ソードアート・オンライン Dragon Fang《リメイク版》 作:グレイブブレイド
私事になりますが、今回の話の執筆中に戦闘曲として、SAO編で闇落ちしたリュウ君のイメージソングでもあった「Wish in the dark」を聞きながら書きました。この章の戦闘曲は「乱舞Escalation」となってますが、今回は「Wish in the dark」が合いそうだったので。どちらも元々は仮面ライダーの戦闘曲だったので、今後の話やゲーム版でも挿入歌として聞きながら執筆するかもしれないです。
それでは今回の話になります。どうぞ。
俺とリーファも急いでキリさんを追って上昇するが、ロケットブースターのように加速していくキリさんにはとても追いつけなかった。
「気をつけて、キリト君!!すぐに障壁があるよ!!」
リーファがキリさんに向かって叫ぶ。だが、キリさんに声が届いた様子はなかった。
分厚い雲海を突き抜けて更に上昇を続けていたところ、俺たちのずっと前を飛んでいたキリさんが大きな衝撃音を立てて見えない障壁にぶつかる。それでもキリさん再び上昇を開始し、見えない障壁に行く手を阻まれる。
ようやく追いついた俺は何度も上昇を続けようとするキリさんを取り押さえる。
「キリさん、落ち着いて下さいっ!ここからじゃ無理ですよ!!」
「行かなきゃ、行かなきゃいけないんだ!!放せ!!放せよ!!」
完全に俺の声はキリさんには届いていない。
すると、キリさんの胸ポケットからユイちゃんが飛びだし、世界樹の上に向かって叫んだ。
「警告モード音声なら届くかもしれません……!ママ!!わたしです!!ママー!!」
キリさんは何度も見えない障壁を叩きつけていた。
「何なんだよ……これは……!」
俺とリーファ、ユイちゃんは黙ってこの光景を見ていることしかできなかった。アスナさんがいるところまであともう少しのところで、俺たちの手はアスナさんに届かなかった。ここでも俺の手は届かないのかと悔やんでいた時だった。
上空から何か光るものが落ちてくる。それはキリさんの手のなかにゆっくりと収まった。落ちてきたのは文字や装飾類は何もない1枚の銀色のカードだった。
「リーファ、これ何だかわかるか?」
「ううん、こんなアイテム見たことないよ。 クリックしてみたら?」
試しにキリさんがカードをクリックしてみたが、メニューウインドウは表示されなかった。すると、ユイちゃんがカードの縁に触れてみる。
「これ……これは、システム管理用のアクセス・コードです!!」
「じゃあ、これがあればGM権限が行使できるのか?」
「いいえ。ゲーム内からシステムにアクセスするには、対応するコンソールが必要です。わたしでもシステムメニューは呼び出せないんです……」
「そうか……」
「で、でも……システム管理用のものが落ちてくるなんて普通ありえませんよね。ってことはもしかして……」
「はい。ママがわたし達に気付いて落としたんだと思います」
キリさんはそっと握り締め、目を瞑る。そして、リーファに尋ねる。
「リーファ、教えてくれ。世界樹の中に通じてるっていうゲートはどこにあるんだ?」
「樹の根元にあるドームの中だけど……。で、でも無理だよ。あそこはガーディアンに守られてて、今までどんな大軍団でも突破できなかったんだよ」
「それでも、行かなきゃいけないんだ」
キリさんはカードを胸ポケットにしまい込み、リーファと向き合った。
「今まで本当にありがとう、リーファ。君はここまででいいよ。あとは自分でなんとかする」
そう言い残すとキリさんはユイちゃんと共に世界樹の最下部を目指して飛んで行く。俺も後を追って行こうとする。しかし、その前にリーファの手を取った。
