ソードアート・オンライン Dragon Fang《リメイク版》   作:グレイブブレイド

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キリト「俺とリュウと別れ、《銃士X》を探すカイトとシノン。《銃士X》を見つけだすが、《銃士X》は死銃(デス・ガン)でないことが判明。そんな中、シノンに本物の死銃(デス・ガン)の魔の手が迫るも、カイトや俺たちが駆け付け、事なきを得た」

リュウ「何とか逃げ切った俺たちは砂漠エリアにある洞窟に身を潜めていた。そんな中、俺とキリさんが見張りに行っている間に、シノンさんは自分が抱える闇をカイトさんにぶつけた。しかし、カイトさんはシノンさんを拒絶することはなく、彼女は涙を流すのだった」

キリト「前回、俺全然活躍できなかったな……」

リュウ「まあ、前回はカイトさんが活躍してましたからね」

キリト「お前だってバイクアクションを披露してて活躍してたじゃないか!俺、本家の主人公なのに……。どうせ俺なんか……」

リュウ「キリさんが矢車さんみたいになってしまったので、この辺りでGGO編第14話に行きたいと思います。どうぞ」


第14話 解明

キリさんと共に洞窟の入り口付近で見張りをしている最中、後ろの方からカイトさんとシノンさんが揉めている声が聞こえてきた。何かあったのかと思った俺たちはこっそりと様子を見に行ったところ、自分たちが介入できる様子ではなかったため、入り口に戻って再び見張りをすることにした。

 

心配しながら暫く見張りを続けている中、シノンさんが話があると俺たちを呼びにきた。

 

俺たちは何なのだろう?と思いながら洞窟の中へと進み、洞窟の岩壁に背中を預けて座っているカイトさんの近くに腰を下ろす。その後にシノンさんが腰を下ろし、ゆっくりと口を開いた。

 

「私ね……人を、殺したの……。5年前、私が11歳の時に東北の小さな街で起きた郵便局の強盗事件で……。 報道では、犯人が局員の一人を拳銃で撃って、犯人は銃の暴発でなってたんだけど、実際はそうじゃないの。その場に居た私が、強盗の拳銃を奪って、撃ち殺した……」

 

5年前……11歳っていうことは、シノンさんはキリさんとカイトさんより1つ年下……つまり俺と同い年じゃないか。

 

あまりにも衝撃的な内容に俺は言葉を失ってしまう。それでもシノンさんの話は続いた。

 

「私、それからずっと銃を見ると吐いたり倒れたりしちゃうんだ。銃を見ると……目の前に、殺した時のあの男の顔が浮かんできて……怖いの。 すごく、怖い。でも、この世界では大丈夫だった。だから思ったんだ。この世界で一番強くなれたら、きっと現実の私も強くなれる。あの記憶を忘れることができるって……。なのに、さっき死銃に襲われた時、すっごく怖くて、いつの間にか《シノン》じゃなくて、現実の私に戻っていた……。 死ぬのは怖いよ。でも、でもね、それと同じくらい怯えたまま生きるのも辛いの。死銃(デス・ガン)と戦わないで逃げちゃったら、私は前より弱くなっちゃう。 だから……だから……」

 

シノンさんが話し終えるとカイトさんが呟いた。

 

「俺も人を殺したことがある……」

 

「それを言ったら俺もだ……」

 

カイトさんに続くようにキリさんも呟く。

 

シノンさんは驚いて2人の方を見る。そしてカイトさんの口が再び開く。

 

「言っただろ。俺たちは死銃(デス・ガン)たちと他のゲームで本気で殺し合ったことがあるって。そのゲーム名は《ソードアート・オンライン》。お前も聞いたことあるだろ?」

 

「ええ。もしかして……とは思っていたけど、やっぱりそうだったのね……」

 

《ソードアート・オンライン》というゲーム名は、多くの人が知っていると答えるだろう。2022年から2024年にかけて、一万人もの人の意識をゲーム内に閉じ込め、最終的に4千人近くの人が亡くなった悪魔のゲームを。

 

死銃(デス・ガン)たちは《ラフィン・コフィン》という殺人ギルドに所属していたプレイヤーでした。ラフィン・コフィン……ラフコフの奴らは、金やアイテムを奪うだけじゃなくて、様々な方法で大勢のプレイヤーを殺したんです。その中には俺の大切な仲間も……」

