ソードアート・オンライン Dragon Fang《リメイク版》   作:グレイブブレイド

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長いことお待たせしまうことになってしまいました。再構成版の投稿となります。

展開は基本原作やアニメとあまり変わりがないです。


第3話 リーダーの死と攻略とビーターの誕生

2022年12月3日 第1層・森のフィールド

 

攻略会議の翌日、第1層フロアボス攻略のレイドパーティーは迷宮区にあるボス部屋へと向かっていく。

 

俺が所属しているパーティーは3つある高機動高火力の攻撃部隊の1つだ。俺が所属するパーティーメンバーが使用する武器は全員違う。ファーランさんは盾持ちの片手剣、ミラは片手用斧、カイトさんは曲刀、ザックさんは槍、フラゴンさんは細剣、そして俺はサウスポーの盾なしの片手剣。

 

当初はファーランさんと同様に盾を使おうと考えていたが、ファーランさんが俺の戦闘スタイルを見て「機動性を活かした方がいい」と言ってきたため、盾は持っていない。そしてステータスも敏捷性の方を優先的に上げている。

 

 

 

 

 

1人も死者を出すこともなくやっとボス部屋の前までたどり着いた。目の前にはボスの部屋へと入ることができる巨大な二枚扉がある。

 

「聞いてくれ、皆。俺から言う事はたった1つだ。勝とうぜ!」

 

扉の前に立ったディアベルさんの言葉に全員の士気が高まった。そして、ディアベルさんがボス部屋の扉を開いた。

 

「行くぞ!」

 

ついに始まるのか、初のフロアボス戦。多少不安もあったが、アルゴさんから貰ったマニュアルもあるし、一緒に戦ってくれる仲間もいるから心配なかった。

 

最初にヒーターシールドを持った戦槌使いの人が率いるA隊が突入し、その後方をエギルさん率いるB隊、ディアベルさん率いるC隊、そしてオレが所属するD隊。その後ろにキバオウ率いる遊撃用E隊、長柄武器装備のF隊、G隊。最後尾には2人組のパーティーが付いてくる。

 

最前列にいるA隊が一定の距離まで進むと奥の玉座に座っていた巨大なモンスターがジャンプして目の前に着地した。

 

右手には斧、左手には盾、腰の後ろにはその巨体に合せた大きさを持つタルワールがある。こいつが第1層のフロアボス《インファング・ザ・コボルドロード》か。その取り巻きの《ルインコボルド・センチネル》も3体出現する。コボルドロードに4本、センチネルに1本のHPゲージが出現する。

 

持っている武器も名前も全て情報通りだ。

 

「攻撃、開始!」

 

ディアベルさんの掛け声と共についにボス戦が始まった。

 

 

 

 

 

「A隊C隊、スイッチ!来るぞ、B隊、ブロック!C隊、ガードしつつスイッチの準備。今だ、交代しながら側面を突く用意!DEF隊、センチネルを近づけるな!」

 

ディアベルさんの指揮の元、ボス戦は順調に進んでいった。1本、2本と着実にコボルドロードのHPゲージを削っていく。取り巻きのセンチネルの方も次から次へと倒していき、レイドパーティーに被害を与えずにいる。

 

俺が所属するD隊も反動が少ないソードスキルを使用し、6人で連携して敵を攻撃していく。

 

それにしてもずっと取りこぼしたセンチネルを相手にしているあの2人組は凄いな。片手剣使いの人は戦い慣れている様子だし、細剣使いの人は剣先が速すぎて見えないほどだ。

 

「リュウ、スイッチ!」

 

「了解!」

 

ファーランさんとスイッチする。そして片手剣の《スラント》を放ち、センチネルを斬り裂く。

 

俺がセンチネルを倒した直後、コボルドロードの最後のHPゲージもレッドゾーンにまで到達する。すると、奴は雄叫びをあげて持っていた斧と盾を投げ捨てる。

 

「武器を斧と盾からタルワールに持ち替える合図だな。これならもう少しで倒せそうだ」

 

「死者も一人も出なさそうでよかったよ」

 

もう少しで終わるであろう戦いに俺とミラは安堵する。

 

「下がれ!俺がやる!」

 

ディアベルさんはそう言い、たった一人で前へと飛び出していった。ここは全員で攻撃した方が早く倒すことができるし、安全面だって高いはずなのにどうして……。

 

