お久しぶりです。
地元を離れ、大阪に引っ越して来たので、右も左もわからない状態でした。
そんな中じゃ執筆の時間が取れるはずもなく、ここまで時間が掛かってしまいました。
加えて、寝るちょっと前から書き出すので誤字が多いと思います。大変や。
ではどうぞ。
「
「黒い帽子のお兄さんから遊んでくれるのかしら?良かったわねアン。」
八幡は躰を
────“識”。
其れは八幡の
敦の時とは違い、開目し、全力で迎え撃つ姿勢だ。躰こそ熱くなっているものの、心は、頭は冴えていた。
「では始めましょう。アン、遊んでらっしゃい!」
何処か冒涜的な風貌をしているアンはモンゴメリの言葉に反応すると、八幡に高速で肉薄。
(要は遊べば善いんだろ?)
ふっ、と八幡は口元に笑みを浮かべた。其の後、アンから
肉薄するアンの手が迫る。八幡はアンから捕らえられるギリギリの所で向かいに有る壁を蹴り上げ、空中へと躍り出た。
アンは案の定壁に衝突し、少しだけ動きが止まる。其れを八幡が見逃す筈が無い。
「シッ!」
「なっ!?」
ドォッン、と鈍い音が部屋中に轟き、強烈な一撃にアンは地面に叩き付けられた。
「ぼ、暴力は禁止だと云った筈よ!」
「暴力じゃない。“プロレスごっこ”だ。唯の遊びだ。男の子は皆通る道なんだよ。」
“虎化”した敦が捉えきれなかったアンの
自身の感覚と意識を外に広げる“識”は、“反射”と云う生まれつき人間に備わる無意識下における特定の反応を自身を中心に球形に広げるのである。
つまり、自身の球形内に侵入した事象を“反射”によって神速で反応出来るのだ。勿論、相応のリスクは伴うが。
「相変わらず捻くれているね君は。其れに
「・・・・・・
鷗外の呟きに八幡が反応する。
アンの頭上に降り立つ八幡をモンゴメリは睨むが八幡は素知らぬ顔で鷗外と会話する。モンゴメリは蚊帳の外だ。
「アン!しっかりしなさい!早く其の男を────」
「少し黙ってろ。」
懐から取り出した棒手裏剣を手首のスナップを効かせてモンゴメリに撃つ。
棒手裏剣はモンゴメリの服を掠めて少し遠くの地に突き刺さる。其れはモンゴメリの闘志を下げるには十分な牽制だった。
鷗外は立ち上がると首をコキッと鳴らし、不気味な笑みをモンゴメリに向けた。
「久しいね、此の高揚感は。フフ・・・」
「ア、アン!私を護りなさい!」
鷗外を忌避したモンゴメリは異能空間の下からもう一体のアンを召喚した。
然し、鷗外は想定していた様で不気味な笑みを絶やす事は一切無い。両手に医療用メスを持ち、ゆっくりモンゴメリ等に近付く。
護りのアンがゆっくり近付く鷗外に一気に肉薄する。
鷗外は肉薄するアンとのすれ違い様に一気に腰を落とし、両手に持つ医療用メスを振るう。
────刹那。
「おや?意外と脆いのだね。」
「ア、アン!!」
鷗外に依る切刃にアンの手の指が崩れ落ちる。
指の第一関節から徐々に崩れ落ち、遂には肘から下まで地に落ちた。
鷗外は拍子抜けした様に嘆息する。八幡はそんな鷗外を見て震えた。
「もう“お医者さんごっこ”は終わりで善いかな?年甲斐も無く遊ぶには矢張り幼女が相手で無いとね。」
「だからと云って依頼主の娘に手を出す事は
「手厳しいね。少しぐらいの報酬が有っても
「エリスに告げ口しますよ?」
「・・・・・・・・・やめておこう。」
まるで何も無かったかの様に談笑する八幡と鷗外にモンゴメリは心底恐怖した。
会話の内容は比較的明るいものであるが、二人から発せられる濃厚な殺気は其れを台無しにする程だった。
二人は徐々にモンゴメリに近付く。モンゴメリは逃げ出したい程震えていたが腰が抜けて動けなかった。そんなモンゴメリに優しく諭す様に二人は口を開く。
「君の敗因は大きく三つ有る。一つ、情報収集を怠ったこと。二つ、私達に異能の説明を事前に行ったこと。三つ、君が定めた
「加えるなら、御前の異能は御前自身の心の揺れに大きく関わっているのだと早くから理解させてしまった事だな。俺達の殺気に充てられた時、御前だけじゃなく異能生命体も震えてたし。証拠に今、俺達を畏れている御前の
「ヒッ・・・・・・」
目に涙を浮かべ、恐怖で震えるモンゴメリに親切に説明する二人は
