第です。弊方にて製造させて頂きました此の爆弾は、さる事件にて百余名の尊き人命を奪った物と同じで御座います。

 太陽が落下したかの様な白光と消えぬ炎。居並ぶ建物は根刮ぎ崩れ、人々は焼けながら逃げ惑い、路面は融解し、吹き飛んだ車輌が建物に刺さって燃え盛り、誠に地獄の様相で御座いました。つきましては、市政の安全のため、此の爆弾を速やかに発見、 除去して頂きたく御依頼申し上げます。

 

 敬白 田口六蔵

 

 

 ➕ ➕ ➕ ➕ ➕ ➕

 

 

「太宰さん…依頼の最後に書いて在った“田口六蔵”って…」

 

「六蔵少年の事だろうね」

 

「で、でも六蔵君はあの事件で亡くなった筈じゃ……!」

 

「うん、六蔵少年は“蒼の使徒”事件で棄世したよ。御父上の(かたき)()って間違い無く…ね」

 

 

 蒼の使徒事件。

 悲哀に悲痛に満ち溢れた探偵社成立時から五本に入る程大きな事件の事である。

 其の事件は敦の記憶にも新しい。探偵社員としての仕事で初めてぶつかった大きな事件だったからだ。そして敦の記憶に深く、深く印象付けられている事柄がある────心が摩耗しようが理想に生きた先輩社員の大きな背だ。

 

 

「あの事件の裏で糸を引いていたのは“組合(ギルド)”だったんですよね……」

 

「そうだよ。比企谷さんが云っていた様にね。其れに先程届いたあの電子書面(メール)は事件の時に届いた脅迫文と瓜二つだ。つまり敵側は()()()()()()()()()()()()()態々(わざわざ)懇切丁寧に探偵社に明かしてきたと云う訳さ」

 

「爆弾の仕掛け場所も六蔵君が居を構えていた処と全く同じ……喧嘩を()られたって事ですよね?」

 

「察しが早くて(たす)かるよ。成長したね敦君」

 

 

 だからこそ敦は何度も生唾を呑み込む程、緊張しているのだが。

 異常が正常の太宰にとっては此の程度の依頼では飄々とした態度を崩さないのだろうか。それとも別の理由が有るのか浅慮な敦には測る事が出来なかった。

 

 

「此の依頼、国木田さんは……」

 

「国木田君には伝えて無い」

 

「────ぇ」

 

「国木田君は探偵社の中で最も高潔で(つよ)人間(ひと)だ。其れは比企谷さんや社長と違った(かたち)でね。だからこそ脆く、壊れ易い」

 

「……其れは」

 

「六蔵少年と佐々城さんの死が彼に突き付けたものは理想とは程遠い非情で理不尽で不条理な現実だ。そして彼は理想を追う事は余りに無益で困難だと判っている。其れでも理想を追い求め続けずには居られない……何故なら彼は“国木田独歩”だからね」

 

 

 送られて来た電子書面(メール)は“蒼の使徒”事件の記憶を回帰させる。(あまつさ)え、あの事件の死者────六蔵を愚弄している。そんな物を国木田が見たら如何(どう)なるか。国木田と云う人間を知っていれば太宰でなくとも想像する事は容易だった。

 

 

「最も触れられたくない記憶の錆に触れられると人は如何(どう)なるか……敦君、判るかい?」

 

「判ります。何となく、ですけど……」

 

「うん、君は判ると思う。でも其れは凡庸な人の場合だろう。でもね、飽くなき理想主義者の国木田君は違う。躰の中で何かが壊れた音がして心中で燻っていた感情が溢れ出し、理想を阻む者を排除する為だけの激情に駆られる。そして自身の正しさの基、激情の炎に身を委ね、周囲を焼き尽くす……最後に残るのは虚無だけだ」

 

 

 敦は太宰の胸中に溜まり切った濁りに濁った汚濁の感性を其の言葉から垣間見た気がした。だが其の言葉からは国木田の事を想っている事も感じ取れた。

 

 

「あの…太宰さん」

 

「何だい敦君。そんな素っ頓狂な顔して」

 

「何だかんだ云って太宰さんって………国木田さんの事が心配なんですね」

 

「………まァ約束させられたからね」

 

「約束ですか?」

 

「仲間を囮に使う様な作戦は立てるな、と比企谷さんに約束させられたのだよ」

 

 

 成程、と敦は合点がいったが為に頷いた。

 其の約束は敦が初めて芥川と邂逅し、八幡と芥川が一戦交えた処まで遡る。其れは同時に太宰と八幡が意見をぶつけた日でもあるのだが。

 

 

「あの…ハッキリ云いますよ」

 

「ん?」

 

「罠ですよね?」

 

「罠だよ?」

 