ファーランさん、カイトさん、ザックさんの3人は何かが気になって、話し始める。

 

「あのタルワール、何かおかしくないか?」

 

「確かに言われて見れば……」

 

ファーランさんとザックさんが話していると、カイトさんは何かに気が付き、声をあげた。

 

「あれは野太刀だ!」

 

「の、野太刀!?でも、それって曲刀じゃなくて刀のことですよね!?」

 

「アインクラッドの上階には生息するモンスターは刀を使う奴もいるんだ!」

 

元βテスターの内の1人で俺よりもSAO詳しかったカイトさんが簡単に刀のことを説明してくれた。

 

3人以外でそのことに気が付いた人が叫んだ。

 

「ダメだ、下がれ!!全力で後ろに跳べ────ッ!!」

 

声の主は2人パーティーの片手剣使いの人だ。

 

しかし、すでに遅く、コボルドロードの容赦ない斬撃がディアベルさんを襲う。片手剣使いの人が倒れているディアベルさんの元に駆け寄り、ポーションで回復させようとするが、ディアベルさんの体はポリゴンの欠片となって消滅した。つまり、ディアベルさんは死んだということだ。

 

「うわああああ!!」

 

叫び声、あるいは悲鳴がボス部屋に響いた。

 

レイドパーティーのリーダーの死とボスの使用武器、スキルが情報とは違っていたということがこの場にいる多くのプレイヤーたちを絶望へと突き落とした。

 

戦意喪失して今にも逃げ出そうとしている人もいる。レイドパーティーのリーダーを失ったレイドは完全に壊滅状態だ。

 

コボルドロードはその間もプレイヤーたちを狙おうとする。

 

「俺が奴を引き付ける!ザック、援護を頼むぞ!」

 

「おう!」

 

この状況の中でもカイトさんとザックさんは他のプレイヤーたちと異なって戦意を失うことなく、コボルドロードに向かって走り出す。

 

2人は連携してコボルドロードの攻撃を受け止める。カイトさんが曲刀で攻撃の大半を受け止め、ザックさんが彼をアシストするように槍のスキルを発動させる。

 

「今の内にHPが残り少ないプレイヤーたちをボスから遠ざけるんだ」

 

フラゴンさんがそう言い、俺とファーランさんとミラは頷く。

 

「大丈夫ですか?」

 

「しっかりしろ」

 

HPが残り少ないプレイヤーたちをファーランさんやフラゴンさんと一緒に担ぎ、ミラはポーションを取り出してHPを回復させる。

 

更にカイトさんとザックさんに続くように2人組のパーティーの人たちもコボルドロードに向かって走り出す。

 

コボルドロードはソードスキルを発動させようとする。それを片手剣使いの人がソードスキルを放って弾く。細剣使いの人がスイッチしてソードスキルを発動させようとするが、コボルドロードの攻撃が襲い掛かる。

 

「危ない!」

 

片手剣使いの人が声をあげた直後、コボルドロードは野太刀を細剣使いの人振り下ろす。

 

だけど、捉えたのは細剣使いの人が身を隠していた赤いフード付きマントだった。赤いフード付きマントは消滅し、その中から栗色のロングヘアの容姿が整った女性が姿を現す。

 

――あの人、女の人だったのか。

 

この中に女性プレイヤーはミラしかいないと思っていたため、少々驚いてしまった。それに、SAOは女性プレイヤーの数が圧倒的に少ないからな。

 

そのまま、細剣使いの人は細剣のスキルを放つ。

 

すぐに片手剣使いの人が攻撃しようとする。だが、コボルドロードがソードスキルを発動させ、攻撃を受けてしまう。彼の近くにいた細剣使いを巻き込み、倒れ込む。

 

「くそ、間に合わない!」

 

「逃げろぉっ!」

 

カイトさんとザックさんが叫ぶ中、コボルドロードが2人に襲い掛かろうとする。

 

その時だった。エギルさんが両手斧系ソードスキルを放ってコボルドロードの攻撃を弾き、フラゴンさんが細剣スキルのリニアーをコボルドロードに放つ。

 

「回復するまでオレたちが支えるぜ!」

 

「君たちだけには戦わせるわけにはいかない!」

 

