ソードアート・オンライン Dragon Fang《リメイク版》   作:グレイブブレイド

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前回の投稿から2週間以上も経ってしまいましたね。長らくお待たせしました。

今回はビルド風のあらすじ紹介はお休みさせていただきます。楽しみにしていた読者の皆さん、申し訳ございません。

それでは今回の話になります。


第10話 本戦開幕

俺が降り立ったのは、GGO世界の首都《SBCグロッケン》の北端、総督府タワーの近くだった。

 

総督府に付くと、昨日と同様に壁際に設置されているコンビニにあるATMのような形をした機械へと向かい、エントリーを済ませる。それを終えて移動しようとした時、キリさんとカイトさんとシノンさんの3人が一緒にいるのを見かけ、3人の元に行って声をかけた。

 

「キリさん、カイトさん、シノンさん」

 

俺に気が付いてまず初めに話しかけてきたのはキリさんだった。

 

「お、リュウ。今日は頑張ろうぜ」

 

「ええ、もちろんですよ。カイトさんとシノンさんも今日はよろしくお願いします」

 

「ああ、よろしくな」

 

「こちらこそよろしく」

 

カイトさんとシノンさんは軽く微笑んで挨拶をしてくれた。すると、キリさんがシノンさんに何か話しかけてきた。

 

「あの~シノン姉さん。どうして俺の時と違ってリュウにはこんなに人当たりがいいんですか?」

 

「理由は言わなくてもわかっているでしょ」

 

キリさんにジト目を向けるシノンさん。どうやらキリさんも俺と同様にシノンさんに挨拶したようだが、俺の時とは異なって冷たい態度を取られたようだ。それにしてもキリさんは本当に何をしてシノンさんにここまで嫌われているんだか。

 

大会開始までまだ3時間ほど時間があったため、解説や情報交換ためにタワーの地下に設けられていた広大な酒場ゾーンへとやってきた。

 

酒場ゾーンには多くのプレイヤーたちがいて、お祭り状態となっている。有名なプレイヤーはインタビューを受け、あるプレイヤーはギルドメンバーと談笑しているのが見られる。中には、誰が優勝するのかとか、コイツは何位に入るのかと賭け事の話をしているプレイヤーも見られる。

 

ここの奥まったブース席に移動している途中、俺たちに注目するプレイヤーたちもいた。

 

俺は昨日の予選大会で、ガンブレードの《イクサカリバー》とワイヤーアンカー付きのハンドガンの《ディエンドライバー》というGGO内であまり使用しない2つの武器を使って戦い抜いた。カイトさんは《無双セイバー》というガンブレードを使い、至近距離でライフル弾を切ると言った離れ業を披露した。

 

注目されても仕方がないだろう。だが、シノンさんとキリさんは違った。

 

「おい、あれキリトちゃんだろ?」

 

「フォトンソードで敵をメッタ斬りだってな」

 

「クールビューティなバーサーカーかぁ。いいねぇ」

 

「いやいや、やっぱシノンちゃんでしょ」

 

「オレもシノっちに撃たれたい派」

 

「オレ、斬られたい派」

 

「そんなもんALOにでも行けよ」

 

GGOで数少ない女性プレイヤーだということもあって、男性プレイヤーからの人気があるようだ。まあ、その内の1人は男だけどな。この人たちがキリさんの本当の性別を知ったらどう思うのだろうか。

 

歩いているとキリさんが立ち話をしていた2人組の男性プレイヤーの内の1人にぶつかってしまう。

 

「あ、ごめん」

 

「「ひっ!す、すいません!キリトさん!」」

 

ぶつかった2人はキリさんに怯えて道を譲る。キリさんはアイドルみたいに見られているけど、銃がメインのゲームで光剣を使い敵を斬って倒すほどだから、それにビビッてしまうプレイヤーがいてもおかしくないだろう。

 

キリさんは無言だったが、数歩歩いたところで足を止めた。

 

「キミ達……」

 

キリさんはぶつかった2人の方を振り向く。威嚇でもするのかと思ったが、俺の予想に反して、悪ふざけしてアイドルのようなポージングをして笑顔でこう言った。

 

