大剣と長剣が衝突する。
「うおら!」
ソラが大剣を左から水平に薙ぎ、ヨウが飛んで回避。
空中で一回転し、剣を高く掲げる。
「!?」
落下する勢いを利用して、振り下ろす。
その威力に足を擦れさせながらさがるソラ。
そこへ追撃と言わんばかりの右下段斜め切りを繰り出す。
それを大剣で防いだが、更に連続で斬りかかってくる。
合計十二回。
十三回目、ここでソラが反撃する。
左手を剣の柄から離し、腰に握りこぶしを作り構える。
「!?」
その手がペールブルーの光に包まれた瞬間、剣を正面から右側にずらし、そこから体術重単発攻撃『星撃』を放つ。
それを黒い長剣で防ぐも大きく吹っ飛ばされる。
「おおおお!!」
ソラはすぐさま大剣を真っすぐ地面と垂直となるように構え、刀身を思いっきり背中にくっつくぐらいに引く。
そして、力任せに振り下ろす。
それを左に避けたヨウは右手の剣を硬い弓を引き絞るように後ろに引く。
片手剣重突進技『ヴォ―パルストライク』
刀身がクリムゾンの色に染まると同時に、まるでジェット機が急速発射されたような音が響き、ソラの右胸を貫く。
「ッッ!」
思いっきり下がり、ダメージを半減させたが、代わりにその衝撃で吹き飛ぶ。
剣を地面に突き刺し、足場から落ちる事は無かった。
だが・・・痛い。
『狂戦士』は、強大な力を手に入れられる代わりにペインアブソーバが完全カットされている。
だから、ダメージが実際に痛みとなってソラを苦しめる。
「つ・・」
「――!!」
ヨウが追撃してくる。
ソラは剣を構え、まるでフェンシングの様な鋭い突きを剣で右に逸らしてかわす。
だが、伸びきった腕に捕まれた剣が、いきなり黒い光に包まれる。
「!?」
ソラは体を思いっきり左に飛ぶ。
その瞬間、剣が四十五度ほど回転し、爆風を起こす。
「う・・ああ!?」
その風で態勢を崩すソラ。
「終わりだ」
「!?」
硬直が解けたヨウが、ソラに接近し、体を左向きにして、左胸のあたりに右手を持ってくる。
そして、その刀身が更にどす黒い光に包まれる。
暗黒剣十四連撃技『ブラックホールナイト』
恐ろしい程の威力を持つ剣戟がソラへと殺到し、貫く。
「ぐッああああああ!?」
両腕両肩両足と更にその根元を貫かれ、更には五臓をやられ、中を舞うソラ。
大きく吹っ飛ばされ、地面に仰向けの状態で倒れる。
「ぐ・・・あ・・・」
強すぎる。
デュエルでも、勝った試しもないが、これ程までに強くなっているとは思っていなかった。
強い・・・・ヒースクリフなど目にもない程に強い。
「くそったれ・・・」
俺は痛む体を無理矢理動かし、立ち上がろうとする。
だが、ヨウがそれよりも速く、俺の胸元あたりを踏み付け、立ち上がれないようにする。
「・・・まさか、ここまで差がついているなんてな」
「ヨウッ・・・・・!」
くそ。俺は・・・また何もできないのか!?
俺の中にある煮えたぎるマグマの様な感情がふつふつと湧き上がってくる。
「ぐッおああああああ!!」
絶叫し、足を振り払おうとする。
「無駄だ」
「!?」
ヨウの右手の剣が俺の右手を地面に縫い付け、動かせなくする。
更に、空いていた左足が俺の顔面に強烈な衝撃を与える。
「ぐああ!?」
痛い・・・・・
やはり・・・俺は何も出来ないのか・・・?
「お前は一度も俺には勝てなかった。だから、そのスキルを手に入れた今でも俺には勝てない。お前の言う、詩乃には悪いが・・・・ここで死んでくれ、ソラ」
詩乃・・・・そうだ・・・俺はここで死ねない。絶対に・・・あいつの元に・・・!
「ぐっああああぁぁぁぁあぁあああ!!」
そんな思考を断ち切るかの如く、俺の喉元にヨウの長剣が突き刺さる。
ダメだ・・・ダメだダメだ!
「く・・・・おお!!」
「!?」
左手で長剣を掴み、なんとか引き抜く。
「まだ・・・終われない!」
終われない・・・・こんな結末・・・ミヤが許す筈がない!
