ソードアート・オンライン Dragon Fang《リメイク版》   作:グレイブブレイド

40 / 106
予定よりも3日遅れてしまいましたが、今回の話になります。


第8話 ルグルー回廊

2025年1月21日 アルヴヘイム・中立域・ルグルー回廊

 

休憩を終えてから数分の飛行で、俺たちは洞窟の入り口までたどり着くことができた。リーファ曰く、洞窟は《ルグルー回廊》という名前らしい。洞窟には灯りが1つもなく、入ってすぐにすぐに周囲は暗闇へと包まれた。しかし、暗視能力に優れているインプの俺には問題なく洞窟の中が見えている。

 

「この先ずっと真っ暗でほとんど見えないなぁ。こうなったら魔法で灯りでも……。そういえば、リュウ君とキリト君は魔法スキル上げてる?洞窟とかはインプとスプリガンの得意分野だから、灯りの魔法も風魔法よりはいいのがあるはずなのよ」

 

「魔法スキルはあまり上げてないから、今使える魔法にそう言うのはなくて……」

 

「なら仕方ないか。キリト君の方はどうなの?」

 

「俺は一応使えるみたいだけど、あんまり使ったことないからなぁ……。ユイ、分かる?」

 

すると、キリさんの胸ポケットからユイちゃんが出てきて、キリさんに灯りの魔法のスペルワードを教える。ユイちゃんが教えたスペルワードを詠唱すると仄白い光の波動が広がり、俺たちを包み込む。

 

「視界が明るくなった。暗視能力付加魔法か。スプリガンも捨てたもんじゃないわね」

 

キリさんが使った灯りの魔法は暗視能力が付加するというものらしい。だけど、インプの俺にはあまり効果がない魔法だが……。このことはキリさんには言わないでおこう。

 

「あ、その言い方なんか傷付く」

 

「でも、使える魔法ぐらいは暗記しといた方がいいわよ。得意なのは幻惑魔法くらいだけど」

 

「幻惑?」

 

「幻を見せるの。実戦ではあんま使えないけどね。まぁ、スプリガンのしょぼい魔法が生死をわける状況だってないとも限らないし」

 

「うわ、さらに傷つくー」

 

黒が好きだという理由でスプリガンを選んだキリさんの自業自得かもしれないが、なんか可愛そうになってきたな。ここで慰めようと何か言うと「インプのお前に言われると余計に傷つく」とか逆ギレしてきそうだから止めておこう。

 

その彼はというとあれから、何回もやる気のない感じでスペルワードをぶつぶつと呟いていた。

 

「だめだめ、そんなにつっかえたらちゃんと発動できないわよ。機械的の暗記するんじゃなくて、力の言葉の意味を覚えて魔法の効果と関連を付けて暗記するのよ」

 

リーファが言うと、キリさんはため息を吐いてがっくりとうな垂れる。

 

「まさかゲームの中で英語の勉強みたいなマネすることになるとは……。リュウは予め調べて覚えているしよ……」

 

「なんかすいません……」

 

キリさんの言う通り、俺は今使える魔法はログインするまでに調べてスペルワードを覚えておいている。すでにこれまでの戦闘で何回か試しに使ってみたりもした。SAOには魔法はなかったから本当に便利だなと思えるほどのものだった。

 

「言っとくけど上級スペルなんて20ワードくらいあるんだからね」

 

「うへぇ……。俺もうピュアファイターでいいよ……」

 

落ち込むキリさんを慰めながら洞窟を進む。

 

洞窟に入ってすでに2時間近く経過していた。その間に10回以上オーク型のモンスターと戦闘になるが難なく切り抜け、リーファがスイルベーンで仕入れておいたマップのおかげで道に迷うこともなく、順調に進むことができている。このままいけば、もう少しで鉱山都市までたどり着けるだろう。

 

洞窟の中を進んでいると隣にいたリーファが急に足を止める。

 

「あ、メッセージ入った。ごめん、ちょっと待って」

 