「応援してね♪」

 

『うおおおおっ!!』

 

黒髪ロングの美少女姿だということもあって、これを見た男性プレイヤーたちのハートを射抜いた。

 

「キ、キリトちゃん!頑張れよ!」

 

「オレ、ベスト5入賞に全財産賭けます!」

 

男性プレイヤーから声援をもらい、完全にネカマプレイを楽しんでいるキリさん。

 

皆にチヤホヤされているあのプレイヤーの本当の性別を知っている俺とカイトさんとシノンさんは、冷めた目で彼を見ていた。

 

俺たちの元に戻って来たキリさんは、俺たちを見て冷や汗をかく。

 

「キリさん……」

 

「お前…その姿で過ごしている内に本当にネカマに目覚めてしまったんじゃないのか?」

 

「こ、これは男連中の反応が面白くて、つい……」

 

カイトさんが言ったことに冷や汗をかきながらキリさんは誤解を解こうとする。すると、シノンさんも話に入ってきた。

 

「気を付けた方がいいわよ。つい、何て言っているけど、あの言葉づかいや仕草はかなり堂に入っていたから。もしかすると、リアルでも女装してるかもね」

 

「い、いくらキリさんでもそこまではやってないかと……」

 

「リアルで姉か妹がいたりすると怪しいわね。いない間にその服を拝借して……というのはよくある話よ」

 

キリさんには妹……スグがいる。ということは……。シノンさんが言ったことを真に受けてしまい、キリさんを疑ってしまう。

 

「キリさん、まさか本当に……」

 

俺にまで疑われて、冷や汗をかくキリさん。

 

「りゅ、リュウ。これは単なるイタズラ心でやっただけでそれ以外の意図は一切ないから!」

 

「本当に信じていいんですか?俺とあなたの妹に誓って?」

 

「ホントホント!信じて!頼む! カイトとシノンが疑っている以上、お前しかいないんだよ!俺を見捨てないでくれ!!第一もしそんなことしてスグにバレてみろ!絶対に刻まれる!」

 

誤解を解こうと必死になり、弁解するだけでなく俺に抱きついてきた。

 

「わかりましたってっ!だから俺に泣きつくのは止めてくれませんかっ!」

 

泣き出してしまったキリさんは俺から離れようとする気配はなく、俺のジャケットを強く掴んでいる。

 

他の人から見れば、これは皆のアイドルが男に泣きついている光景にしか見えない。そのため、先ほどから近くにいる男性プレイヤーからの視線が痛かった。

 

「なあ、キリトちゃんとイチャ付いているあのポニーテールは何なんだ?」

 

「よくも俺たちのキリトちゃんと……。あのポニーテールだけ爆発しろ!」

 

「大会で早く誰かアイツを撃ってくれよ」

 

またしても男性プレイヤーから、キリさんとカップルと誤解させてしまう。今すぐにもこの人は男だと言ってやりたいくらいだ。

 

「最っ悪だ……」

 

またしても何処かの天才物理学者みたいなことを口に出してしまう。GGOに来てからたった2日で既に何回もこんなことを言うことになるとは思いもしなかった。本当に早くリーファのいるALOに戻りたいと思った。

 

 

 

 

俺たちは奥まったブース席に座り、各自ドリンクメニューからドリンクを注文する。すると、金属製のテーブルの中央に穴が開き、奥から頼んだものが出現する。SAOやALOではウェイトレスのNPCが注文したものを持ってくるという仕組みだったので、このSF的な方法で来るのは新鮮味が感じられた。

 

ちなみに俺はコーラ、キリさんはジンジャエール、カイトさんとシノンさんはアイスコーヒーを頼んだ。

 

そしてカイトさんは、初めて本大会に参加する俺とキリさんのために、昨日の予選大会の時みたいに大会の説明をしてくれた。

 

本大会はバトルロイヤル制で、参加者40人による同一マップでの遭遇戦。

 

フィールドマップとなるのは、ISLラグナロクという孤島で直径10キロの円形の広さを持つ。フィールドマップは直径10キロの円形で、山あり森あり砂漠ありなどの複合ステージで、装備やステータスタイプでの一方的な有利不利はなしとなっている。

