ソードアート・オンライン Dragon Fang《リメイク版》   作:グレイブブレイド

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SAOアニメのアリシゼーション編のPVがついに公開されましたね。画質も映画並みによくてアニメでユージオとアリスが見られるのが、凄く楽しみです。うちの方でも将来的にはアリシゼーション編をやりたいなと思います。現段階だと仮面ライダーネタは変わらずあるのですが、ギャグが一切なくてシリアス要素が高い感じになっているんですよね……。

この話はさておき、ついにリメイク版のフェアリィ・ダンス編最終回です。

今回はいつもよりちょっと長めになってしまいました。一応念のために旧版ではお馴染みのアレを用意しておくことをお勧めします。

それではどうぞ。


第25話 2人の妖精とダンスと繋がる想い

2025年5月16日 金曜日

 

ALOの事件が解決してもうすぐで4ヶ月が経とうとしている。

 

俺は今年の春から中高生のSAO生還者を集めた学校に通うこととなった。この学校にはキリさんやアスナさんなどSAOで知り合った人たちもいて、充実した学校生活を送っていた。

 

ちょうど今、午前中の授業が終わり、道具をリュックサックにしまっていると1人のクラスメイトが話しかけてきた。

 

「リュウ、次はお昼だね」

 

話しかけてきたのは、小柄で中性的な顔立ちをし、一見すると女の子と見間違えてしまいそうな少年。オトヤこと小野寺冬也だ。オトヤ……冬也とは同い年だということもあって同じクラスになり、勉強が得意な冬也には勉強面ではいつもお世話にもなっている。これは余談だが、冬也はリアルでもよく女の子と間違えられ、最初の頃は男子更衣室に冬也が入ってきて俺以外の男子たちが驚いていたこともあった。

 

「響さんたちが席取っているみたいだから早くカフェテリア行こう」

 

「ああ。早く行かないと里香さんがうるさいからな」

 

冬也と一緒に皆が待っているカフェテリアへと行く。廊下に出るとカフェテリアや購買部に向かう生徒で溢れていた。

 

カフェテリアに着くと見慣れた4人が窓際にあった1つの6人用のテーブル席に座っていた。

 

「あ、冬也君、リュウさん」

 

俺たちに気が付いて手を振ってきたツインテールの小柄な少女。シリカこと綾野珪子だ。彼女は俺や冬也やスグより1歳年下だが、冬也のことだけは君付けでタメ口である。本人たち曰く、こちらの方がしっくりくるとのことだ。相変わらずこの2人の関係に進展はないみたいだが。

 

その向かい側の席には、明るめの茶髪をした青年……カイトさんこと神崎隼人さんと、背が高めの黒髪の青年……ザックさんこと桜井響さんが座っている。

 

「俺たちが最後だったみたいですね」

 

「オレたちもさっき来たばかりだから大丈夫だ」

 

「ところで、里香さんは何やっているんですか?」

 

先ほどからSAOの時と違ってピンクではなくこげ茶の髪をした少女……リズさんこと篠崎里香さんがニヤニヤしながら窓の外を見ている。しかもその手にはケータイがあり、何かを撮ろうとしていた。

 

中庭のベンチに密着して座っているカズさんと明日奈さんの姿があった。カズさんと明日奈さんは、ここからだと丸見えだということわかっていないのかな。まあ、あの2人にそれはお構いなしか。

 

「アイツらは相変わらず、イチャコラしてるわね〜。撮って後で2人に見せてあげようか」

 

「里香止めておけ。そんなことしたら『どうして止めなかったの』って、オレまで明日奈に怒られるんだぞ」

 

「まあまあ、いいじゃない。そのときはあたしと一緒に明日奈に怒られなさいよ」

 

「よくねえだろ。オレまで巻き込むな」

 

響さんと里香さんのやり取りを見て、俺と冬也と珪子は苦笑いを浮かべ、隼人さんはやれやれと静かに缶コーヒーを飲んでいた。この2人も冬也と珪子と同様に関係に進展はないみたいだ。

 

こうしていると、SAOにいた時と全然変わってないな。

 

俺はカツ丼、冬也はキツネそばを注文し、取りに戻って来たところで今日のことを打ち合わせする。

 

「ところで珪子。今日のオフ会には誰が来るの?」

 

