黒円卓の聖杯戦争   作:tonton

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「鎮」

 

 

 

 未遠川の激闘を終え、男、言峰 綺礼は人目を避けて一つのビルに入る。

 代行者で活かした経験、この地で学んだ魔術を併用し、既に何度も確認して慎重に慎重を重ねている。

 抜かりはない。

 この道中追撃はないし、また追跡の目は物理的に潰してある以上、自信を持って油断はないと言える。

 むろん、万が一ということもある。事が済んだらこの場所の痕跡は一切処分する必要があるだろうが、

 

「――お疲れだったね綺礼君。アサシンの事は――申し訳なく思っている……アーチャー」

 

 ことその手の事後処理に関してはこの目の前の彼等に軍配が上がる。

 周囲の警戒に関してなら、綺礼の数段上のレベルで警戒しているだろう。

 

「ハイ。彼の件に関しては私の独断による所――しかし、一度姿を晒している以上、多くの目を疑いなく集められるあの機会こそが最良と、そう判断した旨、どうかご理解いただきたく」

 

 師と仰ぐ遠坂 時臣がかたわらを促せばそこに像を結ぶ線の細い――しかし決して目を離そうなどと思えない邪な聖者がそこに現れる。

 綺礼も特殊な環境とはいえ聖職に身を置いている身だ。アーチャーの姿、物腰を見ればその出立ちが伊達ではない事が窺える。だが、これまでの経緯を鑑みれば額面どうりの評価など誰もできないだろう。

 故に“邪なる聖人”という綺礼が抱いた印象は、酷く矛盾しているように見えて不思議と的を得ている表現だった。

 

「……いえ、元はと言えば私が自身で出してしまった落ち度です。サーヴァントの脱落は確かに手痛いですが――」

 

 もとはと言えば、キャスターの教会襲撃時に単身で璃正を救出に向かっていればアサシンの露呈はなかった。

 むろん、もしもと仮定の話に意味はないが、実際キャスター相手にいくら代行者とはいえ、サーヴァント相手に何の用意もない状態で相対できるほど英霊というものは生易しくはない。十全に用意をし、奇襲を掛ければ“最弱”の名を持つ“魔術師”のクラス相手なら可能性はあっただろうが、結果として二人掛かりでようやく撤退できたのだからやはり仮定は成り立たなかったのだろう。

 

「それは違うぞ綺礼」

 

「……父上」

 

 だが、そこに異を投げたのは暗がりの部屋の奥、杖を突きながら現れた彼の父によるものだった。

 第四次開戦時の健常な姿とは似ても似つかない――その司祭服は通常のものだが、首や頭部、その他にも衣服が不自然に盛り上がっている事から全快した訳ではないのだろう。杖に頼っているとはいえ、この場合はむしろ歩けている事こそ異常だ。

 しかし、それだけ強靭な、常識離れした身体能力をもってしても凌げないのが“英霊”というもの。現代に生きる伝説的な、所謂“超越”した者等はともかく、一聖職者と言えど限度があろう。故にその見誤りこそ事の発端だと璃正は詫びるのだが―――

 

「いえ――神父も、ご自身を責めるのはそのくらいでいいでしょう。落ち度というのならセカンドオーナーである私にもある」

 

 彼の言葉に被せる様にして言葉を押し止める時臣。

 この場の全員は自分の非をそれぞれ理解している。誰彼に責任を押し付けるわけでもなく。なら、これ以上の言い合いは不毛だろうと、彼はそういう。ことの原因であるキャスターも討たれた、その代償が味方の一つが落ちるというのは確かに痛い。痛いがそれも、

 

「こういう言い方は卑怯かもしれないが――幸い、アサシンの早期脱落は当初の予定通りと言える。この聖杯戦争において、キャスターの暴挙は当初の枠を大きく逸脱していた。その撃退に彼は大きく貢献してくれた……ああ、彼の功労に報いる為にも、聖杯は必ず我々が手に入れる」

 

