ソードアート・オンライン 狂戦士の求める物   作:幻在

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一万字超えちゃったよ・・・


なんちゃってF型

東京御茶ノ水。

キリトこと桐ヶ谷和人はエギルから貰ったとんでもなく騒音を撒き散らすバイクに乗り、目的の場所に向かっていた。

そことは、かつて和人がSAOに囚われている間に入院していた病院だ。

リハビリに何日か費やし、退院した後も検査などの為に何度も通ったことのある道なので迷う事なく辿り着いた。

菊岡誠二郎との会話から一週間。

やっとの事で準備が出来たらしい。

「お、来たな」

「お久しぶりです、安岐さん」

指定された病室に入ると、そこにはリハビリに付き合ってくれた看護師、安岐がいた。

和人が返事を返した途端、安岐はいきなり和人の体を触りまくる。

「どわぁ!?」

「おー、結構肉ついたねぇ。でもまだまだ足りないよ、ちゃんと食べてる?」

「た、食べてます食べてます、だから触るのやめて下さい!」

なんとか安岐の突然のセクハラ行為から逃れると、真っ先に思いついた疑問をぶつける。

「というか、なんで安岐さんがここに・・・」

「あの眼鏡のお役人さんから聞いてるよー。なんでも仮想?ネットワーク?の調査をするみたいだね。まだ帰ってきて一年しか経ってないのに大変だねぇ。それで、桐ヶ谷君の担当だった私にぜひモニターのチェックをしてくれって頼まれたので、今日はシフトから外されてるんだ」

「そ、そうなんですか」

疑問はすぐに解消された。

「それで、その眼鏡のお役人は?」

「なんか外せない会議とかで来れないんだと。その代わり、手紙を預かってるよ」

と、安岐は一枚の茶色の封筒を取り出し、和人に渡す。

和人は封を開け、中に入っている紙を読む。

『報告書はいつものアドレスにメールで頼む。諸経費は任務終了後、報酬と併せて支払うので請求する事。追記―――美人看護婦と個室で二人きりだからといって若い衝動を暴走させないように』

 

 

瞬間、和人は眼鏡のアホの顔面を潰すと本気で思った。

 

 

 

その後、上着を脱いで電極を貼り、ベッドに横たわった。

「それじゃあ、四、五時間ぐらいは潜りっぱなしだと思いますが・・・」

「はーい、桐ヶ谷君の体はしっかりと見ているからねー」

「よ、よろしくお願いします・・・・」

若干悪寒を感じながら、和人は目を閉じた。

「リンク・スタート!」

 

 

 

 

初めに感じたのは、いつもの浮遊感。

その後に感じたのは少しの違和感。

いつもは、ALOの幻想的な世界を見るのだが、ここ『GGO』は全くの別世界だ。

GGOの時間は現実と同期していると言われているので、まだ一時の筈なのに空は赤い。

そして街並みは大量のビルがそびえたち、そこを行きかう人、プレイヤーたちの姿は屈強な肉体のものばかりだ。

GGOの設定は最終戦争後の地球。なのでこんな黙示録的な世界観なのだろうか?

そんなことをあれこれ考え、キリトは一つの結論を思い出した。

この世界では屈強な体の方が相手に威圧感を与え安いのだ。

なので、細いだとかカッコいいだとかの体格はむしろマイナスなのだ。

さて、自分の容姿はどうなっているんだ・・・・・

 

そこで目を疑った。

 

やけに細く、白い自分の手。

見下ろした手をしばらく凝視した時、ふと視界の片隅に垂れている黒い髪。

長い、何故長い。何故視界に入るほど長い?