「えっと、店主のエギルさんを含めて、この場にいるあたしたち6人にキリトさん、アスナさん、アルゴさん、クラインさん率いる風林火山の人たちに、黒猫団の皆さん。あとはキリトさんとアスナさんが知り合ったというヨルコさんにカインズさん、シンカーさんとユリエールさん、サーシャさんという人たちですね。それに、キリトさんの妹の直葉さんも来ますよ」

 

「予定通りね。じゃあ、あたしと響、隼人、冬也、珪子の5人は授業が終わったらすぐにエギルの店に集合。リュウ、キリト達のことを任せるわ」

 

「任せて下さい」

 

 

 

 

 

学校が終了した後、俺とキリさんとアスナさんは途中でスグと合流し、台東区御徒町のごみごみした裏通りを歩き、エギルさんのお店《ダイシー・カフェ》へと向かっていた。

 

ちなみに、俺とスグの前をキリさんとアスナさんが手を繋いで歩いている。

 

「お兄ちゃんとアスナさん、手なんか繋いでラブラブだね」

 

「ああ。だけど後ろに俺たちがいるってことを少しは考えてもらいたいよ」

 

「そうだね」

 

スグと2人に聞こえないようにそんなことを話す。

 

正直言うとキリさんとアスナさんが羨ましい。俺だってスグとああやって手を繋いで歩きたいなと思い、隣にいるスグをチラッと見る。

 

「リュウ君、どうかした?」

 

「な、何でもない!」

 

スグが俺の視線に気が付き、少々驚いてしまう。

 

そうしているうちに、俺たちはエギルさんのお店へとたどり着く。黒く塗られた木のドアには、木札が掛けられ、それには『本日貸切』と書かれていた。

 

キリさんがドアを開けると、ドアに付いていたベルがカランと鳴る。

 

店内には、すでに全員が集まっている。いるのは、カイトさん、ザックさん、オトヤ、リズさん、シリカ、アルゴさん、クラインさん率いる風林火山の人たちに月夜の黒猫団。そして、カズさん……キリさんがSAOで知り合ったというシンカーさんやユリエールさん、サーシャさん、ヨルコさんと言う人たちがいた。

 

「おいおい、俺たち遅刻はしてないぞ」

 

「主役は最後に登場するのが定番だろ」

 

「アンタ達にはちょっと遅い時間を伝えといて、念のためにリュウに付き添ってもらったのよ」

 

「さ、入った入った。キリトにはやってもらうことがあるからな」

 

キリさんはザックさんとリズさんに連行され、店の奥にある即席の小さなステージへと行く。司会役のザックさんとリズさんの声がする。

 

「では、本日の主役が来たということで『アインクラッド攻略記念パーティー』を開始したいと思います」

 

「皆様、ご唱和ください。…………せーのぉ!」

 

『キリト、SAOクリア、おめでとー!!』

 

全員がそう言い、店中にはクラッカーと拍手、歓声が響く。キリさんはポカーンと口を開けたまま。そして里香さんに飲み物が入ったコップを持たされる。

 

「カンパーイ!!」

 

『カンパーイ!!』

 

乾杯の後は、全員簡単な自己紹介、それに続いてキリさんのスピーチが行われ、エギルさん特製の巨大なピザの皿が何枚も登場するに及んで、オフ会は完全に宴会状態に突入した。

 

俺は中々会えないアルゴさんや風林火山の人たちなどに行き、談笑をして楽しんでいた。アルゴさんたちも初めは現実世界での生活に戻るのに苦労していたが、今は軌道に乗って頑張ってやっているみたいだ。

 

アルゴさんたちと話を終えてふとカウンターの方を見ると、キリさんとクラインさんとエギルさんとシンカーさんがパソコンの画面を見ながら話しをしていた。

 

「何しているんですか?」

 

「リュウか。これだよ」

 

キリさんは俺にパソコンの画面を見せてきた。エギルさんは笑みを浮かべると、愉快そうに言った。

 

「今、ミラーサーバーがおよそ50、ダウンロードは10万、稼働している大規模サーバーは300ってことかな」

 

これは、キリさんが茅場晶彦から託されたという《世界樹の種子》。またの名を《ザ・シード》。

 

聞いた話によると、これは茅場晶彦が開発したフルダイブ型VRMMO環境を動かすプログラムパッケージらしい。そこそこ太い回線を用意して《ザ・シード》をダウンロードすれば、誰でもネット上に仮想世界を作れるそうだ。

 