「すまない……」

 

エギルさんのパーティーの人たちも参戦し、コボルドロードを追い詰めていく。

 

コボルドロードはエギルさん達を振り払い、再びソードスキルを発動させようとする。

 

「「させるかぁぁ!!」」

 

カイトさんとザックさんがソードスキルを放って、それを相殺する。

 

「俺たちも行くぞ!」

 

「「はい(うん)!」」

 

俺とファーランさん、ミラもコボルドロードに目がけて駆け出した。先にファーランさんとミラが片手剣と片手斧のソードスキルを叩き込み、その後に俺は片手剣スキル《ホリゾンタル・アーク》を発動させる。水平に払った剣を、手首を返して逆方向へ再び水平に払う二連撃はコボルドロードを深く斬り付ける。

 

「コボルドロードがスタンしたよ!」

 

「ナイスだ、リュウ!」

 

だけど、俺たち3人はソードスキルを使ったから反動で動くことができない。そこへ2つの影が横切った。

 

「後は俺たちに任せてくれ!」

 

「あなた達の頑張りは無駄にさせない!」

 

片手剣使いの人と細剣使いの人がヒットアンドアウェイを繰り返し、コボルドロードを攻撃。最後に片手剣使いの人が放ったV字の光の残光を描く、片手剣スキルの《バーチカル・アーク》が炸裂し、コボルドロードはポリゴン片になって爆散した。

 

直後、ボス部屋を静寂が包み込み、それを破ろうとする者は居なかった。

 

【Congratulations!】とクリアを表す文字が浮かび上がる。

 

「やったぁぁぁ!!」

 

この場にいた全員から歓声が沸き上がった。

 

「お疲れ様」

 

「リュウ、最後のあれはナイスファイトだったよ」

 

「ありがと」

 

俺はファーランさんとミラと一緒に喜び、カイトさんとザックさんは拳をぶつけ、フラゴンさんはエギルさんと握手する。

 

「なんでや!!」

 

この大声によって歓喜はかき消された。声の主はキバオウだ。奴は片手剣使いの人に怒鳴った。

 

「なんで、ディアベルはんを見殺しにしたんや!!ジブンは、ボスの使う技を知ってたやんけ!!ジブンが最初からあの情報をディアベルはんに伝えておれば、ディアベルはんは死なずにすんだんや!!」

 

キバオウに続くように他のプレイヤーも叫ぶ。

 

「きっとあいつ、元βテスターだ!! だから、ボスの攻撃パターンも全部知ってたんだ。知ってて隠してたんだ!! 他にもいるんだろ、βテスターども出て来いよ!!」

 

その言葉に答えてやろうかとカイトさんは怒りに満ちた表情をしてキバオウたちに近づこうとするが、ファーランさんとザックさんに止められる。あの3人が下手に今出て行くと完全に元βテスターだとばれてしまう。それに、βテスターの印象を悪くするだけだ。

 

「おい、そのβテスターのおかげであのボスを倒せたんだろ」

 

「彼らを責めるのはおかしいんじゃないのか」

 

「そうですよ!もしもあの人がいなかったら余計に死者が出ていたかもしれないんですよ!」

 

「いい加減にしてよ!サボテン頭!」

 

エギルさんとフラゴンさんに続き、俺もキバオウたちを説得し、ミラはキバオウに罵声をあびせる。

 

「βテスターどもを庇おうとするっていうんやったら、ジブンらもβテスターなんやろ!」

 

だけど、キバオウやβテスターを敵視する人たちは聞く耳を持たない。挙句の果てにβテスターを庇おうとした俺たちまでもβテスターだと決めつけられる。

 

「ちょっとあなた達……」

 

細剣使いの人が言いかけると、急に大声で笑い出す。

 

「フハハハハハハハハ!」

 

笑い出したのは片手剣使いの人だった。

 

「βテスター?俺をあんな素人連中と一緒にしないでくれ」

 

「何やと!」

 

「SAOのβテスターに当選した千人の内のほとんどは、レベリングのやり方も知らない初心者だったよ。今のあんたらの方がまだマシさ。でも、俺はあんな奴らとは違う。俺はベータテスター中に他の誰も到達できなかった層まで登った。ボスの刀スキルを知っていたのもずっと上の層で刀を使うモンスターと散々戦ったからだ。他にもいろいろと知っているぜ。情報屋なんて問題にならないくらいにな」

