和を嫌い正義を為す   作:TouA(とーあ)

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此所で八幡の探偵社職員の呼び方を載せたいと思います。逆も載せます。


《例》

『人…八幡が呼ぶ名 “人の八幡の呼び方”』


中島 敦…※新人 “八幡さん” ※変わる予定

太宰 治…太宰 “比企谷さん”

国木田独歩…国木田 “八さん”

谷崎潤一郎…谷崎 “八幡さん”

ナオミ…谷崎妹 “八幡さん”

宮沢賢治…賢治 “八幡さん”

与謝野晶子…晶子 “八幡”

江戸川乱歩…乱歩 “八”

福沢諭吉…社長or福沢さん “八幡”


この様になります。何故、太宰だけ“比企谷さん”なのか…。想像して下さい。いずれ書きます。






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↑このマークあると回想、又は別場面です。+の中の話が回想か同時刻の別場面です。


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↑このマークがあると少し飛びます。



では第二章 四話どうぞ!!





檸檬

 とある裏通りにある古びた本屋。

 

 客は一人しかいない。年は三十手前だろうか。その男性は襟に幾つものバッジをつけたボロボロの白衣を纏い、鶯色(うぐいすいろ)の長いストールを両肩掛け巻きにしている。靴は下駄。其の様な格好から少し老けて見える。

 

 彼は画集を開いては其処へ置き、他の本をパラパラと見ては積み重ねた。店からしてみると迷惑極まりないのだが客が居ない事もあって咎めたりはしなかった。

 

 彼がアングルの橙色の重い本を積み重ねた時、其の本屋にもう一人来客があった。

 

 

 来客の男は二十代だろう。格好は黒の背広(スーツ)に黒の山高帽(ボーラーハット)背広(スーツ)の胸衣嚢(ポケット)には年季の入った万年筆が差し込まれている。青年は先客の男性に脱帽して声を掛けた。

 

 

「御久し振りです」

 

「やぁ君か。確かに久しいね。君は僕の部下だというのに」

 

 

 彼等はそう云って()()を交わした。

 

 

「腑甲斐無い限りです。担当している件が長引いてまして…」

 

「君の職務上、仕方ないよ。君の仕事はある意味特殊だ。()()()()溝浚(どぶさら)いは大変だろう?」

 

「えぇ、まぁ。先程は不発弾の処理をして来ました」

 

「うははっ。矢張り君は僕の部下だ」

 

「はい」

 

 

 愉快に笑う男性に冷静な青年。この本屋では時々見られる光景だった。とは云っても客自体が全く来ないので別段珍しくも無いのだが。

 

 

「忙しい様だが…君は僕の素晴らしい“実験”をきちんと調べているのかい?」

 

「えぇ…この前の丸善ビル爆破事件で一般人28人の殺害。不可逆なる“死”の訪れを見せ付けてくれた、よき“実験”でした」

 

「あぁ♪拍動の低下!神経細胞の酸欠死!乳酸アシドーシス!あれは“偉大な実験”だったよ。今でも手に取るように思い出せる。()()()君も早く僕の境地へ辿り着くと善い!」

 

「…えぇ。精進します」

 

 

 さて、この古びた本屋の店主が何故、この二人の話に疑問を持たないのか?

 

 其れは先程の爆破事件も含めて“記憶”に無いからである。呆けているのでは無い。テレビを始め、新聞やラジオからでさえも其の事件を全く聞いた事が無い。二人の話の内容は物騒で“爆発事件”と不謹慎にも程があるのだが『〇〇で爆発事件が起こって〇人死んだ』と云う話も近所から聞いた事がない。だから本屋の店主は彼等を«少しイカれた人»、若しくは話す内容がやけに真実帯びていたので«そういう設定で小説を書いてある人»と云う風に認識していた。

 

 

「そういえば檸檬爆弾(あれ)、海外に高値で売れましたよ」

 

「当たり前だろう。檸檬爆弾(あれ)は爆薬成分が一切検知されない特別性だからね。今頃、僕の特別性の檸檬爆弾(あれ)を血眼になって研究しているだろうさ」

 

 

 二人は其の後、数分会話した。内容は“化学”であったり“マフィア”の事だったりと様々だ。

 

 

「では次の仕事があるので失礼します。またこの場所で」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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武装探偵社1階 喫茶店“うずまき”

 

 

 

「す、すンませんでした!」

 

 

 

 谷崎潤一郎は新入社員である中島敦に謝罪していた。理由は入社試験とは云え、失礼な言葉を敦に浴びせていたからだそうだ。

 

 

「い、いえ!良いんですよ」

 

(意外にいい人だ。この人………)

