和を嫌い正義を為す   作:TouA(とーあ)

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新年、明けましておめでとう御座います!

今年も私、TouAと此の作品をよろしくお願いします!!


何故このサブタイにしたのかは話を読んで頂けると分かって下さると思います。読み方は・・・・・・読者の皆さんにお任せします。

この回はこの章の《大事な回》です。殆どの伏線を回収します。

※この話を読む前に“檸檬”の話を読んで頂けるとわかり易いと思います。

新年一発目は“大過去編”から入ります。

ではどうぞ!




八幡

 十二年前《廃寺》

 

 

 二人の兄妹が縁側に座っている。妹は兄の肩に頭を乗せ、兄はそんな妹を優しい眼差しで見つめている。

 

『お兄ちゃん、風が気持ちいいね〜』

『あぁ』

 

 夏が過ぎ、比較的過ごしやすい秋の訪れを身に染みて感じるこの時期。兄妹は暫く縁側で駄弁っていた。

 

『小町……此処は楽しいか?』

 

『もぅ心配性だなお兄ちゃんは。楽しいに決まってるよ! お兄ちゃんがいて、親友の奏恵(かなえ)ちゃんがいて、お兄ちゃんのお嫁さんのしーちゃんがいて、優しい時任(ときとう)先生がいて、あと、尚樹君もいる。小町は此処に来て本当に良かったよ!』

 

 莞爾とした笑みを浮かべる小町に対して、苦笑する八幡。

 

紫苑(しをん)が何故、俺の嫁になっているか知らんが違うからね? そんな予定ないからね? 判ってる?』

『必死過ぎるよお兄ちゃん……まぁ認めたくないだけなんだろうけどさ』

『何だって?』

『何でも無いよ〜。あのね、お兄ちゃん』

『ん?』

『お兄ちゃんは何時までも優しく在ってね。小町との約束。判った?』

『何だそりゃ……まァ判ったよ。妹の頼みだからな』

 

 小さく呟く妹の小町の頭に手を乗せる兄。時間はゆっくりゆっくり流れて行く。其の時、後ろの障子がゆっくり開いた。

 

『私も其れが聞けて嬉しいです。ゴホッゴホッ……』

『先生!? 寝てて下さいよ!』

 

 時任(ときとう)先生、と呼ばれる壮年の男は兄弟の隣に腰を下ろした。自身の手で口を抑えながら穏やかな笑みを浮かべた。

 

『君達が此処に来て、はや数年。此処も明るくなりました。何時(いつ)も明るく頼りになる小町と皆のお兄ちゃんの八幡。私は君達と出会えて本当に良かった』

『先生、布団に戻りましょ!』

『善いンですよ、小町。病は気から、と云うでしょう? こんなに気持ち良いのに外に出ないのは勿体無い。私を看てくれる知り合いの町医者もそう云ってましたし』

『お兄ちゃん!』

『諦めろ小町。こうなったら梃子(テコ)でも動かん』

 

 小町の思い遣りは蒼白の顔色をした時任にとっても嬉しいものだった。

 其れでも決めごとについては貫く姿勢を崩さないことを八幡は勿論、小町も知っていた。

 

『ぐぬぬぬぬ……もう! 小町は夕飯の支度するから先生は冷えない内に布団に戻ること! お兄ちゃんは先生を見張ること! ()い!?』

『判ったよ……』

『はい。判りました。夕飯楽しみにしていますね』

『全くもう! 全くもう! 全くもう!』

 

 小町は地団駄を踏みながら離れて行った。二人は苦笑いを浮かべる。

 

『小町は()いお嫁さんになります』

『そうですね。出す気は(チリ)ほどありませんけど』

『相変わらずですねェ君は。八幡は如何(どう)なんです? 紫苑(しをん)とは』

『小町といい先生といい……別に俺は……』

『はぁ……現実から目を逸らすと後で後悔しますよ』

『────だから俺は』

『八幡。一つ善い話をして上げましょう』

 

