ソードアート・オンライン Dragon Fang《リメイク版》   作:グレイブブレイド

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リュウ「GGOで最強ガンナー決定戦の第3回BoB。生き残っているプレイヤーも残り僅かとなり、大会もクライマックスを迎えていた」

キリト「その中で、俺とリュウは、死銃(デス・ガン)の一味のアビスとソニー相手にピンチに陥るも、俺達のコンビネーションと帰りを待っているアスナ達のおかげで勝利することができたのだった」

リーファ「これってあたしたちのおかげで勝てたと言ってもいいですよね。ねえ、アスナさん」

アスナ「そうね。2人にはALOでお礼にわたしたちにシャルモンのケーキバイキングを奢ってもらうっていうのはどうかしら」

ユイ「賛成です!シャルモンのケーキは、お値段は多少張りますが、美味しいって女性プレイヤーの中で評判がいいみたいですからね」

それを聞いて逃げるリュウとキリト。

リーファ「ちょっと!リュウ君もお兄ちゃんも逃げないでよ!待ちなさい!」

アスナ「わたしたちはキリト君たちを追いますが、皆さんは第18話を楽しんで下さい!」

挿入歌「Leave all Behind」


第18話 ファントム・バレット

ALOからログアウトして隼人の家に行くと、隼人のお姉さんと妹がいて、すぐに俺を家の中に入れてくれた。2人に家中の戸締りを確認してもらい、怪しい奴がうろついていたのを見かけたらすぐに俺に知らせるようにと言い残し、隼人の部屋へと向かう。

 

部屋にあるベッドにはアミュスフィアを付けて寝ている隼人の姿があった。

 

「隼人……」

 

タブレットを取り出し、大会の中継映像を見る。

 

隼人……カイトは間違いなく、あのボロマント……ザザと戦う可能性が高い。ザザはジョニー・ブラックと共にSAOでバロンの仲間……リクとダイチとハントを殺した。ここでカイトとしてザザと決着を付けるつもりんだろう。

 

「カイト、絶対に勝てよ」

 

タブレットに映し出されている大会の中継映像を見ながらそう祈った。

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

暗視モードに変更したヘカートⅡのスコープを右目で覗き込み、闇風と死銃を迎え撃とうとする。

 

スコープで確認するが、まだ闇風と死銃の姿は見えない。だけど、どちらも確実に接近しているのは間違いない。カイトは広大な砂漠の中に立ち、闇風と死銃が来るのを待っている。

 

事実上、今回の優勝候補者筆頭だと言われている闇風を一撃で仕留めるということに不安もあった。闇風はAGI型ビルドでも最強のプレイヤーで前大会の準優勝者。私の狙撃をかわす可能性も十分にあり得る。でも、そんな不安もカイトの姿を見てなんとか無くすことができた。

 

リュウやキリト、そしてカイトがいたおかげで私は今もこうして戦うことができている。そのためにも今私がやるべきことを果たさなければならない。

 

(全て終わったら彼に私の想いを伝えよう。拒絶される可能性だって十分にあり得る。けど、結果がどうなろうがカイトに、この想いを伝えたい。)

 

そう思い、今持っているヘカートⅡに話しかけるように呟く。

 

「お願い、私に力を貸して。ここからもう一度、歩き始める為の力を……」

 

ついにスコープ越しに闇風の姿を捉えた。

 

「速い!」

 

AGI型ビルドは衰退しているとよく言われているが、そうでもないと改めて思う。決して立ち止まらず、高速で走り続けることで相手に照準を許さないダッシュは、プレイヤー名の通り、まさしく闇色の風のようだ。それでも今ここで倒さなければならない。

 

そして、一発の銃弾がカイトの方に飛んでくる。これは死銃によるものだ。

 

カイトは間一髪のところで避け、カイトに避けられた弾丸は後方の古びたビルに着弾し、ビルの上部が崩れる。

 

闇風も、突然銃弾が飛来してくることに予想出来ていなかったため、岩陰に隠れて次いで岩陰へと方向転換しようとした。

 

闇風を倒せるチャンスは今しかない。

 

ヘカートⅡのトリガーを引き、弾丸が放たれて闇風に命中する。

 

闇風のアバターは数メートル以上吹き飛ばされ、砂の上を数度転がり、仰向けになって止まった。直後、闇風のアバターには【DEAD】のタグが表示され、辺りにはグレネードが散らばっていた。

 

――カイト!