 この地の管理者にとってはソレすらも計算の内だと優雅に受け止める。

 当初の予定では早い段階で切り捨てることも視野に入れていただけに、アサシンの活躍はこの陣営にとって予想外の働きを見せてくれたと言っていい。各陣営の正確かつ素早い情報から、世間の情勢、表の機関の動向に妨害と、監督役である教会顔負けの働きぶりをたった一人でやって見せた彼の“間諜”としての有能ぶりは文句の付けどころがない。

 惜しむらくは、一つの魂が散り、均衡が崩れた戦場ではもはや忍ぶだけでは渡り切れなくなったという事。そう思うと、独断とはいえアーチャーの行動は真に情勢を見据えた行動であり、結果として最良の道を歩む事が出来たと言える。

 

「それに、多くの目を集めていただけに、周囲には君の聖杯戦争脱落は大きく印象づく。仮に、君が街中で目撃されたとしても、幸か不幸か、今の教会の惨状から理由付けはいくらでもできる」

 

 つまり、単独でキャスターと渡り合えた璃正程とは言わないが、同格に近い功夫を納め、離れているとはいえ、若くして第八秘蹟会に席を置いていた実力を持つ綺礼がより動きやすくなったという事。

 いうなれば第二のアサシンである。英霊のようなスキルは持ち合わせていないが、戦闘力に関しては折り紙つきだ。並みの魔術師では抵抗すら敵わないだろう。

 そんな彼が自身のサーヴァントを多くの目の前の失う。しかも、本来保護を担う教会が正常に機能しない有様では綺礼が単独で姿を潜ませていようと不思議はない。

 そう、今の教会に身を任せるくらいなら自分の身は自分で守った方が現実的だ、と。

 要するにと聞き返す綺礼に、時臣はあくまでも余裕をもってゆっくりと頷き返す。

 彼の中で、既に次のステージの筋書きはおおむね修正されたのだろう。キャスターによる教会襲撃時の落着きの無さは、すでに彼の中にはない。

 

「そういう事になるかな。当初の表を私が、裏を君がという立ち位置と外れるが……結果として君の立ち回りはより自由が利くはずだ。当然、今後の連絡には一層の注意が必要だけどね」

 

「然様。綺礼本人に関しては問題は無かろう。その点に関してはワシが保証しよう。だが、さしあたって気になる事と言えば――」

 

「――報奨の令呪の譲渡、ですね」

 

 アーチャーを除き、この場にいる全員の共通の認識。

 共通の敵であったキャスターを倒せたのはいい。だが、キャスターを共通の敵たら締めたのは偏に教会の提示した報酬“令呪の譲渡”が大きく締めている。むろん、キャスター自身が多くの陣営を敵に回すような立ち回りだったことは認める。が、それを抜きにすれば、本体我が強い魔術師同士が手をとりあうというのは異例の事態。それ等の標的を誘導するにはそれなりの旨みというものが必要になる。

 

「ああ、監督役の立場から見て、あの場にいた全員に受け取る権利はあると言える。問題は、それを各人が理解し、それでもなおこちらが指定する場所に訪れるのかという事だ」

 

 そして、今回の討伐には最終的に全サーヴァントが集うという異例の事態に陥っている。それも、キャスターが切札を切った事によって各陣営がそれぞれ重要な役割を担った事から、皆に報奨が与えられるというのが璃正の見解だ。当然、各陣営それぞれも理解しているだろう。問題は璃正本人の言うとおり、共通の敵がいなくなった以上、疑心暗鬼から指定した場所が戦場になる可能性があるという事だ。当然、そう予想が立てば姿を現さない者も出てくるだろう。その場を襲撃しようと姿を潜め奇襲を狙うマスターもいるかもしれない。

 教会側と遠坂とのつながりが薄れるような流れとなったとはいえ、それをそのまま鵜呑みにするやからは少ないだろう。事と次第によってはおびき出してアーチャーが仕留めるという手段もあったが――それもこうなれば成功率は格段に落ちている。

