ソードアート・オンライン Dragon Fang《リメイク版》   作:グレイブブレイド

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リュウ「俺とキリさんは、死銃(デス・ガン)事件の調査のためにGGOにログインし、第3回BoBに参加することになった。大会が進む中で、キリさんが死銃(デス・ガン)らしきプレイヤーに遭遇し、ソイツらがラフコフのプレイヤーだということが判明した。しかし、俺たちはその中でも戦い抜いて本大会への出場権を手に入れ、同時にカイトさんとシノンさんも同時に出場権を手に入れるのだった」

アリス「こちらでも今にも決戦が始まろうとしているのですね」

リュウ「何でアリスさんがここにいるんですかっ!?まだファントムバレット編の最中なんですけど!」

アリス「本作の作者から、スペシャルゲストとして出て欲しいとお願いされて呼ばれたのです。もちろんブラックコーヒーもちゃんと用意してきました」

リュウ「わざわざブラックコーヒーまでも用意したんですね……」

アリス「今回はブラックコーヒーを用意した方がいいと言われたからです。本作に登場するための勉強として是非今回の話を見ておきたいと思っていまして。私もいつかユー……」

リュウ「ストップ!ストップ!アリスさん、それはネタバレになっちゃいますから!」

アリス「大変失礼しました。あらすじ紹介は思っていたより難しいですね。では、GGO編第8話どうぞ」



第9話 本戦開始前

2025年12月14日

 

第3回BoBの予選大会を終えて一夜明け、本日は本大会が行われようとしている。本大会が始まるのは夜で、晴れた日曜日だということもあって、昼過ぎに俺はある場所へと訪れていた。

 

そこは日本国内で何処にでもある墓地だった。いくつもの墓石が並ぶ中で、《橘》と彫られた墓石の前までやってきた。

 

「また来たよ、(あん)ちゃん」

 

この墓に眠るのは、SAO事件が起こる前に病気で亡くなった俺の兄《橘 龍斗》だ。

 

今は学校があるため、SAOから帰還した頃みたいに週に何度も訪れることはなくなったが、それでもファーランさんとミラが眠る墓と1週間おきに訪れている。

 

いつものように枯れた花を取り替えたりと墓石の手入れをしている最中、こんなことを呟いた。

 

(あん)ちゃん、俺はどうすればいいんだろう……」

 

当然のことながら、墓石に向かってそんなこと言っても返事が返ってくることはない。

 

俺は「はぁ……」とため息を吐き、墓石の前に座り込んだ。昨日の夜からこんな状態が続いている。

 

昨日の予選大会の最中に、キリさんから死銃(デス・ガン)とその仲間らしいプレイヤーたちと接触し、しかもソイツらはラフコフのプレイヤーかもしれないということを聞いた。

 

俺たちの目的でもある死銃(デス・ガン)と名乗るプレイヤーとの接触を果たすことができたものの、それ以上にラフコフのプレイヤーかもしれないということで頭がいっぱいだった。

 

ラフコフのプレイヤーで生き残っているのは、監獄に送った奴らと最後まで捕まえられなかったPoHとアビスを合わせると15人前後いる。その中で誰が死銃(デス・ガン)と奴の仲間で、どうやってゲーム内から生身のプレイヤーを殺害しているのかはまだわからないままだ。

 

もしも死銃(デス・ガン)たちの中にアビスがいた場合、俺は……。

 

アビスはファーランさんとミラの仇でもある。

 

ファーランさんとミラは、赤い目の巨人に喰われそうになった俺を助けて死んだ。2人だけでなくあの時は攻略組と中層プレイヤー合わせて14人ものプレイヤーが命を落とし、俺だけが唯一生き残った。2年間もの続いたデスゲームの中でも、これは最悪な事件の1つとして多くのプレイヤーに知られている。

 

だが、この事件にはアビスも関わっていたのだ。奴は中層プレイヤーにいい狩場の偽情報を流し、更に彼らの救助のために攻略組プレイヤーを誘い込み、何人ものプレイヤーをモンスターによってPKさせようと計画していたことが明らかになった。

 

ファーランさんとミラを死に追いやったアビスのことを思い出す度に、奴への憎悪が増していく。しかし、同時に俺は不安でいっぱいだった。

 

