黒円卓の聖杯戦争   作:tonton

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「剣戟」

 

 

 

 冬木の街。

 その中心である未遠川を挟んだ新都はいまだ発展中である。当然、そんな場所であるからして、冬木市民会館の様にまだ完成途の場所もあれば、中心部から外れれば開発の手がまだ届いていない場所や廃墟などがある。

 その一角。その建物は新都で事業が盛んになる前に立てられたCRの建物だ。整備などされていないだろうそこは構造が頑強であるが故に損傷が無い。

 少々埃っぽい難点があるが――それは魔術師であるカレにとっては欠点足りえない。

 

「クソが! 面白くねェッ」

 

 そんな内部で像を結んだランサーは目の前のテーブルを蹴飛ばし、その勢いでソファーに乱暴に腰掛ける。

 蹴飛ばされたテーブルは勢いよくそのままコンクリートの壁に激突して砕け散る。これでも殺風景な拠点に彩りをと、家財にはそれなりに金をつぎ込んでいた。

 つまり、今し方粉々の木片の山と散ったテーブルも値が張る逸品なのだが、

 

「お前の言いたい事も解るが、出来ればそう物にあたる癖を控えてもらえると助かるのだがね」

 

 そう言って扉の無い敷居を跨いで現れたのはケイネスだ。

 キャスターにホテルを倒壊され、この廃墟を第二の居城として構える為に改装した手間暇を考えればそれくらいの文句を言っても罰は当たらないだろう。が、そんな言葉を言ったところでランサーが聞き分ける性格でもない事は承知である。

 よってその機嫌が下手に暴発しないよう、手に持っていたワインを嫌味と共に投げ渡す。

 手渡しでないのはせめてもの意趣返しだが―――目の前の粗暴な輩はその程度の事は気にしないだろう。

 事実不機嫌そうな顔ではあるが、手に取った瓶の銘柄を見て幾分か険が取れている。

 こう見えて酒を嗜んでいたのか少々うるさいところがある。だからして、人――ではなく英霊も見た目ではないという事だろう。面倒な話ではあるが。

 

「へーへー、悪ぅござんしたね――っと、大体あの神父気取りの弓兵といい、逃げ腰なライダーといい、この聖杯戦争のサーヴァント連中は腰抜け揃いかよ」

 

 コルクを抜くどころか爪か手刀か、鋭利な刃物できり飛ばされたような断面に口をつけ軽く口をつけるランサー。

 確かに、ランサーの言う不満はケイネスとて理解している。

 この聖杯戦争が始まってこのかた、ランサーの戦いというのは終始決着を見る事無く崩されている。直前で獲物を取り逃がしたり、第三者の介入など、だ。特にキャスターにおいては因縁が深かっただけにこの一戦に対する熱の入れようは尋常ではなかった。一度倒れた相手が再度新たな力をつけて強大な壁となって立ちはだかる。彼の性格から鑑みてそれで奮い立たない筈がない。

 

「確かに、討たれたキャスターや魔力切れを起こしたのか消失したバーサーカーはともかく。逃げ癖のあるライダーや神出鬼没なアーチャーと、お前とはそりが合わなさそうな手合いばかりか」

 

 故に、彼の欲求不満はここにきて臨界に達しているとみて間違いない。寧ろこうして爆発しないのが不思議なくらいで、

 

「――だが、目ぼしはついているのだろう? その凶刃が狙う今度の得物を」

 

 そうならないからには、それだけの得物を見定めたという事だ。

 彼がその怒りの全てを爆発させてぶつけられる相手を。

 

「ああ、ていうよりああまで舐められて捨て置くかよ。宣言もしたんだ。なら予告通り惨状して首刎ねるのが礼儀だろうが」

 

「まあ、確かに」

 

 アーチャー。

 

 アサシンの最初の脱落が茶番であったなら、セイバーとランサーの戦いはこの第四次の第一戦。その戦いを妨害したのは結果的に見ればほとんどのサーヴァントによるものだが、最初に彼の琴線に触れたのは司祭服の丈夫だ。

 ランサーの凶刃を体術のみで裁き、先の戦いでは宝具の開放でランサー自身が攻めあぐねていたキャスターを一撃のもとに沈めて見せた。

 はっきりいってケイネスとしては情報収集に努めたい、後に回したい敵だ。

 ランサーの主張は作戦も理論立てた順序もない、我によるところが大きい主張である。が、それを度外視すればあれだけ強大な宝具を開放すれば少なくとも疲弊はしている筈で、ランサーの主張は一概に切り捨てられるものでもなかった。

 