リーファにメッセージが届いたようで、メニューウインドウを開いて確認してみる。

 

「レコンからか。えっと『やっぱり思った通りだった。気をつけて、s』、何だこりゃ?エス……さ……し……す……うーん」

 

「どうしたんだ?」

 

「レコンからメッセージが来たんだけど、なんか途中で途切れているの」

 

「間違って途中で送信してしまったとかじゃないかな?俺もたまにやってしまうことがあるから、すぐに続きが来ると思うよ」

 

その時だった。キリさんの胸ポケットからぴょこんとユイちゃんが顔を出した。

 

「パパ、接近する反応があります」

 

「モンスターか?」

 

「いえ、プレイヤーです。全部で15人います」

 

「15人っ!?」

 

「そんなにいるのっ!?」

 

俺とリーファは絶句する。15人となるとSAOでは少なくても3パーティーもの規模となる。大抵は多くても10人前後の2パーティーで十分なはずなのに。

 

「ちょっと嫌な予感がするの。隠れてやり過ごそう。リュウ君は隠密魔法は使える?闇魔法には風魔法より有効なものがあるはずなんだけど」

 

「隠密魔法なら一応初期のやつなら使えるよ」

 

「それなら風魔法の隠密魔法と組み合わせて使えばなんとかなるかも」

 

近くにあった2,3人が入れる窪みに入り、リーファと同時にスペルを詠唱する。すると、目の前に壁が出現して外側から俺たちの姿が見えなくなる。

 

リーファが小声で呟いた。

 

「喋るときは最低のボリュームでね。あんまり大きい声出すと魔法が解けちゃうから」

 

「ああ」

 

「了解」

 

「もうすぐ視界に入ります」

 

ユイちゃんがもうすぐでプレイヤーが来ることを知らせてきて、息をのむ。そして不明集団が接近してくる方向を睨んだ。

 

インプの俺ならこの中で1番洞窟の先までしっかり見えている。目を凝らして見ていると赤い小さなコウモリのようなものの姿を捉えた。

 

「何なんだ、あの赤いコウモリは……?モンスターかな?」

 

そう呟いた途端、リーファは急に慌てて外へと飛び出す。

 

「リーファ、いきなりどうしたんだ?」

 

「リュウ君が見たコウモリは高位魔法のトレーシング・サーチャーよ!!早く潰さないと!!」

 

「何だって!?」

 

リーファはまた何かの魔法のスペルを詠唱する。それが終わると、リーファの両手から緑色に光る針が無数に発射された。緑色に光る針は赤いコウモリを捉える。それが消滅したのを確認すると俺とキリさんに向かって叫んだ。

 

「トレーサーを潰したのは敵にもバレているから、とても誤魔化しきれないよ!走るよ、リュウ君、キリト君!」

 

リーファが急に走り出し、俺とキリさんも急いでその後を追う。

 

「あのトレーサーは火属性の使い魔なの」

 

「火属性ってことはサラマンダーか」

 

「ここまで追ってくるのかよ!しつこいぞ、アイツら!」

 

「でも、どうしてこんなところにサラマンダーの大集団が……」

 

サラマンダーは昨日、俺とキリさんが倒した種族だ。また、あの厄介な奴らと出くわすことになるなんて。

 

スピードを上げて洞窟の中を駆け抜けていくと青黒い大きな地底湖が広がっているところへと出た。地底湖には1本の石造りの橋がかかっている。その先に鉱山都市へと繋がる門がある。鉱山都市の中に入ってしまえばこっちのものだ。しかも、追って来るサラマンダーたちとはまだかなりの距離がある。

 

「もうすぐで鉱山都市だ」

 

「どうやら逃げられそうだな」

 

「油断して落っこちないでよ」

 

2人と短く言葉と笑みを交わして走っている内に橋の中央まで来た。その時だった。

 

