和を嫌い正義を為す   作:TouA(とーあ)

14 / 51
やつがれさんの異能の描写が非常に難しい。ほんっとにむずかしいです。言葉も…。

様々な推測の感想、有り難うございます。この小説の醍醐味の一つは『誰が記憶操作されてるか?』です。色々推測して読んで下さいね。


この話で必要な用語。↓


『縮地』(しゅくち)

瞬時に相手との間合いを詰めたり、相手の死角に入り込む体捌きのこと。日本武術の一つ。



では第二章 五話どうぞ。

今回は個人的に神回のつもりです。




芥川

「銃声?・・・行くしかない…か」

 

 

 八幡は檸檬を見すぼらしい八百屋で買って、直帰していた。然し、八幡の耳は銃声を拾ってしまった。其れを無視出来ないのが八幡であり、社畜に染まりきっているのを認めたくないのも八幡だった。

 

 

(ポートマフィアか・・・転がっているのは谷崎兄妹と新人ね・・・却説(さて)如何(どう)するか)

 

 

 駆け付けてみると武装探偵社の若輩がポートマフィアに襲われていた。八幡は暫し、気配を消した。そして足音を一切立てずマフィアの女性を組み伏せ、携帯していた支給の回転式拳銃“ニューナンブM60”(日本の警察官用として長く使用されている。現在生産終了)を樋口の頭に突き付けた。

 

 

「其処までだ」

 

 

 新人を襲おうと異能を展開していた男・・・芥川は八幡の方へ向いた。異能は敦に届く一歩手前で止まっていた。芥川は八幡に問うた。

 

 

「誰だ貴様は・・・」

 

 

 八幡は何と答えようか迷った。下手に出て許しを請うことも出来た。然し状況が状況・・・後輩たちを治療する事が最優先だったので自分に注意が向かう様に言葉を選んだ。

 

 

「後輩をあまり虐めないでくれるか?ポートマフィアの駄犬」

 

 

 八幡は黒の山高帽(ボーラーハット)を片手で押さえながらそう言った。芥川は怪訝な顔をして口を開きかけた。然し其れよりも早く八幡に組み伏せられている樋口が口を開いた。

 

 

「・・・芥川先輩を愚弄するな。御前など芥川先輩の手に掛かれば・・・」

 

「組み伏せられている身でほざくな。自分の身が惜しくないのか?」

 

 

 八幡は樋口に自分の立場をもっと意識させる為に後頭部により強く拳銃を突き付けた。樋口は其れ以降黙り込んでしまった。八幡の樋口の評価はとても低くなった。何故なら味方の不利に成るのならとっとと舌でも噛みちぎって自害するべきだからだ。

 

 そして八幡は樋口を使()()()と確信した。

 

 

 「御前は芥川だな。御前の補佐官の命と引き換えに俺の後輩を見逃せ」

 

「笑止。其の様な戯言、信じるモノか。民間の探偵社如きが(やつがれ)と対等に取り引きするなど愚の骨頂」

 

 

 芥川の返しは八幡の予想していた通りだった。八幡は買っておいた“檸檬”を芥川から見えぬ様、握力で少し潰し、檸檬汁が付いた手で樋口の目を抑えた。

 

 

「!?いたい!!いたいぃ!」

 

「貴様、樋口に何をした!?」

 

「俺流の拷問。此方は本気なンだよ・・・」

 

 

 遠く離れていた為、芥川からは八幡が何をしたか判らなかった。よって八幡が樋口の目を押さえただけで突然樋口がもがき始めた様に見えた。

 

 八幡が本気だと思い込んだ芥川がとる行動は限られる。芥川が取った行動は八幡と同じ行動・・・・・つまり、谷崎兄妹と敦を人質に取る事だった。

 

 

「『羅生門』」

 

 

 敦の首に黒刃が突き付けられた。虫の息の谷崎兄妹も同様に。敦は一歩も動けなかった。否、()()()()()()・・・の方が正しいだろうか。

 

 

「樋口を解放せよ。人虎(賞金)を取り損ねるのは(やつがれ)の沽券に関わる」

 

 

