和を嫌い正義を為す   作:TouA(とーあ)

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《あおおう》と読みます。
原作小説はこうルビをふってました。 僕は普通に《そうおう》って読んでましたけど・・・。違うみたいですね。


プロットが消える前は三話構成だった筈が、新たに書いてみると四話構成に・・・。何でや。


第二章 十話 《蒼の使徒編》 三話どうぞ!




蒼王

 

「さぁ取引と行こうか」

 

 

 

 八幡は芥川を見据えて云い放った。

 芥川の周りには警察車両(パトカー)を盾に市警が銃を構え取り囲み、或る程度離れた倉庫の二階からは“軍警”の狙撃手(スナイパー)部隊が照準機(レーザーポイント)を芥川の躰に射出している。

 

 

───総勢十名余り。

 

 

 国木田は其の光景を見て、唖然とした。然し『運転手の捕縛』と云う最優先事項を思い出し、我に返り運転手と太宰を追った。同時に芥川がゆっくり口を開いた。

 

 

「此の程度、(やつがれ)の手に掛かれば・・・」

 

「動くなと云っただろう。今動けば、急所を外しつつ蜂の巣と化して、()()()()()()()()()()()()、豚箱行きだ。何なら拷問もハッピーセットで付けてやる。勿論、玩具は御前自身だがな」

 

 

 芥川は理解させられた。照準機(レーザーポイント)()てられているのは即死しない人体の箇所のみ。周りの市警を見ても“禍狗”である芥川の前であっても誰1人動じて居る者はおらず熟練度が高い事が伺えた。

 “空間断裂”と云う手はあった。だが────。

 

 

(無駄か・・・)

 

 

 絶対防御と云われる“空間断裂”にも弱点はある。其れは発動に時間が掛かる事であり速度(スピード)で押されると弱い事だ。発動に時間が掛かると云ってもコンマ数秒だ。だが姿が見えないだけで市警や軍警が潜伏している可能性は十分あり、意識外から消音機(サイレンサー)付きの銃で狙撃されれば防ぎ用が無い。

 加えて、囲んでいる市警を『羅生門』発動し、喰い殺そうとしても目の前に居る“比企谷八幡”と云う男に無効化される事は判り切っている事であった。

 

 故に芥川の選択は一つしか無かった。

 

 

「・・・取引内容は?」

 

「此方が要求するのは一つ。金輪際、運転手にポートマフィアは手を出さない事。代わりに提供するのは“芥川龍之介の身命”と其処に転がっている御前の部下達の身命。悪くないだろ?」

 

「三十六計逃げる如かず・・・か。判りました。此処は大人しく引きましょう。ですが一つだけ伺いたい」

 

「何だ?」

 

「何故、民間企業如きが()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 

 芥川の疑問は最もだった。“武装探偵社”と云う、少しだけ特殊な民間企業が“市警”と“軍警”と云う国の警察機関と治安維持を主とした憲兵、つまり()()()()()()を指揮している。之はどう考えても異質な光景だった。伝手(ツテ)が有るとしても此の光景は有り得ない物であった。

 

 

「簡単な話だ。今、俺と御前が為果(しおお)せた事を国家機関を巻き込んでしただけだ」

 

「…何?」

 

「安心しろ。此の体勢は此の一連の事件が終わる迄だ。だからポートマフィアが気負う必要も武装探偵社を目の敵にする必要もねぇよ」

 

「・・・では」

 

各部隊、手を出すな。死にたく無かったらな。

 

『『了解。』』

 

 

 芥川は八幡に一瞥もせず歩き出した。照準機(レーザーポイント)が消えても振り返る事は無かった。国木田に倒された部下達ものそのそと起き上がり互いを支え合いながら芥川の後を追った。

 其の後に別動隊の軍警から『運転手を捕らえた』と云う一報が入った。

 

 一難去った倉庫街は非道く寂しい雰囲気を醸し出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「其れにしても驚きましたね。市警に連絡する前に軍警が居て運転手を捕らえていたンですから。運が良かったです」