背後から2つの光が高速で通過する。何かの魔法だろうか。それは俺たちに命中することなく、鉱山都市へと繋がる門の前の地面へと命中。そして、轟音を立てながら橋の表面から巨大な岩壁がせり上がってきて、行く手を塞ぐ。

 

俺とリーファは足を止めたが、キリさんは止まるもことなく、背負っている大剣を取り出し、壁に目がけて振り下ろした。だが、大きな衝撃音と共に弾き返されて橋に叩きつけられる。岩壁には傷ひとつついていない。それでもキリさんは何回も岩壁に叩き込む。

 

「硬えんだよ!何でだよっ!ああ、痛え……」

 

何かSAOで《セイリュウインベス》の強化前と戦ったときと同じことをしているな……。

 

「無駄よ」

 

「もっと早く言ってくれよ……」

 

「君がせっかちすぎるんだよ。これは土魔法の障壁だから攻撃魔法をいっぱい撃ち込まないと破壊できないよ」

 

「だけど、アイツらは待ってくれそうになさそうだよ」

 

俺たちが来た方から、4人の赤い分厚い鎧に身を包んだ大柄のサラマンダーに、赤いローブを被った11人のサラマンダーたちがやって来る。

 

「これはマズイよ。今はインプのリュウ君しか飛ぶことはできないし、ここの湖には超高位レベルの水竜型モンスターがいるの。飛んで回り込むのはあたしとキリト君は無理だし、湖に飛び込んでウンディーネの援護なしに水中戦するのは自殺行為だよ」

 

「そうなると戦うしか道はないってことか……」

 

「うん。だけど、ちょっとヤバいかも。サラマンダーがこんな高位の土魔法を使えるってことは、よっぽど手練のメイジが混ざってるんだわ」

 

「敵が15人もいるっていうだけでも厄介なのに、その中に手練のメイジがいるのかよ……」

 

そんなことをぼやくも覚悟を決め、俺は右腰の鞘から剣を抜き取って構える。リーファも愛剣を取ろうとしたとき、キリさんがリーファの方をちらりと見て言った。

 

「リーファ。君の剣の腕を信用してないわけじゃないんだけど、ここはサポートに回ってもらえないか?」

 

「え?」

 

「俺たちの後ろで回復役に徹してほしいんだ。全員で攻めるよりは、こういう役割が1人でもいてくれた方が助かるんだよ」

 

確かにキリさんの言う通りだ。俺もキリさんも回復魔法は使うことはできない中、リーファに回復役をやってもらった方がいい。リーファはこくりと頷き、長刀を鞘に収めて後ろの方に退いた。

 

「俺が先に攻撃する。リュウは俺に続いて攻撃してくれ」

 

「はい!」

 

俺とキリさんが愛剣を持って構えていると、先頭にいる4人の重戦士のサラマンダーがやって来る。そんなこと関係なく、キリさんは先陣を切り、サラマンダーたちに突撃する。俺もその後に続くように地面を蹴った。

 

「ん?」

 

先頭にいる重戦士のサラマンダーを見て妙なことに気が付く。

 

4人全員が左手にメイス、右手にタワーシールドを持っている。SAOやALOのようなVRMMOだと利き腕は現実世界と同じだからサウスポーのプレイヤーは少ないはずだ。実際にSAOでも俺の周りにいたサウスポーのプレイヤーは俺を含めても数は圧倒的に少ない方だった。だから、前衛の4人全員がサウスポーだというのは明らかにおかしい。

 

キリさんにこのことを伝えるよりも前に、彼は先頭にいるサラマンダーたちに大剣を振り下ろす。重戦士のサラマンダー4人は右手の盾を前面に突き出し、盾の陰に身を隠した。

 

その直後、大きな金属音が響き渡る。重戦士のサラマンダーたちは少し後ろに推し動かされただけで、HPも2割ほどしか減っていなかった。

 

「リュウ、スイッチ!」

 