 

俺の脳裏にあの記憶が蘇る。 ファーランさんとミラが、赤い目の巨人に食われそうになった俺を助けようとして代わりに食われて死んだ時。そして、アビスが仕組んだモンスターPKによって2人が死んだと知った時の記憶が。

 

「俺のギルドメンバーも奴らに殺された。罠で俺達のギルドを二つに分断して、ギルドの中でリーダーの俺と副リーダーから残りのメンバーを引き離した隙に殺したんだ…ある時、奴らを牢獄に送るために大規模な討伐隊が結成されて俺たちもメンバーに加わった。討伐隊は殺すんじゃなく無力化させようとしていたが、当時の俺は仲間を殺された復讐心を抱いていて、あんな奴ら殺してしまっても構わないと思っていた。だから俺たちの情報が洩れて奇襲された時には、躊躇うこともなくラフコフのプレイヤーを2人殺した。だが、一緒に参加した幼馴染が自らの手で人の命を奪ったことを後悔しているのを見て、やっと自分が犯した罪に気が付くことができた……」

 

「俺もカイトと同じだ。剣を止めようと思えば止めれたはずなのに、恐怖と怒りに任せて剣を振って最終的に2人のラフコフのプレイヤーを殺した。でも、俺は自分がしたこと無理やり忘れようとして、殺した奴らのことも思い出そうとしなかった。昨日、アイツ……ソニーと会うまでは……」

 

「俺は誰も殺してませんが、怒りで我を失って戦意喪失したプレイヤーを殺しそうになりました。あの時、キリさんに止められてなかったら…間違いなく殺していたと思います…」

 

俺たちの話はここで終了し、しばし沈黙する。この状態が続く中でシノンさんが掠れ声で語りかけた。

 

「ねえ、あなた達はその記憶をどうやって乗り越えたの?」

 

「いいえ、まだ乗り越えてませんよ。俺はアイツに勝ててないですし、今でもアイツを見るたびに怒りと恐怖がこみ上げてきますからね……」

 

「俺は昨夜、俺の剣で死んだ奴らのことを繰り返し夢で見て殆ど眠れなかった。アバターが消える瞬間の奴らの顔、声、言葉、俺はきっともう2度と忘れられないだろうな……」

 

「だが、それは必要な事だ。自分の手でアイツらを殺したことの意味、その重さを受け止め考え続ける。そうする事が俺たちに出来る最低限の償いだと今は思う。過去や記憶は消すことは出来ない。だから、このことを受け入れて戦い続けるしかない……」

 

俺、キリさん、カイトさんの順に言う。これを聞いてシノンさんは黙り込んでしまう。

 

「死銃は一体どうやって、現実世界のプレイヤーを殺しているのかしら…」

 

心を落ち着かせたシノンさんはそう呟いた。俺たちは死銃(デス・ガン)たちにどう対抗するか話し合うことにした。

 

死銃(デス・ガン)たちのSAO時代の名前はわかったから、菊岡さんにこのことを伝えれば奴らの本名と住所を突き止められるかもしれないが、大会中はログアウトできないからすぐに伝えるのは不可能だ。

 

――今は俺たちがこれ以上被害者を増やさないように奴らを何とかするしかないってことか。

 

こんなことを考えているとカイトさんが話しかけてきた。

 

「キリト、リュウ。死銃(デス・ガン)に撃たれた《ゼクシード》と《薄塩たらこ》と《ガイ》の3人の死因は何だ?アミュスフィアはナーヴギアみたい脳を破壊することはできないはずだが」

 

「その通り、脳損傷ではないですよ。3人とも急性心不全です」

 

「だけど、殺人の方法はまだ分からないんだよ。仮想世界で撃ったプレイヤーを現実世界でも本当に殺害できる手段なんて……」

 

これだけはどうしてもわからなかった。呪いや超能力で殺したなど非科学的なことも疑ってしまったが、そんなことは絶対にありえない。

 

「なあ、1つ気になったことだが、本当にゲーム内でプレイヤーを撃つと現実世界でもそのプレイヤーを殺すことができるならどうしてわざわざ拳銃で撃つ必要がある? サイレントアサシンがあるなら、そっちを使った方がすぐに済むはずだ」

 

シノンさんも何か気が付いてカイトさんに続くように話始める。

 