俺は二度アビスと戦ったが、奴にはどちらの戦いでも敗北している。最強のプレイヤーやゲームマスター相手に優位に立つことができた《龍刃》やオーバーロードの力があれば勝機があるかもしれない。だが、今の俺にはそんなゲームバランスを破壊してしまうような力はない。ゲーム内から生身のプレイヤーを殺害している方法がわからない以上、今度こそ俺は奴に殺されてしまう可能性だって十分にある。

 

できることなら今すぐGGOからALOに《Ryuga》を再コンバートして逃げ出したいくらいだ。そうしたら一緒に戦っているキリさんやカイトさんを見殺しにしてしまうかもしれないというのに……。

 

次第にアビスへの憎悪と恐怖で気持ちがいっぱいになり、頭を抱えてうずくまる。

 

そんな時、ポケットに入っていたケータイに着信が入って鳴りだした。取り出して見てみると画面には『桐ヶ谷 直葉』と表示していた。通話ボタンを押し、耳元へとやる。

 

「スグか。どうしたんだ?」

 

『あ、リュウ君。急に悪いんだけど今すぐ家に来れるかな?どうしてもリュウ君と直接会って話がしたくなってね』

 

「まあ、一応時間あるから大丈夫だよ。まさか別れ話とかじゃないよな?」

 

『違う違う!そんな話じゃないから安心して。じゃあ、待っているからね』

 

ここで通話が終わり、ケータイをポケットにしまう。

 

「兄ちゃん、また来るよ。…もし来なかったら、俺もそっちに行ってる事になっちゃうのかな…。なんてこんな事考えてたら兄ちゃん怒るよな」

 

そして駐車場に停めているバイクの方へと向かった。

 

 

 

 

 

 

バイクを走らせて10分ほどで桐ヶ谷家へと着き、邪魔にならないように門の脇の辺りにバイクを停め、玄関へと足を進める。インターホンを押すと5秒足らずでスグがやってきて玄関の戸を開ける。

 

「リュウ君来てくれたんだね」

 

「スグが直接会って話がしたいって言ってきたんだろ」

 

「急にゴメンね。もしかして迷惑だったかな?」

 

「いや、俺もスグに会いたいなって思っていたからちょうどよかったよ」

 

「そう。あ、ここじゃ寒いから早く上がって。風邪引いちゃうよ」

 

「ああ。じゃあ、お邪魔します……」

 

いつものように、スグに二階にある彼女の部屋へと案内される。

 

「そういえば、カズさんは?」

 

「お兄ちゃんならリュウ君が来るちょっと前に出かけて行ったよ。なんか大事な用事があるらしくてね。アスナさんとデートにでも行ったのかな?」

 

「多分そうだろ」

 

会話を交わしながら、階段を上っていき、数歩廊下を歩いてスグの部屋へとやって来た。

 

暖色系のカーテンや敷物、木製の家具が温かみを感じさせ、ベッドや机の周りにはカピバラなどのぬいぐるみがいくつも置かれ、年頃の女の子らしい部屋だ。そして机の脇の壁に掛けられているボードには何枚も写真が張られ、剣道大会で表彰されたもの、現実世界やALOで撮った俺とのツーショット写真などがあった。

 

「で、話したい事って何?」

 

「うん。実は今朝ね…こんな記事を見つけたんだけど」

 

スグと隣り合ってベッドの端に腰を下ろすと、スグはタブレットを手に取って画面を見せてきた。それは国内最大級のVRMMOゲーム情報サイト《MMOトゥモロー》のページで、太字のヘッドラインには【ガンゲイル・オンラインの最強者決定バトルロイヤル。 第3回《バレッド・オブ・バレッツ》、本大会出場プレイヤー、40人決まる】と書いてある。

 

そのページの下には本大会出場プレイヤーの名前リストがあり、スグはあるところを拡大させて指さした。

 

「ここなんだけど」

 

スグが指さしたところには【Eブロック1位:Kirito(初)】、そして【Eブロック2位:Ryuga(初)】というものがあった。

 

「なんか、見覚えがある名前が2つもあるんだけど、どういうこと?」

 

「そ、それは……」

 

スグは微笑んで聞いてくるが、同時に恐怖も伝わってきた。

 

「お兄ちゃんは、このキリトっていう人は霧ヶ峰藤五郎で、こっちのリュウガっていう人は火野映司か万丈龍我じゃないかって言っていたけど、どうなの?」

 

――火野映司と万丈龍我って前にカズさんが勝手に思い込んでいた俺の本名じゃないか。速攻でスグにバレるだろ!