「前にも言ったけど、これはキリさんにとって大事なことなんだ。俺や君がなんと言おうと止めることはできないよ。それに、俺もキリさんを世界樹の上にどうしても行かせてあげたいんだ。だから俺も行くよ。俺、ここまでリーファと冒険できて本当に楽しかったよ。君と出会えてよかったと思う」
間違いなく俺はリーファに惹かれている。この想いはスグのことを諦めるために、彼女と雰囲気が似ているリーファのことを好きになろうとしているだけのかもしれない。だが、それでも構わないと思っている俺がいた。
アスナさんを救い出して全て終わったらリーファに会いに来よう。そして、俺の気持ちをリーファに伝えるんだ。
「全て終わったら絶対にまた君に会いに来るよ。じゃあ……」
そう言い残し、キリさんを追うように世界樹の最下部を目指して飛んで行く。
世界樹の根元にたどり着くとそこには、プレイヤーの十倍はあろうかという高さを誇る妖精の騎士の像が2体並んでいた。その二体の像の間には、華麗な装飾を施した巨大な石造りの2枚扉があった。そして、キリさんがいた。
俺はキリさんの後ろのところに下りたって彼に声をかけた。
「キリさん、待って下さいよ。ここまで来て自分1人で行くつもりですか?」
「リュウ…」
「言ったじゃないですか?プレイヤーは助け合いだって」
「そうだったな」
扉に近づくと扉の脇にある巨大な像からの声がする。
『未だ天の高みを知らぬ者よ。王の城へと到らんと欲するか』
同時に俺たちの目の前に【グランドクエスト《世界樹の守護者》に挑戦しますか?】というメニューウインドウが表示された。俺たちは迷うことなく、イエスと書かれているボタンに手を触れる。
『さればそなたが双翼の天翔に足ることを示すがよい』
すると、交差していた剣がゆっくりと上がり、巨大な石造りの2枚扉は地響きを上げて左右に開いていく。この光景はアインクラッドのフロアボス攻略戦を思い出させるものだった。だけど、この世界で死んでも現実でも死ぬことはないから大丈夫だ。
ついに巨大な石造りの2枚扉は完全に開ききった。
「行くぞ、ユイ。しっかり頭を引っ込めてろよ」
「パパ、リュウさん……がんばって」
キリさんはユイちゃんを胸ポケットにしまう。そして、俺たちは武器を手に持つとゲートの中へと歩み出す。
ゲートの中はアインクラッド第75層フロアボスの部屋のように、とてつもなく広いドーム状の空間だった。だが、天井はそれよりも遥かに高い。樹の内部になっているため、床や壁は太いツルや根が絡み合って出来上がっている。壁には窓のようなものがいくつもある。そして、天井には十字の入った巨大な円形の石造りの扉がある。あれが世界樹の頂上への入口だろう。
俺たちは翅を広げ、両足に力を込めて天井にある扉に目がけて飛び上がった。
飛び上がって一秒も立たないうちに、いくつかの窓が光りだし、そこから4枚の白い翅を生やして白い鎧に身を纏った騎士が出てきた。あれがガーディアンに違いない。大部隊をも全滅させるほどの奴だ。どれほど強いんだ。
2体のガーディアンが迫って来る。
「そこをどけええええっ!!」
キリさんは絶叫しつつ大剣を振るって一撃でガーディアンを倒す。もう1体の方も俺の攻撃を一撃喰らっただけで倒すことができた。
何だ、このガーディアンたちは。あまり手ごたえがない。これならイケると思い、更に上昇を続ける。だが、上空を見た瞬間、俺たちは絶句した。
そこには数十……いや数百といったガーディアンたちが出現していた。
「嘘だろ……あんなにもガーディアンが……」
「それがどうしたっ!上等だぁぁぁぁっ!!」
それでもキリさんは叫び、上昇を続ける。俺もキリさんの後を追うように上昇する。だが、無数のガーディアンたちが俺たちに襲い掛かる。
俺たちはガーディアンを次々と倒していくが一向に数は減らない。それどころか、数はますます増えていく一方だ。ガーディアンたちと死闘を繰り広げている内に俺とキリさんは分断され、1人で何十体ものガーディアンと戦うことを強いられる。