「そういえば、ペイルライダーを殺した時も妙だったわ。あの時は近くに倒れていたダインは無視した。ダインのアバターは残ってたし、まだログアウトもしていなかった。ゲームの枠を超えた力があるなら、HPの有無なんて関係なさそうじゃない?」

 

となると、死銃(デス・ガン)の殺害方法にはトリックがあって、ターゲットとなるプレイヤーには何か共通点があるっていうのか。

 

「あの、カイトさん、シノンさん。殺された4人とシノンさんで共通点とかって何かありませんか?使う武器とかどんなことでもいいので、思い当たることがあったら教えて下さい」

 

「装備は全員バラバラで、共通点となると強引にくくることになるけど、全員《AGI特化型ビルドじゃない》ってことになるかな。でも、STRかVITに偏っていたからちょっと無理はあるかな……。あ、そう言えば、殺された4人の中にいた《薄塩たらこ》とは前の大会の商品で何を貰うかで少し話したことがあるわ」

 

「大会の順位に応じて貰える賞品を選べるやつか。商品は銃、防具、街で売られてない髪染め、服といった外見が目立つだけで高性能じゃないゲーム内のアイテム、あとは銃のモデルガンもあったな。確か現実の商品の場合、国際郵便で送られて来るんだよな。まあ、そのためにはBoB予選にエントリーした時に現実の住所氏名を打ち込まないといけないが……」

 

「ええ。私は前の大会ではあまりいい順位じゃなかったからモデルガンにしたわ。確かダインがゲーム内でのアイテム、 薄塩たらこは私と同じくモデルガンにしたみたいよ。ゼクシードとガイはガチガチの効率主義だって聞いたから、外見だけのオシャレアイテムよりモデルガンを選んだと思うわ」

 

一通り2人から話を聞くとキリさんが話しかけてきた。

 

「リュウ、確かゼクシードと薄塩たらことガイの3人は、1人暮らしで住んでいるところは古いアパートだったよな?」

 

「そうでしたよ」

 

そう答えると、キリさんはぶつぶつと何か言いながら考え込む。

 

「繋がった!脳細胞がトップギアだぜ!」

 

いきなりどこかの警視庁特状課に所属する刑事みたいなことを口にするキリさん。

 

これには俺は驚き、カイトさんとシノンさんは「コイツ考えすぎて頭がおかしくなってしまったのか」というような顔をしてキリさんを見る。

 

「俺たちはとんでもない誤解をしてたんだよ」

 

「誤解って何ですか?」

 

「俺たちは死銃(デス・ガン)の仲間はゲームの中にしかいないと思っていた。だけど、本当は現実世界にも仲間がいるんだよ!死銃(デス・ガン)がゲーム内でターゲットを撃って、同時にターゲットの部屋に侵入した共犯者が無抵抗で横たわるプレイヤーを殺すっていう方法でな」

 

確かにキリさんの推測通り、この方法なら納得がいく。

 

ラフコフの生き残りは今GGOにダイブしている3人以外にもいる。それまでの犯行も死銃(デス・ガン)の奴らの内どちらかが、ゲームにログインしないで現実世界で犯行をすることだってできる。

 

カイトさんも俺と同じく納得した顔をしていたが、シノンさんは納得がいかない様子だった。

 

「なら、どうやってプレイヤーのリアル情報を手に入れるの?何処の誰かもわからないのに」

 

カイトさんはシノンさんに説明する。

 

「総督府で大会にエントリーするときに自分のリアル情報を任意で打ち込むだろ。その時に、双眼鏡やスコープを使えば離れていても見ることはできるはずだ。見つかればマナー違反で吊し上げされるが、あのメタマテリアル光歪曲迷彩(オプチカル・カモ)を使えば、他のプレイヤーに気づかれることはないだろ」

 

「仮に現実世界の住所がわかったとしても忍び込むのに鍵はどうするの?家の人とかは?」

 

「前に殺された3人は家が古いアパートだったのなら、ドアの電子錠もセキュリティの甘い初期型だったはずだ。1人暮らしだから侵入しても気付かれる心配はない。そういった解除装置は裏で高額取引されているって俺の幼馴染から聞いたことがあるからな」

 

「じゃあ、死因は?心不全って言ったけど、警察とかお医者さんとかにもわからない手段で心臓を止めることなんて出来るの?」

 

