ソードアート・オンライン Dragon Fang《リメイク版》 作:グレイブブレイド
あと、『ソードアート・オンライン Dragon Fang』シリーズのR18版を新たに投稿しました。リュウ君とリーファによる年齢制限が入る描写がございますので、閲覧するときはご注意して下さい。
今回は番外編第2話ということで、再構成前で最近MORE DEBAN状態のオトヤの話になります。基本、再構成前と変わりありません。ただ、オトヤの武器が変更されていますので。今までの話と比べると平和なものとなっています。
2024年2月1日
今僕がいるのは、最前線から離れた中層プレイヤーが主に活動している階層の街中だ。昼過ぎだったため、これからフィールドに行こうと準備をしているプレイヤーが大勢いる。
僕はギルドに所属していないため、パーティーを組む人を探している人が集まる街の広場に向かう。そこでいつも通り、一緒にパーティーを組んでくれる人を探してフィールドに行こうと考えていた。
街の広場に向かっていると、2人の男の人が1人の女の子に言い寄っている光景が目に入ってきた。女の子は小柄でセミロングの茶髪をツインテールにした可愛らしい子で、水色の小さい翼竜を連れている。
「シリカちゃん、よかったら今日は俺たちとパーティー組まない?」
「シリカちゃんの好きなところに連れてってあげるからさ」
「あ、あの……」
2人の男の人に言い寄られ、女の子は困惑している。
この光景を目撃した僕もどうしようと困惑していたが、気が付いたら男性プレイヤーたちに声をかけていた。
「あの……すいません。今日、彼女とパーティーを組む約束しているんですけど……」
話しかけられて僕の方を見る男性プレイヤーたち。何か文句を付けられるのではないかと思ってしまう。だけど、そうはならなかった。
「そうだったんだ。まあ、男ならまだしも
「今日は諦めるよ。シリカちゃん、都合がいい時にパーティー組もう。じゃあ」
男性プレイヤーたちは何1つ文句を言わず、少し残念そうにしながらこの場を去っていく。その人たちが言った『可愛い女の子』という言葉に傷ついてしまう。
「あの、助けていただいてありがとうございます」
落ち込んでいた僕の元に、助けた女の子が頭を下げてお礼を言ってきた。
「気にしなくていいよ。気が付いたら声をかけていたって感じだったから……」
それにあの人たちが、僕のことを女の子だと間違えたっていうこともあるかな。だけど、これだけは他の人には言いたくない。
「あたし、シリカっていいます。この子は相棒のピナです」
「きゅる」
「僕はオトヤ。よろしくね」
女の子……シリカちゃんが自分の名前と相棒を名乗ると、僕も自分の名前を名乗った。
その瞬間だった。
「『僕』ってことは、もしかして男の人っ!?」
シリカちゃんは僕が男だということを知った途端、警戒心を見せてきた。明らかに変な誤解をしている。
「待って待って!君を騙すつもりはなかったんだ!ただ、女の子が複数の男の人に囲まれていたのを見過ごすわけにはいかなくて!それに、僕昔から女の子だと間違えられることが多くて……」
誤解を解こうと必死に弁解する。女の子だと間違えられるのは昔からだから仕方ないけど、シリカちゃんのように可愛い女の子にまでに間違えられたのはかなりショックだった。
「そ、そうだったんですか。ごめんなさい、助けてくれた人なのに変な勘違いをしてしまって……」
「別にいいよ」
「へぇ、現実で飼っている猫の名前からピナっていう名前にしたんだ」
「はい、なんか現実のピナに雰囲気がちょっと似ていたので……」
「猫か。僕の家でもココとモカっていう名前の猫を二匹飼っているんだ」
「オトヤさんも現実で猫飼っているんですね」
色々あったけど、今は街の外れにあるNPCが経営しているカフェでシリカちゃんと談笑している。ここに来たのは、シリカちゃんが助けてもらったお礼と女の子と間違えたお詫びをかねてということだ。
「あ、言うの忘れてたけど、別に敬語じゃなくても大丈夫だよ。あまり敬語で話しかけられたり、さん付けで呼ばれるのに慣れてなくて……」
