黒円卓の聖杯戦争   作:tonton

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「終局」

 

 

 世には総じて知らない方が幸せだろうという言葉がある。

 言葉を変えるなら、知らず終えるのならそれも幸福だという話。

 不謹慎と言われればそれまでの話だがそう、もしあなたが猛毒と気付かず毒林檎を口にしてしまった場合、それが致死量を間違えた粗悪品であった場合。身を襲うのは想像を絶する苦痛と尽きぬ死への恐怖。もし或いは、これとは違う結果を迎えるなら、そんな苦痛も味合う事無く事切れていたかもしれない。そう物事を捉えた場合、筋書きとしてみればある意味で幸せというもの間違いではない。

 もっとも、その“幸せだろう”という捉え方は第三者、当事者以外の目線で合って、どちらにせよ本人とっては紛う事なき不運であるのは論ずるまでもない。

 よって、この時激闘の最中極光に吞まれ、偶然無事だった男が目にした“現実”というものも当然、不運であることは間違いなかった。

 

「僕は―――なんだこれは」

 

 最後のマスター、遠坂 時臣との決戦。その最中に突如雪崩れ込んできたきた極光に包まれて吹き飛んだ事は覚えてる。室内という障害物が多い場所で投げ出された割には体が痛まない事もこの際おいておく。それよりも、眼前に広がる炎の赤と、焼け落ち蹂躙された灰色の世界がどういう事なのか、彼の思考は理解を拒絶していた。

 起き上がろうとついた掌に触れた床が、まるで灰に刺すように沈んでいく。今も焼け照り付ける炎が空気を貪っていく。生が感じられない、正に切嗣が嫌悪してきた戦場(じごく)がココにあった。

 

「っ、生きている人間は――」

 

 何よりも現状が結果を物語っているこの場で、望みが限りなくゼロである事など彼とて承知だ。だが切嗣という男はそれを探さずにはいられない。

 この惨劇は間違いなく切嗣達、マスターが引き起こした聖杯戦争によるものだ。より多くの命を救う為、絶望的な願いを叶える為に聖杯という願望器に縋った。その結果がこれだとしたら、この大量の死を内包する混沌が回答であるのだとしたら、釣り合いが取れる取れない所の話ではない。そもそも天秤自体が崩壊している。

 だからこそ、認めてなるものかと視界を巡らせた彼は、奇妙にも一区画だけ、綺麗に地面と構造物を保っていた場所を目にしてしまった。その中心に倒れているのが誰であるのかも。

 

「――っ!?」

 

 何故彼女がこの場にいるのか、なぜそこだけ蹂躙の爪痕が無いのか。心当たりはあるし道筋もたてられる。が、そんなこと知った事ではないと、彼は視線の先へとひた走る。

 一歩一歩が覚束ない、それは走るというより競歩のそれだ。必死で走っている筈の、本来ならばたいしたことが無い距離。だがこの時彼の身体は文字通り死に体に近い。無理な魔術の連続による心身の酷使、累積した疲労に加えて襲った極光。外傷こそ少ないが中身はボロボロだ。そんな彼が向かう先、そこには、彼が必死に探していた彼の妻、アイリスフィールが祭壇に安置されるかのように眠っていた。

 

 遠目では外傷は確認できない。そもそも生きているかさえ――いや、焦燥にかられ、動揺する彼の中で、冷静な部分が分析する。右手に宿った令呪がサーヴァントとの繋がりを示している今、聖杯降誕の為の“器”である彼女はまだ機能しているという事を。

 それがアイリスフィール・フォン・アインツベルン(アインツベルンのホムンクルス)である彼女に与えられた役目。本来無機物であった“器”に人格を組み込み、自立防衛をさせるという“生きた杯”。聖杯を降誕させる為に敗れたサーヴァントの魂を魔力として送る役割を担う彼女に、サーヴァントの生死が判断できるというのはそういう事。同時に、それだけの魂を通す為に、回数をこなす度に彼女は人としての機能を失っていく。先の戦いでアサシンの消滅から倒れた絡繰りがそれだ。今ここにいる彼女は限りなく聖杯“無機物”に近い、アイリスフィールの抜け殻だ。

