黒円卓の聖杯戦争   作:tonton

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「盆」

 

 

 

 既に深夜に差し掛かるこの時間帯。冬木の街も、活気と熱気にうなされる新都の街も例外なく、その光を消していく。

 寝静まる街。

 そんな人気の無い街の一角、周囲に比べて面積を有する公園で、それは唐突に像を結んだ。

 

「――クソ、ガッ、あの野郎、ここぞって時に舐めた真似してくれるじゃねえか」

 

 怒り心頭に発するとはまさにこのことかと思わせるように、白い相貌に血管を浮き上がらせ、隠す事無く叫び散らす男、ランサー。だがこの場にその声を聴く者もいなければ、聞いて駆けつける厄介者もいない。

 彼がこの場に姿を現すと同時に作動した術式、人々の意識を逸らし、遠ざけるそれは文句のつけようがなく正確で、それだけに術者の力量を窺わせる。

 そして―――

 

「―――ん」

 

 聞く者がいないというのは正確に言えば、聞けるものがいないという事。

 男の傍らで倒れ伏していた女性、ソラウは、男の雄叫びを間近で聞いていた為か、その深く眠っていた筈の意識を覚醒させる。

 

「ここは――」

 

「チ……いい気なもんだな女。手前の男が一世一代の大博打って時によ」

 

 半覚せい状態の彼女にランサーの舌打ちは耳に届かなかったのか、彼女は周囲と伏せていた地面の冷たさに徐々に意識を取り戻していく。

 彼女の最後の記憶とは、第二のアジトとして構えた廃墟を改装し、その拙さを詫びると共に休息を進めた夫となる男の姿。連戦に続く魔力の枯渇に、彼女は彼の厚意に甘えて比較的整えられていた一室で自己暗示による休息を取っていたはずだ。

 それが―――目を覚ましてみればまるで見覚えの無い、いや、見間違いようもないほどの変化を見せつけている。瞬間的に廃墟が吹き飛んだり景色が変わるという事は問うまでもなくありえない。そしてだからこそ、彼女は問うべき問いを目の前の男に問いかける。

 

「ラ、ンサー……その、ケイネスは、どうしたの」

 

 その問いに舌打ちで返す目の前の男。

 それは彼女の問いが言葉足らずだった事や脅えていたように見える事から来るものではない。もっと単純に、そんな解りきった事を問うなという、明解なものだった。

 

「仮にもだ。変則的とはいえ、オメエさんも俺を通して三人ともパスは繋がってたんだ。わからねえ筈もねえだろ。それとも何か? 寝ぼけて頭のネジでも締め忘れてんのかよオイ」

 

「パス―――」

 

 そのランサーの言葉に、本当にそれまで失念していたと言うように己の中、そして目に見えない流れを感じるように目を閉じる彼女。ここで言う“繋がり”とはランサーに対する“命令権”と“魔力供給”を分けた事による変則的な契約の事で、それがある限り、彼女等は自信を、彼の事を離れていながらに感じる事が出来る。

 

 そう、相手がどんな状態かも、だ。

 

「―――!?」

 

 ランサーを中心に意図が伸びるようにして感じられた魔力の通り道、ラインは伸びていた筈の片方が不自然に断ち切られていた。いや、その残骸を感じられるだけに、歪な紐が漂っているようにも思えるが―――どちらにしても、その結果が占める結論は一つしかない。

 

「ラ、ランサー!! 彼を、ケイネスの救出に―――」

 

 バネ仕掛けの様に頭を、横の男に向けてあげた彼女はすぐさま理解した情報を伝えようと叫び散らすようにして命令しようとした。したが――

 

「あ? んで俺がそんなしちメンドくせぇ事しなくちゃなんねぇんだよ」

 

 被せるように、切り捨てるように突き放す彼の言葉にその後に続くはずの言葉が、表情が凍りつく。

 

 今この男は何といったのか、ソラウにはソレ処理できない理解できない。

 パスを通してケイネスの状態が分かるとソラウに言ったのは彼だ。つまり、その程度の状況、彼は既に把握しているという事で、彼はケイネスが手遅れ(・・・)だという事を知っている。

 

「なにを言ってるの……彼は貴方のマスターでっ、貴方は彼のサーヴァントでしょう!!」

 

