今回の話は二人の推理をアニメ以上に詳しく書きました。読みづらいかもしれませんがご了承ください。
では“蒼の使徒編”二話どうぞ!
探偵社の信頼が地に落ち、メディアや被害者の遺族から猛烈なバッシングを受けた其の日。
「御苦労」
「いえ、比企谷調査員の頼みならば私は何処へでも向かいます」
八幡は
“比企谷八幡”はある山間の図書館に来ていた。其の図書館は山間だけあって利用者の老人がちらほら見えるが人の気配は殆ど無い。だが見る人が注意深く見れば、セキュリティは核施設なみに厳重で、警備員は全員腰のポーチに隠し持った短機関銃で武装しているのが判る。
八幡は其の田舎の図書館に
八幡は古ぼけた白い壁の一部を手を当てて捻ると、何も無いかのように思われた壁が落ち窪み、奥へと開いた。
幾つもの監視装置と声紋・瞳孔識別機を抜け、厳重な警備員のチェックを通り抜けた後、地下へと降りる。誰も居ない、薄暗く広い廊下を通り抜けるとアルミ製の巨大な扉が見えた。扉が音もなく開く。
目の前に巨大な白い地下図書館が現れる。
上階にある一般市民用の図書館とは違い、天井は何処までも高く、部屋の奥は遠くの薄闇に霞んではっきりと見る事は出来ない。儀仗兵の如く整列した白銀の書架には、世界各地の貴重な書籍がきっちり収められている。
時間に、紙に、沈黙に、支配されている空間を八幡は或る場所を目指して歩いた。其の異様な空間にとって八幡の訪れは空谷の跫音の様だった。暫く歩くと或る丸机に一人の青年が本を黙読していた。
「お久し振りです。比企谷さん」
「あぁ、久し振りだな。
八幡に声を掛けた青年は大学教授の様な朽葉色の
「私も貴方も忙しい。
「あぁ。取引に来た」
「取引・・・ですか。
「其の二つ名で呼ぶンじゃねえよ・・・。まぁいい。此方から提供するのは“
「ッ!?各国が血眼になりながら成分を調べている“ポートマフィア”の爆弾ですか。一体どうやって・・・悪くは有りませんね。良いでしょう。其方の要求は何です?」
「俺の要求は────」
《同時刻・武装探偵社》
探偵社は朝から苦情の電話と遺族からの訴訟の電話が鳴り響いていた。外には数人の抗議者が社屋の外で騒ぎ立てている。
国木田は凄い顔・・・非常に疲れた顔をしていた。精神的に参っているのだろう。其れは国木田に限った事ではなく、探偵社全員に云えることではあったが。
「之が敵の狙いだったンですね」
「…あぁ」
新聞には
「取り敢えず佐々城さんの元へ行きましょう?国木田さん」
「そうだな」
敦が医務室に向かい、国木田はゆっくり医務室に向かった。元気の無い国木田は珍しい。が、誰も励ます事はしない。言葉を持たない、と云うのもあるが励ますなど惨めになるだけだと判っていた為である。
医務室に入ると佐々城は躰を起こしており、隣の丸椅子には太宰が既に腰掛けていた。
「先日は有難う御座いました。あの時助けて頂か無ければ私の命は御座いませんでした。其ればかりかこうして保護して頂き、何かと扶助を戴いて・・・頼れる親戚もいませんので」
佐々城は一礼して黙した。正体不明の殺人鬼に殺されかけ理由も無く命を狙われているのかもしれないのだから其の心中は計り知れなかった。
「其れに昨晩はご邸宅にお泊め頂きました上、ご面倒をおかけしまして・・・」
「ん?」
「へ?誰の家に泊まったンです?」
「ウチ」
太宰は笑顔で自身を指さした。敦と国木田は口が開いて閉じない。佐々城は頬を赤ら恥じ入っていた。
「幾ら何でも手が早過ぎないか?太宰」
「いえ、違うのです。私から御願いしたのです。その・・・是非にと」
「いやぁお気になさらず。紳士の嗜みですから。初対面の方にお願いされるのも、良くある事ですし」
軽佻浮薄の色恋を好まない国木田にとって太宰の行動は弾劾すべき行為であると考えている。
敦は国木田の額に“羨ましい”と見えた気がした。
「佐々城さんは日頃から貧血でよく倒れるらしいんだけど、事件の日、駅で気を失ったのもそれが原因だね」
「横浜駅の周りで誘拐など人が多すぎて不可能だ。気絶した女性を運ぶなら尚更・・・な。複数犯か。其れとも余程巧みな技巧を用いたか・・・」
「薄幸の美女を攫うなんて犯人も中々だねぇ」
医務室から戻った三人は調査に向かうべく、社にて準備を整えていた。太宰の
「御前はああいう女性が好みなのか?」
「私は女性は皆好きだよ。
「事件の被害者にして証人。其れだけだ」
「ふぅん。あ、敦君読む?国木田君の理想の女性」
「御前、何時の間に摺った!?」
太宰は懐から国木田の手帳を取り出した。国木田は取り返そうとするが席が反対のため手が届かない。敦は国木田の理想の女性像の欄を見て顔をしかめた。
「こ、之は・・・」
「何か問題でもあるのか?」