 

 だが、それがどうしたと自分の中で論を垂れるソレを殴り飛ばし、あと一歩でその横たえられた壇上に手を掛けようとして―――その横を何かが地面を削りながら飛んできた。

 

 いったい何がと条件反射で舞う埃を袖で遮る。不思議と埃が散る速度が速く、視界は瞬く間にはれていったが、そこに倒れていたモノを目にし、切嗣はそんな疑問を持つ事も出来なかった。

 

「セイバーっ」

 

「キリ、つぐっ、早くここから――」

 

 なんだというのか。必死に手を差し出しながら訴えてくる彼女の姿は悲惨の一言だ。

 精練された剣のように鋭く、澄んだ空気を纏っていた戦場の騎士はその装甲を砕かれ、艶やかに輝いていた金の髪は血色で斑に染められてしまっている。裂傷などというにはあまりに痛ましい傷は、まるでナニかに焼かれた様に爛れていた。

 

 いったい何がと、先程から同じ言葉が頭の中を駆け巡るがそれほどに場は変化の連続であり、まるで停滞を許さないように彼を思考の急流へと呑込む。

 

 そして、その流れの奔流。混沌の源泉たる魔王が深淵より顔を出す。

 

「すまない。慣れぬ身体では加減というものが――ほう。今生で得た卿の主がコレか」

 

 金色の瞳。

 黄金の髪を風になびかせ、金刃の刃を持つ槍を携えていた男が切嗣へと目を向けた。

 

「なんだ、あれは」

 

 そして、正規のマスターである切嗣は気付いてしまう。令呪を持たぬもの、この場で言えばアイリスフィールには“見えない”だろう真実。

 

 その男は“聖槍の担い手”(ランサー)であり、“死を振り撒く者”(アーチャー)。

 “爪牙を率いる黄金の獅子”(ライダー)である彼はその内に“破壊の慕情”(バーサーカー)を抱く者。

 盟友たる水銀の蛇が編み出した“永劫破壊”(キャスター)の魔技を手繰る破壊公。

 円卓の首領は“髑骸の処刑人”(アサシン)として災禍を蔓延させる戦争の権化。

 

 その素性の詳細が判別できたわけではない。だが、その存在の内に渦巻く魂の異常性は一目見るだけで十分すぎる。

 

 七つの器の内、六つの入れ物を圧迫する魂。

 万軍を凌駕する個。

 彼の前ではそもそも兵法など成り立つはずもない。並び立てる者のいない狂気のカリスマを持つ黄金の獣。

 

 “二重召喚”という英霊の能力に非常に稀有な能力があるが、彼等は素質を持ち体現できるとしても、此処まで多くの資質を持ち、同時に体現できる英霊など存在しない。聖杯降誕には七騎の英霊が揃うことが大前提。過不足が起こりえる筈がないのだ。逆を言えば、聖杯が用意した六つのクラスという入れ物を並列し、ようやく顕現できるのがこの男の存在は以上も甚だしい。最良であれ最凶であれ、この獣を前にすればいかな栄光も霞んでしまう。

 故に七騎のサーヴァントを要する聖杯戦争に、これは召喚する事が出来ない。

 

「っ、あまり直視するのは避けてください」

 

「セイ、バー?」

 

 呆ける彼の目の前に、彼女の“聖剣”が割り込んでくる。視界を途切れさせられた事により、意識が飲まれかけていた切嗣が帰還を果たす。魔術師である切嗣に対して一目だけで引きずり込み染め上げる存在。魂その物が“魅了”、“魔性”を宿している様なものだ。これがもし一般人であったらな、例え命を差し出せと言われても頭を垂れていただろう。

 

