黒円卓の聖杯戦争   作:tonton

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「大黒幕」

 

 

 

 歯痒い、という感情は人であれば誰しもが抱いた共通の感情ではないだろうか。

 試合をする者観戦する者が拮抗した状況に歯噛みする。

 出かかった記憶の何某かが咽元を突いて出てこない。

 もしくは、他人の能力を自身と照らし合わせて思う苛立ち。

 ――人生はそうした他者、或いは想定と現実との摩擦に溢れていると言っていい。

 

 ならば、今この教会で彼女、キャスターが舌打ちを漏らすのも、そうした一種の苛立ちの発露に他ならない。

 

「――っとに、さっきから―――っ!!」

 

「イェハハハっ、無駄ですよそんなものでは――」

 

 華麗というものは、その境界を越えれば途端に醜く変貌する。

 何事も度が過ぎれば醜悪なのは万物共通である。

 そう、キャスターの攻撃手段、拷問器具を投射する“血の伯爵夫人(エリザベート・バートリー)”を、アサシンは悉く大仰な動作で躱していたのだ。

 無論、キャスターとて魔術師であれば当然知恵は相当に利く。

 背後からの強襲、挟撃、直上・真下からの不意打ち等、文字通り全方位隈なく攻め立てたはずである。

 なのに、なのにだ。このアサシンはキャスターの神経を逆なでするような声で余裕の笑いさえ漏らしていた。そうなれば彼女ではなくとも歯ぎしりの一つもしようというもの。

 

「言ってくれるじゃない――っなら! これで――」

 

 だからか、彼女が取った手段は単純明快、的に放った矢が当たらないのなら、だ――そう、あたる様にすればいい。

 

「おや――」

 

 アサシンの正面頭上除いて周囲を覆う土壁。

 不自然に空いている頭上はフェイク。正面にしても、態々矢面に立つほどこのアサシンは肝が据わった人物ではない。となれば当然、アサシンは跳躍の為にその痩せた足を曲げ――

 

「――避けてみなさいよコレをっ!!」

 

 頭上に現れた大車輪を前にしてその跳躍を取りやめる。

 

「ああ、なるほど――ですが」

 

 だが、それで止まるほど思考は硬化していない。

 アサシンは曲げた反発を上ではなく前、残る正面へ開放する。その様は虎穴に飛び込む山羊の如き愚策さといえた。

 故にキャスターはよくぞかかってくれたと言わんばかりに笑みに口元を歪める。

 その彼女の信頼に応えるように、両者の間、地面からせり上がってくる“鉄の処女”。

 そして凶悪な扉を開けて待ち構えるソレに加え、後方にはこれまた無数の魔法陣。暗に他に道はないと示すキャスターの死刑宣告である。

 殺陣――ただしそれは舞台や映像という媒体用の、ではなく真実相手を殺める為だけに敷かれた布陣。

 例えば銃弾のカーテンなどは、それだけで人にとっては死の警告である。それも不可避の壁が音を突き破る速度で迫るともなればいかほどのものか。

 左右も後ろも壁に阻まれ、頭上には鋼鉄スパイク付きの大車輪、前門に鉄の乙女と掃射を待ち構えて展開される拷問具の数々。

 単的に言って、コレを前に突破しようと考える者など余程の豪傑か、或いは単なる馬鹿か。どちらにせよ、暗殺者である彼に残された手段はもうないのだから―――

 

「――油断しすぎだアサシン」

 

 がしかし、その場に残る声がその事実、可能性を広げる様に己の一投で切り開く。

 響く言葉を信じていたと言わんばかりに、タイミングよくアサシンが選んだのは頭上への跳躍。

 確かに正面突破よりは可能性があり、頭上には彼が張り巡らした糸が展開しているのだから、そうした意味では成功率は高い。が、それには降りかかる車輪をどうにかしなくてはならないが―――その鉄の塊が突如飛来した6条の光に横殴りにして吹き飛ばされた。

 

「ああ、これは失礼。ですが、言ったはずです信頼していると――やはりアナタの腕は信頼できますね綺礼」

 

 車輪の軸、というには成人の顔を優に超す太さのそれに突き刺さる紅い十字架。六つの黒鍵は刀身を鋼鉄の車軸に深々と貫くが――土台体積比的にみても比べるべくもない。要は、その程度で弾かれる等、物理法則を無視しているにも程があるのだ。

 だが――世の中に物理法則を捻じ曲げる事態というものは意外にある。

 