 八幡は笑みを浮かべた。芥川は理解しかねた。此の状況で笑うなど狂ってるとしか考えられないからだ。八幡は芥川にも樋口にも想像出来なかった一言を吐いた。

 

 

「時間は足りたか・・・・・・新人」

 

「・・・真逆!!」

 

 

 芥川は敦の首に黒刃を走らせた。他の二人も同様に。然し黒刃が三人を切り裂いた途端、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 雪・・・谷崎の異能『細雪』が無くなると同時に八幡の後ろに二人を肩に担いだ敦の姿があった。其の姿も直ぐに光の方へ消えた。既に『羅生門』の範囲外だった。

 

 

「・・・虚像か。やってくれたな、武装探偵社」

 

「お喋りが過ぎたな、芥川。却説(さて)樋口(此奴)を解放するには条件がある」

 

「・・・・・・」

 

「沈黙は肯定と判断する。先程、御前は新人・・・中島敦を“賞金”と云ったな。誰が新人に賞金を掛けた?」

 

 「・・・(やつがれ)が云うとでも?」

 

 「云わないなら此奴の頭に風穴が空くだけだ」

 

 

 八幡はより一層、樋口に突き付ける銃の力を強くする。芥川は手を迂闊に出せなかった。八幡は此処まで予想通りだった。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 「芥川先輩!私ごと・・・私ごと此の男を屠って下さい!私は構いません!!」

 

 「樋口・・・」

 

(チッ。体、震えてる癖に強がるンじゃねえよ…)

 

 

 八幡は予想通りにならなかった事に内心舌打ちし、其れと同時に樋口を見直した。ポートマフィアに向いてない・・・と思っていた八幡の勝手な評価を樋口は覆した。・・・まぁ言葉と体は一致してないが。

 

 

(結局、感情が此奴を動かしたか・・・脚を引っ張りたくないと云う()()が・・・)

 

(芥川先輩の脚を引っ張って死ぬぐらいなら・・・芥川先輩の手で死にたい)

 

 

 樋口がもっと邪な気持ちを抱えていたなど八幡は知る由もない。樋口の感情は“恋慕”。最も人の理性と思考を狂わせる感情である。

 

 

 「芥川先輩!(はや)く!」

 

 「樋口。貴様の覚悟…無駄にはせぬ!『羅生門』!」

 

 「・・・先輩。好k・・・・・」

 

 「少し黙れ。勝手に盛り上がるンじゃねえよ…」

 

(俺が敵役みたいな雰囲気出しやがって…之だからリア充は…)

 

 

 八幡は樋口の首…延髄の所に絶妙な力加減で手刀を入れた。樋口は一瞬で意識を刈り取られた。芥川は展開した黒獣を一度戻した。八幡は立ち上がった。

 

 

 「矢張(やは)り甘いな、武装探偵社」

 

 「俺は別に人を殺す趣味はねえよ」

 

 「樋口に情けを掛けた心算(つもり)か?其の女・・・奇異なる事をよく口にするが性根はマフィア・・・」

 

 「恩を売った訳じゃねえよ。唯、此奴は使()()()と判断しただけだ」

 

 「拷問でもする心算(つもり)か?」

 

 「そンな必要ねえよ。こうすれば善い」

 

 

 八幡は樋口の頭に右手を近付けた。

 

 其の時、八幡に黒布が光線の様に飛来した。狙いは八幡の頭部。八幡は咄嗟に体を後方に倒し回避したが頭髪が幾つか切れて宙を舞い、山高帽(ポーラーハット)は黒布の風で後方に飛ばされた。

 

 

 「何しやがる・・・」

 

 「貴様が引かなかった引き金を(やつがれ)が引いたまで。標的は勿論、貴様だ。武装探偵社」

 

 

 芥川の黒外套が蠢く。其の姿は布である事を放棄し、有る物は爪刃の、有る物は鋭牙の形を取り始める。八幡は深い呼吸を一度行い、呟いた。

 

 

 「後悔すンなよ……“異能力”『本物』」

 

 

 八幡は右足を一歩前に出し半身になり左手を隠した。その後八幡は先程買った“檸檬”に“異能”を掛け左手に持ち、右手に胸衣嚢(ポケット)から取り出した年季の入った“万年筆”を持った。

 

 

 「『羅生門』!」

 