「未だ謎に包まれている異能だが、之だけは云える。異能は異能者の
「
「────っ」
八幡の一言にモンゴメリの涙腺が崩壊する。
今迄、味わって来た苦渋が脳裏に甦り、之から訪れるであろう災難に悲観した結果だ。
突然、涙をぽろぽろ零すモンゴメリに八幡が若干悪気を感じる。
「ふえっ・・・えぐっ・・・・うぅ・・・・・」
「女の子を泣かせるのは
「
モンゴメリの精神が不安定になったからか異能が解けて、元の横断歩道へと戻った。
真っ先に動いたのは敦で人質になっていた
八幡は其れを見送ると、グズるモンゴメリに振り返った。鷗外は『後は任せるよ』と一言だけ呟き、人混みの中へと消えた。
「わ、私はもう・・・任務に失敗したから居場所は無い。汚れた紙ナプキンみたいに捨てられるわ。」
「おい・・・」
「どうせ
「
「貴方に何が判るってのよ!私が欲しいもの全部持ってるくせに!」
「・・・」
「・・・ふんっ。貴方に
本音を吐露するモンゴメリに八幡は口を閉ざした。
だが八幡はモンゴメリを放って置く事がどうしても出来なかった。敵である事は重々承知していたのだが、どうしても他人の様に思えなかったのだ。
「此処、横断歩道だから。移動するぞ。周りの視線が痛いから泣くのをやめてくれ。」
「・・・腰が抜けたから動くにも動けないわ。」
「はぁ・・・・・・・・・・・・乗れ。」
八幡は背中を借す様にモンゴメリに背を向け腰を落とす。
モンゴメリは敵方の行動に目を丸くする。が、横断歩道のど真ん中で座り続けるのも苦であったので渋々八幡の肩に手を伸ばし、背負われた。
「・・・私は敵よ?敵に優しくしてどうするの。」
「之は俺の自己満足だ。決して御前の為じゃない。唯、
「・・・・・・・・・ありがとう。」
(違う。之は詭弁だ。森さんの云う通り、俺は“偽善者”なのだろう・・・敵だと判っていても元“孤児”と云うだけで手を伸ばしてしまった。同情など一番掛けて欲しくない感情だろうに・・・)
モンゴメリは躰を
八幡は背中に感じる体温に少しだけ頬を朱に染めるが、直ぐに頭を切り替える。
だが口から出たのは八幡にも予想だにしない言葉だった。
「俺も孤児だ。」
「────ぇ?」
「・・・だが御前とは違って幸せな日々を過ごしてた。まぁ
「・・・何が云いたいの?」
「幸福も幸運も慣れれば日常だ。其れが途切れた時に不幸に感じるのだと思う。なら之から何も手に入れないのが当然だと思えば人生は潤うのかと聞かれたら、
「其れは・・・・・・判らないわ。私は何かを失うほど大切な何かを持ち得た事がないもの。何かを失う事の後悔なんて味わった事ないわ。」
(過去を諦観し悲観し、失った事の喪失感に苛まれ、後悔だけが何時までも渦巻いている俺は矢張り“愚者”だろうか。)
モンゴメリの答えに八幡は自身を顧みる。
ふと気付けば陽は沈みかかっており、周囲を橙色に染めていた。
「大切な何かを渇求し、切望し、
「孤児院の皆からは此の異能の
「俺の
「でも私が
「────っ」
同じだった。八幡が時任に力を求めた理由がモンゴメリと同じだったのだ。
大切なものを護りたい。
八幡は零してしまったのだ。何一つ大切なモノは手元に残らず、猜疑心と虚無感だけが残った。
どうしてもモンゴメリの言葉に八幡は自分と重ねてしまう。意味が無いと判っていても重ねてしまうのだ。
妹を、恩師を、義弟妹を、
過去の愚かな自分と同じ事を吐くモンゴメリをどうしようも無く重ねてしまった。
「・・・居場所が無いなら、自分で作ると善い。独りで強く成れないのなら互助関係を築けば善い。」
「・・・え?」
「────探偵社に入らないか?」
モンゴメリは其の問いに────。
終わりました。いかがでしたか?
今回は八幡の心の揺れを書き出したつもりです。
一つだけ。
八幡が森鷗外に対する呼び方ですが。
白衣→森医師
スーツ→森さん
と分けています。“愚者”と揶揄られた時はスーツだったので森さんという風に明記してます。
次回予告。
八幡、与謝野に土下座する。
敦、谷崎、鏡花にぼこられる。
です。ではまた次回にお会いしましょう!感想評価お待ちしてます!