ソードアート・オンライン Dragon Fang《リメイク版》   作:グレイブブレイド

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忙しくて執筆する時間と体力がなくて遅れてしまいました。


第2話 墓参りと新たなゲームと親子の会話

カズさんと再会した次の日、俺はある場所に向かってマウンテンバイクを走らせる。途中であるものを買い、15分ほどで目的地にたどり着いた。やって来たのは、とある墓地。

 

その中にある《橘》と彫られた墓の前で止まる。

 

「また来たよ、(あん)ちゃん」

 

この墓には2年前に病気で亡くなった俺の兄《橘 龍斗》が眠っている。(あん)ちゃんが死んだ頃は中々来る気になれなかったが、リハビリを終えて退院してからは週に1回は必ず来ている。最近は週に2,3回のペースで来ていて、俺が一番多く来ていると言ってもいいだろう。

 

途中で買った花を墓に添える。

 

「昨日、SAOで世話になった俺の恩人に会ったんだ。その人、何だか少し(あん)ちゃんに似ているんだよな。(あん)ちゃんが生きていたらきっとその人と仲良くなったと思うよ」

 

当たり前のことだが、墓石に言っても何も答えてくれない。それでも俺には(あん)ちゃんが目の前にいて黙って話を聞いてくれているようにも感じる。

 

「その人に妹がいるって前に聞いたことがあったけど、実はその人の妹っていうのがスグなんだ。知った時は本当に驚いたよ。昔から接点があったんだからな。でも、今の俺にはスグに会う資格も想いを寄せる資格もないんだ……。初恋って実らないって聞いたことあったけど、本当なんだな……」

 

平気でいるかのように見せるため、乾いた笑みを浮かべる。

 

気が付いたら、ここに来て1時間近くも経過していた。

 

(あん)ちゃん、今日は他に行かないといけないところがあるから帰るよ。また来るから、じゃあ」

 

小さく話しかけ、墓地を後にする。行き先を目指している途中で、また墓に添える花を買い、その場所に向かってマウンテンバイクを走らせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次に向かったのはまたしても墓地。しかし、(あん)ちゃんの墓があったところとは異なり、洋風の作りをしているところだ。その中のある墓の前まで足を運ぶと、人がよさそうなメガネをかけた60半ばくらいの外国人の男性が1人いた。

 

「龍哉君、また来てくれたのか」

 

「こんにちは、クリムさん」

 

「こんにちは」

 

彼の名前はクリム・ローライト。ファーランさんの父親でミラの祖父にあたる人だ。ファーランさんとミラから前にと聞いたことがあったが、今から3年ほど前までは東都工業大学で教授を勤めていたらしい。

 

今、俺の目の前にあるのはファーランさんとミラが眠っている墓だ。12月の半ば頃、ここに初めて来た時にたまたまクリムさんと居合わせ、ファーランさんとミラとはSAOで知り合ったことを話して知り合った。

 

「いつも来てくれて本当にありがとう。息子と孫も君が来てくれて喜んでいるよ」

 

「俺ができるのはこのくらいしかありませんから……」

 

「いや、君は悪くない。2人が死んだのは私に原因があるのだからな……」

 

実はクリムさんにはファーランさんとミラが死んだときのことも話した。俺を助けようとしたせいで2人を死なせてしまったことを。

 

最初は2人が死んだことを教えないでおこうとしたが、隠すことに耐え切れず、彼に責められるのを覚悟で話すことにした。

 

だけど、クリムさんは俺を責めることはなく、むしろ自分のことを責めていた。

 

SAOでHPが0になって ゲームオーバーになったら、現実でも強力な電磁パルスを発生させて装着者の脳を破壊する仕組みになっている悪魔の機械とも言われているナーヴギア。

 

ナーヴギアを装着している人たちを救おうとナーヴギアの解析をしていた研究者たちもいて、その中にはクリムさんもいたらしい。しかし、ナーヴギアを装着している人たちを救う方法は中々見つからず、事件発生からちょうど1年後にファーランさんとミラは死んでしまった。更に1年が経過してゲームはクリアされたが、この2年間で4千人近くの人が亡くなるという結果になった。

 

クリムさんはナーヴギアを装着している人たちを救う方法を見つけていれば、ファーランさんやミラ……約4千人の人を死なせずに済んだとも言っていた。ファーランさんとミラの前に娘夫婦……ミラの実の両親を事故で亡くしているから、SAO事件のことはかなりこたえたのだろう。

 

