森林・・・・・
そこからいくつもの銃声が立て続けに聞こえていた。
その森の中をアサルトライフルを抱えながら全力で走る一人の少女。
「ハア・・・ハア・・・ッ!?」
突如、少女は前方に身を投げ出し、前転。
すると頭上をいくつもの銃弾が通過する。
「このッ!」
少女は地面に伏せの状態で敵を狙う。
その先に一人の男。
そのまま、力任せに引金を引く。
「ぐおおお!?」
しっかりと狙ったので、ほとんどの弾が命中。
少女はすぐさま立ち上がると、また逃走を始める。
そして、走りながらウィンドウを操作。
「クイック・・・・チェンジッ!」
すると、両手に持っていたアサルトライフルが消え、代わりにそれよりも遥かに大きく、そして重い対物狙撃銃が出現する。
そして、目の前にある木に背を付け、真っ直ぐに追いかけてきているだろう敵に向ける。
息を吐き、また吸う。もう一度吐いて、今度は半分の所で吸うのをやめ、止める。
バレットサークルが激しく拡縮をするが、問題は無い。
もともと、こんな物が出てこない世界で戦ってきたのだ。
そして、スコープの中で、敵が出てきた事を確認する。
だが、向こうも気が付いたらしく、慌てて死角に隠れようとする。
そこで私は『剣気』を放った。
その途端、相手はまるで体が突然、石になったかの様に、動かなくなった。
「くたばれ」
引金を引き、
相手は成すすべもなく、腹を吹き飛ばされ、死亡する。
「ふう・・・」
少女はへたりこみ、安堵の息を漏らす。
「アサルトライフルだけで行けると思ったけど、やっぱり貴方がいないとダメね、私」
少女、シノンは、自分の腕の中にあるライフル、『ウルティマラティオ・ヘカートⅡ』の銃身をなでる。
そして、視界が白く塗り潰される。
気が付くと、そこはいつものドーム。
もう二回目の参加なのか、既に見慣れた所だ。
ソラは既に終わらせていると思うが、どこにも見当たらない。もう次の試合に入っているのか・・・・・
「むう・・・」
少し拗ねてみる。
まあ、それをしたところで何かが変わる訳ではないが。
「やあ、流石だね」
「ん?」
不意に背後から声をかけられ、後ろを見る。
そこには、銀灰色の髪をした長身の男。
「誰?」
「ああ、そっか。この姿じゃ初めましてだっけ?」
何?何故この男は、まるで私の事を知っているかの様な話し方をするんだろう?
「分からないかい?僕の事を、朝田さん」
「ッ!?」
それで思い出す。
でも・・・なんで・・・
「新川くん・・・?」
「そう、そうだよ朝田さん」
「どうしてここにいるの・・・・?」
尋ねてみる。
「朝田さんに会いに来たんだよ」
「どうして・・・・」
「どうしてって、今更聞くの?」
新川と思われる男はやれやれとでもいうような笑みを浮かべる。
「僕は朝田さんが好きだ。だからこうして迎えに来たんじゃないか」
「迎え・・・?」
迎えって・・・・なんの?
「もう、強くならなくたっていいんだよ。朝田さんは僕が守る。それで全て終わるんだよ」
「強くって・・」
それって、もしかして、まだ銃へのトラウマの事?
でも、その事はもう解決してるし、それに・・・・・ソラの事も。
「ごめんなさい。もう、終わってるの」
「終わったって何が?」
「もう、銃は怖くないし、私には大切な人がいる」
「それって、あの男の事?」
あの男って、もしかしてソラの事かな。
「ええ」
「どうしてなんだ」
「え・・・・?」
なんだろう、新川くんの様子がおかしい。
「どうして僕じゃなくてあの男なんだ!」
「・・・・」
喚き散らし始める新川。
そして、いきなり抱き着く。
「ちょ!?新川くん!?」
「どうして、あの男なんだ!一人だった君を僕が守ったのに!街の事を沢山教えたのに!朝田さんがSAOに行くのを必死で止めたのに!どうしてあの男なんだ!」
なんで!?どうして新川くんはここまで取り乱しているの!?