 

 八幡に爆発的に放射される黒刃が、驟雨(しゅうう)となって前方より殺到する。八幡は横に飛んだ。黒刃の幾筋かが八幡の衣服を裂き、残りが後方の壁に無数の穴を穿った。

 八幡は其の隙に“縮地”で芥川に迫る。勿論芥川も速度では負けていない。即座に鋭牙の形の黒刃を形成する。

 

 八幡は躰を捻り、左手の“檸檬”を芥川に投擲した。

 

 

 「檸檬・・・・・巫山戯るな!」

 

 

 芥川は八幡が投擲した“檸檬”を黒刃で切り裂いた。

 

 

 

 

 

 瞬間、檸檬から光が漏れ、周囲を巻き込み爆発する。

 

 

 

 

 

 「!?!?此の爆弾は・・・」

 

 

 芥川は『羅生門』で空間を喰らい“断裂”を周囲に起こし自分を避難壕(シェルター)の様に囲み、押し寄せる熱風を防いだ。芥川は“檸檬”の爆弾の熱風と舞い上がる塵で八幡の姿を見失っていた。

 

 八幡は一歩下がって爆風を回避した。爆風が収まりつつある時に腰を捻り、手首のスナップを効かせる“万年筆”を神速で投擲した。

 

 八幡が神速で投擲した“万年筆”は舞い上がった塵を貫通し、芥川の“空間断裂”に突き刺さった・・・と云うよりギリギリ貫通しなかったの方が正しいのかも知れない。

 

 “万年筆”は芥川の顔・・・・其れも右目の目前で止まっていた。若し“空間断裂”がコンマ数秒早く消滅していたら芥川の右目には今頃、“万年筆”が痛々しく突き刺さっていただろう。加えて爆弾と云う破壊に特化した物を威嚇(ブラフ)として扱い、“万年筆”と云う日常用具の一つで芥川を追い詰めた。故に芥川は目の前の男を自身が乗り越えなければならない“試練”と認識した。

 

 

 

 

 「少ない手数で(やつがれ)を追い詰める•••其の手腕、見事なり。改めて(やつがれ)の『羅生門』と御相手頂きたい」

 

 

 

 

 「・・・武装探偵社の一隅、比企谷八幡。是非に及ばず」

 

 

 

 

 

 八幡は目を閉じて意識を呼吸に集中し、吐いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「欺瞞に溢れる“和”を嫌い 汝の誇大する“偽善”を滅ぼさん 故に“本物”を求め 正義を為す」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 八幡の躰を朱殷色(しゅあんいろ)の光が包み込む。八幡の髪は白へ染まり変わる。芥川は歓喜した。強者に出逢えた事に喜悦の表情を浮かべた。

 

 

 

 

 「『羅生門・(アギト)』!」

 

 

 

 

 黒布が大きく蠢き、口を開き牙を剥かせた巨大な獣の(アギト)が八幡を喰らい千切ろうと飛来した。八幡はその場を動かず、右手を正面へ伸ばした。まるで黒獣に右腕を差し出す様に。

 

 

 鋭利な牙が八幡の右腕を喰い千切ろうと顎を閉じた時、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 芥川は驚愕に目を見開いた。以前にも此の様な感覚を味わった事があったからだ。其れは芥川の恩人であり、尊敬する師であった男を訓練で攻撃した時•••発動した其の男の“異能”に酷似していた。故に芥川の口から出た言葉は当然の様であったかのように思える。

 

 

 

 

 「異能無効化!?」

 

 

 「さぁ•••如何(どう)だろうな」

 

 

 

 

 八幡は口元に微かな笑みを浮かべ、芥川の方へゆっくり歩いて行った。芥川は直ぐに立て直し、確かめる様にもう一度、八幡に“異能”を放った。

 

 

 

 

 「『羅生門・(ムラクモ)』!!」

 

 

 

 

『羅生門』の触手から巨大な腕が発現した。漆黒の其の腕は手先は尖爪で、(あらゆ)る物質を切り裂く。

 然し先程と同様•••八幡を切り裂こうと尖爪を立てた瞬間、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 八幡と芥川の距離は3mを切っていた。

