ソードアート・オンライン Dragon Fang《リメイク版》   作:グレイブブレイド

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お待たせしました。本当はもう少し早く投稿したかったのに遅れてしまいました。



話とは関係ありませんが、ついにエグゼイドの挿入歌のCDが発売され、ずっと待ち望んでいた『Wish in the dark』と『Real Game』をフルで聴くことができました。この2つは本当にカッコよかったです。もちろん、他の挿入歌もよかったです。そのため、今回はエグゼイドの挿入歌を聞きながら書いてました。曲と話の内容はかみ合っていませんが。


第23話 骸骨の百足

2022年11月6日 第75層 迷宮区

 

第75層が解放されてから3週間近くもかけ、ついに第75層のフロアボスの部屋が発見された。20人の攻略組プレイヤーによる偵察が行われることが決定され、俺とカイトさん、ザックさんも偵察隊として参加することとなった。

 

「この先にどんなボスがいるんでしょうか?」

 

「1層下のフロアボスのグリームアイズとは、比べものにならないくらい強いと思った方がいい。今回は第75層。《クォーター・ポイント》だからな」

 

カイトさんが答えてくれた。

 

クォーター・ポイントはアインクラッド第25層、第50層、そして第75層のことである。ここに配置されているフロアボスは他のボスと桁違いの強さを誇って攻略組に甚大な被害を与えた。第25層では《アインクラッド解放隊》が攻略組を離脱するほどの被害を受け、第50層ではレイドが総崩れとなってヒースクリフ団長が率いる援軍と彼の持つ《神聖剣》がなければ全滅になっていたこともあり得たほどだ。

 

だから今回も厳しい戦いになると予測でき、20人の攻略組プレイヤーによる偵察が行われることになった。

 

作戦は防御に優れたタンク隊のプレイヤー10人が先に突入。その後にアタッカーや支援職のプレイヤーが10人が続くというものだ。俺たち3人は後に突入する10人に含まれる。だが、危険だと思ったらしたらすぐに撤退することになっている。

 

「これより、第75層フロアボスの偵察を行う!前進!」

 

タンク隊のリーダーの掛け声と共に2枚扉がゆっくりと音を立てて開き始める。扉が完全に開くとタンク隊のプレイヤーたちがボス部屋へと入っていく。彼らが部屋の中央に到達した時だった。突如、ボス部屋へと通じる扉が閉まり始める。

 

「ヤバイ!引き返せっ!!」

 

偵察隊のサブリーダーを務めるアタッカーのプレイヤーが叫ぶが、すでに遅かった。扉は閉ざされ、タンク隊は閉じ込められてしまう。

 

「急いで開けるぞ!!」

 

すぐに扉を開けようと鍵開けのスキルを使用したり、扉を押す、ソードスキルの集中攻撃を叩き込むが、どれも無駄だった。5分ほどして固く閉ざされていた扉がゆっくりと開き始める。中を見るが、タンク隊のプレイヤーたちやボスの姿はなかった。

 

「あ、あの人たちは……。ボスは……?」

 

「待て!入るな!」

 

ボス部屋の中に入ろうとしたところ、隣にいたカイトさんが腕を掴んで引き止める。そして、カイトさんは投剣スキルを使って1本のピックをボス部屋の中に投げ込む。ボス部屋の中にはピックが地面に落ちる音がしただけで、ボスは姿を現さなかった。

 

1人のプレイヤーが転移結晶を使ってはじまりの街にある黒鉄宮に向かう。数分後、サブリーダーの元にそのプレイヤーから連絡がきた。送られてきたメッセージを見たサブリーダーは驚きを隠せないでいた。

 

「どうした?」

 

「『突入したタンク隊全員が死んだ』と連絡が来たんだ……」

 

その内容にこの場にいた全員が言葉を失ってしまう。

 

このことを急いでヒースクリフ団長に報告しにいき、どうするのか話した。

 

「ここはキリト君とアスナ君を呼び戻すしかない」

 

「待って下さい!休暇中の2人をいきなりこんな危険なところに呼び戻すんですか!」

 

「攻略組プレイヤーのレベルがも少し上がってからでいいだろっ!」

 