 だが、彼は何を置いても先ずケイネスが主人であるマスターで、その主が倒れるという事は彼の望む戦場への資格を失うという事の筈だ。それ故にその言葉が理解できない。いや、その理解を拒絶する。

 

「―――けろよ」

 

「っ!」

 

 そんな癇癪を起す彼女を、背後の街頭に押し付けるように突き出した右腕が、彼女の頭上で鉄柱を湾曲させる。

 喚こうとした彼女をさらに凶悪な怒気でもって威圧し、捩じり切れたその上半分は半場が首を折られるようにぐらりと傾く。

 

「勘違いしてるようだから、この際ハッキリ言っておいてやる」

 

 背後で倒れた鉄の塊が甲高い音を響かせ、そらした現実に無理やり目を向けさせようとする。

 いつの間にか月を覆う頭上の空が、彼女の心境を表すようにさめざめと泣き出す。

 

「手前らに召喚されてから今日今まで、俺はお前ら劣等の事なんざ主と認めちゃいねぇ」

 

「なにを……それでも彼のしてきたことはっ」

 

 それは、薄々も気が付いていたこと。そしてケイネスも同意見であったからこそ、互いの領分を明確にし、過度に干渉しないよう神経を張り巡らせていたはずだ。事実、ソラウ自身己が単独でこのランサーを呼び出していたら、とてもじゃないが手綱を握れる気がしない。それほどまでの采配を見せていたのか彼であり、それだけに、歪ながらも信頼関係を築けてきたと思っていた。

 だが、

 

「ただ単に暇つぶしには都合がよかっただけだ。ウザったい敵、気に食わない敵、多少張り合いがあるが、まあそれも敵だ。そいつらと削りあう戦場――ああ悪くねえそいう血が騒ぐし食種もそそる。だがよ――手前らちぃっと調子に乗り過ぎなんだよ」

 

 ランサー自身、主と認めなくてもそばにいて不快にならないくらいには感じていた。

 彼が纏う殺気は無作為で無差別。近くにいる誰だろうと抜身の刃のように、飢えた獣のようにその牙で噛みつく。故にケイネスのように害が及ばないことは本来異常極まりない事態であり、いってみればそれも歪な信頼関係だったといえる。

 

「初めにオーダーは確認しあったはずだぜ? 戦場においての線引きってやつは大事だ。ああ、だからアイツも殊更それには気ィ使ってたんだろうが――」

 

 彼にしてみれば、歪に見えようと解けやすい、脆い同盟のようなものだったという話だ。

 

「――使えるようになったかと思って放置しておけば調子に乗りやがってよォオ!!!」

 

「!?」

 

 彼の叫びに呼応するように、背後の街灯だったものが耳に触る異音をたて――背筋に走った悪寒からか、直感から、彼女は崩れるように横に倒れる。

 すると、地面から生えていた鉄の柱は残らず砂鉄に返っていく。

 その気性の荒さを表すように、彼の足もとの舗装が徐々に砂に返っていく様を見せつけられ、彼女は恐怖心から腰を突いたまま後ずさる。

 

「ヒィ――」

 

 ランサーにとって、胸高鳴る戦場で望む相手と鎬を削る戦場とは至高の舞台だ。

 その高揚に水を差されることは、彼にとって初めてではない。いや、初めてでないからこそ我慢がならない。

 いつだったか、ある日気が付いた時から彼はそうあるようにすべての行動が帰結する。

 どれだけ飢えようと、どれだけ力をつけ強く望もうと、その時望む物に袖に振られる。あるいは横からさらわれる。

 故に再三にわたる喪失が、自陣の手によるものだと理解して彼は怒りを猛らせる。その矛先が既に倒れたということを知って、振るうべき首級を失ったことが彼の憤りのなさを増長させているのだ。

 

 当り散らすように彼の魔性が周囲の木々や生のあるモノ、空気すら歪めて枯らしていくが、その程度の塵芥で彼の飢餓が潤い消えるはずもない。

 一通り当り散らし、辺りが瞬く間に更地になった頃―――

 

 

「――行けよ」

 

 ポツリと一言だけ漏らす。

 

「え?」

 

「興ざめなんだよテメエもこの戦争ごっこも何もかも」

 