 

「違うよ敦君。運じゃない。裏を読んだ立派な策さ。ね?国木田君」

 

「あぁ。恐らく八さんが何重も罠を仕掛けていたんだろう。八さんは石橋叩き過ぎて壊すくらい慎重で冷静だ。・・・さぁ着いたぞ。臓器密売人が取引に使っていたビルだ」

 

 

 三人は或る廃ビルに来ていた。其の廃ビルの壁は焼け焦げ、元のビルの形は見る影もなかった。そして・・・国木田にとっては哀愁の念が漂い、自責の念が駆ける因縁深い場所でもあった。

 

 

「此処は嘗て“蒼き王”が自滅した場所だね」

 

「・・・あぁ」

 

 

 

 

 

 “蒼き王”とは政府施設を狙った襲撃・破壊事件────。

 

 

 《蒼色旗の反乱者(テロリスト)事件》

 

 

 と云う国内の単独犯罪者としては規模・影響共に大戦後最悪の反乱者(テロリスト)と云われた事件の首謀者である。

 蒼色旗を掲げる前、蒼王は唯の優秀な国家官僚だった。中央文官として行政と立法の世界に青雲の志を抱く極当たり前の青年だった。何故、破壊に依る粛清を始めたのかは真相は定かになっていない。

 或る日、国内の放送局に一本の録画映像が送り届けられた。其れは染め抜きの蒼色旗で顔を隠した青年に依る犯行声明だった。

 

 

『吾らが如何に希求しようとも、隣人は病み、父母は死に、悪人は極一部しか裁かれぬ』

 

『ならば希求しよう。“理想”の世界を』

 

『神の御手ではなく、不完全な吾らの血塗られた手に依って』

 

 

 此の宣言と同時に、国内三箇所の政府施設が攻撃された。市警関連施設への放火、走行自動車へと追突、軍警屯所への爆破である。

 後の調べで、攻撃の被害者はそれぞれ八人を殺したが検察の書類不備で無罪となった殺人犯、途上国難民支援予算を私的に着服されたと噂される与党議員、若き憲兵員を暴行の末殺し組織的に隠蔽したとされる軍警小隊だと判明した。そして其の全員が死亡した。

 蒼王は法で裁かれぬ犯罪者を犯罪行為に依って断罪した。

 此の電撃作戦には誰もが驚愕した。警備厳重、高度な防御網を敷かれた政府施設を同時複数破壊したのだ。其の後も蒼王の犯行、断罪は繰り返された。

 完全に面目を失った軍、及び政府当局は蒼王の速やかな発見と捕縛を全国に指示した。探偵社にまで応援要請が及んだ。

 

 

「あの事件ですか・・・一時期新聞で大きく載ってましたから覚えてます。確か警察に追い詰められ自決したとか」

 

「・・・正確には違う。軍や政府から応援要請が及んだ探偵社は追跡の末、(つい)に奴の潜窟(アジト)を見つけ出す事に成功し、市警に報告した。其の時、市警に潜窟(アジト)発見の報を入れたのは俺だ」

 

「え・・・」

 

「当時、あの事件は軍警、市警が合同で動いており、指揮系統が入り混じって混乱していた。蒼き王は警察の動きに勘づき、高性能爆薬(ハイエクスプロオシブ)を抱えて此処に立て籠もった」

 

 

 当時の出来事は国木田にとっての戒めの楔の一つとなっていた。電話口の怒号、捕縛せよ、待機せよ、突入せよ、飛び交う矛盾した指令は国木田の耳に未だに残っている。

 

 

「混乱した指示の所為(せい)で素早く現場に駆けつけた現場刑事は僅か五名。彼等に出された指令は速やかな突入と制圧。・・・だが世間を震撼させた凶悪犯“蒼王”相手に、特殊部隊でも無い異能者でも無い五名に何が出来る?」

 

 