 

その中に参加者40人は、最低1キロは離れたところに配置されるため、《サテライト・スキャン端末》と言うものが参加者に自動配布される。それには、15分に1回、上空を監視衛星が通過し、マップ内の全プレイヤーの存在位置が送信される設定がある。しかも、マップに表示されている輝点(ブリッツ)に触れれば名前までも確認できる。

 

これなら死銃(デス・ガン)たちの名前がわかれば、すぐに奴らを発見することができるが、それと同時に俺たちが奴らに狙われる可能性も十分ある。

 

家で大会参加者の一覧を見てきたが、死銃というプレイヤーネームはなかった。恐らく死銃(デス・ガン)は二つ名で、プレイヤーネームは別のものなんだろう。

 

「ところでカイト、BoB初参加の中で知らない名前はいくつあったんだ?」

 

「BoBも3回目だから、ほとんどのプレイヤーは顔見知りだ。初めてなのはお前たち2人を除くと5人だ。《銃士X》と《ペイルライダー》。あとは《エイビス》、《ビーン》、それにこれは《スティーブン》か…?」

 

《銃士X》と《エイビス》が日本語表記、他の3人がアルファベット表記だ。

 

この中の誰かが死銃(デス・ガン)とその仲間……元ラフコフ所属のSAO生還者だろう。いや、もしかするとこの5人全員がそうだという可能性もある。生き残ったラフコフのプレイヤーは10人以上もいたからな。

 

俺たちが死銃(デス・ガン)を探していることを知らないシノンさんが、隣にいるカイトさんに話しかける。

 

「ねえ、カイト。あなたたちはさっきから何の話をしているのよ?私だけ話に付いていけてないんだけど……」

 

「悪いが詳しいことは言えない。これは俺たち3人の問題だからな」

 

自分だけ除け者にされて不機嫌そうにするシノンさんだったが、少しだけ威圧を出しているカイトさんを見て真剣な様子になる。

 

「もしかして、昨日の予選の途中から急にあなた達の様子がおかしくなったのと関係があるの?」

 

「まあな…」

 

カイトさんとシノンさんが話している中、キリさんも会話に加わった。

 

「昨日、俺は地下の待機ドームで昔同じVRMMOをやってた2人組の男に声をかけられたんだ」

 

「その2人と俺たちはちょっとした因縁があるんです。さっき話に出てきた5人の中に、奴らがいるはずなんですよ」

 

キリさんの言葉を繋ぐように、俺も会話に加わる。

 

「もしかして友達だった人なの?」

 

シノンさんの問いに、真っ先に俺が答える。

 

「いいえ、友達なんかじゃない…敵です。俺たちは奴らと本気で殺し合ったことがあるんです」

 

「殺し合った?それは、昔やってきたゲームの中でトラブって争いになったってこと?」

 

「いえ、本当の命を懸けた殺し合いです。 奴らは……奴らがいた集団は絶対に許されない事をした。和解することはできなくて、剣で決着をつけるしかなかったんですよ」

 

「でも、アイツらはこのGGOで再び許されない事をしようとしている。今思えば、俺とリュウがこの世界に来たのもそれを阻止するためだったんだと思う」

 

「そしてそれは俺にも関係することだから、俺も2人に協力することにしたんだ」

 

俺たちの話を聞いて、シノンさんは何かを察して小さく唇を開いた。

 

「あなたたちって、もしかして……()()()()()の中に……」

 

全て言い終える前に、カイトさんが「これ以上何も聞くな」と言わんばかりにシノンさんを見て、シノンさんはそれを見てすぐに話を止めた。

 

「ごめん。こればかりは聞いちゃいけないことだったよね……」

 

気まずくなってしまい、待機ドームに移動して装備の点検やウォーミング・アップをするということにした。

 

エレベーターに乗り、待機ドームがある階に向かっている途中、シノンさんが話しかけてきた。

 

「あなた達にも、あなた達の事情がある事を理解したわ。でも、カイト。私との約束はまた別の話よ。昨日の決勝戦の借りは必ず返すわ。だから、私以外の奴に撃たれたら許さないからね。リュウとキリトもよ」