 

内心でそう突っ込んでしまう。こんなことだったら佐藤太郎って言ってくれてた方がまだマシだったような気がするな。でも、キリさんの性格のことを考えると調子に乗って、バンド売れたら女子アナと結婚して牛丼卵付き百杯食べてビル千件買おうとしている奴だって言っていただろう。

 

今はこんなくだらないことよりも、スグにどうやって説明すればいいのか考えないといけないな。しかし、今の俺は奥さんに問い詰められている旦那と一緒で、完全にお手上げ状態だ。

 

もう正直に話すしかない。でも、スグにはどう説明すればいいのか。

 

スグには、菊岡さんから死銃(デス・ガン)と名乗るプレイヤーを探す依頼を受けて、そのために《Ryuga》のアバターをコンバートさせたことは話してない。それどころか、スグはラフコフに関することは一切知らない。もちろんファーランさんとミラの死の真相もだ。

 

スグは俺たちの中で唯一SAOのデスゲームに巻き込まれていない。ずっとALOで普通にプレイしてきた彼女にこんなことを話す勇気がなく、このことを知ったら絶対に俺やカズさんを引き止めると思っていたからだ。ラフコフのことから今回の死銃事件のことを説明するのは、凄く抵抗がある。このことを知ったら、スグは俺たちのことを絶対に引き止めるだろう。

 

「リュウ君、どうかしたの?」

 

その言葉に、俺はぴくりと身体を震わせた。

 

「えっ!?何が!?」

 

「今のリュウ君、お兄ちゃんみたいに難しい顔してたよ」

 

「そ、そうか?気のせいじゃないかな?」

 

「気のせいじゃないよ。あたし、リュウ君の彼女なんだから、リュウ君の異変には絶対気が付くんだからね」

 

誤魔化そうとするが、どうやら俺の彼女には通用しないみたいだ。

 

「実はね、お兄ちゃんにも言ったけど、リュウ君とキリト君がALOからGGOにコンバートしたこと知っているの」

 

「えっ?」

 

突然の言葉に、俺は驚きを隠せなかった。

 

「フレンドリストから2人の名前が消えているのに、あたしが気付かないわけがないでしょ」

 

「……で、でも、フレンドリストって毎日見るもんじゃ……」

 

「見なくても感じるもん。あたし、昨日の夜にリュウ君たちがフレンドリストから消えていることに気付いて、すぐログアウトしてお兄ちゃんから事情を聞こうとしたんだ。お兄ちゃんはともかく、リュウ君まで何も言わないでALOからいなくなるなんて絶対おかしいもん。でも、何か事情があるんだろうなって思って、アスナさんとユイちゃんに聞いたの」

 

カズさんは、菊岡さんからの依頼のことは内容をいくらか伏せてアスナさんとユイちゃんには話したらしい。そうしたのは、ユイちゃんにコンバートしたことを隠せないからだという。

 

「アスナさんとユイちゃんはすぐ戻ってくるって言っていたけど、本心では不安に思っているみたいだった。あたしもそう。だって……だって、リュウ君もお兄ちゃんも何か様子がおかしくて……」

 

「スグ……」

 

落ち着いた様子で俺に話すスグだったが、内心では凄く不安そうにしているのが見てわかる。だけど、笑みを浮かべて俺を見つめる。

 

「でも、あたし信じているから。リュウ君たちが絶対に帰ってくることを。だってあたしは、お兄ちゃんの妹だし、リュウ君の彼女なんだから」

 

これを聞いた途端、思わず涙が溢れそうになる。

 

「スグ…!」

 

「きゃっ!」

 

俺はそれを隠すように座るスグを抱きしめ、そのままベッドの上に押し倒した。当然のことながら、俺にいきなりこんなことされてスグは驚いていた。

 

「りゅ、リュウ君っ!?」

 

「ゴメン、ちょっとこのままにさせて……」

 