「い、いえ無いですけど・・・。男性なら誰しもが共感出来る理想と思います。・・・それぞれの項目は」
「そうだろう。女性に理想を求めて何が悪い」
「其の通り。全く其の通りだよ国木田君。でも其の頁は絶対に女性に見せない方が良いよ。引くから。初めて私が見た時『こんな奴いねぇよ!』って叫ぶの我慢したもの」
(そんなものか…)
「さぁ、判ったから仕事に行くぞ。誘拐犯の手掛かりを追う。太宰、なにか気付いたことはないか?」
「一つあるよ」
「何だ」
「女性の理想を追うなら、先ず其の地味眼鏡を何とかしないと」
太宰は素早く国木田の眼鏡を奪い、自分の眉間にかけた。業務に差し支えなければ十分だと思っている国木田は眼鏡の品質で評価が変わるとは思えなかった。
(眼鏡?被害者の写真。被害者は比較的眼鏡が多かった。・・・顔を隠すためか。なら監視装置は?態と映っていた事になる。全員が、
「行くぞ。犯人が判った」
バラバラだったピースが一つに繋がった。
横浜港に潮風が吹く。国木田、太宰、敦は横浜港の海辺、河口の
「悪いな急に頼んで」
「なんのなんの。国木田調査員の頼みでありましたら何処でも駆けつけますよ。午前中は“武装探偵社”の比企谷調査員を送り届けました!私に出来る事なら何なりと」
「そうか、八さんは・・・実は“横浜連続失踪事件”の犯人が判った」
「えっ!?廃病院のの報道は僕も拝見しました。では其の犯人の捕縛に向かわれるのですね。合点しました!現場は?」
「ここだ」
「は?」
「犯人は御前だ。そして誘拐現場はここ、タクシーの中だ」
「は?なんと仰りました?僕には、意味が、何やら」
「御前はここで被害者に催眠
「いやいや、お待ち下さいよ。確か調査では被害者の方々は自らの足で歩いて何処へともかく消えたと、乗り物に乗った形跡や施設に入った記録も無かったと、そう聞いておりますが・・・」
「そうだ。間違いなく被害者は全員、此のタクシーに乗り込んだ。だが市警が幾ら調べても其の記録は出ない。何故か。
「其れはどういう?」
「ここからは私が話そう」
太宰が割って入る。
「運転手さん、君は日常業務を行いながら、ある特定の客を探していた。条件は簡単。『一人で横浜を訪れてホテルに向かう事』。『帽子・眼鏡で顔が部分的に隠れている事』。『君と背格好が近い事』。君は小柄だから条件さえ合えば女性でもいい。其の方が被害者との関連性が消え、捜査を撹乱できるからね」
「一体、どういう意味で・・・」
「最後まで聞き給えよ。君はタクシー運転手だ。二、三日あれば該当の人物を見つける事ができるだろう。『これぞ』と云う人物が現れたら、
太宰は嬉しそうに手を叩いて続きを語っていく。
「君は被害者の衣服を着て、
「・・・」
「後は簡単だね。宿泊部屋に被害者の荷物を置き、翌日堂々と去る。すると記録映像には入る時も、受付も、出る時も同じ人物だから市警は
「ご、御無体な。理屈で考えただけの仮説を
「どうだろうな。佐々城女史の誘拐も同様に、御前の単独犯で可能だ」
太宰の推理の続きを国木田が継ぐ。
「駅で気絶した佐々城女史を誘拐するのは
「・・・其れは」
国木田は視線を車内の内装に転じた。其の隙間に極僅かに付着した、白い微粒子を指先でつまみあげ運転手の目の前に翳す。
「自首することを勧める。証拠は
「覚えがありません。恐らく、勝手に乗客が撒いたのでしょう。そう云う事も出来ます。証拠には成り得ない」
運転手が絞り出すような声で反論する。反論・・・即ち自供したのも同じだった。だが国木田は畳み掛ける。
「今、太宰が云った手口が使えるのは被害者を乗せたタクシーのみだ。御前が被害者の内二人を乗せたと云う事は他の九人を乗せたことにも等しい」
「国木田調査員、其れは物的証拠ではありません。貴方が云うのは
確かに運転手の云う通りである。運転手を有罪にする為には、被害者と運転手を結び付ける物的な証拠、即ち血液、指紋、映像記録、犯人しか知り得ない情報の提供が必要である。ここ迄で確たる物的証拠はない。其れ所か現状では嫌疑不十分で不起訴処分と成りかねない。運転手の口振りからして証拠を徹底的に消しているのは明白だった。
だが運転手の口から飛び出したのは予想だにしない言葉だった。
「国木田調査員、取引を致しましょう。条件を呑んで頂ければ僕は自首致します」
「何?」
「条件とは、僕の安全を保証すること。期限は僕が検察取り調べを終え、取引による証人保護が成立するまで、七十二時間の間」
「証人保護取引だと?どう云う意味だ?」
「時間が無いンです!彼奴らに殺される!」
「待て、話が見えん」
「あんな連中と取り引きするンじゃなかった!個人が後ろ盾なしに臓器売買ビジネスに手を出したから、奴等の逆鱗に触れたんだ!