俺はそんなクリムさんになんて声をかけてあげたらいいのかわからないでいた。SAOで2人が死ぬ原因を作ったのは俺だっていうのに……。俺があの時、2人を助けられる力を持っていればこんなことには……。

 

そんなことを考えていた時だった。

 

「先生」

 

後ろの方から男の声がして振り返る。そこにいたのはスーツに包んだ20代半ばくらいの男性だった。

 

「ああ、待たせてしまって申し訳ない。息子と孫の友人が来てくれてね」

 

見たところ、クリムさんの知り合いのようだ。誰なんだろう。

 

「そう言えば、龍哉君は彼と会うのは初めてだったな。私の元教え子の蛮野君だ」

 

「蛮野卓郎です。よろしく」

 

「橘龍哉です」

 

蛮野さんが手を差し出してきて彼と握手を交わす。

 

「蛮野君はレクトのフルダイブ技術研究部門の副主任を務めているんだ。その縁で私も今はそこで研究者の一人として働いているんだよ」

 

「どうしても先生の力が必要でしたので、先生が来てくれて本当に助かりましたよ。何せまだ300人のSAOプレイヤーが目覚めてませんからね」

 

「まだ目覚めない300人のSAOプレイヤーとその家族のために力を貸すぐらい安いものだよ。それが今の私にできる償いなんだ。彼らには私や重村君のように家族を失って欲しくないからな……」

 

呟くようにクリムさんは言う。

 

「あの、クリムさん。まだ目覚めない300人のSAOプレイヤーっていったい……」

 

「実はSAOを開発したアーガスが解散してから、私が今いるところ……《レクト・プログレス》でSAO サーバーの維持しているんだ。でも、どういうわけかまだ300人のSAOプレイヤーが目覚めてなくて……」

 

「つまりクリムさんたちも原因はわからないってことですか?」

 

「そうだな……」

 

SAO サーバーの維持しているところでさえ、300人のSAOプレイヤーが目覚めない原因がわからないってことか。

 

「先生、そろそろ……」

 

「そうだったな。龍哉君、また会おう」

 

クリムさんは微笑んでそう言うと、蛮野さんと一緒に駐車場の方へと向かった。

 

俺もファーラさんとミラの墓に花を添えてしばらくしてから家へと帰った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

墓参りに行った次の日の朝。何故かいつもよりも早く目が覚めてしまい、もう一眠りしようかと再び寝ようとした時だった。突如メールが届いたのを知らせる音がケータイからする。

 

「こんな朝早くから誰なんだ?カズさんかな?」

 

昨日、墓参りから帰ってきてカズさんに電話してみたがカズさんは電話に出なかった。そのことで連絡でもくれたのかなと思ってケータイを見てみる。だけど、メールの送り主はカズさんじゃくてエギルさんだった。

 

実はエギルさんとは入院していた病院が一緒で、その時にお互いの連絡先を交換していた。今は現実世界との折り合いをつけるのに忙しいだろうと思って連絡は控えていたが。エギルさんは現実では台東区御徒町で《Dicey Cafe》という喫茶店を経営していると、再会した時に聞いたことがあるしな。

 

「エギルさんからか。どうかしたのかな?」

 

タイトルには『Look at this』とあって、何かの画像らしいものが添付されていた。

 

画像を開いて見た途端、俺は驚きを隠せなかった。

 

「こ、これって……」

 

送られてきた画像のことでエギルさんに連絡してみると、先ほどカズさんからも連絡が来てエギルさんのところへ向かっているらしい。そのことを聞いて「俺も今からそっちに向かいます」と言って電話を切る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

台東区御徒町のごみごみした裏通りにある黒い木造の喫茶店の前で足を止める。

 

「ここか……」

 

俺の目の前にあるのが、エギルさんが経営している《Dicey Cafe》という喫茶店だ。いつかここに来るようなことをエギルさんに言ったが、まさか今日いきなりここに来ることになるとは思ってもいなかった。

 

店の中に入ると、カウンターの前にある1つのイスにカズさんが座っていて、その向かいにはエギルさんがいた。

 

「お久しぶりです、エギルさん」

 

「よく来てくれたなリュウ」

 

エギルさんの本名はアンドリュー・ギルバート・ミルズというらしい。だけど、本名が長いということもあってSAOの時のように『エギルさん』と呼んでしまっている。

 

「まあ、とりあえず座りな。その調子だとまだ飯は食ってないだろ」

 

カズさんの隣にあるイスに腰を下ろすとエギルさんはコーヒーとサンドイッチを出してくれた。

 

「これはサービスだ。キリトにも言ったが、とにかく今は食っておけ。食える時に食わないと力入らねぇぞ」

 