「……オイ、ここで待てとかクソつまんねぇこと言い出す気じゃねえよな」

 

「まさか。私としても彼の遠坂にはあまり居座られるのも厄介なのでね。行動するなら早い方がいいだろう」

 

 厄介であるが故にここで逃すわけにはいかない。ランサーの主張は単に気に食わないという所だが、相手が全力を出せない好機となれば、情報収集をなげうってでも挑む価値はある。少なくともこの先真面にアドヴァンテージをとれるかわからないとなれば余計に、だ。

 そして、さしあたって問題となるのは、

 

「魔力供給はどうなっている」

 

 こちらの余裕。ランサーの魔力と活動限界だ。

 ランサーの宝具は一度発動すればその発動期間中、燃料を自動供給する。所謂永久機関に等しい。その発動に起爆剤、所謂スタートキーを回す必要がある。そして発動中の魔力を賄えるが、発動時に消費する相応の魔力はそのサイクル外、つまり二度も発動すれば相当の消費となる。それ故彼は戦闘続行を断念したのだ。

 彼自身戦闘に狂していると言えるほどの執念を見せるが、それはあくまで闘争を何よりも楽しみ重んじるからであって、進んで負け戦に臨むわけではない。何も負けるとわかっていて勝負に臨むわけはないのだ。

 無論、熱が入ればその限りではないが―――彼流にいうなら、あの場で一度白けた空気の中で身を投じるには興が乗らなかったというだけの話。

 

 そして、あれから幾分か経過している。

 日は既に傾き、冬木の空に3度目の夜の帳が広がる。

 それはつまり各陣営に体勢を立て直すのに十分な時間を与えたといえる。が、こと回復・供給という点ではこの陣営以上の者はいないだろう。

 

「あ? ――まあ、4割がた回復したわな。前回とはいかねぇが、戦闘して宝具ぶっ放すのには十分だよ……と、そういやあの女はどうした」

 

「ああ、彼女に関しては上の階で養生してもらっている。今回の戦闘で、些か魔力を消費しすぎたのでね。お前の魔力回復に当てられるよう楽にしてもらっている」

 

 何しろ、供給する魔術師を一人用意するという変則ルールを捻じ込んできたのだから。それは他の陣営より抜きんでているのもうなずける話だった。

 

「という訳でだ。こちらの準備はほぼ完了している。この場の隠蔽を施したのち、遠坂に奇襲をかける。悠々と構えているだろう彼奴等の城、お前の槍で存分に蹂躙するがいい」

 

「――――イイゼわかってきてるじゃねぇか。悪くねぇ」

 

 主人として、目の前の男をランサーは認めていた訳ではない。自分が心躍る戦場へ望むための必要措置。邪魔であれば即座に切り捨てる。そのはずが、ここにきて男は彼の趣向というものをよく理解しているとみていい。

 気に入らないから潰す。

 行動原理として単純で短絡。

 だが、それ故に宿るのは混じりけのない殺意だ。

 下手に手綱を握ろうとするのではなく、放逐しつつ好みに合わせた選択で誘導する。このサーヴァントを前にして令呪による拘束は無意味だと、ケイネスも悟ったのか、ランサーはその采配に何時になく上機嫌だ。

 

 何しろこの地で心躍った戦いに最初に水を差した邪魔者。本来なら一番に切り捨てる筈が、いつの間にか遠回りをしていたと自嘲気味にランサーはクツクツと笑いを零す。

 

 望んだ相手を潰し損ねた飢餓感はもうない。いや、依然と飢えはその胸にある。あるが、その獲物を見定めた以上、飢えを塗りつぶすほどの高揚感が胸を満たす。殺意が身体から漏れ出す。

 

 襲撃に警戒してだろう。ケイネスはともかく、ソラウに関しては魔術戦闘に関する心得が無い。魔術師として優秀であろうと、それが戦闘力に繋がるわけではないのだ。そう思えば彼の配慮も理解できる。

 本来なら即座に飛び出したい所ではあるが、敵の居場所は割れているのだ。余裕なのか自信なのかは知れないが、ケイネスが言うには陣地から出る様子はないという。ならそう慌てる必要もないだろう。

 もっとも、逃がすなどさらさらないが。

 

「――客だ。どうやら、ある意味でお前の望みに適うかもな」

 

 だが、彼の生まれた星の元は、つくづく邪魔が入る廻り合わせのようだった。

 

「チィッ」

 

 探知に関しては自陣であるが故にケイネスの術の方が広域である。遅れながらランサーが意識を集中して、ようやくその気を探れる。

 これは―――

 