「やめて、新川くん」
なんとかこのアバターの筋力を使って振りほどく。
「一体どうしたの!?なんでそこまで・・・・」
「なんで、あの男にだけあんな顔が出来るんだ・・・・・」
「え・・・・?」
更に新川くんの顔が歪む。
「見たんだ・・・SAO事件が終わって二ヶ月・・・・埼玉に行って朝田さんを探して、やっと見つけたのに・・・どうしてあの男だけには、あんな顔が出来るんだよ!」
新川くんは、とても悔しそうな表情をしている。
「僕でさえ、あんな顔を見せなかったのに・・・どうして・・・・あの男なんだ・・・朝田さんの事を何も知らない癖にッ!」
それには少し誤解がある。ソラは私の幼馴染だし、それに、ソラはあの殺人事件の現場に居合わせた人物の一人でもある。
「ちょっと待って、ソラは私の・・・・」
「朝田さんは僕の物だ!」
新川くんが更に怒鳴り散らす。
「僕しか愛しちゃいけないんだ!朝田さんは僕が守らなきゃいけないんだ!朝田さんは僕のものだから!あの男が全て悪いんだ!」
「少し黙ってよ!」
すいに私も声を上げる。
「なんで私なの!?どうして私じゃなきゃだめなの!?あの事件があったから!?それとも私が孤独だったから!?ソラが憎いから!?答えなさいよ!」
流石にソラの事を言われて怒らない訳にはいかない。
ソラは、私の恩人であり、恋人だ。
そんな彼を侮辱する奴は、例え新川くんであろうと許さない。
だが、そこで一気に頭が冷却されたのか、表情が落ち着く新川くん。
「ああ、そうか。そうだったね」
そして、凶悪な笑みを浮かべる新川くん。
「ひ・・・」
小さく悲鳴を上げてしまう。
なに?どうしてここまで凶悪な気配を出せるの?
完全に『剣気』を発するタイミングを逃してしまった私は怯える事しか出来なかった。
「朝田さん・・・・僕の、朝田さん・・・ずっと好きだったんだよ・・・・学校で・・・朝田さんの、あの事件の話を・・・聞いた時から・・・・ずっと・・」
もう、完全に様子がおかしい。あの時は、ただの臆病な男子だった彼が、どうしてこんな事になっているのか・・・・・
待て。今なんて言った?
何故、そんな事をいったのだ?
「それって、どういう・・・・」
いつの間にか、口から漏れ出ていた。
圧倒的悪意の中、それだけを、自分の口から漏らした。
「好きだった・・・憧れてたんだ・・・・ずっと・・・」
悪意が増幅する。
綾香から『心の一方』を喰らったからそれなりに態勢を出来ているし、これはあの時より軽いからまだ大丈夫だが、こんな体にねっとりと纏わりつくような感触はあまり耐えられるものではない。
だが、今『剣気』を発する事の出来ない私ではこれに抗う事なんてできない。
だけど・・・・だけどッ・・・・
「じゃあ、貴方は・・・・・あの事件があったから、私に・・・声をかけたの?」
そう、問いかけ。
「そうだよ、もちろん」
即答された。
彼はなんの躊躇いもなく、短く、肯定した。
「本物のハンドガンで、悪人を射殺したことのある女の子なんて、日本中探しても朝田さんしかいないよ。ほんとに凄いよ。だから、朝田さんには本物の力があるって思ったんだ」
「ッ・・・・」
ゲスが・・・
過去の友達にこんな言葉を使うのはいささかおかしいとは思うが今は関係無い。
「だから、
え?