ドームの2か所で白いエンドフレイムがいくつも上がる。
俺たち2人で何体もガーディアンを倒していくが、敵の数が多いこともあってそれなりにダメージも受けていく。この戦いはいつになったら終わるのだろうか。終わりが見えない戦いにくじけそうにもなった。その時
『俺はオレンジプレイヤーになっても、アンタを殺してでも蘇生アイテムを手に入れる!そのためにここにいるっ!!』
『俺は……俺は現実でもこの世界でも大切な人を失った。手を伸ばしても届かなかった俺の腕……。だから俺は欲しかった!何処までも届く俺の腕、力!!』
幻の夢を追い求めて光が一切ない闇の中を彷徨って戦い、許されないことをしたときの出来事が脳裏によぎる。
さらにキリさんが叫び声を上げながら戦う光景が目に止まった。数体のガーディアンが同時に襲い掛かって攻撃を受けてもガーディアンたちを倒していく。
この光景を見て俺はこの世界にやって来た目的を思い出す。
――そうだ、キリさんのためにアスナさんを助けだし、あの世界の戦いを完全に終わらせる。これが俺にできるキリさんへの償いなんだ。
俺は再び剣を振り、ガーディアンを斬り裂き、貫いていく。
ふと見上げると、なんとかガーディアンを振り切ってゲートに向かって上昇していくキリさんの姿があった。あともう少しだと思った時だった。
1本の光の矢がキリさんの左手を貫く。
彼の周りには先ほどとは違って弓矢を構えていたガーディアンが何十体もいた。そして、弓矢を構えていた何十体のガーディアンから一斉に矢が放たれてキリさんの体を貫いていく。
それでも上昇を続けるキリさん。だが、追い打ちをかけるようにガーディアンの剣が何本もキリさんに突き刺さる。
「キリさぁぁぁぁんっ!!」
すぐにキリさんの元へ上昇し、右手を伸ばすが、キリさんは黒いリメインライトへと姿を変える。
俺はこの光景を見て凍り付いてしまったかのように動けなかった。
そして、脳裏にいくつかの記憶が鮮明にフラッシュバックする。
その瞬間、俺の中で縛られていた鎖が破壊されたような気がし、赤い目の巨人と同様にガーディアンたちへの怒りと殺意が沸き上がってきた。
剣を強く握りしめ、猛スピードでキリさんのリメインライトの元へと飛行する。その間にも複数のガーディアンが迫ってくる。剣を逆手持ちにし、左後ろから接近してきたガーディアンの顔面を貫き、一足遅れて迫ってきた5体のガーディアンを逆手持ちのままで斬撃を与える。
「うおおおおおっ!!」
順手に持ち直し、迫ってくるガーディアンたちを次々と倒していく。SAOで赤い目の巨人をはじめ、何十体もの巨人型モンスターたちを倒していったときの感覚を思い出す。
――コイツらは倒すんじゃない。殺す!!
ガーディアンたちへの憎悪と殺意を糧に剣を振る。ガーディアンたちは次々と白い炎へと姿を変え、奴らが持っていた剣や弓矢の残骸が下に落ちて行き、ポリゴン片となって消滅する。だけど、ガーディアンは次々と出現し、俺に迫ってくる。
「邪魔をするなあああああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
ドーム中に響き渡るぐらいの音量で叫び、ガーディアンたちを睨む。そして、持っていた剣の刃部分にがかった金色の光が纏う。
――《ガッシュクロス》!!
金色の光が纏った刃でX字に切り裂く2連撃が目の前にいたガーディアン数体を斬り裂く。
数体のガーディアンが消滅した直後、7体ものガーディアンが遅れて一斉に接近して来る。反動で硬直状態となっている俺に剣が振り下ろされる。
「ぐっ!!」
硬直状態が解け、今度は白い光りが刃に纏う。
――《ソニック・ブレイカー》!!