 

 

 敦は先の入社試験もあって谷崎の事を怖い人だと思っていた。年が近いこともあって尚更である。しかし、こうして改めて謝罪をしてくれた谷崎は真面目でとてもいい人なのだと認識を改めた。

 

 

 却説(さて)、探偵社職員ご用達の喫茶店“うずまき”を紹介しよう。

 “うずまき”は武装探偵社が入居しているビルの一階にある。アールデコ調の内装で統一され、ステンドガラスのはめ殺し窓から入る外光が温かみを店内に届けている。カウンターに置かれた蓄音機がノスタルジーを感じさせてくれる。探偵社の職員は常連で殺伐とした日常に一服の清涼感を与えてくれるこの喫茶店を嫌いな者はいない。加えてツケが利くので給料日前に大助かりである。

 

 “うずまき”には店長を含め三人が働いている。

 

 店長は壮年で、珈琲一筋三十年のベテラン。石鹸を使っても手から珈琲の匂いが取れない。そしてとても渋い。

 

 後は探偵社職員から“おばちゃん”と呼ばれる皆の母親的な存在の給仕と髪を何時も団子で固めている若い給仕の女性だ。若い給仕の女性は太宰の心中の勧誘にも笑顔でサラリと躱す百戦錬磨の強者であり、ツケが払えない場合も『生命保険の保険金で払って下さい』と云う程、肝が座っている。

 

 現在は其の若い給仕の女性が店を仕切ってた。

 

 テーブル席には敦と谷崎兄妹。カウンター席には国木田と太宰が座っていた。太宰は相変わらず、若い給仕の女性に心中の勧誘をしている。

 

 

「妹のナオミですわ」

 

「兄妹にしては二人とも顔立ちとか似てない様な…」

 

「あら?お疑い?」

 

 

 そう云ってナオミは兄の服に下から手を入れ腹筋を触り始めた。

 

 

「このアタリの躰つきなんてホントにそっくりですのよ♡」

 

「いやでも…」

 

「小僧、こいつらに関しては深く追求するな」

 

「あ…はい」

 

 

 敦は悟った。国木田からの注意というか警告は深入りしない為の予防線のように感じた。それでも気になるのは…気になるのだが。敦は話を変えようと職員に声を掛けた。

 

 

「皆さんは…探偵社に入る前は何を?」

 

「何してたと思う?」

 

「へ?」

 

「なにね、定番なのだよ。新入りは先輩の前職を()てるのさ」

 

 

 太宰に云われ敦は黙考した。谷崎兄妹は判るのだが…。他の二人が難しい。

 

 

「谷崎さん達は学生?」

 

「お、()たった。凄い」

 

如何(どう)してお判りに?」

 

「ナオミさんは学生服なンで…谷崎さんも僕と年が近そうだし…勘です」

 

「正直でよろしい。じゃあ国木田君は?」

 

「よ、よせ!俺の前職など如何(どう)でもいいだろう!」

 

 

 敦は考えた。国木田は義理堅く真面目なので何となくこの答えに辿りついた。

 

 

「公務員…お役所務めとか?」

 

「おっしいね〜。彼は元学校教諭だよ。数学の先生」

 

「へえぇ!」

 

「昔の話だ。思い出したくも無い」

 

 

 国木田は嫌がっているが簡単に想像出来るので納得した敦であった。

 

 

「では私は?」

 

「太宰さんは…?想像がつきません」

 

()ててご覧よ。()てると賞金七十万だ」

 

「本当ですか!」

 

「自殺主義者に二言はないよ」

 

 

 一文無しの敦にとって意地でも正解したい問題になった。然し、勤め人(サラリーマン)、研究職、工場労働者、作家、役者…最後はヤケだが全く正解しない。

 

 

「無駄だ小僧。武装探偵社の七不思議の一つだ。こいつの前職は」

 

「降参かなぁ。じゃあここの払いは宜しくね」

 

「え!?はぁ…」

 

 

 結局、()てることは出来なかった。敦はふと疑問に思った事を先輩たちに聞いてみた。

 

 

「武装探偵社の七不思議と国木田さんが言ってましたが…他には何があるンです?」

 

「んん?あぁ…そうだな。まず“武装探偵社”が設立した理由を誰も知らない。古参の俺ですら知らん。まぁ又聞きで社長が十年前にある御人と出逢ったのが会社設立の契機だとは聞いている」

 

「確かに其れは聞いたことがありませんわ。兄様は?」

 

「無いよ。気にはなっていたけど。太宰さんは?」

 

「私も無いね。若しかしたら乱歩さんは知ってるかもしれないけどね」

 

 