「朝田さんは僕の憧れなんだ。愛してる・・・愛してるよ・・・・誰よりも・・・」
瞬間、私の中で何かが弾けた。
以前、刑務所にいる綾香と面会した時、こんな事を言われたな。
「貴方、『剣気』の才能あるわよ」
「け、剣気?」
この日は、蒼穹は学校のクラブ活動でこれず、私一人だけで来ていたのだ。
その時の事だった。
「一言でいえば、相手を睨み殺す才能って事よ」
「睨み殺すって・・・・意味分かんないんだけど・・・」
年上に向かってため口だというのは目をつむってもらいたい。
とにかく、本気で訳が分からなかった。
「私が子供の頃にドはまりした漫画があったんだけど、その中で以前私が貴方に向かって『心の一方』を使った事があったでしょ?」
「え、ええ」
「あれ、貴方でも使えるかも知れないわよ」
「え、ええ!?」
これには驚愕せざるを得なかった。
「だって、武道も何もやっていない貴方があれを破れたのよ。あれを破るには、かけた剣気よりも強い剣気をぶつけなきゃならないの。そんな強い剣気を発しようと思ったら、自分よりも強い相手のプレッシャーを乗り越える事の出来る可能性がある武道をやらなくちゃならないの」
よく考えてみれば、蒼穹は不良相手に喧嘩する時もあったし、海利さんに至っては軍の訓練施設に言ってたこともあったから、あれほどの気迫をやしなう事だって出来るよね・・・うん。
あれ?じゃあなんで綾香は出来たの?
「毎日、誰彼構わず睨んでたらできた」
「地味!?なんだか地味!?」
もの凄く地味!?
でも、効果はあるけど、避けられない?そして私の心読んだ?
「人の心を読むのも心の一方を使う者として当然の事よ」
「うん、なんだが貴方が達人だと思い知ったようん」
まあ、剣気・・・か・・・・
「でも、剣気が使えるからって、殺人型の心の一方を使える訳じゃないけどね」
「当然でしょ。蒼穹から聞いたけど、その人を殺す気がないとダメなんでしょ?」
「そ。だから私はあれを二度と使えない。また殺したいと思わない限り、ね」
「う、うん」
やっぱ怖いこの人。
「それで・・・・・どう?」
「どうって・・・・」
剣気と言われても、そんな事・・・・
「殺そうと思わなくても、ただ、殺意の感情を乗せて睨みつけるだけでいいわ。それに、蒼穹を助けるのに役に立つんじゃないかしら?」
「!?」
こいつ・・・・このタイミングで蒼穹の事を話題に出す?
ま、まあ、蒼穹の為になるなら良いけど・・・・
「それに、ね」
そこで何かを語りだす綾香。
「私は、自分の勝手な都合で貴方をあの街から追い出してしまったし、SAOの時に記憶喪失にしてしまったし、終わってからも、あの実験に加担して蒼穹の記憶消して、貴方を殺す寸前まで追い込んだあげく、顔に、そんな深い傷を残してしまった」
私は、自分の右頬にある、一生消えない傷に触る。
ギリギリの所で口内には届かなかったみたいだが、それでも、治る事は無いと言われた時は、それほど困惑しなかった。
ただ、生きている。そして、私が戦ったという証が、ここにあり、一生消えないというのなら、私はそれでも構わなかった。
「別にいいのよ。これは私の戦った証なんだし」
「ダメよ。それじゃあ私の気がすまないの」