「本人も十分化物ですが、槍を見続けてたら精神がいくらあっても足りませんよ」

 

 彼女が口にする男の正体、聖杯の中身と自分たちの望みが最初から崩れていた事。いや、参加した魔術師達の殆どの望みがかなう事がないという悪夢。

 つまり、聖杯が約束する“力”。“万能の願望器”の中身とは“破壊”をもって願いに報ずるということ。水銀によって改変された“聖杯降誕の儀”。曰く、“黄金練成”。即ちこの第四次聖杯戦争は“破壊の化身”であるこの男を顕現する為の儀式に組みかえられていた。

 

「話はそろそろ終わったかね」

 

「――っ」

 

 よって、聖杯戦争の勝者に与えられる栄光とは、破滅の光。ラインハルトが掲げる“メメントモリ”そして“破壊の慕情”。

 聖杯がもたらす救いなど初めからどこにもない。

 

「あまり余所見をされると私としても気が立つ。ここまで耐えた善戦は讃えよう。が、そろそろ身体も温まってきた頃だろう。卿の主の目もある、一つ気概を示せ」

 

 狂おしいまでに身を焦がす恋慕を明かすように自身を見ろと相対するラインハルト。だがその思いは病的に狂っている。黄金の槍を構える動作はセイバー達のように武術に練達したそれではない。だが、所作の端々に滲む禍々しさが、この廃坑した現状を作り出した本人が誰であるのかを明示していた。

 

「魂を震わせ、命を燃焼しろ。壁が立ちはだかるなどつまらぬ線引きなど捨ておけばいい。走り続けなければ見えないものがある――その先に、己の断崖(げんかい)を飛翔して魅せてくれ」

 

 ゆらりと逆手に握られた槍が振り被られる。どこから見ても投擲の構え、有触れた攻撃動作である筈のそれ。だがその担い手を思えば単なる一撃ですむ筈もなく――切嗣が反応の遅れった身体へと無理矢理魔力を闘争とする前に、彼女がその眼前へと飛び込むように割り込んできた。

 

「下がってくださいっ!!!」

 

 彼女の口ぶりから、目の前の悪魔のような男の実力は重々承知しているのだろう。

 剣が発し纏うのは極大の雷。これまで切嗣が目にしてきた中で、満身創痍に見えるその負傷を感じさせない程に加減など入り込む余地のない全霊の一撃だ。

 

 ロンギヌスランゼ

『Longinuslanze―――』

 

 だが相対している彼女の顔から窺えるのは滲む僅かな恐れ。必至に抑え込もうとする表情に、余裕などはない。

 

「お願い――力を貸してっ」

 

 何に対して祈るのか。剣に対してか、己の信念か、それとも別の何かに――だが彼女の前にいる男がそのような些事に気を取られるはずもなく、断頭台の刃は振落される。

 

 テスタメント

『 Testament 』

 

 常時光を纏っていた金色の槍が放たれる。

 その光景は未遠川でアーチャーが放った必殺の一撃に酷似している。が、器として“(ラインハルト)”を被っていたのなら当然であり、この場合はむしろアーチャーのそれが模倣品に過ぎない。よって、真の担い手である彼が“聖槍”を握り投擲したのなら、それは形が同じであろうと既に別次元の技である。

 

「っ、ぁああああああ!!!!!!!」

 

 激突する光と光。破壊と浄化を担う閃光は互いに消し合い拮抗して見せた。が、“聖槍”が持つ一撃の力は桁が違う。保てた均衡も僅か一瞬に満たない。が、それで十分だと、彼女は怯むどころかさらに突き進むようにして剣に力を込める。

 そして、

 

「見事――」

 

 押し負けたのはセイバー。だが放たれた“聖槍”は僅かにその軌道を逸らされ、彼女が前へ無理矢理押し進んだだけ、槍は彼方へと破壊の爪痕を刻んでいた。

 