 

すぐに死銃が狙撃してきた方へと銃口を向ける。

 

カイトはその間にも無双セイバーで弾丸を防ぎながら、死銃に向かってダッシュしている。

 

スコープの暗視モードを切り、倍率を限界まで上げ、銃弾が飛んできた位置を捉えた。スコープには物陰からサイレント・アサシンでカイトを狙っている死銃の姿があった。

 

――いた!

 

すぐに死銃に照準を合わせ、トリガーに触れて絞る。

 

だが、死銃は弾道予測線に気付き、私にサイレント・アサシンの銃口を向けてきた。

 

――勝負!!

 

ヘカートⅡのトリガーを引き、死銃もサイレント・アサシンのトリガーを引く。

 

2つのライフルが同時に火を噴いた。同時に放たれた弾丸同士が衝突するという奇跡的なことが起こるかと思ったが、ギリギリのところですれ違う。

 

死銃が放った弾丸がヘカートⅡに付いていた大型スコープを破壊し、それと同時にスコープ越しに私が放った弾丸がサイレント・アサシンが完全に破壊されるのが一瞬見えた。

 

「ごめんね……」

 

破壊されてしまった、この世界で稀少かつ高性能な銃であるサイレント・アサシンに、弔いの言葉を呟く。

 

スコープが破壊され、今はもう遠距離狙撃は不可能となってしまった。

 

「あとは任せたわよ、カイト」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

(狙撃で死銃を倒すことはできなかったか。だが、よくやったシノン。あとは俺に任せろ。)

 

死銃……ザザが持つサイレント・アサシンはバラバラになった。これで奴が持つ武器は黒星・五十四式だけだ。それで撃ってきても俺なら無双セイバーで簡単に防ぐことができる。

 

俺は今より更に加速してザザに向かう。

 

ザザはバラバラになったサイレント・アサシンの銃身の下から細い金属棒を抜き出した。何だ?あれはクリーニング・ロッドか…? だけど、あれはただのメンテナンスツールで、攻撃してもHPは少しも減らない。

 

――悪あがきのつもりか。無駄なことを……。

 

無双セイバーでザザに突きを放とうとした時だった。

 

――いや待て!クリーニング・ロッドの先端は針みたいに鋭く尖っていないはずだ。まさかっ!

 

それに気が付いた時には既に遅かった。

 

ザザは俺の攻撃のタイミングを完璧に読んでいたかのように横にジャンプして回避し、クリーニング・ロッドを俺の左肩に突き刺してきた。

 

「ぐっ!」

 

左肩に不快な感覚が伝わり、少しよろけてしまう。だが、なんとか体勢を立て直し、二本の足で立つ。

 

5メートルほど先にいるザザの右手には、先が針のように鋭いクリーニング・ロッド……いや、エストックが握られていた。

 

「おい、GGOの中にエストックがあるなんて聞いたことないぞ…!」

 

「あの2人より、GGOを長く、プレイしているのに、不勉強だな、紅蓮の刀使い。《ナイフ作製》スキルの、上位派生、《銃剣作製》スキルで、作れる。長さや、重さは、このへんが、限界だが」

 

「殺した奴のエストックをコレクションするだけじゃなく、銃の世界で自らエストックを作り上げるとはな。お前のエストック好きはとんだ悪趣味だな、赤目のザザ」

 

ザザの顔は見えないが、俺にSAO時代の名前を呼ばれて嬉しそうにしているのが伝わってきた。

 

