黒円卓の聖杯戦争   作:tonton

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乱調
「狂言」


 

 

 

 聖杯戦争、その願望器たる聖杯を求める魔術師たちの闘争は第一陣から苛烈であり、舞台である街に嵐が過ぎ去る様に爪痕を残していく。無論、依然として渦中にある闘争が嵐のように待てば過ぎるという事はなく、その只中にいる魔術師達がその様な生温い結果を許しはしない。

 また、件の第一戦、埠頭での戦いすら5騎のサーヴァントが集うという例を見ない狂闘、それを演じた彼らが生温い静観を良しとするとは思えない。

 となれば―――

 

「ふぅん……なかなかいい所に居を構えてるじゃない――」

 

 新都、駅開通に伴う発展により、高層のビル群が立ち並ぶ心臓部、その一角に誇る一際大きいビルを向かいのビルから眺める赤い影が一つ。

 気に食わないとその屋上の縁に腰かけていた少女、キャスターは如何なる手段をもってその目を凝らすのか、その先に見るビルの一室、そこがなんであるのかを既に看破しているようだ。

 

「ん――と……結界に燃料タンクが3つ? トラップがチラホラ―――うっげ、ワンちゃん大量じゃない。あんなにぎゅうぎゅうな所に押し込められて可哀相にねー」

 

 軽い口調で列挙しているが、その実要塞といってもいい魔術防備のそれである。

 ホテル一室を魔術要塞に変異させる手腕。それが可能なものなどこの冬木の地に存在する魔術師多しとはいえ限られる。

 御三家においてはそもそも自前の工房があるのだからそんなものを外部に設える必要性はない――つまり、その手の“城”を必要とするのは外来の参加者という事になる。

 よって、それだけの技術を誇り、実物に手を加えて改造、尚且つそれを隠匿するといった裁量を持ち合わせる者、件の主とはすなわち―――

 

「ま、この時代の魔術師にしては頑張った方ってところかしら―――いいわ。思ったより遊べそうじゃない」

 

 思わぬ敵の質に舌なめずりをするキャスター。

 無論、彼女が醸し出す空気が見る者の肌を寒々と撫で付けるのであって、その少女然とした容姿に醜悪な変化はない。彼女自身その手の美観は人一倍気を使う性質であると見るが、彼女のその美的感覚というものが世間一般の美に沿うものであるのかは甚だ疑問だ。その証拠に、その雰囲気は彼のランサーと同じく血と暴虐を好む獣の性であるといえる。

 その印象を肯定するように、もう静観は此処までとその外縁に手を掛けて立ち上がり、彼女はその顔に頭上の月の様に吊り上った笑みを湛え、その身を夜の街に躍らせる。

 一度火蓋が落とされた戦乱の舞台に、安寧とした夜は存在しえない。それを視線の先にいる筈の主従に示教しようという様に、自由落下に囚われる筈の少女は虚空で踊る様に手をかざし、描かれた象が彼女の背に光りを宿して紋様を浮かべていった。

 

 

 

 

 

 

 

 事は切嗣達がライダーとの交戦に移るその最中より前、ケイネスとソラウが醸し出す雰囲気に当てられるようランサーがその場を後にしたその時へと遡る。

 ランサーの前でこそマスターとして悠然と振る舞おうとしていた彼だが、その苛立ちは先の戦いから今しがた繰り広げていた問答にまでを鑑みれば無理からぬもの。それ故に、ケイネスが抱いていた感情は複雑の一言に尽きた。

 此度の聖杯戦争、“彼の時計塔に神童在り”とまで謳われ、名家たるアーチボルト家、その嫡子として彼は恥のない道を歩んできたという自負があった。また、自信その才能を自覚し、降霊術、召喚術、錬金術といった単一ではなく幅広い分野でその才を発揮した彼は彼の時計塔で一級講師を務める程であり、まさにその経歴は輝かしい栄光に満ちていたといえよう。

 そして、その自身の道の集大成として彼が欲したもの、それが“聖杯戦争最初の勝利者”という実績だ。その為に万全を期して挑む――筈が、彼はその初手にて用意した筈の聖遺物を偶然の事故から何者かに奪われるという事態に陥ってしまう。いや、その犯人の目星はついていたが、その容疑者が姿を暗ませた上、件の聖杯戦争に参加する事を踏まえればその時間は限られていた。