 然し現場の人間は全体を把握出来ない。上に突入と云われれば、そうするしか無いのだ。国木田は拳を握り締めて云った。

 

 

「結果、犯人は追い詰められ、爆弾に点火して爆死。犯人も五人の刑事も全員死亡だ」

 

「思い出したよ国木田君。其の時殉職した刑事さんの一人が、あの六臓少年の父親だよね?」

 

「・・・俺が殺したようなものだ」

 

「違うでしょ!自爆した犯人が悪いですよ!」

 

「そうかも知れん。幼い頃に母親を亡くした六蔵は父親と二人暮らしだった。だがもう居ない。其れだけが事実だ。誰かが父親の代わりに奴を見守り、時に拳骨を落としてやらねばならん。俺には偶々其れが出来る。ならば好都合だ」

 

「国木田君は浪漫主義者(ロマンチスト)だね」

 

 

 太宰の言葉に国木田は首を振り、廃ビルを再度探索した。すると一つだけ異質な部屋・・・いや何かの製造現場の部屋を見つけた。其の部屋には一台のPCが置かれてあり、或る文が表示されていた。

 

 

「探偵社への依頼文だ。依頼人は“蒼の使徒”・・・」

 

「成程ね・・・内容は?」

 

「依頼は爆弾解除。明日の日没までに爆弾を解除せねば数百人が死ぬ・・・今日、明日の午前は各自調査だ。正午、会議を開く。遅れるなよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

正午《武装探偵社・会議室》

 

 

『“蒼の使徒爆破予告事件”第一回捜査会議』

 

 

 

「現在、正体不明の犯罪組織による市街地爆破予告及び、探偵社への醜聞攻撃が発生しております。手元にある資料が現場に残されていた脅迫者の依頼文です。読み上げます」

 

 

 

 謹啓

 

 僭越ながら、この横浜市内某所に、大容量の殺傷爆弾を設置させて頂きました。

 猶、此の爆弾の刻限は明日の日没であり、其の期限までの事件解決を強く所望する次第です。

 弊方にて製造させて頂きました此の爆弾は、さる事件にて百余名の尊き人命を奪った物と同じで御座います。太陽が落下したかの様な白光と消えぬ炎。居並ぶ建物は根刮ぎ崩れ、人々は焼けながら逃げ惑い、路面は融解し、吹き飛んだ車輌が建物に刺さって燃え盛り、誠に地獄の様相で御座いました。

 つきましては、市政の安全のため、此の爆弾を速やかに発見、除去して頂きたく、御依頼申し上げます。

 

 敬白 蒼の使徒

 

 

 

 

「胸糞悪い文面だねェ。槍でも大砲でも、そよ風同然の探偵社だが、この手の攻撃にはどうしたって弱いからね」

 

 

 与謝野が吐き捨てた。現在此の会議には、進行の国木田を中心とし、敦、賢治、与謝野、そして社長である福沢が参加していた。

 

 

「乱歩さんとは連絡付かないンですか?」

 

「今朝、連絡が付いた。九州の事件も佳境のようだ。此方へ戻る手筈だが日没迄に戻るかは厳しい」

 

 

 賢治が手を挙げ疑問を定義し、福沢が腕を組んで応えた。其の時、会議室の扉が開き、一人の男性が入って来た。

 

 

「悪い、遅くなった」

 

「「八(幡)さん」」

 

「八幡、犯人についての目星は?」

 

 

 探偵社のお兄さんこと比企谷八幡である。手に人数分の書類を持ち会議室に入ってきた。

 

 

「犯人については未だ。だが犯行に使われると思われる爆弾と製造主は判明した。此奴だ。名は“アラムタ”」

 

 

 八幡は書類を人数分配り、一枚目の写真を指さした。其処には日系人の中東男性の写真が載っていた。

 

 

「では此奴が“蒼の使徒”・・・」

 

「いや、違うな。此奴は“蒼の使徒”じゃない」

 

「何故だい?」

 

