和を嫌い正義を為す   作:TouA(とーあ)

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皆さん知ってました?

紅葉の姐さん齢26なんですよ。八幡と乱歩と同い年なんですよ。貫禄半端じゃないわ。なんかこう大人っぽく表現している八幡でさえ子供染みて見える。

と云う事でどうぞ!!


切札

 

 

《呑処 来る味屋》

 

 

却説(さて)、始めようか。」

 

 

 八幡の一言で一瞬で空気が張り詰めた。

 皆が皆、従容(しょうよう)としているが、一つの些細な切っ掛けで、この均衡が崩れる事が判っていた。

 

 

「ではわっちから。尾崎紅葉(こうよう)じゃ。ポートマフィアと云う組織で幹部を務めておる。宜しゅう。」

 

 

 一人は鮮やかな紅の着物に身を包んだ女性はそう云った。大人の女性の貫禄を感じられる其の妖艶な笑みは警戒心を逆立たせるのに十分だった。

 

 

「次は私ですね。内務省・異能特務課の辻村深月です。上司の坂口に代わり、参加させて頂きました。以後、御見知りおきを。」

 

 

 青磁色の髪に白のスカーフを首に巻き、気の強そうな吊り目をしている女性は少しばかり緊張が入り混じった声でそう云った。

 

 

「武装探偵社の比企谷だ。後ろに控えているのは太宰。まぁ奴は今回の会議には居ない者として扱って構わない。」

 

 

 ギョッとした顔で八幡の横顔を見詰める太宰だが、既に運ばれていた日本酒を八幡から渡されると目を輝かして呑み始めた。

 

 

「此度の招集の目的は異国の“異能組織”の事で()いのかえ?」

 

「其の認識で構わない。“組合(ギルド)”についてだ。」

 

「・・・」

 

「わっち等は既に不届きな(やから)を処した。ジェエムズ、と申しておったかのう。ポートマフィアは奴等と事構える覚悟は出来ておる。」

 

「此の街で戦争でもおっ始める心算(つもり)か?住民の安全は?マフィア(御 前 達)が勝手に事を荒立てそうだから、こうして招集したんだ。」

 

「そうは云われてものう・・・時計の針は決して左には回らぬ。賽はもう投げられたのじゃ。仕方なかろうて。」

 

「・・・」

 

 

 紅葉と八幡が自身の意見、組織の総意をぶつけ合っているのに特務課の辻村は何一つ発声しない。

 黙りこくる辻村に八幡は多少の怒気を混ぜて問い掛ける。

 

 

「異能特務課は組合(奴等)の対策をどう講じているんだ?」

 

「・・・」

 

「黙るんじゃねぇよ・・・不安になるだろ。」

 

「────内務省・異能特務課は“組合(ギルド)”に対して何も行動を起こせません。」

 

「「は?」」

 

 

 紅葉と八幡の声が揃った。呑み続けている太宰でさえも其の言葉に目を見開いている。

 辻村は声を絞り出す様に言葉を紡いだ。

 

 

「“組合(ギルド)”とは一種の秘密結社です。構成員は各々が表の顔を持っており、政府や大企業の要職にある者も名を連ねています。其の影響力は北米は疎か、本邦中枢にまで強力に食い込んでいます。」

 

「話の雲行きが怪しくなって来たのう・・・」

 

「つまり“政治”です。“組合(ギルド)”は外交筋から圧力を掛けて、構成員に外交官同等の権限を賦与(ふよ)させました。依って国家を転覆しかねない事件などでは無い限り、彼らを捕らえる事は出来ません。」

 

「・・・」

 

「最早、彼等は法の外の存在です。我々特務課は他庁との権力均衡(パワーバランス)の中で身動きが取れません。」

 

 

 衝撃の事実に紅葉と太宰は黙考する。此の状況を打破するにはと云う策を頭で練る。

 だが一人、辻村の言葉に声を震わせる者がいた。

 

 

「冗談抜かすな・・・」

 