 生来の恵まれた道を歩んで来たプライドか、土壇場で余裕なく慌てふためくという事態は彼にとって容認できなかった。となれば、件の犯人捜索に躍起になるより次手としては第二の聖遺物を確保する方が確実であった。もちろん、最善手を逃した以上、それで満足する筈もなく、より良い手をとその技量を示す為、彼は本来主従を繋ぐ呪術、その構成する術の盲点を突き、パスを二つに分けるという変則契約を画策できたのだから、結果としては彼にとって最良手を用意できたといえる。

 もちろん、その召喚に何の問題も無ければ、果たしてこんな苦悩を抱える事もなかったのだろうが。

 

「――ランサーは?」

 

 その変則契約、サーヴァントに魔力を供給する役を担うもう一人のマスター、ケイネスの許嫁であるソラウ・ヌァザレ・ソフィアリは、その場にいた筈の彼等の従者がいない事に気付いた。

 

「ぬ? あやつめっ、また勝手に――」

 

 そう、ケイネスの心情を憤慨指せてやまない主因、それは彼のサーヴァントであるランサーだ。

 白髪の吸鬼、埠頭にて禍つ吸魂の杭をもって圧倒的な獣性を見せた猛者であるが、その気性の荒々しさがケイネス達にその手綱を握らせる事を困難とさせていた。

 もし、アレが魔力供給が切られてもしばらくは現界可能な固有スキル、“単独行動”持つアーチャーとして召喚されていたら、考えたくはないがマスターである自分を切り捨てたやもしれないとケイネスは危惧している。

 

「いいの、呼び戻さなくて」

 

「放っておいても構わんさ。奴も自身の現界にマスターの魔力供給が必須なことくらいわかっているだろう」

 

 だが、アレを飼い馴らすというのはケイネス自身半場諦めている―――いや、言い方を変えよう。アレはある程度自由に、束縛を緩くした方がその本領が発揮しやすい。

 先の戦いの様に暴走される事態が何度もあるというのは敵わないが、そこは自身の采配の見せどころだ。

 

「でも―――」

 

「この間にでも敵が攻めてきたら、かね? 心配は無用だよ。何せ――結界24層、魔力炉3器に猟犬代わりの悪霊、魍魎を数十体、無数のトラップに加えて廊下の一部は異界化させている空間もある。フロア一つを貸し切っての完璧な魔術防備……コレを前にして正面から挑む輩など、私たちの顔を拝む事すら敵うまいさ」

 

 誇らしげに、スポットライトを浴びるオペラの役者の様に両手をを広げて誇るそれはしかし、確かに要塞といっても過言ではない防備だ。一つの工房を守るのには些か過設気味ともいえるが、それだけに半端な魔術など触れる事もかなわない。英霊ですら真面な輩は突破に手間取る凶悪さだと自負しているし、そうなればこちらで迎撃を整えるのは容易い。

 そう、自身はお膳立てをする程度でいい。敵を如何に誘い込むか、または相手を選別し、その土俵を侵略するかがランサーとの契約した領分というやつだ。

 本来、従者の為に控える等は彼の矜持が許さぬが――アレがその大言を実現しうる実力を持っているのも事実、なら、舞台を整え、後は高みの見物と考えれば、そう悪くもない。

 

「まあ、しかし、君の言う事にも一理ある―――適当なところで呼び戻すさ」

 

 そう言ってリビングの奥からグラスを二つ、新たに手にして戻ったケイネスは片方をソラウに手渡す。

 前哨戦としては確かに不完全燃焼だが、戦いの後にはこうして一間の息を入れるのも一興だろう。

 ランサーの不在に彼女は少々不安げだが、彼も一人の男、そこは器量を見せねばと紳士然とした所作でエスコートする。

 

 と、そこでようやく険が取れた風に目尻を彼女が緩めた時だ。

 

「やーねぇ、警戒は従者に任せて自分たちは呑気に乳繰り合うとか……どんだけって話よね――」

 

「!?」

 

 この場にある筈のない第三者の介入によって二人の空気が凍る。

 先の彼の言うとおり、この場に第三者の介入というのはありえない。ホテルのフロアを貸し切っている以上、従業員が下の階を通る事はあるだろうが、この階を借りる段階でオーナー及び関係者には一通り暗示を施してある。基本的に此方からアクションを起こさない限り不干渉の筈なのだ。

 