 

「わかっている。お前と出会うまで必ず生き残る」

 

「戦うことになった時はよろしくお願いします」

 

「悪いが優勝は俺が貰うぞ」

 

俺たちがそう言うと、シノンさんは不敵な笑みを浮かべ、指で銃の形を作って俺たちに向ける。

 

待機ドームに来たところでシノンさんと一旦別れ、俺とキリさんとカイトさんは大会中のことについて話し合うことにした。

 

「開始場所はバラバラだが、最初のサテライト・スキャンで誰が何処にいるかわかる。居場所を確認して合流や候補者たちの追跡を行う。これでいいか?」

 

「はい」

「ああ」

 

カイトさんが言ったことに俺とキリさんは頷く。直後、女性の声が響きわたる。

 

『ガンオイルと硝煙の匂いが大好きなバトルジャンキーたち?準備はいい?VRMMOで最もハードなGGO最強プレイヤーが今夜決定!』

 

待機ドームの天井部に設けられている巨大モニターの方を見ると、実況の女性が熱が入った様子でマイクを握りしめながら司会をし、大会を盛り上げようとしていた。

 

同時に参加者たちは緊迫とした空気に包まれ、観戦者たちは一段と盛り上がる。

 

『MMOストリームは完全生中継で戦いの模様をお届けするよっ!』

 

その間にも開始時間が迫ってきて、残り10秒となった。

 

『さあ、カウントダウンいっくよ~!!』

 

カウントダウンも始まり、巨大モニターに表示された数字はどんどん小さくなっていく。そして残り時間0となった途端、実況の女性の宣言と共に第3回BoB本戦が開幕し、俺たちは試合フィールドへと転送された。

 

 

 

 

 

 

 

大会が始まって30分が経過した。

 

俺はなるべく戦闘を避けながら、キリさんとカイトさんの合流を目指しつつ、5人の候補者たちを探していた。

 

マップを開いて確認してみると、近くには獅子王リッチー、森林エリアにはダインとペイルライダー、そして山岳エリアにはシノンさんがいた。

 

「俺たちが探しているプレイヤーが1人いる。でも、シノンさんが近くにいるな…」

 

シノンさんは、1キロ離れている相手さえも撃つことができる狙撃の名手だと、カイトさんから聞いていた。ということは俺がいるのは完全にシノンさんのテリトリーだと言ってもいい。下手に離れようとしたところで狙撃される可能性は高いし、いつまでもここに立てこもっているわけにもいかない。それに探しているプレーヤーの1人のペイルライダーもシノンさんの近くにいる。

 

悩みに悩んだ結果、シノンさんに狙撃されるのを覚悟で彼女に接近することにした。

 

少しでも狙撃の命中率を下げようと、ディエンドライバーのアンカーフックを利用して飛び回りながらシノンさんに接近する。最中、いつシノンさんが撃ってくるのかヒヤヒヤしたが、特に俺を狙ってくる様子はなかった。そして、シノンさんから数メートル離れたところにある岩陰までへと辿り着くことができた。

 

シノンさんはダインとペイルライダーがいる方に銃口を向けて狙撃体制をとり、俺に気が付いている様子がなかった。だが……。

 

「コソコソしてないで出てきたらどうなのリュウ。私のヘカートⅡに撃たれる前に、大人しく出てきた方がいいわよ」

 

「やっぱりシノンさんにはバレてましたよね…」

 

俺は観念したかのように両手を軽く上げ、岩陰から出る。シノンさんは拳銃を手に取り、俺に銃口を向けてきた。

 

「いつでもあなたを狙撃するチャンスはあったけど、撃たれるのを覚悟で私に接近してくる度胸に免じて、とりあえず今だけは見逃してあげるわ」

 

「あ、ありがとうございます」

 

「でも、2回目はないと思いなさい」

 

「は、はい」

 

「いつまでもそこに立ってないで、こっち来たらどうなの?あなたのことだから、ペイルライダーの戦いを見たいんでしょ」

 

「じゃあ、お言葉に甘えて……」

 

「それともう1つ。これに便乗して私に不意打ちしようと考えない方がいいわよ。あなたが攻撃する前に私の銃が先に火を噴くからね」

 