 言葉を発しようとした八幡を時任は気迫と声音で押さえ込む。

 

『私は厳しい祖父と優しい母のもとで育ちました。君が収めつつある“時任(ときとう)流”は祖父から受け継いだ物です。ですが或る日、私は重大な事実を知りました』

『重大な事実?』

『えぇ。私は()()()()()()()()()()()()()()()

『なっ!?』

 

 時任が八幡に身の上の事を話すのは初めてであった。

 驚きと同時に小町には聞かせてらんないなぁ、と心の中で呟いた。

 

『私は其の事実に苦悶し衝動的に家を出ました。幸いな事に此の“時任(ときとう)流”の御蔭で職には困りませんでした。まぁ任されるのは殆ど()()()()でしたが』

『俺達を養うお金は何処から来ているのかと思ったら先生の貯蓄だったのか……』

『其の通りです。其の仕事ばかりの生活にも一筋の光が指しました。妻と出逢ったのです』

『……は? 先生結婚してたンですか?』

『えぇ。妻には本来の仕事を隠しました。妻に不自由させぬ様、私は以前よりも積極的に仕事に取り組みました。然し妻を一人煢然(けいぜん)とさせて居たのが間違いだったのか……妻は、私の従兄弟と過ちを犯しました』

 

 八幡は開いた口が塞がらなかった。其の八幡を一瞥し時任は淡々と話を続ける。

 

『其の事実を知った私は仕事に溺れ、休む事なく仕事をこなしました。そんな中、私は()()()()()()()。其れでも私は仕事をやめなかった。(いや)、辞められなかったのでしょうね……現実から、事実から、本質から目を逸らしました。今の誰かとそっくりです』

『……』

 

 バツが悪く、目を伏せる八幡。

 其の年相応の姿に時任は笑みを浮かべた。

 

『仕事をこなす内に“政府の五剣”の一人と呼ばれる様にもなりました。身も心もボロボロだった私は或る仕事でたった一人の女の子と出逢いました』

『真逆……』

『えぇ、紫苑(しをん)です。紫苑(しをん)の両親は所謂(いわゆる)ヤクザの会長(ドン)でしてね。私の仕事は両親諸共、其のヤクザ一家を始末する事でした。目的は政府の役人と関係(コネクション)があった紫苑(しをん)の両親の口封じでした』

『……紫苑(しをん)は其れを?』

『知っていますよ』

『────ッ』

 

 八幡が驚くのも無理はない。事実だけ見ると紫苑(しをん)は両親を殺した相手の世話になっているのだ。

 然し、一家諸共始末するのならば紫苑(しをん)も殺されている筈である。八幡はそう問うた。

 

紫苑(しをん)の両親は声上げる事無く死にました。他も同様です。そして最後の一人が紫苑でした。紫苑は両親や肉親の返り血で染まっている私を見て一言こう云ったのです』

 

『“なんで泣いてるの? ”……と』

 

 時任はそう云って八幡に微笑んだ。八幡は何となく其の後を悟った。唯、悟ったのは後の出来事だけで何故紫苑(しをん)を引き取ったのか、と云う理由までは判らなかった。

 

『身寄りの無くなった紫苑(しをん)を先生は引き取った。其の代わり、仕事失敗の烙印が押された』

『えぇ。貯蓄だけは人一倍有りましたから。友人から譲り受けた此の廃寺を改築して住みやすくしました。暫く過ごしている内に尚樹と奏恵(かなえ)を預かる事になり、そして新たに二人来ました。貴方たちです』

『……結局何が云いたいのか判りません』

『ゴホッゴホッ……(さき)の話で判りませんか?』

 

 八幡は首を横に振った。時任は仕方ないですね、と前置きし諭すように話し始めた。

 

紫苑(しをん)は君を裏切る様な子ではない、と云う事です』

『紫苑は優しい子です。其れは恐らく好意を向けられている君が一番理解している筈です』

 