 もっとも、その提案は当の時臣本人から断られているが。

 

「現状、通達を各陣営に送ってある。その気があるなら指定した場所には表れよう。という訳でまずは、時臣君」

 

 ともあれ、処理に邪魔が入る可能性があるなら間を置く必要はない。その一言で時臣も理解したのか、令呪が宿った手を差出、その手に右手を翳した璃正が何かを唱える。

 

「―――確かに」

 

 すると、その下で淡く赤い光が灯った後には、その手に新たな令呪を宿していた。

 

「では、予定通り、今後の接触は極力……」

 

「ええ感謝しています。これでまた一歩、遠坂は悲願へ近づけた」

 

 

 それから三人は今後の方針を確認して別れる。

 現状、疑いを残した状態のままアーチャーで強襲を狙ったところで効果が薄いと判断されてそちらは様子見となる。アサシンが収集した情報だけでも十分であるのだがから、これからは有利なポジションを維持しつつ的確に一角一角を落すのが賢い選択だろう。

 なにせ、今代に召喚されたアーチャーは現サーヴァントにおいて最強の矛と盾を持つ。まさに攻守に隙はない。勿論、その強大な力故に穴もあるのだが――その為の綺礼だ。彼のバックアップがあれば十全、それ以上の優位に立つ事も不可能ではない。

 

 故に、三者は自陣の今後を憂う事無くその場を分かれる。

 心配事が無くとも、各々やるべきことは多くある。

 それらが勝利への道につながるよう、彼等は奔走する。

 

 その中で、一人黄金の髪を棚引かせた男が一人、窓辺よりそれぞれの歩みを見送る。

 

 ―――■■の笑みを携えて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 夢を見ていた。

 

 何を、何処の、だが自分にはそれがいつのモノで誰のものなのかも定かではない。

 

 どこかに、何処でもありそうな少年が過ごす日常の夢。

 

 ちっぽけで、精一杯日々を謳歌し、憧れ、恋をして、夢も持っていた。

 

 一人の人間としてみるのなら、彼は人生をまさに生きていたと言えるだろう。

 

 単的に、観客として言うなら、自分は戦時の中で生きてきた人間だ。夢をあきらめたとは言わないが、それでもできる事と出来ない事の分別はあった。

 ただ諦めきれるか踏み越えるかの違いだけで――少なくともこの少年とは価値観が擦違うだろうというのが自身が受けた印象だった。

 

『――ねぇ。■■▪は将来どんな■■になりたいの?』

 

『ボク……ボクはいつか―――になりたいんだ』

 

 とある島の少女の問いに、少年は自信が無さそうに答える。うつむきながらで、それは隣の少女に聞こえたのかはわからなかったが、それでもその瞳には確かな熱を持っていた。

 

 他人の視点であるが、その感情は彼にとって譲れぬ何かだったのだろう。

 

 そして、恋をし、夢を持っていた彼だったからこそ――あくまで心優しかった少年だったからこそ、彼は世界に裏切られ、絶望し、その身を擦り切っていくことになる。

 

 

 

 その運命の日。

 

 少年は――初めて恋した少女と、唯一の肉親を己の手で殺める事になった。

 

 世界はあくまでも残酷に、少年に選択を強いたのだ。

 

 

 

 

「……夢、ですか」

 

 目を覚ませばそこはアインツベルンが所有する城の一室。広いこの建物、敷地には多くのトラップが魔術的に、物理的に仕掛けられている。が、それはあくまで魔術師や通常の侵入者に対しての場合である。サーヴァントを伴ったマスターの侵入を考慮し、セイバーがアイリスフィール達の自室近くに用意してもらったものだ。

 もっとも、切嗣に関しては城の自室には殆どいないのであまり意味をなさないが。

 

「っ、アイリスフィール!?」

 

 と、今までの経緯に無為な事を考えていると、思考が回りだしたのか重要なことに思い至る。そう、先のキャスター討伐のおり、アイリスフィールの容体が急変して倒れたこと。その場へ援護に入った切嗣達の手によって城へ離脱を成功したこと。

