ソードアート・オンライン Dragon Fang《リメイク版》   作:グレイブブレイド

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遅くなってしまってすいません。再構成前の執筆をしてて遅れました。

今回はリュウ君がSAOをやるきっかけとなった話になります。前回に引き続き、ダークな雰囲気満載です。

※再構成版と同様にリュウ君の一人称が「オレ」から「俺」に変更しました。その前に投稿したやつもこれから修正していきますので。


第8話 過去

2023年12月24日 第49層・ミュージェン

 

デスゲームが開始されてから、今年で2回目のクリスマスイブを迎えた。街はクリスマスムードに包まれ、目の前を楽しそうに過ごすプレイヤーたちが行き来する。

 

だけど、この光景は今の俺には不快なものにしか見えなかった。

 

俺は街の広場にあるベンチに腰掛け、アルゴさんからある情報のことを聞いていた。

 

「リュー坊、本気でクリスマスイベントボスを倒しに行くのカ?」

 

「何度も言わせないで下さい。俺は本気ですよ……」

 

アルゴさんから聞いていたのは、クリスマスイベントボス《背教者ニコラス》のことだ。ソイツはクリスマスイブの24時にあるモミの木の下に出現し、倒すと死んだプレイヤーを生き返らせることができる《蘇生アイテム》を入手できると言われている。

 

だけど、これは噂だけで本当に存在するかはわからない。それでも《背教者ニコラス》を倒して蘇生アイテムを手に入れようと血眼になって探しているプレイヤーは多い。俺もその1人だ。

 

「ソイツを倒して《蘇生アイテム》を絶対に手に入れます……」

 

「何度も言うケド、やめといた方がいいゾ。リュー坊の今のレベルで《背教者ニコラス》のソロ攻略は自殺行為そのものダ。仮に手に入れたところで、ファー坊とミーちゃんのどっちに使うんダ?」

 

「もちろん、2人に使うつもりです。1つしか手に入れられなかった場合、どんな手段を使ってでももう1つ手に入れるつもりですよ……」

 

「今のお前は正気じゃナイ!欲に目がくらんだ奴と一緒ダ!」

 

その言葉に俺は、殺気を出してアルゴさんを見る。

 

アルゴさんは俺を見てビクッとする。

 

「俺の邪魔する奴は誰だろうが殺す……。アルゴさん、アンタでもな……」

 

ベンチから立ち上がり、《背教者ニコラス》が出現すると言われているところに行こうとする。

 

アルゴさんには申し訳ないと思う。だけど、今の俺に残された道はもうこれしかない。

 

俺がここまで蘇生アイテムに執着しているのは、デスゲームが開始してからずっと共に戦ってきたファーランさんとミラを生き返らせるため。2人はこの前の赤い目の巨人との戦いで、俺を助けようとして死んだ。

 

このことは情報屋が配布している新聞でも大きく取り上げられた。ファーランさんとミラの他にフラゴンさん率いる攻略ギルド、6人の中層ギルドも犠牲になり、攻略組中層プレイヤー合わせて14人もの死者を出してしまったからそうなってもおかしくない。俺たちを罠にはめたと思われるフードの男は何者なのかまだわかっていない。

 

それから俺はソロプレイヤーとなり、最前線から抜け出して活動してきた。この間に蘇生アイテムの噂を聞き、絶対に手に入れると決心した。

 

胸ポケットからファーランさんとミラが生きているときに手に入れた《王のメダル》を取り出し、それを見る。《王のメダル》は全部で3枚あり、俺はその内のタカが描いてある赤いメダル1枚を持っている。

 

「ファーランさん、ミラ……」

 

メダルを胸ポケットにしまうと、ある場所へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は第35層の《迷いの森》へと来た。この森にあるモミの木の下に《背教者ニコラス》は出現する。

 

途中、この層で最強クラスである猿人のモンスター《ドランクエイプ》の集団に何回か遭遇し、戦闘になってしまい、余計なことに時間をくってしまった。

 

目的地に向かうため、森の中を進んでいると8人のプレイヤーが行く手を阻むように立っていた。全員が青をベースとした服にフルアーマーを纏った格好をしている。

 