身体を震わせ、スグの身体をギュッと抱きしめる。スグも何かを察して微笑んでそっと俺を抱きしめてくれた。

 

「リュウ君。君とお兄ちゃんに何があったのかはわからないし、あえて聞かないでおくよ。でも、リュウ君にはあたしがいるから大丈夫だよ。前に言ったよね、リュウ君が辛い時はあたしがリュウ君の手を掴むんだって」

 

「スグ……」

 

(そうだ…。あの時と違って今の俺にはスグがいる。俺をいつも支えてくれて、俺の帰りを待ってくれている最愛の人が……)

 

不思議なことに、先ほどまで抱いていたアビスへの憎悪と恐怖が少しずつなくなり、落ち着きを取り戻していく。

 

「心配かけてごめんな、スグ。言うの遅くなっちゃったけど、絶対に帰ってくるよ。もちろんALOの俺もリーファのところへ、必ず」

 

「うん。待ってるよ、リュウ君…」

 

そして俺は目を閉じてそっと自分の唇をスグの唇に重ねた。十秒ほどの短いキスを終え、再びスグを抱きしめる。

 

「スグ…好きだよ…」

 

普段なら恥ずかしくて言えない台詞だが今は恥ずかしさよりスグへの感謝と愛しさで胸がいっぱいだったため、なんのためらいもなく言うことができた。スグは突然の俺の言葉に驚いて顔が赤くなったが、すぐに少しの涙と優しい笑みを浮かべながら、

 

「あたしも…今までも、これからもずっと…リュウ君が大好き…」

 

「ありがとう…スグ……」

 

「んっ…」

 

俺は再びスグに唇を重ね、今度はさっきより長めのキスをした。息が続かなくなったところでキスを終える。 

 

「なあ、スグ。もう少しこのままでいてもいいかな?」

 

「普段のリュウ君なら恥ずかしがるのに、こんなこと頼んでくるなんて珍しいね。もちろんいいよ…」

 

「じゃあ、お言葉に甘えて……」

 

そう言ってスグに抱き着いて甘える様子を見せる。

 

「リュウ君ったら、甘えん坊さんなんだから……」

 

スグは嬉しそうにして俺の頭をナデナデしてくる。自分からあんなことお願いしておきながら、何割か恥ずかしい気持ちもあった。だけど、せっかくだからもう少しこのままでいようと、スグの温もりと心音を感じていた。

 

あれから五分ほど経って、俺たちは起き上がって再びベッドの端に腰を下ろした。

 

「そういえば、お兄ちゃんとアスナさんから聞いたんだけど、今回のお仕事、なんかすっごいバイト料出るんだよね?」

 

スグは何か悪巧みしている笑みを浮かべてこちらを見る。アスナさんはともかく、カズさんは絶対に「欲しいものがあってリュウに買って貰ってくれ」とか言って俺に押し付けようとしたな。

 

後でカズさんに文句の1つでも言っておかないとな。

 

「ま、まあ……。何でも奢るから楽しみにしてて」

 

「やった!あのね、前から欲しかったナノカーボンの竹刀があるんだ」

 

「な、ナノカーボンの竹刀か。確かあれって高かったような……」

 

「えー?リュウ君がなんでも奢るって言ったじゃん。あと、クリスマスにデートするときはリュウ君の奢りでお願いね」

 

「クリスマスデートの時も俺の奢りかよ。まあいいか……」

 

「やった!」

 

無邪気な笑みを浮かべるスグ。

 

まさか依頼の報酬の一部をスグに持っていかれることになるなんてな。まあ、スグには心配かけてしまったし、俺もスグのおかげで救われたから、彼女のために使うのが一番いいか。

 

「あと、もう1つ聞いておきたかったんだけど、Fブロックの1位のところにある《Kaito》ってもしかしてあのカイトさん?」

 

スグはベッドの脇に置いてあるタブレットを再び手に取り、俺に【Fブロック1位:Kaito】と表示してあるところを見せてきた。

 

「ああ、 この人はスグが知っているカイトさんで合っているよ」

 

「やっぱりそうだったんだ。フレンドリストにカイトさんのはあったけど、もしかしてって思って今朝ザックさんから別アカウントでGGOをやっているって聞いたの」

 