「命が惜しいのでそんなことしませんよ」

 

氷の狙撃手とも言えるシノンさんの気迫に圧倒され、大人しく彼女の隣まで行き、双眼鏡を取り出してペイルライダーがいる森林エリアの方を見る。最中、シノンさんが俺に話しかけてきた。

 

「そういえばリュウってカイトと一緒にGGOとは別のゲームをやっているのよね?」

 

「はい。ALO……アルヴヘイムオンラインっていうゲームですけど、知ってますか?」

 

「ええ。今年の初め頃にニュースにもなっていたからね。それでALOでのカイトはどうなの?彼、あまりそういう話しなくて……」

 

カイトさん、シノンさんにALOをやっていることを話してないんだ。まあ、俺たちにもGGOをやっていることを話してないからな。SAOのことはともかく、ALOのことは話しても問題はないだろう。

 

「ALOのカイトさんもGGOのカイトさんとあまり変わりないと思いますよ。ALOでも滅茶苦茶強いですし、別アカウントですけど姿もGGOとあまり変わりないですからね」

 

クスリと笑うシノンさん。

 

「カイトの強さはALOでも健在みたいね」

 

「そうですね。俺、カイトさんとよくデュエルして戦っているんですけど、まだ一度も勝ち越せてないんですよ。あとキリさんにも」

 

ALOでは、いつも遊ぶ学生組のメンバー内でよくデュエルをして誰がどのくらい強いのかと競い合っている。

 

リーファとアスナさんとザックさんの3人には少し勝ち越せているが、キリさんとカイトさんにはまだ勝ち越せてない。キリさんは一度キャラデータをリセットしていることもあって、もう少しで五分五分のところまで達しているけど、カイトさんにはまだ遠く及ばない。

 

ちなみに、オトヤとシリカとリズさんの3人は、「敵うわけがない」と口を揃えて言ってきて、いつも俺たちのデュエルを観戦したりしている。

 

「ねえ、昨日から気になっていたけど、あなたキリトのことを『キリさん』なんて呼んでいるけど、随分とアイツのこと信頼しているのね。私にはそういう風な奴にはとても見えないけど……」

 

何度も思ったが、シノンさんは本当にキリさんのことを嫌っているんだな。まあ、あの人のことだからシノンさんに何かやりかしたんだろう。

 

「確かにキリさんを見ているとそう思いますよね。よく『この人、バカなのか』って思うようなことをやりかして、俺には散々迷惑かけてますし……」

 

これを聞いたシノンさんは「やっぱりね」と言いたそうな反応を見せる。

 

「まあ……普段はこんな感じですけど、キリさんはいざという時は頼りになる人なんです。今の俺があるのは、キリさんのおかげだと言ってもいいくらいですからね」

 

ふと2年前の冬のことを思い出す。あの頃の俺はファーランさんとミラを生き返らせようと、どんな手段を選ばないでいた。自分や他の誰かを犠牲にしてでも……。そんな俺を救ってくれたのがキリさんだった。この出来事があるためか、今でも彼には頭が上がらない。

 

最後の言葉にシノンさんは何か考え始め、唸り出す。

 

「あなたがアイツのことをそういう風に思っているなら、アイツに対する評価を見直してやってもいいかな」

 

「シノンさん……ありがとうございます」

 

これでシノンさんのキリさんに対する態度が少しでも柔らかくなったら良いなと思った。

 

「それにしても、カイトさんから知り合いを紹介すると言われた時にシノンさんを見て正直驚きましたよ。あのカイトさんの知り合いって言うから厳つい男性プレイヤーかなと思ったら、まさかシノンさんみたいな綺麗な女性プレイヤーだとは…」

 

「き、綺麗って…そんなこと… 。それより、カイトに女の子の知り合いがいた事がそんなに驚く事なの?」

 

「ええ、俺とカイトさんは知り合ってからだいぶ経つんですけど、正直カイトさんってあまり女っ気が無かったから…。というよりカイトさん本人もあまりそういうのに興味なさそうって感じでしたし、カイトさんが女の人と親しげに話してるのなんてALOで俺たちと一緒に遊んでるパーティー仲間の女の子達以外にはあまり見た事なかったですから」