「えっ・・・」

 

「御前たち政府は(また)、自身の保身だけを考えてやがるのか。民間人が既に襲われているんだぞ・・・」

 

「で、ですから・・・」

 

「御前達は何時もそうだ。自分の身が危うくなれば保身の為に平気で味方を切り捨てる。其れがどれだけ政府の為に尽力した者であろうが、だ。次に切り捨てるのは横浜の街と住民の(すべ)てか?」

 

「わ、私だって、こんな事が正し────」

 

 

 

『其処までだ、辻村君。理性が感情を超えて取り返しの付かない言葉を吐き出す前に止めろ。唯でさえ君は愚直過ぎて救いようが無いのだから。』

 

 

 

 辻村のスカーフの下の首元から機械を通しての声が聞こえる。其の声は機械を通してでも冷徹で底冷えする様な声であった。

 

 

 

『比企谷君も言質を取ろうと私の召使いを虐めるのは止めて欲しい。アレを虐めて良いのは私だけだ。』

 

 

 

「────矢張り、特務課の鬼札は貴方でしたか。綾辻先生・・・」

 

 

 八幡に“綾辻先生”と呼ばれた其の男は、冥府の最深部をも震わせる程の哄笑を一室に轟かせる。

 

 

『クックックッ、其れを云うなら君も随分と鬼札を持っているじゃないか。()()使()()()()だったかな?あの事件から未だに君は特務課から譲渡された()()()()の指揮権を所持しているじゃないか。あの事件の黒幕が今回の事件の首謀者になるからな。』

 

(チッ、流石にバレてるか・・・)

 

 

 八幡と機械から通される声の主以外は此の状況に置いてけぼりである。かろうじて理解出来ている事は、この二人には何かしらの接点があったと云う事と、腹の探り合いをしていると云う事だ。

 

 

「お主は何者じゃ?特務課の人間ではあるまい。」

 

『ん?あぁ私とした事が自己紹介を忘れていた。日本政府指定・特一級異能者“綾辻行人”だ。巷では“殺人探偵”とも云われている。』

 

「“殺人探偵”じゃと・・・?」

 

「之は之は・・・真逆、かの有名な探偵に機械越しとは云え会話出来るのだから僥倖だ。」

 

 

 紅葉は思わぬ人物に目を丸め、太宰は驚嘆と嬉々の声を上げた。

 

 

『何か勘違いしている様だが、私は会議には参加しないし、指摘もしない。先の件は私の召使いが失言を漏らす所だった、と云うだけだ。・・・・・・最後に私が云える事は異能特務課の手札の中には“殺人探偵”が居ると云う事だ。呉れ呉れも忘れぬ様、君達の(あま)り使われていない頭に叩き込んでおく事だ。』

 

 

 プツンと突然何かが切れた様な機械音、加えて稀代の探偵に嘲弄された事に少しばかり怒りを覚える者数名。

 

 

「ふぅ・・・取り敢えず、異能特務課の手札の中には“殺人探偵”が居ると云う事は判った。つまり異能特務課はこう云いたいんだろ?特務課の意に沿わぬ組織が在れば“殺人探偵”の異能を用いて粛清していく。」

 

「えぇ、其れが異能特務課、正確には政府上層部の意見です。綾辻先生の異能力『Another』は、願いや意図とは関係無く起こる自然現象の如く、殺人事件の犯人を必ず事故死させると云うもの。私が云いたい意味は・・・お判りですね?」

 

(社長や森さんは理由は何であれ殺人を犯している。ポートマフィアなど殆どがそうだろう。異能特務課の情報収集能力と異能に依る脅迫が有れば隠蔽されていた殺人事件の証拠が明るみになる事は想像に難く無い。そうなれば最後、綾辻先生の『Another』に依り組織の頭が消える。そして組織の芯が消える事で“組合(ギルド)”が漁夫の利で丸ごと潰して終わり・・・最悪の手札だな本当に。)

 

 

