和を嫌い正義を為す   作:TouA(とーあ)

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逢引(デート)と読みます。

まぁ今回は前回に引き続きイチャコラさせます。まぁイチャコラする人は違いますが。

先ずはやつがれと失格人間。続いて湯豆府大好き少女と探偵社西のヘタレ。最後はカタストロフと・・・


ではどうぞ!



逢引

《ポートマフィア 地下監獄》

 

 

「♪ 〜♪ 〜♪ 〜♪ 〜」

「……」

 

 ポートマフィアの地下監獄に太宰は捕らえられていた。然し、態度は何時もと変わりない。手は施錠され壁に繋がれているが意に介すこと無く、鼻歌を歌う始末だ。

 

「ふん♪ ふーん♪♪」

「……」

 

 其れを眺め、侮蔑した視線を送る青年が一人。

 ポートマフィアが禍狗────芥川龍之介。

 芥川は黒外套を蠢めかせ鋭牙な刃を形成。芥川の異能『羅生門』による黒刃が太宰に射出される。

 

 ドガァッ!!! 鈍い音共に太宰の首に黒刃が殺到する。が、太宰に触れた途端に霧散。太宰の異能『人間失格』により芥川の異能が無効化された為だ。太宰は芥川をみて嘲笑する。

 

「……あぁ。君いたの」

「此処に繋がれた者が如何な末路を辿るか知らぬ貴方ではない……筈だが」

「懐かしいねぇ。君が新人の頃を思い出すよ」

「貴方の罪は重い。突然の任務放棄。そして失踪。(あまつさ)え、今度は敵としてマフィアに楯突く。とても────とても元幹部の所業とは思えぬ」

「そして君の元上司の所業とは?」

 

 芥川の拳が太宰の頬を捉える。鈍い音が地下監獄に反響する。

 芥川は侮蔑の意が込められた双眸を太宰に変わる事なく向けている。太宰は口が切れ、血が流れ落ちているにも関わらず不敵な笑みを浮かべた儘だ。

 

「貴方とて不遜不滅では無い。異能に頼らなければ毀傷できる。其の気になれば何時でも殺せる」

「そうかい。偉くなったねぇ……今だから云うけれど君の教育には難儀したよ。呑み込みは悪いし独断先行ばかりするし。おまけにあの()()()()な能力!」

「……貴方の虚勢も後数日だ。数日の内に探偵社を滅ぼし人虎を奪う。貴方の処刑は其の後だ。自分の組織と部下が滅ぶ(しら)せを切歯扼腕して聞くと良い」

「出来るかなぁ君に」

「…………」

「私の新しい部下は君なんかより、()()()()()()()()

 

 再び芥川の殴打により鈍い音が地下監獄に響く。太宰は其れを頬に貰っても不敵な笑みを消す事は無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 AM08:00《武装探偵社 医務室》

 

 

「目覚めたか」

「………………此処は?」

「武装探偵社」

 

 鏡花は探偵社の医務室で目を覚ました。

 理由は昨日(さくじつ)にある。

 八幡の命令で動いた“夜叉白雪”に依って爆風を防げた鏡花と敦の二人は川に無傷で着水。着水した後、二人で川辺まで泳いだ。川辺に着いた二人は緊張の糸が切れてしまい其のまま意識を失った。原因は両者とも異能の過剰行使なのだが知る由もない。

 

「マフィアの“何でも屋”が何故、此処にいるの?」

「俺の居場所は此処だからだ」

 

 そう、鏡花にとって八幡は()()()()()()()の仕事仲間であった。然し今の状況や過去の行動を思い返してみると目の前に居る八幡()マフィア(闇側)ではなく探偵社(光側)であると確信出来た。

 そう確信する事で疑問が一つ浮かび上がる。

 

「何故、貴方の仲間を態々(わざわざ)捕まえさせたの?」

「企業秘密だ」

 

 鏡花は数日前に目の前に居る八幡()から直々に鏡花の()()()()指令を貰っている。

 指令内容はポートマフィアの裏切り者である『太宰治の捕縛』である。省みれば鏡花が捕まえた男は抵抗せず素直に捕まった。鏡花は其れを諦め故なのだと理解していたが……どうやら違うらしいと考えを改めた。

 