 簡潔に、それだけに彼の心情を表している。

 飢えた渇きの慰めにはなるかと挑んでみれば、確かに彼の糧と見定めるだけの獲物はいた。いたがその全てが果てる事無く散っている。最後の剣の英霊とのぶつかり合いも、その最高潮の場面で奪われるとくれば――嫌気がさしたと冷めた目を向けるもの無理からぬというもの。

 

「私は――私達はただ――っ」

 

 ソラウもランサーの言い分がわからないわけではない。パスを通してつながっているといっても、自分は魔力を供給する側で、彼に対する命令権を持たない。

 仮に持っていたとしても、彼が彼女の言葉に従うかは怪しいところだが――どちらにせよ、戦闘能力を持たない彼女に単騎でケイネスを救いに行く手段がない以上、彼女ができる手段などない。

 自殺願望があるなら話は別だが、

 

「……チっ」

 

 嘆き呟くソラウの泣き言にも、元主がどうなるかの行方も、既にランサーの関心外だ。

 次第に強まる雨に打たれ悔み泣く彼女を一瞥し、彼は夜に解けるように像を解いてこの場から姿を消す。

 

 周囲の干渉を阻む結界の中、雨音に声をかき消される彼女はその消失に気付かないまま、ここに一つの陣営がその幕を下ろした。

 

 

 

 

 

 彼女が目にしたのは血の池だった。

 目標の喪失と出現を感知してから急行して見た物。それは人一人にして明らかに死に至るに十分な血につかる男と、それを前にして冷徹に銃の薬莢を取り出す主の姿だった。

 

「切嗣、これは」

 

 敵地に襲撃し、主と従者がそれぞれ相対していたのだから、倒れているのがランサーのマスターだという事はセイバーも分かっている。彼女が聞きたいのはその死因でもなく、この場面のもっと根本的な不可解さだ。

 その声を聴き、ようやく彼女の存在を認識したという様に、切嗣はそんなことも分からないのかと呆れた風に溜息すら漏らして見せる。

 

「……見ての通り君等が表で暴れている間に目標のマスターを仕留めた。もっとも、ランサーは逃したが、なに、それもじき―――」

 

「――それがそうなら、なぜあなたが生きているんですか」

 

 そう。それこそがセイバーの疑問。

 目の前で消えて離れた場所、恐らく此処に現れただろうランサーの移動はまず間違いなく令呪による強制転移だ。なら、如何な神秘を持とうと“現代の魔術師”である衛宮 切嗣という男が生きている筈がない。ランサーという狂人と鎬を削ったセイバーにとって、アレの性格は文字通りに直に感じていたのだからなおさらだ。

 

「取り逃したのならともかく、マスターは仕留めたんだ。僕は自分の役割を全うした――それを何故ととがめられる筋合いはないだろう」

 

「っ、本気で言っているんですか。切嗣」

 

 どうも、この男はセイバーと真面に相対する気が無いと常々思っていたが、それもセイバーの勘違いではないらしい。

 矢面に立つのが男の仕事で、女がでしゃばるなというフェミニストという訳ではないだろう。もしそうなら彼は舞弥という相棒を連れていないだろうし、妻であるアイリスフィールの動向にも反対していたはずだ。故に、彼の反感を買う何かがセイバーには該当するのだろうが――視線すら合わせない頑なさに、セイバーはこれまでそれが何か問う事が出来なかった。

 

「マスター、貴方のその論点をワザとすり替える物言いはやめてください。そのランサーはどこに行ったんですか」

 

 しかし、それも両者の橋渡しであったアイリスフィールが臥せた今ではそうもいかない。

 その状態に至る彼女の容態、まだ話しあえていないことは多く、それも含め腹を割る必要があるだろう。

 もっとも、まずはこの現状の理解に努めるのが先決だろうと、彼女は切嗣に説明を要求する。

 

 切嗣も、此処に至ってようやく語る気になったのか、―それでも視線は合わせず―コートの中から新た弾を取出し、手に持つコンテンダーに素早く装填しながら、ついでの様に話し始めた。

 

「――人質に取ったソラウ・ヌァザレ・ソフィアリを開放する為に、ケイネスは最後の令呪を使って彼女を離脱させた。僕としては、ここでランサーには自害でもして欲しかったんだがね」

 

 つまり、戦場の駆け引きで切嗣がケイネスを上回ったという話し。そしてケイネスが選択したのは自身の命、勝利よりも伴侶の命を優先してランサーを呼び戻したという事になる。