キリさんとアスナさんを前線に呼び戻そうとするヒースクリフ団長に、俺とザックさんは反論する。

 

「止めろお前ら」

 

「「カイト(さん)」」

 

「アイツらには悪いと思う。だが、すでに10人の攻略組プレイヤーが死んでいるんだぞ。オマケにボスの部屋に入ったら最後。ボスを倒すかボスに殺されるか出られない状況だ。そんなこと言っていられないだろ」

 

カイトさんの言う通りだ。今はそんなことを言っていられる事態ではない。

 

結果、明日に30人以上の攻略組のハイレベルプレイヤーを集め、ぶっつけ本番でボスを倒すことに。そして、この作戦には休暇中のキリさんとアスナさんを呼び戻すと決定された。

 

 

 

 

 

 

 

明日のボス攻略についての会議が終わった後、俺はある場所へとやって来た。

 

やって来たのは今から去年の5月頃、ファーランさんとミラと一緒に星空を見たところの近くにある丘だ。ここには2つの洋風の墓石が置いてある。

 

「また来たよ、ファーランさん、ミラ」

 

ここにあるのは今年の1月に建てたファーランさんとミラの墓。ここを選んだのは、2人と過ごした中で1番思い出に残っているところで墓を建てるには最適だと思ったからだ。

 

メニューウインドウを操作し、ここで来る前にNPCの店で買った花束、そしてここで2人と一緒に飲んだサイダーに似た飲み物が入ったジュース瓶を3本取り出す。花束と3本あるジュース瓶の内、2本を墓石の前に置く。残りの1本は栓を抜き、一口飲む。

 

「ファーランさん、ミラ。明日はデスゲームが始まってちょうど2年になるけど、2人が死んでちょうど1年にもなる日だな」

 

脳裏に蘇ってきたのはファーランさんとミラが死んだときのことだった。あの時のことは今でもはっきりと覚えている。

 

明日のボス戦で、あの時と同じことがまた起きるのではないかと不安で仕方がなかった。ファーランさんとミラのときのように誰かが俺を庇って死んでしまわないか考えてしまう。いっそのこと、俺は参加しない方がいいんじゃないのかとも思う。

 

でも、俺が知らないところで親しい人や危険を覚悟で戦おうとしている人たちに申し訳ない。2人には生きて現実世界に帰ると約束した。ここで逃げ出すわけにはいかない。

 

頬を両手で叩き、気合を入れる。

 

「ファーランさん、ミラ、行ってくるよ。終わったらまた来るからさ。その時にはボス戦で手に入れたコルでお供え物に何か美味いもの持ってくるよ」

 

そう言い残し、ホームがある第59層のダナクへと戻って明日に向けて体を休めることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

集合場所となっている第75層の主街区《コリニア》の転移門広場へとやって来た。集合の30分前だが、すでに《聖竜連合》をはじめ、攻略組の中でもハイレベルのプレイヤーが何人かがすでに来ていた。その中に知っている2人組のプレイヤーがいた。

 

「カイトさん、ザックさん」

 

「リュウか、昨日ぶりだな」

 

「ここに来る前に、オトヤとリズとシリカの3人に会ったけど、絶対に生きて帰って来いって言われたぜ。まあ、オレたちは初めからそのつもりだけどな」

 

「当たり前だ」

 

いつも通り冷静でいるカイトさんとフレンドリーな感じで接してきたザックさん。

 

「俺たちにはやることがある。この戦いをすぐに終わらせてキリトとアスナを前線から返すぞ」

 

カイトさんの言葉に俺とザックさんは頷く。

 

それから数分後にはエギルさんとクライン率いる《風林火山》、そしてキリさんとアスナさんがやって来た。

 

「なんだ、お前らも参加するのか」

 

「なんだってことはねぇだろ? こっちは商売を投げ出して加勢に来たんだぞ。この無視無欲の精神を理解出来ねぇのか?」

 

「じゃあ、お前は戦利品の分配からは除外するからな」

 

キリさんとエギルさんのやり取りを見て、俺とザックさん、アスナさん、クラインさんの4人は笑い、カイトさんはやれやれと呆れながらも笑みを浮かべていた。このおかげで先ほどまであった緊張感が解すことができた。

 