 芥川は次の攻撃を思案した。そして自身の最大級の攻撃力を誇るあの技を叫ぼうとした。

 

 

 

 

 「『羅生門!獄門“─”』•••••••何だ此の感覚は•••。一体、(やつがれ)は何を•••?」

 

 

 「如何(どう)した、ポートマフィアの駄犬。まるで()()()()()()()()()

 

 

 「貴様•••(やつがれ)に何をした?」

 

 

 「()()。俺が何か御前にしたと云う“記憶”が御前にはあるのか?」

 

 

 「•••••••••無い」

 

 

 「なら未来永劫、悩め。恨むなら俺に、探偵社に喧嘩を売った自分自身を恨むンだな」

 

 

 

 

 八幡は戦意を喪失した芥川に手を伸ばした。芥川は反撃する事もなく其れを受け入れた。“空間断裂”さえ目の前の男には通用しないと悟ったからだ。そして八幡が芥川に触れる寸前、後方から何者かが八幡の肩に触れた。八幡の“異能”は強制的に解除された。

 

 

 「比企谷さん、其処までです」

 

 「太宰•••何故止める?」

 

 

 八幡を止めたのは武装探偵社一の変わり者“太宰治”だった。然し何時もの巫山戯た様子は無く、(すべ)てを見通す様な透徹した目をし、顔は時折見せる“智将”其のものだった。

 

 

 「理由は云えません。其れでも•••私に免じて彼を見逃してやってくれませんか」

 

 「•••今回だけだ。次はない」

 

 

 最終的には八幡が折れた。太宰の•••何か訴えかける様な顔が八幡の頭に焼きついた。太宰は八幡の答に内心胸をおろし、芥川に声をかけた。

 

 

 「芥川君。そう云う事だ。(はや)く、此処を立ち去り給え。其処で伸びている女性と共にね」

 

 「判りました•••。然し人虎の首は必ず(やつがれ)等、ポートマフィアが頂く」

 

 「懲りないねぇ•••。なんで?」

 

 「闇市で懸賞金“七十億”が懸かっている。裏社会を牛耳って余りある額だ」

 

 

 あまりの景気のいい話に八幡は目を細め、太宰は少しおどけた様子を見せた。芥川は八幡と太宰の間を通り過ぎ様とした時、太宰は芥川に(わざ)()()()()()()

 

 

 「探偵社へは又伺います。では太宰さん。•••比企谷さんも(いず)れ」

 

 

 芥川は『羅生門』で伸びている樋口を掴み、自身は携帯で部下に連絡した。芥川と樋口は光の方へ消えた。残されたのは微妙な空気を流す太宰と八幡だった。先に口を開いたのは太宰だった。

 

 

 「比企谷さん、貴方は•••」

 

 「太宰、(ウチ)へ来い。夕飯をご馳走してやる」

 

 「えっ本当ですか!!やったぁ♪」

 

 

 微妙な空気は何処かへ消えて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~~~~

 

 

 八幡の家は社員寮ではなく、ワンルームのアパート暮らしだ。男の一人暮らしで綺麗に整頓されているが、ベットと簡素な机以外は大きな本棚があるぐらいだった。

 

 

 「はあ~。比企谷さんの部屋ってこんな感じなんだなぁ」

 

 「適当に座って待ってろ。今から飯作る」

 

 

 

 少しして太宰の目の前に咖喱(カレー)が置かれた。角が落ちるほど煮込んだ野菜とガーリックで炒めた牛スジ、薄口の出汁。それらを微妙な調合比率のスパイスと共に煮込んでいる。匂いだけで太宰は空腹を覚えさせられた。だが其だけではないのだ。

 

 

 

 「比企谷さん•••此の咖喱(カレー)って•••」

 

 「•••黙って喰え。味は保証しないが•••」

 

 

 

 太宰と八幡は之らのルーを多めの白米にかけて更に混ぜる。そして卵とソースに絡めて食べる。そう、此の咖喱(カレー)は二人に馴染み深い咖喱(カレー)で、そして•••懐かしく涙が零れる味だった。

 

 

 

 「やっぱり辛いなぁ•••」

 

 「そうか」

 

 

 