「先ず此奴はテロ組織御用達の爆弾屋だ。態々日本で自身でテロを起こすメリットがない。之は運転手にも云える事だがな。まぁ確定的なのは之だな・・・」

 

 

 

「アラムタは今朝、()()()()()()()()()()()()()。軍警に依る調査で確認済みだ。死因は資料を見てくれ。」

 

 

 

 “ザキエル・アラムタ”

 死体に外傷なし。死因と成り得る外的変化一切無し。其の代わり皮膚の至る所に黒い文字が斑点の様に浮き出てている。数字の《00》。躰に無数に刻まれている。

 

 

「何だい之は・・・」

 

「判らん。判っている事は犯人に繋がる糸口が無いって事だ。要するに最悪な状況だな。口封じにアラムタが殺されたって判れば運転手は更に口を閉ざすだろう。正直云ってお手上げだ」

 

「全員聞け!今回の事件は、武装探偵社に対する卑劣な情報攻撃である。捜査対象は、蒼の使徒の発見。そして爆弾の除去だ。最優先は時間制限の有る爆弾である。之は武装探偵社の存続と、尊厳(プライド)をかけた戦いであると認識せよ。若し爆弾の発見叶わず尊き人命を失う事になれば我等に探偵社を名乗る資格は無い。捜査開始!!」

 

 

 社長、福沢の号令と共に全員が立ち上がり行動を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《武装探偵社1階 喫茶店“うずまき”》

 

 

横浜(こっち)は初めてでしょう?善かったら街を案内するよ」

 

「宜しいのですか?国木田様も、とてもお忙しそうでしたが」

 

「国木田君は仕事の鬼だからねぇ。知ってる?あの人十二時頃に約束すると、前後十秒の誤差で到着するらしいよ。列車みたいだよね」

 

 

 太宰は事件の被害者である佐々城を口説いていた。本人は否定するだろうがそうとしか見えない。そして国木田、敦、八幡が“うずまき”に来店する。

 

 

「探偵社の緊急事態に何を御前はお洒落逢引(デート)などして居るのだ!!あと俺の話を女性を口説く談話(トーク)のネタに使うな!」

 

「羨まし〜ぃ?」

 

「う、羨ましくなどない!!」

 

(羨ましいンだ国木田さん・・・)

 

「店長、何時もの珈琲」

 

 

 太宰と佐々城が向かいは合わせで座席に座り、其の隣の座席に向かい合わせに国木田と敦、カウンター席に八幡が座っている。

 

 

「彼女は殺されかけた事件の被害者だよ?彼女を警護しつつ、心の手当(ケア)をする事こそ、探偵社として喫緊の任務じゃないか。あと経験上、辛い目に逢って傷ついた女性と云うのは優しさと笑顔と包容力で落とせる」

 

「最後の台詞(セリフ)(すべ)で台無しだ阿呆。・・・一応、後でメモしておこう

 

「でも佐々城さんはお綺麗ですから恋人くらいは居るンじゃ・・・」

 

「其れがね敦君。唯一の恋人ともつい最近別れたとか。だから行けるよ国木田君」

 

「何がだ・・・」

 

 

 国木田は何が云いたいか判らないという顔を作る。そして強引に話を変えた。

 

 

「善いか太宰。俺がここに来たのは、朝の会議をサボった御前に状況を説明してやるためだ。俺と八さんが作った資料に目を通せ」

 

「確信してるよ。“蒼の使徒”の目的は探偵社潰しだ・・・ん?」

 

如何(どう)した?」

 

「いや何ね・・・。此の資料は如何(どう)やって手に入れたんです?比企谷さん」

 

「ん?」

 

 

 太宰はカウンター席に座っている八幡にアラムタの資料を向けて問うた。

 

 

「此のテロ御用達の爆弾屋である“アラムタ”の資料ですよ」

 

「其れか。軍警と市警を使って手に入れただけだが?」

 