 先行きの悪い状況に八幡は顔を顰める。太宰は八幡とは別口で策を練っていた。

 

 

「一応、わっち等マフィアの手札の示しておこうかのう。わっちが首領(ボス)から託された手札は二枚。一枚目は“Q”の解放。二枚目は八幡(ヤハタ)の存在を組織中に拡散する、と云うものじゃ。」

 

「“Q”だって!?姐さん本気かい!?」

 

「先に不届き者等と事構える覚悟は出来ておると申したであろう?今更何を驚く?太宰や。」

 

「“Q”を座敷牢に閉じ込める為に何人死にました!?姐さんの部下だって何人も死んだ筈だ!」

 

「其れは其れ、之は之よ太宰。首領(ボス)が其の選択が論理的最適解なのだと判断したらそうなるまでよ。わっち等は其れに従うまで。」

 

「ぐっ・・・」

 

 

 太宰は悔しげな息を漏らす。紅葉は之で終わりだと云わんばかりにお茶を口に運ぶ。

 八幡は意を決した様に口を開いた。

 

 

「探偵社の手札は二枚だ。一枚目は“軍警”と“市警”の指揮権。二つ目は“組合(ギルド)”の拠点の位置と敵幹部が持つ異能の事だ。」

 

「ほぅ?敵幹部とやらの異能は何人特定出来ているのかえ?」

 

「三人。推測を交えて良いのなら五人。情報開示は条件次第だ。」

 

「・・・・・・要らぬ、な。其の程度ならば。マフィアに楯突く者は正面から斬り伏せれば良いだけのことよ。」

 

「特務課も同意見です。」

 

「そうか。では今回の会議は之で終了とする。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《武装探偵社・社長室》

 

 

「八幡、太宰、御苦労。早速だが話を聞かせて貰おう。」

 

「交渉は決裂。今回の一連の事柄に於いて、異能特務課が役に立たない事から“三刻構想”は無意味と成りました。」

 

「・・・拠点を移すか。」

 

「えぇ、其の方が宜しいかと。」

 

 

 八幡が会議の報告をして、社長である福沢が答えを詰める。太宰が其の案の合理性を判断し、答えを促す。

 

 

「移し先は晩香堂で善いでしょう。幸い、あの場所は極少数しか知られていませんし。」

 

「ふむ。太宰、探偵社の調査員を晩香堂へ。事務員は足跡が付かぬ様に箱根へ非難。危急だ。」

 

「判りました。乱歩さんと打ち合わせしてきます。」

 

 

 太宰は席を立ち、乱歩の(もと)へ。福沢は一度お茶を口に運び、声を発した。

 

 

「八幡、此の状況を如何(どう)見る?」

 

「特務課を除く、三組織の中では最悪です。マフィアが“Q”を使う事の抑止力として、軍警と市警の指揮権だけでは心許無い、と云うのが正直な感想です。ですが────」

 

「・・・」

 

「“組合(ギルド)”の目的の“虎”は此方(こちら)の手に有ります。そして各組織に対抗出来る()()は未だに此方に有ります。其れは────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《ポートマフィア》

 

 

「紅葉君。報告御苦労様。」

 

「わっちは主が渡した手札を見せただけのこと。大した仕事はしておらん。」

 

(いや)、十分だよ。有難う。今日は休むと良い。」

 

「ではそうさせて貰おうかのぅ・・・」

 

 

 紅葉は席を立ち、部屋を出た。歐外はチェスを一人でしながら呟く。

 

 

八幡(ヤハタ)君がマフィアに不利益になる工作をすれば、マフィア全体に名が知れ渡る。だが其れをして十分な程の異能、内容は未だに判ってはいないが、記憶を操る異能なのだとしたら、太宰君の他に“Q”の抑止力となる人物になる。私達マフィアが提示した手札は(すべ)八幡(ヤハタ)君への抑止力だ。」

 

 

 カタンと駒を置き、フフッと静かに笑う。隣の少女が絶対零度の視線を送ってくるが気にしない。

 