「よくぞ我が一撃に耐えてくれた。やはり、相対するというのはこうでなくてはならない。だが、まだ足りぬ。魂が飢える、目指す頂には程遠い」

 

 今の一撃はラインハルトにとって、現状出せる全力であり、底の見えない全霊には遙かに程遠い一撃。しかしだからこそ、“全力”で放った一撃を耐える敵と対峙するこの機会に、彼は胸を躍らせる。

 反面、彼はその“全力”の行使による弊害を全く考慮していないとも言えた。最たるものがそう、彼女の背後、マスターである切嗣のさらに後方、壇上に眠る“聖杯(アイリスフィール)”だ。

 

「……もし私が避けたらどうするつもりだったんですかっ」

 

 ラインハルトが六騎のクラスを纏うという出鱈目な現状。七騎の英霊と一器の杯を捧げる“聖杯降誕”と、八つの陣を必要とする“黄金練成”。つまりはそう、儀式そのものが類似しているという事は、ラインハルトの現界には聖杯の存在が不可欠という事になる。未完成の聖杯により無理に像を結んでいるのだから、制約があるのは当然だ。

 

「その時はその時だ。器の脆弱が過ぎたか、私が卿の信念を見誤っていたのか。どちらにせよ、結果が全てを物語っている。ありもしない過程など論ずるに足らん」

 

 そして未完成である状態で“器”が消失したのならどうなるか、答えはそのまま中身(ラインハルト)の霧散、消滅を意味する。望みに到達しない断線にそれもまたよしとする彼の感性は常人の理解を甚しく飛び越えるが、自己の消滅すら頓着しないのは異常を通り越して病的ですらあった。

 

「アイリのあの状態。聖杯が完成したら、こんな化物が解き放たれるっていうのかっ」

 

「いえ、恐ろしい話ですがあれで全力の半分もありませんよあの人は。だから、器から生れ落ちる前に、倒すしかありません。現状、これが彼を倒す唯一の機会です」

 

 現状で手に余るのだから、器を完成させるわけにはいかない。つまりはセイバー、ベアトリスが敗北した時点でこの戦いの終結と同時に、世界が終わる。その“流出”に器が耐え切れないとしても、その僅かな間で少なくともこの街程度なら易々と呑込むだろう。

 

「どうすればいい?」

 

 当然、切嗣にそんな選択肢は選びえない。

 器をここまで育ててしまった責任として、彼は命に代えてもこの馬鹿げた筋書きを壊すつもりだ。

 

 そうしてセイバーが答える手段は二つ。

 

 一つは全力を、それこそ彼が言うとおり魂を賭して“獣”を足止めし、野に解き放たれるのを遅らせる事。

 現状で器が悲鳴を上げているのは間違いないのだ。未完成である今、アレは獣という異物を受け止めるだけの許容を持たない。時が過ぎればいずれ自壊するのは明白なのだから。

 

 そして二つ目、一つ目の手段に比べて建設的ではあるが、セイバーは苦渋の選択を告げる。

 

「そもそも出のてくる出口を塞いでしまうかの二択です」

 

 “器”が彼という魂を現世に下ろす産道なのだとしたら、その口を塞ぐ、或いは破壊すれば先の通りにラインハルトは受肉しかけている肉体を保てない。コレの一番のメリットは怪物である本人と相対しなくても勝機を得られる点だ。難易度は確実に違ってくる。

 だがそれを選ぶという事はつまり、

 

「いや、まて、それを壊すという事は」

 

「……ハイ。“黄金練成”の要、五色が一角、翠を司る“アイリスフィール(ゾーネンキント)”を破壊します」

 

 彼に、自身の妻を“切らせる”という選択を強いる事に他ならない。

 

 他に手があるのならこんな選択等告げはしない。この手段が効率的解っていながらラインハルトの一投を防いだのは彼に現実を告げる為だ。

 知らず失うのとそうでないのとでは大きく違う。

 最終手段として、ベアトリスは主の了解が無くてもアイリスフィールを切る覚悟がある。被害を天秤にかけた故だ。非難は甘んじて受けよう。これまでそりが合わなかった仲ではあったが、それでも彼自身に最愛の人間を切り捨てさせる選択を選ばせるよりはましである。

