ソードアート・オンライン 狂戦士の求める物   作:幻在

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再開と憎悪と理由

「久しぶりだな、毒殺女」

ソラは背中の剣を抜く。

目の前には、黒いローブを羽織った女性。

先ほど来たベヨネッタ(名前については何も言うな)ではない。

だが、その眼は、憎しみに満ちている。

 

 

一つ、狂戦士(バーサーカー)の噂が立ち始めた頃の話をしよう。

これは、ソラがレッドプレイヤー狩りになった理由(わけ)でもある。

これは、四十七層の頃の話だ。

ソラは、森を歩いていた。

「おかしい・・・モンスターが全然ポップしない・・・誰かが狩り尽したのか?」

この頃は、狂戦士スキルを得たばかりで、まだ慣れていない痛みに耐える為に色々なモンスターの攻撃を受け続けて慣れようとしていた。

「・・・ん?」

何かが聞こえた。

そっと耳をすます。

(・・・・けて)

「・・・」

(・・・・たすけて)

「!」

その声を聞いた途端、全力で走り出す。

(間に合え!)

そして、その声の元に着いた、時は遅かった。

「あ・・・」

「たすけ・・・」

バリィン!!

顔は知っている。

聖竜連合のメンバーだ。

「うふふ・・・」

そこには、黒いローブを羽織った女。

ソラは腰にある剣をゆっくりと引き抜き、そして、完全に引き抜いた瞬間、飛びかかる!

だが!

「!?」

いきなり体が大きく前のめりに倒れる。

「な、にが!?」

HPバーを見ると、そこには麻痺を示すマークがあった。

「く・・・そ・・」

「ひっひっひ・・・」

「!?」

後ろから声がした。

それは少し低い男の声。

「まんまと引っかかってくれたぜ」

「ほんと、バカな男だこと」

嘲笑う二人。

「おま・・えらぁ・・」

「ああん?そんな状態で何が出来るんだ?ええ?」

カーソルは赤い、重犯罪(レッド)プレイヤーだ。

「ふふふ、良いわよねぇ、絶望した顔って。とっても面白い顔をするんですもの」

壊れてる。

「人を殺す事は悪い事だと、みんないうけどさぁ、俺はそうは思わないんだよねぇ。だってこんなに()()()()()()()()

 

・・・楽しいだと?

 

あの時の情景が蘇る。

 

どこが楽しいものか。人を殺せば、そいつはそいつでなくなる。そいつの人生は壊れてしまう。

 

あの少女の姿が見える。あの、他者に関わらず、一人ひっそりと過ごしていたあの少女。

 

「さて、そろそろお前死ね」

(・・るな)

 

そんな事、あってはならない。

そんなふざけた幻想が、現実が、理想が、運命があるというのなら、俺はその全てを喰い破る。

全て壊す。

 

ウィンドウを操作する。ばれないように。

 

「ああ?」

「ふざけるなって言ったんだよ」

剣が背中に顕現する。

それは背中にズシリと重量を教え、柄を持てば、それがそこにあると実感させてくれる。

そして、この剣を使う為には、麻痺を受けた傷口の痛みに耐えなければならない。

背中が熱い。灼ける様だ。

だけど、こいつを許すわけにはいかない!!

「ハ?」

剣を抜きざまに、男の胴体を斬る。

その体はあまりにもあっけなく、刃を通した。

「あ・・・ああ・・・」

HPを纏めて吹き飛ばす。

そして、爆散する。それは無数のライトエフェクトと化し、宙を舞う。

「う、嘘・・・」

ソラは、麻痺を受けているはずなのに立ち上がる。

「い、いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

女は悲鳴をあげる。

どうやら、男はこの女にとって大切な人だったらしい。だけど、あんな行為は許されない。

「そんなぁ!そんなぁ!」

「ゴチャゴチャうるせぇよ」

ソラは大剣を構え、女を冷たい眼差しで見る。

(・・やる、・・・やる)

「死ね」

ソラが大剣を振り下ろす。

だが女はそれを避ける。

「何!?」

女はメンタル的にも崩壊寸前だった筈だ。なのになぜ?

「殺してやる!お前を殺してやるぞ人殺し!」

「お前が言うな。さんざん人を殺してきた癖によぉ」

「黙れ!いつか絶対に殺してやる!必ずだ!」

女はそんな捨て台詞を吐き、逃げていった。

「頭の良い野郎だ。真っ向からじゃ敵わないと踏んで戦略的撤退をしやがった」

意外な程に彼の頭はクリアだった。

それは、一度経験した事があるからか、それとも、あんな扱いを受けたあの少女の事に比べたら軽い事だと思っているのか、それは分からない。だが・・・

「あの犯罪プレイヤーを殺せば、攻略を妨害される事は無い。そうか・・・こういう手があったか」

捕まえる事より簡単だ。

 

殺してしまえばいい。

 