ああ、やっぱり、血のつながっている親子なんだなぁ。
そのセリフ、表情は違うけど、同じだ。
「とりあえず、伝授してあげるから善意だと思って受け取っておきなさいな」
「はいはいわかりました。教えてください」
そして、教わった通りに試しに綾香の後ろにいる警備員に一発放ってみたら、一発で決めてしまった事には驚いてしまった。
ただ、そのお陰で、周りの人の気迫を感じ取れるようになった。
その所為で、剣気を発するタイミング逃して、相手の気迫に飲み込まれてしまったら、敏感になっているので、そう簡単に抜け出せなくなってしまったのだが。
そして。
「黙れ」
「ッ!?」
やっと、剣気を発する事が出来た。
「あ・・・さだ・・・さん・・・?」
やば、少し強くかけすぎた。でも、解除できない程じゃない。
しかし、そんな事よりも。
「今・・・・『死銃』っていった?」
「ッ・・・・」
「それに・・・・・『五四式』とも言ったよね?」
五四式・・・・・それは、きっと、『
そして、新川くんは、私の過去を知っておきながら、私に近付いた。更に、死銃とも関わっている。
「ソラの言っていた事は本当だった・・・・」
きっと、この男こそが・・・・
「お前が・・・・・『
ここは、真っ暗な建物の中。
「くそ、つくづくついてねぇな」
真っ暗な暗闇の中、感を頼りに歩いているのだが、とてもじゃないが見えない。
月灯りも見えるが、流石にそこに姿を晒す訳にはいかない。
ライトもいいが、それだと敵に位置を教えているようなものだ。
なるべく、音を立てないように歩いているのだが、いつ割れたガラスを踏むか分かったものじゃない。
そう、用心しながら歩くこと数分。
パリ・・・
「ッ!?」
び、びびった。
今、ガラスを踏んだのか?
いや、俺はまだ動いていない。
なのにガラスが割れる音がしたという事は・・・・・
いる!
瞬間、目の前に無数のバレットライン・・・・弾道予測線が出現する。
「つあッ!?」
慌てて横に回避。瞬間、銃声が立て続けに連発される。
しかも、こちらを正確に狙って。
「暗視ゴーグル!?」
やられた!敵はそんなものまで持ち歩いてるのかよ!?
って、持っていない俺が悪いのか?いやいやそんな事考えてる場合じゃない。
「うおおおお!?」
全力で来た道を走る。
んな所でくたばってたまるか!
なんとか死角に逃げ込み、それを遮蔽物にして隠れる。
暗視ゴーグルとか思ってもみなかった。
いや、今回は加速思考が働いていなかった、というか働かせていなかった俺の自業自得か。
とにかく、先の位置から行動を逆算。
少し角から頭を出してみる。
「ッお!?」
すぐさま銃撃。
なるほど、こちらの姿が見えていなければ相手を殴る殺しにできるもんな畜生。
あのゴーグルが旧式なら、攻略法はあるが、ここで光源を失うのは痛い。
なんとか機種を見破る方法はないのか・・・・
ライトを向けようとすれば、その瞬間、ライトを壊されかねないし、かといって強行というのも無謀だ。
一体どうすれば・・・・・
いや、あるぞ。
いまこそ、あの新兵器を使う時!
俺は、M29を左手に移し、腰のベルトにある筒状の物体をベルトから外す。
あとは、タイミングだ。
足跡が聞こえる。
徐々に、こちらに・・・・・・
今だッ!