「まさか、俺のことを、覚えて、くれて、いたとはな。だが、お前は、あの頃と比べて、随分と腕が、落ちたな。昔のお前が見たら、失望するぞ」

 

「かもな…。だがSAOはもう終わっているんだ。当然と言えば、当然だろ。そう言うお前はまだ《ラフィン・コフィン》のメンバーのつもりでいるのか?」

 

「そうだ。オレは、お前とは、違う。本物の、レッドプレイヤーだ」

 

「違うな。お前はもうレッドプレイヤーですらない。今のお前はただの殺人犯……いや、弱者だと言ってもいいだろ?」

 

突如、ザザがピクリと反応する。

 

「弱者だと……?」

 

「そうだ。俺に勝てないから、SAOでは俺やザックとの戦いを避けてジョニー・ブラックと共にバロンの仲間……リクとダイチとハントを殺した。さっきも俺より先にシノンを狙っていただろ。俺と戦う事をお前は恐れている、それ以外に理由があるか?これを弱者や臆病者といわず何という?」

 

「キサマ……」

 

ドクロ状に造形された金属マスク越しでも今の奴の顔が怒りに満ちているのが伝わってきた。

 

そして、キリトから聞かされた推理内容をザザに言った。

 

「それに、ゼクシード達を殺したのも、お前が今持っている拳銃の力でも、お前たち自身の能力でもない。メタマテリアル光歪曲迷彩(オプチカル・カモ)を使い、総督府の端末で大会出場者の住所を調べた。部屋に予め共犯者を侵入させ、銃撃に合わせて薬品を注射し、心不全による変死を演出をしたんだろ?」

 

ここでついに、ザザは沈黙した。

 

「その様子だと、俺たちが導き出した答えは大体正解だったようだな。俺と戦うのが怖いなら、今すぐログアウトして警察に自首す……っ!?」

 

言い終える前に、ザザが左手で黒星・五十四式を抜き取り、俺に向けて発砲してきた。

 

弾丸は直撃しなかったが、俺の右肩をかすめ、少し遅れて痺れが伝わってきた。

 

「ぐっ!」

 

「予定、変更だ。先に、お前を殺して、あの女の前に、お前の死体を、突き出して、絶望している間に、あの女を殺す」

 

俺に対して殺意を向けるザザ。

 

「いや、お前はここで終わらせる。シノンは絶対に殺させない!」

 

地面を蹴り、ザザに刀スキル《辻風》のように刀を左腰に構えた体勢から居合い技をお見舞いしようとする。だが、ザザは黒星・五十四式をホルスターに戻すとそれを軽々とかわし、俺に細剣スキルの《スター・スプラッシュ》を再現させた8連撃の突きを叩き込む。

 

「ぐっ!」

 

SAOやALOの細剣以上に威力が高い。それに先ほど喰らった一撃も思ったよりダメージが大きかった。どういうことだ……。

 

「ク、ク、ク。効くだろ。こいつの、素材は、このゲームで手に入る、最高級の金属、だ。 宇宙戦艦の、装甲板、なんだそうだ」

 

「宇宙戦艦の装甲板か。それなら納得がいくな……」

 

随分と余裕を見せているザザ。奴がこんなに余裕を見せるのは何故なんだ。

 

「それに、お前の動きは、全部見切っている。数ヶ月前に、この世界で、お前を見つけてから、ずっと、お前の、《無双セイバー》の扱いを、見てきた。本当は、狙撃して、何度も殺してやりたかったけどな……」

 

キャラネームだけじゃなく、SAOやALOと姿や服装があまり変わりないことが仇になったか。だけど、ザザはどうやって俺がいつログインしていることを知ることができた?