そのおかげで死に絶えるはずだったVRMMOは再び蘇り、ALOも新しい運営に任されて運営されている。他にも新しい世界が誕生し、今では1つのバーチャルゲームで作ったキャラを他のゲームの世界へとコンバートできるというシステムまで開発されつつある。

 

キリさんはエギルさんの方を見て言った。

 

「おい、二次会に予定変更はないんだろうな?」

 

「ああ、今夜11時にイグドラシル・シティ集合だ」

 

「それで()()は本当に動くんですよね?」

 

「おうよ。新しいサーバー群をまるまる一つ使ったらしいが、なんせ『伝説の城』だ。ユーザーもがっつんがっつん増えて、資金もがっぽりがっぽりだ」

 

「それなら店やってるよりも、そっちの方が儲かっていいんじゃねえのか?」

 

「やなこと言うなよ」

 

クラインさんが言ったことに困るエギルさん。俺とキリさんは、飲み物が入ったグラスを片手に持ちながら、それを見て笑う。

 

その後、俺はカイトさんたちのところに行こうかと席を立って店内を見回すと、スグが店の隅にある樽に腰掛けて1人でチビチビとオレンジジュースを飲んでいる姿が目に止まった。

 

何処か寂しそうにして皆を見ているスグが心配になり、彼女の元へと行こうとするが……。

 

「リュウ!こっちこーい!」

 

頬を少し赤くして手を盛大に振って俺を呼んでいるリズさんがいた。明らかにこれは酔っているように見える。

 

「あのリズさん、なんか酔ってませんか?」

 

「全然酔ってないわよ!あんたも早くこっち来なさい!」

 

そのままリズさんに服を掴まれて強制的に連行される。そこには困った顔をしているアスナさんたちがいた。どうやら皆も捕まったようだ。

 

近くにいたオトヤから事情を聞いてみると、リズさんがアルゴさんが飲んでいたカクテル入りのグラスと間違って飲んでしまい、ああなってしまったらしい。全ての元凶ともいえるアルゴさんは自分だけ逃げていた。

 

途中でアスナさんとカイトさんとオトヤとシリカの4人はなんとか逃げ出したが、俺とザックさんは逃げられず、残り時間の多くをリズさんに捕まって過ごすこととなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アルヴヘイム・ケットシー領 首都《フリーリア》上空

 

 

漆黒の夜空を貫いて、あたしは40分も飛翔していた。

 

前のALOならこんな長時間に渡って飛び続けていることはできなかったけど、今のALOは違う。

 

結局、世界樹の上に空中都市は無かった。光の妖精……アルフは存在せず、訪れたものを生まれ変わらせてくれるという妖精王は偽の王だった。しかも、偽物の王とその仲間たちの正体は、異世界から来て妖精の世界を支配しようとしていた醜い怪物であった。

 

ずっと空を飛び続けることを夢見てたあたしは、このことを知った時は本当にショックを受けた。

 

しかし、怪物たちはあたしたちによって倒された。そして一度この世界は崩壊し、新しく生まれたとき、9つ全ての妖精種族が永遠に飛べるようになった。永遠に飛ぶ力を求めて9つの種族で争うことはもうない。

 

こうなったおかげで、先週には『アルヴヘイム横断レース』が開催された。あたしとリュウ君とお兄ちゃんの3人で凄まじいデッドヒートを繰り広げ、僅差であたしが1位、リュウ君が2位、お兄ちゃんが3位という結果となった。リュウ君とお兄ちゃんはもちろん、アスナさんとカイトさんとザックさんも、リベンジしたいと次の開催を強く望んでいたのを覚えている。皆とああやって空を飛んだのは、本当に楽しかった。

 

ああいうイベントで飛ぶのもいいけれど、やっぱり頭のなかを空っぽにし、ただ限界の先を目指して加速していく時が一番気持ちいい。

 

一段とスピードを上げ、遥か彼方遠くに浮かぶ満月を目指してロケットのように上昇していく。雲海を突き抜けて更に上昇を続けるが、一定のところまでたどり着くとスピードが落ち、《WARNING 限界高度》の文字が浮かび上がる。そして、あたしはそのまま夜空を自由落下していく。徐々に月が遠ざかる。

 

寂しさを感じ、目を閉じて両手でぎゅっと体を抱きしめる。

 

今日の放課後、お兄ちゃんたちに連れて行ってもらったオフ会。そこで彼らを繋ぐ、目には見えないけれどとても強い絆の存在があると感じていた。あの世界……浮遊城アインクラッドで共に戦い、泣き、笑い、恋をした記憶が。