声を発さずそう叫んだ俺は遮蔽物である角から出る。
「バカめ!」
敵の罵声が耳に入るが、どうだって。
敵の手にあるのは、片手に収まるほどのサブマシンガン。
それは敵の右手に収まり、そして、いくつもの弾道予測線がでてくる。
だが、弾道が見えているなら、
連続で弾丸が発射される。
そして見えた。
マズルフラッシュによる光を避けるように左手が、目のあたりで覆われていることを。
「ッシャア!」
短い気合と共に、俺は、右手にある筒状の物、《フォトンソード》の起動スイッチをオンにする。
すると、筒状の穴が空いているほうから、純白の光の刃が出てくる。その長さ、一メートル。
片手剣は、かなり久しぶりだが、これでも伊達にSAOで八百まで鍛えていた訳ではない。
そして、弾道予測線にそって弾丸が飛来する。
それを俺は、命中弾のみを連続で叩き落す。
「オオッ!」
バシッ!、バシッ!といい音が聞こえ、弾丸がどんどん叩き落されていく。否、溶断されていく。
圧倒的エネルギーを持つこのフォトンソード(これの銘は《シロビカリG3》だが)は、宇宙戦艦の装甲という素材を使わない限り、全ての物を切り裂く事が出来る。
だから、いくら弾丸を放とうが、俺が仕損じらなければ当てる事など皆無に等しい。
ただ、何もみずに乱射されるというのは少しやりにくいものだ。
そして、弾丸が発射されるのが終わる。
それが、弾切れによるものか、それとも仕留めたと思ったからなのかは分からないが、とにかくチャンスだ。
俺はすぐさま走りだす。
さった二秒。
「な!?」
左手を外し、暗視ゴーグル越しに俺の姿を視認し、あわてて引き金を引く。
俺は既に攻撃態勢に入っているので、避ける事など叶わないが、もう遅い。
銃口から弾道予測線が伸び、そして全くないタイムラグにより、弾丸が射出される。
それらは、俺の腹や胸に直撃するが、俺の体力を二割程度削った程度。
だから、俺の攻撃が届くまでに俺のHPを全損させる事などできないのだ!
「ゼアッ!」
片手剣単発縦斬り『バーチカル』
それが敵に直撃し、あっと言う間に、相手のHPを全損させた。
そして、敵の体が無数のポリゴンとなり、爆散する。
俺は、立ち上がって、俺は一度右に薙ぐ様な行為をして、背中に光剣をもって行った。
「あ・・・」
そこで俺の行動がかの鉄塊が如し大剣をこの手に持っていた時と同じ動作をしていると気付く。
慌てて、背中から剣を離し、スイッチを切り、ベルトに付ける。
「ふう、まずは第一回戦終了だ」
そう呟き。俺は転送されるときのライトエフェクトに包まれ、あのドームに戻る。
何故、フォトンソードの色を白にしたかというと、なんというか・・・・妹の円華への謝罪みたいなものだ。
白は円華の好きな色だ。何色にも染まらないその色は、あの日、まだ純粋だったあいつにとても似合っていた。
ただ、今どうなのだろうか?
苦しんでいないだろうか?詩乃を虐めていた事への後悔でか、俺を不本意だが裏切ってしまった事への後悔か、それは分からないが、あの日、あいつについ放ってしまった殺意。あの事は、絶対に謝らなければならない。
だから、なんとか『アルカ』なる人物を見つけて謝罪をしなければならない。
そんな事を考えながら、ドームに戻った俺。
その瞬間・・・
「お前、本物、か?」
物凄く聞き覚えのある話声が聞こえてきた。
「ッ!?」
勢いで振り向くと、そこには、何やら酷くボロボロなフード付きマントを被った男の後ろ姿と黒髪ロングの少女がその男を見上げながら何やら警戒した表情で男を見ていた。
そこで、少女の方が・・・・・
「本物って・・・・どういう意味だ?アンタ誰だよ?」
あー、うん。来てたのか・・・・うん。
俺と同じじゃねーかァ!?
と心の中で絶叫しながらも、俺は二人の会話に耳を傾ける。
「試合を、見た。剣を、使ったな」
「あ・・・ああ。別に、ルール違反じゃないだろ」
応じた少女・・・というか男はアミュスフィアが内心の焦りを酷く表現した掠れた声で応じる。
「もう一度、訊く。お前は、本物、か?」
そこで俺は理解した。
こいつはSAO
そして、こいつが・・・『
この独特な喋り方からして、あいつだろうが・・・・まだ殺したりないのか?