 

いや、今はそれよりもザザを倒すことに専念するべきだ。

 

「お前の得意なエストックを用意して、俺の動きを見切ったから何だ。上等だ!」

 

「いいぞ。あの時と、同じ、目だ。イッツ・ショウ・タイム」

 

俺とザザは同時に地面を蹴り、激しく武器をぶつけ合う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カイト!」

 

思わず声が出てしまう。

 

約700メートル先でカイトが死銃と互角に戦っている。カイトと死銃の剣戟は凄まじくて目で追えないほどだ。

 

だけど、カイトの動きは全て見切られ、攻撃を全てかわされたり、防がれたりしている。対するカイトも全ての攻撃を防いでいるが、先ほど受けたダメージが響いているのか、本調子ではなさそうだ。

 

カイトがあんなに苦戦するのは初めて見る。

 

そんな光景を見て、私はトリガーに指を掛ける衝動を必死に堪えていた。

 

ヘカートⅡのスコープは先ほど破壊されてしまい、いつものように狙撃でカイトを援護することができない。スコープがない状態でこの距離から狙撃するのは危険だ。闇雲に撃てば、カイトに当ってしまう可能性だってある。

 

このまま、カイトが勝つことを祈って、黙って見ていることしかできないことが辛かった。

 

『シノン、お前に何があったのかまだハッキリとはわからない。だが、お前がずっと苦しい思いをして1人で戦ってきたってことはわかる。俺なんかよりもよっぽど強いさ、シノンは。俺はお前の手が血で染まっていても握ってやる。だから大丈夫だ』

 

私が泣いていた時、カイトはこんなことを言ってくれた。この言葉は嬉しくて、今度は私がカイトの力になりたいと思った。

 

でも、今の私に何かできることはないのか。カイトを援護する方法が……。いや、1つだけある。それはどのくらい効果があるかわからないけど、やってみる価値はある。

 

大きく息を吸い、ぐっと奥歯を噛み締めて、カイトが死銃と戦っている方を見る。

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スピード、バランス、そしてタイミング。全てが完成されている。

 

それだけじゃない。俺の動きを完全に読まれている。GGOで俺の戦いを見てきただけじゃない。SAOで俺に敗北して牢獄に送られてからずっと、俺への復讐心を糧に、何千……何万回も同じ動作を繰り返して技を磨いたんだろう。

 

奴が1年以上もかけて技を磨いている中、デスゲームから解放された俺は、すっかりゲームで死んでも現実で死なない世界で過ごしていたせいか、腕がなまってしまったようだ。

 

ここで俺が負けても現実の体が傷つくことも死ぬことはない。だが、俺が負ければ、ザザは絶対にシノンを《黒星・五十四式》で撃ち、現実世界にいる共犯者がシノン……朝田を手に掛ける。

 

俺はシノン/朝田に絶対に殺させないと約束した。その約束を果たすためにも絶対に負けるわけにはいかない。

 

だが、俺の攻撃は完全に見切られ、先ほど受けたダメージが残っているせいで思うように体を動かせない。このままではジリ貧になる一方だ…。せめてほんの一瞬だけでも隙があれば、そこをついて一気に勝負を決めることができる。

 

何かいい手はないかと思った時、一本の赤いラインがザザを突き刺す。照準予測線だ。ザザは突然の攻撃で、回避しようと後ろに大きく跳んだ。だが弾丸は飛んでこない。

 

ーーカイト!!

 

これはシノンの予測線による攻撃。この半年間の経験と閃き、闘志をあらん限り注ぎ込んで放ったラストアタック。幻影の一弾……ファントム・バレットを無駄にするわけにはいかない!

 

俺が突撃しようとすると、ザザはメタマテリアル光歪曲迷彩(オプチカル・カモ)を使って姿を消そうとする。

 

「させるか!」

 

左手で《無双セイバー》の鍔の後部にあるスイッチを引き、弾を装填し、前部にあるトリガーを引く。銃口が火を噴き、5.6発の銃弾が不可視の何かに命中する。

 

「ぐっ!」

 

激しくスパークを散らしたところにザザが再び姿を現す。

 

「ここが銃の世界だということを忘れたのが命取りだったな!」

 

「まだだっ!」

 

再び《スター・スプラッシュ》を放ってくるが、見切って無双セイバーで攻撃を全部防いだ。

 