「・・・・」

相当嫌な予感がしてきた。

どこかにある窓ガラスを見つけ、その中を見てみると・・・・

 

長い黒髪の可憐な美少女がいたのだ。

 

 

 

 

 

「な、なんじゃこりゃあああああぁぁぁあああぁぁあああああ!!!!」

 

 

 

十分に女性でも通用する声が、その場に響いた・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は今、このGGOでこれほど自分の容姿を恨んだことは無い。

俺のアバターの容姿は、雪の様な白髪に綺麗に切りそろえた短髪。

更には、幼さの残る顔でアンバランスな高い身長であり、何人でも眼を引きそうな麗人にみえるだろう。

だが・・・・だがなぁ・・・・・・

「お前らしつこいぞゴルアァァァァアアアアア!!!」

『いいじゃねぇかよソラちゃ~ん』

俺はいつものフード付きの森林迷彩のミリタリージャケットと指ぬきの手袋、長い砂漠迷彩柄のズボンに加え、黒いロングブーツの姿で、出来るだけ男らしく振舞って生活しているのだが、そのギャップにとうとう耐えきれなくなったバカ共に追いかけらているのだ。

しかも全員、俺にシノンという彼女がいるのにかかわらずだ。

その数、五十!!

「待て即撃の魔眼(デッド・アイ)!この間の借りまとめて返してやるぞゴラァ!!」

「そうだそうだー!」

「今すぐにでも撃ち抜いてやる!」

「そういうのは歓迎なんだが状況を考えろ状況を!」

中には別の私情が入ってる奴がいるぞオイ・・・

とにかく俺はSBCグロッケンなる街を階層を上に下にと逃げまわるが、なんの執念なのか物凄いスピードで追いかけてくる。

いやちょっと、マジでだれか助けてくれませんか!?

逃げられないんだけど!?

「やっほー」

「うお!?シノン!?」

ここでシノンが今さっき通過した路地から出てきた。

「いやーすごい集団ですねぇ」

「そんな事いってないでヘカート使ってあいつら黙らせてくれませんかね!?」

「んー、どうかな~」

と、シノンが走りながら後ろを向く。

その瞬間、後ろから・・・

「今回ばかりはヘカートでもへこたれねぇぜ!」

「すべてはソラちゃんの為!」

「たとえ火の中水の中!」

「どこへでもついていきますぜぇ!」

「あー言ってるけど?」

マジでこのGGOから消えてくれないかな?

そこであるものが目に映る。

「あれだ!」

「え!?ちょ!?」

俺が見たのはロボットホースなる文字列。

シノンの腕を引っ張り、柵の中に入る。

そこに機械仕掛けの馬がいた。

「しっかり掴まれよ!」

「あ、うん・・・」

既に出口はあのバカどもが塞いでいるがこのロボット馬はそんなもの聞かないもんね。

かつてSAOで乗った馬もなかなかに使い方が難しかったが、慣れてみると移動がかなり楽になり、借りては乗って借りては乗ってを繰り返した。

そのおかげか、仮想世界での馬の乗り方は熟知している。

「ハイヤ!」

「きゃあ!?」

短い掛け声とともに、馬を走らせる。

そのままあの集団に突撃。

『ギャアアアァァァアア!?!?』

ハッハッハ―!人がゴミの様に吹っ飛んでいくぜヒャッハー!

などと心の中で発狂しながら道路に飛び出す。

「すご・・・SAOで馬にでも乗ってたの?」

「ああ、慣れると結構いいもんだぜ!」

そのままこのSBCグロッケンに張り巡らされた道路をロボットホースに乗って走り抜けた。

 

 

 

 

 

 

 

キリトはまず、総督府をさがした。

自分の容姿の事を棚上げして。

しかし一瞬で迷った。

まず、このSBCグロッケンなる街は、いくつのも層が重なる多重構造になっていて、道を覚えるのがかなり難しい。しかもここには来たばかりなのだから、街並みにそう簡単になれる訳が無い。

「困ったな・・・ん?」

丁度目の前に丁度良い人影が見えた。

とりあえず、あの人に道を聞こうと思い、声をかけた。

「あの、すみません、ちょっと道を・・・・」

そこで後悔した。

それは相手が間違いなく女性だからだ。

自分と同じ長い黒髪で、顔立ちは全く違い、こっちの少女の様な容姿では無く、大人びた女性の印象が強い。

ただ、一瞬、キリトは自分と同じ女性の容姿で中身は男なんじゃないかと思って胸元を見ると、そこは確かに膨らんでいた。

・・・・アスナほどはあるだろうか?