「何でそんなに落ち着いていられるんですかっ!?」

 

「罠だけど罠じゃないからだよ」

 

「へ?」

 

「“組合(ギルド)”は私達より余程戦況が見えている。恐らく外交上の圧力を掛けて情報を入手しているんだろうね。ならあの電子書面(メール)を送れば国木田君以外の探偵社員を動かせるだろうって事は判っている筈だ。月並みの言葉で云えば探偵社は堅固な絆で結ばれている為、積極的に仲間を精神的外傷(ト ラ ウ マ)の基へ送らないことは目に見えているだろうからさ。勿論、私達が向かっている事も筒抜けだろうね」

 

「えっと未だに判らないんですが…」

 

「要するに異能無効化の異能を持つ私が向かっている時点で異能者を配置するほど間抜けでは無いってことだよ。加えて“組合(ギルド)”は敦君を欲しがっている様だし、若しも其の爆弾で敦君が死んじゃったら“探し物”も探せ無いじゃない?」

 

「あっそう云うこ────」

 

 

 プルルルルルルルルルルルルル……と。

 敦の返事を遮る様に太宰の携帯が鳴った。太宰は液晶に表示された名前を見て目を丸くする。

 

 

「乱歩さん……?はい、太宰です」

 

 

 乱歩からの通話、其の響きだけで何か良からぬ事が起きたのではないかと敦は気が気で無かった。そして其の予感は─────。

 

 

「敦君、私は晩香堂へ急ぎ戻る。考えていた中で最厄の手札をポートマフィアは切った様だ」

 

「え?」

 

「説明している時間は無い。だから君は六蔵少年の居を確認後、直ぐに探偵社に戻ってきて欲しい。頼ンだよ」

 

「──────ッ判りました」

 

 

 太宰は踵を返して探偵社へと駆け出した。

 敦は目を閉じ、呼吸を整え、虎を思い描いた。瞬間足の毛が逆立ち、皮膚が波打って白い毛並みが生き物の様に噴き出し、脚部を覆う。虎の脚力を用い、目的地到達のため全力で地を蹴った。

 

 

(後少し……!)

 

 

 そう思った刹那、敦の顔面の横にとある物体が出現した。

 咄嗟の事に反応が僅かに遅れた敦は勢いを止める事が出来ずに回避行動を取れなかった。

 

 

『見付けたゼ』

 

 

 物体は…と云うより突如出現した麦藁帽子を被った小さなぬいぐるみはそう呟くと瞬きの合間に消えた。

 敦は足を止めて周囲を見渡してみるが先程のぬいぐるみは何処にも無い。虎眼にし、遥か遠くまで探るが見当たらない。

 

 

(気になるけど今は急がないと────ッ!!)

 

 

 敦が再び目指そうと目的地へ向き直った直後、敦の虎眼は一刹那だけ煌めいた不可思議な光を捉え─────そして。

 

 

「ガッ……!!」

 

 

 肩に鈍痛が走った。狙撃されたのだと気付くのは激痛に蹲り肩を抑えて寸刻後の事である。

 痛みを堪え、歯を食い縛りながら躰を投げうつ様に転がり、傍に並ぶ様に建っていた倉庫の物陰に隠れる。

 

 

「オルコット君の作戦書は矢張り優秀だなァ」

 

 

 敦が隠れて瞬刻、敦の頭上から声が降ってきた。

 姿を見るより先に地を蹴って距離を取る。着地に失敗しつつも其の声の主へ目を向けた。

 

 

「なっ……!」

 

「やァ虎人(リカント)の少年。組合(ギルド)の団長自らが迎えに来てやったぞ」

 

 

 敦が逃げ込んだ先の倉庫には分厚い紙束を持った“組合(ギルド)”の団長であるフランシス・フィッツジェラルドが喜悦の笑みを浮かべ待ち構えていた。

 

 

「異能無効化の異能を持つ者が此方に向かって来ている時点で()()の勝利だったのだよ。判るかい?」

 

 

 敦の答えは虎の膂力を使った本気の蹴りだった。

 フィッツジェラルドは躰を仰け反る事で其の蹴りを躱し、左脚を軸にした左入り身体(みたい)の拳を敦の隙だらけの胴に振り抜いた。

 

 

「ガハッ……!」

 

()だお喋りの途中だろう?目上の質問にはきちんと答えなければ駄目じゃないか」

 

 

 殴り飛ばされた敦は床に蹲って動けない。

 フィッツジェラルドはゆっくりと敦に近づいて行き、再び口を開く。

 

 

「恐らく君達探偵社は此処に異能者、(しか)も私が居るとは思わなかったのだろう?此の選択は合理性に欠くからね。まァ其れを逆手に取った上での作戦なんだが、勿論部下からは猛反対されたよ。此処で私が君に負けたら其処で遊戯終了(ゲームオーバー)だったからな」