奴らは《血盟騎士団》と並ぶ名声を誇る、攻略組最大のギルド《聖竜連合》だ。レアアイテムのためなら一時的にオレンジ化も辞さない危険な一面を持つ奴らもいると言われている。ここにいるってことは聖竜連合も蘇生アイテムを狙っているのだろう。

 

「ここは今封鎖中だ。通すわけにはいかない」

 

「だったら、無理矢理でもどいてもらいますよ」

 

俺はそう言い、右腰にある鞘から剣を抜き、殺気を出して聖竜連合のプレイヤーたちを睨む。

 

聖竜連合のプレイヤーは俺を見てビクッとするも、武器を持つ。

 

「俺は誓ったんだ、どんな手段を使ってでも必ずファーランさんとミラを生き返らせると……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2022年4月20日

 

部活がない日の放課後、俺は埼玉県のある総合病院に来ていた。ここに来た目的はある人に会うためだ。

 

病院の受付で面会の許可をもらうと、早速その病室へと向かう。

 

(あん)ちゃん来たよ」

 

龍哉(りゅうや)、来てくれたんだな」

 

病室のベッドに寝て俺を迎えてくれたのは、1人の男性だった。彼は俺の3つ年上の兄《橘 龍斗(たちばな りゅうと)》。(あん)ちゃんは昔から体が弱く、運動も満足にできなかったが、成績は学年で上位に位置するほど勉強が得意な方だった。

 

俺は、運動は得意だが勉強は並のレベルで、(あん)ちゃんとは持っているものが逆である。だけど、両親は才能で俺たちを差別することなく、愛情を注いで育ててくれている。

 

そんな家庭の中でも、家族の中で1番好きだったのは(あん)ちゃんだった。ちょっとしたことでケンカになることも何回もあったが、俺に勉強でわからないところは丁寧に教えてくれるなど優しいところもある俺にとって自慢の兄であった。

 

「あ、これが頼まれていた雑誌だから」

 

俺が買ってきたのはあるゲーム雑誌だ。

 

(あん)ちゃんは運動ができないこともあって、昔からインドア派のタイプで、かなりのゲーマーである。ちなみに好きなゲームは家庭用、オンライン問わない。

 

「悪いな、この雑誌は病院の売店では売ってなかったから助かったぜ。《ソードアート・オンライン》の特集は……1番最初の方か」

 

(あん)ちゃん、なんか《ソードアート・オンライン》っていうゲームの特集、毎回凄く楽しみにしているよな」

 

「何せ、ソードアート・オンライン……通称《SAO》は世界初のVRMMORPG。このゲームの凄いところはな、仮想世界で実際に自分自身がゲームのキャラクターになりきってゲームをプレイすることができるところなんだぜ。それから……」

 

また始まったか。(あん)ちゃんは大のゲーム好きのため、ゲームのことになると熱くなって長く話す。最近はSAOにはまっていて、そのことをよく聞かされている。

 

俺も昔から(あん)ちゃんからゲーム関連のことはよく聞いていて、その影響でオンラインゲームは1度もプレイしたことはないが、家庭用ゲームはよくプレイしていた。

 

「この茅場晶彦っていう人が、ナーヴギアの設計者でSAO開発ディレクターだ。この人、天才的ゲームデザイナーで量子物理学者として有名な人なんだよ」

 

「それは前も聞いたんだけど……」

 

茅場晶彦という人のこともSAOと並んでよく聞いている。今では俺もどういう人なのか大体分かったというほどだ。

 

まあ、茅場晶彦は(あん)ちゃんの憧れの人だから他の人に話したくなるのは仕方がないか。

 

「入院さえしてなければ、SAOのβテスターに応募してたんだけどなぁ。1000人限定だけど、他の人より早くSAOをプレイできたのに……」

 

「仕方ないだろ、(あん)ちゃんは入院中なんだから」

 

「まあ、そうだけど……」

 

凄く残念そうにする(あん)ちゃん。

 

「このゲームなら思いっきり体を動かして遊べるだろ。俺は、龍哉のように思いっきり体を動かして遊んでみたり剣道とかのスポーツは出来ないからな」

 

そうか、SAOは仮想世界で体を自由に動かして遊べる。それで、こんなにもSAOにこだわっているんだ。

 

「でも、このゲームって発売日は今年の10月じゃん。その時までには絶対によくなって退院できているって」

 

