ソードアート・オンライン Dragon Fang《リメイク版》   作:グレイブブレイド

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再構成版の第1話となります。通常版よは最初から色々と異なってますね…(苦笑)


アインクラッド編
第1話 強制転移と手鏡とデスゲームの開幕


時刻は17時30分近くとなり、仮想世界の空は現実と同様に夕日でオレンジに染まっていた。

 

あれから知り合ったファーランさんとミラと一緒にずっと狩りを続けてきた。そのおかげで大分ソードスキルの扱いにも慣れた。

 

こんなに楽しい気持ちになったのは数か月ぶりだ。

 

今は3人で草原の上に横になってオレンジ色に染まった空を眺めている。

 

「しかし凄いなぁ。仮想世界なんて漫画や映画の世界の話だって思っていたけど、本当に実現するなんて」

 

「俺も初めてSAOのβテストやった時にそんなこと思ったぜ」

 

「ファーランさんってβテスターだったんですか?」

 

「そうだよ。ファーランが凄く楽しかったって言ってたからアタシも始めたんだよ」

 

俺が言ったことにミラが楽しそうにして答えてくれた。ミラの話からすると2人は現実でも知り合いみたいだ。でも、ゲームで現実の個人情報を聞くのはマナー違反だって聞いたからなぁ。

 

すると、今度はミラが俺にあることを聞いてきた。

 

「ねえ、ところでリュウはどうしてSAOをやり始めたの?」

 

「俺はある人からこのゲームを作った茅場晶彦と仮想世界のことを詳しく聞かされてどういうものなのか気になって……」

 

「それじゃあ、茅場晶彦や仮想世界のことをリュウに教えくれた人も……」

 

「やってないよ。その人はSAOをプレイすることはできなかったからな……」

 

「そ、そっか。何かゴメンね、聞いちゃいけないことなのに」

 

「別にいいよ」

 

ファーランさんとミラには話してないが、実はSAOをやり始めた理由は他にもある。それは、現実でのあの辛い出来事を忘れたいということだ。もしかすると、俺は内心のどこかでSAO……仮想世界を現実逃避するためのものだと思っているのかもしれない。

 

このことを話したら、このゲームを楽しみにしていた2人や他の人たちには申し訳ない。

 

そんなことを考えていたときだった。

 

「オレ様のアンチョビピザとジンジャエールがぁぁぁぁっ!!」

 

何処からか一人の男性の喚き声がする。

 

「何かあったのかな?」

 

「大したことじゃないことで叫んでいるんじゃないのか?」

 

「ていうか、アンチョビピザとジンジャエールって何なんですか?」

 

3人で笑いながら話していると突然、鐘の音が大きく響き渡り、俺たちの体は光に包まれた。

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

気が付くと俺たちゲームのスタート地点である《はじまりの街》の中央広場にいた。周りには次々と大勢のプレイヤーたちがいる。

 

「これっていったい……」

 

「強制転移みたいだな。何かあったのかな?」

 

ファーランさんに聞いてみるが、強制転移ということしかわからなかった。

 

「ねえ、あれ見て!」

 

ミラが叫んで指さした方を見る。そこには赤い文字で【System】と【Announcement】と表示されていた。その2つは一気にオレンジ色の空を覆いつくし、空は一瞬のうちに真紅に染まった。

 

そして、真紅に染まった空の一部から血のように赤い液体がどろりと垂れ下がり、20メートルはある赤いフード付きのローブを羽織った巨人の形となった。だが、そいつには顔……体がない。

 

あれは前にSAOの特集が乗ってある雑誌で見たことがある。

 

「あれって確かゲームマスターじゃ。でも、どうして……」

 

「運営が用意したセレモニーじゃないの?」

 

「だからって全プレイヤーを再びここに集めてやる必要ないだろ。何かトラブルがあったんだよ」

 

俺、ミラ、ファーランさんの順に言う。確かにセレモニーしたら規模が大きすぎる。ファーランさんの言う通り何かトラブルがあったに違いない。

 

『プレイヤーの諸君、私の世界へようこそ。私の名前は茅場晶彦。 今やこの世界をコントロールできる唯一の人間だ』

 