「俺もカイトさん本人から聞いたけど、GGOは半年前からプレイしているらしい。ALOとは別のアカウントみたいだけど、GGOでも強さは健在だったよ。あと姿がALOとあまり変わってなかったな」

 

「カイトさんも一緒なら安心できるね。お兄ちゃんよりも頼りになりそうだし」

 

「キリさんも十分頼りになるからな?」

 

これには俺も思わず苦笑いを浮かべる。

 

この様子からしてスグはGGOでのキリさんの姿にはまだ気が付いてないみたいだ。GGOのキリさんは、M9000系というかなりレアのアバターで一見すると黒髪ロングの少女みたいな姿となっている。

 

自分のお兄ちゃんがお姉ちゃんになっていたとしたらどんな反応をするのだろうか。でも、あの姿のせいでキリさんと何回もカップルと誤解されたことだけは絶対に知られないようにしないと。スグ/リーファがこのことと知った時は、俺もキリさんも「刻むよ」どころでは済まされないだろう。

 

とりあえず、キリさんのGGOでの姿が知られても、これだけは絶対に知られないことを祈るしかないな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

第3回BoB本大会が始まる数時間前。

 

俺は家の近所にあるコンビニまで行き、夕飯を買う。普段から食事は自炊するように心がけているが、今は大会以上に死銃(デス・ガン)のことが気になって作る気にならなかった。

 

帰り道、死銃(デス・ガン)のことを考える。

 

死銃(デス・ガン)のことは、前からGGOで噂になっていたため俺も知ってはいたものの、単なる都市伝説くらいしか認識してなかった。だが、GGOで出会ったリュウとキリトの話を聞いてからは、そうは思わなくなった。

 

その中でも一番気になったのは、キリトに接触してきた死銃(デス・ガン)とその仲間だという2人のプレイヤーのことだ。

 

キリトは、あの2人はラフィン・コフィン……ラフコフの元メンバーの可能性が高いと言っていた。その中の1人はあの場にいなかった俺に興味を抱いていたような様子だったらしい。

 

俺とラフコフの間には深い因縁がある。

 

奴らはナイツオブバロンにいた3人の仲間……盾持ちの片手剣使いのリク、盾持ちの片手棍使いのダイチ、両手斧使いのハントを殺し、そして俺は討伐戦でラフコフのプレイヤー2人を殺した。

 

生き残って現実世界に帰還したラフコフのメンバーが、俺に恨みを抱いていてもおかしくないだろう。その中で一番可能性が高いのは……。

 

「隼人」

 

考え事をしている中、いきなり後ろから声をかけられ、反射的に振り返った。そこにいたのは響だった。

 

「何だ、響か」

 

「珍しいな、お前がコンビニの物で飯を済ますなんて」

 

「今日はいちいち作っている暇はないからな」

 

「そういえば、今日だったな。BoBの本大会が開催されるのは。今朝、アスナと直葉から連絡が来たんだけど、キリトとリュウも大会に出るんだよな?」

 

「ああ」

 

この2人から響に連絡が来たってことは、キリトとリュウがコンバートしたことがバレて、本大会出場プレイヤーの名前リストからKaitoを見つけたからだろう。

 

「だけど、どうしてアイツらはコンバートしてまで大会に出ようとしてるんだ?何か聞いてないのか?」

 

「さあな。俺だって詳しいことは聞かされてないんだ。大会が終わってから、本人たちに聞けばいいだろ」

 

「そうだな」

 

キリトとリュウがGGOにコンバートして大会に参加する理由は、GGOでリュウと出会った時に詳しく聞いたから知っている。だが、響には死銃(デス・ガン)やラフコフに関することは話したくなかったため、あえて知らないふりをした。

 

響……ザックも俺と同様に討伐戦でラフコフのプレイヤーの命を奪い、心に深く傷を負ってしまったが、俺と違ってその重荷を一緒に背負ってくれている相手がいる。そのおかげもあって、現実世界に帰還してからも特に問題なく、元通りの生活に戻ることができた。

 

響をこんなことに巻き込むわけにはいかない。キリトとリュウもそう思ってアスナや直葉に詳しいことを話さなかったのだろう。

 

「まあ、今日の大会ALOで皆で応援するから、頑張れよ」

 