『優しい女の子は……嫌いです。優しさを向けられる事自体が嫌いです。勝手に期待して、都合の良い幻想を押し付けてしまうから。優しさは俺にとって、楽園の林檎で禁断の果実なンですよ』

 

 何処か遠く見る目に時任は少年を優しく見守る。

 只、其れだけの事を彼等兄妹は経験していた。

 

『君は今でも両親の事を……』

『許せる訳ないでしょう? 俺達に囁いた愛も俺達が触れた優しさも(すべ)て嘘だった。彼奴(アイツ)等は自分達の借金を自分の子供の臓器で払おうとしていたンだからな』

 

 

 

 

 

 + + +

 

 

「アッハッハッハ! 御前達、本気で私達が愛していたとでも思っていたのかい? 御前たち兄妹は私達の借金の“引換券”サ! 私達の為に生まれて来てくれて有難な! 八幡!! 小町!! 天国で幸せになりな!」

 

「其れより小町。御前、躰がふっくらしてきたな……一寸(ちょっと)来い!! 俺が一から教えてやるよ!!」

 

「アンタ本気かい? じゃあ私は八幡を可愛がろうかねェ……」

 

「お兄ちゃん!! 助けて!! お兄ちゃん!!」

 

「小町ィィィィ!!!!」

 

 

 + + +

 

 

 

 

 

『許せる訳が無い。小町に二度とあんな顔させてたまるか……』

『君が力を求めたのは其の件が理由でしたね。小町を守る為に』

『はい。俺にとっては“信頼”は悪魔の囁きです。甘やかな響きを持つ言葉は俺にとって空虚な妄想に過ぎない。紫苑(しをん)達を疑う事を捨てれば自身の心の防御まで捨てる事になる。俺はあの惨劇を……二度と繰り返さない。絶対に』

『…………では八幡に質問します。答えなくても結構です』

 

 何時になく真剣な目をする時任に向き直る。

 

『君は力を付けました。恐らく其処らの暴漢程度なら片手で十分でしょう。では君ではなく、小町が襲われていたら君は如何(どう)しますか?』

『相手に人付き合いが精神的外傷(トラウマ)になるほどシメる』

『では紫苑(しをん)だったら? 尚樹だったら? 奏恵だったら? 君は如何(どう)しますか?』

 

『俺は…………』

 

『状況として、君を罠に嵌める為に彼等が協力している可能性が有ります。襲われているのが演技の可能性が有ります』

 

『俺、は…………』

 

 八幡は顔を伏せた。時任は肩を(すく)めて口元に笑みを浮かべ、八幡の頭に手を乗せた。時任はゆっくり優しく撫でる。

 

『八幡、其の悩みが答えですよ。悩んで、足掻いて、もがいて、苦しんで……そうやって出た答えが君の心です。精一杯悩みなさい。(いず)れ、過去と向き合う時、其の答えが君の支えになります────君の“本物”は直ぐ傍にあるのだから』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 現代《電車内 四車両》※全七車両

 

 

「先程はすみませんでした……」

「気にするこたァないよ」

 

 敦は与謝野に謝罪していた。理由は与謝野の買い物に付き添っていたら或る男に難癖をつけられ、与謝野の手を煩わせてしまった為だ。

 

「其れより敦。以前の事件で鼻の骨や腕の骨を折ったそうじゃないか。見せてみな」

「へ? (いや)何するンですか(は に ふ る へ ふ か)!?」

 

 与謝野は敦の鼻を触診する。鼻、腕と触診し、癒合痕と瘢痕が無い事を確認すると頭を抱える。

 

(再生と云うより……復元だ。奇異な事だよ)

「あ、あの何か問題でも??」

「別に。(アタシ)が治療できなくて残念だッて話しさ。其の前はマフィアにも襲われたンだろ?」

「はい……八幡さんが助けて下さいました」

「気をつけな。元来マフィアは奇襲夜討が本分だ。夜道にゃ気ィつけるンだね。何時、何処で襲ってくるか知れないよ」

「……はい」

 

 

 ウワァァァァァ!!!! 