「……ちょっと、今時の“代行者”ってそんなのもアリなわけ?」

 

 問題なのは、その理を曲げた要因が単なる力にモノを言わせた一投であったという事。しかもだ、その体現者はランサーの様に超常の力を宿す英霊でもなく、ただの現存する人間なのだから。

 付け加えるなら、異端に相対する事が多い“代行者”の正式武装である黒鍵ではあるが、綺礼には役職に元、という前書きがつく。キャスターを驚愕させた一撃も彼にとっては特筆すべきものではなく、それは次弾を装填するように黒鍵を懐から取出し構える無表情さからも窺えた。

 

「いやしかし。おかげさまで、こうして五体満足でいられますが―――如何せん状況が悪い。仮にも二人掛かりで制圧できないとなれば、より数を整えるのが上策ですが―――」

 

 だが、それは彼が優位だから冷徹に構えられるわけではない。

 寧ろアサシンの言葉通り、状況は切迫していると言っていいからだ。

 

「――ああ、教会員がこちらに向かったという報告は受けていない……これだけ派手に立ち回っているのに、だ」

 

 要するに、今彼等は孤立無援の状態であり、驚きはしつつもキャスターに焦る様子が無いのはつまりそういう事。

 察するに異常の察知、通信手段の妨害という所だろうか――いや、キャスターの性格を考えるのならそんな万が一たどり着かれるような生易しい手段は想像しづらかった。むしろ、たどり着けないよう結界なり湾曲なりと、周囲一帯を異界化させていても不思議ではない。

 

「如何しますか? 私は一応、撤退を進言しますが。綺礼、貴方ほどの腕なら結界の突破も容易でしょう。お父上を抱えて撤退する程度なら私にもそう無理はない」

 

 となれば、撤退を視野に入れるアサシンの進言は至極真面である。

 こうして言葉を交わしながら巧みに避ける綺礼とアサシンだが、いっこうに攻勢に出れていない事実は変わらないのだから。

 だがしかし。

 その言葉を肯定するという事は―――

 

「――っ、出来る訳がない。あの少女を見捨てろと? 襲撃者に背を向けて教会を明け渡す?」

 

 神の御許を盗人に明け渡す。それも罪無き幼子を贄として生き延びる等――教典に照らし合わせるまでもなく大罪だ。

 真っ当な神経を問うまでもなく、人として取ってはならない道である。

 ましてや綺礼は聖職に生きる人間。その葛藤は当然であり、そんな彼だからこそ悔やみ――突き付けられた事実を解答として見据えていた。

 

「ですが――その葛藤には答えが出ている。と、貴方ならお判りでしょう?」

 

「解っている! だがっ」

 

 綺礼たちではキャスターを倒せない。

 結界を突破できたとしてもそれは単身、アサシンがかかえ逃げれる上限枠は僅か1つ。

 つまり、救うべき対象にに対して枠が足りない現状―――が、聖杯戦争に参加する物にとってこの状況は愚問過ぎる。それでも悩む葛藤こそ彼の生涯の苦悩を表してはいるが、そんな彼でもこの解答は間違えない。

 否、間違えようがないのだ。

 

「―――現状の打開不利を肯定っ、これより離脱、先行する。アサシン、言峰神父を」

 

 未だ脱落者のいない聖杯戦争で裁定者を書くような事態になればどうなるか、一般人一人と天秤に掛ければ比べようもないのだ。例えそれが教義において忌むべきものであろうとも、だ。

 

 歪み皺の寄る顔を恥じるように先行する綺礼。

 続くアサシンは既に意識の無い璃正を抱え、綺礼の後を追いながら殿を兼ねて周囲の木々を輪切りにしていく。

 障害物、というには些かお粗末かもしれない。だが、キャスターの本来の目的は教会の確保、目的のものを手に入れたのならここで怒りに身を任せて時間を浪費するなどナンセンスというやつだ。

 

「ふ――ん……思ったより悩まなかったわね。若さ? ―――いえ、神父様ならいざ知らず、あのボウヤにそこまでの場数があるとも思えないし――」

 

 よって、当初の目的を達したキャスターは去っていく綺礼たちには目もくれず、振返って主不在となった教会を視界に収める。

 目当てのものは手に入った。そこに一応の満足はあるのかご満悦な笑みを浮かべるキャスターの顔は無邪気さと愉悦――そして狂気の色を内包したものだ。

 その目的も、陣地確保という大義名分があろうと、何も監督役を襲わなくてもいいのは先の通りである。

 ならば、そこには彼女個人の譲れない何某かの要因が不可欠であり、それ故の笑みであるのは想像に易い。

 