「ああ、ところで響、お前最近里香とはどうなんだ?」

 

「ぶっ!い、いきなり何だよ!?」

 

「何もそんなに驚くことはないだろ」

 

「お前がいきなりそんな事を聞いてきたから珍しすぎるのといきなりすぎるのとでビックリしたんだよ!お前今日どうした!?」

 

「何も。少し気になって聞いただけだ」

 

「最近どうって…何もねぇよ!あいつとは!…まだ…」

 

「ふっ…そうか…」 

 

話をしながら歩いている内に家の前まで着き、ここで響と別れて家の中へと入った。

 

リビングで早めの夕食を取り、時間まで自室でゆっくり過ごすことにした。その間、俺は昨日の予選の決勝を思い出していた。GGOを始めた頃から、ずっと一緒に組んでいた少女であるシノンとの初めての一騎討ち。俺が「現実の命を奪われそうになった時、引き金を引けるか?」と聞いたとき、シノンはそれまでより明らかに大きく動揺していた。もしかしたらシノンも何か過去にあったのかもしれない…。もっと強くなりたい、強いやつを殺したいというあいつの執着もそれと何か関係があるのかもしれないな。

 

考えている内に時間が来たところで、ベッドの上に横になってアミュスフィアを装着し、GGOへログインした。

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

桐ヶ谷家を後にした俺は、バイクを走らせて千代田区にある総合病院へとやって来た。バイクを停めて受付で簡単な手続きを行い、昨日と同じように指定された病室へと向かう。

 

病室に入ると、安岐さんがいて、カズさんはすでに上半身の数箇所に電極を貼って、頭にアミュスフィアを被ってベッドの上に横たわっていた。

 

「橘君、いらっしゃい」

 

「安岐さん、今日もよろしくお願いします」

 

軽くあいさつを済ませ、早速ダイブする準備に取り掛かる。

 

「橘君、昨日帰る時は何だか様子がおかしかったけど、今は大丈夫みたいね。何もなくて安心したわ」

 

「心配かけてしまってすいません。でも、今は大丈夫ですので」

 

そう言って笑みを浮かべると、 安岐さんも安心したかのように笑みを見せた。

 

上に着ているものを脱ぎ、ベッドに横になる。そして、上半身の数箇所に電極を貼られ、アミュスフィアを頭に被り電源を入れる。

 

「カズさんから聞いているかもしれませんが、遅くても10時頃には戻ると思いますので」

 

「今日も桐ヶ谷君の体と一緒に橘君の身体もしっかり見ておくから、安心してね」

 

「はい。それじゃあ、行ってきます。リンク・スタート!」

 

そう叫ぶと、いつものように意識が現実から遮断されていく。途中、安岐さんの声がかすかに聞こえた。

 

「行ってらっしゃい、《青龍の剣士リュウガ》君」

 

えっ?と思った瞬間、俺の意識は切り離されてGGOの世界へと降り立った。




前回のコメントでビルド風のあらすじ紹介が好評でしたので、今回もやることにしました。そしてアリシゼーション編のアニメが放送中ということで、本編に先駆けてアリスが登場しました。早く本編にも登場してリュウ君たちとの絡みを書きたいと思いました。若干ネタバレっぽいことを書いてしまいましたが。

旧版ではリュウ君が桐ヶ谷家に行って直葉と会う、カイトとザックの会話、リュウ君がお兄さんの墓に行き、病院からGGOへログインする流れでしたが、リメイク版では内容を所度変えながら順番を変更させていただきました。墓のシーンはビルド32話で龍我が香澄さんの墓に行ったところを、リュウ君が直葉をベッドに押し倒すシーンはオーディナルスケールでキリトがアスナをベッドに押し倒すところを元にしてみました。

リメイク版のリュウ君は《龍刃》やオーバーロードの力を手に入れて強化されてますが、今はそれらは失って弱体化している状態となっています。もしもあったら余裕でアビスを倒すことができたでしょう。余談ですが、《龍刃》やオーバーロードの力がある状態のリュウ君は、仮面ライダーでいうとまだ中間フォームに相当するレベルです。

アニメでは戦争が、こっちでは本大会が始まろうとしています。次回もよろしくお願いします。

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