 

 

「何だい!?」

「何ですかこれ!?」

 

 敦が顔を伏せていると三車両目から数人の乗客が流れ込んでくる。敦と与謝野は顔を合わせた。

 其の時、電車の放送(アナウンス)が流れた。流れた声は人々の心を掻き立てた。

 

『あァ〜こちら車掌室ゥ。誠に勝手ながらぁ? 唯今よりささやかな“物理学実験”を行いまぁす! 題目は“非慣性系”における“爆轟反応”および“官能評価”っ! 被験者はお乗り合わせの皆様! ご協力まァ〜〜〜っことに感謝! 先ずは之をお聞きください!!』

 

 ドゴォン!! と耳を劈く爆音が車内に響く。

 

『今ので数人は死んだかなぁ? でも次はこんなモンじゃありません! 皆様が月まで飛べる量の爆弾が先頭と最後尾に仕掛けられておりま〜す! ─────被験者代表 敦君!! 君が首を差し出さないと乗客全員天国に行っちゃうぞぉ〜〜〜?』

 

「なっ!?」

「云った傍から御出ましってワケだ。先程の混乱は之が原因か……」

 

 車掌とは異なる陽気な声に怒りを滲ませる与謝野と動揺する敦。

 

如何(どう)するンです!?」

「選択肢は三つ。一、大人しく捕まる。二、疾駆する列車から乗客数十人と一緒に飛び降りて脱出…………三」

「連中をぶっ飛ばす?」

「判ってるじゃないか。何しろ(アタシ)たちは武装探偵社だからねェ。(アタシ)は前、敦は後部だ」

「若し敵がいたら……?」

「ぶっ殺せ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 同時刻《車掌室》

 

 

「ヤハタ君。爆弾は仕掛けてくれたね?」

「はい。二車両目に仕掛けました」

「どんな人が居たンだい??」

「十歳前後の兄妹が二人と男女(カップル)が一組。後はOLが二人です」

「ボクの実験は犠牲が付きものだ。忘れない様に此の実験を成功に導こう。頼むよ? ヤハタ君」

 

 二人の喋っている車掌室に血みどろの車掌が一人転がっている。電車は止まらず走り続けている。

 

「ボクは探偵社のご婦人を迎えに行こう。君は此所で爆弾を死守してくれ給え」

「承知しました。お気を付けて」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《三車両目》

 

 

「うわぁぁぁん!」

「ほら泣き止んでよ。大丈夫だから。兄ちゃんが傍にいる」

 

 与謝野は四車両から三車両に移った。三車両には妹をあやす兄がいた。年は十歳前後だろう。与謝野は兄妹の傍に駆け寄った。

 

如何(どう)したんだい?」

「前から逃げてる途中に妹が()けちゃって……」

「ひぐっひぐっ……」

 

 与謝野は妹の足を診る。少しだけ擦りむいていたので鞄から絆創膏を取り出し優しく貼った。与謝野は気になった事を兄に聞いた。

 

 

「ねぇ逃げて来たと云ったけど誰からだい?」

「帽子を被った男からだよ! 銃を持ってて、『殺されたく無かったら此処から下がれ!!』って云ったンだ。でも爆弾から逃れる事が出来たから良かったよ」

「帽子を被った……? 有難う。お兄ちゃんはきちんと妹を守ってあげるンだね。爆弾は私に任せな」

「うん! ほら、行くよ!!」

 

 兄は妹を立たせて走り出した。四両目にはいった事を確認した与謝野は爆発のあった二両目に足を向けた。

 

 二両目には────死体が無かった。

 

 与謝野は見渡したが死体があった痕跡さえ無かった。随分と間抜けな愉快犯だねェ、と与謝野は思いながら一車両目に足を踏み入れた。

 

 

「果断なる探偵社のご婦人よ、ようこそ! そしてさようなら〜!」

「ッ!?」

 

 与謝野の足下に檸檬が転がる。瞬間、檸檬が爆発する。

 与謝野は危険を察知し、距離を取ったが爆風によりドアに叩き付けられた。

 