そんな時、転移門から数人のプレイヤーが現れ、この場にいた全員が注目する。現れたのはヒースクリフ団長と血盟騎士団の数名の幹部たちだ。彼らがやって来たということは、いよいよ始まるということだ。

 

ヒースクリフ団長は回廊結晶を取り出し、それを持った方の手を高く揚げる。

 

「コリドーオープン」

 

すると、結晶は砕け散り、光の渦が出現した。

 

「さぁ、行こうか」

 

ヒースクリフ団長を筆頭に、次々と攻略組プレイヤーたちは光の渦を潜っていく。転移したところは、第75層のフロアボスの部屋の前だった。目の前にはボス部屋に続く、巨大な2枚の扉がある。これまでのフロアボスの部屋の前は不穏な感じがしていたが、ここはよりそんな感じがした。この先にはどれほど強いボスモンスターが待ち受けているんだ。

 

一番前にいたヒースクリフ団長が振り向く。

 

「基本的には、血盟騎士団が前衛で攻撃を食い止めるので、その間に可能な限り攻撃パターンを見切り、柔軟に反撃してほしい。厳しい戦いになるだろうが、諸君の力なら切り抜けられると信じている。解放の日のために!」

 

ヒースクリフ団長の言葉にこの場にいたプレイヤーから大きな声があがる。そして、巨大な2枚の扉はゆっくりと開いていく。この場にいた全員が各々の武器を手に取る。俺も左手で右腰にある鞘から《ドラグエッジ》を抜き取る。

 

「ついに始まりますね」

 

「ああ」

 

「どんな奴が相手だろうが負けない」

 

俺が呟くと近くにいたカイトさんとザックさんが呟くように答えてくれた。そして、ついに扉が完全に開いた。

 

「戦闘開始!!」

 

ヒースクリフ団長の叫びが上がり、俺たちはボス部屋へと走り出す。

 

ボス部屋はかなり広いドーム状の部屋だ。大きさは恐らく、コリニアでキリさんとヒースクリフ団長が戦った闘技場と同じくらいあるだろう。

 

全員がボス部屋に入った直後、扉は固く閉じられ、姿を消す。転移結晶が使えない中、俺たちがボスを倒すか、全滅するまで扉は開くことはない。

 

だけど、ボスは未だに姿を現さない。辺りを見渡してもそれらしい影は見当たらない。この場は沈黙が続いたままだ。

 

「なにも起きないぞ」

 

1人の呟いた時、上の方で何かが動く音がする。それに気がついたときだった。

 

「上よ!!」

 

突如、アスナさんがここにいる全員に聞こえるくらいの声で叫ぶ。すぐに頭上を見上げるとそこには、全長10メートル以上はありそうなほどの大きさを持つ、全身が骸の姿をした巨大なムカデ型のモンスターだった。

 

【The Skullreaper】という名前と5本のHPゲージが表示される。

 

「スカルリーパー?アイツがここのフロアボスなのか?」

 

スカルリーパーを目視した直後、この場にいた多くのプレイヤーが恐怖に包まれる。その間にも、スカルリーパーはレイドパーティーの元に落下してきた。

 

「固まるな! 距離をとれ!」

 

ヒースクリフ団長の叫びが響き渡り、全員が我に返り、スカルリーパーが落下するところから走って離れる。だが、2人のプレイヤーが恐怖のあまり動けないでいた。

 

「こっちだ!! 走れ!!」

 

キリさんの声でようやく我に返った2人のプレイヤーが走り出す。だが、背後にスカルリーパーが地面に落下してきてその2人を前方にある巨大な鎌で斬り裂く。攻撃を喰らった2人のプレイヤーは宙へ吹き飛ばされ、地面に落下する前にポリゴン片となって消滅する。

 

「何っ!?」

 

「い、一撃で!?」

 

「む、無茶苦茶な」

 

俺に続いてクラインさんとエギルさんが呟く。

 

ここにいる全員は全プレイヤーの中でハイレベルのステータスを持っている。そのプレイヤーを一撃で倒すことができるモンスターなんて今まで見たことない。奴はそこまで強いっていうのか。

 