「ありがとうございます」

 

朝ご飯も食べずに急いで来たから有難い。エギルさんにお礼を言ってサンドイッチを食べているとカズさんがエギルさんに尋ねる。

 

「エギル。リュウも来たからあの写真のことを話してくれよ」

 

「ああ。ちょっと長い話になるんだが。これ、知ってるか?」

 

それは妖精の少年と少女が2人描かれていたイラストが載っているゲームのパッケージだった。その下の方には《Alfheim Online》という文字が書かれている。

 

「何なんですか、このゲームは?」

 

「《アミュスフィア》っていうナーヴギアの後継機対応のMMO。SAOと同じVRMMOだ」

 

カズさんがイラストに書いてあった文字を読み上げる。

 

「あるふ……へいむ……おんらいん?」

 

「アルヴヘイムと発音するらしい。意味は妖精の国らしい。通称《ALO》」

 

「妖精の国?なんかSAOと違ってなんか随分と平和そうなやつですね」

 

「確かにそうだな。まったり系のやつなのか?」

 

「そうでもなさそうだぜ。どスキル制、プレイヤースキル重視、《PK推称》とある意味えらいハードなものだ」

 

「どスキル制、プレイヤースキル重視って……」

 

これにはどんな意味があるのかわからなくてエギルさんに聞いてみた。

 

「いわゆるレベルが存在しないらしい。各種スキルが反復作用で上昇するだけで、どんなに稼いでもHP は大して上がらないそうだ。戦闘もプレイヤーの運動能力で依存する。ソードスキルなしで魔法ありのSAOってところだな。コイツが今、大人気なんだと。理由は飛べるからだそうだ」

 

「「飛べる?」」

 

キリさんと息をそろえて言う。

 

「妖精だから翅がある。フライト・エンジンとやらを搭載してて、慣れるとコントローラーなしで自由で飛べるそうだ」

 

確かに飛べるとなると人気が出てもおかしくない。人間には翅も翼もないから空は飛べない。それがゲームでできるとなると魅力的なものだ。

 

そう思っているとカズさんが飛び方をエギルさんに聞いていた。エギルさん曰く、かなり難しいらしい。

 

「だけど、どうやって飛ぶんだ?背中の筋肉を動かすのかな?」

 

完全にゲーマーの眼になって飛行機能に興味津々になるカズさん。

 

エギルさんが呆れていたため、カズさんに肘をぶつけて本来の話に戻そうとする。

 

「ところであの写真……アスナさんとこのゲームは何の関係があるんですか?」

 

今朝、エギルさんが送ってきたのは1枚の写真。ぼやけた金色の格子が一面に並び、その向こうに白いテーブルと白い椅子があり、それに見覚えのある長い栗色の髪の少女が座っているのが写っていた。あの写真を見た瞬間、その少女はアスナさんだとすぐにわかった。

 

「実はあれ、ALOの中で撮ったやつなんだよ」

 

そのことに俺とカズさんは驚く。

 

エギルさんはゲームのパッケージを引っくり返しておいた。裏面にはアルヴヘイム・オンラインの世界地図と思えるイラストがある。その中心には巨大な樹があり、エギルさんはそこを指さす。

 

「これは《世界樹》と言うそうだ。この樹の上に伝説の城があってな、プレイヤーは9つの種族にわかれ、そこにたどり着けるか競ってるんだと」

 

《世界樹》の上にある伝説の城を目指して、9つの種族で競い合っているなんて戦国乱世みたいだな。

 

「世界樹の上を目指すんだったら、飛んでいけばすぐにたどり着くんじゃないんですか?」

 

「なんでも滞空時間というのがあって、無限に飛べないらしい。この樹の一番下の枝にもたどり着けない。でだ、体格順に5人のプレイヤーが肩車してロケット式に飛んで、樹のてっぺんを目指した」

 

「なるほどな。馬鹿だけど頭いいな」

 

「それって馬鹿と頭いいのどっちなんですか?」

 

カズさんが言ったことはどうでもいいことなのに、俺は思わずツッコミを入れてしまう。こんなことはさておき、話に戻る。

 

「この方法は成功したが、それでも世界樹の一番下の枝にさえ届かなかった。だが、5人目のプレイヤーが何枚かの写真を撮った。その1枚に木の枝に下がる大きな鳥かごが写っていた。それを引き伸ばしたのがあの写真だ」

 

アスナさんが鳥籠の中にいるってなると、まるで囚われの姫みたいな感じだな。

 

「でも、どうしてアスナがこんなところに……」

 