 

だけど、あたしにはその記憶はない。

 

そのせいもあって、皆が……リュウ君があたしには届くことのない遥か遠くにいる気がした。

 

あたしはリュウ君が好き。この気持ちは5年経っても変わっていない。でも、遥か遠くにいるリュウ君には届くことはない。せっかく前にアスナさんが、あたしの想いが絶対に届かないかはまだわからないって言ってくれたのに……。

 

この寂しさのせいで、翅を動かせない。

 

落下し、雲海へと深く沈もうとした時だった。

 

突然、体が何かに受け止められ、落下が止まった。

 

「どこに行こうとしてたんだ。キリさん心配してたよ」

 

聞き覚えがある男の子の声。

 

驚いて目を開けると、そこにはくせっ毛気味で所々ハネている紺色の髪に同じ色の瞳を持ち、少し女顔よりだが整っている顔立ちをした少年の顔があった。そして、青と黒をベースとした服を身に纏い、青いフード付きマントが羽織られていた。

 

少年は両手であたしを抱きかかえ、雲海の直前でホバリングしている。

 

「りゅ、リュウ君……?」

 

リュウ君を見て少々驚きながら、翅を羽ばたかせてリュウ君の腕から抜け出して宙に浮く。

 

今のリュウ君の姿はALOの姿ではない。現実の彼の髪と瞳を黒から紺色にしただけとなっている。

 

「もしかして、リュウ君もSAOのアバターにしたの?」

 

「ああ……」

 

新しいALOは、元SAOプレイヤーがこのゲームにアカウントを作成する場合、SAO時代のキャラクターデータを引き継げるようになっている。そのため、リュウ君とお兄ちゃん以外の皆は、妖精の姿はしているものの現実の姿に近い姿となっている。お兄ちゃんは「あの世界のキリトの役目はもう終わった」ということで元の姿に戻らなかったが、リュウ君はどうしてなのかは知らない。

 

疑問に感じていると、リュウ君の口が開く。

 

「最初はSAO時代の俺に戻る気はなかったんだ。あの世界には思い出したくないことがいっぱいあったし、あの世界の俺がゲームを楽しんでいいのかなって……」

 

リュウ君はSAOでいっぱい苦しい思いをして苦しんでいたのは、あたしも知っている。このことを思い出したくないから、引き継がなかったんだと納得がいく。でも、急にどうしてSAO時代のキャラクターデータを引き継いだのだろう。

 

すると、リュウ君はその疑問に答えてくれた。

 

「だけど、キリさんがそれだけじゃないことを思い出させてくれたんだ。SAOをやったからこそ、キリさんやアスナさんたちにも出会えたし、今の俺があると思うんだよ。それに、俺もSAOをやり始めてすぐに仮想世界に魅了されたし、いつまでも過去のことを気にしていると、(あん)ちゃんやファーランさんやミラに怒られるからな」

 

「そっかぁ。じゃあ、あのリュウ君と会って旅したのはお兄ちゃん……キリト君を除いたらあたしだけなんだね」

 

だけど、正直言うとあたしと旅をして共に戦ったあのリュウ君がいなくなったようで寂しい気がする。

 

「あ……でも、アバターはSAOのだけど服とかはリーファと旅したときのものを修復してバージョンアップしたものなんだ。初めてリーファと出会って、一緒にALOで旅したことを忘れなくてな。今羽織っているこのフード付きマントはリーファがくれたものなんだよ」

 

リュウ君は微笑んで答える。

 

よく見ると、リュウ君が今羽織っている青いフード付きマントは、前にあたしがプレゼントしたものだ。一緒に世界樹まで旅をした時のものは、レデュエたちとの戦いで修復不可能なくらいボロボロになり、あたしはその時リュウ君に助けられたお礼もかねてリュウ君にプレゼントしたのだった。レア素材で作ってもらったこともあって思っていたよりも高くついてしまったが、リュウ君が喜んでくれたから後悔はしていない。

 

あたしも小さく笑った。

 

「じゃあ、今のリュウ君はSAOとALOのリュウ君を受け継いだ姿ってことだね」

 

「そう言うことになるかな。髪と目の色は前の俺と偶然同じになったからな」

 

あたしと旅したことを忘れないようにしてくれて、あたしがプレゼントしたものを愛用してくれたことが嬉しかった。

 

立ったまま宙を移動し、リュウ君の右手を取った。

 

