ソードアート・オンライン Dragon Fang《リメイク版》   作:グレイブブレイド

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タイトルをエグゼイド風にしてみました(笑)

お待たせしました!キャリバー編も残りわずかとなりました!

挿入歌:「Just The Beginning」(仮面ライダーGIRLS)


第6話 巨人の王をKnock Outせよ!

《聖剣ジュワユーズ》。

 

フランスの騎士物語の1つ『シャルルマーニュ伝説』にて、主君の「シャルルマーニュ」こと「カール大帝」が所持していたとされる聖剣。

 

この世界にも伝説級武器(レジェンタリーウェポン)として存在し、《聖剣エクスキャリバー》と1,2位を争う最強の武器とも言われいる。

 

俺が初めて目にして使用したのは、この妖精の世界が、異世界から来た怪物達に支配されていた頃、ソイツらと世界樹の頂上で戦った時だった。正確には異世界の怪物達というよりALOを己の野望の道具にしようとしていた奴らだが……。

 

その時に戦った敵の1人が、俺を倒そうと運営者の権限で生成したところ、俺が奴らを倒すためにソイツから奪い取る形で使用した。しかし、ソイツらを倒した直後に、俺は不正に作り出されてしまった《聖剣ジュワユーズ》をこのまま残す訳にはいかないと破棄。それからALOが新しく生まれ変わってから数カ月が経った頃、今回のように偶然の成り行きで挑むことになった高難易度クエストで正式に入手したのだった。

 

それでも俺は、むやみに強大な力を持つこの剣を使ってはいけないと思い、手に入れてからも殆ど使われることはなかった。

 

――きっと、今回みたいな時のために使うよう、俺にこの剣が与えられたんだな……。

 

俺はそう思いながら柄を強く握りしめ、地面を勢いよく蹴り、奴に向かって突撃した。

 

対するスリュムはというと「貴様の攻撃なんか効かんぞ」と言わんばかりに、蔑んだような目で見ていた。

 

奴の前まで来たところで高くジャンプし、オリジナルソードスキル4連撃《クリスタル・ブレイク》を発動。龍が鍵爪でクリスタルを粉々に破壊するかのように4連撃の斬撃を叩き込んだ。先ほどの双牛との戦闘でも繰り出した技。しかし、威力はその時よりも増しており、スリュムを深く斬りつけた。

 

「ぐぅっ!!」

 

俺の攻撃が効いたのか、スリュムは顔を強ばらせていた。

 

――やっぱりこの剣を使って放つソードスキルは、いつものより威力が上がっているな……。

 

《聖剣ジュワユーズ》には、《エレメンタルブースト》というMPを消費することでソードスキルの威力を上げて攻撃できるエクストラ効果がある。もちろん魔法属性の威力も上がり、場合によっては魔法よりダメージを与えられることもある。また、この剣のエクストラ効果と俺のオリジナルソードスキルを組み合わせて、ユニークスキル《龍刃》の本来の威力を疑似的に再現することも出来るのだ。

 

しかし、《エレメンタルブースト》には 、魔法と同じくソードスキルの連撃や威力が増すほど消費する量も増え、MPがなくなってしまうと効果を発動できなくなるデメリットも存在する。一応ポーション等でMPを回復させれば問題なく使えるが、俺のMP量ではポーションの消費は激しく、長時間の使用は厳しいため、ここまで温存させてきたのだった。

 

「おのれェ!!小虫がァァァ!!」

 

すると、怒り狂ったスリュムは今度は俺にターゲットを変えて執拗に攻撃を繰り出そうとしてきた。

 

俺はSAOから鍛え上げてきたAGIと軽業をフル活用し、スリュムが振り下ろしてきた拳を次々と回避していく。更に他の皆もスリュムを攻撃し、注意を引き付けようとしてくれている。

 

一瞬生まれた隙に、俺は 緑色の光りを纏った聖剣ジュワユーズを、龍が尾を振り回して敵を斬りつけるように3回振り回す。オリジナルソードスキル 3連撃《スピニング・テイル》。物理2割、風8割。

 

俺が編み出したオリジナルソードスキルの中で反動が少ないため、比較的早くスキルディレイも解け、剣を手の中で回転させて逆手に持ち替える。

 