茅場晶彦。この名前に聞き覚えがある。確か彼はSAOとナーヴギアの開発者だと()()()()から詳しく聞かされた。

 

でも、どうしてこんなことを。

 

『プレイヤーの諸君は、すでにメインメニューからログアウトボタンが消滅している事に気付いていると思う。 しかし、それは不具合ではない。 繰り返す。 これは不具合ではなく、《ソードアート・オンライン》の本来の仕様である。諸君は今後、ゲームから自発的にログアウトする事はできない』

 

その言葉が信じられなく、急いでログアウトできるかどうか確かめてみた。だが、ログアウトボタンはなかった。

 

『また、外部の人間による、ナーヴギアの停止、あるいは解除もありえない。もしそれを試みた場合、ナーヴギアの信号阻止が発する高出力マイクロウェーブが諸君の脳を破壊し生命活動を停止させる』

 

脳の破壊、生命活動を停止させるって死を意味することなのか。

 

「何かのドッキリじゃ……」

 

「運営がこんなドッキリをしたら大問題だぞ」

 

ミラの言ったことに、ツッコミを入れる。

 

「ファーランさん、ナ―ヴギアで脳を破壊することって出来るんですか?」

 

「それは可能だ。ナーヴギアの原理は電子レンジと同じだから高出力の電磁波で俺たちの脳の破壊も……。それにナーヴギアの三割はバッテリセルだから電源コードを抜いても無駄だ」

 

ファーランさんが言ったことを聞き、言葉を失う。

 

そんなオレとはよそに茅場晶彦は話を続ける。

 

『残念ながらすでにプレイヤーの家族・友人が警告を無視しナーヴギアの強制的に解除しようとしたことで、213名のプレイヤーがアインクラッド及び現実世界からも永久退場している』

 

それを証明させるために、茅場晶彦はそれに関連するニュースなどを表示させる。

 

もし、この表示されているニュースが本当だったらこの話も本当ってことになる。つまり、213人の人間が死んだってことだ。

 

『ご覧の通り、多数の死者が出たことを含め、ご覧の通りあらゆるメディアが繰り返し報道している。よってすでにナーヴギアが強制的に解除される危険は低くなっていると言ってよかろう。諸君の現実の体は、ナーヴギアを装着したまま2時間の回線切断猶予時間のうち、病院、その他の施設へ搬送され、厳重な看護態勢のもとに置かれるはずだ。諸君らは、安心してゲーム攻略に励むとよい』

 

こんな状況の中でゲームなんかできるわけないだろ。

 

『しかし、十分に留意してもらいたい。今後ゲームにおいてあらゆる蘇生手段は機能しない。HPが0になった瞬間、諸君らのアバターは永久に消滅し同時に諸君らの脳はナーヴギアよって破壊される』

 

それはつまりゲームで死ぬと現実でも死ぬってことなのか。もしもさっきまで狩りをしていたときに死んでしまっていたら俺も……。

 

俺たちが助かるにはフィールドに出ないで外から助けが来るのを待つしかないのか。

 

しかし、茅場晶彦はこれとは別に助かる方法を話す。

 

『諸君らが解放される条件はただ1つ。第100層までたどり着き、そこにいる最終ボスを倒してこのゲームをクリアすることだ』

 

茅場晶彦が話し終わった途端、ファーランさんが深刻な顔をして語り始めた。

 

「これはかなりヤバいぞ。βテスト2か月間の内に10層もクリアされてないんだ。まして、命を懸ける中で100層クリアはほぼ不可能に近いと言ってもいい」

 

絶望としか言いようがないことに、これは夢であって欲しいとしか思うことしか出来ない。

 

『それでは最後に諸君らのアイテムストレージに私からのプレゼントを用意してある。確認してくれたまえ。この世界が現実であるという証明を見せてくれるだろう』

 

言われるがままにメニューウインドウのアイテムストレージを開く。そこにあったのは《手鏡》という名前のアイテムだった。

 

さっそくオブジェクト化し、手鏡に映っていたのはこのゲームを始めるときに作った俺のアバターの顔だ。

 