カズさんがもう一度パッケージを見ると、あるところに注目する。そこはメーカー名が書いているところだ。名前は《レクト・プログレス》。

 

レクト・プログレスって確かクリムさんと蛮野さんが所属しているところだ。

 

カズさんは一瞬怖い顔をし、エギルさんの方を見る。

 

「エギル、このソフト、貰っていっていいか」

 

「構わんが、行く気なのか?」

 

「この目で確かめる。死んでもいいゲームなんてぬるすぎるぜ」

 

カズさんはエギルさんににやりと笑って見せた。

 

やっぱりカズさんは行くつもりなんだな。誰にもカズさんを止めることは無理そうだ。アスナさんのことになるとこの人は絶対に無茶をすることもあり得る。

 

こうなったら、俺がやるべきことは1つしかない。

 

「キリさん、俺も行きます」

 

俺の言葉にカズさんは驚いた表情をする。

 

「リュウ、どうして……?」

 

「1人で行くなんて無茶です。カズさん1人で行かせると危なっかしい感じがして、心配で飯ものどを通りませんよ」

 

「そうだな。リュウもいた方がいいな。キリトのことは頼むぜ」

 

そう言ってエギルさんはもう1つのALOのソフトを取り出し、俺に渡してきた。

 

「もう1つ買っておいて正解だったな」

 

「ありがとうございます、エギルさん」

 

「さてと、ハードでも買いに行くか」

 

「そうですね」

 

「言い忘れていたが、ナーヴギアで動くぜ。アミュスフィアはナーヴギアのセキュリティ強化版でしかないからな」

 

ナーヴギアはうちに保管してある。アミュスフィアを買わずに済んでよかった。

 

「アスナを助け出せよ。でないと、オレたちの戦いは終わらない」

 

「ああ、いつかここでオフをやろう」

 

「絶対に終わらせます」

 

そう言い、俺たちは拳をぶつけ、店を後にした。

 

「カズさん、教えてくれませんか?」

 

「何をだ?」

 

「とぼけても無駄ですよ。さっきパッケージのメーカー名が書いているところを見て怖い顔してましたよね。何か知っているんですか、レクト・プログレスのことを」

 

問い詰めると、カズさんは観念したかのような表情をして話し始めた。

 

「実は昨日、アスナが入院している病院に行った時にアスナの婚約者だという須郷伸之っていう奴と出会ったんだ。ソイツはアスナの昏睡状態を利用して、アスナのお父さんがCEOを務めているレクトを乗っ取ろうとしているんだよ。しかもアスナとの結婚式は来月に行うらしい」

 

「何だってっ!?」

 

あまりにも衝撃過ぎる内容に驚きを隠せなかった。もしかして昨日の夜、カズさんが電話に出なかったのはそれが原因だったのか。

 

「須郷はレクトのフルダイブ技術研究部門の主任で、そこでアーガス解散後のSAOサーバーの維持管理をしている。だからALOを運営するレクト・プログレスというのも何か引っ掛かるんだ」

 

「確かに……」

 

眠りについているアスナさん。彼女の婚約者である須郷伸之はSAOサーバーの管理をしている。そして、アスナさんらしき人物が目撃されたALOを運営するのはレクト・プログレス。

 

偶然にしてはあまりにも出来過ぎている。須郷伸之という男が何か関わっていてもおかしくない。

 

――まさか、クリムさんと蛮野さんも須郷伸之とグルなんじゃ……。

 

一瞬だけだったが、そんなことも考えてしまった。

 

蛮野さんは昨日会ったばかりであまりわからないが、そんなことできるような人には見えない感じだった。クリムさんはなおさらだ。だってクリムさんはファーランさんのお父さんで、ミラのおじいさんだ。そんなことないはずだ。

 

でも、このことを2人に話すわけにはいかない。2人が関わっていなかったにしても、少しでも下手したらアスナさん達の命が危険にさらされることだってあり得る。

 

警察ならなんとかしてくれるかもしれないが、証拠がない以上まともに取り合ってしてくれないだろう。

 

こうなった以上、ALOにダイブして俺たちで真実を確かめるしかない。

 

「なあ、リュウ」

 

そんなことを考えているとカズさんが申し訳なさそうにして話しかけてきた。

 

「ゴメンな、俺のせいでまた仮想世界に行く羽目になってしまって……。しかもナーヴギアを使ってだ。リュウには現実世界との折り合いがあるっていうのに……」

 

「謝らないで下さいよ。行くって決めたのは俺の意思ですから。それに、プレイヤーは助け合いですよね?」

 

「そうだったな」

 

「だから絶対に終わらせましょう、俺たちのあの世界での戦いを」

 