「ヨウ・・・こんな事をして、ミヤが報われると思ってんのかッ!」
「そんなの、当たり前な訳がないじゃないか!だけど俺は復讐しないと気が済まないんだ!全てを奪ったあいつらに復讐しないと・・・・俺は、今俺が生きている意味を見いだせなくなる!」
「この・・・分からず屋がァァァァああああああああ!!!」
鎧の赤い光が一層強く光る。
「!?」
徐々に、長剣が押し戻されていく。
「うおら!」
剣を完全に引き抜き、そのままヨウを押す。
「く」
俺は大剣を拾い、ヨウに突進する。
「ヨウゥゥゥゥウウウッ!!」
巨大な大剣をがむしゃらに振り回す。
俺の攻撃をヨウは必死に片手剣で凌ぐ。
剣が掠る度に、ヨウのHPが目に見えて減っていく。
「うおあああああ!!!!」
絶叫を迸らせ、俺は狂戦士上位剣技『ベルセルク』を発動させる。連続十五回攻撃。
一撃目が入る。
その瞬間、ヨウも応戦してきた。
あの暗黒剣の十四連撃技だ。
二撃目。
三撃目。
四撃目。
金属音が鳴り響き、HPだけでなく、精神も削れていく。
五撃目。
六撃目。
重い衝撃が両腕に伝わる。相当攻撃力が高い攻撃だ。
七撃目。
八撃目。
九撃目。
十撃目。
そろそろ腕がしびれてきた。でも、負けられない。
十一撃目。
十二撃目。
ピシリと、何かにヒビが入るような音が聞こえた。
十三撃目。
十四撃目。
そこでヨウの剣が折れた。
十四撃目の斬り上げ攻撃で、ヨウのどす黒い長剣をへし折る。
ヨウの目が見開かれる。
もうここまでくれば・・・・あとはラストの振り下ろしで全てが決まる。
剣がシステムによって加速し、振り下ろされる。
蒼い光を撒き散らし、ヨウの体を真っ二つに斬る。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あ」
俺は今、何をした?
剣を振り下ろした。
誰に?
俺は・・・・誰に剣を振り下ろした。
「あ・・・・・ああ・・・・・・」
口からしわがれた声が聞こえた。
目の前にいる人物の体が発光する。
違う・・・・俺は・・・・こんな・・・・こんな結末を望んでいない・・・・
「よ・・・・」
その男の名前を呼ぼうとした。
だけど、その前に、その男はポリゴンとなって消滅してしまった。
「ヨウゥウゥウウゥウウウウウゥウウウウウ!!!」
「・・・・そこから先は良く覚えていない。ただ、俺が、この手に持った剣で、後二十人ぐらい屠った事だけだ」
「・・・・」
「そして、全部、終わった後に、あいつが声をかけてきた」
『俺の名前はムクロ。いつかお前を殺す者の名だ』
シノンは、両手を口に当て、体を震わせていた。
「ご・・・ごめんなさ・・・」
「謝るな。聞かせたのは俺なんだ。だから、お前が謝る必要なんてない」
ソラの声が、一層生気を失っていく。
「で、でも・・・」
シノンは心配そうにソラを見る。
俯いているので表情はうかがえない。だが、確かに、ソラは恐れている。
「・・・・」
シノンは俯く。
トラウマを乗り越える事が出来たのは、ほんの四日前の事だ。
それは、とある公園に向かっているときの事だ。
「会わせたい人?」
「ああ、お前にとって大事な人だ」
大事な人とは誰の事だろう?
祖父母の事か?いや、それは無い。
ならば・・・・他に思い当たる人がいない。
遥や大和とはもう和解しているし、他のクラスメイトとも、蒼穹のお陰で仲直りする事ができたのだ。
これ以上、何があるというのだろうか?