 そして携帯で気付いた。大きな疑問。

 

 

「……何故、私を助けたの?」

「助けたのは俺じゃない。俺の(後輩)だ」

「其れは知ってる。私が聞きたいのは其れじゃない」

「…………」

「────“夜叉白雪”を使って何故助けたの? 貴方が助ける理由は()にはあっても私にはない筈」

「御前と────を重ねていた。…………(いや)、何でもない。忘れてくれ」

 

 何故か、目の前の八幡()の表情が鏡花の目に焼きついてしまった。理由は鏡花でも判らなかった。唯、其の顔は慈愛に満ちているようであり、悲哀に満ちているようでもあった────鏡花には判らなかった。

 

「何処か行きたい処はあるか?」

「…………お腹すいた」

「飯か。……何処が良い?」

「橘堂の湯豆府」

「…………マジ?」

「うん。口止め料。大事」

「…………判った。支度しろ」

 

 そう云って八幡は医務室を出て行った。鏡花はそそくさ着替えた。鏡花の口元に笑みが浮かんでいた事は誰も知る由もない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 AM9:00《橘堂》

 

「お代わり」

「畏まりました」

 

 鏡花は張りのある声で店員に湯豆府の追加を頼んだ。目が輝いてる鏡花と相反して顔を青くさせている三人の男。

 

 中島敦、国木田独歩、そして比企谷八幡である。

 

 如何せん此処の老舗、美味しいが高いのである。其れを知って来た八幡と国木田はまだしも敦は値段のあまりの高さに驚愕で顔を引きつらせている。そして問題はある所へ行き着く。

 

(((誰がこの子の分を払うのだろうか)))

 

 順当にいけば八幡が払うのが妥当だと国木田と敦は思っている。だが八幡の云い分はこうである。

 

(まぁ連れて来た俺が払うのは妥当かもしれない。其れについては弁明できない。だが結局、探偵社と云う()()で鏡花を保護したのだから誰が払っても文句はあるまい。いやまぁね、俺も金銭的に今月危ないんですよ。後輩に奢ったり、ここ一ヶ月、毎日()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 八幡はそう思い、後輩たちへ視線を送る。国木田は知らぬ存ぜぬの態度である。国木田の云い分はこうである。

 

(厄介事を拾ってきた小僧が払うのが妥当だろう。……然し何故俺は八さんに呼ばれたのだろうか)

 

 そう思った国木田は新人である敦に視線を送る。敦は先輩二人に視線を向けられるが首を横に振る。此の値段を払えば今月が厳しいからだ。

 

(確かにこの子を助けたのは僕だけどさ……僕、値段とかなんにも聞いてないンだけど!? 態と八幡さん黙ってたの? 若しかして国木田さんも知ってて黙ってた……?)

 

 訝しみの視線を送り返す敦。先輩二人と視線が交錯する。

 三人は個室から出ていき、廊下で声量を落として、誰が鏡花の分を払うかについて話し合った。

 

「小僧、御前が払え」

 

「えぇっ。其れはないですよ。だって国木田さんと八幡さんは知ってて黙っていたんでしょう? 大体、八幡さんが行き先も伝えずに連れてきたのが悪いンじゃないですか!」

 

「確かに此処に連れてきたのは俺だ。だがノコノコ付いてきた敦も悪い。国木田も含めてな」

 

「なっ俺もですか! 其れは流石に」

 

「御前が酔った時に録画した動画。御前が自身の恋愛の価値観についてひたすら語っていた動画だが太宰に渡してもいいのか?」

 

「小僧、御前が払え。八さんは悪くない」

 

「ちょっ国木田さん!? 此処は公平に()()で行きましょうよ!」

 

()()……か。八さんは()()で善いですか?」

 

「仕方ない。流石に後輩に押し付けるのは気が引ける」

 

(どの口が云ってんですか!!)

