和を嫌い正義を為す   作:TouA(とーあ)

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お久しぶりです。

地元を離れ、大阪に引っ越して来たので、右も左もわからない状態でした。

そんな中じゃ執筆の時間が取れるはずもなく、ここまで時間が掛かってしまいました。

加えて、寝るちょっと前から書き出すので誤字が多いと思います。大変や。

ではどうぞ。




孤児

 

 

 「却説(さて)と、()りますか・・・」

 

 「黒い帽子のお兄さんから遊んでくれるのかしら?良かったわねアン。」

 

 

 八幡は躰を(ほぐ)しながら、意識を呼吸に集中する。自分を中心に球形を作る心象(イメージ)を形成し、自分の意識と感覚を外へ広げる。

 

────“識”。

 

 其れは八幡の()()()()にして、至高の技伎(わざ)だ。

 敦の時とは違い、開目し、全力で迎え撃つ姿勢だ。躰こそ熱くなっているものの、心は、頭は冴えていた。

 

 

 「では始めましょう。アン、遊んでらっしゃい!」

 

 

 何処か冒涜的な風貌をしているアンはモンゴメリの言葉に反応すると、八幡に高速で肉薄。

 

 

(要は遊べば善いんだろ?)

 

 

 ふっ、と八幡は口元に笑みを浮かべた。其の後、アンから()()()()、部屋の壁の方向へ振り向いた。

 肉薄するアンの手が迫る。八幡はアンから捕らえられるギリギリの所で向かいに有る壁を蹴り上げ、空中へと躍り出た。

 アンは案の定壁に衝突し、少しだけ動きが止まる。其れを八幡が見逃す筈が無い。

 後方宙返(バク宙)の要領で空中に躍り出た八幡は空中で躰を捻り、其の儘アンの脳天へ一気に拳を振り下ろした。

 

 

 「シッ!」

 

 「なっ!?」

 

 

 ドォッン、と鈍い音が部屋中に轟き、強烈な一撃にアンは地面に叩き付けられた。

 

 

 「ぼ、暴力は禁止だと云った筈よ!」

 

 「暴力じゃない。“プロレスごっこ”だ。唯の遊びだ。男の子は皆通る道なんだよ。」

 

 

 “虎化”した敦が捉えきれなかったアンの速度(スピード)を八幡が捉える事が出来たのは(ひとえ)に“識”によるモノが大きい。

 自身の感覚と意識を外に広げる“識”は、“反射”と云う生まれつき人間に備わる無意識下における特定の反応を自身を中心に球形に広げるのである。

 つまり、自身の球形内に侵入した事象を“反射”によって神速で反応出来るのだ。勿論、相応のリスクは伴うが。

 

 

 「相変わらず捻くれているね君は。其れに技伎(わざ)のキレは時任殿に遠く及ばないね。“時任”の名を受け継いでいないのは其れが理由かな?」

 

 「・・・・・・医師(せんせい)も早く動いて下さいよ。」

 

 

 鷗外の呟きに八幡が反応する。

 アンの頭上に降り立つ八幡をモンゴメリは睨むが八幡は素知らぬ顔で鷗外と会話する。モンゴメリは蚊帳の外だ。

 

 

 「アン!しっかりしなさい!早く其の男を────」

 

 「少し黙ってろ。」

 

 

 懐から取り出した棒手裏剣を手首のスナップを効かせてモンゴメリに撃つ。

 棒手裏剣はモンゴメリの服を掠めて少し遠くの地に突き刺さる。其れはモンゴメリの闘志を下げるには十分な牽制だった。

 鷗外は立ち上がると首をコキッと鳴らし、不気味な笑みをモンゴメリに向けた。

 

 

 「久しいね、此の高揚感は。フフ・・・」

 

 「ア、アン!私を護りなさい!」

 

 

 鷗外を忌避したモンゴメリは異能空間の下からもう一体のアンを召喚した。

 然し、鷗外は想定していた様で不気味な笑みを絶やす事は一切無い。両手に医療用メスを持ち、ゆっくりモンゴメリ等に近付く。

 

 護りのアンがゆっくり近付く鷗外に一気に肉薄する。

 鷗外は肉薄するアンとのすれ違い様に一気に腰を落とし、両手に持つ医療用メスを振るう。

 

 

────刹那。

 

 

 「おや?意外と脆いのだね。」

 

 「ア、アン!!」

 

 