 切嗣が用意した手段は一般的には忌避される手段だろう。戦闘能力のない人間を盾に取る。それは悪徳かもしれないが――ここは平時ではなく“聖杯戦争”という戦場、秘匿を第一に殺し殺されが当たり前な場所ではそうした矜持や作法が霞むという事はセイバーも理解している。無論、完全に納得した訳ではないが、戦場にそうした光景がついて回る事実から目を逸らすつもりもない。

 

 それよりも、彼が素直に話してくれた事に兆しを見たかと一安心し、ふと、倒れていたケイネスを確認した。

 

 すると――

 

「まだ生きて――」

 

 脈を計るまでもない。

 魔道の一端を齧った者ならば、見れば生きているかどうかはわかる。

 となれば問題は彼の処遇だ。

 殺し合いで殺めるのは当然の事。だが、その決着がついた後であえて断つとなれば彼女も二の足を踏む。

 外法を理解はしても、自ら進んで行う程、彼女は戦場に染まっていない。

 

「――やれやれ、思ったよりもしぶといな」

 

 だが、そこで迷う彼女を無視して、横にいた彼は新たに弾を込めた銃を、その死に体な男に向けた。

 

 

「……何の真似だセイバー」

 

 

 その姿を目にし、即両者の間に割り込むセイバー。

 

「それはこちらのセリフです切嗣。私でも近くで見れば彼がどういう状態かくらいは解る。貴方はそんな状態に貶めてなお命を奪うというのですかっ」

 

 敵を倒すのに手段は問わない、それは兵法の一つだ。だが、倒れた敵を貶める行為はそれ即ち外道の所業で、それを彼女が見過ごせるはずがない。

 そんな彼女の身を挺した主張に、切嗣はやはりかという様に息を吐き捨てるように一つ吐き、突き放すように冷めた目でセイバーを見返す。

 

「解っていないようだから言う。僕が魔術師について語るのもお門違いだろうが――そうなったモノは皆絶望にのたうち回って死ぬ。1%に満たない確率で生き残ったとしても、彼等がその生をありがたがることはない。魔術師にとって、これまで大成してきた奴らにとって、それを取り上げられることは君が思う以上に絶望だよ」

 

 彼の経験談からか、語る言葉は淡々と、だが嘘ではないという強さがある。銃身はぶれず、尚もセイバーの身体の向こうのケイネスに向けられている。

 諸共、という事はないだろうが、彼が告げる言葉もセイバーに向けられているようで、その瞳がセイバーを意に介していない徹底ぶりから、もしもと連想させる空気を演出してる。

 

「だからこれは慈悲だよ、僕なりの。その少ない確率で死神に袖を振るわれて拾う奇跡(ぜつぼう)より、今ここで断たれる結果(こうふく)を与えられる方が、彼等にとっては救いに等しい」

 

 思わず咽がなりそうになる自身を抑える。セイバーもその速度、剣技から目の前で弾丸が発射されたとしても問題なく対処できる。できるが、それを前に突き付ける切嗣の雰囲気がある種の感情を想起させるのだ。

 

「まるで……見てきた様に語るんですね」

 

「当然だろう。衛宮 切嗣は“魔術師殺し”だ。これまで多くの魔術師をその断崖から突き落としてきた。なら、その中にそうした奇跡を得たのも少なくはない」

 

 つまり、これが“魔術師殺し”として歩んできた男の重みなのだろう。その雰囲気にある筈の無い質量を幻視する程に、それが彼が刈り取ってきた命の多さの証明なのだろうか。

 

「だからと引き金を引くのですか。そうしてあなたは、死なないかもしれない選択肢を殺して、殺さなくてもいいかもしれない命を無理に奪ってっ」

 

 それでも、だとしても譲れぬものがあると、セイバーはさらに一歩切嗣へのりだす。

 下から鋭く見上げ睨む彼女。彼女もまた戦場を知るだけに、瞳に滲ませる凄味はそこらの乙女に出せる物ではない。

 

「――だから、君とは相いれないんだ」

 

「え?」

 

 そして、そんな視線にさらされても尚、いや、やはりというべきか、彼の心は変わらない。

 寧ろより固く決まったといってもいい。

 

「だから君は甘いと、そう言ったんだ」

 

 セイバーとして召喚された女と、衛宮 切嗣という男は一定のラインで理解が出来たとしても、両者の根底は決して相容れないと。

 