「多分何かの薬品とかだろう。殺された3人は発見が遅れて身体の腐敗が進んでいたんだよ。だから注射の痕とかは発見できなかった」

 

「それに、ずっと飲まず食わずの状態でログインしっぱなしで、プレイヤーが心臓発作とかで亡くなる事件は少なくないんです。部屋も荒らされた気配はなく、金品も盗られていなかったから、自然死として処理されたんでしょう。念のために脳も調べたみたいですけど、薬品検査はしたって聞いてないですからね……」

 

これで奴らの殺害方法がある程度解けた。だが、1つ最悪な事態が起こっているかもしれないということも考えられた。

 

「ねえ、あの時……死銃(デス・ガン)が私を狙ってきたってことはもしかして……」

 

そのことに俺たちはハッキリと答えることができなかった。

 

死銃(デス・ガン)がシノンさんを撃ってきたということはすでに現実世界で準備が完了しているということに間違いない。シノンさんはそれに気づいてしまったようだ。

 

「嫌……いや!いやよ……そんなの!」

 

シノンさんは呼吸が出来なくなるくらい、恐怖に包まれている。マズイ、このままだと自動ログアウトしてしまう。

 

「シノン落ち着け!死銃(デス・ガン)の拳銃で撃たれるまで侵入者はお前に手は出せない!それが奴らが自身で定めた制約だ!だが今自動ログアウトして共犯者の顔を見てしまうと返って危険だ!だから落ち着け!ゆっくり気を落ち着かせるんだ!」

 

「ど、どうして……どうして……私、殺されなきゃいけないの……?アイツに何か恨まれることをしたから……?強盗を撃ち殺したから……?」

 

シノンさんは子供のようにカイトさんにすがりつき、身体を震わせながら涙声で訴える。すると、カイトさんはそっとシノンさんを優しく抱きしめた。

 

「理由なんておそらくない。アイツらは自分の快楽のために人の命を簡単に奪う。俺の仲間もそうやって殺された。だから、お前を絶対に殺させない!」

 

「カイト……」

 

 

 

カイトさんの言葉を聞いたシノンさんは、少しずつだが落ち着きを取り戻していった。

 

だけど、俺とキリさんは気まずくなって黙り込んでしまう。

 

今のカイトさんとシノンさんを見ていると、リーファ/スグが俺に、俺がリーファ/スグに甘えているときのことを思い出してしまう。もしかして、シノンさんはカイトさんのことが……。

 

でも、カイトさん本人はシノンさんの想いに気付いてないだろう。ALOでも自分が女性プレイヤーにモテていることに気付いてないくらいだったからな。まあ、こればかりは本人たちの問題だから部外者の俺やキリさんが口出しするわけにはいかないよな。

 

「カイトさん。俺とキリさんはまたちょっと外の様子を見てくるので、シノンさんと一緒にいてあげて下さい。キリさん、いきますよ」

 

「あ、ああ……」

 

キリさんを連れて洞窟の入り口付近に行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

リュウがキリトを連れて行き、今はここには俺とシノンしかいない。シノンは未だに俺に抱きついたままだ。俺はシノンを落ち着かせようと彼女の頭を優しく撫でていた。

 

「落ち着いたか?」

 

「うん、ありがとう。だけど、もう少しこのままでいていい?」

 

「ああ」

 

今俺がシノンに出来るのはこれくらいしかないからな。だけど、シノンはさっき好きな奴がいると言っていたのを思い出す。

 

「そういえば俺に抱きついたりなんかしていいのか…?お前には好きな奴がいるんだろ?」

 

「…いいのよ、これで……」

 

気のせいかシノンの頬が少し赤い感じがした。何故なんだと考えていると、上空に浮かぶ見覚えのある奇妙な水色の同心円を見つける。実体ではなく、ゲーム的な単色発光オブジェクト。

 

「普段は戦闘中のプレイヤーしか追わないんだけど、残り人数が少なくなってきたからこんなところまで来たのね」

 

「そうみたいだな……」

 

特に慌てることもなく冷静でいる俺とシノン。

 

だが、ライブ中継カメラがここまでやって来たということは、シノンが俺に抱きついたり、俺がシノンの頭を撫でているシーンが映されてしまっただろう。

 