 敦は太宰が“乱歩”と呼んだ職員をまだ知らない。なんとなく続きが気になったので国木田に詳しく聞いた。

 

 

「他にはどんなのが?」

 

「そうだな…これと云って……」

 

「此処は私が教えてあげよう。敦くん。“比企谷さん”には会ったね?」

 

「あ、はい。親切にしてくれました。その方が?」

 

 

 “比企谷”と云えば入社試験の時に敦を突き飛ばした探偵社の先輩である。…まぁ突き飛ばしたというよりは敦に追い込まれ時、極限の状態で最後どのように行動するか…の試験を与えた人だ。社長から合格を貰った時、敦の所へ来て謝罪しに来た人である。

 

 

 

 

+ + +

 

 

 

『突き飛ばして悪かったな。新人』

 

『あ、いえ。大丈夫です』

 

 

 其の男性は目付きが…と云うより失礼だと思うが目が腐ってて怖くて逆らってはいけない人だと敦は勝手に思っていた。

 

 

『之が御前の机だ。自由に使ってもらって構わないが…公序良俗は守ってくれ。間違っても“完全自殺読本”なんて物を置くンじゃない』

 

『は、はい。御丁寧に態々(わざわざ)有り難うございます。え〜と…』

 

『…八幡。比企谷八幡だ。何か判らない事が有れば国木田か俺を頼れ』

 

『有り難うございます。八幡さん』

 

『精々、早死しない様に気を付けろ。新人』

 

 

 そう云って敦から去って行った。敦は怖い人ではなくて口数が少ないけど親切な人だと判った。そのあと八幡は仕事だと云って探偵社を出て行った。其の後は国木田に色々教えてもらい、この“うずまき”に来た次第である。

 

 

 

+ + +

 

 

 

 

「其の方が?」

 

「私達は比企谷さんの“異能”を知らない」

 

「え…?国木田さんも?」

 

「あぁ。探偵社の正式な設立。つまりこのビルに引っ越した時の調査員は俺と“社長”、“乱歩さん”に“与謝野医師(せんせい)”、そして“八さん”だ。それ程、長い時間を八さんと過ごしたが…判らず終いだ」

 

 

 “うずまき”に少し不思議な雰囲気が流れた。国木田でさえも知らないとなると本当に誰も知らないのだろう。敦はふと疑問が浮かんだ。

 

 

「あの〜失礼かもしれませんけど国木田さんが“八幡さん”を“八さん”と愛称呼びしているのに違和感があるンですけど……」

 

「其れは私も思ってたよ。其処の所、如何(どう)なの?国木田くん」

 

「そうだな。最初、俺は八さんの名前を“八”だと勘違いしていた。乱歩さんが八さんのことを“八”と呼んでいたからな」

 

 

 あぁ〜成程…と云う空気が“うずまき”に流れた。国木田は続きを語る。

 

 

「そして八さんは俺の兄弟子だ」

 

「誰のです?」

 

「社長だ。八さんも元々、武術を嗜んでいた様だが社長に出会った当時は一本も取れなかったそうだ。現在は何本か取る事が当然になっている。俺は今でも社長にも八さんにも未だに一本も取れないがな…」

 

「敦くん。一応、私が補足しておくけど国木田くんは決して弱い訳じゃないよ?寧ろ、其処らの武術の館長には勝つから。あの二人が特殊なだけだからね」

 

「『特殊で何が悪い。英語で云えばspecialだろうが。なんか優れてるっぽく聞こえるだろ』…八幡さんが前に云ってましたね」

 

「八さんらしい。そう云う訳で俺は“八さん”と呼んでいる。勿論、親しみと尊敬の意味を込めて…だ。あの人ほど優秀な人はこの先現れないだろうな」

 

 

 今の話を聞いて、敦は余計に“比企谷八幡”と云う人がどのような人なのか判らなくなった。武道が優れていて、とても優秀で、捻くれている?よくわからない。

 

 

 

 

+ + +

 

 

「ヘックション!風邪ひいたか?蜂蜜檸檬でも帰って作るか…。あ、檸檬が無えな。何処かで買うか……」

 

 

+ + +

 

 

 

 

 雑談をしていると谷崎の電話に着信が入った。どうやら依頼の様だ。五人は立ち上がり探偵事務所に戻って行った。…お代は敦がツケました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜

 

 

「え〜と調査の御依頼と伺いましたが。何を調査すれば宜しいのでしょうか?」

 

 

 つい立てと観葉植物で社員のデスクワークスペースは仕切られている。其処には簡素な応対セットが置いてある。

 

 依頼人の女性は既に其の応対セットに座っていた。谷崎が質問し、敦、ナオミ、国木田、太宰が後ろに控えていた。

 