「なにを――」

 

「戦場で光る導になりたい? 血と涙と悲鳴と、命が無作為に浪費される地獄で、お前たちのような騎士様が何も知らない一般人を戦場(じごく)に駆り立てるんだ。僕から見れば、お前たちは英雄なんかじゃない、剣を掲げて死地へ送る様は、僕の目には死神に映る」

 

 だが、仮に相容れないとしても、切嗣の言葉はセイバーの琴線に、逆鱗に触れた。

 戦地において誰よりも仲間を、愛する人を救いたいと駆けた彼女にって、それは戦いにおけるスタンスを論じる以上に捨て置けないことだ。

 

「騎士を、戦場で散っていった戦友たちを愚弄するつもりか!」

 

「なら君の言う殺さなくてもいい命は何なんだ。戦場で倒れている敵兵を見つけたら手当てするのか、それとも放置しろと? 顔を覚えられれば報復の危険性もある。生き延びたそれが悪意を周囲にふりまくかもしれない。悪災の種はね、取り除けるときに取り除くべきなんだよ」

 

 彼の主張も理解してるし、練り歩いた戦いの中でそうした意見を掲げる人も同じ軍にもいた。だが、ここまでくれば彼女も抑えていた感情が顔を出す。退くに退けない題であるが故に両者譲るつもりが無い。

 

 そして、両者が言葉による議論から武力に移行するかという程場の雰囲気が張りつめかけた時、

 

「さぁ――――」

 

「――!?」

 

 切嗣がこれまで見せた事の無いような驚愕を表し、それにより場の険呑な雰囲気が霧散する。

 そのケイネスに向けていた銃口が外れ狼狽える様は普段冷静な、冷めているとも取れる彼を知っているだけにセイバーも把握が遅れる。思わず何をと間抜けな態で問いかけかけた時、セイバーに向けて怒鳴るように彼が焦燥する事態を簡潔に説明した。

 

「詳しい説明は後だっ、城が襲撃されている!」

 

「そんな、今あそこにはっ」

 

 そしてそれはセイバーにしても驚く事態だ。彼の言葉によれば、侵入ではなく、城は襲撃されている。つまり、中にいる彼女達は敵の脅威にさらされているという事だ。

 その事態を彼がどうやって知ったのかはセイバーの知るところではないが、アイリスフィールの妻であり、久宇 舞弥をパートナーに持つ彼だ。城に何らかの備えがあっても不思議ではない。問題は、そんな用心深い彼が用意した備えを易々と突破する襲撃者にある。

 

「だから説明する暇はないんだ!」

 

「切嗣っ!」

 

 故に、この時は二人とも多くを語る事無くすべき事は決まっている。

 分かりあえなかった二人が、この場にいない、いれない人物による危機によって協力するというのは皮肉な話だが、それだけに迷いも思慮も必要ない。

 

「令呪をもって命ずる――セイバー、今すぐ“城”へ飛べ!!」

 

 切嗣が唱える令呪の行使に抗う事無く、彼女は自身の魔力すら進んでつぎ込み、すぐさまこの場から消える。令呪の行使が瞬間的な移動を可能とするのは、先のランサーの行動と同じように問題なく施行される。

 ただ、セイバーが望み願うだけに、その速度は一つ高い領域の行使を可能としてる。

 その彼女なら、次の瞬間には離れた城まで到達しているだろう。

 

「――アイリっ」

 

 だがもしと、最悪の事態が脳裏に浮かんだ彼は、落した銃を拾うだけにすぐさまこの場から移動を開始する。英霊でもなく、ただの人間であるこの速さに歯噛みしながら、彼はバイクに跨る。

 

 聖杯戦争の裏で暗躍を始めたカレ等が、とうとう動き出す。

 冬木で起こった聖杯戦争は、これより否応もなく大きく動く事になった。

 

 

 






 この作品のセイバーは切嗣に対してある程度の理解はあります。あるけど相性がいいのとは別問題なんだ! と思うtontonです。
 そろそろ話を進めるべきだと暗躍していた彼、そして彼が動き出します。大まかには原作を踏襲する流れですが、黒円卓のメンバーを踏まえて私は無理のない展開だと思っております(震え
 次回から新章突入!
 お楽しみに! ということで、今回はこんな感じです!


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