「―――そうね。それが妥当―――あ、ごめんね忘れてたわ」

 

「――!? ――っ、――!!!」

 

 と、そこで手にした教会の活用法に思考を移していたキャスターは、横で必死に拘束を抜け出そうとしていた少女に視線を移した。

 しかして無駄な努力をと嗤うキャスター。

 だが、先の璃正ですら一歩も動けなかったそれを、混じり気なく一般人の、それも子供がどうこうできる代物ではないのは明白である。

 

「けどごめんねぇー私はこれからここの改築で忙しいし、もうすぐりゅーちゃんが来てくれると思うんだけど……それまでアナタにかまけてる時間はないのよ」

 

 身動きを封じられ、恐怖に顔を歪ませながら、現実から目を背ける事も出来ずにいる無力な子羊。

 それは拷問器具という悪辣は具々を扱う彼女にとって、本来なら好見の場面だろう。

 しかし、“喜びは共有したい”などと、心くすぐられる誘い文句を口説かれた身としてはここは貞淑さを示すところだ。と、加虐心を抑えに抑えて、相方の到着を待つ傍ら、陣地の構築に取り掛かる。

 もっとも、その最中に騒がれては、例え声一つ出せない身であろうと煩わしいのには変わりない。

 故に―――

 

「じゃあね。恨むんなら、神の慈悲の無いこの世界を恨みなさい――」

 

 慈悲もなし。

 絶望という、正に体現したような顔で目を見開き、おそらく懇願しているだろう少女の声無き声に一グラムも考慮する事無く。キャスターは彼女を影の沼に今一度沈めていった。

 

 

 

 

 

 教会に属する構成員たちは冬木の街にそれぞれ散開している。

 何が言いたいのか、というと。

 この街のいたる所で行われる“戦争”を裁定する彼らが広域をカバーするには、要所要所に拠点を構えるのが合理的だったのだ。

 故に―――

 

「――っ、すまぬ綺礼。ワシの不始末で――」

 

「無理に起きずそのまま――今は、安静に体を整える時期です」

 

 仄暗い一室に燭台から灯る淡い光が小さく呻く声と、それを介抱しているだろう男の声を拾う。

 誰、と問うまでもなく、それは教会を無事脱した璃正、そして綺礼のものだ。

 

「キャスターの動向はアサシンに偵察に向かわせました。他の教会員にも――遠坂の家にも伝令を飛ばしてあります」

 

「……そうか。いや、流石の手並みだ。ワシも、老いるわけだな」

 

「御冗談を、まだ拳で息子に劣らない者を老体などとは言いませんよ」

 

 綺礼の報告、そして教会側の用意した場所という事で気持ちが一定のラインに落ち着いたのだろうか。両者のやり取りには先程までの襲撃に敗走した暗さを窺わせない雰囲気が漂っている。

 この際綺礼のご丁寧な口調はご愛嬌という所なのか、この親子のやり取りはこれで正常なのだろう。璃正は起き上がった体を押し止める息子の手にしたがってゆっくりと横たえた。

 

「―――時臣君に連絡が言っているのなら話は早い。キャスターの件、早急に手を打つ、という事だろう」

 

「では―――」

 

 だがしかし、横になった璃正は雑談もここまでと細い目を険しくし、件の襲撃者への処遇を告げる。

 外来の魔術師と従来のルールに従わない陣営というのは目に余るが、此度の教会襲撃は既にその範疇を容易く超えて看過できない。

 ましてや一般人を遠ざけるどころか積極的に巻き込んだ事は許し難く、璃正の表情には憤怒の気がありあり現れていた。

 

「しかと、そのように。他のものには私から伝えておきましょう。“参加者”の方には体に鞭を打つようですが、父に――」

 

「よせ、そこまで年老いたつもりはないわ」

 

 キャスターに下される裁定は重い。それこそ他勢力に抑制と強制を課しかねない程にだ。

 此度の教会襲撃など、今後監督役の地位を盤石にするためには先お送りにしていい問題ではない。ことは性急に且つ、正確な采配を下す必要がある。そのためにはその身に灯った怒りの火は今一度静める必要があり、体を休める意味でも璃正はこの場を動く事が出来ない。

 それ故、その間の些事は他の構成員か、息子である綺礼の勤めである。

 