そして、剣を逆手に持ち替えた状態で、龍が爪で地面を大きく抉り斬るように剣を3度強く振るう。オリジナルソードスキル 3連撃《プリミティブ・クラッシュ》。物理7割、土3割。

 

「おのれ!いつまでも調子に乗るなァァァァァア!!」

 

スリュムはスキルディレイで動けなくなった俺に思い切り拳を振り下ろそうと構える。

 

俺はスキルディレイが解けるとすぐに剣を順手へ持ち直し、一度構えてスリュムへ向かって突進。スリュムが拳を振り下ろしてきたのと同時に、オリジナルソードスキル 7連撃《バイティング・ドラゴン》を発動。

 

7連撃の突きと巨大な拳がぶつかり合い、大きな衝撃が巻き起こる。この衝撃でスリュムは数歩後退り、俺は吹き飛ばされて地面を転がった。

 

「リュウ君、大丈夫!?」

 

倒れている俺のところに、リーファが心配そうに駆け寄ってくる。

 

「何とかな……。それよりフレイヤさんの宝物は?」

 

「リュウ君達が時間を稼いでくれたおかげで見つかったよ!」

 

「そうか……」

 

フレイヤさんの宝物が無事に見つかり、安堵する。リーファに肩を貸してもらいながら立ち上がって、ポーチからMP回復用のポーションを取り出す。ポーションを飲みながらキリさんの方を見ると、彼は物凄く重そうにして黄金の金槌を持ち上げようとしていた。

 

――あの金槌ってあんなに重いのか?

 

そんなことを思っていると、キリさんは何とか黄金の金槌を持ち上げて叫んだ。

 

「フレイヤさん!これをっ!!」

 

そして、勢いのままオーバースローで遠投してしまったのだった。

 

――あんなに重たい物をフレイヤさんに投げ渡したらヤバいんじゃ……。

 

だが俺の予想に反して、なんとフレイヤさんは涼しい顔をして、細い右腕で激重の金槌を容易く受け止めたのだった。

 

その直後……。

 

フレイヤさんの身体中にスパークが瞬き、ブラウン・ゴールドの長い髪がふわりと浮び上がり、彼女の口から低い囁きが零れる。

 

「…………ぎる………………なぎる……」

 

この様子を見ていた俺とリーファは少々焦りだす。

 

「リーファ、何かフレイヤさんの様子がおかしいんだけど……」

 

「あれ?もしかしてお兄ちゃん、何かヤバいもの渡しちゃったかな……?」

 

この間にも、スパークは徐々に激しくなっていき、フレイヤさんの声も低く力強いものへと変わっていく。

 

「……みなぎるぞ…………みな……ぎるうぅぅぉぉおおオオオオオ─────!!」

 

フレイヤさんの力強い絶叫が部屋中に響き渡る。その直後、彼女の身体はみるみる巨大化していき、背中と四肢の筋肉が盛り上がり、同時に純白のドレスが粉々に引きちぎれて消滅した。

 

全身に雷光を纏ったフレイヤさんは、スリュムに匹敵するほどまで巨大化し、腕や脚は大木のように逞しくなり、胸板は隆々と盛り上がっている。右手に握られていた黄金の金槌も、人型邪神モンスターでも持つのが困難なほどまでのサイズとなっていた。そして、ごつごつと逞しい頬と顎からは、金褐色の長いが伸びていたのだった。

 

この光景を見ていた全員が唖然とし、驚愕していた。常にポーカーフェイスでいるカイトさんも驚きを隠せずにしていて、クラインさんに至っては驚きとショックが合わさった表情をして固まっていたほどだ。

 

「「「オッ……オッサンじゃん!!」」」

 

キリさんとザックさん、そして何とか意識を取り戻したクラインさんの絶叫が響いた。

 

ふとHPMPゲージの一番下の列を見てみると、そこにあった《Freyja》と記されていた文字列が、《Thor》へと変化する。

 

《 雷神トール》。北欧神話ではオーディンやロキと並ぶ有名な神で、神話に詳しくない人でも一度はその名を聞いたことがあるだろう。雷を呼ぶハンマーを携え、巨人を次々と打ち倒すその姿は、多くの漫画や映画やゲームに登場するキャラクターのモチーフとなっている。