神速で振るわれた6連撃の技が炸裂。接近してきたガーディアンは全部斬り裂かれて白い炎へと姿を変えた。
そして、すぐにキリさんのリメインライトを回収し、今度は一直線に出口を目指した。
だが、上空にいた弓を持つガーディアンたちが俺に目がけて弓矢を放ってきた。右に左に進路を揺らし、敵の狙いを外そうとするが、降り注ぐ矢は雨のような密度でとても避けきれない。何発も身体に命中する。
「っ……!!」
仮想世界特有の不快な感覚が伝わるも飛行速度を落とさなかった。だが、目の前には10体以上の剣を持ったガーディアンが行く手を阻んでいる。
突如、ガーディアンたちは出口の方から飛んできた緑色に光る旋風に巻き込まれて次々と消滅していく。
すぐに出口の方に目を向けるとこちらに凄まじいスピードで飛んでくるリーファの姿があった。
「リーファっ!?」
「リュウ君、キリト君はっ!?」
「ガーディアンたちにやられた!だけど、リメインライトは回収したから安心しろ!ガーディアンは俺が足止めするからリーファはキリさんを頼む!」
「うん!」
キリさんのリメインライトをリーファに渡し、今も接近してくる2体のガーディアンを迎え撃つ。
1体目の首を切り落とした直後、もう1体が俺に剣を振り下ろそうとする。
咄嗟に剣でガーディアンの剣を受け止める。直後、巨大な火花が散り、受け止めたところからピシッと何か変な音が聞こえた気がした。だが、今はそんなことを気にしている暇はない。すぐに剣を弾き飛ばし、ガーディアンを真っ二つにする。
俺もすぐに脱出しようと出口を目指すが、再び弓を持ったガーディアンたちが一斉に矢を放ってきた。何本も身体中に命中し、バランスを崩して地面に落下する。それでも俺は最後の力を振り絞ってドームから飛び出た。
ドームから出た時にはすでにHPはレッドゾーンへと突入しており、あともう少しで0になるところだった。
「リュウ君、大丈夫!?」
俺の元にリーファがやって来る。
「リーファ……。HPはほとんど残ってないけど、なんとか無事だよ……。俺よりもキリさんは大丈夫なのか……?」
「リメインライトはまだ消えてないから蘇生することはできるよ」
リーファはメニューウインドウを操作し、ピンク色の液体が入った小瓶をオブジェクト化させる。中に入っていたピンク色の液体をキリさんのリメインライトにかける。すると、黒い煙が立ち昇りキリさんが姿を現した。リーファが今使ったのはプレイヤーを蘇生させるアイテムみたいだ。
キリさんが復活して安心したところ、先ほどの戦闘による疲労がドッときて意識を失った。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
復活したキリトが真っ先に目に止まったのは、ゲートの端にある巨大な像に背中を預けて気を失っているリュウの姿だった。そして、リーファは気を失っているリュウに回復魔法を使ってHPを回復させていた。
「リュウ……」
「HPは回復したけど、攻撃を受け過ぎたせいなのか気を失ってしまったの……」
「俺のせいでリュウがこんなに傷ついてしまったのか……」
気を失っているリュウを見てキリトは言葉を失った。
自分のせいでリュウが再びナーヴギアを使って仮想世界に行くことになり、ここまで傷つけてしまった。リュウはキリトと一緒にALOに行くのは自分の意思だと言っていたとはいえ、キリトはリュウを巻き込んでしまったことを後悔する。
「リュウ、俺のわがままのせいでこんなことに巻き込んでしまってゴメンな……。だけど、ここまで俺に付いて来てくれてありがとな。あとは俺1人でなんとかする。リーファ、リュウのことは任せたぞ」
キリトは気を失っているリュウをリーファに任せ、再び巨大な石造りの2枚扉へと足を踏み出す。
「き、キリト君待って!1人じゃ無理だよ!!」
「そうかもしれない。でも、無理でも行かなきゃ……。あそこに行かないと、何も終わらないし、何も始まらないんだ。会わなきゃいけないんだ。もう一度……アスナに……」
その瞬間、リーファは目を大きく開き驚きを隠せないでいた。