キリさんと入れ替わるように前に出て、俺もサラマンダーたちに斬撃を与える。しかし、キリさんよりパワーが劣る俺では彼よりもHPを削ることができなかった。

 

もう一度キリさんと入れ替わるよりも先に、後ろにいた4人のサラマンダーが魔法スペルを詠唱。すると、先頭のサラマンダーたちのHPが回復。更に残りのサラマンダー7人全員が別の魔法のスペルを詠唱すると、オレンジ色に光る炎の玉が次々に発射され、俺とキリさんに目がけて飛んできた。

 

「リュウ、避けろ!」

 

キリさんの叫びがし、俺は急いで回避する。だが、いくつかの炎の玉が俺を追うように襲いかかってきた。残りはキリさんがいるところへと迫る。

 

「「ぐあっ!!」」

 

俺とキリさんの周りを巨大な爆発が包み込み、HPを一気に奪っていく。

 

「リュウ君!!キリト君!!」

 

リーファの悲鳴にも似た叫びが後ろの方からする。愛剣を杖代わりにしてなんとか立ち上がった俺とキリさんにリーファがすぐに回復魔法でHPを回復させる。

 

「何なんだ、あの魔法は……?変化球のように向きを変えて俺に襲い掛かってきた……」

 

「しかも前にいる奴ら、あの岩壁や《セイリュウインベス》に負けないくらい硬いぞ……」

 

「リュウ君!キリト君!サラマンダーたちは君たちの機動力と物理攻撃力を対策した戦法を使っているの!」

 

「リーファ、そうなのかっ!?」

 

俺の叫びにリーファは頷き、答えてくれた。

 

「前衛にいる重装備の4人が一切攻撃しないで防御に専念。そして他の11人全員がメイジで1部が前衛の回復、残り全員が2人を魔法で攻撃するっていう物理攻撃力が高いボスモンスター対策用の方法なの。それに素早いボスモンスター対策用のホーミング性能に優れた魔法も使っている」

 

「くそ、バレたか。だが、戦法がわかったところで貴様たちが我々に勝つことは不可能だ」

 

声の主はこのサラマンダーたちのリーダーらしいプレイヤーだ。奴は余裕そうに俺たちを見ていた。

 

「リュウ、あの重装備の奴らを最初に倒すのは厳しいと思う。重装備の奴らが俺の攻撃を防いだら俺を踏み台にして、後ろにいる魔法使いたちを攻撃してくれ」

 

「先にメイジたちを倒すってことですね。わかりました」

 

もう一度、サラマンダーたちに攻撃を仕掛ける俺とキリさん。先ほどと同様に前衛の4人がキリさんの攻撃を防ぐ。俺はキリさんを踏み台にして前衛の4人を飛び越えようとする。しかし、サラマンダーたちはそれすらも見切っており、俺に火炎魔法を浴びせ、その直後にキリさんにも喰らわせる。

 

いくらVRMMOには痛みを感じない機能はないと言っても、あの爆裂魔法を受けるのはあまり良くない感覚だ。

 

俺たちは再び地面に転がり、リーファの回復魔法でまたHPを回復させる。

 

それから何度も攻撃するが、結果は同じだ。

 

これは本当にヤバいぞ。俺の機動力もキリさんの攻撃力も完全に封じられていると言ってもいい。それに、俺たち2人分の回復をしているリーファのMPがなくなるのも時間の問題だ。

 

「もういいよ、リュウ君、キリト君!やられたって、またスイルベーンから何時間か飛べば済むことじゃない!もう諦めようよ!」

 

流石のリーファもこのサラマンダーたちには勝てないと判断し、俺たちに向かってそう叫んできた。だが、キリさんはリーファの方を振り返り、押し殺した声で言った。

 

「嫌だ。俺が生きてる間は、パーティーメンバーを殺させやしない。それだけは絶対嫌だ!」

 

「これ以上やっても2人が傷つくだけなんだよ!リュウ君からもキリト君に何か言って!」

 

普段ならキリさんの意見に反対し、リーファに同意する。だけど今回は……。

 