 つまり、今この場で寝呆けている場合ではない。

 

 大一番の舞台の後とはいえ、とんだ失態だと豪奢な廊下を全力疾走でかける。倫理的に危ないだとか、そもそもこの城に人出は少ないのだからそんな心配はいらないだろうという、普段の状態ならかかるブレーキも外れているかのように短い距離を疾走し、目的の部屋の前の角を曲がろうとして――

 

「起きましたかセイバー」

 

 曲がり角の先に待ち受けていた女性、久宇 舞弥を認識して急制動をかけた。

 

「っ、マイヤ」

 

 切嗣が立てた方針上、彼女とセイバーが直接会う機会は少なかったが、それでも彼女の世話になったことは一度や二度ではない。

 それなりに義理も感じでいるが――事の優先順位は他だ。

 

「すいませんこんな時にっ、貴方には申し訳ありませんが、アイリスフィールはどこに――」

 

「……今、マダムは切嗣と今後について話し合われている最中です」

 

 だが、その脇を抜けようとしたセイバーの肩を押しとどめる舞弥の腕。決して力が込められていたわけではなく、見た目相応に女性の力だ。が、それ以上に続く言葉に驚かされて彼女の体は止まる。

 

「切嗣が、来ているのですか?」

 

 時間を確認すればそれほど経過してはいない。精々1、2時間といったところだ。

 10を救うためなら1の犠牲を、大勢を救うために多少の犠牲は厭わない。

 正義の為に小さな悪を容認する。

 短い聖杯戦争までの期間で、それがセイバーが抱いた衛宮 切嗣という男の印象だ。

 

 その彼が、勝利の為に打ち立てた計画をなげうって家族の為に駆けつける。セイバーにとって少なくない衝撃といえた。

 

「後のことは切嗣本人から伝えられるはずです。マダムの容態が芳しくない以上、当初の作戦は変更せざるおえないですから」

 

 セイバーとしても二人の間に踏み込むというのは戸惑われる。これでもそれなりに空気は読める、はずだ。なかなか面と向かって会おうとしない切嗣が伝えに来るというのならそれでよしとするべきだろう。

 だがもし、仮にアイリスフィールがこのまま伏せるというのなら、

 

「ですが、私と切嗣が戦闘に出てしまえば、その間」

 

「―――ご心配なく、その為の私です。貴方達が最前線で後ろ髪を引かれないようマダムの事はこの身に変えてもお守りします。ですからどうか―――」

 

 その疑問を無用だと自身を指す舞弥。

 これまで彼女は陰ながらセイバー達を補佐してきてくれた。背後を気にせず、アイリスフィールとともに戦場をかけれるのも切嗣をはじめ、彼女の存在が大きい。

 そんな彼女が心配するなという。

 

「……切嗣のこと、彼のことをどうかよろしくお願いします」

 

 頭を下げる彼女のことを、セイバーが無下にできるはずがなかった。

 

 

 

 

 

 舞弥から告げられ広間の一室で待ち、一時間は経っていなかっただろう。

 瞑想するにも短い時間、その中で、切嗣は静かに入室した。

 

「切嗣、アイリスフィールは……」

 

 その姿はここに来る前にあった時と変わらない、上下黒で統一された服装で煤けたコート。唯一違うのは冬木に入ってから吸っていた煙草をふかしていない事だが、セイバーに君が心配することではないと一言で済ませるスタンスは相変わらずだ。

 相変わらず、彼はセイバーを対等の存在としてみていない。

 

「彼女にこれ以上君と一緒に戦場に出てもらう訳にはいかなかくなった。状況は、はっきり言って当初の予定より前倒しせざるおえなくなったと言っていい」

 

 こうして対面しているはずなのに、彼の眼はセイバーを見ていない。視覚として、その視野でとらえていながら、その死人のように光のない瞳は相手を同じ人間としてみていない目だ。