「なるほどな。あーあー了解分かった。マスター(・・・・)、まさか、今度も止める気じゃねェよな」

 

「いや、態々向こうから出向いてくれたんだ。ランサー客人を持成して来い。丁重に、な」

 

 その白い顔に浮かべるのは予期せぬ介入に対する怒り、ではなく、歓喜の笑みだ。

 再三にわたる横槍。ランサーであればその相貌に怒気を帯びていたとしても不思議ではないのだが、

 

「――ああ、了解したぜ」

 

 短く漏らした事もどこか陽気な風を装い、彼は霊体化して姿を消していく。

 ランサー気配から、彼が野を駆ける獣の様に一目散に移動している事を確認したケイネスは、その瞳を閉じ周囲により制度を高めた探知の網を広げ、目標を思わしき地点に目星を付ける。

 いやこの場合、舐めて掛かっているのか、或いは腕に覚えのある輩なのか。

 

「……態々ランサー達の戦場から離れた広場を希望とは」

 

 だが、そんな些細な事はどうでもいい。

 あの戦いには残存する勢力の全てがいたと言っていい。皆程度はあれ消費はしているのだ。

 つまり、その全てを鑑みて、ランサーを、そしてケイネスを与し易いと判断したという事。端的に言えば、嘗められたという事だ。

 

「いいだろう。野兎を狩に来た蛮族が、どちらが狩られる側なのか、存分に教えてあげようじゃないか」

 

 拠点の錠を確認し、防壁の作動を確認して戦場に自ら向かう魔術師。

 この戦争が血と絶望を捧げろと望むのなら是非もないと、彼は悠々と己が戦場に足を向けた。

 

 

 

 

 

 夜も深まる時刻。

 どんよりと戦火に深まる地上の様に暗く、雲が覆う空は光という光の一切を拒絶していた。

 

 廃ビル、というのには少々こじんまりとしたつくりの建物。だが頑丈さについては語るまでもなく、切嗣から開示された情報からここが間違いなく目的地なのだと察せられる。

 目的の建物を前にした開けた空間を前にした物陰に息をひそめるセイバー。

 その手にはまだ宝具たる“戦雷の聖剣”は握られていない。

 セイバーはあくまで剣の英霊。アサシンのような忍ぶ能力に長けている訳ではない。あれほどの聖剣ともなれば、隠蔽する能力が無い限り発現するだけでも相応の力を纏う。つまりは機を窺うこの時には適さないという事で、もちろん即座に展開できる自信があるからこそ無手のまま臨んでいるのだ。

 

 切嗣が戦場に立たないのは分かり切っていた事で、恐らく正面から行けばランサーとの戦闘は避けられないだろう。もともと明確に対象が決まっている以上、この配役に不満はない。

 そう、不満はないが――不安はある。

 城に残してきたアイリスフィール。

 舞弥が警護に残っているとはいえ、急変した容態はただ事ではないだろう。この戦闘が終わったら、切嗣には無理にでも聞き出すべきかもしれない。こんな注意を割かれた状態で、今後の戦いを生き残れるほど、残った敵は優しくない。

 

 無論、それは現在のターゲットであるランサーも同様である。 

 

「よぉ。まさかテメェから来てくれるとはな」

 

「!?」

 

 頭上に微かに聞こえた風鳴りを耳に、セイバーは大きく前方に転がり、その勢いのまま中央に飛び出る。

 背後の廃墟群ではなく広い空間に出たのは簡単な話、ランサーの魔槍相手では壁というものが無意味だからだ。その上捕捉されているのなら尚更に、感知しようと余計な飛礫が混じれば手間を取られるのは必至。

 なら、速度で優位を取れる分初めから距離を取れる場所を陣取る方がセイバーにとってやり易いという理由だ。

 そして――

 

「ランサー……いきなりご挨拶ですね」

 

 月明りが雲の合間から差し込み、廃墟の一角から槍を打ち出した襲撃者はその体を宙に躍らせ、セイバーから距離をとりつつ音もなく降り立つ。

 距離を離したといっても、互いに接近戦を主体とするサーヴァントにとって、その程度の間合いに距離という概念はない。これは戦闘を前にしての儀式のようなもの。俺、私はお前を敵として認識したぞという意思表示で、その証拠に両者はここにきてようやく己の得物を構える。

 

「ハ! その程度でくたばる玉かよ。まあもし、これで不意喰らうような腑抜けだってんならこっちから願い下げだが、やっぱりな―――期待を裏切らねェ、テメェはいい女だ」

 