奴らがやっている事と同じように、こっちも殺しにかかるのだ。

そうすれば、攻略組への妨害を阻止できる。

それからというもの、ソラは攻略組を殺そうとしているレッドプレイヤーを見つけるやいなや、即刻斬りかかり、殺してしまうことで、攻略組への妨害を阻止し続けてきた。

攻略組が計画した笑う棺桶(ラフィン・コフィン)討伐を聞いた時には、あるクエストをクリアし手に入れた『狂戦士の鎧』を着て、後をつけたのだが、その泥沼の戦いは今でも覚えている。

 

 

 

「殺してやる、殺してやるぞ・・・殺す!」

女の顔が歪み、ソラに斬りかかる。

「!?」

その異常なまでの速さに驚き、思わず自分の剣を盾にする。

だが、それを読んでいたかのように剣の死角に回り込み、背中を斬る。

「ぐあ!?」

背中に焼けるような痛みが走る。

それを耐え、剣を振りかぶり、後ろへ薙ぐ。

だがかわされる。

「ふふふ・・・」

「チィ・・・」

すばしっこい。

まずは捉える事が先だ。

女が動く。だが・・・・

「な!?」

逃げた。それもシノンが向かった先に。

「あいつ!?」

シノンを狙っているのか?

もしシノンが死んだら・・・・

「待て!」

女を追いかけるソラ。

 

 

 

一方シノンの方は・・・

一体目のゴーレムAが拳を振り上げ、勢いよく振り下ろす。

「く!」

それをかわす。

地面が揺れる。

なんとか弓の所に辿り着けば逆転の鍵になるかもしれない。ならそこに向かうまで。

とにかく走る。

攻撃を掻い潜り、なんとか弓の飾られている祭壇に辿り着く。かと思った瞬間・・・

「うわ!?」

いきなり目の前が光に包まれる。

シノンは鋭い反射神経で後ろに転がる。

「あ、あぶない・・・」

「ひひひ・・・」

「ちょっと!飛んでないで降りてきなさいよ!」

「いやだねぇ~」

と、小馬鹿にしたように飛び回る魔女。

そこへゴーレムBの拳が振り下ろされる。

「わわわ!?」

それをなんとか避けるシノン。

「く・・・辿り着けない・・・!?」

更にゴーレムCの拳。それを短剣でそらす。だが、余波が大きく、吹っ飛ぶ。

「あああ!?」

壁に叩き着けられ、HPが減少する。

「くっそう・・」

ポーションを急いでのみ、次の攻撃備える。

「けけけ・・・」

「~~~!!」

魔女の態度が頭にくる。

こうなれば自棄(やけ)だ。

シノンは走り出す。

弓に向かって真っすぐ。

それを阻止するかのように、ゴーレムABCの拳が雨の様に降り注ぐ。

それを間一髪でかわし続ける。

そしてまた祭壇に辿り着く。

そしてここで魔女の攻撃が来る。今度は下がらない。

ポーションを取り出し、飲む。

そして目の前に光の柱が立つ。それを強引に突き破る。

そして、弓まであとは手を伸ばすだけ。

「その弓に触るなぁぁぁぁ!!」

魔女が叫ぶ。

だがもう遅い。

その手が弓を掴む。

いきなり目の前にウィンドウが現れる。

「な、何!?」

そこには・・・

 

エクストラスキル《弓兵》

遠距離で攻撃を当てる事が出来る。

ソードスキル発動で、射程内なら必ず必中する。

 

「なるほどね」

「それを離せぇぇぇ!!」

魔女が叫ぶ。

だが、シノンは試しに新たに腰に現れた矢筒の中に入っている矢を一本抜き魔女に標準を合わせ、ソードスキルを発動する。

 

弓兵スキル《シュート》

 

それは真っすぐ魔女に飛んでいき、直撃する。

「ぎゃああ!」

魔女は叫び声をあげ、墜落する。

HPをバー一本分持っていく。

「マジ!?」

その威力に驚くシノン。

 

《星霊弓アストラル》

 

シノンはゴーレムAに向かってソードスキルをぶつける。

短剣じゃそこまで削られなかったHPが大きく減少する。

「いい弓じゃない。気に入ったわ」

シノンは不敵な笑みを浮かべ、弓を構える。

「さあ、かかってきなさい!」

 

 

 

ソラの方では・・・

「あいつどこに行きやがった!」

大剣を振り回し、先ほどの女を探すソラ。

モンスターが一々邪魔してくるので、どんどん倒していっているのだが、中々見つからない。

「シノンに手を出したら、ただじゃ・・・」

「へえ・・・さっきの女の子、シノンって言うんだ」

「!?」

後ろからあの女が出てくる。

「バカな!?」

「やっぱり、狂戦士スキルって他のスキルの性能を鈍らせるのね」

「!?」

先ほどの話が本当なら、ソラの索敵スキルはこの女の隠蔽スキルを見破る事は出来ない。

「お前・・・・」

「貴方が絶望したら、一体どんな顔をするのかしら?」

「貴様ァ!!」

剣を振りかぶる。

だが、当たる前にスゥッと消えた女。

「くそ、シノン!」

急いでシノンを探しに行くソラ。

 