 二人はそれっきり食べ終わるまで喋らなかった。太宰は汗を拭きながら完食し、八幡は練乳100%の珈琲を飲みながら完食した。暫し沈黙が流れた後、太宰が口を開いた。

 

 

 「•••私が()だ、ポートマフィアの幹部だった頃、ある“問題”が五大幹部会議で上がりました」

 

 「•••」

 

 「其の問題と云うのは部下と話がよく()()()()と云う問題でした。些細な事ですが•••五名の幹部の内、私を含め、三名の幹部に其の様な問題が発生していました」

 

 「其れで?」

 

 「然し、問題には成りましたが大きな問題にまでは成らなかった。誰かが調整・改変してる様な、そんな感覚がありました。然し•••何者かが意図的にポートマフィアを都合のいい様に操っているのは明白だった。恐らく、精神を操る類いの“異能者”だと幹部は認識していました」

 

 「続けろ」

 

 「私達、幹部は其の男を決して不可視である事から“(シャドー)”と呼んでいました。然し•••彼は一つだけ失敗(ミス)を犯した」

 

 「私の直属の部下の五人組の小隊四つのうち、一つが四人になっていた。然し他の部下、十九名は其の事実に疑問を持たなかった。まるで最初から十九名だったと云わんばかりに•••です。勿論、そんな疑問を抱いたのは私だけ•••“異能無効化”の“異能”を持った私だけでした。一人部下が消された、若しくは忘れられたと云うのに世界は•••其の事実に呼応する様に辻褄を合わせた」

 

 「•••」

 

 「前置きか長くなりましたが、私は仮説を一つ立てました。(シャドー)は“異能者”である。然し、精神を操る類いの“異能者”ではなく、其れ以上に危険な異能であると。何らかの“異能”で此の世の(ことわり)を改変•調整し全体の、世界の辻褄を合わせる“異能”」

 

 「私が此の考えに至った時、自分で自分を笑い飛ばしました。有り得ない•••とね。そう、そんな“異能”があるのなら人間の歴史史上、最悪な“異能”となる」

 

 「•••結局、其の(シャドー)とやらは捕らえることは出来たのか?」

 

 「残念ながら。私に失態がバレたのを気付いたからか其れから全く活動を見せませんでしたよ。私も興味はありましたが何分、忙しい身だったので調べる事もしなかった」

 

 

 太宰は首をすくめて頭を振った。どうやら本当に其れ以上は関係しなかった様だった。そして太宰は続けた。

 

 

 「其れから数年が経ち、私は武装探偵社に入社しました。そして一人の先輩と出会った」

 

 「其の先輩は人に自身の“異能”を喋らない。其れは別に珍しくはない。だが其の先輩は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。私は其の先輩に非常に興味が湧いた。他人の秘密と云うのは時折、小説より面白い」

 

 「其れには同感だな。“事実は小説より奇なり”。其の通りだ」

 

 「然し•••調べても全く情報が出ない。まるで誰かが念入りに消した様に。だけど今回の事件で全てが繋がった。探偵社に来客した樋口さんに盗聴器。其の先輩が毎日のように持っている()()()に小型写真機(カメラ)を改造して搭載した」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「(シャドー)は貴方ですね。比企谷さん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「貴方の“異能”は世界の辻褄を合わせる“異能”だ。そう、此の世の(ことわり)を改変•調整する。其れは貴方の“異能”が此の世の全ての“記憶”を牛耳れるから出来る芸当だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「•••太宰、一つだけ云っておこう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「勝手に人の大切な“万年筆”を改造するンじゃねえよ!」

 

 「御免なさい!!痛い痛い痛い!!比企谷さん!ギブギブギブ!!」

 

 

 八幡は太宰の腕の関節をキメて捻じ折るぐらいの勢いで締めあげた。太宰はあまりの痛みに意識が飛びかけた。暫くして八幡は太宰を解放し、太宰は話を続けた。

 

 

 「と云う事は貴方が(シャドー)なンですね」

 

 「御前が云う(シャドー)が俺がどうかは知らん。だが御前が話した内容は確かに俺が行った事だ」

 

 「そうですか•••いやぁ其れにしても比企谷さんがなぁ。あ、其の“異能”弱点とか有るンです?」

 