 

 そうして、押し黙った切嗣を彼女が退くよう促そうとした時だ。

 

「ふむ、そろそろ頃合いか」

 

 魔の胎動と共に、獣の名を冠する悪魔が己が牙を研ぎ澄ませた。

 

 

『その男は墓に住み あらゆる者も あらゆる鎖も あらゆる総てを持ってしても繋ぎ止めることが出来ない』

 

 

「――ッ」

 

 つまりは“永劫破壊(エイヴィヒカイト)”の第三位階の開放。ベアトリスで言うなら“雷速剣舞・戦姫変生”だ。キャスター、ランサー、バーサーカーがこれまで見せてきたように、一段階上の力を開放する事は即ち力の桁が跳ね上がることを意味する。

 

 

『彼は縛鎖を千切り 枷を壊し 狂い泣き叫ぶ墓の主 この世のありとあらゆるモノ総て 彼を抑える力を持たない』

 

 

 猶予など既にない。いや、この男が世に像を結んだ段階で、その決定は不可避だったのだ。傍らを見た彼はまだ意を告げられずにいる。だがここに至ってその答えを、現実を咀嚼させてあげるだけの間は消し飛んでいる。 

 

 

『ゆえ 神は問われた 貴様は何者か』

 

 

「切嗣、心中は察しますがここは――」

 

 

『愚問なり 無知蒙昧 知らぬならば答えよう』

 

 

 その彼女の手を、離脱を促す為に差し出された手を払う。

 

「―――わかった。僕たちの手で、“聖杯”を破壊しよう」

 

 彼はその決断を下してしまう。

 “衛宮 切嗣”という男はそうした生き物だから、例え何よりも代えがたいと思っている人であっても、彼が掲げる呪いともいえる天秤は平等であろうとする。

 

 

『――我が名はレギオン』

 

 

 一つの命で大勢を救えるならと、彼は自身の剣でる彼女に、自らの意思でもって決意の引き金を打ち落とす。

 

 

 ブリアー

『Briah――』

 

 

「セイバー、令呪をもって命ずる――」

 

 

  至 高 天  ・  黄 金 冠 す 第 五 宇 宙

『Gladsheimr―Gullinkambi fünfte Weltall』

 

 

 彼を中心に、世界が塗り替えられていく。

 獣が望む全霊に耐えうる墓場、彼の世界たる(グラズヘイム)が現実を侵食しだす。

 

『聖杯を、破壊しろっ』

 

 それでいいのかと問う事は彼女にはできなかった。血がにじむほど握りしめられた手を掲げ、ラインハルトと死力を振り絞り対峙する彼の決意に水を差すなど、無粋にも程があると理解できたから。

 令呪の駆動に従い、彼女の身体は瞬く間に壇上の“聖杯”の元へと駆け上がる。

 

「そう来るか。悪くはない選択ではある。が、間に合えばの話だ」

 

 侵食する“城”の速度は瞬く間に彼女達の足元まで迫り、追い越していく。儀式が追えていない内の開放であるから、予想に反して遅い。切嗣達にとっては覆わぬ誤算に救われた形だが、それは刹那の間の話し、一秒毎、その更なる狭間で刻一刻と変化するのが戦場である。

 故に、この男がただそれを眺めている訳がない。

 

『蹂躙し持成せ――SS第10“装甲師団(フルンツベルク)”』

 

 戦車が地面より生じる。機動大隊が這い出る。歩兵が銃を持ち、迫撃砲を構え、彼等は指令であるラインハルトの指揮の元、迅速に配置につく。

 それらは全て“城”より流れ出した髑髏が形作ったモノ。兵も物も、戦車やバイク、高角砲に弾に至るすべてが、ラインハルトが率いる“戦奴(エインフェリア)”。髑髏の兵団が令呪によって“聖剣”を抜き放とうとしたベアトリスの前に壁を作り上げる。のみならず、それらは残らず砲を向ける。