 嬉々として身体から杭を無数に生やすランサーはいつかの夜と同じく、活き活きと此処こそが己の生き場だと血走らせた赤い目でセイバーを取らえる。

 対するセイバーも、無言で“戦雷の聖剣”を出現と同時に構える。その表情には先程まで不安に歪んでいた様子が嘘の様にランサーだけに戦意が集中している。

 互いが意を割けるような輩ではない、紛う事なき難敵だと認めるが故に、両者は必殺を誓う。

 

「貴方に褒められても、私としてはこれっぽっちもうれしくないんですけどね」

 

「まあそういうなって。テメエの事はなんだかんだで認めてるんだ。本来なら、最後に残しておこうかとも考えてたが――気が変わった。俺が決めた。お前は今ここで俺が殺す。その胸糞悪い瞳も脳髄四肢五臓六腑に血に至るすべて、一つ残らず俺の糧にしてやる。光栄に思いな」

 

 獲物を前に舌なめずりをする獣の様に、殺意を濃厚にしながら、彼の戦意はより鋭敏化していく。それこそ目に見えないナイフがそこにあるのかと、殺意を幻視させる程に色濃い。

 

「冗談がうまいですね。私、態々負けに此処に来た訳ではありませんから、当然、勝ちにいかせてもらいますっ」

 

 対面するセイバーの剣は先からその一切がブレない。剣線に怯む様な輩には見えないが、僅かにでも集中を逸らせば相手は獣性を迸らせるだろう。速度で勝る以上、セイバーが遅れをとる事は早々無いが、相手の身体能力を知る身としては進んで先手を譲る気にはなれない。

 

「おお言うねぇ――じゃあ何か。テメェは倒れた主に勝利を? 捧げる為に単身ここまで来ました、と。おお、おおう。なかなか泣かせる話じゃねぇか笑かしやがる」

 

「――それ以上の侮辱は聞き捨てならないですねっ」

 

 

 セイバーの目に宿る光が怒気のそれを、鋭くランサーを睨む。当然ランサーは視線や殺気程度で足踏みをする性質ではないし、寧ろ湧き立つ心を抑えられないと言うように喜色に顔を歪ませる。

 

「ああ? だったらどうするよ?」

 

「決まっています―――」

 

 それならばと、セイバーの解答は変わらない。

 一度ならず二度までも騎士としての矜持に唾を吐くような輩に容赦は必要ない。いや、此処に来る以上、そんなものは持ち合わせていない。

 

「――切り伏せる、ただ、それだけです!」

 

 この身が出せる全力で全速。

 本来最速を誇るランサーのお株を奪う脚力で一息に懐に入る。その速度はランサーの視認限界を超えて相手に視界から消えたように錯覚させるが、その間合いは本来剣も触れない距離。だが、セイバーの構えは切り伏せる訳でも刃を立てる事を目的としたものではなく、貫く事を目的とした構え。例え至近距離では剣先を貫く力が無くとも、女性の力が非力であろうと、セイバーの勢いをもってすれば慣性の法則がそのまま必殺の刃となる。

 

 だがそれを―――

 

「ハ―――ハハ! 上等だ女! 今度こそ、手前が誓う矜持とやらを見せてもらおうじゃねえか、オオッ」

 

 ランサーは避けるまでもなく腹に受けながら、振り上げた両手を組んで杭をハンマーの様に打ち付けにかかる。

 当然その先にはツルハシの様に、鋭く太い杭が生えており、突き立ったコンクリートの舗装を一瞬で砂地に変貌させる。

 つまり、

 

「っ、な、めるなァ!!」

 

「うぉっと!!」

 

 セイバーは無傷。

 スウェーから身体を回すようにランサーの横から脇を抜ける様に奇襲を仕掛けるも、その流れにはランサーもついてきている。戦い、というより喧嘩慣れているとみられるランサーはその野性的な勘と相まって思考よりも感覚と経験を重んじている。

 

「悪くねぇ打込みだ。が、もっと速度上げろよこんなもんじゃネェだろうが!」

 

 故にセイバーの斬撃に杭を擦り合わせやり過ごしたランサーは、セイバーに短杭の弾雨を浴びせにかかる。槍より太く、荒々しいながらもその速度から投擲というよりそれらは既にバルカン砲といって相違ない勢いだ。

 

「クッ、ォオオオ――――」

 

 そしてランサーの杭はいかに対魔力を誇るセイバーであろうと、それだけの数を受ければただでは済まない。当然、彼女も速度にモノをいわせてひた走る以外の選択肢はなくなる。