 「•••有るよ、かなりな。自分には掛けられないし、“異能”には干渉出来ない」

 

 「あ、あれ?私の記憶だと芥川君の“異能”に干渉してた様な•••」

 

 

 八幡は一度深呼吸し、珈琲を流し込んで語り始めた。

 

 

 

 

 

 

 「確かに俺は“異能”には干渉出来ない。然し、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。其れはあくまで“異能”では無く、人が個人的に付けた“技名”だからだ」

 

 

 

 

 

 

 「は?へ?比企谷さん、今、貴方、とんでもない事云ってますよ?」

 

 

 

 

 

 

 「自覚はある。芥川の“異能”『羅生門』の“技名”だけ“()()”した。正確には“技名”の“記憶”だけを“忘却”した。よって“技名”が此の世から“忘却”された事により芥川も『羅生門』の“技名”を忘れてしまった」

 

 「私の予想を遥かに超える答えが返って来ましたよ•••」

 

 「勿論、最初からそんな芸当が出来た訳じゃない。まぁ之は“社長”の“異能”の御蔭だな。」

 

 「成程~〜〜納得しました」

 

 

 

 

 

 社長•••福沢諭吉の“異能力”

 

人上人不造(ヒトノウエニヒトヲツクラズ)

 

 武装探偵社にふさわしい高潔さを持っているか否かをテストする入社試験に合格し、()()()()()()()()()()()()()()()()調()()()()

 

 八幡が“武装探偵社”に入る前の“忘却”は八幡に触れた全ての物質を此の世の理から消したが、入社してからは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()である。

 

 

 

 

 「却説(さて)、太宰。之だけは約束しろ」

 

 「何です?」

 

 「後輩達を•••囮に使う様な策は二度とするな」

 

 「私だって傷付けたくはないですよ。然し、其れは確約しかねます」

 

 「賢い御前の事だ。(新人)が戦況を離脱するぐらいには()()()()()()()()()()()()()()()()。だが一歩間違えば“谷崎妹”は間違いなく死んでいた」

 

 「ですが、死んでいません」

 

 「其れは結果論だ。もう一度云う。後輩達を囮に使う様な策は二度とするな。仮令(たとえ)、其れが最適解であったとしてもだ。仲間を助ける為には手段を選ぶな。之だけは守れ。若し守れなかったら•••」

 

 「守れなかったら?」

 

 「俺が御前を殺そう。其の後は俺が先輩としての責任を持って後を追おう」

 

 「•••判りました。約束します」

 

 「なら善い。随分喋ったな•••太宰、飲むか?」

 

 「本当ですか?ウイスキーあります?」

 

 「少し待ってろ」

 

 

 

 八幡は冷蔵庫で冷やしておいた“ロックアイス”と置いていたサントリーのウィスキーをとり出した。八幡と太宰の二人分の黄金色の液体に浮かぶ氷が光に反射した。

 

 

 

 「日本酒は喜劇!ウィスキーは悲劇!そうは思いません?」

 

 「•••そうだな。じゃあ」

 

 

 二人はグラスを掲げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「「ストレイドッグに」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




第二章 五話が終わりました。私はこの回が一つの転換点だと思っています。楽しんで頂けたでしょうか?


続いて朗報。

11月8日に日間ランキング15位に入りました!
11月9日には日間ランキング41位と連日で入りました!
感謝です!!


続いて毎度恒例、謝辞。

『カイトナイト』さん、『ボッチー』さん、『きなこ飴』さん、『影姫華章』さん、『SaltMe』さん、高評価ありがとうございます!励みになってます。

そして日間ランキングに載ったことにより、より多くの人にこの作品を見てもらうことが多くなりました。お気に入り数も跳ね上がり、二百に届きそうです。UA数も一万に届きそうです。然し、覚悟していた事ではありましたが低評価が付き凹んでしまっている私もいます。

それでも私は朝霧カフカさんの1ファンとして、春河35さんの1ファンとしてこの作品を原作に負けぬ様に仕上げたいと思っています。

ですからこの作品を途中で投げ出すことは決してありません。至らぬ点も多くありますが頑張ります。

感想、評価お待ちしてます。本当な励みになっています。

ではまた第二章 六話で。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。