「敵――っ、どこに――」

 

 咄嗟にソラウを庇いながら壁際に移動する。

 150階という高層である以上、上階からの侵入というのは想定しにくい。このフロアを占拠していれば下層から飛び越す手段はないのだから尚更だ。

 そして付近に高層ビルが立ち並ぶ以上窓から窺うのも下策、なら信頼の置ける防備の整った内に信をおいて背を預けるのは道理と言えよう。

 もっとも、それは敵が通常予想される範囲であるという前提が必須だが―――

 

「―――ばあ!」

 

「ひっ!?」

 

「ソラウっ!?」

 

 後ろから聞こえた悲鳴に即座に反応し、彼女を庇いつつ壁から飛び退く。

 ありえない、と脳裏を過る否定を拭えない混乱に囚われそうになるが、聴覚に捉えた悲鳴も、どこか聞き覚えのある嘲笑うような声も聞き違いではない。

 

「――っ、赤髪のサーヴァントっ」

 

「これはランサーじゃなくても呆れるわー……あなたも、あまり慢心してるとそのうち足元掬われちゃうわよ?」

 

 壁際からぬらりと何の障害も感じさせない態で侵入を果たしたのは彼の埠頭における戦闘での最後の乱入者、赤い長髪の少女のサーヴァントだ。

 

「貴様、いったいどうやってここまで、このフロアの魔術防備は完璧だったはずっ」

 

「ああ、アレ? 別に、おかしくもないでしょう。私は魔術のエキスパート、キャスターちゃんよ? 寧ろ“魔術師”のサーヴァントがいる聖杯戦争に挑むっていうのにあの程度の結界で満足されてもね……御三家は例外として、こんな目立つところに居を構える必要があって?」

 

「っ、なるほど……貴様がキャスターか、なら此方が用意した防壁が紙同然だったとしても得心がいく、だが――っ」

 

「ケイネスっ」

 

 戦う風でもなくこちらを侮る様にソファーに腰掛けるキャスター。

 だが、確かにケイネスが魔術師として類い稀な才を誇ろうと、それは現代においての話しである。基本的に神秘の度合い、信仰が薄れていく現代においてその力が上位であろうと過去の時代の魔術とは比べるべくもない差がある。

 ならば、赤髪のキャスターが如何なる時代の魔術師だったのかは不明だが、キャスターとして召喚された以上、まずその魔道はこの時代の理解を超えた領域のものであると踏まえるのは想像に難くない。となれば確かに、その余裕もうかがえるというものだ。

 だが、彼とて時計塔でも筆頭と言われた自負がある。例え秘術において及ぶべくもないとしても、はいそうですかと白旗を上げる無様は取りえない。

 ならばと手元の媒介から周囲に魔力を巡らせ、その信号をキャッチした魔力炉から使役する悪霊たちを呼び寄せる術式を即座に奔らせる。

 

「――っ」

 

 だが、その即座に送られた筈の信号をもってしてもこの部屋に変化はない。キャスターという異物の侵入を許しておきながら、打開の一歩を踏み出せない歯痒さに彼が奥歯を噛むと、その様が愉快だという風にけたたましく笑いあげた目の前のキャスターがその種を明かした。

 

「あ、流石に気付いたかしら? 確かにグチャゴチャしてて面倒だったけど――でもそれだけね。あ、ワンちゃんたちはおいしく頂いたから、ゴチソウサマでしたっと」

 

 要はケイネス達にその異常を察知される事無くこの場を占拠したという事、ケイネス達がいた場所をただ強襲するだけでなく、態々施された防備の悉くを蹂躙して来たというのだ。

 悪霊、魍魎においては食ったという言葉は比喩だろうが、それにしてもこれだけの迅速かつ静穏とこなす技量はやはりキャスターの名は虚言ではない。

 パスを通して周囲を探ると、然程離れていない場所にランサーを発見した。がしかし、目の前に敵がいる状態ではとてもじゃないが間に合わない距離だ。案としては、言葉を弄してキャスターにランサーの接近を悟らせないという手もあるが、相手が“魔術師”のクラスではその交信する手段ですら危ぶまれる。

 ならばそう、取りえる手段は一つしかない。

 意識を右手の甲、そこにある筈のマスターの証である令呪に向ける。そこには既に一画を使用し、残る命令権は2回の行使が限度、当然こんな開始早々に使うのは憚られるが―――この場で切り抜ける手段がない以上迷う贅沢はない。