 しかしセイバーも逃げの一手に甘んじる筈もなく、クイックから鍔迫り合うのではなく初激の受け流しの様に切り抜ける。

 一度二度でだめなら五度、それでだめなら十と容易く桁を越えて切りあい弾きあう。セイバーの速度が尋常でないだけに、弾丸が多方向から撃ち出されているかのように残像を置き去りに連撃が繰り出される。

 

「ッ、オォォラァアアアアア!!!!」

 

 だからこそ、寧ろ驚愕するのはランサーの迎撃率だ。

 セイバーの速度は既にその目に捉えきれていないだろう。なのに、彼はその全てを流し受け弾き、時に反撃すらしてみせる。戦闘経験と本能が大部分を占めるのだろうが、偏に彼の杭の汎用性の高さによるところが多いいだろう。

 

 何度目になるか、既に三桁を超えているのではという人外の抗戦は、セイバーが距離を置く事で流れを止める。

 

「どうした? コレで終いってわけでもねぇだろうが」

 

 両者息を乱す様子もなく、それだけにこれまでのやり取りが肩慣らしに等しい事が窺える。今の人の理解を超えた乱舞でさえ、彼等にとっては準備運動に等しい。

 これで魔術師が戦闘に介入する余地などどこにあるのか。切嗣がいう役割の分担の必要性というのは必要措置ではなくそうせざるおえない、英霊と現代の魔術師の、それが純然たる差だ。

 

 

「つかなんだ――いつまで渋るつもりだよオイ」

 

 そして、セイバーとランサーの実力は力のベクトルは違えども、拮抗している今、必要なのはより高次元の要素。つまり、ランサーが指定しているのは互いの最奥、切り札の開放に他ならない。

 

「別に、準備運動の様なものです。ていうか、貴方意外とせっかちですね。そういうの、嫌われますよ?」

 

「今更ピーチクパーチクくだらない話に興じる仲でもねえだろうよ。オラ―――あの夜の続きだ。いい加減に体も温まったろうが、来いよ、グシャグシャに磨り潰してやるっ」

 

 気の高まり。

 周囲が渦巻く魔力と魔力に蹂躙されていく。ここが開けた場所でなく入り組んだ構造物内、周辺なら瓦礫が山を築いていただろう。

 それほどの気の奔流は、そのまま彼女等の真剣さを表し、収斂していく様は秘奥の開放の前兆だ。

 

 まさにいつかの再現であるかのように、互いの獲物を構えた二人。

 違うのは彼の言うとおり、此処に邪魔が入らないという事。正確には大きな戦闘の跡に乱入される確率が低いという事。

 そして何より、初めから彼の宝具をその目的(・・)で使ったのなら、誰も踏み込めないのは明白であろうから―――

 

「今度は邪魔も入らねぇ、いや、入らせねえ。ここから先は正真正銘、口以外で語り合おうぜ―――」

 

 刹那、気の猛りに、セイバーは夜が蠢動したような怖気を感じた。

 当然宝具が解放されてない段階でそれほどの変化が現れる筈はない。が、無風の広場で吹荒れる魔力は死霊が舞い踊る様に渦巻き、それを纏うランサーが魂をすする鬼のようで、肌の病的な白さと相まって想像に拍車をかける。

 

「……剣よ」

 

 だが、この勝負は当然の事退くことなどできない戦いだ。

 

 城に残してきた彼女に勝利を捧げる為にも。

 未だ心認め合えない彼に自身の力を証明するためにも。

 そしてなにより、この世界で最初に約束した少女との誓いを果たすためにも、

 

「お願い、私に力を貸して―――」

 

 騎士の礼を、空に刃を捧げて小さくつぶやき、彼女の意識は再度目の前の男に向けられる。

 その殺意と決意の籠った視線すら心地いとランサーは薄ら笑う。 

 

 

『『―――創造(ブリアー)』』

 

 夜の帳を一層色濃くする魔界と闇夜を切り裂く雷光が顕現する。

 街が夜の静けさに墜ちようとする中、冬木の一角は轟音を轟かせ、此処にまた一つ開戦の号砲を撃ち鳴らした。

 

 

 






 どーも新年あけてなんとか月内二回納められました、tontonです。
 今回でようやくお鉢が回って起案したランサーさん。ある意味彼が望んだカードではありますが、勝利はどちらに傾くのでしょうか(すっとぼけ
 えーで、今回はサーヴァントの戦闘以外にも注力するつもりなのでその点も次回、お楽しみに!

 今回はちょっと駆け足で行くのであとがきも短くこの辺で!
 次回をお待ちください、早めに、こっちも駆け足で行くので(震え

 ではでは、お疲れ様なのです!


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