「あ、はい……。じゃあ、オトヤ君って呼んでもいいかな……?あまり人のことを呼び捨てでするのも慣れてなくて、こっちの方が男の子って感じもするから……。あたしのこともシリカでいいよ」
「うん、いいよ。じゃあ、僕はシリカって呼ばせてもらうね」
こうして僕はシリカのことを呼び捨てで、シリカは僕のことをオトヤ君と呼び、お互いにタメ口で話すようになった。
「オトヤ君、よかったら後で2人だけで一緒に狩りに行かない?あたし、ビーストテイマーになってから遥かに年上の男性プレイヤーの人に言い寄られるようになって。だから、たまにはゆっくりと狩りがしたいなって……」
そう頼んでくるシリカ。今日はまだ誰ともパーティーを組んでいないし、少しでもシリカの力になれればということで、彼女の頼みごとを承諾した。
カフェから移動し、穴場となっている草原のフィールドで狩りをすることにした僕とシリカ。出てくるモンスターは動物型モンスターや植物型モンスターなど多種多様だ。
僕が使用する武器は自分の身長より長いクオータースタッフ、シリカが使用するのは短剣とあまり前衛向きより支援系の武器である。だけど、モンスターのレベルはあまり高くなく、僕やシリカは苦戦することなくモンスターたちを倒していく。
今相手しているのは第1層のはじまりの街周辺のフィールドにいるフレンジーボアを一回りほど大きくしたイノシシ型のモンスター。
ソードスキルを発動させてクオータースタッフでイノシシ型のモンスターを攻撃する。
「シリカ、スイッチ!」
「うん!」
シリカが使用した短剣のソードスキルにより、イノシシ型のモンスターはHPを全て失って消滅した。
「お疲れ様、シリカ」
「お疲れ様。2人で合わせてこれで大体10体目ってところだね……きゃあっ!」
モンスターを倒して一息ついていたところ、食虫植物みたいなモンスターがツタを使ってシリカを宙吊りにする。
シリカは慌てて左手でスカートを抑えて右手に持つ短剣を必死に振る。そして、顔を真っ赤にしながら叫んだ。
「イヤァァァァ!オトヤ君助けてっ!見ないで助けてっ!!」
「そ、それはちょっと無理だよっ!でも、そのモンスター見掛けだけでこのフィールドで弱い部類に入るモンスターだから落ち着いて!」
左手で目を隠しながらシリカにそう言う。
「う、うん!こ、この……いい加減にしろっ!」
左手を目から離したときにはシリカはツルから解放されていて、短剣スキルの《ラピッド・バイト》を使って食虫植物モンスターを倒した。
「見た?」
「見てないです……」
こんな気まずいこともあったけど、僕たちは順調に狩りを続けることができた。
開始してから夢中になって数時間。モンスターを倒して手に入れた沢山のアイテム。中には中々ドロップしない珍しいアイテムもあった。
流石に疲れた僕たちは木の木陰に座って、街で買った黒パンを食べて休憩する。ピナも好物だというナッツを嬉しそうに食べている。
「それにシリカは凄いよね。こうやって中層域でこうやって活動してて。短剣の扱いもピナとの連携もよかったし」
「あたしが今こうしていられるのは全てピナのおかげなんだ。ピナと出会うことができなかったらどうなっていたのかわからないよ。オトヤ君だってクオータースタッフを使いこなせていて十分強いよ」
「そんなことないよ。実は僕、去年の3月の半ばくらいまでずっとはじまりの街に閉じこもってたんだ……」
「え?」
聞き返すシリカに僕は話し始めた。
茅場晶彦によってSAOはデスゲームだと宣言されてから、最前線でゲームクリアを目指すプレイヤーの攻略組、すでに攻略がされた中層エリアで活動している中層プレイヤー、そして死への恐怖からはじまりの街に閉じこもるプレイヤーに別れた。僕は3つ目のはじまりの街に閉じこもるプレイヤーに分類されていた。
流石にずっと閉じこもってばかりでは宿代や食事代がなくなってしまうため、たまにはじまりの街から出て必要な分だけのお金を稼いで生活していた。
こんな生活を送っていた時、僕は彼と出会った。
ある日、運悪く当時の僕のレベルでは相手するのが難しいモンスターの群れに遭遇して追われることになった。そして、僕は逃げきれず追い詰められてしまった。逃げたいけど恐怖のあまり身体が動けなくなっている中、背が高めの槍使いの男性プレイヤーが駆けつけてモンスターの群れを倒し、僕を助けてくれた。