GGOの男性プレイヤーたちは、間違いなく俺のことを敵意をむき出しにして見ているだろう。それに、ザック/響がALOで皆と大会のライブ中継を見るって言っていたな。大会の後でザックとリズからからかわれて、クラインからは裏切り者とか言われる光景を思い浮かべてしまう。事件を無事に解決できても、この後待ち受けていることを考えていたら頭が痛くなってきたな…。

 

「どうしたの?…もしかして、この映像を見られると困る人でもいるの?」

 

俺が頭を悩ませていると、シノンがさっきとはどこか違う感じの不安そうな目をしながら聞いてきた。

 

「そうだな。見られたら困るというより見られたら鬱陶しくてウザいだろうなという奴なら何人かいる」

 

「ふふ、何よそれ…」

 

俺の答えにシノンが笑った。少しはリラックスして落ち着いてきたみたいだな。とりあえず今は死銃たちを倒すことに専念しよう。

 

「カイト、どうすればいいのか、教えて・・・」

 

落ち着いたシノンは、いつもの声でそう尋ねた。

 

「奴らを倒す。それしかない・・・デス・ガンさえ倒せば、奴らの殺しのルールは崩れる・・・侵入者も現実世界のお前には何もできないはずだ」

 

「でも、黒星抜きでも、あのボロマントは強いわ・・・奴は私のヘカートの弾を避けたのよ?」

 

・・・確かに、いくら予測線が見えていたとはいえ、対物ライフルの狙撃を避けたほどの奴の実力は確かだ。さらに、アビスとソニーもいる。・・・俺とキリトとリュウ、誰か一人でも負ければ、シノンの命はないだろう。

 

「それに多分、私もこのままここに隠れているわけにはいられない・・・そろそろ、私たちが砂漠の洞窟に隠れていることに、他のプレイヤーも気付いてる」

 

「・・・いつ奇襲を受けても、おかしくないってことか」

 

シノンの言葉に、外を見ると、もう既に日が沈み、戦場は夜になっていた。見張りをしていたキリトとリュウを呼び戻し、これからの事について話し合いを進める。 

 

「・・・どうせ、ここまでチームを組んだんだもの。・・・4人で奴らを倒そう」

 

「・・・ああ、だがもしお前があの拳銃で撃たれそうになったら・・・」

 

「あんなの・・・所詮、旧式のシングルアクションだわ・・・仮に、撃たれそうになっても、あなた達が楽々叩き切ったり、弾いたりしてくれるでしょ?」

 

「・・・・・そうだな。そこまで信用してもらえてるのなら、やらせるわけにはいかないよな?キリト、リュウ?」

 

「ああ・・・決して、君を撃たせたりはしない・・・」

 

「絶対にシノンさんは殺させません!」

 

シノンの強気な言葉に、俺たちも思わず笑みがこぼれた。

 

「でも、それを実行するためには・・・シノンは、なおさらデス・ガンの前に姿を現さない方がいい」

 

「そんな・・・!?」

 

「シノン・・・お前はスナイパーなんだ。遠距離からの狙撃が真骨頂だろう?」

 

「・・・そりゃ、そうだけど」

 

「だから、作戦として、こういうのはどうだ?次のスキャンで、俺だけがわざと自分だけをマップに表示させる」

 

「・・・なるほどな。デス・ガンを誘き出すわけだな」

 

「ああ、奴はまず、遠くに身を潜めて、俺を狙撃しようとしてくるはずだ」「その射撃から、場所を割り出し、シノンさんに狙撃してもらうわけですね」

 

「そうだ・・・その間、キリトとリュウには・・・」

 

「アビスとソニーの相手だろう?・・・任せとけ!」

 

この作戦の懸念材料は、デス・ガンたちにより、俺が挟撃・・・あるいはシノンが襲われてしまうことだ。俺があの赤目のザザに集中できるように、リュウとキリトにはアビスとソニーを任せる。

 

2人の報告によると、7回目のサテライト・スキャンが行われ、今生き残っているのは俺たち4人とザザたちの3人、前回のBoBの準優勝者の《闇風》の8人だということが判明。生き残っているプレイヤーの中で映っていなかったのは、俺とシノンを除くと《スティーブン》だけ。サテライト・スキャンが行われた時には全大会でベスト5に入ったスカルもいたが、アビス/エイビスに倒されたらしい。幸いにもペイルライダーみたいに回線接続が切れてないから、無事で一安心した。