 迫害というわけではないだろう。

 稚拙ではあるが、いうなればあれは“拒絶”だ。 

 

「じゃあ――」

 

「だが、僕は君と共に戦場に立つつもりはない。あくまでサーヴァントと戦うのは君の役割であり、僕はマスターを始末する。互いに明確な役割を全うするのが本来のマスターとサーヴァントのスタンスだろう?」

 

 いざ聖杯戦争に臨むのにあたって方針の論議もした。セイバーの出生を明かしているし、切嗣からこの聖杯戦争に臨む願望についても聞いている。

 そのうえでの回答だ。

 衛宮 切嗣と、セイバーという女は、根本的に合わないと。

 

「――っ、ええ、それに関しては問題ありません」

 

 水と油とは言わない。

 目的の為に妥協した結果が今の現状だ。

 

 そう、協力はできる。

 

 彼の言う通り、現状で戦力を分けることに是非はない。そもそもサーヴァント同士の戦闘にマスターが介入することのほうが異常であり、その点から切嗣の提案は至極まともだ。が、だとしても、彼の言う分業はその定石とわけが違う。

 

「アイリスフィールの急変に急いて貴方がが戦闘に介入しようというのなら、流石に私も止めに入っていました」

 

 そりが合わないというのはまさにそのことだ。

 セイバーの主張に合わせるなら、間接的とはいえ、マスター介入はむしろ想定外の事態を招く外的要因になりかねない。“魔術師殺し”として優秀であるだけに、切嗣は敵のマスターと一対一なら高確率で勝利するだろう。

 陣営的にはそれで正しい。

 確実な勝利を得られるならそれに越したことはない。

 だがそれは同時に、セイバーの騎士としての力を信頼していないということにつながる。

 いうなれば、お前が有能だろうと無能だろうと、敵の目を引き付けられれば十分と突きつけられたのと同義なのだ。この認識がある限り、この主従は正しい意味での機能は損なわれるだろう。

 何しろ互いを理解しようとしない、そもそも踏み込まれるのを拒んでいるのだから。

 

 これが聖杯戦争ではない―― 一つの戦場で急ごしらえの組み合わせならそれなりの戦果を挙げられただろう。だが、この聖杯戦争はサーヴァントの力だけで勝ち残れるほど甘くはなく、魔術師単独で勝ち残れるならそもそもサーヴァント召喚というシステムすら必要がない。魔術師が優秀であればいいのなら、そもそも始まりの御三家がこの戦いに決着をもたらしているはずである。

 

 故に、切嗣とセイバーは互いにこの陣営の弱さというものを理解していたが――それだけで止められるはずもなく。緩衝材となっていたアイリスフィールを欠いた今、その溝はより一層深まったといっていい。

 

 しかし当然、聖杯戦争に挑む敵陣営らがそんな事情を酌んでくれるはずもなく、彼らは勝利に向けて現状の最善手を取るしか方法がない。たとえ、目の前により堅実な最適解があったとしても。

 

「それこそ無用の心配だ。が――そうだな。さしあたっての問題は――」

 

「――次のターゲットですか」

 

 そして問題はより現実的に浮き彫りになった患部を照らし出す。

 この聖杯戦争の勝利条件、最後の一組となるために誰を切り落とすかというその選択だ。

 

「私は……ランサー、ライダーのどちらかを狙うのが最良かと思います」

 

「意見を聞こうか」

 

 キャスターが散り、アサシンが脱落した。

 現状残るは自陣、セイバーを除き、ランサー、アーチャー、ライダー、バーサーカーとなる。

 この陣営で共通するのが、

 

「現状、順当に御三家が残っています。外来の者と違い、地の利がある御三家の各陣営は後に回した方がいいでしょう」

 

 元々、御三家が三竦みの形を自らとったのは、聖杯の所有権をめぐる際に互いに睨みが利くよう、牽制しあえるように取ったのが始まりだ。そうした意味で、下手な薮をつつかない限りこの三者が積極的につぶしあう確率は低い。むろん例外はあるが、古くからの盟友だけあって互いに手の内は知っている。要は魔術に対して備えることができるということだ。