「何っ!?」

 

「二度も同じ攻撃を喰らうかっ!」

 

そのお返しに無双セイバーを両手で持ち、連撃を繰り出す。

 

刀スキル奥義技《散華》。

 

眼にも止めらない速さでザザを斬りつけていき、放った一撃が腰のホルスターに収まっていた《黒星・五十四式》ごとザザを真っ二つに斬り裂いた。同時に爆発を引き起こす。

 

その衝撃で地面を転がりつつも、何とか起き上がる。

 

分断されたザザのアバターと引き千切られた黒いボロマントが宙を舞い、俺から少し離れた場所にザザの上半身が転がり、その近くに僅かに遅れてエストックが地面に突き刺さった。

 

「まだ、終わらない。終わらせ……ない……。……あの人たちが……お前たちを……」

 

最後まで言い終える前に、ザザのアバターには【DEAD】と死亡したことを表すタグが浮かび上がる。

 

「いや、お前たち《ラフィン・コフィン》はもう終わりだ。ここにいるお前たちや現実世界にいる共犯者もすぐに警察に捕まる。絶望がお前達のゴールだ」

 

既に動かなくなったザザにそう言い放ち、後ろを振り返ってこの場を離れる。砂漠の中を歩いていると、前の方からスコープを破壊されたヘカートⅡを抱えたシノンがやってくる。

 

「お疲れ様……」

 

「ああ、シノンもよくやったな。最後のバレットラインには助けられた…礼を言うよ」

 

そう言い、拳をコツンとぶつけ合う。

 

「お~い!カイト、シノン!」

 

直後、キリトの声と2台のバイクのエンジン音がし、俺とシノンはその方へ顔を向ける。そこにいたのは、《ビートチェイサー2000》と《トライチェイサー2000》に乗ってやってくるリュウとキリトだった。

 

リュウとキリトは俺たちの前でバイクを停め、降りて近づいてきた。2人ともかなりボロボロで何とかバイクを運転してきたんだろう。

 

「その様子だとお前らも終わったようだな」

 

「はい、大分苦戦してしまったんですけどね……」

 

それでも無事にアビスとソニーを倒して2人が無事だったことに安心する。

 

「死銃たちが倒された今、この大会における危険は去った。シノンを狙っていた共犯者も捕まるのを恐れて逃げ出したと思うぜ」

 

「だけど、俺は念のためにログアウトしたらすぐにシノンの家に向かう。キリトとリュウは依頼人や響に連絡してくれ。お前たちの依頼人なら警察も動いてくれるだろうし、響の親父さんならすぐに状況も理解してくれるだろう」

 

「わかった」

 

「あれ?カイトさんとシノンさんって、ゲームだけじゃなくてリアルでも知り合いなんですか?」

 

「ええ、そうよ。2人ともカイトの知り合いだから教えておくわ。私の本当の名前は朝田詩乃。住所は東京都文京区湯島四丁目……」

 

シノンがアパート名と部屋番号まで教えた途端、キリトとリュウは驚いた。

 

「湯島だったら、今俺たちがダイブしている千代田区の御茶ノ水からかなり近いぞ」

 

「そこって眼と鼻の先じゃない」

 

これには俺もシノンも驚いた。

 

キリトとリュウは住んでいる埼玉県の川越市じゃなくて別のところからダイブしているとは聞いていたが、まさかこんなに近いところからダイブしていたとはな。

 

「それなら連絡したらすぐに俺たちも向かいますよ」

 

「警察が来るまでの間に、1人でも多くシノンの傍にいた方がいいからな」

 

「リュウはともかく、アンタも来るのね」

 

「俺はダメなのかっ!?」

 

「冗談よ。カイトやリュウの話を聞いて私が思っていたよりマシな人だったしね」

 

ちょっとトゲがあることをシノンが言い、キリトは若干落ち込んでリュウに慰められている。

 