 

この人が言ったことはデタラメだ。俺はファーランさんからある程度β時代のことを聞いたことがあったからそうだと確信できた。

 

「なっ、何やそれ。そんなんベータテスターどころやないやないか。もうチートやチーターや!!」

 

「そうだそうだ!!」

 

「ベータのチーターだから《ビーター》だ!!」

 

キバオウが言ったことがきっかけとなり、《ビーター》という単語が誕生した。

 

「《ビーター》か、いい呼び名だな。そうだ、俺はビーターだ。これからは元ベータごときと一緒にしないでくれ」

 

片手剣使いの人がメニィーウインドウを出して操作すると黒いロングコートを装備した。そして、彼はそのまま第2層に続く階段を上がっていった。

 

 

 

 

 

「「《キリト》!」」

 

カイトさんとザックさんは片手剣使いの人のことを知っているのか、彼の名前を呼ぶ。

 

「お前、どうしてあんなデタラメを言ったんだ!?」

 

「オレたちだっているだろ!」

 

「2人の言う通りだ。君1人で背負う必要はない」

 

カイトさん、ザックさん、少し遅れてきたファーランさんが片手剣使いの人……キリトさんに言う。すると、彼は立ち止った。

 

「あんた達には俺と違って、頼れる相棒や守るべき仲間たちがいる。俺1人がやれば問題ないだろ。それと《アスナ》。君はとても強い、この先も更に強くなるはずだ。だから、いつか信頼できる人にギルドに誘われたら断るな。じゃあ」

 

細剣使いの人……アスナさんが呼び止めるが、キリトさんは無言でメニューウインドウを操作した後、第2層へ続く門の中へと入っていった。

 

このやり取りを俺はただ黙って見ていることしかできなかった。

 

 

 

 

 

それから、カイトさんとザックさん、フラゴンさんと別れ、パーティーも3人の状態に戻った。

 

帰り道、キリトさんのことが心配になってファーランさんに彼のことを聞いてみた。

 

「ファーランさん、あの人はどうなってしまうんですか?」

 

「はっきりわかるのは、俺たち他の元βテスターたちを庇って、彼はビーターとして1人でこの世界を生きていくことになるってことだ……」

 

キリトさん一人に背負わせてしまったことを悔いているファーランさん。そんな彼を見かねてミラが声をかけた。

 

「ねえ、ファーランはアタシとリュウを守るって言ったよね。それに()()()だって……。それとも嘘なの?もしも違っているんだったら証明して見せてよ!そうしないとあのキリトっていう人がしたことが無駄になってしまうよ!」

 

「ミラ……」

 

ミラは俺よりもファーランさんのことをよく知っている。だからこそ、ファーランさんのことを理解しているし、ファーランさんを守りたいという気持ちは他の誰よりも強いからこんなことを言えたんだろう。

 

俺もミラに続くように話し始める。

 

「ファーランさん。ミラほどあなたのことをよく知っているわけじゃないけど、これだけは言わせてください。あなたには俺たちがいるじゃないですか。それにプレイヤーは助け合いですよね?」

 

「プレイヤーは助け合いか、そうだな。じゃないと彼のやったことは無駄になってしまうからな……」

 

暗い表情から少し明るくなったファーランさんを見て俺とミラは安心した。

 

ディアベルさんやキリトさんがやったことと同じくらいのことは俺たちにはできなかったが、今は俺たちができる範囲で頑張っていくしかないと思った。

 

ディアベルさんの死、ビーターの誕生という結末を迎えた第1層攻略。残り99層もあると思うとこの世界での戦いは長いものになるだろう。




一応、キリトとアスナが登場しましたが、リュウ君とは同じパーティーではないので名前がわかるまで片手剣使いの人と細剣使いの人にしました。大抵のオリ主はキリトと同じパーティーなので、違うパーティーだった場合、どうなるのか気になって別のパーティーにしました。リュウ君がどのようにこの2人と関わっていくのかこれからの話で明らかになります(登場人物が多い理由もです)

ディアベルには申し訳ありませんが、ここで退場ということにさせていただきました。

ファーランとミラの関係はそのうち明らかになります。

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