って、そんな事考えてる場合じゃない。

普通、男性が女性に「道に迷った」などと声を掛けるときは七割がナンパ目的と思っていい。

振り向いた女性・・・いや、身長は同じぐらいなので少女なのだが、その少女はこちらを見て、一瞬訝しむような視線を向けてきたが、予想外な事にすぐにその表情を崩した。

「このゲームは初めてなんですか?どこに行くのですか?」

と、可愛らしく首を傾けてこちらを見る。

そこでキリトに100のダメージ!

(落ち着け、落ち着くんだ俺!)

心に必死に呼びかけ、一秒で何故彼女はこんな態度をとるのかを考察し、すぐに答えは出た。

この少女は、自分を女の子だと思い込んでいるのだ!

その予想通り、今のキリトの容姿は華麗な少女そのものだ。

おそらく、この少女は同じ女性プレイヤーなので親切に接してくれてるのだ。

「あー、えっと・・・」

そこで、自分の性別を明かそうとしたがやめた。

ここで男だとバラせばこの少女は認識を改めキリトの事をセクハラだと思い込んでどこかに行ってしまうかもしれない。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・たっぷり五秒考えた後。

 

「はい、そうなんです。どこか安い武器屋さんと、あと総督府、っていう所にいきたいんですが・・・」

 

悪いが、この子には勘違いされたままでいて貰おう。

 

「総督府、ですか?どうしてそんなところに?」

「ああ、えっと、もうすぐ始まるバトルロワイヤルのエントリーに・・・」

そこで目の前の少女は目を丸くする。

「BOBに参加するのですか?それにしてはステータスが足りないと思うのですが・・・」

「あー、実はこれ、初期キャラじゃなくて、コンバートなんです」

「へえ、そうなのですか」

少女は興味深そうにキリトを見る。

「聞いても良いですか?どうしてこんな埃っぽくてオイル臭い世界に来たんですか?」

「えと・・・前まではファンタジー系のゲームをやってたんですが、たまにはサイバー系のも良いかなと思いまして。銃での戦闘も興味があったし」

これは別に嘘ではない。

剣での近接戦闘の経験が、この銃が主体のGGOでどれほど通用するのか興味があるのだ。

「そっかー、それでいきなりBOBに挑戦するなんて度胸ありますね」

少女はクスリと笑い、大きくうなずいた。

「いいよ、案内します。私もガンショップに行くところだったんです。まずはガンショップでしたね。こっちです」

くるりと背中を向け歩き出す少女の後を慌てて追いかけるキリト。

経路など覚えられる訳が無い路地をあっちこっちに歩き、大き目の建物の中に入る二人。

ちなみに少女にはため口でいいと言っておいたキリト。

「あ、そういえば・・・・」

と、少女が思い出したかのようにキリトに問いかける。

「君、お金あるかな?」

「あ・・・」

このコンバート機能は、転送できるのはプレイヤーそのもので、アイテムや所持金は一緒に転送されないどころか、全て消えてしまうのだ。

例えば、ゲームAで育てたアバターをゲームBにコンバートする時、そのアバターのステータスは、ゲームAで言う、攻撃力50という数字が、ゲームBではAP(アタックポイント)25という数字になるという感じだ。

だが、アイテムは別形式の為、別のものに変換される事は無く、消滅してしまうのだ。

つまりは・・・・

「せ、1000クレジット」

「バリバリ初期金額だね・・・・」

苦笑する少女。

「うーん・・・それじゃあ小型のレイガンぐらしか買えないし・・・・中古のリボルバーでも足りるかどうか・・・」

「は、はあ・・・」

「んー、あのさ。もしよかったら・・・貸そうか?」

その意味は・・・・お金あげようか?だ。

「いえ!いいですよそんな!」

「でもなぁ・・・」

「あ、ならなんかドカンと一発で大量の金額が手に入るゲームとかありませんか?ここにはカジノもあるって聞いたんですが・・・」

「あれは十分にお金があって、すられるのを覚悟してやるものだからなぁ・・・・まあ、ここにも無い事は無いけど・・・」

少女はある方向を見る。

そこには、長さ二十メートル、幅三メートルはあろうかという道に腰の高さ程の柵が囲ってあり、その奥には西部劇に出てきそうなガンマンNPCが右手でくるくると六発回転式拳銃を回していた。