「綺礼―――頼んだぞ」

 

 扉に手を掛けた綺礼に、父の言葉が乗り掛かる。

 普段弱音や愚痴よいった類のものを見せない父であるが故に、息子の肩にかかるそれは重責である。

 が、そんな父に寄せられた期待を無碍にする性格でもなければ、逃げ出すような人間ではない。

 扉を開けた綺礼は振り返りはせず、一度立ち止まって僅かに首肯する事で応えた。

 

 

 

 街中の奥まった所に位置する一先ずの拠点を後にする綺礼は周囲を警戒しつつ進む。

 人気の無いこの場所では無用の心配に思えるかもしれないが、寧ろ彼等の様なものにとって常時警戒するに値するのはこうした独り身の時である。

 基本的に喧騒と無縁である孤立した状態など、暗闇を好む者にとって恰好の餌場であるのだから。

 

「おや、これはこれは――」

 

 だからであるからして、こうしてその手のモノに邂逅するとしても、それは不思議ではなかった。

 

「――――」

 

「こうして一対一で対面するのは初めてでしたか、御無事なようで何よりですよ綺礼」

 

 二メートルを優に超えるかという巨漢。

 しかして恰幅がいいという訳ではなく、身の幅より幾分余裕のある祭司服が彼の体を細身に見せる。

 場所が場所であり、時が夜であるのなら然る機関に通報されてもおかしくない登場の仕方と怪しさである。

 が、綺礼は別段慌てるでもなく、かといって友好的な態でもなく、寧ろ相手を睨むよう相対していた。

 

「なぜ貴様がここにいるアーチャー」

 

「なぜ、と? これはこれはおかしなことを仰る。我が主は教会側との密約が露呈しないよう配慮しているだけのこと――誓って他意はありませんよ」

 

 至極丁寧な物言いも、彼が発すれば途端にキナ臭くなる。

 その英霊の生前の偉業は、召喚にあたって綺礼も一応に聞き及んでいるが、こうしてみれば真面な英霊であるとは思えない。

 そも、英霊とは必ずしも人の救済、人知を超えた驚異を超越した輝かしいものであるとは限らない。逆に騙し、殺し、殺された血塗られた者、魔的な要素に魅入られて人から墜ちたものなど、その輝きから対極に位置する者も分類される。

 それが冬木における聖杯が選出する“英霊”であり、おそらく、このアーチャーもそうした魔に身を置く性質だろう。

 間違っても美々しくも気高い英傑ではない。

 

「ここで私の前に姿を現す軽率さが迂闊だと――いや、いい。父に用があるというのなら、早急に主の命を済ませればいいだろう」

 

 それは相対する綺礼の言葉の端々からも窺える。

 基本的に厳格な璃正に育てられた彼がここまで邪険にするのだ。

 初対面、ではないが、こうまでして物腰を柔らかくしても嫌われるというのは呪いの様なスキルめいたものを感じさせるが――対するアーチャーは、そんなぞんざいな対応にもめげずにニコニコと対応する。

 

「私としましてもそうしたいのはやまやまなのですがね―――職業柄、迷い人というのはどうにも見過ごせないのですよ」

 

「迷う? ―――まさかとは思うが、それは私のことではないだろうなアーチャー」

 

 そしてそれは殊更綺礼の心に鋭い棘を刺したらしい。

 睨むその相貌をより濃く、明確に、いっそ敵意さえにじませる態でアーチャーに対する綺礼。

 だが、そんな事さえアーチャーには柳に風だとでもいうのか、特に堪える様子もなく、彼の表情はいたって飄々としていた。

 

「おや、ご自覚が無いと? これはこれは、いよいよもって重症のようだ――ああ、ならばいいでしょう。さほど時間は取らせません。神の御許においた先達として、一つお節介をさせていただきましょうか」

 

「……そんな戯言に私が付き合うと? アーチャーもう一度は言わん。主の命があるなら早々に―――」

 

「ホウ、そうまでして認めたくないのですか?」

 

 途端に視線を超えて周囲に明確な殺意が滲み出す。

 綺礼とて何をこれほどアーチャーに苛立っているのかは掴みかねている。

 

「これは失礼―――ええ、ですから私の言葉は独り言の類と思ってくれて結構だ。そう、益体もないと切って捨てるのなら、貴方もお忙しい身だ。耳をかさずに立ち去ってくれて結構ですよ」

 

