ソードアート・オンライン Dragon Fang《リメイク版》 作:グレイブブレイド
「ハァッ!」
振り下ろした剣がモンスターを真っ二つにし、ポリゴンとなって消滅させた。
愛剣《ドラグニティレイ》を鞘にしまい、マップデータを開いて現在地を確認する。
「1人だけでもここまで来たのか……」
俺が今いるの、はインプ領とウンディーネ領の中立域にある洞窟ダンジョンだ。この洞窟の内部には滝が流れていいるため、陸上と水上のモンスターが生息し、狩場や特訓の地として利用するプレイヤーが多いところでもある。俺も今日はここに特訓のために訪れていた。
マップデータと閉じ、新たにアイテムストレージを開いて残りの回復アイテムの数を確認する。
「本当はもう少し進みたいところだけど、回復アイテムの残りや体力のことを考えるとこの辺りで引き返した方がよさそうだな」
ALOはSAOのようにゲーム内でHPが0になれば、リアルでも死ぬわけではない。しかし、デスペナがあるから、先に進みたい思いをグッと堪えて帰ることにした。
来た道を戻り、洞窟の入り口に戻ろうとした時だった。
索敵スキルにプレイヤーの反応があった。数は1人。俺と同じ種族のインプなら何の問題もないが、他種族だった場合は戦闘になる可能性も十分あり得る。
念のために隠密魔法で隠れてやり過ごそうかと思った。しかし、洞窟の中で看破魔法を使われたらすぐにバレてしまう。
ここは相手が攻撃してきた時のために、戦闘態勢で待つとしよう。そう思い、俺は右腰に吊るしている鞘から再び剣を抜き取った。
インプの暗視能力をフルに活用し、プレイヤーが接近してくる方を目を凝らして見ていると、1人のプレイヤーがこちらに近づいている姿を捉えた。
近づいてきたのは、ウンディーネの男性だった。歳は俺と同じか少し年上だろう。水色がかった銀髪に、灰色の瞳、水色と白を基調とした魔導士のような恰好。右手には杖が握られている。ウンディーネに多いメイジタイプのプレイヤーだ。
ウンディーネの男性は剣を持った俺の姿を捉えた途端、慌てた様子で片手を上げて叫んだ。
「ストップストップ!別に戦おうとするつもりはないから!」
中には戦う意思がないフリをし、相手を油断させといて騙し討ちをしてくる悪質なプレイヤーもいる。だが、この人からはそういう気配はなく、俺はそれに応じて剣を鞘にしまう。
「俺も別に戦う意思がないなら、そういう気は一切ないので。驚かしてしまってすいません」
一言謝り、この場を去ろうとするが……。
「ちょっと待ってくれ!」
「ぐへっ!」
ウンディーネの男性は慌てて俺のフード付きのマントをフード部分を掴んで引き止めた。
「一体何ですかっ!?」
「君、ここの洞窟の出口までの道って知っているのか?」
「ええ。まあ……」
「よかった。俺、ここの洞窟に来るのは今日が初めて来たんだけど、トラップに引っかかって道に迷っていたんだ。申し訳ないけど、出口までのルートを教えてくれないか?」
「いいですよ。俺もちょうど帰ろうとしてたので、よかったら一緒に行きませんか?」
「助かるよ。そういえば、まだ名乗ってなかったな。俺はアラン。見ての通りウンディーネだ」
「俺はリュウガ。リュウで構いませんよ」
「リュウか。この洞窟を出るまでの間だけど、よろしくな」
「こちらこそ」
握手を交わす俺達。
こうして俺はアランさんと成り行きで共に行動することとなった。
アランさんと洞窟の入り口を目指して既に30分近く経過した。途中で何度かモンスターと遭遇して戦闘になったが、俺の剣戟とアランさんの魔法で難なく切り抜け、順調に進めている。
5度目の戦闘を終えて剣を鞘にしまうと、アランさんが声をかけてきた。
「お疲れ様。こうしてリュウが一緒にいてくれるだけでも十分助かるよ。俺、メイジだからいつも接近戦になられるとどうしても苦戦するからさ」
「いえいえ。逆に俺は前衛のアタッカーですから、アランさんに援護して貰って凄く助かりますよ。数週間前にALOを始めたばかりだって言ってましたけど、魔法の扱いなんてもう手練れのメイジ並じゃないですか」
俺がそう言うと、アランさんは少し照れて頭をかいた。
「お世辞でもそう言われると嬉しいな」
「別にお世辞じゃないですよ」
アランさんの戦闘を数回見てきたけど、彼はALOを初めてまだ日が浅い割に、妙に仮想世界での戦い慣れしているし、スキル数値も相当高く見える。恐らく他のVRMMOからコンバートしてきたんだろう。しかも、彼の戦いぶりから元の世界では名の知れたプレイヤーだったに違いない。