「だといいな」

 

「じゃあ、今(あん)ちゃんがやるべきことはただ1つ。10月までに病気を治すことに専念すること。わかった?」

 

「そうだな。その時には龍哉にもやらせてやるよ」

 

(あん)ちゃんの場合、夢中になって俺に貸すのを忘れそうな感じがするんだけど……」

 

「それはない!絶対に覚えている!俺の記憶力をなめるな!」

 

「一応期待しておくよ……」

 

他愛無い話だが、俺は(あん)ちゃんとこうやって会話するのが好きだった。

 

(あん)ちゃんは昔から何回か入院していたため、今回もしばらく入院したら良くなるだろうとそう信じていた。だけど、その期待は大きく裏切られることとなってしまった。

 

それから2ヶ月の間、(あん)ちゃんの容体はよくなるどころか悪くなる一方だった。

 

予想以上に病気が進行していたらしい。このことは俺にはあまり知らされてなかった。どうやら、父さんと母さんがこのことを教えると俺が余計に心配するからそうしたらしい。

 

6月から(あん)ちゃんは無菌室に移動させられることになった。俺は何もできず、病室の外から日に日に弱っていく(あん)ちゃんをただ黙って見ていることしかできなかった。そして、6月30日、(あん)ちゃんはこの世を去ってしまった。

 

父さんと母さんが悲しむ中、俺はただ茫然としていることしかできなかった。

 

(あん)ちゃんが苦しんでいるにも関わらず、俺は手を差し伸べて(あん)ちゃんの手を掴むことすらできなかった。

 

 

 

 

 

ここから俺の歯車は大きく狂いだした。

 

(あん)ちゃんが死んだことで父さんも母さんも悲しんでいるに違いない。だから俺は少しでも父さんや母さんの期待に応えられるよう、今まで以上に部活や勉強を頑張ろうと決心した。だけど、現実はそう甘くはなかった。

 

夏休み中のある日、無理な練習をしていたせいで怪我をしてしまった。そのせいで、1ヶ月は部活を休んだ方がいいと言われ、夏休み中にあった大会に出られなかった。秋の大会には間に合うと顧問の先生に言われたが、俺は無気力になって10歳の頃から頑張ってきた剣道に打ち込むことができなくなってしまった。部活もまだ怪我が治っていないと言って、休むようにもなった。

 

その間に勉強も今までで1番頑張ったが、期待に応えなければいけないというプレッシャーと剣道と同様に無理をし過ぎて、思ったより結果が出なかった。それでも、先生からは「前より成績が上がって頑張ったな」と言われたけど、成績優秀だった(あん)ちゃんと比較するとあまり嬉しくなかった。

 

そして、何もかもやる気を失い、心身ともに疲れ果てた俺だったが、父さんや母さんの前では平気でいることを演技して、2人に心配をかけないようにしていた。

 

 

 

 

 

ある日の夜、夜中に目を覚ましてしまった俺は水を飲もうとリビングに向かおうとしたが、そこには何故か明かりがついていた。そして、中からは父さんと母さんの話し声がする。

 

時間はとっくに深夜の1時を回っていて、普段の父さんと母さんは翌日仕事がある場合、

遅くても12時には寝ているはずだった。気づかれないよう、ドア越しから2人の話を聞いていた。

 

「お父さん。実は今日学校の先生から最近、龍哉の様子がおかしいって電話がかかってきたの」

 

「そうなのか?」

 

「ええ。先生がクラスや部活で仲がいい友達とかにも聞いてみたけど、いじめとかじゃなくて、何か思いつめているみたいで……。授業にもあまり気が入っていなくて、部活も休みがちだって」

 

「でも、龍哉は剣道の練習も勉強も頑張っていただろ。この前のテストも前と比べると上がっていたじゃないか……」

 

「やっぱり、龍斗が死んだ事が龍哉を追い詰めてしまったのかもしれない。あの子、私たちに少しでも安心してもらえるようにと剣道も勉強も頑張ろうとして……」

 

「確かに前に龍哉が朝早くから庭で素振りしているのを見たことがあるが、凄く辛そうな顔をしていた。勉強ももだ……」

 

 