 

「そうなんだ…ち、ちなみにさ…その…一緒に遊んでる仲間の女子って何人くらい?」

 

「女子は4人ですね。それに俺とキリさんとカイトさんとあと2人の男子プレーヤーの9人です。みんな同年代の学生だからリアルでもALOでもよく一緒に遊んでるんですよ。たまに社会人の男性プレイヤーも混ざりますけどね」

 

「へぇ…楽しそうね。」

 

「ええ、もしよければシノンさんも…」

 

「待って…戦闘が始まるみたい…話はまた後でね」

 

そう話している間にも、ダインは川にかかる錆びついた鉄橋を渡り終えたところで、地面に身を投げ出して射撃体勢に入る。そして森に通じる道の奥から1人のプレイヤーが姿を現す。

 

青白い迷彩柄のスーツに身を包み、白いフルフェイス型のヘルメットで顔を隠した痩せた長身のプレイヤーだ。右手にはショットガンらしいものを持っている。アイツがペイルライダーだろう。

 

ダインはアサルトライフルを構え、ペイルライダーを迎え撃とうとする。それに対し、ペイルライダーは右手にショットガンを持ち、鉄橋の真ん中をゆっくり歩いてダインに近づく。

 

ダインのアサルトライフルが火を噴いた途端、ペイルライダーは軽々とそれをかわす。そして、鉄橋の柱につかまり、向かい側にある鉄橋を支えるワイヤーロープへと飛び移った。ダインは再び、狙おうとするが当たらない。

 

「あのペイルライダーも俺と同じAGI型ビルドの忍者スタイルで戦っているんですか?」

 

「違うわ。軽業を上げているのは合っているけど、あいつはSTR型。それでいて、装備重量を落として三次元機動力をブーストしているのよ」

 

ダインは膝立ちになってペイルライダーを狙うが、それすらもかわされる。そして、弾倉を交換しようとしたところ、ペイルライダーが右手に持っていたショットガンが火を噴いた。その後、更に数発攻撃を受けてダインは倒された。ダインのアバターは倒れて、その上に【Dead】の文字が浮かび出上がった。

 

今の戦いを見たところ、特に変わった様子はなかったな。もしかしてペイルライダーは死銃(デス・ガン)とは無関係なのか?

 

「ねえ、リュウ。アイツ撃ってもいい?」

 

「あ、はい……。でも、妙だなって思ったら狙撃は待って…………っ!?」

 

シノンさんに言いかけている最中だった。

 

「何だ…?」

 

ペイルライダーに銃弾らしきものが着弾して、倒れ込んでしまう。

 

「え?今ペイルライダーに銃弾が当たったのに、どうして銃声が聞こえなかったんだ…?」

 

「考えられるのは、作動音が小さなレーザーライフルかサイレンサー付きの実弾銃ね。でも、何か様子がおかしいわ……っ!?あれは電磁スタン弾っ!?」

 

「それって何なんですか?」

 

「命中したあと暫く高電圧を生み出して、対象を麻痺させる効果がある特殊弾よ。だけど、あれは大口径のライフルでないと装填は不可能で、1発の値段がとんでもなく高くて対人戦で使うプレイヤーなんかいない。パーティでもMob狩り専用の弾よ」

 

確かにそれは妙だ。そんなものを使ったら早く相手を倒さないといけないのに…。

 

そのときだった。

 

鉄橋の柱の陰から全身を覆うタイプのボロボロの濃い灰色のフード付きマントを着たプレイヤーが現れた。

 

「アイツいつからあそこにっ!?」

 

俺は思わず声をあげる。隣にいたシノンさんも気づかなかったようだ。

 

ボロマントのプレイヤーは武器を取り出し、背負った。

 

「あれは《サイレント・アサシン》っ!?」

 

「さ……サイレント・アサシン?あのライフルの名前ですか?」

 

「ええ。サイレンサー標準装備の高性能狙撃銃。最大射程距離2000メートル以上で、撃たれた奴は狙撃手の姿を見ることも無く、死ぬ際に音も聞くことなく殺される。それから与えられた名前が《サイレント・アサシン》……《沈黙の暗殺者》。GGOに存在するとは噂では聞いていたけど、私も初めて見た。あんな銃を扱うなんてアイツ何者なの?」