 鷗外に依る切刃にアンの手の指が崩れ落ちる。

 指の第一関節から徐々に崩れ落ち、遂には肘から下まで地に落ちた。

 鷗外は拍子抜けした様に嘆息する。八幡はそんな鷗外を見て震えた。

 

 

 「もう“お医者さんごっこ”は終わりで善いかな?年甲斐も無く遊ぶには矢張り幼女が相手で無いとね。」

 

 「だからと云って依頼主の娘に手を出す事は(ゆる)しませんよ?」

 

 「手厳しいね。少しぐらいの報酬が有っても()いじゃないか。」

 

 「エリスに告げ口しますよ?」

 

 「・・・・・・・・・やめておこう。」

 

 

 まるで何も無かったかの様に談笑する八幡と鷗外にモンゴメリは心底恐怖した。

 会話の内容は比較的明るいものであるが、二人から発せられる濃厚な殺気は其れを台無しにする程だった。

 

 二人は徐々にモンゴメリに近付く。モンゴメリは逃げ出したい程震えていたが腰が抜けて動けなかった。そんなモンゴメリに優しく諭す様に二人は口を開く。

 

 

 「君の敗因は大きく三つ有る。一つ、情報収集を怠ったこと。二つ、私達に異能の説明を事前に行ったこと。三つ、君が定めた規則(ルール)には穴が多いこと。其の程度で私達を縛ろうなど片腹痛いね。」

 

 「加えるなら、御前の異能は御前自身の心の揺れに大きく関わっているのだと早くから理解させてしまった事だな。俺達の殺気に充てられた時、御前だけじゃなく異能生命体も震えてたし。証拠に今、俺達を畏れている御前の所為(せい)で異能生命体がピクリともしない。」

 

 「ヒッ・・・・・・」

 

 

 目に涙を浮かべ、恐怖で震えるモンゴメリに親切に説明する二人は(はた)から見たら鬼畜だろう。事実そうであるのだが、軽い口調が其れを軽減していた。

 

 

 「未だ謎に包まれている異能だが、之だけは云える。異能は異能者の()()()()()()()。君が此の女の子の部屋の様な異能空間を創り出し、遊び相手が欲しいと云う欲求は些か私達に助言(ヒント)を与え過ぎたね。」

 

 「組合(ギルド)は所詮、此の程度なのだと思わせてしまう程の稚拙さだったな。勝利を確信しているが故に余りにも杜撰だった。・・・若しかして御前、()()()か?」

 

 「────っ」

 

 

 八幡の一言にモンゴメリの涙腺が崩壊する。

 今迄、味わって来た苦渋が脳裏に甦り、之から訪れるであろう災難に悲観した結果だ。

 突然、涙をぽろぽろ零すモンゴメリに八幡が若干悪気を感じる。

 

 

 「ふえっ・・・えぐっ・・・・うぅ・・・・・」

 

 「女の子を泣かせるのは如何(どう)かと思うよ?」

 

 「(いや)・・・まぁ其のですね、事実を伝えただけですし。あ、戻った。」

 

 

 モンゴメリの精神が不安定になったからか異能が解けて、元の横断歩道へと戻った。

 

 真っ先に動いたのは敦で人質になっていた光代(みつよ)絵都(えと)の安否を確認した。二人とも目立った外傷は無かったが、念の為探偵社へ連れ帰る事にした。

 

 八幡は其れを見送ると、グズるモンゴメリに振り返った。鷗外は『後は任せるよ』と一言だけ呟き、人混みの中へと消えた。

 

 

 「わ、私はもう・・・任務に失敗したから居場所は無い。汚れた紙ナプキンみたいに捨てられるわ。」

 

 「おい・・・」

 

 「どうせ組合(ギルド)に拾われただけの身。最初から此の運命だったのよ・・・」

 

 「(いや)、だから・・・」

 

 「貴方に何が判るってのよ!私が欲しいもの全部持ってるくせに!」

 

 「・・・」

 

 「・・・ふんっ。貴方に()()だった私の気持ちが判る筈が無い。氷の様な水にずっと手を漬ける痛みも!動く度に痛む火傷も!日々骨が軋む感覚も!貴方は知り得ないでしょう!?どうして私じゃなくて貴方なのよ!私だって私だって・・・・・・」

 

 

 本音を吐露するモンゴメリに八幡は口を閉ざした。

 だが八幡はモンゴメリを放って置く事がどうしても出来なかった。敵である事は重々承知していたのだが、どうしても他人の様に思えなかったのだ。

 

 