 

「ああその意見には同意見だ。現状、最有力候補は御三家、遠坂の陣営が強敵だろう。なにより、サーヴァントの能力が凶悪すぎる。攻守ともに隙が無い能力……十中八九穴があるとみていい筈だ。その真偽を確かめる為にも、アレの対処には時間がほしい。間桐については何しろバーサーカーだ。召喚している以上その消費量から闇雲に戦闘に投入はしてこない筈だ」

 

「――なにより、ライダーとランサーは先の戦闘までに魔力・体力ともに大きく消費している。恐らく、先の戦闘で消耗が激しいのはこの二陣営です。ランサーの宝具連続開放然り、ライダーの宝具の損傷然り」

 

 しかし、現状残った二つ。

 ランサー組とライダー組は外来から招かれた、いうなれば余所者だ。

 切嗣達は参加にあたってめぼしい参加者候補をリストにしている。ケイネス達についてもある程度の情報を知っているが、それはあくまで調べられる範囲でのこと、現状不覚的要素が多いなら、大きな戦いで疲弊している今は大きなチャンスとなる。

 

「その上で、僕も君の言う通りランサーを狙うべきだと思う。この機会で狙うのは必中必殺だ。互いに大きな戦闘を終えて一つ呼吸を置きたい所、両陣営とも外来の魔術師である以上、備えは限られている。定石なら態勢を立て直したいはずだ」

 

 アジトに関しては目ぼしい場所はすでにリストアップしている。

 同じ余所から来たマスターであるライダーのマスターに関しては、どういうわけか切嗣の捜査網に引っかからないが――現状目標の一つでもわかっているだけ御の字というもの。

 叩けるときに叩く。

 聖杯戦争に限らず、戦う上でためらわずチャンスをものにするのに必須の心得だ。

 

「そして何より――キャスターの置き土産か、ランサー陣営は当初用意していた工房、拠点を失っている。態々逃走率の高いライダーを相手にするより、此処で確実に一つ脱落させておく方が後に活きる」

 

「たたくなら今、というわけですか」

 

 既に拠点と思わしき場所には監視の目を放ってある。よしんばそれが発覚したとしても、セイバーの機動力なら、この城から目標の場所を考えて、たとえ移動されたとしても十分に会敵は可能だ。

 

「――ああ、今夜、ランサー組には、夜明けを待たずにこの冬木から退場してもらう」

 

 切嗣にとって、もうためらう時間も余裕もないのだから。

 そう、最愛の彼女に誓い、雪の城で待つ大切な約束を果たすために。

 

 彼はこの戦争を最後の戦いとするために身を翻す。

 

 浜辺の砂が波にさらわれるように、当たり前に、静かに、今宵の獲物をしとめる。

 この道が最後の希望だと信じて―――

 

 

 






 新年あけました。改めて今年もよろしくお願いしますなtontonです。

 気が付けばこの小説もなんだかんだでもうすぐ一年目、それまでに区切りをつけたいですが―――フラグになりそうなのでここまでで(焦り
 さて、フラグといえば今回でようやくあのお方に建ちましたねフラグ。いや、隠す必要ないですが(笑
 今回は陣営内の動向ということで地の文多めでお送りしておりますですハイ。前の章が戦闘色強かったので、やはり出だしはこうなりますね。次回切嗣さんのターゲットにバトンタッチして戦闘突入ですね。ファンとしてはチンピラ兄貴にヒャッハーさせたいのですが――はたして?

 と、そんな感じで新年はじめはしめますね。時間ぎりぎりですし(苦笑
 そろそろ活動報告のほうも復活しようと思いますのでそちらのほうもよろしければ是非に。こまめにチェックしてくれる方は本当にありがとうございました。
 今年も作者ともども拙作をよろしくお願いします。

 それではこの辺で、お疲れ様でした!!!


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