「おやおや誰かと思えば……有名人じゃないか」

「ほう? 驚きだなぁ。最近の女性は頑丈(タフ)だ」

(アタシ)からすりゃ、アンタみたいな指名手配犯がこんな所にいる方が驚きだよ。()()()()()()()()()()()()()()()()死んだと決め付けていたのにサ。なぁ? ────梶井基次郎」

 

「死んだとは酷いなぁ。ボクは“丸善ビル爆破事件”の首謀者だよ? 二十八人も殺したってのに」

 

「何だい其の事件は。一度も()()()()()()()()。“記憶”の片隅にも無い。そう云えば二車両目に死体は無かったよ。如何(どう)やらアンタの妄想は現実と区別がつかないくらい酷いらしい。(アタシ)が診てやろうか?」

「……何だと? 二車両目に死体がない? そんな莫迦(バカ)な事が……。其れに事件を知らない……? そ、そう云えば…………」

 

 

 

 

 + + +

 

《数日前》

 

『仕事ですか?』

 

『あぁ。“人虎”を捕らえてこい。最近、()()()()()()()()手前(テメェ)。少しはマフィアに貢献しろ』

『え……』

『芥川に“35人殺し”を借りた。協力して捕らえて来い。俺は放浪者(バカボンド)に会いに行く。ハッハッハッ楽しみだぜ』

『承知しました』

 

 

 + + +

 

 

「まるでボクが活動していない事になっている? あんなに大きな事件を起こしたのに? そんな莫迦(バカ)な事があるか!!」

如何(どう)やらアンタと(アタシ)の“記憶”は()()()()()()()様だねェ」

 

 頭を抱える梶井に呆れた視線を送る与謝野。

 相互の“記憶”は大きな所で食い違っていた。

 

「新聞やTVで放送されてないのは報道規制が掛けられているからだと思っていた……違う……のか? ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……と云う事なのか?」

「無様だねェ。妄想に捕らわれて抜け出せなくなっている」

「妄想なんかじゃない!! ボクは、ボクは此の一年間で数十件にも上る爆破実験を行った!」

「知らないねェ。アンタは一年以上前から活動をパッタリやめてるよ。アンタが犯人だと思われる事件は一つも無い」

「巫山戯るな!! そんな事があってたまるか!! …………あ、そうだ、そうだよ! ヤハタ君はボクが行っている実験を知っている!!」

「ヤハタ…………だって?」

 

 

 戸惑いから溌剌とした感情を吐露する梶井。

 信頼する部下を口にすると、梶井は与謝野へ唾を飛ばす。

 

「そうだよ!! ボクの部下のヤハタ君だ!! 彼なら証明してくれる!」

「ヤハタ、ヤハタ……ねェ。アッハッハッハッハッ!!」

「な、何が可笑しい!?」

「ヤハタか、そうか、ヤハタか! 納得したよ。アンタなら納得がいくよ。其れにしてもヤハタって……もう少し良いの無かったのかい……?」

 

 

 

「うるせぇよ…………」

 

 

 

 梶井の背後に車掌室から出てきた八幡(ヤハタ)が立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 同時刻《六車両》

 

 

「君、危ないよ!! そっちには爆弾が!」

「……」

『御前の任務は爆弾の死守だ』

 

 敦は四、五車両目に逃れる人の流れに逆らい、爆弾があるとされる七車両を目指していた。

 敦同様に逆走する少女が居た。敦は危険を知らせるが少女は耳に携帯を当てたまま爆弾の元へ走る。

 

 

「早くこっちに!」

『邪魔者は殺せ。“夜叉白雪”!』

「なっ!? グァッ!!」

 

 振り向いた少女に手を差し伸べた敦は目の前の事実に驚愕した。

 少女の背後に禍々しい女性の幻影が具現化されていた。其の幻影は大人よりも丈高く、少女の身長程ある刀を携えていた。

 其の幻影……“夜叉白雪”は具現化されると同時に敦の脇腹を刀で刺突する。

 衝撃で弾き飛ばされた敦は脇腹を押さえながら立ち上がる。顔は苦痛でゆがんでいた。

 