 

()()でいこう。誰が勝っても負けても文句はなしだ。善いな?」

 

「「はい」」

 

 

 辺りが緊張に包まれる。三人は拳を隠し他の二人の様子を窺う。そして一斉に口を開いた。

 

 

 

 

 

「「「ジャンケンポン!!」」」

 

 

 

 

 

 

『グー』………………敦

 

『パー』………………国木田

 

『パー』………………八幡

 

 

 

 

 

 

 

「うわぁぁぁぁ!!」

「文句無し、だからな。小僧、今月は節約頑張れ」

「心理学的にパーの勝率は高い。声を出すと自然に力むからグーを出す。作戦勝ちだな」

 

 先輩二人の大人気ない行為に敦は嘆く。敦が廊下で藻掻いている内に二人は個室へと戻った。

 個室では一人淡々と湯豆府を幸せな顔をして口に運ぶ鏡花の姿があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 AM10:00《横浜市》

 

「食べ過ぎた」

「…………そうだね」

 

 諸々の支払いを済ませた敦は鏡花と共に街へ出ていた。国木田は武装探偵社から危急の連絡があり、社に戻った。八幡は別件の仕事があるらしく、国木田と別方向に歩き出した。

 高級な湯豆府を食べ、満足げな鏡花とは打って変わり、敦は今月の厳しさにため息が漏れていた。加えて国木田の言葉。

 

『軍警の屯所へ連れていけ』

 

 敦は国木田から鏡花の顔が知れて捕まるのは時間の問題だと聞かされていた。加えて三十五人殺しなら間違いなく死罪だとも。だからと云って鏡花の不幸を肩代わりする覚悟は敦は持ち合わせて無かった。

 

「?」

「あ、(いや)、何でもない。行こう」

「何処へ?」

「え?」

「私を何処へ連れていくの?」

 

 首を傾げる鏡花に目を逸らす敦。

 

「え、えーと君が行きたくなる処だよ。い、行きたい処ない? ほらあのその、君くらいの子が好きな処! 例えば 逢引場(デートスポット)とか!」

逢引(デート)?」

「うん」

「貴方と?」

「うん。…………ん? あっ! あいや其の」

 

 鏡花は小さく頷いた。

 其れを見た敦は顔が紅潮するのを感じた。

 二人は羞恥から顔を伏せた。口を開いたのは敦ではなく鏡花だった。

 

「行こう」

「は…………はい」

 

 

 

 

 

 

 

 

《赤レンガ倉庫前》

 

「食べたい」

「で、でも先刻(さっき)、あれだけ」

「別腹」

 

 二人は巷で有名だと云われているクレープ屋に寄った。(ナオミ談)

 頼んだのは鏡花だけであった。鏡花のクレープは苺、生クリーム、ブルーベリーに苺のアイスクリームなど盛り沢山だった。

 まぁ其の分、敦の財布の中身が寂しくなる訳で。

 其れでも目を輝かせ、頬張る鏡花を見た敦は胸がスッと軽くなって自然に笑顔を浮かべていた。

 

 

 

 

 

《よこはまコスモワールド》

 

「ぐぬぬぬぬ……取れない」

「……」

 

 二人は“よこはまコスモワールド”の園内のゲームセンターに来ていた。

 敦は“うさぎの縫いぐるみ”を必死にUFOキャッチャーで取っていた。理由はゲームセンターで鏡花が此の“うさぎの縫いぐるみ”に釘付けになったからである。

 

「……!!」

「よし! 後少し! もう一回!」

 

 “うさぎの縫いぐるみ”が穴にギリギリまでよった。二人とも両手をグッと握りしめている。

 “うさぎの縫いぐるみ”はアームによって持ち上がって、そして……

 

 

「取れた!! やった! ……はいどうぞ」

「…………良いの?」

「うん。だって君の為に取ったンだから」

「…………有難う」

「どういたしまして!」

 

 鏡花は“うさぎの縫いぐるみ”を受け取ってギュッと抱き締めた。口元には笑みが零れていた。釣られて敦も笑顔を浮かべた。

 

 其のあと二人は“コスモクロック21”と云う大観覧車に乗った。横浜の景色を一望した。鏡花は見た事のない景色に胸を踊らせた。敦は景色よりも表情がコロコロ変わる鏡花を眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

《港の見える丘公園・山下公園》

 

「薔薇かぁ……綺麗だね」

「うん」

 

 公園は小高い丘になっている為、港と其の先にあるベイブリッジを望めることが出来た。

 二人は薔薇の植栽を眺めた。鏡花は薔薇だけでなく他の花を愛でた。其の姿は“三十五人殺し”と云う物騒な二つ名が似合わず、年頃の可憐な少女そのものだった。

 