 

「まさか、あの有名な神様でもあるトールが、フレイヤさんに変装していたなんて想像もつかなかったな……」

 

「今思い出したんだけど、北欧神話には『トールがスリュムに盗まれたハンマーを取り戻しに行く』っていう話しがあるの。もしかすると、今回のクエストのサブイベントとして、それをアレンジしたものを取り入れたのかも……」

 

俺が呟いたことに、リーファが簡潔にそう教えてくれた。

 

「ウゥゥォォオオオオオオオ!!!」

 

トールは本来の力を取り戻したことで、この部屋どころか氷の迷宮中に響き渡るくらいの声で咆えた。

 

スリュムもトールの存在に気が付き、そちらに身体を向ける。そして、2体の巨大な巨人たちは対峙する。

 

「卑劣な巨人めが、我が宝《ミョルニル》を盗んだ報い、今こそあがなってらおうぞ!!」

 

トールは巨大な黄金のハンマーを振りかざし、勢いよく突進した。対するスリュムも、氷の戦斧を生み出して迎え撃つ。

 

「小汚い神め、よくも儂をたばかってくれたな! !そのひげ面切り離して、アースガルズに送り返してくれようぞ!!」

 

トールとスリュムの戦いは激しさを増していく。まるで怪獣映画を直接見ているようだ。

 

この激しい戦いを俺達は呆然として見ていた。

 

「……さん、……サン、フレイヤさん、オッサン、 フレイヤさん、オッサン……」

 

クラインさんはショックのあまり、壊れたロボットみたいになって 「フレイヤさん」と「オッサン」を交互に何度もそう口にしていた。

 

普段ならここで、カイトさんが「普段から下心が丸出しだからそうなるんだ。自業自得だ」と辛辣なことをクラインさんに言い放つところだろう。しかし、カイトさんも流石に今回ばかりは気の毒に思ったのか、気まずそうにしてそっとクラインさんから顔を逸らすのだった。

 

すると、部屋の後方から、シノンさんが鋭く叫んだ。

 

「トールがタゲ取ってる間に全員で攻撃しよう!」

 

確かにトールが最後まで戦ってくれる保障はない。ある程度ダメージを与えたら「後は任せた」と言って消えるか、途中でスリュムに倒されてしまうなんてこともあり得る。奴を倒すなら今が絶好のチャンスだ。

 

「みんな全力攻撃だ!ソードスキルも遠慮なく使ってくれ!!」

 

キリさんが叫ぶと、11人は一気に床を蹴った。

 

「まずは、ヤツの体勢を崩すぞ!脚に集中攻撃だ!!」

 

キリさんが先陣を切り、2本の剣でスリュムの脚を斬りつけていく。

 

「まだ終わりじゃないぞ!」

 

「俺達の攻撃も喰らえ!」

 

それに続くように、カイトさんがすれ違いざまに刀で斬りつけ、ザックさんが槍で薙ぎ払う。

 

「どんな巨人だって腱を狙えば!」

 

「立っていられなくなりますよね!」

 

「いきますよ!」

 

アスナさんもいつの間にかレイピアに持ち替えて高速の連続突きをアキレス腱に見舞いし、更にオトヤとシリカが同時に錫杖の刃と短剣で切り裂いた。

 

「へっへー!足で弱点……って言ったら、ココだよねっ!小指ィィィッ!!」

 

リズさんは、メイスを野球のバットの様に構えて、スリュムの足の小指にフルスイングを決めた。これにはスリュムにもかなり効いたようで顔をしかめた。

 

「ハァっ!!」

 

そこへ、シノンさんがオマケだと言わんばかりに喉元に氷の矢を撃ちこんだ。

 

「リーファ、俺達も行くぞ!」

 

「うん!」

 

スリュムに接近しながら、それぞれの愛剣に闇と風の魔法の光りを纏わせる。

 

「はあああああ!!」

「てりゃあああああ!!」

 

同時に剣を振り、クロスするように奴を斬りつけた。

 

攻撃を喰らって怯んでいるスリュムに、クラインさんがゆっくりと近づいて刀を構えた。

 

――俺は騙されたとは思ってねぇ……。俺が勝手にフレイヤさんに惚れただけだ。最後まで力を貸すぜ。それが俺の武士道ってもんだ。

 