そんな疑問を胸に、俺はまた、二人の会話に耳を傾ける。
少女の姿を装った―――不本意だろうが―――男の顔は未だに動揺している。
そこで死銃は片手をマントの中から出した。
俺は右のホルスターにあるM29のグリップを掴みかける。
だが、死銃の手は空だった。その代わり、人差し指と中指をそろえて、上から下に振る行為・・・ウィンドウを出した。
いくつかの操作をして、可視状態する。
そこには、Fブロックのトーナメント表。
そこを更にもうワンクリック。
そこには、左に『餓丸』、右に『Kirito』の名前があった。
――――やっぱ来てたのか、キリト。
俺は、少女・・・・ではない、キリトを見てから、更に会話を聞く。
「この、名前。あの、剣技。・・・・お前、本物、なのか?」
その瞬間、キリトの顔が驚愕に包まれた。
こいつの正体に気付いたのかは定かではないが、とにかく驚いていた。
大丈夫か?
確かにこの男は、キリトの
そこでふと、ボロマント男は、ウィンドウを消し、腕を下す。
その時、キリトの表情がもう一度、驚愕した。
「?」
俺はその意味が解らなかった。
ただ、キリトは・・・・確実に恐怖している。ここからでも、分かるように。
男がもう一度訪ねる。
「質問の、意味が、解らないのか?」
キリトはゆっくりと、慎重にアバターのうびを頷かせた。
「・・・・ああ。解らない。本物って、どういう意味だ」
男は一歩下がり、しばらくキリトを眺めるように立ち尽くした。
キリトの顔は、未だに蒼白だった。
なんとか装っているだろうが、それでも、恐怖は拭い切れてなどいない。
そして、男が、もともと無機質だった声を、その無機質さを先ほどより増した声で、言う。
「なら、良い。でも、名前を、
キリトに背を向け、最後に一言。
「―――必ず、殺す」
そして、真っすぐ俺の方にも歩いてきて・・・・
「―――お前も、必ず」
そう、すれ違い様に言い残し、去っていった。
俺は、奴の足音が聞こえなくなると同時に、キリトに近付いた。
「よう」
返事は無い。
それに、こちらにも気付いていないようだった。
「・・・キリト」
「・・・」
そこで、気が付いたかの様に、顔を上げるキリト。
「何ひでぇ顔してんだよ」
「・・・・どちら様で?」
キリトが、未だに蒼白で、だが不思議そうに俺の顔を覗く。
そうだった。今の俺は女見たいな顔だった。
「ああ、悪い」
俺は急いでウィンドウを出し、ネームカードをオブジェクト化。それをキリトに差し出す。
キリトは、それを見て、目を見開く。
「・・・・・ソラ?」
掠れた声で、そう、呟いた。
「ああ。気分はどうだ?」
「・・・・聞いてたのか?」
「まあな。奴の正体までは分からないけど、一応、事情は分かった。追ってるんだろ?『死銃』と『死弾』を」
キリトは、しばらく呆然としたが、僅かながらにうなずく。ちなみに、少し嘘を吐いた。
「ああ・・・・」
「ったく、それで予選落ちたら洒落になんねぇぞ。奴らは必ず本戦で動くからな」
「そう・・・だな・・・・なんとか、決勝まで行くよ」
「そうか・・・」
本当、酷いな・・・・これほどコイツが怯えるなんて、何見せたんだよあいつは。
ふと突然、俺の体が光に包まれる。
「っと悪い。俺はそろそろ次いかなくちゃならい。またリアルで会おう」
「ああ・・・・・じゃあな」
そして、俺は最後に、キリトの、独りになるのがいやだとでも言うかのような表情を見せられ、次の戦いに向かった・・・・
次回!
無事、決勝を終えたソラとシノン。
そこで、シノンは、『
所変わって、Fブロック決勝戦。
そこでは、キリトとアルカの、怒涛の戦闘が行われていた。
「たかがVRゲーム、たかがワンマッチ!貴方の勝手な都合で、私のまで巻き込まないでよ!」
「ごめん、アルカ。もう一度チャンスをくれ」
次回『黒の剣士VS銃鬼』