 

「……ぐッ」

 

「だが偶には博打も()いものだと思ったよ、大いに楽しめた。礼を云おう、虎人(リカント)の少年」

 

 

 立ち上がろうとする敦の頭を上から踏み付けるフィッツジェラルド。

 額が割れて血が流れ始める。敦の虎の異能でさえもフィッツジェラルドの力には敵わない。

 

 

「そうだな…君が疑問に思っている事をもう一つ教えよう。何故、異能無効化の異能を持つ男を此処に来られない様に出来たのか」

 

「な、にッ……!」

 

「なに簡単な話さ。ポートマフィアの中に私と繋がっている者が居るからだよ。其の間者がポートマフィアに幽閉されていた或る者を解き放ってくれたのさ」

 

「────ッ」

 

「幽閉されていた者の名を確か…“Q”と云ったかな?異能の中で最も忌み嫌われる“精神支配系”の異能を所持していると云う。其の“Q”に横浜の街を暴れて貰っただけだ……あァ其の“Q”は君と居た“ダザイ”とか云う男と因縁が有るらしくてね。活用させて貰ったよ」

 

「なんて…ことをッ!」

 

「お喋りはここまで。では行こうか」

 

 

 フィッツジェラルドは新たに鳩尾に一撃入れ、激しく咳き込む敦を片手で抱え、倉庫を出た。

 外へ出ると恰幅の良い躰に白髪、白髭を蓄えている男が海を眺めながら待っていた。

 

 

「メルヴィル君、新拠点のお披露目といこうじゃないか」

 

「……承知した」

 

 

 組合(ギルド)職人(フェロークラフト)である“ハーマン・メルヴィル”である。異能力は『白鯨(モビーディック)』。

 其の名の通り、異能生命体である“白鯨”を操る。其の白鯨は全長は三百(メートル)を超えており、ゼルダ号が燃え落ちた今“組合(ギルド)”の新拠点となっている。

 

 

 

「待って」

 

 

 

 フィッツジェラルドとハーマンが白鯨に乗り込もうとした其の時、背後から凛とした声が届いた。フィッツジェラルドは振り向いたが、ハーマンは其のまま白鯨へ乗り込んだ。

 フィッツジェラルドは怪訝な顔を見せ、敦を抱えている腕とは反対の手で耳を抑える。

 

 

「彼を返して」

 

「ハァ……トウェイン君?何故撃たないンだい?」

 

『しょ、しょうがないじゃん!あの子、報告書にはポートマフィアの下級構成員になってたんだから味方かどうか判らなかったんだよ〜』

 

 

 フィッツジェラルドは耳に仕込んだインカムを通じて味方に話し掛けていた。薄っすらと意識の在る敦は其の相手が“狙撃手”であることを確信していた。

 

 

「む…其れもそうか。其処の少公女(リトルプリンセス)、君はポートマフィアなのか?」

 

「違う、私は探偵社員」

 

「探偵社員だそうだ、トウェイン君」

 

『はいはーい♪』

 

「鏡花ちゃん!!」

 

 

 反射的に敦は危険を知らせようと鏡花の名を叫んだ。

 鏡花は小太刀を抜刀し構えていたが、瞬間、手に鈍痛が走り小太刀を手放した。狙撃されたのだと理解した時には手は赤く腫れ上がり、小太刀は粉々に砕け散っていた。

 

 

「トウェイン君は本当に良い仕事をする。ではボーイフレンドは頂いて行くぞ」

 

「待っ────」

 

 

 二度目の狙撃。

 鏡花は足をゴム弾で撃ち抜かれた。云う迄もなく折れているだろう。

 其れでも鏡花は躰を引き摺りながらも敦を追い掛けた。狙撃されていない無事な手を遠く離れていく敦へ伸ばす。

 

 

 

「私は……私は…………!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 





文スト見て思う。
敦って某ゲームの(ピー)ーチ姫なんじゃないかって。はい。

楽しんで頂けたのなら幸いです。


毎度恒例謝辞。
『早霧 ユウ』さん、最高評価有難うございます!!
『ただの人 小説書きたい』さん、『クマのPohさん』さん、高評価有難うございます!!

お気に入りが700を超え、日間ランキングにも乗り、胸が一杯です。本当に有難うございます!

ある読者さんが友人の薦めでこの小説を読んでくれたと、とても嬉しい事を仰ってくれました。あの時の嬉しさと言えばもう……ね。


【報告】
番外篇で書いた八幡と与謝野の恋物語ですが、一度リメイクし直して再度投稿します。プロットが大きく変わったのが大きな理由です。申し訳ありません。


ではまた次回!感想と評価をお待ちしてます!台風と体調管理に気を付けて!

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