助けてくれた槍使いの名前はザックさん。彼は小規模のギルドでサブリーダーを務めている攻略組のプレイヤーの一員で、一言で表すと面倒見のいい好青年という人だ。
この一件でザックさんと親しくなり、連絡先を交換して彼に会うようになった。彼も特に嫌な顔をすることなく、合間を見て僕と会ってくれていた。そして何回かザックさんと会った時に、僕はこのデスゲームと化した世界で生きていくことに恐怖し、そんな弱い自分が惨めでいることを話した。
「僕、本当は生活費を稼ぐために、弱いモンスターを、相手するだけでも、物凄く怖いんです……。いつか自分も死ぬんじゃないかって……。そんな自分の弱さが許せなくて……」
話している内に、いつの間にか目からは涙が溢れ出て声は震え、ザックさんに泣きついていた。
ザックさんは黙って話を聞いて、一度泣いている僕を抱きしめてから面と向かってこんなことを言ってきた。
「なあ、オトヤ。オレの話聞いてくれるか?」
問いに僕は頷いて答えた。
「オレだって本当は怖いんだ。楽しみにしていたゲームがいきなりデスゲームなって、現実に帰るには命がけで戦わなきゃいけないってことが……。そんな心の弱さを隠して戦っているんだ。オレはオトヤが思っているような奴じゃない」
いつも最前線で強力なモンスターたちと戦い続けているザックさんの口からそんなことが出てくるとは思ってもみなかった。そして彼の話は続いた。
「でも、オレは弱いことは決していけないことじゃないって思うんだよ。弱いからこそ強くなれる。これまでも、これからも。だから大丈夫だ」
『弱いからこそ強くなれる。これまでも、これからも』という言葉は僕を救ってくれたものだった。
それからザックさんは、暇を見つけては僕のスキル熟練度やレベルを上げるために付き添ってくれたり、両手用長柄の戦術などを教えてくれた。更には彼のギルドメンバーの人たちも協力してくれたこともあった。ギルドリーダーを務めている刀使いのカイトさんは、不愛想で最初はちょっと怖いイメージもあったけど、何度も僕にアドバイスを送ったりと優しい人だった。
ザックさんたちの協力があったおかげで、僕は中層クラスでハイレベルプレイヤー近くまでのレベルに達した。
そして、これらを通してザックさんのことを『師匠』と呼ぶようになった。
この話を聞いたシリカは優しく僕の左手を両手で握ってきた。
「そんなことがあったんだね……。でも、オトヤ君は今はこうしている。ここまで頑張って来られたのって凄いことだよ。オトヤ君は強いと思うよ」
そう言って、シリカが見せてくれた笑顔は綺麗で優しい光りのようだった。
一瞬驚きを隠せなかったが、笑みを浮かべてシリカにお礼を言う。
「何か慰められちゃったね。ありがとう、シリカ」
その途端、シリカの顔が一気に赤くなった。
「どうかしたの?」
「な、何でもないよっ!それよりもまだ日が暮れるまで時間もあるし、もうひと狩りしようか!」
「う、うん」
慌てだすシリカ。どうしていきなり慌てだしたのだろうか。
――オトヤ君って可愛い顔してるから、男の子だって言うことを忘れて思わず手を握ってしまったよ。今までクラスの男の子とも手を握ったことがなかったのに……。
何か様子がおかしいシリカを気にしつつも狩りを開始することとなった。
これが僕とシリカの初めて出会いだった。
再構成前ではオトヤの武器は太刀でしたが、再構成版では仮面ライダーレンゲルなどのようにクオータースタッフとなっています。武器を変更した理由ですが、主要メンバーでカイトやクラインも刀を使う、ALOではシルフのためリーファの長刀と色々と被る、バランスを取るために主要メンバーで両手用長柄の武器を扱うキャラがザックの他にももう1人いた方がいいなどといったものとなります。
再構成前では今はキリトがネカマ疑惑をかけられてますが、女の子と間違えられているのはGGOのキリトだけでなく、オトヤもです。シリカといるときは女の子同士と間違えられることが多く、シリカは百合だと思われているといます。そのため、オトヤを敵視する人はあまりいないです。
次回も引き続き、オトヤの話となっています。