 

ボロマントのプレイヤーはペイルライダーに近づくと、何故かハンドガンのようなものを取り出した。銃口をペイルライダーに向けると、左手を額にあて、胸に動かし、左肩、右肩へ持っていく。これは十字を切ることを示している。

 

「シノンさん、撃ってください……」

 

 

「え?どっちを?」

 

「あのボロマントの方ですっ!早くっ!!」

 

シノンさんは、俺の切迫した声にビクッとしつつも急いで狙いを定めてヘカートⅡのトリガーを引く。直後、銃口が火を噴き、弾丸を放った。だが、奴は体を大きく後ろに傾け、弾丸を避けた。

 

「かわしたっ!?」

 

「アイツ…!私が隠れていることに最初から気が付いていたんだわ……」

 

「ま、まさか……。でも、アイツは一度もこっちの方を見てませんでしたよっ!」

 

「あの避け方は弾道予測線が見えてなくちゃ絶対不可能よ。何処かで私を目視してシステムに認識されてたのよ」

 

驚愕する俺に対し、冷静に解説するシノンさんだったが彼女も驚きを隠せずにいた。

 

その間にも、ペイルライダーはハンドガンで撃たれた。まだHPが残っていたため、スタンから回復すると起き上がって奴らにショットガンを向ける。だが、ショットガンを落とし、胸を掴んで苦しみ倒れた。そして、ペイルライダーは光に包まれて消滅した。そこに【DISCONNECTION】と書かれた文字が出てすぐに消えた。

 

直後、ボロマントのプレイヤーの元に2人の男が何処からか現れて近づく。1人は黒いニット帽を深く被り、白の布で顔の下半分を隠した姿を、もう1人は黒いポンチョで身を隠している。

 

黒いニット帽をかぶった男は赤と黄色の玉が着いた算盤のようなものを取り出し、赤い玉を1つ動かした。

 

――殺したプレイヤーをカウントした。間違いない…!奴らはラフコフだ……。




今回の話は後半以外は旧版のものを修正したものとなりました。アニメ二期の第8話でキリトがネカマプレイを楽しんいるシーンをリメイク版でもやらせていただきました。やっぱりこれはやるしかないでしょう(笑)。そしてリュウ君の「最悪だ」が「最っ悪だ」に。リュウ君は苦労人なので、リーファの「刻むよ」みたいにレギュラー化してもいいかなと思ってしまいました(笑)

後半部分は旧版では、リュウ君はカイトさんと合流しましたが、リメイク版ではリーファ以外の女性キャラとの絡みがもう少しあった方がいいかなと思い、シノンと合流しました。流石にキリトみたいに水中に潜りませんでしたが。リュウ君のおかげでシノンのキリトに対する見方も多少はよくはなったでしょう。

そしてついに死銃が本格的に動きを開始。次回はALO内でのリーファたちの話になります。

SAOアニメは本当に毎週目が離せない状況に。前回はレンリ君がカッコよかったですよね。本作のオトヤ君と色々と共通するところがあるので、アリシゼーション編の時には共演させてみたいなと思いました。
そして昨日の話は敵味方関係なく感情移入してしまうほど胸を痛めるものでした。エルドリエは命尽きるまで戦って勇敢な騎士でしたね。レンジュたちオーク三千人もの死は、善玉怪人の死を連想させるもので見ていて辛くなりました。
エルドリエだけでなく仲間さえも平気で殺すディーアイエルには怒りと殺意を抱きました。映司をモデルにしたリュウ君とは相性最悪の相手と言ってもいいでしょう。カブリエルと同様に本作に登場したら、原作以上にコイツも然るべき報いを与えてやるつもりです。
ところでリュウ君。どうして恐竜メダルとマグマナックルを用意して、メダガブリューとビートクローザーの手入れをしているんですか(汗)

ゼロワンではイズの兄……ワズが……。昨日のSAOアニメから続いて登場人物の死を見ることになるなんて……(涙)

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