「龍哉は龍斗が死んでからずっと1人で頑張ってきたのね……。私たちは龍哉に何かできることをしてあげないと……」

 

「そうだな……。そう言えば前に龍哉が龍斗とナーヴギアやVRMMORPG《ソードアート・オンライン》っていうゲームのことを楽しそうに話していたのを聞いたんだ。龍哉にそれらをプレゼントしてあげるのはどうだ?」

 

「それはいいわね。なら私は龍哉の好きなものでも作ろうからしら」

 

この話を聞いて、俺は2人に気付かれないように自分の部屋へと戻った。そして、声を必死に抑えてしばらく泣いた。

 

父さんと母さんに気付かれないようにしてきたが、このことはとっくの昔に気付かれていた。そのことが悲しくて、この日の夜は涙が枯れるまで泣き続けた。

 

 

 

 

 

そして、俺はナーヴギアとSAOのソフトを手に入れた。最初こそはあまり乗り気ではなかったものの、(あん)ちゃんが仮想世界のことを楽しそうに話していたのを思い出し、仮想世界とはどういうものなのか気になり始めた。

 

――(あん)ちゃんが憧れていた世界を自分の眼で見てみたい、知りたい。

 

そんな気持ちで始めたVRMMORPG《ソードアート・オンライン》。

 

初めて目にした仮想世界。ここは本当に仮想世界なのかいうくらいのクオリティーを持つものだった。俺も開始直後に仮想世界に魅了され、すっかり夢中になった。

 

そして、俺はファーランさんとミラに出会い、茅場晶彦によってデスゲームが開始されたことを宣言された。

 

ゲームで死ぬと現実でも死ぬ世界。不安もあったけど、この2人がいたから大丈夫だった。

 

兄のように俺たちをリードしてまとめてくれたファーランさん、お転婆なせいで気苦労することもあったがいつも周りの空気を明るくしてくれたミラ。

 

2人といるときは(あん)ちゃんが死んだこともあまり思い出すこともなく、気が楽になった。いつしか、この2人がいれば、現実で起こった辛いことを乗り越えられるのではないかと思うようにもなった。

 

でも、そう思っていた矢先、ファーランさんとミラは死んだ。

 

このことがきっかけで、心の支えとなっていたものを失い、現実で起こった辛いことを思い出してしまった。俺はこの元凶となった赤い目の巨人が凄く憎くなり、奴にこのどうしたら抑えられるかわからない怒りをぶつけるように、攻撃しまくって倒した。

 

奴を倒したのはいいが、この気持ちは治まることはなく、現在に至る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

聖竜連合のプレイヤーと戦闘になるかと思ったが、そうはならなかった。聖竜連合のプレイヤーの1人にメッセージが届き、それを見ると他のメンバーに「作戦は中止だ」と言い、この場から撤退した。

 

俺はチャンスだと思い、森の奥へと足を踏み入れる。

 

このときはカーソルがグリーンからオレンジにならずに済んだが、他にも蘇生アイテムを狙っている奴はいるに違いない。今の俺はカーソルがオレンジになることも覚悟していた。

 

さっきまで深々と雪が降っていただけだったが、天候は徐々に悪くなっていき吹き荒れて吹雪へとなった。その中を俺は立ち止ることなく、足を進める。

 

雪や風が肌に突き刺さるほど寒い。でも、そんなことは気にしなかった。

 

「あともう少しで……っ!?」

 

あと1,2分もしない内に目的地のモミの木があるところに着こうとしたときだった。俺の行く手の方から1人のプレイヤーがやってくる姿が見えた。

 

最初こそは吹雪のせいで姿がはっきりと見えなかったが、徐々にその姿が明らかとなっていく。

 

そのプレイヤーは、背中に片手剣を背負い、黒いロングコートなどで黒一色の装備をした少年。第1層フロアボス戦の後に他のベータテスターたちを守るために、わざとビーターと名乗って、嫌われ役を引き受けたキリトさんだった。




前回の出来事から闇落ちし、危険な思想も抱くようにもなってしまったリュウ君。

全ての始まりとなったリュウ君のお兄さんの死。

そして、SAOで心の支えとなっていたファーランさんとミラと出会ったが、2人が死に、更に追い打ちをかけることに……。

リュウ君はこれからどう復活するのか……。

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