「ふふ。御冗談は止して下さいよ?アラムタは()()()()()()()。軍警や市警が国外の爆弾屋の情報を知り得ている訳が無いでしょう?其の専門である佐々城さんでさえ、脅迫文に書いてあった『太陽が落下したかの様な白光』などと云う視覚的現実感(リアリティ)溢れる描写の爆弾を知り得て無かった。なのに何故貴方が情報を知っているンです?」

 

「・・・はぁ。其れを云った所で此の状況が変わるか?」

 

「・・・変わりませんね」

 

「なら、云う必要は無い」

 

 

 “うずまき”に重い沈黙が流れる。此の沈黙を破ったのは部外者で被害者である佐々城だった。

 

 

「差し出がましいかも知れませんが、“蒼の使徒”なる人物は、かの蒼色期のテロリスト事件”蒼き王”と関係があるのでは無いでしょうか?」

 

「矢張りそう思いますか・・・」

 

「若しかしたら、蒼き王本人かもしれません。警察に追われ自爆したという事ですが、死を偽装し、今も生きて居るのでは?」

 

「其れは無い」

 

 

 佐々城の意見に真っ向から反対したのは八幡だった。自然に八幡に視線が集まる。

 

 

「確かに此の事件は“蒼き王”に関係していると見て妥当だろう。だが“蒼き王”本人では無い。軍警を使って調べさせたが“蒼き王”が爆発現場で死亡した事は間違いないそうだ。同胞たる警官が殉職した場で軍警が間違いや見落としをする事は有り得ない。」

 

「なら、どうして探偵社にこんな攻撃をするンです?」

 

「簡単だよ敦君。嘗て蒼き王を追い詰めたのは、潜窟(アジト)を突き止めた国木田くんだ。恨まれているのだろうね。国木田君が」

 

(違う。国木田が突き止めたんじゃない。探偵社に()()()()()()()()()()()()()()()。そして()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。此の事件、“蒼き王”の裏には何か巨大な組織が居る。・・・此奴らにはそんな事云えないが)

 

 

 八幡が一人抱え込んでいる大きな懸念を察せる者は誰一人居なかった。其れどころか自分本位(マイペエス)の太宰は此の状況下でも国木田を弄っている。

 

 

「相手の正体が判る迄は警戒したほうが良いね。佐々城さんも、安全の為に匿わないと」

 

「其れは許さんぞ、太宰!!」

 

「何の事?」

 

「護身、安全の為と言いくるめ、ご婦人を自分の部屋に囲い、連日連夜に及んで其の様な淫奔な、いかがわしい、獣か貴様。全くけしからん。恥を知れ!!」

 

「何か勘違いしてない?国木田君。泊めた時も、隣室で休んだし。当然指一本触れてないよ?幾ら何でも殺されかけた日に口説くのも非常識でしょう?」

 

「は?え?」

 

「まぁ国木田くんが勘違いしてたのは知ってたし、面白いから放置してたのは事実だけどね〜。一晩泊めただけではしたない勘繰りをするなんて、国木田君はムッツリスケベだね〜」

 

「うわぁぁぁぁ!!」

 

(之は黒歴史入りだな・・・哀れ国木田)

 

(何でこの人たちコンビ組んでるンだろう・・・)

 

 

 国木田が穴があったら入る恥辱に悶えている最中に、太宰は佐々城に質問した。

 

 

「佐々城さんはどんな男性が傾向(タイプ)?」

 

傾向(タイプ)ですか・・・。私如きが烏滸(おこ)がましくて大変恐縮ですが・・・其の、“理想”に燃え、何かに打ち込む男性など、とても素敵だと思います」

 

 

──国木田の動きが止まる。

 

 

「其れ完全に国木田君じゃな〜い。私、脈ないじゃない。後は二人でどうぞ〜」

 

「こ、こら太宰!勝手に会話から離脱するな!」

 

「で、ですが其の・・・私など普通の女ですから、“理想”に邁進する方の傍に居ても何のお役にも立てず、“理想”を支えようと心を砕いても、空回りしてお互い疲れ果ててしまうばかりで・・・挙句、“理想”との二者択一で捨てられて仕舞いました。ですので“理想主義”の方とお付き合いする事は、今後控えようと思っております」