手鏡で自分の姿を確認しているときだった。

 

いきなり白い光が俺を包んだ。

 

「うわっ、何だっ!?」

 

すぐに光は消え、何が起こったのか確認しようとファーランさんとミラの名前を呼ぶ。

 

「ファーランさん、ミラ!」

 

「リュウか、俺は大丈夫だ……」

 

「アタシも……」

 

ファーランさんとミラに声をかけたが、反応したのは灰色の髪の見知らぬ外国人の青年と同じく灰色の髪をした少女だった。すると、2人は俺を見て驚いた。

 

「えっ!?リュウなのっ!?」

 

「そうだけど……」

 

会ったこともない少女は何故か俺の愛称まで知っている。どういうことなんだと考えていると少女と同様に会ったこともない青年が手鏡を見せてきた。

 

俺は手鏡に映る姿を見た瞬間驚いた。手鏡に映っていたのは、ハネッ毛の黒髪が特徴の平均的な顔をした少年だった。

 

「どうして()()()()()姿()になってるんだっ!?」

 

もしかして思い、青年と少女に尋ねてみる。

 

「ファーランさんとミラ……?」

 

「「そうだけど」」

 

再び驚く。

 

2人も自分の姿を確認すると俺と同様に驚いた。

 

それによく見ると周りにいた人も全員さっきまでとは違う人だ。中には性別が女から男になっている人もいた。自分の性別を偽っていたのだろう。

 

ファーランさんによると、ナーヴギアは高密度の信号素子で頭から顔全体を覆っていて脳だけでなく顏の表面も精細に把握でき、キャリブレーションで自分の体を触ったときに体格もデータ化できたらしい。

 

「でも、何でここまで……」

 

「その答えはすぐにわかるだろう」

 

『諸君は今、何故と思っているだろう。何故、ソードアート・オンライン及びナーヴギア開発者の茅場晶彦はこんなことをしたのかと。私の目的はすでに達成されている。この世界を創り出し鑑賞するためにのみ、私はソードアート・オンラインを創った。そして今、全ては達成せしめられた。以上でソードアート・オンライン正式サービスのチュートリアルを終了する。プレイヤー諸君健闘を祈る』

 

そう言い残し、茅場晶彦と名乗るGMはシステムメッセージに溶け込むように消えていった。直後、システムメッセージは消え、さっきのようにオレンジ色の空が広がった。

 

1万人近くのプレイヤーがいるにも関わらず、広場は静まり返っていた。

 

だが、1人の少女が叫ぶと大勢のプレイヤーたちの叫びの声もあがった。ある者は怒り、またある者は泣き崩れる。

 

俺はどうなってしまうのか何もわからず、ただ茫然と立ったままだった。

 

そんな俺をファーランさんがミラと一緒に広場から連れ出した。

 

ファーランさんに連れて来られたのはNPCすらいない街中にある狭い路地だった。そして、ここで彼は話し始めた。

 

「これはもうドッキリでも夢でもない。正真正銘の現実だ。俺たちが解放されるにはゲームをクリアするしかないだろう」

 

「でも、現実でナーヴギアの解析とかして俺たちの救出方法を探しているんじゃ……」

 

「そうだよ」

 

ゲームをクリアするしかないという言葉が受け入れられず、俺とミラは外から助けが来るということを信じて言った。

 

「確かに現実では何かしらの対策は思う。けど、それはいつになるのかはわからない。数週間、数ヶ月、数年後……もしかすると出られないっていう可能性だってある。それに病院で生命維持ができたとしても限界があるはずだ」

 

俺とミラはタイムミリットがあることを知り、黙り込んでしまう。

 

「現実の方はそうだが、今俺たちが生きているのはこの世界だ。どっちの世界でも生き残るにはここで自分を強化するしかない。俺はSAOのことはある程度理解しているから攻略方法の方はなんとかなる。リュウ、俺たちと一緒に来ないか?」

 

「え?ミラはともかくどうして俺を……」

 