そのシノンというと・・

「ば、バカな・・・」

ポリゴンとなって消滅した魔女。

「ふう・・・この弓強いわね。っていうか・・・」

星霊弓アストラル

アストラル系モンスターに対して強力な攻撃力を発揮する。

「つまり、それ以外ではあまり力を発揮しないって訳ね・・・慢心しないようにしなくちゃ」

部屋を出て、教会に戻ろうとするシノン。

自分の命が狙われているとも知らずに。

 

 

「どこだ・・シノン!」

探し始めてから十分が経過している。

 

「ソラ?」

教会に戻ったシノンはソラの姿が無い事に気付く。

「帰った訳じゃないわよね・・・」

「ありがとうございます」

「うわ!?って貴方・・・」

現れたのはさっきの骸骨だ。

「突然、すみません。しかし、魔女を倒してくださり、ありがとうございます」

「別にいいわよ、お礼なんて」

「そんな訳には・・・ならその弓を貴方に差し上げましょう」

「いいの?」

「ええ、もう、私がここに残る必要は無くなりましたから」

「そう、それじゃあね」

「はい、ありがとうございます。本当に」

そう言って消える骸骨管理者。

「終わったのよね・・・」

なんだか寒い。

「ねえ、ソラ。いるなら、出てきてよ・・・」

突然押し寄せてくる不安。

「ねえ、一人に、しないでよ・・・ねえ、ってば」

「その前に、貴方は死ぬわ」

「!?」

後ろから声が聞こえた。

その瞬間、体が前のめりに倒れる。

「な・・・何が・・・」

いきなりの事で、頭が追いつかない。

「ふふふ、貴方がシノンね、あの殺人者の仲間の」

「何言って・・・」

「それは語らないわよね、だって、人を殺しているんですもの」

「ソラが?嘘よ・・・だってソラは緑・・・」

「レッドやオレンジプレイヤーを傷付けても、カーソルは緑のまんまなのよ?」

「!?」

それが本当なら、ソラは一体何人・・・

「正義の味方ぶって人を殺す。なんて当たり前な英雄なんでしょう。英雄誰しも、()()()()()()()()()()

それは本当だ。

アーサー王も、戦争で人を殺し、織田信長だってそうだ。

英雄と称えられる人物はみな、殺しをしている。

「ソラを・・・一緒にするな・・・」

「あらあら?認めないつもり?誰がそう言おうと、私は曲げる気は無いわ。だって目の前で見ているんですもの、彼が私の夫を殺した所」

「!?」

それを聞き、彼の顔が浮かぶ。

あれは全て紛い物だったのか?嘘だったのか?

嘘だと信じたい。だって、彼の傍にいると、一番安心するから。

不意に顔をみた。

狂気に歪んだ顔を。

その瞬間、ある顔がフラッシュバックする。

「!?」

その顔は、眉間から血を流し、歪み切った笑みを見せていた。

「あああ・・・ああ・・」

その男は、女の眼からシノンを見ている。

更に連鎖的にフラッシュバックを起こす。

足元を濡らす血の水たまり。

手に握られた拳銃。

そして、あの男の顔。

「あああああ・・・・」

そうだ。私は・・・

「ふふ、いい顔ねぇ。いいわ、いいわ!これであいつを絶望させられる!あの人の無念を晴らせられる!」

女は両手を大きく開き、大いに笑う。

だがその声もシノンには聞こえていない。

今はただ、自分の最も最悪な過去を振り返っているのだから。

「さて、そろそろ終わりにしましょうか」

ああ、これで終われる。もう、あんな悪夢を見なくて済む。

誰も、私を助けてくれない。誰も、誰も、誰も・・・だれ

「詩乃ォォォォォォォォォォ!!!」

誰かの声が聞こえた。

それは、今の彼女の名前と少し違う。

シノンとはいわず、何故詩乃と言った?

そう、それは、紛れもなく、シノンの、朝田 詩乃の名前。

どんどん思い出していく。

あの場にはもう一人いた。だけど思い出せない。

貴方は・・・・誰?

「貴ィ様ァァァァ!!」

「何よ・・・また、邪魔する気?」

女の顔から笑みが消える。

そして、憎悪に満ちた顔に変貌する。

「いつもいつもいつもいつもいつも!!お前は邪魔する!私たちの楽しみを邪魔する!お前は人殺し!人殺しは人殺しらしく・・・刑務所の床でも舐めてなさいよぉぉぉぉお!!」

「お前が舐めろやぁぁぁぁ!!!」

声の主、ソラが、女、ルキナとぶつかる。

大剣が振り下ろされる。

それをかわすルキナ。

「死ねぇぇ!!」

「おおおお!!」

今、この教会で、二人のプレイヤーがぶつかる。


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