この間にも中継カメラたちが集まってきて、大会の優勝者が決まるのを待ち望んでいるようにも見えた。

 

「だけど、俺達4人で早く大会の優勝者を決めないとログアウトできないぞ」

 

「そうだったな。どうやって決めるか?」

 

「俺は遠慮しておきます。体力も限界ですし、この状況で皆さんに勝てる気もしないので。それに、俺の帰りを待っている人にすぐ会いたいですし」

 

「俺も帰りを待っている人がいるからパス。やっぱり銃より剣の方が俺に合っているしな。でも、最後くらいは銃で決めるか。リュウ、やるぞ」

 

「はい」

 

キリトは《FMファイブセブン》、リュウはガンモードの《イクサカリバー》を取り出す。向かい合い、お互いに向かって同時に発砲。2人は倒れ、残ったアバターには【DEAD】のタグのタグが浮かびあがった。

 

残ったキリトとリュウのアバターを見ると、2人揃って安らかに眠っているかのような表情をしていた。

 

「まさか最後は2人揃って相打ちで死ぬなんてね」

 

「コイツらは慣れない銃の世界で戦ってきたんだ。今はゆっくりと休ませてやろう」

 

「そうね。じゃあ、2人の邪魔にならないように決着を付けましょう」

 

「ああ」

 

2人がいる場所から離れ、シノンと向き合う。

 

「俺たちはどうやって決着を付ける?昨日みたいに決闘スタイルをして勝負を決めるか?」

 

「それよりもいい方法があるわよ。カイトは、第1回BoBは優勝するはずの人が油断してお土産グレネードに引っかかって2人同時優勝になったことは知っているでしょ?」

 

「ああ」

 

「なら話は早いわ」

 

シノンは俺の手に何かを置いてスイッチを入れた。この世界で何度も見たことがあるものため、シノンが俺の手に置いたものはプラズマグレネードだとすぐに分かった。

 

「おい、これってまさ…っ!?」

 

俺が言い終える前に、シノンは俺に抱きつき、目を閉じて顔を近づけてきた。そして、唇には温かくて柔らかい感触が伝わる。

 

一瞬頭が真っ白になったが、すぐに今何が起こったのか理解し、「何やっているんだ」とシノンを引き離そうとするが、口は塞がれてガッチリと抱き着かれて実行することはできなかった。

 

数秒後、シノンは唇を離し、目を開ける。シノンは頬を赤く染めていて、俺と間近で向き合っていた。

 

「カイト、好きよ……」

 

シノンが笑顔でそう言い残した瞬間、俺たちの間に眼も眩むほど強烈な光が生まれ、爆炎に包まれた。

 

 

試合時間:2時間6分19秒

 

第3回バレット・オブ・バレッツ本大会バトルロイヤル、終了

 

リザルト:【Sinon】及び【Kaito】同時優勝

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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オマケコーナー1

 

リーファとアスナとザックがログアウトした後もオトヤ、シリカ、リズ、クラインの4人は引き続きALOで大会の中継を見ていた。

 

4人が見守る中、キリトとリュウ、そしてカイトの3人が死銃たちを倒した映像が映った。

 

「リュウとキリトさんだけじゃなくて、カイトさんもラフコフのプレイヤーを倒したみたいですね。一時は見ているこっちもヒヤヒヤしましたよ」

 

「本当にそうよ。あたし達に心配かけたんだから、後であの3人にはちょっと説教しないといけないみたいね」

 

「まあまあ。皆さん、あれだけ頑張っていたんですから、大目に見てあげましょうよ」

 

「そうだぜ。大会で残っているのもアイツらだけだし、ベスト4入賞を祝ってやろうぜ」

 

オトヤ、リズ、シリカ、クラインの順で言う。こちらも応援で必死だったようで、少し披露している様子だった。

 

その間にもキリトとリュウがお互いを同時に拳銃で撃って相討ちとなって倒れ、残りはカイトとシノンだけになった。

 