「今……今、何て……言ったの……?」
「ああ……アスナ、俺の捜してる人の名前だよ」
「でも……だって、その人は……。もしかして……お兄ちゃんとリュウ君なの……?」
それを聞いたキリトも顔色を変えてリーファを見る。
自分のことを『お兄ちゃん』と呼ぶのはこの世で1人しかない。そして、目の前にいるシルフの少女……リーファは何故か女の子というよりは直葉のように妹にしか見えないでいたことを思い出す。記憶の中の2人の姿が完全に一致した。
「お兄ちゃんって……まさか、スグ……直葉なのか……?」
キリトはほとんど音にならない声で、その名を呼んだ。
「ねえ、どういうことなのっ!?アスナさんってまだ目覚めないで病院で寝たきりなんでしょ!なのにどうしてアスナさんがここにいるのっ!?話してよ、お兄ちゃんっ!!」
「そ、それは……」
リーファの気迫に圧倒され、キリトは困惑して何も言うことができないでいた。
「お兄ちゃん、あたし知っているんだよ。お兄ちゃんとあたしが本当は血が繋がっていないってことを……」
「知っていたのか……?」
「うん。2年前……お兄ちゃんがSAOに捕われてからお母さんから聞いて……。でも、あたしは血が繋がっていないことなんて気にしてないから、お兄ちゃんには変わりないよっ!だから、妹のあたしのことも頼ってよっ!!」
リーファ/直葉は僅かに涙を溜めながらキリトに面と向かってそう叫んだ。
「スグ……」
キリト……和人が今の家族は本当の家族ではないと知ったのは10歳の時だった。そして、この頃から家族との距離がわからなくなり、誰もがお互いのことを知らないネットゲームの世界へと踏み入れた。だが、2年間SAOで過ごしている内にアスナやリュウたちと出会い、現実世界も仮想世界も全く変わりないことに気が付いた。
現実世界に帰還してから、和人はこの数年間にできた直葉との距離を取り戻そうとした。直葉は未だに本当の兄妹でないことに気が付いていないと思っていたが、実は知っていて血の繋がりがなくても昔みたいに仲のいい兄妹に戻ろうと頑張っていた。
――俺は常にアスナのことで頭がいっぱいで直葉のことをちゃんと見ていなかったんだ……。
このことに気が付いたキリト/和人は後悔する。だから今は直葉のために自分ができることをしようと決意した。そして、リーファ/直葉の頭に手を乗せた。
「ごめんな、スグ。せっかく帰ってきたのに……俺、お前を見てなかった。自分のことばかり必死になって……お前の気持ちに気づいてやれなかった……」
「お兄ちゃん……」
「だけど、俺……本当の意味では、まだあの世界から帰ってきてないんだ。まだ終わってないんだよ。アスナが目を醒まさないと、俺の現実は始まらない……。だから、全て終わるまで俺が帰ってくるのを待っててくれないか?」
「うん……。あたしもお兄ちゃんが現実に戻ってくるために手伝うよ。説明して、アスナさんのことを……。どうして、お兄ちゃんとリュウ君はこの世界に来たのか……」
キリトはリーファ/直葉に全て説明した。
3日前にアスナの婚約者だという須郷伸之と出会い、須郷はアスナの昏睡状態を利用してアスナの父親がCEOを務めているレクトを乗っ取ろうとしていることを。さらに須郷はALOを運営するレクト・プログレスに務め、そこでアーガス解散後のSAOサーバーの維持管理をしていることを。そして、アスナらしい人物が世界樹の上で目撃されたことを聞き、リュウと共にALOにやって来たということを。
「まさか、アスナさんが……。しかも……ここにいるかもしれないって……。そんなこと許されるわけ……」
全て話し終えた時には、リーファは怒りと動揺を隠せないでいた。リーファ/直葉にとってALOはゲームを楽しんでいたところである。自分の兄の最愛の人がこの世界に囚われていることを知り、今すぐにでもレクト・プログレス……須郷伸之に怒りをぶつけたかったが、とりあえず今は堪えることにした。
そして、笑みを浮かべてキリトを見る。