 

「抑えろよルーデル。戦にも作法というものがある」

 

 そして、さらに溢れ出ようとする大群を抑え、彼は呼び出した兵だけで相対する。尽きぬ倒れぬ死なずの兵団。城と同じく彼等が作り上げる戦場は、ラインハルトの望む“全力の境地”を遂げる為の戦場を作り上げる。この中で倒れた魂でさえ、それは彼の戦奴として組み込まれる、これは地獄の体現ともいえる世界だ。

 

「構わずすすめ、セイバーッ!」

 

 骸のスクラム。同じようなものをライダーが行使していたが、そうして呼び出された者のステータスは、呼び出した者の能力に依存する。ならば、彼が呼び出した壁は頑強さにおいて比べるべくもない。

 果たして己に超えられるのか、そう小さな不安が脳裏を掠めた時だ。

 戦場に、彼等とは異なる4つ目の声が響いた。

 

『令呪をもって命ずる、“アーチャー”宝具の開放を押し止めろっ』

 

 祭壇の向こう、瓦礫に成り果てた壁に手を付いて令呪の宿った手を差し向けるのは、先程まで激闘を繰り広げていた遠坂 時臣だ。

 

「なるほど、卿の存在を見落としていた。確かに、今この体の根幹はアノ男(アーチャー)のモノであったか」

 

 如何にラインハルトが六つという規格を無視したクラスを身に纏おうと、降誕の際に核となったのはアーチャーだ。そして、限界の為に必要な聖杯とのパス。完全に受肉していない状態では不可欠なものである。

 

「だが――」

 

 “城”が溢れだした時点で彼の渇望は誰にも留められない。城が完成した段階で、この理から逃れられる者など誰ひとりとしていないのだから。

 好敵手と認めたセイバーに夢中になるあまり魔力の供給から目が逸れていた彼であったが、こうして目の前にしたのなら見誤ることはない。遠慮なく、暴虐に、彼は貪欲なまでに“魔力”を喰らう。

 

「グ、ぁ、ォオオオオ――」

 

「その体で、いつまで抑え込めるのか、私としては見物だな」

 

 その様は供給というより、もはや搾取だった。

 あまりに受け皿となる(ラインハルト)が大きい為に、蛇口である時臣がなまじ優秀である為に、過剰な魔力を時臣を通して聖杯から奪い取る。聖杯が魔術師に供給する魔力は一定量を一定の割合に行うものだ。これほどの過剰要求を通していたのなら、時臣という魔術師は供給が追い付く間もなく枯れ果てる。

 

 だがしかし、それ故にこれは彼等に与えられた、彼が体を張って与えてくれた最後の好機だった。

 

『最後の令呪をもって命ずる、セイバー、聖杯を、破壊しろ!!』

 

 聖杯から解き放たれる雷はもはやの洪水とも言うべき規模だ。

 統率が乱れ、強度を一時的に失った戦奴達は雷の波に攫われ焼かれ、欠片も残らず蒸発する。

 通った。

 そう確信する程に、彼女にも、彼にも会心の一撃だった。

 

「ぁ、ああ、あああああああ!!!!」

 

 故、障害足りえるモノはここに排除され、“浄化の雷”は立ちはだかる全てを呑込み、この戦いの根源である“聖杯”、アイリスフィールを呑込んでいった。

 

 

 






 ようやく、終わりを迎えます(次回だよ!
 これで終わり? と思った方、どうか最後(いろいろな意味で)までお待ちいただけると助かります。
 獣殿ハッチャケさせられたので個人的には満足はしています。が、多分てか、原作の半分も再現できてない気がす(ry
 え、えっと、まずは次回のピリオドをお待ちくださいな(震え

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