 「此処、横断歩道だから。移動するぞ。周りの視線が痛いから泣くのをやめてくれ。」

 

 「・・・腰が抜けたから動くにも動けないわ。」

 

 「はぁ・・・・・・・・・・・・乗れ。」

 

 

 八幡は背中を借す様にモンゴメリに背を向け腰を落とす。

 モンゴメリは敵方の行動に目を丸くする。が、横断歩道のど真ん中で座り続けるのも苦であったので渋々八幡の肩に手を伸ばし、背負われた。

 

 

 「・・・私は敵よ?敵に優しくしてどうするの。」

 

 「之は俺の自己満足だ。決して御前の為じゃない。唯、 ()の儘、御前を彼処(あそこ)に置いて行ったら俺の名誉が傷つくんでな。」

 

 「・・・・・・・・・ありがとう。

 

(違う。之は詭弁だ。森さんの云う通り、俺は“偽善者”なのだろう・・・敵だと判っていても元“孤児”と云うだけで手を伸ばしてしまった。同情など一番掛けて欲しくない感情だろうに・・・)

 

 

 モンゴメリは躰を(すべ)て八幡に預けた。

 八幡は背中に感じる体温に少しだけ頬を朱に染めるが、直ぐに頭を切り替える。

 だが口から出たのは八幡にも予想だにしない言葉だった。

 

 

 「俺も孤児だ。」

 

 「────ぇ?」

 

 「・・・だが御前とは違って幸せな日々を過ごしてた。まぁ(すべ)てぶっ壊れたけどな。」

 

 「・・・何が云いたいの?」

 

 「幸福も幸運も慣れれば日常だ。其れが途切れた時に不幸に感じるのだと思う。なら之から何も手に入れないのが当然だと思えば人生は潤うのかと聞かれたら、如何(どう)だ?」

 

 「其れは・・・・・・判らないわ。私は何かを失うほど大切な何かを持ち得た事がないもの。何かを失う事の後悔なんて味わった事ないわ。」

 

(過去を諦観し悲観し、失った事の喪失感に苛まれ、後悔だけが何時までも渦巻いている俺は矢張り“愚者”だろうか。)

 

 

 モンゴメリの答えに八幡は自身を顧みる。

 ふと気付けば陽は沈みかかっており、周囲を橙色に染めていた。

 

 

 「大切な何かを渇求し、切望し、(ようや)く大切なモノを手に入れたとしても、其の瞬間から何時かは失う事を約束される。其れでも御前は大切なモノが欲しいと、そう云うのか?」

 

 「孤児院の皆からは此の異能の所為(せい)で忌避されたわ。(ようや)く手に入れた居場所も貴方の所為(せい)で失う事になった。」

 

 「俺の所為(せい)かよ・・・」

 

 「でも私が()()()()()()()()()()()()()()()()、何時か失ってしまうとしても希求するでしょうね。貴方がフィッツジェラルド様に云った言葉を使うのなら“本物”を求め続けるでしょうね。だけど私は貴方ほど強く在れないから。」

 

 「────っ」

 

 

 同じだった。八幡が時任に力を求めた理由がモンゴメリと同じだったのだ。

 

 大切なものを護りたい。

 

 八幡は零してしまったのだ。何一つ大切なモノは手元に残らず、猜疑心と虚無感だけが残った。

 

 

 どうしてもモンゴメリの言葉に八幡は自分と重ねてしまう。意味が無いと判っていても重ねてしまうのだ。

 妹を、恩師を、義弟妹を、()()()()を、護り抜くと誓った約束を、守り通す事が出来なかったから。

 

 過去の愚かな自分と同じ事を吐くモンゴメリをどうしようも無く重ねてしまった。

 

 

 「・・・居場所が無いなら、自分で作ると善い。独りで強く成れないのなら互助関係を築けば善い。」

 

 「・・・え?」

 

 「────探偵社に入らないか?」

 

 

 モンゴメリは其の問いに────。

 

 

 

 

 

 

 





終わりました。いかがでしたか?

今回は八幡の心の揺れを書き出したつもりです。


一つだけ。

八幡が森鷗外に対する呼び方ですが。


白衣→森医師

スーツ→森さん


と分けています。“愚者”と揶揄られた時はスーツだったので森さんという風に明記してます。


次回予告。

八幡、与謝野に土下座する。
敦、谷崎、鏡花にぼこられる。

です。ではまた次回にお会いしましょう!感想評価お待ちしてます!

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