だけど、どうしてALOにコンバートしてきたんだ。コンバートは元々いた世界のアバターのデータを引き継ぎ、最初から高いステータスのアバターでプレイできる。コンバートは元々いた世界で入手したアイテムや金は引き継ぐことはできないのに。それとも、知り合いに預かってもらって一時的に来ているだけなのか。
そんなことを考えていると、再びアランさんが声をかけてきた。
「リュウ、どうかしたのか?」
「いえ、何でもないです」
「そっか。何か考え事しているように見えたけど、何でもないならいいや」
そして、俺達は出口を目指して歩き出した。
「そういえば、リュウはいつもこうして1人でダンジョンに行ったりしているのか?」
「いえ。いつもは一緒にパーティーを組んでいる仲間がいるんです。皆リアルでも知り合いで、都合のいい日を合わせて一緒に冒険しているんですよ。まあ、予定が合わない時はこうして1人でフィールドに出ているんですけどね」
「なるほどね。リュウにはそういう仲間が何人もいるんだな」
「はい。アランさんは?」
「俺はALOを初めてからそんなに経ってないから、そういうプレイヤーはいないな。だから、こうして誰かと一緒にゲーム内で行動するのは随分と久しぶりなんだよ」
「久しぶりってことは、前は違ったんですか?」
「まあな……」
そして、アランさんはぽつりぽつりと話し始めた。
「俺も昔は別のゲームでだけど、あるギルドに所属してたんだ。規模が大きいギルドじゃなかったけど、ギルドの仲間たちとは皆仲が良くてさ。その仲間たちとは、《アスカ・エンパイア》に《インセクサイト》とか多くのVRMMOを巡ったよ。楽しいことだけじゃなくて大変なこともあったけど、仲間たちと色々な世界を冒険していたのはいい思い出だよ……」
懐かしそうにかつての仲間たちとの冒険を語るアランさんだったが……。
「でも、俺は色々あってそのギルドは辞めてしまったけどな……」
最後にそんなことを呟いた時のアランさんは先ほどとは異なり、何処か悲しそうにしているしているようにも見えた。
VRMMO……ネットゲーム内のギルドは、リアルの都合やギルド内外のトラブル等で、ギルドを抜ける人は多い。アランさんもその1人なんだろう。だが、彼の場合は何故かよくあるような理由で辞めたような感じはしなかった。
「すいません。何か悪いこと聞いちゃって……」
「別にリュウが謝ることじゃないよ。俺の方こそ悪いな。大分しんみりとした感じになってしまって」
アランさんは笑みを浮かべて「さてと」と言って言葉を続けた。
「今はそんなことより、出口を目指すことに専念しようぜ。まだまだ先なんだろう。なら早く行こうぜ」
俺の肩にポンと右手を置いて先に出口の方へと進んでいく。
彼の様子から俺に心配かけないような素振りをしているようにも感じたが、とりあえず今は気にしないでおくことにし、彼の後を追う。
「ちょっと待ってくださいよ、アランさん。俺より先に行って道分かるんですか?」
「そういえば、そうだったな」
軽く笑うアランさんに少々呆れながらも俺も笑みを浮かべた。
更に洞窟を進むこと1時間。歩き続けている内に一本道から地底湖が広がっている空間へと出た。
「この洞窟内にこんなところがあったなんてな。来る時は別の道を通ってたから今初めて知ったよ」
「アランさんが通ってきたのは遠回りになるルートだったんですね。ここの最深部に行くにはここを通った方が近いんですよ」
「なるほどな。今度来る機会があった時のために覚えておくよ」
「でも、気を付けて下さい。この洞窟内には一定の確率で高レベルの水棲モンスターが出現するエリアがいくつかあって、この地底湖もその1つなんです。一応そういうエリアを迂回するルートはあるんですけど、出口に行くにはここだけはどうしても避けられなくて……」
「なるほどね。でも、絶対出るってわけじゃないから大丈夫だろ……」
アランさんがそう言った直後だった。
突如、バシャーン!と勢いよく音を地底湖から巨大な影が出てきた。現れたのは体長が10メートルほある龍の姿をした巨大なモンスターだった。
「もしかしてコイツがさっき話していた例のモンスターか!?」
「はい!これまでと同じく俺が前衛を引き受けますから、アランさんは後ろから援護してください!」
「ああ!」
モンスターは水のブレス攻撃をしてきて、俺はそれを回避しながら接近してモンスターに斬撃を叩き込む。しかし、ヤツのHPは少しも減っていない。