「ほら、あそこ」
「?」
見てみると、そこには一人の女性と、女の子が公園のベンチに座っていた。
当然、見覚えなど・・・・
「あれ・・・・」
頭にとある人物の顔がよぎる。
「連れてきましたよ、祥恵さん」
蒼穹が女性、祥恵に声をかける。
すると、女性は一瞬びくりと体を震わせて、こちらを見る。
「詩乃を連れてきました」
詩乃は疑問に思った。
何故、この人を自分に会わせたかったのかと。
女性は、こちらを真っ直ぐと見て、少し歯切れの悪い、わずかながら震えた声で口を開いた。
「はじめまして、朝田・・・詩乃さん、ですね?私は、大澤祥恵といいます。この子は瑞恵、四歳です」
詩乃は、記憶の底からくるチリチリとした感覚に気を取られ、挨拶を返す事が出来なかった。
そんな詩乃に、瑞恵は、一度大きく息を吸い、話す。
「私が東京に越してきたのは、この子が産まれてからです。それまでは、―――市で働いていました。職場は・・・・―――町三丁目郵便局です」
「あ・・・」
唇から漏れた微かな喘ぎ声。
そして、理解した。
この人は・・・・かつて蒼穹と詩乃が起こしたあの事件の現場であった、あの郵便局の職員だった女性だった。
「祥恵さんとは、あの頃からよく話していた仲だったんだ。そして・・・・妊娠していた事も」
蒼穹が、詩乃の横でそうささやく。
間違いない。確かにこの女性はあの時居合わせた女性職員だ。
「あの事件から三ヶ月、やっとの事で、カウンセリングが終わって、久しぶりに会おうと思っていたけど、あの郵便局にいなくて・・・・職員の人に聞いたら、引っ越したといって、それ以上教えてくれなかった。だけど、この間、兄さんに頼まれた書類を取りにここの郵便局に行ったら、会ったんだ」
確かに、この日の一週間前に、蒼穹は兄海利から書類を取ってくるように言われていた。
そして、この東京の郵便局で、祥恵と会った。
祥恵は、詩乃を真っ直ぐに見て、その眼に涙を溜めながら、言った。
「ごめんなさい・・・・ごめんなさいね、詩乃さん」
何を謝られたのか、分からなかった。
謝るのは・・・こっちの筈なのに・・・・
「もっと・・・もっと早く貴方にお会いしなきゃいけなかったのに・・・・あの事件の事を、忘れたくて・・・夫の転勤になったのをいいことに、そのまま東京に出てきてしまって・・・・貴方たちが、ずっと苦しんでらしてるなんて、少し想像すれば解ったことなのに・・・・謝罪も・・・お礼すら言わずに・・・・」
祥恵の眼から、涙が、すうっと零れる。
瑞恵が、母親を心配する様に、見上げる。
「あの事件の時・・・私、お腹にこの子がいたんです。だから、詩乃さん、蒼穹さん、貴方たちは私だけなく・・・・この子の命も救ってくれたの。本当に・・・・本当に、ありがとう、ありがとう・・・」
「・・・・命・・・を救った?」
詩乃は、その二つの言葉を、脳内で反芻する。
あの日、詩乃は、三度の発砲で、一つの命を奪っただけに過ぎない筈だ。
なのに・・・この人は・・・・確かに言った。
――――救った、と。
「詩乃」
蒼穹が詩乃に言う。
「あの日の事を、忘れろなんて言わない。忘れるなとも言わない。だけど、あの日、お前が助けた命は、確かにあったって事は・・・・忘れないで欲しい。俺が、あの世界で殺した奴らの顔を忘れない様にしているように。お前には、自分自身を、赦す権利が、あるんだ」
蒼穹は、詩乃の左手を右手で包み、しっかりと握る。
そこから感じる熱は、詩乃の心を包み込み、溶かしていく。
「たとえ、それが自分の望まない、ただの結果論だとしても」
とことこ、と、小さな足音が聞こえた。
それは、瑞恵が、こちらに近付いてきていた音だった。
まだ小さなその手を、小さなバックの中に入れ、ごそごそと、何かを探す。
そして、取り出したものは・・・四つ折りにされた画用紙だった。
それを不器用な手つきで開いていく。
そこには、クレヨンで描いたと思われる絵が眼に飛び込んだ。
真ん中には、長い髪の女性。おそらく、母の祥恵だろう。その右には、三つ編みの女の子。自分自身だろう。左側の眼鏡をかけた男性は、きっと、父親だろう。
瑞恵が両手で差し出す、その絵を、詩乃は、左手を蒼穹の右手から離し、両手でしっかりと受け取る。
すると、瑞恵は、満面の笑みで微笑み、一生懸命、練習してきた、それでもたどたどしい口調で、はっきりと。
「しのおねえさん、そらおにいさん、ママとみずえをたすけてくれて、ありがとう」