 だが、このささくれ立った心が訴える主張は、綺礼にとって無視できるものではなく、本能的に悟っていた。

 曲りなりにも聖者の装いをしているこの男は、間違いなく悪魔が聖者の皮を被っていると。

 故に、本来なら耳をかすどころか気にも留めない言葉の羅列を―――

 

「察するに、貴方はご自身の核というべき芯を定められていない。この国の言葉に言い方を変えるなら―――“足が地についていない”、というやつでしょうか」

 

 どういう訳か、彼は足を止めていた。

 一応に警戒しているのか、正面に立ちその挙動を見逃すものかと警戒に険しい表情は変わらない。

 だが、それでもこうして留まっている時点で、彼はその異常に気付くべきであった。

 いやそうした意味で、この神父姿のアーチャーは言葉巧みだったということなのか。

 

「身近な人物なら清廉とされていると、そうも捉えるでしょう。そうした意味で貴方は性質が悪い。いえ、決して悪い意味ではなく、この場合はその処世術こそが巧みだと賛辞を贈るところですが――ともかく、そうした衣を身に纏っていくにつれて、貴方は自身でも身動きが取れていない。それこそ、自身の姿を見失う程に」

 

 ただの益体もない話である筈なのに、まるで綺礼が生涯秘めていた苦悩、それこそ実の父ですら打ち明けれずにいた悩みを彼の中から摘出していく。

 ひどく苦痛を伴うだろうそれに、まるで目の前の英霊が強大な何かに見える錯覚にとらわれ、綺礼は膝が覚束なくなる。

 もともと、その苦悩の答えを求めて参加したはずの聖杯戦争。そして今、まさにその答えが片鱗として見えかけているのに、彼自身はそれを拒絶するように苦しんでいた。

 

「ですがそれはただの価値観の相違。貴方は認めたくない事象を見ないふりをしているだけで、物の見方を変えれば絡まった糸は容易くほぐれる筈だ。もっとも、その歳まで自身が絡ませた糸はどうやら特大の奇形である様子――ならば少々刺激も強いでしょうが、荒療治も必要でしょう」

 

 おそらく――いや、それは確信に近い何かで。

 そう感じるからにはこれは一二も無く切って捨てる場面であり、言峰 綺礼という青年にとって、今まさに人生の分岐点に放り出されていたといっていい。

 

「綺礼――――」

 

 もっとも――――――

 

「――――貴方は“既知感”というものを感じた事がありますか?」

 

 その選択肢を握るのは綺礼本人ではなかったらしい。

 

 呪いの言葉を贈られた綺礼はついに片膝をつき、まるで慈悲を乞う罪人のように目の前の男を見上げる。

 そして、綺礼が抱いた感想は真実的を射ていた。

 

 死人の笑い。

 

 大凡人が浮かべる筈もない禍々しい笑みを浮かべた何かが目の前で愉快気に笑う。

 ひどく不快で、恐らくもう手遅れだと、彼はどこまでも他人事のようにこの光景を眺めていた。

 

 

 






 あとがきだけど推奨BGM:Cathedrale(Dies irae)
 エセ神父による邪教説法 入門編、始まるよ!!
 エセ神父(アーチャー)登場シーンに流れると知ってる人はニヤリかも?
 既に脳内で保管できたそこのあなた、紛う事無き猛者です。貴方とは小一時間余裕で話せそうですねw

 さて、こうして待ちに待たせました? ワンシーンにてようやくいくつかフラグ回収。しかしてさらにフラグをばらまいてますので私的にはイーブンw
 綺礼さんは果たして無事なのか? いや敵ではないから問題ないだろうと思ったあなた、これがどういう意味を持つのかはZero本編で有名なあのシーンをDies風にしたものなのですよ! ですので、この説法は次回にも続きますのです。つまり―――綺礼さんがどうなるか―――あとは大体想像がつくかとw

 そんな感じで作者的には盛り上がってきたのですが――申し訳ない。前々から報告していたドイツ行で一週間執筆が空きます。帰国が8日なので、なんだかんだでそこから執筆すると2週間空きそうで怖いのですが――どうかその間お待ちいただけると幸いです。

 では、今日の夜出国なので少々最後の確認もあり、慌しいですがこれにて失礼します。
 余裕があればこちら、もしくはツイッターの方でつぶやいたりハーメルンの方にも顔を出せるかもしれないので、感想等頂けると作者の活力になりますw
 ご指摘や、些細な点等でも構いませんので、是非に、よろしくお願いします。
 それでは、また次回更新でお会いしましょう!

 

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