 

「特務課は二つの組織を牽制すると同時に、いざとなれば敵の大将を()る策を講じた。粛清の中にはマフィアの姿も在れば、マフィアを抜けた()()()の事も入っている・・・紅葉君が独断で動かなければ善いが・・・」

 

 

 立ち上がり、横浜の街を眺める。金髪の少女も歐外に着いていく様に隣から眺め始める。

 

 

「ともあれ、此の戦況を一転二転させるのは探偵社の手札の中に有る────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 《組合(ギルド)・本部》

 

 

「探偵社に捕まったとの報が来た時は、オルコット君に作戦内容を変更して貰おうと打診していたのだが・・・其の必要は無くなった様だ。」

 

「異能が敵にバレた今、私に価値は無いと思います。ですが、メイドや掃除婦で善いので此処に置いて下さい。」

 

「・・・・・・フッ、しっかりと現実が見えている様で何よりだ。改めてメイドとして君を雇おう。モンゴメリ君。」

 

「有難う御座います、フィッツジェラルド様。」

 

 

 モンゴメリはそう云うと退室した。フィッツジェラルドは片手にワイングラスを持ち、横浜湾に浮かぶ豪華客船から横浜の街を眺める。

 

 

「捕まったと云うより誘われた、の方が正確か。“組合(ギルド)”の内情を拷問か何かで引き出すかと考えていたが・・・予想以上に探偵社は甘い様だ。」

 

 

 何かを決意したモンゴメリの目を見てフィッツジェラルドはそう確信した。

 携帯を取り出し、フィッツジェラルドの家族全員が揃った写真を見る。写真の中で笑う娘の頭をそっと指で撫で、携帯をしまう。

 

 

「探偵社とポートマフィアは我等の情報を或る程度知り得ているだろうが、私達“組合(ギルド)”の情報量には勝ててはいまい。だが二つの組織で一人、情報が少な過ぎる者・・・彼が探偵社の切札(ジョーカー)なのだろう。過去を洗っても何一つ出てこない彼が────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「其れは────俺です。俺の存在自体が探偵社の“切札”と成り得ます。」

 

 

 

 

 

「探偵社の手札の中にある────八幡(ヤハタ)君。彼が此の戦争の鍵となるだろうね・・・」

 

 

 

 

 

「過去を洗っても何一つ出てこない彼が────大災禍(カタストロフ)君、(いや)、比企谷君。彼が探偵社の切札(ジョーカー)であり、今から始まる戦争の台風の目だ・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(オマケ)

 

 

「君は本当に莫迦(バカ)だ。私が聞いていなかったら探偵社とマフィアのどちらかに今頃取り込まれていたぞ。君を私に任せると云う何時もとは逆の采配を下した坂口君に感謝するんだな。。」

 

 

「す、すみません・・・有難う御座います、綾辻先生。」

 

 

「だが、今回の失態は調教モノだ。辻村君、覚悟しておけ。」

 

 

「ちょっ調教はやめ、ホントやめて下さい。お願いします、調教イヤ、調教コワイ・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





話進まねぇ。その割に文字数多い・・・。急ピッチで仕上げたので後で直すと思います。


今回は、《蒼の使徒》の伏線を回収しました。軍警と市警の指揮権を未だに八幡は持っています。だからと言って悪用はしてませんが。

補足。
紅葉は八幡をヤハタだと知りません。八幡もバレぬ様に苗字だけ名乗るなど工夫してます。




毎度恒例謝辞。
『kada』さん、『月詠之人』さん、『冷奴先輩』さん、『ましろんろん』さん、最高評価有難うございます!!

『シゲポン☆』さん、『シャチハタ』さん、『es.519』さん、『ロジョウ』さん、高評価有難うございます!!

みなさんの評価と感想はとても励みとなり、引き締まります。これからも宜しくお願いします!!


ではまた次回!!感想と評価お待ちしてます!!

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