「成程───そう云う事か」
「どう云う事です?太宰さん」
「其の儘だよ。彼は被害者を臓器密売
「つまり、臓器密売を生業としている大企業が怒る訳か」
「表社会なら健全な競争だよ。けど界隈を仕切る臓器供給を担う親元は裏社会の、血液と暴力を貨幣とする連中だ。自分のシマを荒らされた彼等は怒って───」
───銃声。
弾丸が飛来する音と共に、窓硝子が爆ぜ割れた。
「ひいっ奴等だ!助け・・・死にたくないぃ!」
運転手はドアを開け、襲撃とは逆方向に遁走した。国木田は太宰に運転手を追わせ、敦に市警に連絡する様、命令した。
国木田は敵を見る。敵は三名。黒服に黒眼鏡。海外の密輸
「ポートマフィアか!『独歩吟客』“
国木田はタクシーの割れた窓から一弾目掛けて榴弾を投擲。敵の至近で爆発した榴弾は病人であれば心停止する程の閃光と爆轟音を放つ。マフィアの一弾は側頭部を抑えてうずくまった。其の隙を見て国木田は飛び出した。
手近な一人の頚部に肘を落として地面に叩きつけ、次の一人を上段蹴りで吹き飛ばす。最後の一人が銃身で殴って来たので其れを躱し、手首を掴みとり、引きつつ、外側に捻った。『四方投げ』と呼ばれる技である。
一安心すると背後で膨大な殺気を国木田は感じ取った。見返すよりも早く横方向へ飛んだ。黒い奔流が駆け抜け車両を両断した。
地面を半回転して向き直ると遠くに見える黒外套の小柄な青年が一人・・・。
「片手間仕事と
「貴様・・・ポートマフィアの芥川龍之介か!」
「いかにも。
「此処には居らん。尻に帆をかけて逃げ出した」
国木田は目の前の禍犬から目を離せなかった。国木田にとっては此の状況は最悪の中でも最悪だった。芥川ほどの実力者なら引くのが普通である。そう、素直に引くに限るのだ。
「奴は証人だ。残りの失踪者の居所を聞き出すまで、殺させるわけにはいかん。奴を追いたければ俺を倒せ」
「命を
国木田は自分の阿呆な性格に内心呆れるが、後悔などして無かった。『すべきことをすべきだ』。手帳の言葉を
「ポートマフィアが走狗、芥川龍之介────参る」
「武装探偵社が一隅、国木田独歩────参る」
「其処まで。双方動くな」
芥川が黒外套を蠢かし、鋭牙の形を成した時。
国木田が手帳を破り、異能を発動させた時。
二人の間に男が一人。
一人にとっては因縁の相手。
一人にとっては尊敬すべき先輩。
二人は動きを止めた。目の前の男に云われたから・・・其れもある。が、違う。本質は其処では無い。
芥川龍之介の躰の至る所にレーザーポインターが当てられている為である。全身が黒に覆われている芥川の躰に赤い斑模様が浮かび上がっている。
「さぁ取引と行こうか」
第二章 九話が終わりました。
“蒼の使徒”編では二話目ですね。
どうだったでしょうか。アニメでは多く語られなかった此の場面。
皆さんの感想で此の作品の考察が書かれており楽しくよませていただいてます。此の話でも最初に出てきた人物は誰なのか、場所はどこなのか、考察が進むのではないのでしょうか。伏線もひとつ回収しましたしね。
毎度恒例謝辞。
『由香李』さん、『ミョンム』さん、高評価有難う御座います!励みになってます!これからもがんばれます!
そして報告。
この度、私“TouA”は新たに小説を投稿しました。
タイトルは・・・
55Minutes『和を嫌い 正義を為す“外伝”』
です!もし良ければ読んでいただけると嬉しいですし、此の作品の関連作品なのでより楽しめると思います。
ではまた次回。感想、評価お待ちしております。