 二人は花を愛でた後、ベンチに座った。群がってくる鳩に餌をあげる。其の光景は微笑ましく、敦は此の儘、続くものだと思った。

 

 ────そんな甘い現実など存在しない。

 

 敦は鏡花が最後に行きたいと行った場所に付き添った。其の場所は“港の見える丘公園”にほど近い場所だった。

 

「なん……で?」

「もう十分、楽しんだから」

 

 鏡花が最後に行きたかった場所。其れは『港の見える丘公園前派出所』、つまり自首しに来たのだ。捕まえられれば死罪だと知りながら。

 

「でも! 捕まれば君は死罪で」

「マフィアに戻っても処刑される。其れに……三十五人殺した私は生きていることが罪だから」

「そ、其れは」

 

 ────ドスッ。

 

「……な─────ッ!」

 

 敦の背から胸にかけて漆黒の鋭利な槍が突出している。背と胸、血が吹き出し、吐血する。

 そして響く、冷徹な声。

 

「────処刑?」

「あ…………」

「処刑などせぬ。御前は任務を為果(しおお)せた」

 

 ────芥川龍之介。

 騒ぎを感じた派出所の軍警は芥川に銃を向ける。だが重火器など無意味な芥川は黒外套を蠢かせ軍警の喉を躊躇いもなく掻き切った。一瞬にして血の雨が降る。

 

「鏡花。御前の任務は『餌』」

「えっ……」

「御前には発信機が埋め込まれている。居所は筒抜けだ」

 

 (たお)れた敦を芥川は黒外套を使い、貨物自動車(トラック)の荷台に放り込んだ。貨物自動車(トラック)は何かしらの工作員によって発車される。

 

「帰るぞ」

「……」

 

 鏡花は何も出来なかった。芥川の命令通りに動いた。そうする事しか出来なかった。

 現場には敦の血に(まみ)れた“うさぎの縫いぐるみ”だけがぽつんと残された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 同時刻《元町・中華街》

 

「くそがッ! 手が速過ぎる!」

 

 八幡は八幡(ヤハタ)の方の携帯に送られてきた任務完了書面(メール)を見て叫んだ。

 

(白昼堂々やるとは……手段を選ばな心算(つもり)か芥川…………)

 

 八幡は普段使っている方の携帯にも書面(メール)が届いている事に気付いた。

 内容は《省庁幕僚の護衛依頼》。社が上から下へ大騒ぎなので手を貸してくれと云う内容だった。つまり、運の悪いことに敦の搜索に割ける人員がいないのだ。

 

(輸送先は間違いなく外国(とつくに)だ。ならば港に先回りする方が早い)

 

 八幡がそう思い当たった矢先、全身を黒外套(スーツ)に包み込み、遮光眼鏡(サングラス)を掛けた屈強な男たち、十人が八幡を取り囲んだ。間違いなく“ポートマフィア”だった。

 

「おい、退()けよ」

 

 “ポートマフィア”の男たちは無言を貫く。

 我慢の限界を迎えた八幡が目の前にいる男に一歩踏み出した時、ポートマフィアの十人は()()の通り道になるように左右に分かれ、整列した。

 

 八幡に向かってゆっくりと歩いてくる小さな人影が一つ。

 其の容貌は少女、(いや)、幼女で真紅の美飾服(ドレス)を身に纏い、照り輝く金髪は先の方がウェーブ掛かっている。

 

 何処か人形染みた其の少女は、八幡に向かって笑顔を浮かべ、口を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「リンタローが呼んでる。付いてきて」

 

 

 

 

 

 

 

 

 




与謝野女医かと思った?残念、幼女でした!

お読みいただき有難うございます!今回は少しだけギャグも入れてみたりしまして・・・ハハハ。

この章も残すところ五話を切りました。第二章完結まであと少し。どうにか駆け抜けたい所です。

感想欄にて此の二次小説の八幡にあっている曲があると紹介させていただいたりとモチベがあがる感想が多くてとても嬉しいです。

あ、因みに此の小説の八幡のイメージソング。ありますよ?その曲が大好きで大過去編のプロットを書いたりしましたから。

ではまた次回。感想評価お待ちしてます!

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