強い決意を胸に秘めたクラインさんの眼に、何か光るものが見えた気がするが、今は気にしないでおこう。

 

「ちっきしょォォオオ!!」

 

クラインさんの強い意志と失恋のショックが籠った渾身の一撃が、スリュムの足首を深く斬りつけた。すると、スリュムは片ひざを付く形になって動きを止めた。

 

「やったっ、スリュムがスタンしたよっ!」

 

リーファが歓声を上げる。クラインさんは驚いた反応をする。

 

「ナイス上段斬り!」

 

「いい上段斬りだったぜ!」

 

傍にいたリズさんとザックさんがクラインさんの肩や背中を叩き、そう告げる。

 

「ここだ!一気に畳み掛けるぞ!」

 

「フィニッシュは必殺技で決まりだ!!」

 

キリさんと俺の声に合わせて、全員が最大連撃数の攻撃を放った。他の皆がソードスキルを発動し終えたところに、キリさんの《スキルコネクト》で繋げた10連撃以上の斬撃と、俺のオリジナルソードスキル11連撃《ドラゴニック・ノヴァ》が叩き込まれる。四方から眩いエフェクトが無数に炸裂した。

 

俺達の攻撃を受けてスリュムが地面に膝を付いて倒れる。しかし、HPゲージはまだ最後の1本が残っていて、奴を完全に倒せていなかった。

 

「ぬぅ……おのれぇぇ………。小虫ども、許さんぞぉぉ………。この狼藉、万死に値する……。永遠に、凍りつかせて……」

 

俺達にトドメを刺そうと起き上がろうとするが……。

 

「 地の底に還るがよい、巨人の王!!」

 

奴が起き上がる直前で、トールが右手の巨大なハンマーをスリュムの頭へ勢いよく振り下ろした。その一撃は、スリュムの王冠を粉々に粉砕しながら、奴の頭を地面にめり込むほど叩き込んだ。すると、スリュムの顔面が氷へと変わっていき、氷化は徐々に全身へと浸食していく。その最中、奴の低い笑い声が流れた。

 

「ぬっ、ふっふっふっ……。今は勝ち誇るがよい、小虫どもよ。だがな……アース神族に気を許すと痛い目を見るぞ……。彼奴らこそが真の……」

 

だが、全て言い終える前にトールの強烈なストンプが奴の頭に炸裂。スリュムは巨大なエンドフレイムを巻き上げ、無数の氷片となって爆散した。

 

「礼を言うぞ、妖精の剣士たちよ。これで余も、宝を奪われた恥辱をそそぐことができた。──どれ、褒美をやらねばな」

 

左手を右手に握る巨大なハンマーにかざす。すると、それに付いていた黄金のダイヤ状の装飾品が1つ外れ、光りに包まれて小さな人間サイズの黄金のハンマーへと変形。黄金のハンマーはクラインさんの手へと納まった。

 

「《雷槌ミョルニル》、正しき戦のために使うがよい。では――さらばだ!」

 

トールはそう告げて右手をかざした瞬間、握られていたハンマーが強烈な金色を光を放った。俺達は眩しさのあまり目を閉じ、再び目を開けた時にはトールの姿はなかった。ウインドウを開いて確認してみると、俺達にかかっていたHPゲージの最大値が上がるバフはなくなり、12本目のHPMPゲージもなくなっていた。

 

ドロップアイテムが11人のストレージに収まって消えていく。全て収まり終えると、ボス部屋の光度も増し、両側にあった黄金の山も消えていた。

 

キリさんがクラインさんに近づいて肩に手を乗せる。

 

伝説級武器(レジェンタリーウェポン)ゲット、おめでとう」

 

「……オレ、ハンマー系スキルびたいち上げてねぇし……」

 

クラインさんはハンマーを持ちながら半泣きになる。

 

「だったらリズに上げたらどうだ?あーでも、リズの場合、溶かしてインゴットにしかねないからなぁ……」

 

「ちょとぉっ!いくらあたしでも、そんなもったいないことしないわよ!」

 

ザックさんの言葉にリズさんが反論すると、アスナさんがこんなことを補足して教えてくれた。

 