「さっきから気になっていたんですけど、あの水色の髪をした女の人ってカイトさんの彼女なんでしょうか?」

 

「確かに、カイトさんとはやけに親しそうにしていたね……」

 

「そんなわけないだろ。カイトの野郎は女っ気が全くないんだぞ。アイツは俺やレコンと同じ非リア充仲間なんだぜ」

 

クラインはシリカとオトヤの話を否定し、ハハハハハと笑う。その時だった。

 

4人が見ていた映像にシノンがカイトにキスし、爆炎に包まれたところが映し出された。

 

オトヤとシリカは顔を真っ赤にしてフリーズし、リズは「おぉっ!」というような表情をしていた。

 

「最後の最後でいいものを見させてもらったわよ、カイト。念のために録画もしてて正解だったわ」

 

悪巧みしているかのようにニヤニヤしているリズの隣で、クラインは俯いていた。

 

「どうしたのよクライン?」

 

「カイトの野郎ぉぉぉぉっ!!裏切りやがったなぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

 

クラインの非リア充の叫びはイグドラシル・シティ中に響いた。

 

これは余談だが、GGOの方でも非リア充の男性プレイヤーの叫びが響き、何人もの女性プレイヤーがショックを受けたらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

オマケコーナー2

 

現実世界である1人の若い男がタブレットで第3回BoBの中継を見ていた。大会が始まってしばらくしてから、タブレットには洞窟内でシノンがカイトに抱きついているシーンが映し出される。

 

「ざけんなこの野郎!!」

 

このシーンを見た男は怒りのあまり、膝蹴りでタブレットを真っ二つにして破壊してしまう。

 

「あっ……。ヤバい!電気屋、電気屋!!」

 

財布を手に取り、男は急いで家を出て近くの電気屋へと向かう。

 

 

 

 

「くそう、とんだ出費だ」

 

無事にタブレットを買うことができると再び、第3回BoBの中継を見る。

 

「どれどれ。まだ倒されていないでくれよ、シノン」

 

回線が繋がって第3回BoBの中継が映し出される。映っていたのはシノンがカイトに抱きつき、カイトがシノンの頭を優しく撫でているシーンだった。しかも、シノンの方は頬を赤く染めててカイトにデレている様子である。

 

「ざけんなごるああああっ!!」

 

ガシャアッ!!

 

男は怒りのあまり、タブレットを地面に叩きつけて破壊してしまう。

 

「あっ……」

 

冷静さを取り戻したときには、無惨にも破壊されたタブレットが転がっていた。

 

 

 

 

再度、電気屋でタブレットを購入した時には家を出た時より財布の中身は殆ど減っていた。

 

「も、もうサイフも体力も限界だ。兄さん、絶対にカイトを倒してくれよ……」

 

新たに購入したタブレットに第3回BoBの中継が映し出される。今映っていたのはシノンがカイトに抱きつき、キスしている光景だった。

 

「これってシノンとカイトがキスして……」

 

この状況を理解すると共に指先に力が入り、そこからタブレットにミシミシと音を立てていた。眼からは血の涙を流している。

 

「シノンの唇を奪いやがってぇぇぇぇっ!!くそぉぉぉぉっ!!」

 

ガシャアッ!!

 

またしても怒りのあまり、タブレットを地面に叩きつけて破壊してしまう。




1か月振りの投稿となりました。お待たせしてしまい申し訳ございません。

今回は旧版のものを修正した位で、前回とは違いあまり変わらないものとなりました。
遂に死銃を倒し、大会を終えることができたリュウ君たち。そして、最後はカイトとシノンのファーストキスシーン。次回はどうなってしまうのか(笑)
今回活躍したカイトさんには、アリシゼーション編でもメチャクチャカッコいいシーンを用意しています!

この1か月の間にSAOアニメももう少しで終了するところまできて、仮面ライダーもゼロワンが終了し、新ライダーセイバーが始まりましね。もう少し早く投稿したかったです!

次回はもう少し早く投稿できるよう頑張りたいと思います。

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