 

『――令呪をもって命ずる! 速やかにこの場に戻れ、ランサー!』

 

「――へぇ」

 

 故に、キャスターが漏らした感心を思わすそれはケイネスの対応が思いのほか早かった事によるものだ。

 彼女から見てもケイネスの様に虚栄の強い人物なら、例え解っていても使用権の限られた令呪の行使は躊躇うだろうと睨んだのだ。実際は即決に限りなく近いそれは一種の強さを思わせもする。

 そして、令呪とは所謂ハイエンチャントによるブーストに近いものである。ただでさえ強大な神秘である英霊を強化強制するのだ。その用途が束縛や制限でなく強化に近い命令であるのなら、事は限りなく刹那に履行される。

 つまり、如何に彼女が魔術において高位といえども令呪の行使を妨害する事は不可能、となればその前に術者を仕留めるのが常道だが――血を匂わせる気配は彼女が戦意を迸らせるより尚早く戦地に駆けつけてみせた。

 

「――よお雇い主。令呪使ってまで呼び戻すとか余裕ねえじゃねえか」

 

 対峙する彼等の中央、やや主側に像を結んだ白髪の男、ランサーは後ろにいる筈の主人に顔だけ向けて伺うが、その態度に主人を心配するような可愛げがある筈もない。が、声色に拾える様な苛立ちもなかった。

 それもその筈、彼が睨む赤眼、関心はほぼ目の前の女サーヴァントに向けられていたのだから。

 

「説明は不要だろうっ、目の前のコソ泥を今すぐ排除しろ」

 

「オイオイ、呼んでそうそうご挨拶じゃねえか――いや、だがまあ、今回のは幾分マシな要望みたいだし、いいぜノッてやる」

 

 寧ろ速く号令を寄こせと滾る殺意をまるで隠そうともしないランサーは、主への返礼もそこそこに既に臨戦態勢にその体を変異させている。そう、彼の吸魂の魔槍、宝具の解放だ。

 

「よおクソ女、また会ったな。歓迎するぜ」

 

「イ゛――だ! 別にあんたなんかお呼びじゃなかったわよ。どうせならこう、セイバーみたいに見た目が小奇麗なのとか、もっとか弱い美少年風な男の子してる感じの方が―――」

 

 終始人を食ったような態度だったキャスターも、流石にサーヴァントを前にしては同様という訳にはいかない。おどけた口調はそのまま閉口する事無く言葉を吐き出し続けるが、素早く手に魔力を通わせて周囲に方陣を描く。本来接近戦を主体としないサーヴァントである彼女にはこれが戦闘スタイルなのだろう。

 

「ああ、そうかい。そら悪かったな」

 

 よって、両者の戦支度はここに済んだ。なら、もうこれ以上待つ必要もないだろうとクツクツと笑いを漏らすのはランサー、そんな彼の胸に天来するのは歓喜のだ。

 かの戦いにて己の楽しみを悉く邪魔立てした敵、敵、敵、その悉くが気に食わない。だが、何よりも癇に障ったのは目の前の女、最後に己に辛酸を舐めさせたコイツの嘲笑う顔。

 ああそうだ、完膚なきまでに叩き潰して吸い殺すと己が槍に誓ったのだ。その敵は目の前にいて、主の号令は敵の排除――この条件でこれ以上待つ必要性が何処にある?

 己は構える間をくれてやったのだ。なら、ここで―――

 

「―――なんて、下らねぇ戯言なんざ俺の知った事かよオっ!!」

 

 今この瞬間にあの時の誓いを現実にすると叫び散らして飛び掛る。

 彼が構えた鳴動する杭も血を寄こせと自身の主になぞらえる様にその暴食の性を禍々しく滾らせ、触れる大気すら枯死させかねない狂気を撒き散らす。

 

「ヒャッハァー!」

 

 そして飛び掛るランサーの速度はセイバーの雷速とまではいかなくとも、此度召喚された英霊の中でも上位のものといってもいいだろう。加えて、その振り被る腕の膂力は確実に一二を争うものだ。とてもじゃないが“最弱のサーヴァント”ともいわれるキャスターのクラスが正面切って相対できるレベルの戦士ではない。

 

「冗談っ、そんな物騒な歓迎は――願い下げよっ!」

 