 

 

 儚げに微笑む佐々城を見た国木田の表情は────。

 

 

「国木田。御前ポーカーフェイスって知ってる?」

 

「国木田君は判り易いなぁ・・・」

 

「お、俺は別にな、何も思ってないぞ!も、元の話に戻す!佐々城女史の安全の話だ!」

 

「あの・・・宿泊のお世話までして頂いて、お心遣い嬉しいのですが、矢張りご迷惑が。何処か宿泊亭(ホテル)など見付けますので、どうかお気遣いなさらず」

 

「いかん!宿泊亭(ホテル)は安全とは云えんし、件の事件の後で縁起が悪い。かと云って太宰の自室では、何時、此奴が淫獣と化すか知れん。拙宅(うち)に来い」

 

「へ?」(敦)

 

「え?」(太宰)

 

「え?」(八幡)

 

「え・・・?」(佐々城)

 

「いや、べ、別に(やま)しい動機などは無いぞ!」

 

「いや、今の話の流れではどう考えても疚しさ大奔流でしょ。諦めが悪いなぁ国木田君」

 

「俺は別に!・・・」

 

「佐々城女史。此奴の家なら安全だ。国木田にそんな度胸はな・・・じゃないな。此奴は“理想”に生きる高徳者だから安全だ。そうだな・・・太宰、見せてやれ」

 

「はーい」

 

 

 太宰は懐から表紙に“理想”と書かれた手帳を取り出す。国木田ははっとして自分の衣嚢(ポケット)を叩く。手帳が無い。

 

 

「太宰!御前、何時の間に()った!?」

 

「ほら、其の(ページ)。少しは興味あるでしょ?」

 

「えぇまぁ。偽らず申しますと少し気にはなりますが」

 

 

 国木田の女性の理想像。手帳八枚、十五項目、五十八要素に及ぶ超大作である。

 其の要素を見る佐々城の顔色は消えていき、再び顔を上げた時、其処には先程の笑みは無かった。有るのは唯、彫刻された石膏の如き、生命力の枯渇した極低温の微笑(スマイル)

 

 

「国木田様」

 

「はい・・・」

 

 

これはないです。

 

 

(誰か酒持って来い)

 

(国木田ぁ…事件が終わったら一杯奢ってやる・・・くくっ駄目だ笑いが止まらん…)

 

(国木田さん、頑張って下さい・・・)

 

 

プルルルルル・・・

 

 

「はい、もしもし・・・本当ですか!スピーカーにします!!」

 

如何(どう)した敦」

 

「乱歩さんと連絡が取れたみたいです!!爆弾の場所は────」

 

 

 

 

 事件が・・・誰一人として幸せにならない悲しい事件が終結に向かって動き始めた。

 

 

 




第二章 十話 《蒼の使徒編》 三話 終わりました!

どうでしたか?今回の話好きなんですよね。国木田がいい感じに弄られてる。真面目な人って弄られやすいですよね。ソースは作者。

多忙な八幡も国木田を弄るのは楽しいようです。まぁ其の代わり国木田のストレスがマッハですけど。頼りになる先輩から弄られると何も言えませんよね(遠い目)


前回の感想で《ヒロインは居るんですか?》と云う質問を頂きました。います。誰かっていうのは・・・皆さんわかってるんじゃないかな?消去法であの人しか居ない。

毎度恒例謝辞。
『うさみん1121』さん、『みたらひ団子』さん、『カノマ』さん、『文月之蓮』さん、『白縫 綾』さん、高評価有難うございます!励みになってます!


次の投稿は十二月七日です。
宣言しましたよ!強制背水の陣だ!《蒼の使徒編》も気になってしまうかもしれませんが《番外編》を入れます!何故その日なのかは・・・察して下さい。


ではまた番外編で会いましょう。

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