「このモンスター物理耐性が高いタイプかっ!」
「だったらっ!」
アランさんはそう叫び、魔法のスペルの詠唱。すると、複数の小さな氷の玉を生み出し、標的に向かって飛ばす。
それを喰らったモンスターのHPが先ほどより減った。
「どうやらコイツは魔法耐性の方が低いみたいです!俺がタゲを取りますから、この隙にアランさんはさっきみたいに魔法で攻撃して下さい!」
「任せろっ!」
それから、俺がタゲを取り、その好きにアランさんが魔法で攻撃する戦法でモンスターの体力を削っていく。アランさんがポーションでMPを回復させている間は、俺が大型モンスターに有効なソードスキルを使うなどして時間を稼いだ。
相手が高レベルのモンスターだというのに加え、2人だけということもあって、時間がかかっているが、この調子でいけば何とか倒せそうだ。
だが、HPが残り三分の一まで削った途端、突如モンスターが咆えて自身のHPを半分まで回復させる。続けざまにブレス攻撃をしてくるが、威力は先ほどより上がっていて俺達のHPを多く奪った。
「コイツ、体力を回復させるだけじゃなくて、攻撃力も上がるのか!」
俺達の体力的にもコイツ相手にこれ以上戦闘を長引かせるわけにはいかない。何かいい手はないかと考えていると、アランさんが叫んだ。
「リュウ!一気に勝負を決めるからもう少しモンスターを引き付けてくれ!」
「えっ!?は、はい!」
――一気に勝負を決めるって、敵のHPもまだ半分近くは残っている。なら、アランさんは一体どうするつもりなんだ。
そんなことを考えながら必死にモンスターのタゲを取り続けていた。
「さあ、ショータイムだ」
アランさんはそう言うと、杖を前にかざし、何かの魔法のスペルの詠唱を開始した。すると、杖の先に水色の球体状のエネルギー体が形成される。水属性か氷属性の魔法だろう。詠唱は続き、たちまち複雑な立体魔法陣がアランさんを包み込むように展開する。スペルの長さと魔法陣の規模からしてかなり高位の魔法と思われた。
詠唱を終えた途端、絶対零度の球体がモンスターに放たれた。
氷属性最上位魔法《アブソリュート・ゼロ》。
モンスターは一瞬のうちに周囲の水ごと氷漬けにされ、完全に動きを封じられる。
「フィナーレだ」
そして、アランさんは新たな魔法のスペルの詠唱を開始する。先ほどとは違い聖属性の魔法のようだが、今回の魔法もスペルの長さと魔法陣の規模から高位の魔法だ。
そう確信した直後、杖の先から強力な金色の光線が放たれて、凍り付けにされたモンスターを粉砕。辺りには氷の結晶が降り注いだ。
「ふぃ~」
あの龍型のモンスターを倒した後も数回の戦闘を行いながら進み続け、俺達は遂に洞窟から出ることが出来た。洞窟に入った時はまだ空は青かったが、今は夕日でオレンジ色に染まっていた。
「ふぅ、やっと出ることができた。ありがとな、リュウ」
「いえ。こちらこそありがとうございました。それに、アランさんがいなかったら、あのモンスターは倒せなかったですし」
「役に立てて何よりだ」
そして笑い合う俺たち。
「俺はそろそろ行くよ」
「また……会えますか?」
「ああ。この世界での俺の旅はまだ始まったばかりだ。旅を続けていたらまた何処かで会えるさ。今度はリュウの仲間にも会ってみたいな」
アランさんはそう言い残し、何処かへと飛び去っていく。
「それにしても不思議な人だったな。ニュービーの割には強かったし、1回の戦闘であんな高位の魔法を簡単に2回も続けて使えるなんて……。アランさんは一体何者なんだろう……」
そんなことを口にし、アルヴヘイムの空に浮かぶ浮遊城……アインクラッドを見る。
「さてと俺もそろそろ帰ろうか」
自分のホームに戻ろうと飛び立ってこの場を後にした。
See you Next game
今回初登場した新キャラのアラン。
彼の姿は、『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか』の『ベル・クラネル』の髪を水色がかった銀髪、瞳をグレーにした感じとなっています。
仮面ライダーゴーストに登場するアランとは一切関係ないのでご注意ください。
実はアランのキャラ構想はずっと前からあったんですが、やっと登場させることができました。まだ謎の多いキャラですが、彼のこともよろしくお願いします。
今回でファントム・バレット編は本格的に終了し、次回から待望のキャリバー編となります!