「本当ならβテスターの俺が他のプレイヤーたちを助けなければならない。だけど、今の俺にはミラとリュウだけで精一杯なんだ。ミラをここで死なせるわけにはいかないし、リュウはここで初めてできた友達だ。せめて2人だけでも……」

 

だけど、俺はすぐに答えが出せなかった。ファーランさんとミラは現実でも知り合いのようだが、俺は2人とは今日出会ったばかりだ。もしかするとミラを守るために俺を利用する可能性も……。

 

「無理に今答えを出せとは言わない。もしも俺たちと来たいとなったら明日の朝4時ごろ街の北の噴水がある小さい広場に来てくれないか?別に誘いを断ってもお前を恨んだりはしない。じゃあ、また後でな」

 

そう言い残し、ファーランさんはミラを連れて何処かに行ってしまう。

 

俺も近くにあったNPCが経営する宿屋で休むことにした。

 

1階でウエイトレスの恰好をしたNPCから黒パンと水を買い、部屋へと入った。

 

部屋に入るとすぐに黒パンと水を平らげ、部屋にあるベッドに横になった。

 

「まさか、こんな事態になるとは思ってもいなかったなぁ……」

 

俺が聞いた茅場晶彦は仮想世界を実現させることができた凄い人だということだ。だけど、今は自分の目的のために他の人を巻き込むような人物だとしか思わない。このことを知ったら絶対に……はショックを受けただろう。

 

「それよりも今はファーランさんたちと一緒に行くかどうか決めないと……」

 

2時間ほど悩んだ結果、やっぱりファーランさんたちと一緒に行くことにした。今日1日ファーランさんとミラと過ごしたが、2人は悪い人にはとても見えない。それに2人と狩りをして楽しかった。

 

「2人を信じてみよう……」

 

目覚ましを3時45分にセットし、そのまま眠りについた。

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

翌日、午前4時前とまだ夜が明ける前に起き、ファーランさんが言ってた場所へと走って向かった。夜が明ける前のため、外は少しだけ明るいといった感じで、外には誰もいない。現実でもこんなに朝早く起きて外に出たことはない。

 

はじまりの街の北側にある噴水がある小さな広場には着いたときは、すでにファーランさんとミラが待ってくれていた。

 

「リュウ、来てくれたんだな」

 

「はい」

 

「改めてよろしくな」

 

「これからアタシたちと一緒に頑張っていこう」

 

ファーランさんとミラと再び、握手を交わす。2人とはこれからはこのデスゲームの中で共に戦っていく仲間だ。

 

俺たちは軽い朝食を済ませ、次の村に向かうためにNPCの店でアイテムを購入する。買ったアイテムは回復アイテムや予備の武器などだ。

 

全ての準備を終えた時には夜が明けようとしていた。

 

はじまりの街から出ようとしたとき、俺たち3人は先ほどNPCの店で購入したモスグリーンのフード付きマントを羽織った。

 

「前衛は俺が引き受けるから2人は援護を頼む」

 

「「はい!(うん!)」」

 

「行くぞ!」

 

ファーランさんが言い終えた直後、俺たちは朝日が昇ろうとしている草原を走り出す。

 

こうして、デスゲームと化した世界でのいつ終わるかわからない戦いが始まった。この先に待っているのは希望か絶望か。




一応、通常版では登場しなかった新たなオリキャラたちの簡単な紹介となります。

ファーラン
「進撃の巨人 悔いなき選択」に登場するファーラン・チャーチを改変した感じとなっています。しかし、ミラと現実で何かしらの関係があるなどオリジナル設定もあります。ちなみにイメージキャラボイスは遊佐浩二さんです。

ミラ
容姿は『ガールズ&パンツァー』の島田愛里寿みたいな感じで、彼女より表情は豊かでおてんばなキャラとなっています。イメージキャラボイスは竹達彩奈さんです。
「進撃の巨人 悔いなき選択」に登場するイザベル・マグノリアに相当するキャラとなっています。

この2人の関係はいずれわかります。

遊佐浩二さんはクラディール、竹達彩奈さんはリーファ/直葉とSAOのキャラを演じている声優さんですが、一切関係はありませんので。

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