「ああ」

 

俺たちは笑みを浮かべ、拳をぶつけ合う。

 

「じゃあ、後でな」

 

「はい」

 

カズさんと別れ、急いで家に戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

玄関の戸を開けようとしたとき、あることを思った。

 

「そういえば、父さんと母さんにはなんて説明すればいいんだか……」

 

父さんは出張、母さんは友達の結婚式で今日の夕方から数日の間、家にはいない。2人がいないのはALOをやるのに好都合かもしれないが、本当にそれでいいのかと思う。

 

ナーヴギアを使ってALOをやるっていうことを話すと絶対に反対するに違いない。だけど、もしも俺に何かがあって、SAOの時のようにゲームだけでなく現実でも死ぬってことになったら、2人が帰ってきた時に俺が死んでいたら、絶対に悲しむことになるだろう。それだけはあってはならない。

 

意を決し、2人に話すことにした。

 

玄関の戸を開け、リビングへと向かうといつものように父さんと母さんが「おかえり」と言って俺を迎えてくれた。

 

「父さん、母さん。2人に話してかないといかないことがあるんだけど、ちょっといいかな?」

 

「いきなりどうしたんだ、改まった顔なんかして」

 

「どうかしたの?」

 

「実は俺、ALOっていうVRMMOをやろうとしているんだ。ナーヴギアを使って……」

 

当然のことのように2人は驚愕する。

 

「龍哉、何を言っているの!2年間もあんな辛い目にあって苦しんでいたのに!」

 

「確かに母さんの言う通り、あの2年間で辛いことも苦しいことも沢山あったよ。だけど、それだけじゃなかった。あの世界で色々な人たちと出会って、楽しんだり喜び合ったりもすることができたんだ。勝手にそうだと決めつけないでくれ!」

 

反論するが、母さんはまだ反対している様子だった。すると、まだ何も言ってこなかった父さんの口が開いた。

 

「龍哉、ナーヴギアを使ってまたVRMMOをやろうとしているのには何か理由があるのか?」

 

「うん。だけど詳しくは話せない。ただ言えるのは、あの世界でまだやり残したことがあってそれに決着を付けるため。そして、あの世界で出会ったある人のためなんだ。俺はその人に救われて今はこうしていられる。だから今度は俺がその人を助けたいんだよ!」

 

俺の話を聞いて父さんは黙って数秒ほど何か考えると再び口が開いた。

 

「わかった。龍哉、頑張って来い。くれぐれも無茶だけはしないでくれ」

 

「お父さん!何言っているの!?どうして止めようとしないの!?」

 

「母さん、今の龍哉はSAOに捕われた頃のように何かに思い詰めていた様子はないだろう。きっとこの2年間で龍哉は昔の自分を取り戻すことができたんだ。だから今の龍哉なら大丈夫だと思うんだ」

 

父さんの話を聞いた母さんは顔を伏せ、数分後顔を上げた。

 

「…………。そうね、龍哉なら大丈夫よね。でも、これだけは約束して。途中で投げ出したりしないで、絶対に戻ってきて」

 

先ほどまで反対していた母さんも許してくれた。

 

「ありがとう。父さん、母さん」

 

2人に笑みを見せて自室へと行った。

 

部屋に入るとラフな格好に着替えてナーヴギアを手に取る。2年前は新品だったが、今は塗装があちこちで剥げ落ち、傷ついている。

 

「まさか、これを再び使うことになるとはな……」

 

ナーヴギアはSAO事件が起こってから回収されることになったが、SAO内での情報と引き換えに手放すことはなかった。その時にファーランさんとミラの現実世界での情報も入手した。

 

ALOのディスクをセットしてナーヴギアに電源を入れる。そして両手でナーヴギアを手に取る。

 

俺は自分の目的のためにキリさんを殺そうとしたことがある。もしかすると今俺がやろうとしているのはそのことへの罪滅ぼしかもしれない。キリさんに協力してアスナさんを救いだし、あの世界に決着を付けるためなら罪滅ぼしと思われても構わない。

 

――俺がキリさんを、アスナさんを助けるんだ!

 

ナーヴギアを被り、ベッドに横になる。

 

「リンク・スタート!」




前回と同様に旧版とは大きく異なる展開になりました。今回の話に登場した旧版にはいなかった新キャラのクリムさんと蛮野さん。この2人はこれからどう話に関わってくるのか。
ちなみに蛮野さんのイメージボイスは津田健次郎さんとなっています。森田成一さんではありませんので……(ボソッ

次回からやっとリーファが登場します。

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