『敵の(ことごと)くを斬り刻め。“夜叉白雪”』

 

 少女の持っている携帯から無機質な声が“夜叉白雪”に命令を下す。“夜叉白雪”は其れに呼応する様に敦に襲い掛かる。

 

 ────閃光が走る。

 

 “夜叉白雪”を捉える事が出来ない敦はされるが儘に斬り刻まれた。敦の躰の至る所から血が吹き出す。其れを見ても少女は顔色一つ変えない。

 

「何故…………君みたいな女の子が……?」

「私の名前は“鏡花”。貴方と同じ孤児。好きな物は兎と豆府。嫌いな物は犬と雷。マフィアに拾われて六ヶ月(むつき)で三十五人殺した」

「君が三十五人……殺し」

『爆弾を守れ。邪魔者は殺せ』

 

 携帯からの声で“夜叉白雪”は再び敦に襲い掛かる。敦は避ける体力はなく其のまま斬られ、五車両に繋がるドアまで弾き飛ばされる。

 

「ガッ!!」

 

 敦は立ち上がる気力も無くなりかけていた。少女……鏡花が近付いて来るのが判っていても立ち上がれなかった。刻々と近付く命の終わりに抗えぬと諦めてかけていた。

 

(僕の所為(せい)で……僕と同じ電車に乗った其れだけの所為(せい)で……みんな死ぬ)

 

 窮地に想起するは“芥川”と孤児院の院長の胸を抉る言葉。

 

『────貴様は生きているだけで周囲を損なうのだ』

『────誰も救わぬ者に生きる価値など無い』

 

 其の時、敦の視線に飛び込んで来たのは五車両に逃げ込んだ乗客の姿。

 

 悲痛な面立ちで敦を見る人々の顔。

 指を組んで何かに祈る人々。

 小さな子供を抱いている親。

 泣く彼女を慰めている恋人。

 今にも泣きそうな顔をする子供たち。

 

 敦は唐突にある発想(アイディア)が浮かんだ。莫迦(バカ)げた発想(アイディア)だと自分でも思った。然し頭から離れなかった。

 

 

(万が一、僕が乗客(彼ら)を────)

 

(彼らを無事家に帰せたなら────)

 

(そうしたら僕は────)

 

(生きていても良いって事にならないだろうか?)

 

 

 

 敦は立ち上がる。

 

 

 Reason Living(生きる理由)を求めて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




いい所で終わらせてしまい申し訳ない。

新年一発目はどうでしたか?サブタイは皆さんはどう読みますかね?

次回は、大過去編と此の続きですね。

ここでもう一度、新たに判明した大過去編の真実を含めて人物をまとめます。



◎比企谷八幡《14歳》親を恨む。小町を守るため、時任に教えを乞うた。

◎比企谷小町《12歳》 八幡の妹。父に襲われそうになった所を・・・(次回判明予定)

◎紫苑(しをん)《14歳》
能天気で天然。口癖は“なぁなぁ” 。14歳の割にグラマラス。
ヤクザの頭領を張っていた両親を先生によって殺される。其のあと先生の世話になる。(次回このときの心境を説明する予定。)

◎奏恵(かなえ)《12歳》
大人しく、とても優しい。弟に甘い。小町と親友。

◎尚樹(なおき)《8歳》
超元気。小町大好き。将来の夢は“パイロット”。奏恵の弟。

◎先生(時任謙作)《43歳》前“政府の五剣”の一人。
比較的優しい。孤児を育てている。孤児院では無く、友人に譲ってもらった“廃寺”で六人暮らし。
とんでもない過去の持ち主。かなり前から肺を患っている。




私の今年の抱負は・・・

UA3万越え。お気に入り400越えです。
そして三月までに二章の完結。


ではまた次回お会いしましょう。

感想評価待ってます!!

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