「ゴメン、リーファ。今回は俺もキリさんと同意見だよ。俺の目の前で仲間が死ぬ瞬間を見るのだけは絶対に嫌なんだ」

 

脳裏にはファーランさんとミラが死んだときのことが浮かんできた。

 

ALOはSAOとは違って実際に死ぬわけじゃない。そうわかっていても、ファーランさんやミラのようにキリさんやリーファが俺の目の前で死ぬのだけは嫌だった。

 

そして、キリさんと同時に言う。

 

「「ノーコンティニューでクリアしてやるぜ!!」」

 

キリさんは盾を構える重戦士に特攻。そして空いている左手で盾を無理矢理にこじ開けようとし、わずかに開いた防壁の隙間に大剣を突き刺す。

 

この隙に俺は背中に翅を出現させる。インプは日光や月光がない場所でも少しだけは飛ぶことができる。俺も特攻するかのように見せ、翅を広げて前衛の重戦士たちの上を飛び越える。メイジたちはすぐにホーミング性能がある攻撃魔法の詠唱し、俺にそれを放つ。俺は全速力で飛んで魔法から逃れようとする。その中、ユイちゃんの叫びが耳に入ってきた。

 

「リュウさん!そのまま30秒ほどメイジたちの注意を引き付けて下さい!!」

 

「わかった!」

 

ユイちゃんに言われるがまま、メイジたちの注意を引き付ける。だが、攻撃担当のメイジの半分が放った魔法から逃れるのはかなりキツイ。リーファの援護があったものも、いくつかの炎の玉がどんどん俺に追いついてきて、それによる攻撃を受けてしまう。

 

「ぐわぁっ!」

 

爆発の衝撃で頭がフラ付いてそのまま、湖へと落下。なんとか湖まであと数メートルのところで意識が回復し、湖にすれすれの状態で飛行を続けて橋の上へと戻って来る。このときにはすでに、HPは3割ほどしか残っていなかった。

 

橋の上に戻って来た直後、炎の中でキリさんが大剣掲げて何かの魔法のスペルを詠唱している光景が目に入った。

 

「っ!?」

 

そして、キリさんを包み込んでいた炎の渦が消え、その中から黒い巨大な何かが姿を現す。高さは少なくても3,4メートルはありそうだ。頭部はヤギみたいな感じで、後頭部から湾曲した太い角が伸びている。丸い目は赤く、鋭い爪と牙を持っている。黒い影の正体は悪魔みたいなものだと言ってもいい。

 

俺はこの悪魔に見覚えがある。SAOで情報屋が提供している新聞でしか見たことないが、あの姿はアインクラッド第74層のフロアボス《グリームアイズ》に似ていた。

 

「まさか、キリさんなのか……?」

 

呆然として呟くとグリームアイズに似た巨大な悪魔は雄叫びをあげる。

 

これにはサラマンダーたちも凍りついたように動けなくなっていた。1人の前衛にいた重戦士が逃げようとするが、巨大な悪魔が持つ鉤爪で貫かれる。貫かれた重戦士は赤い炎となる。

 

たった一撃で仲間が倒されたのを見た残りの前衛にいた重戦士たちは恐怖に包まれ、逃げようとする。

 

「バカ!姿勢を崩すな!奴は見た目だけだ!亀になればダメージは通らない!メイジは全員で攻撃魔法の用意をしろ!!」

 

リーダーの怒鳴り声がし、体制を立て直すサラマンダーたち。残った3人の前衛の重戦士はタワーシールドを構え、メイジたちは回復や攻撃魔法のスペル詠唱をし始める。

 

サラマンダーたちはすっかりキリさんに気を取られているようだ。この隙に俺は橋から飛び降り、橋の側面を走行し、一気にサラマンダーたちに接近する。そして、前衛の重戦士たちを越え、メイジたちの元にたどり着いたところで姿を現す。

 