「ね、リュウ君。踊ろうよ」

 

「え?」

 

目を丸くするリュウ君を引っ張り、雲海の上を滑るようにスライドする。

 

「踊るって、そんな機能あったっけ?」

 

「最近開発した高等テクなの。ホバリングしたままゆっくり横移動するんだよ」

 

「だけど俺、音ゲーはあまりやったことないし、体育でもダンスだけは苦手だったんだよなぁ……」

 

「リュウ君、運動神経いいし、随意飛行もすぐに覚えたから大丈夫だよ。あたしがちゃんと教えてあげるから」

 

「わかったよ、リーファがそこまで言うなら……」

 

早速リュウ君の手を掴み、教え始める。

 

最初は何度もバランスを崩し、随意飛行の時と違ってかなり苦戦していた。だけど、やっているうちに少しずつぎこちない動きではなくなっていき、10分ほどでコツを掴んだ。

 

「こ、こうかな?」

 

「そうそう。うまいうまい」

 

そして、あたしは腰のポケットから小さなビンを取り出した。ビンの、空中に浮かせると、ビンの口から星屑のような光のつぶが溢れ出し、澄んだ弦楽の重奏が聞こえてくる。プーカのハイレベル吟遊詩人が、自分たちの演奏を詰めて売っているアイテムだ。

 

リュウ君は一旦あたしから距離を取り、跪いて左手を差し出してきた。

 

「えっと、じゃあ……俺と一曲踊っていただけませんか……?」

 

「はい、喜んで」

 

少しぎこちない感じだったが、笑顔でリュウ君の手を取る。正直言うと草食系のリュウ君がこんなことをしてきたのには、少々驚いてしまった。

 

音楽にあわせ、あたしたちはステップを踏み始めた。

 

両手を繋いだリュウ君の目をじっと見て、動きの方向をアドリブで合わせていく。大きく、小さく、また大きくと、蒼い月光に照らされた無限の雲海を2人の妖精が舞う。まさに、空に舞う妖精の踊り……フェアリィ・ダンスと言ってもいい。

 

リュウ君は青いフード付きマントを羽織っていることもあって、ファンタジー系の物語に登場する勇者か王子様のように見える。そして、あたしはなんだかお姫様になった気分だった。

 

指先からリュウ君の温もりが伝わる。この時間がずっと続けばいいと思う。だが、小瓶から溢れていた光の粒と音楽は次第に薄れていく。

 

「リーファ?」

 

「あたし、今日はこれで帰るね……」

 

「どうして……?」

 

目からは涙が溢れ出してきた。

 

「だって遠すぎるよ。リュウ君やお兄ちゃん……皆がいるところ……。あたしじゃ、そこまで行けないよ……」

 

「スグ……」

 

あたしも本当は皆と……大好きなリュウ君と一緒にいたい。だけど、あたしには……。

 

ここにいるのが辛くなって帰ろうとしたとき、リュウ君があたしの手を掴んだ。

 

「帰るのはちょっと待ってくれないか……」

 

リュウ君は真剣な瞳で見つめてそう言うと、あたしの手を引いて最高速度で世界樹の方へ飛んでいく。世界樹の近くまで来ると急ブレーキをかける。止まりきれず、衝突しそうになったあたしを彼が優しく受け止めてくれた。

 

この時、リュウ君の顔が近かったこともあってドキッとしてしまう。

 

「そろそろ時間だから月を見てて」

 

リュウ君が夜空に浮かぶ月に向かって指を指した。

 

「月がどうかしたの?」

 

何なのかわからないまま、月の方を見る。よく目を凝らしてみると、巨大な黒い影が月を遮っていく。そして、ゴーン、ゴーンと重々しく鳴り響く鐘の音。

 

近づいてきた黒い影は、それは幾つもの薄い層を積み重ねて作られている円錐形の物体の建築物だった。底面からは三本の巨大な柱が垂れ下がり、その先端も眩く発光している。全体の大きさはかなりのものだ。現実にあるどの建築物よりも何倍も高い。

 

「あ、まさか……まさかあれは……」

 

あんなに巨大な建築物は()()しか考えられない。それはゆっくりと世界樹の上部の枝とわずかに接するほどの距離で停止し、明るく照らされる。

 

間違いない。あれは2年間、リュウ君やお兄ちゃんたちを閉じ込めた浮遊城。

 

「そう、あれが《浮遊城アインクラッド》だよ」

 