「でもリズ、伝説級武器(レジェンタリーウェポン)を溶かすとオリハルコン・インゴットがすごいできるらしいよ」

 

「え、ホント?そんなものあるのね」

 

それを聞いたリズさんは、目を輝かせてクラインさんが持つ黄金のハンマーを見る。

 

「あ、あのなぁ!まだやるなんて言ってねぇぞ!」

 

対するクラインさんは慌ててハンマーを抱き寄せる。

 

「カナヅチ置いていけェ〜〜!」

 

「ヤメローッ!」

 

リズさんはハンマーを狙おうとし、クラインさんはハンマーを抱いてリズさんから逃げようとする。

 

そんなやり取りを見て、周囲からは笑いが起こる。

 

だが次の瞬間、体の芯を揺さぶるほどの振動が響き、同時に氷の床が激しく震えた。

 

「きゃあ!」

「うわっ!」

 

シリカとオトヤが悲鳴を上げ、2人の隣でシノンさんが叫ぶ。

 

「う……動いてる!? いえ、浮いてる……!?」

 

今俺達がいる巨城スリュムへイムが、少しずつ上昇をしている様なのだ。

 

「スリュムは倒した筈なのにどうなっているんだ!まさか、クエストはまだ終わっていないっていうのか!?」

 

すると、首から下げたメダリオンをのぞき込んだリーファが叫んだ。

 

「りゅ、リュウ君! クエスト、まだ続いている!さ、最後の光が点滅してるよ!」

 

「何だって!?」

 

俺だけでなく、この場にいた全員が驚く。すると、カイトさんが何かに気が付いて声を上げた。

 

「そうか!ウルズは、スリュムの討伐じゃなくて、台座から聖剣エクスキャリバーを引き抜けと俺達に頼んだ!つまり、このクエストはスリュムを倒して終わりじゃないってことだ!」

 

カイトさんの声に、ユイちゃんが鋭く反応した。

 

「パパ、玉座の後ろに下りの階段が生成されています!」

 

キリさんは猛然と床を蹴り、玉座までダッシュした。俺達も彼の跡を追う。

 

裏に回り込むと、ユイちゃんの言うとおり、氷の床に下向きの向きの小さな階段がぽっかりと口を開いている。そして、俺達は急いで階段を下っていく。

 

「なあリュウ。仮に地上のスローター・クエストが成功した場合、スリュムヘイムはこのまま央都アルンまで浮上するって話しだろ。だけど、黒幕のスリュムは俺達が倒した。だとしたら、どうしてスリュムヘイムの進行は止まらないんだ?」

 

「ゲームでよくある展開みたいに、スリュムが強化されて復活して、真のラスボスとして登場する流れになるからって見当が付きますけど、今回ばかりはそういう訳ではないですよね……」

 

俺とキリさんの会話を聞いていたリーファが話しに入ってきた。

 

「……あのね、お兄ちゃん、リュウ君。あたしもおぼろげにしか憶えてないんだけど……、確か本物の北欧神話では、城の名前はスリュムへイムだけど城の主はスリュムじゃなくてスィアチっていうの」

 

「「スィアチ?」」

 

俺とキリさんが同時にそう口にすると、キリさんの頭上にいるユイちゃんが答えた。

 

「はい、リーファさんの言うとおりです。神話では、ウルズさんの言っていた黄金の林檎を欲しているのも、実際にはスリュムではなくスィアチのようです。ここからはALO内のインフォーメーションですが、プレイヤーに問題のスローター・クエストを依頼しているのは、ヨツンヘイム地上フィールド最大の城に配置された《大公スィアチ》というNPCなのです」

 

「ってことは、スィアチがこの騒動の真の黒幕ってことか……」

 

「後釜は最初から用意されていたみたいだな……」

 

俺、キリさんの順に言う。

 

階段を降り切り、ピラミッドを上下重ねたような形でくり抜いた氷の空間へと出た。そして、その先には目的の黄金の剣が氷の台座に突き刺さっていた。

 

これは間違いなく、かつて俺とキリさんとリーファとユイちゃんが、トンキーに乗ってヨツンヘイムから脱出した時に見た黄金の長剣……《聖剣エクスキャリバー》だ。

 