 

「美しい……睡蓮の花の如き、儚く、そして可憐なお嬢さんだ」

 

「へっ!?」

 

「どうか私と心中して頂けないだろ───」

 

「ウォラァ!」

 

「グハッ!!」

 

「申し訳ない。忘れて下さい。谷崎続きを」

 

 

 太宰が依頼人の女性を心中に誘うと云う暴挙に出た瞬間、国木田が太宰の顔面を殴り飛ばした。国木田は其のまま太宰を別室へ連れて行った。谷崎は気を取り直して続けた。

 

 女性の依頼はこのようなものだった。

 

 依頼人の女性の会社のビルの裏手に良からぬ輩が屯している。その輩は襤褸(ぼろ)を身に纏い、聞き取れない異国語を話すらしい。国木田によればそれらは『密輸業者』だそうだ。軍警に掛け合う為にも証拠が欲しいので、現場で張ってくれ…と云うのが依頼の全容だった。

 

 

「小僧、お前が行け。ただ見張るだけの簡単な仕事だ。初仕事には最適だろう」

 

 

 この仕事を新人の敦に国木田は託した。不安だろうから谷崎潤一郎と其の妹のナオミもつけた。そしてこの街で生き残るコツを一つ教えた。

 

 

「こいつには遭うな。遭ったら逃げろ」

 

「この人は?」

 

「マフィアだよ。(もっと)も他に呼びようがないからそう呼んでるだけだけどね」

 

「はぁ…」

 

「港を縄張りとする兇悪なポート・マフィアの(いぬ)だ。名を“芥川龍之介”」

 

「何故、危険なンです?」

 

「そいつが能力者だからだ。殺戮に特化した頗る残忍な能力で軍警でも手に負えん。俺でもコイツやるのは御免だ」

 

 

 先輩二人は敦を脅すだけ脅して初仕事に送り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 敦と谷崎とナオミの3人は依頼人の女性に連れられて『密輸業者がいる』と云われた路地裏に連れ込まれた。確かに雰囲気はある。高いビルに囲まれちょっとやそっとじゃ表通りで気づく人は少ないかもしれない。然し明らかにおかしいのだ。谷崎は直ぐに気付き、依頼人の女性に尋ねた。

 

 

「おかしい…本当に此処何ですか?えぇと…」

 

「樋口です」

 

「樋口さん。無法者と云う者は臆病な連中で、大抵逃げ道を用意しています。然し此処は袋小路だ。捕り方が片方から来ると逃げ道がない」

 

「其の通りです。失礼かと存じますが嵌めさせて頂きました。私の目的は貴方がたです」

 

 

 そう云って樋口は髪を束ね始めた。後ろで纏めサングラスをかけ、携帯を取り出した。

 

 

「芥川先輩。予定通り捕らえました。之より処分します」

 

『重畳。五分で向かう』

 

「「芥川!?」」

 

「我が主の為…ここで死んで頂きます」

 

 

 樋口は“UZI”(イスラエル製のサブマシンガン。構造が単純で耐久性も高く、扱いやすい。)を二丁取り出し銃口を谷崎に向けた。

 

 

ドガガガガガガガガガ・・・・・・!!

 

 

 銃音が鳴り止んだ時、敦が目を開くと兄を身を張って庇った背中が血みどろのナオミの姿があった。

 

 

「兄、様…大丈…夫?」

 

「ナオミッ!?ナオミッ!ナオミッ!」

 

 

 倒れたナオミを谷崎は必死に呼びかけた。しかしナオミが目を覚ます様子は全くない。リロードし終えた樋口が谷崎の頭に銃口を突き付けた。

 

 

「そこまでです。貴方が戦闘用員で無い事は調査済みです。健気な妹君の後を追って頂きましょうか?」

 

「あ?チンピラ如きが…ナオミを傷付けたね?」

 

 

 

 

 

 

「“異能力”『細雪』」

 

 

 

 

 

 

「雪!?この季節に!?」

 

 

 裏路地一体に雪が振り始めた。其の雪のお陰で敦は我に返った。

 

 

「敦君。奥に避難するンだ。こいつはボクが…殺す」

 

 

 危険を感じた樋口はUZIで谷崎を撃ち続けた。しかし谷崎に弾が()たった途端、谷崎は雪となって地に零れ落ちていく。何処からか谷崎の声が聞こえる。然し声の発信場所は判らない。

 

 

「ボクの『細雪』は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「なっ!何処だ!?」

 

「ボクの姿の上に背後の風景を『上書き』した。もうお前にボクは見えない」

 