瞬間、視界がぼやけた。
そして、頬に熱い何かが滴るのを感じた。
「ああ、とても、上手な絵だね、瑞恵ちゃん」
蒼穹が、少し、嗚咽を混じらせた声で、瑞恵にそう言う。
ただ、詩乃はそれどころじゃなかった。ただ、こんなにも熱く、何もかもを流してくれるような、こんなにも暖かい涙がある事を・・・詩乃は、この日初めて知った。
絵を受け取った右手に、瑞恵の小さな手が握る。
最初は弱弱しく、しかし、しっかりと握り返す詩乃。
そこに、蒼穹の大きな手が包まれる。
火薬の微粒子によってできたほくろのある右手の、その場所を・・・
「ソラ」
シノンは、口を開く。
「ソラ、貴方は、今まで殺してきた全ての人間の顔を全部・・・・覚えているんだよね?」
「・・・・・ああ」
「じゃあ、なんでそんなに恐れるの?」
「?・・・・」
「私は、忘れていようとしてた。過去から逃げようとした。だけど・・・・貴方は今まで逃げなかった。その血塗れた過去から、貴方の、辛い過去から」
シノンは、最初は震えていた声に、心の中で叩き、しっかりとしたものにした。
「なのに・・・・なんで今は逃げだしそうな顔をしているのよ・・・・ただ、あいつは名乗っただけであって、ヨウとは何も関係ないじゃない。それだけよ、それだけなの」
ソラは、眼を見開いて、シノンを見る。
「だから、いつものソラに戻ってよ。どんな時でも冷静で、でも、だれよりも無茶をして、沢山の人の心を繋いだ・・・・地条蒼穹に戻ってよ」
ソラは、未だに口を開けたまま、何も言わない。
それに少しイラだったのか、シノンは、周りに聞こえない様に、だけどしっかり聞こえる声で、言い放つ。
「今だって、私は、ヨウの事をしれた。それって、本当じゃないけど・・・・繋がれたってことなんじゃないかな?」
「!?」
今度こそ、ソラは目をおおきく見開いた。
そして、吹き出した。
「く・・っはは!」
「な、何よ・・・」
「いやぁ、ヨウと繋がれたねぇ。うん、そうだ。本当にそうだ」
ソラは、いつもの笑っている表情になった後、少し落ち着いた表情になる。それでも、笑みは消えていない。
「ありがとう、
ソラの体から、まるで憑き物が落ちたかのようにいいものとなる。
それを見て、シノンもつられて笑う。
「ふふ、どういたしまして」
少し、笑い合った後、真剣な表情に戻るソラ。
「さて、これから、あいつを止める事を考えないといけないな」
「そうね」
今ある情報を整理してみる。
まず、《
次に、それから見て、《
そして、その中身が、以前ソラを襲ったあの男性プレイヤーという事もある。その人物が何故シノンのリアルを知っているのかは不明。
「それなら一つだけ心当たりあるわよ」
「・・・・・マジで?」
「ええ、中学の頃に東京に転校したって言ったわよね?」
「ああ」
確か、その時綾香と円華―――今の情報から円華は仕方なく協力したみたいだが―――が詩乃を追い出す形で転校させたと聞いた。
「その時、一人だった私に声を掛けてくれたのが、その男性プレイヤーの本体だと思うの」
「ちなみに名前は?」
「新川恭二っていうんだけど、これがかなりのガンオタクでさぁ、私が銃の本読んでたら声を掛けてきてくれたんだよね」
「ほう・・・」
ソラがシノンを訝しむような眼で見る。
「ま、待って待って!言っとくけど、そいつに恋愛感情なんて一切ないから!私の意中の相手は・・・」
そこで急激に声がしぼんでいく。
「・・・・まあ、その事は置いておいて、その恭二って奴が、シノンの事を知っていたのは実際にリアルで会ったからか・・・でも、この世界じゃ容姿は分からない筈なのに、なんで分かったんだ?」
「さあ・・・・」
その事を疑問思いながらも、その事は一旦棚に上げる。
「それじゃあ、次の事だが・・・・」
それから、色々な事を考察し始める二人であった・・・・・
次回
「ついてこないで」
「いやでも」
「ついてこないで」
「ルールがわからな・・・」
「ついてこないで」
「・・・・・・今日は天気が」
「ついてこないで」
つい少女、アルカの半裸状態を見てしまったキリト。
その頬にくっきりと手痕を残しながら、彼女に、この大会のルールを説明を受ける。
「やあ」
そこで、一人の青年と出会う。
そして始まる、大会予選。
「お前の命、冥界に送ってやる」
そして、銃鬼アルカの実力が発揮される。
次回『銃鬼アルカ』
「お前、本物、か?」
「どういう意味だ?」