 よって、彼女が取る手段も迅速で抜かりがない。

 その挙動、体術に限った戦闘では及ばなくとも、魔道の行使は間違いなく一級品だ。故に下準備にも抜かりがないのだろう。方陣が妖しく光る手を一振りして起こった変化も素早く、彼女の足元はその影を円形状に広げ、その上に立つ彼女を消失させた。

 魔力の残滓どころか気配すらないという事はこの場から撤退した様にも見えるが―――いや、この場の強襲目的、ケイネス達を態々ターゲットにしたその理由は推量れないが、アレがまだ付近にいるのは感じられる。

 そう、サーヴァントであるランサーは同じ霊格である存在を感知できる。となれば数キロ先の探知は不可能だろうと、このビル内程度の移動なら問題なく感じ取る事が出来る。

 

「バカが、臭うんだよ―――ソラ、逃がすかっ、よ!!」

 

 そこかと掌に生えた杭を乱雑に床に打ち付け、続けざまに撃ち出す杭の暴風で立ちはだかる灰色の仕切りを砂と化して自身も追いたてる。

 その実数秒にも満たないやり取りはケイネス達が息を突く暇もなく場を圧巻し、圧壊していった嵐達はこの足元で周囲を殺戮に巻き込む厄災と化しているのだろう。

 大穴を開け、依然破壊音を響かせるそれが遠ざかるのを確認し、再起動を果たしたケイネスは手近な装備で無事なモノを確認していく。

 

「――一先ずアレはランサー任せる。ソラウ、今の内に下の階に、この場で戦闘を続けるとなれば最悪ホテルが倒壊する恐れがあるっ」

 

 アレが嵐ならその後に詰み上がるのは犠牲者と瓦礫の山だ。悠長にこのまま構えていれば150階の高層から自由落下、紐無しバンジーを地でいく破目になるだろう。

 いや、問題の焦点はそこではないのだ。ケイネス達だけならその程度の事態に陥ったとしても身の安全を確保する手段はいくつかある。だが、実際に建物が倒壊、もしくは一部でも崩れるような所を一般観衆に目撃されれば秘匿など困難所ではない、寧ろ二次災害すら起きえる事態となれば、最悪聖杯戦争どころではなくなる恐れもあるのだ。

 

「でも、いくら彼でもそれくらいの配慮は――」

 

「彼奴がその種の程度を弁える理解があればどんなに楽だったかっ」

 

 とてもじゃないがランサーはその手の隠匿に配慮をする性質じゃない。キャスターも、仮にも己を魔術師というのなら多少は勘定してもいいのかもしれないが、彼女にとってここは敵地だ。被る負債と労力を鑑みて、必要最低限とみていいだろう。

 幸い、工房としてフロアを改造する都合上、ホテルの人間には細工をしてあるのだから、それらにテロなり事故なりを虚偽として誘導させれば民間人の退避等は容易だ。無論、効果範囲に対象がいる事が前提なので下層、それも渦中の戦闘をやり過ごしながらとなればその難易度は一筋縄でいかない事は容易に想像できた。

 以上を踏まえ、ケイネスは脳内にホテルの内部構造を広げ、ルートの選別をしながら懐の礼装に手を伸ばす、事態が一刻を争う以上、この場で持ち出せるものは最低限だ、この後の戦いを思うとそれは惜しまれるが―――その誘惑を振り切り、隣にいる彼女を先導しながら自室としていた部屋を慎重に出る。

 そこはキャスターの言うとおり、既に施術した魔術防壁が跡形もなく破壊されており、それでいて物理的破壊は最小限に留められている。改めて聖杯戦争に招かれた英霊達の化け物然とした能力に舌を巻いた彼は一度気を持ち直し、下層へ降りる為に走り出した。

 

 

 






 深夜……間に合った、のかな?
 いえ、まずはお騒がせしました。tontonです。
 今回はーうん、短めです。戦闘描写でランサーさんにヒャッハーさせてたらいい感じに長文になってきた為分割する事に―――どうしてこうなったorz
 いや、戦闘描写の按配ってまだまだですという話なのですが(苦笑
 ともあれ、第一戦から開けて次章の開幕は槍兵vs魔術師で行きます。開幕からキャスターさんノリノリですが、そこに触れる描写がのちのちですねー。ともあれ、今はまず彼彼女等の戦いに一応の決着を付けないといけませんがw


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