シノンさんを除く今ここに居る者全員が、この剣を一度見たことがある。それは、俺とリーファが《聖剣ジュワユーズ》を初めて見た時と同じ頃だ。

 

ALOを己の野望の道具にしようとしていた奴ら奴らの1人……須郷伸之が、ソイツらと同じようにGM権限で 《聖剣エクスキャリバー》を生成しようとした。しかし、その時には既にGM権限はキリさんに移動していて、彼が代わりに《聖剣エクスキャリバー》を生成し、奴に投げ与えられたのだった。

 

「これで、2本目の剣もあの時の借りを返せますね……。キリさん、早く行ってあげて下さい」

 

《聖剣ジュワユーズ》を手に入れた時の俺と重なって見えてしまい、思わずキリさんにそう声をかけた。

 

「ああ。そうだったな……」

 

キリさんは緊張が和らいだのか、俺に笑みを見せてくれた。そして、一呼吸置き、一歩踏み出して《聖剣エクスキャリバー》の柄を握って、台座から引き抜こうとする。

 

しかし、剣はピクリともしなかった。更に左手も添え、足で踏ん張って全力で振り絞る。だが、結果は変わることはなかった。

 

ここに居る全員で力を合わせて一斉に引き抜けば、抜ける可能性があるがそういう訳にはいかない。キリさん自身も、自分の力で抜かなければと思っているだろう。

 

「キリさん、もう少しですよ!」

「がんばれ、キリト君!」

「お兄ちゃん、もうひと頑張りだよ!」

「ほら、もうちょっと!」

「一気にいけ!」

「もっと力を込めろ!」

「根性見せて!」

「キリトさん、頑張って下さい !」

「キリトさん、ファイトです!」

「しっかりやれよ、キリの字!」

「パパ、がんばって!」

「きゅる!」

 

俺、アスナさん、リーファ、リズさん、ザックさん、カイトさん、シノンさん、シリカ、オトヤ、クラインさん、ユイちゃんはもちろん、ピナからも声援の声が上がる。

 

「ぬ、お、おぉぉぉぉぉ!!」

 

キリさんは最後の力を振り絞り、一気に引き抜く。すると、台座の氷がミシミシ音を立ててひび割れていき、黄金の剣が少し動く。やがて氷の割れ目から強烈な光が迸り、視界を金色に塗りつぶした。

 

直後、黄金の剣を握るキリさんが飛んできて、全員で支える。

 

これを見ていた俺達が歓喜の声を上げようとしたその時だった。

 

突如ドガァァァンッ!と大きな音がしたのと同時に、黄金の剣が刺さっていた氷の台座から巨大な木の根が伸び始めたのだ。

 

「な、何だっ!?」




リュウ君のとっておき…《聖剣ジュワユーズ》に関してになります。元々は、シャルルマーニュの宝具演出みたいなエクストラ効果にしようかなと思いましたが、あれはALOでやるにはチート過ぎると判断したため、没とさせて頂きました。あれはクロスセイバーの必殺技を使うようなものですからね(笑)
そして、色々と考えた結果、MPを消費してソードスキルを強化する効果にし、更にリュウ君のオリジナルソードスキルと合わせることでユニークスキル《龍刃》の力を疑似的に再現できる設定にしました。
正規の入手エピソードはいつか番外編として書きたいと思ってます。

今回のクラインは本当にドンマイだなと思いながら書いてました(笑)。前回のコメントで、リュウ君のとっておきと並んでこれを楽しみにしている方もいたんですよね(笑)

キャリバー編も残すはあと1話!マザーズロザリオ編までもう少しです!

ユウキと言えば、ラスリコに神様アカウントを使って参戦するとなりましたね。本作でもユウキには神様アカウントを使わせようかなと思ってます。じゃないと、ロード・オブ・ワイズ戦が厳し過ぎると声を多数受けているので(笑)
ちなみに、ユウキが戦うのはチート揃いのロード・オブ・ワイズの中でも最強とも呼ばれているクオンになる予定です。奴は《マザーズ・ロザリオ》でさえもカウンターで倍に返します…。

そして、ディーアイエルがラスリコで鞭を使うと知ってから、本作でも使わせようかなとしたところ、それでもリュウ君に全くダメージを与えられない気がしました(笑)

長文失礼しました。

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