俺が今使ったのは軽量級妖精だけが使える共通スキルのウォールランだ。

 

「あの悪魔に気を取られ過ぎて俺のことを忘れていないか?」

 

メイジたちも俺がすぐ近くにいることに気が付き、距離を取ろうとする。しかし、このときにはすでに遅く、3人のメイジたちを斬り裂く。HPを全て失ったメイジたちは赤い炎へと変化する。

 

更に前から巨大な悪魔が迫ってきて残っていた重戦士やメイジたちを簡単に蹴散らし、赤い炎へと変えていく。

 

仲間が次々と倒されていき、逃げ場を失ったサラマンダーのリーダーは橋から湖へと飛び込もうとする。

 

「おい、その湖にはっ!」

 

俺が言い終える前にサラマンダーのリーダーは湖へと飛び込んだ。その直後、悲鳴が聞こえ、湖の上には赤い炎が1つ浮いていた。

 

ついに最後の1人となったサラマンダーのメイジを巨大な悪魔へと変化したキリさんがっちりと捕まえていた。ソイツにトドメを刺そうとしたとき、リーファが何か叫びながらこちらにやって来た。

 

「キリト君、待って!そいつは生かしておいて!」

 

リーファがこっちに来て、敵に剣を向ける。

 

「さあ、誰の命令なのか説明してもらいましょうか」

 

「こ、殺すなら殺しやがれ!」

 

「この……」

 

長刀を振り下ろそうとするリーファの腕を掴み、攻撃を止めさせる。

 

「待て!せっかく生かした証人を殺すつもりか?」

 

「リュウ君……」

 

その時、巨大な悪魔が黒い煙に包まれて姿を消し、その中からキリさんが姿を現す。

 

「いやー、暴れた暴れた。よ、ナイスファイト。いやぁ、いい作戦だったな。俺1人だったら速攻やられたぜ」

 

「は?」

 

キリさんはしゃがみこみ、唖然としているサラマンダーのメイジの左肩に右手をポンと置き、爽やかな口調で話しかける。

 

「ちょ、ちょっと、キリト君?」

 

「まあまあ」

 

そして悪巧みしているかのような笑みを浮かべ、メニューウインドウを開く。いったいキリさんは何をしようとしているんだ。

 

「さて、ものは相談なんだけど、君。これ、今の戦闘でゲットしたアイテムとユルドなんだけど、質問に答えてくれたらコレ全部君をあげようかなーなんて」

 

サラマンダーのメイジに見せていたのはさっきの戦闘で手に入れたアイテムとユルドみたいだ。彼はキョロキョロと周囲を見回し、キリさんの方を見る。

 

「……マジ?」

 

「マジマジ」

 

ニヤッと笑う2人。俺とリーファ、ユイちゃんは呆れてそんな2人を見ていた。

 

「この人たちにプライドというのはないんだろうか……」

 

「そうね……」

 

「同感です。なんか、みもふたもないですよね……」




今回はルグルー回廊でのサラマンダーとの戦闘でした。インプのリュウ君がいるため、原作やアニメよりも重戦士1人、メイジ2人多くさせ、ホーミング性能に優れた火炎魔法も使用するという展開にしました。そうしないとキリトが変異魔法を使う前に、リュウ君が簡単に前衛を飛び越えてメイジを倒して早く決着が付いてしまいそうでしたので。

後半は原作やアニメと同様に、キリトがグリームアイズに似たモンスターに変身してサラマンダーたちを蹴散らすことになりました。しかし、これでは主人公のリュウ君の見せ場がなくなるということで、暗中飛行でメイジたちの注意を引き付けたり、ウォールランで橋の側面を走ってメイジたちを倒す展開も入れました。

リュウ君とキリトが「ノーコンティニューでクリアしてやるぜ!!」と言うところは、面白半分で入れてしまいました。余談ですが、「超協力プレイでクリアしてやるぜ!!」にするという案もありました(笑)

次回もよろしくお願いします。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。