「わかったよ、お兄ちゃん。あたしにできることなら何でも協力するよ。流石に大船とまでは言えないけど、小船に乗ったつもりでいて」
「せめて大船って言ってくれよ。小船って言われるとなんか心配になってきたなぁ」
「そう言ってくれるだけでもありがたいって思ってよ」
「わかったよ……」
すると、すぐ近くで物音がする。
キリトとリーファがその方に顔を向けると意識を取り戻したリュウが立っていた。
「リュウ」
「リュウ君、よかった。目が覚めたんだね」
2人はリュウが目を覚ましたことに安堵する。
「スグ……直葉って、まさか……」
「うん。あたしの本当の名前は桐ヶ谷直葉だよ、リュウ君」
微笑んで自分の本当の名前を名乗るリーファ。だがその直後、リュウは目を大きく見開き、驚いた表情をする。そして、よろめくように数歩下がった。
リーファとキリトもリュウの異変に気が付く。
「リュウ君、どうかしたの?」
「来るなっ!」
「っ!?」
心配そうにリュウに歩み寄ろうとするリーファだったが、リュウはリーファを拒絶するかのように距離を取る。リーファも今までリュウが自分に叫んだことがないこともあってビクッとする。
「リュウ君……?」
「嘘だろ……。あんまりだ、こんなの……」
リュウはうわ言のように呟き、メニューウインドウを開く。今すぐにでもこの場所から離れようとログアウトボタンに触れようとする。だが……。
「っ!?」
突如リュウの身体に青紫色の電撃が走る。
「ぐわああああああああ!!」
ALOでは攻撃を受けた時は少し不快な感覚がする程度のはずだが、リュウは苦痛を感じているのか絶叫を上げる。
――何だ、これは……。
あまりの苦しみにリュウは意識を失って倒れ込んでしまう。
「おい、リュウ!」
「リュウ君!リュウ君!」
キリトとリーファが呼びかけ、体を揺さぶるが一切反応はない。うつ伏せになって倒れていたリュウを仰向けにしてみるとリュウの眼は閉じておらず、開いていた。ただ眼からハイライトは失っており、ピクリも動かない。その姿はまるで人形のようだった。
「お兄ちゃん、リュウ君どうしちゃったのっ!?」
「俺にも何が何だか……。ユイいるかっ!!」
キリトの呼びかけにピクシー姿のユイが姿を現す。
「パパ、どうかしましたかっ!?」
「今すぐリュウの体に何が起こっているか調べてくれ!」
「わかりました!」
ユイは動かなくなったリュウのおでこ辺りに小さな手を触れて確認してみる。数秒後、何かわかったようで声をあげる。
「リュウさんはログアウトした様子がありません。何かバグかエラーが起きて、こうなっているみたいです。ただ、原因が何なのかは……」
「バグかエラー?」
――SAOのデータが引き継がれたことかナーヴギアを使ったことで起きた原因で起こったからなのか?それともリュウが使ったソードスキルみたいな技が何か関係あるのか?一体どうなっているんだ?
「お兄ちゃん、リュウ君大丈夫なのっ!?」
倒れているリュウを心配してリーファは狼狽える。キリトはそんなリーファを一旦落ち着かせようとする。
「スグ落ち着け。リュウは絶対に大丈夫だ。とりあえず今は近くの宿屋にリュウを運ぶぞ」
「うん。リュウ君しっかりして」
キリトとリーファは両肩から肩を貸してリュウを立たせ、宿屋へと運ぶ。
その時、キリト達は気が付いていなかった。一瞬だけリュウの青い瞳が赤く光ったことを。
この作品の直葉/リーファはリュウ君のことが好きなので、原作のように報われない展開になりませんでした。むしろリュウ君の存在でキリトとあまり大きなトラブルにならずに済み、そして報われる恋に。
これで解決かと思ったら直葉/リーファの代わりにリュウ君が…。前回、春奈るなさんの「Overfly」がフェアリィ・ダンス編のリュウ君に合うと読者の方から頂き、今回の話を書いてまさにそうだなと思いました。何でまたリメイク版のリュウ君は報われない想いやダークヒーローの曲が合うのか…。思いきり私のせいですね…(汗)。
最後は本格的にリュウ君がヤバいことに……。果たしてリュウ君に救済はあるのか。
次回もよろしくお願いします。