「で、でも……何でここに?」

 

「決着を付けるためだよ。アインクラッドはまだ100層まではクリアされてない。今度は完全クリアする。もちろんデスゲームじゃなくて、普通のゲームで楽しんでな。俺も数日前に知ったばっかりだからこのことを聞かされたときは驚いたよ」

 

すると、リュウ君があたしの手を掴む。

 

「1人じゃ無理だったらまずは手を伸ばしてみればいい。そうすれば俺が……皆がリーファの手を掴む。もしも行けないっていうなら俺がリーファの手を引いて連れて行くよ」

 

「ねえ、リュウ君はどうして……いつもあたしのために……そこまでしてくれるの?」

 

リュウ君は頬を赤く染めて少し間を開けてから答えた。

 

「俺、リーファ……スグのことが好きだからだよ。5年前からずっと……」

 

「へ?」

 

突然、リュウ君が言った内容があまりに驚くものでフリーズしてしまう。あたしがこんな状態でもリュウ君は言葉を続ける。

 

「一度はキリさんのこととかがあって、スグやリーファのことを諦めようと思ったんだけど、やっぱりこの想いは捨てられなかった……。俺はスグだけじゃなくてリーファも好きになって……二度も君に恋をしたんだよ。だから俺と一緒に来てくれるかな?」

 

5年前からずっと想いを寄せていた彼からのまさかの告白。絶対に実ることはない、想いが届くことはないと諦めていたあたしの初恋。でも、そんなことはなかった。想い続けてよかった。

 

「あたしも……5年前からずっとリュウ君のことが好き。だから行くよ、リュウ君とどこまでも一緒に……」

 

精一杯の笑顔を浮かべ、あたしも自分の想いをリュウ君に伝える。嬉しさのあまり、再び涙が頬を伝って落ちた。

 

リュウ君がそっと背中に手を回してあたしを抱きしめ、あたしは両手をリュウ君の頬にやる。そして、ライトアップされたアインクラッドをバックに、あたしたちは唇を重ねた。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺たちは10秒ほどで唇を離す。唇を重ねるだけの軽いキス。それだけだったが凄く恥ずかしい。頬は熱くなっており、間違いなく俺の顔は赤くなっているだろう。そのせいでリーファをまともに見ることができない。リーファも頬を赤く染めて恥ずかしそうにして俺と目を合わせられないでいる。

 

「俺、ファーストキス……だったんだけど……」

 

「あ、あたしも……」

 

恥ずかしさのあまり会話が続かない。

 

「おーい!何やってんだ、リュウ!」

 

足元の方向から声がし、俺とリーファはビクッとしてしまう。

 

見ると腰に刀を差したサラマンダーのクラインさんがいた。いたのはクラインさんだけじゃない。巨大なバトルアックスを背負ったノームのエギルさん、クラインさんと同じくサラマンダーで腰に刀を差したカイトさん、槍を背負った俺と同じインプのザックさん、小柄のシルフで錫杖を背負ったオトヤ、赤と白をベースとした格好をしたレプラコーンのリズさん、ピナを連れたケットシーのシリカ。

 

さらにアルゴさんや黒猫団といったSAOから帰還した人たち、シルフとケットシーのプレイヤーを数人連れたサクヤさんとアリシャさん、レコンにユージーン将軍率いるサラマンダーの部隊もいる。

 

他にも沢山のALOプレイヤーたちもいて、全員がアインクラッドに翅を広げて飛んでいく。

 

「置いていくぞ!」

 

「お先!」

 

「先に行くぞ」

 

「絶対に追いついて来いよ」

 

「皆待ってるよ」

 

「ほら」

 

「早く!」

 

クラインさん、エギルさん、カイトさん、ザックさん、オトヤ、リズさん、シリカの順で俺たちの前を通り過ぎていく。この様子だとキスしたところは見られていないようだ。

 

そして、俺たちの目の前で大剣を背負ったスプリガンのキリさんとウンディーネを選んだアスナさんが止まる。

 

「お前ら、ちょっと顔が少し赤くなってなるけど、どうかしたのか?」

 

キリさんにそう指摘されると、俺とリーファはさっきキスしたことを思い出し、更に顔を赤く染めて慌てる。

 

「な、何でもないですよっ!」

 

「お兄ちゃんの見間違えじゃないのっ!」

 

「そ、そうか……」

 

――なんか、さっきより顔が赤くなっているような。

 