「しかし!姿は見えずとも弾は()たる筈っ!」

 

「大外れ」

 

 

 突然背後に現れた谷崎に樋口は反応できず、首を締められる。全身に力が入らなくなりUZIを地面に落としてしまう。

 

 

「死んで終え!!」

 

 

 敦は谷崎の兇相に唖然とし躰が動かなかった。そして樋口を殺すのだろうと思った。だが現実はそうではなかった。

 

 谷崎が突然、樋口の首から手を離した。其れだけでは無い。口から血を零し地面に倒れた。

 

 敦は状況に頭が追い付かなかった。そして谷崎が倒れた事により谷崎を襲った犯人の顔が見えた。其の人物はつい先ほど国木田から写真で見せられた人物だった。

 

 

「芥川…?」

 

「然り。お初お目にかかる。(やつがれ)は芥川。そこな小娘と同じく、卑しきポートマフィアの(いぬ)…」

 

「芥川先輩!ご自愛を!此処は私一人でも…」

 

 

 瞬間、芥川は樋口の顔を(はた)いた。叩いた理由は敦を()()()()するのが命令でありながら片端から撃ち殺そうとした為だ。

 

 

「人虎…?生け捕り…?あんたたちは一体…?」

 

「もとより(やつがれ)等の目的は貴様一人なのだ。人虎。其処に転がるお仲間は…いわば貴様の巻き添え」

 

「僕のせいで皆が…」

 

「然り。其れが貴様の業だ、人虎。貴様は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 この時、敦の頭をよぎったのは孤児院での言葉。

『穀潰し』『生きている価値なし』『この世の邪魔』『この世から消え失せろ』

 其の通りだと敦は思ってしまった。自分さえ居なければ谷崎達が傷つく事は無かったのだ。

 

 

 

「『羅生門』」

 

 

 

 敦を現実に引き戻したのは皮肉な事に芥川だった。芥川が『羅生門』と唱えると漆黒の黒獣が敦の隣の地面を抉った。直撃すれば簡単に手足をもぎ取られるだろう。

 

 

(やつがれ)の『羅生門』は悪食。(あらゆ)るモノを喰らう。抵抗するならば次は脚だ」

 

「な、何故…如何(どう)して僕が…」

 

「逃げ…ろ、敦くん…」

 

 

 自棄に陥りそうになった時、引き戻してくれたのは瀕死の谷崎だった。そしてうっ…というナオミの微かな声。二人共生きている事に安心した敦は芥川に向き直った。そして駆けた。

 

 

「ウォォォォォォ!!!」

 

「玉砕か…詰まらぬ。樋口、離れろ」

 

 

 樋口は命令通り離れ、芥川の『羅生門』の黒獣は敦に向かって猛スピードで迫った。敦は其れを体勢を極限まで落とす事によって回避し、地面に落ちてあったUZIを拾い反対側から芥川の背中に乱射した。

 

 

ドガガガ…!

 

 

 然し、芥川に銃弾は届いて無かった。芥川に届く直前で何か見えない()()によって防がれた様な…敦にはそう見えた。

 

 

「何故…」

 

「理解出来ぬと云う顔だな。(やつがれ)の黒獣は悪食、(あらゆ)るモノを喰らう。仮令(たとえ)それが『()()()()()()』であってもだ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。槍も炎も空間が途切れれば(やつがれ)まで届かぬ道理」

 

(そんなの…攻撃の仕様が無いじゃないか!)

 

「そして(やつがれ)は約束を守る」

 

 

 芥川の黒獣が展開され、敦の右脚に向かって捕食しようと前方より殺到する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「其処までだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 敦の右脚を捕食する寸前で黒獣は止まった。芥川が振り向くと地面に取り押さえられ、頭に拳銃を突き付けられている樋口の姿があった。

 

 

「誰だ貴様は…」

 

 

 芥川からは若く男である事しか判らなかった。何故なら男は黒の山高帽(ボーラーハット)を目深に被り、顔がよく分からなかったからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「後輩をあまり虐めないでくれるか?ポートマフィアの駄犬」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 比企谷八幡は山高帽(ボーラーハット)を片手で押さえながらそう言った。

 

 

 

 

 




第二章 四話が終わりました。


冒頭に出てきた男二人は誰でしょうね?(すっとぼけ)

この話で少し、八幡が探偵社の皆からどのように思われているか分かったんじゃないのでしょうか?



毎回の恒例、謝辞。

『永遠の王』さん、『ラッテン』さん、高評価ありがとう御座います!

そして…お気に入り100突破!本当に有り難うございます!!之からも精進します!!


次回 八幡VS芥川


ではまた次回!感想評価お待ちしております。

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