スカルリーパーは新たにプレイヤーを狙おうと迫ってきた。逃げ遅れた1人に再び鎌が振り下ろされそうとする。その寸前でヒースクリフ団長が1人で立ち向かい、巨大な盾を掲げ、鎌を受け止める。激しい衝撃音がし、火花が飛び散る。だが、もう1本の鎌が逃げ遅れた1人に振り下ろされる。また1人、プレイヤーが消滅した。その間にもスカルリーパーは暴れまわって、奴にまともに近づけられない状態だ。

 

更にもう1度、スカルリーパーは1人のプレイヤーに鎌を振り下ろそうとする。

 

「下がれ!!」

 

キリさんが2本の剣を交差させ、鎌を受け止めるが、どんどん押されていく。そこへアスナさんが細剣のスキルを発動させ、片方の鎌を弾く。

 

「2人同時に受ければいける。わたしたちならできるよ」

 

「よし、鎌は俺たちが受け止める!! 皆は側面から攻撃してくれ!」

 

「はい!」

 

「ああ!」

 

「任せろ!」

 

キリさんの叫びに、俺とカイトさん、ザックさんの3人が先陣を切ってスカルリーパーに立ち向かう。反動の少ないソードスキルを発動させ、白い巨人と戦ったときみたいにスイッチを連続で繰り返して一箇所に集中攻撃を叩き込む。だが、奴は鋭利な骸骨の足と尾を俺たちに振り下ろしてきた。俺たちは寸前で回避。

 

どのくらいダメージを与えたか確認してみるが、HPは少ししか減っていない。

 

「嘘だろ、あれしか減ってないのか……」

 

「この前の白い巨人並に硬いぞ!」

 

「それがどうした!上等だっ!!」

 

俺、ザックさん、カイトさんの順に言う。そして再び、スカルリーパーに立ち向かおうとする。

 

俺たちを見て他のプレイヤーたちもスカルリーパーに立ち向かう。

 

「少しは大人のオレたちにも頼ってくれてもいいだろ!」

 

「オメーら3人はアタッカーしかいないからタンクや盾持ちがいるオレたち《風林火山》が必要だろうが!」

 

「エギルさん、クラインさん!」

 

エギルさんのパーティーとクラインさんたち《風林火山》とも協力してスカルリーパーと戦う。

 

エギルさんとクラインさんたち大人組が攻撃を受け止め、俺とカイトさん、ザックさんの3人でスカルリーパーにソードスキルを叩き込む。カイトさん、ザックさんが攻撃した後に片手剣重単発技《ヴォーパル・ストライク》をスカルリーパーに喰らわせる。クリティカルヒットしたが、ダメージの量は少なかった。

 

「クリティカルヒットしてもこれくらいか。もっと威力があれば……」

 

そう呟いた途端、《ドラグエッジ》に一瞬だけ軽く青い電撃が走ったものが見え、それを持っている左手がビリッとした感じがした。

 

何なのかと思った。だが、今はそんなこと気にしている状況ではなく、気にすることを止めた。

 

スカルリーパーとの戦いは激しさを増す一方だった。プレイヤーの悲鳴が上がり、ポリゴンが砕ける音がする。それでも俺は剣を振るい、スカルリーパーの足を何本か斬り落す。

 

攻略組の猛攻撃により、スカルリーパーは体勢を崩した。奴のHPも残りわずかだ。

 

「全員突撃!」

 

ヒースクリフ団長の叫びと共に全員がスカルリーパーを攻撃する。

 

キリさんの《二刀流》による連撃、アスナさんの細剣とザックさんの槍による突き、カイトさんとクラインさんの刀による斬撃、エギルさんの斧による力強い一撃。俺も片手剣最上位スキル《ノヴァ・アセンション》を発動させ、10連撃の斬撃を与える。

 

何人ものプレイヤーによる連撃がスカルリーパーに与えられていき、奴のHPはどんどん削られていく。この場にいた全員が、スカルリーパーが息絶えるまで攻撃を止めようとはしなかった。

 

ついにスカルリーパーのHPは完全になくなり、奴の体は光に包まれる。数秒後にはポリゴン片となって消滅した。

 

1時間にもよる激闘はようやく終わった。




次回でリメイク版のアインクラッド編も最終回になります。

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