 

だが、俺たちがここにいる間に、この大会で2人目の死銃(デス・ガン)による犠牲者が出てしまったという。このことから現実世界での共犯者は2人いるということが考えられた。現実世界での共犯者2人は恐らく、幹部プレイヤーの1人《ジョニー・ブラック》、リーダーの《PoH》だろう。

 

ただ、死銃(デス・ガン)のGGOでの名前がスティーブンなのはわかったが、どういう意味で付けたのかはまだわからなかった。ザザとも死銃(デス・ガン)とも関連付ける要素が1つも見当たらない。

 

このことは後にしておき、今は死銃(デス・ガン)たちや闇風をどうするか考えることにした。

 

「問題なのは前回の準優勝者だった闇風ね」

 

「《ランガンの鬼》と呼ばれている実質GGO日本サーバー最強のプレイヤーと言われている奴か。間違いなく、キリトとリュウを狙ってこっちに来るはずだ」

 

前回の優勝者のゼクシードはレア銃やレア防具の能力で闇風に勝っていた。だが、闇風の方がプレイヤーとしての実力では奴を上回っていると言っても過言じゃない。

 

3人と話し合い、作戦を立てた。

 

「作戦を整理するぞ。俺が闇風を食い止め、その隙にシノンが闇風を狙撃、そして死銃(デス・ガン)にも狙撃する。その間にリュウとキリトはアビスとソニーの相手をしてもらうことになるが、いいか?」

 

「はい。アビスは俺が決着をつけないといけない相手でしたからちょうどよかったです」

 

「俺もそんなところだ。こっちは俺たちに任せてくれ」

 

リュウとキリトはそう言い残して、それぞれ《ビートチェイサー2000》と《トライチェイサー2000》に乗る。だが、キリトが乗った瞬間、何かに気が付き声を上げた。

 

「あれ?どうして右側のハンドルが無くなっているんだ?」

 

よく見てみると トライチェイサーの右側のハンドルが無くなっていた。俺はどうして無くなっているのか分かっていたため、キリトに説明しようとしたところ、俺より先にリュウが説明し始める。

 

「ビートチェイサーとトライチェイサーの右側のハンドル部分は、警棒にもなる起動キーになっているんです。あのままにしておくと他のプレイヤーに持っていかれるかもしれなかったから、俺が抜いておいたんですよ」

 

リュウはそう言って起動キーとなる右側のハンドルをキリトに投げ渡す。キリトは危うい手つきで受け取ってトライチェイサーにセットする。すると、バイクにエンジンがかかり、2つの青いヘッドライトが光る。

 

「おおっ!動いた!リュウ、よくこんなこと知っていたな」

 

「前もって調べておいたんです。キリさんもちゃんと下調べくらいはして下さいよ。いつも言っているじゃないですか」

 

リュウはキリトに文句を言いながらビートチェイサーにエンジンをかけて、2つのヘッドライトを照らし、俺の方を見る。

 

「カイトさん、あまり無茶はしないで下さい。俺とキリさんは安全な場所からログインしてますけど、カイトさんは違うんですから」

 

「フッ、知らないのか?俺は死なない」

 

俺の答えにリュウから笑みが零れ、それを見ていたキリトとシノンも笑みを浮かべる。そして最後に4人で拳をぶつける。

 

バイクを走らせてこの場から離れていくリュウとキリトを見送った後、俺とシノンも各自の持ち場へと走り出した。




ここ最近、コロナウイルスが流行ってて大変ですよね。この前、YouTubeで公式サイトが公開していたフォーゼのプロム回で流れた仮面ライダーガールズの「咲いて」が、応援ソングのようにも思えました。

今回の話を執筆している時、何度も「カイトさん、シノンの想いに気づいてあげて!」と思ってしまいました(笑)。でも、カイトさんはモテる反面、暗殺教室の烏丸先生に負けないくらい超鈍感だという設定もあるんですよね(笑)。2人の恋の行方はどうなるのか?

旧版の時もでしたが、推理シーンがメインの回は書くのが結構難しいですね。セリフが思ったよりなってしまったなというところがあり、ちゃんと書けているかなという不安があります。

次回は決戦と行きたいところですが、一旦リーファたちの話とさせて頂きます。次回もよろしくお願いします。

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