キリさんは俺たちの気迫に圧倒され、これ以上は触れないようにする。

 

キスしたから顔が赤くなったなんて絶対に言えない。でも、皆に見られずに済んでよかった。

 

キリさんは絶対問い詰めてきて、リズさんやザックさんは冷やかしてくるし、クラインさんとレコン……特にレコンに至っては暴走して俺に襲い掛かってくるのは間違いないからな。

 

アスナさんは今の俺たちのやり取りを見て笑い、リーファに手を差し伸べてきた。

 

「さあ、行こう。リュウ君、リーファちゃん」

 

俺が頷くとリーファはアスナさんの手を取る。

 

「なあ皆。俺、ステータスをリセットして弱くなっちまったからさ、アインクラッド完全攻略するの手伝ってくれないか?足引っ張るとカイトに怒られそうだからさ」

 

その瞬間、周囲は笑いに包まれる。そういえば、キリさんは「あの世界のキリトの役目は終えた」って言ってステータスをリセットしたからな。まあ、これがキリさんらしくていいけど。

 

「もちろんだよ!」

 

「あたしに任せてお兄ちゃん!」

 

「キリさん、プレイヤーは助け合いですよね」

 

アスナさん、リーファ、俺の順に言う。全員もちろんOKだった。

 

「皆さん、早く行きましょう」

 

ピクシーのユイちゃんがそう言い、アスナさんの肩から移動してキリさんの肩に止まる。そして、俺たちはアインクラッドを見る。

 

デスゲームの舞台となった浮遊城アインクラッド。その歴史を塗り替えてやる。いつになるかはわからないが、俺には頼れる仲間たち、そして大切な人がいる。皆がいれば……。

 

「よし、超強力プレイでクリアしてやるぜ!!」

 

俺たち4人もアインクラッドへと飛び立った。

 

 

 

 

 

The Game Ends

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

The Game Never Ends?




どうも、ついにリメイク版のフェアリィ・ダンス編しました。多くの読者の皆様のおかげです。ありがとうございます!

前半は旧版とはあまり変わりありませんでしたが、後半は色々と異なるものとなりました。

リメイク版のフェアリィ・ダンス編を書き終えたとき、こうしてみると仮面ライダーネタが多いなと思いました(笑)。当初はオーズと鎧武とドライブだけだったんですけど、途中からエグゼイドのネタも出てくるように。そして前回はビルドネタが少々出ました。ビルドネタではありませんが、ALOのリュウ君ってクローズとカラーリングが同じ気がしますし(笑)

中でも一番違ったのはリュウ君と直葉/リーファの恋愛ストーリーでしょう。リメイク版では2人は小学生の頃から知り合いで、リュウ君が原作の直葉/リーファの立場になるという展開にしました。リメイク版を書き始めたときに原作を読み直していたら、もしもリュウ君が直葉/リーファの立場になったらどうなるんだろうかという好奇心から、これでいこうと思いました。このおかげで直葉/リーファが救済され、代わりにリュウ君がかなり可哀想なことになってしまいました。でも、こういう困難を乗り越え、最終的に片想いと思っていた相手とは実は両想いで結ばれるのもいいかなと思ってます。

ラストのところで前に描いたリュウ君とリーファのキスシーンを入れてみました。リュウ君の髪の毛は、終わりのセラフの百夜ミカエラ、fateシリーズに登場するシャルルマーニュやジークみたいにくせっ毛なので、描くのが大変でした。旧ALOではアルティメイタム時の映司みたいにくせっ毛ではないので、そっちの方が簡単そうだなと思いました(笑)

そして、旧版はもちろんのこと、リメイク版のアインクラッド編以上にリュウ君が主人公らしいところを書けてよかったです。リュウ君と直葉/リーファのラブストーリーはもちろん、終盤のレデュエ/蛮野戦は書いてて楽しかったです(挿入歌として乱舞Escalationを聞きながら書きました)

一応今回で第一部完結的なものとなりました。次回からは旧版のようにGGO編までの話をやりたいなと思います。しかし、後半部分は皆で海に行ったり、肝試しをやる話以外はやらないつもりです。理由はキャリバー編的なことをオリジナルでやりたいなと挑んだところ、結構グダグダな感じになったためです。もしかすると気が向いたら、平成ジェネレーションズとかを元にしたものをやるかもしれません。

遅くなるかもしれませんが、これからも頑張りますのでよろしくお願いします。

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