しかも口から出てくるのは汚い英語。

「手前のゲートから入って、奥のガンマンの銃撃を躱して、どこまで近づけるかってゲームなんだ。あれクリアしたの一人だけなんだよねぇ」

「え?一人だけなんですか?」

キリトが目を丸くして、驚く。

少女は苦笑しながらうなずく。

「うん。私は噂程度にしか聞いてないけど、()()()()()()()()がガンマンの銃撃を華麗に避けて、新入りの癖して二十万はあったお金を全部持って行ったんだって。一部の噂では、女性に見える『M9000番系』アバターの男だっていう噂もあるらしいんだけど、このゲームをクリアしたのはその人ただ一人なんだ」

「な、なんでですか?」

「だってあのガンマン、八メートル超えたあたりからインチキな連射になって避ける事が出来ないんだよ。弾道予測線が見えた時点でアウトなんだよ」

「へえ・・・・ちなみにどれくらい貰えるんです?」

「確か・・・プレイが五百クレジット。十メートルで千、十五メートルで二千なんだけど、ガンマンに触れたら全額バック」

「ぜ、全額!?」

今あるお金はガンマンの後ろにあるデジタル数字に記されており、そこには三十万千五百クレジットだ。

「あれ全部なのか・・・」

「そうなんだよね。あ、見て。また無謀な挑戦者が現れたよ」

見るとスタート地点に三人の男がいて、その内の寒冷迷彩のミリタリージャケットの男が気合を入れてゲートの前に立ち、右手をキャッシャー上端のパネル部分に押し付けた。

するとファンファーレが鳴り響き、奥のガンマンが英語で『テメェのケツを月までスッ飛ばしてやるぜ』的な事を喚き、右手を拳銃のホルスターに添えた。

そして3カウントが始まり、その数字が0になった瞬間、ゲートが開いた。

「うおりゃああああああ!!」

気合の叫びと共に走り出す寒冷迷彩男。

それと同時にガンマンが拳銃を抜く。

そしてその拳銃が男に向けられると、いきなり男が急停止、上体を右に傾け左手左足をあげるという奇妙な行為に出た。

「?」

なんのダンスだ?と思った瞬間、弾丸が頭の左に一発、左脇に一発、左脚の下を通過した。

弾丸が通った理由はガンマンが放ったから。だが、何故分かったのか?

「今のが・・・弾道・・・」

キリトがそう呟くと、それに少女が答える。

「そう、《弾道予測線》による弾道回避」

また走り出す寒冷男。

また三発立て続けに発射するガンマンだが、それよりも早く寒冷男がまた変なポーズを取り、回避する。

「へ!お前の弾丸なんて、即撃の魔眼(デット・アイ)に比べたらとろすぎるぜ!」

途中、意味不な言葉を吐く男。

だるまさんが転んだが如き、ストップ&ゴーの繰り返しをして、あと三メートルでプレイの倍額になろうとしたその時、ガンマンがいきなり二発、一発と時差を付けて連射。

それに反応できなかった男があわてて回避態勢に入ったが、態勢が不安定になり、転んでしまう。

そこをガンマンが容赦無く弾丸を打ち込む。

へろへろ~とした情けないファンファーレが鳴り響き、NPCガンマンが汚い勝利の言葉を叫ぶ。

「見たでしょ?」

少女が横からそう言う。

「どうやったってあれぐらいが限界なんだよ。左右に大きく動けるならともかく、ほぼ一直線だから、避けるのが難しいんだよ」

「なるほど、予測線がみえた時にはもう遅いか・・・・」

キリトは不敵に笑い、スタートに向かって歩きだす。

「え?ちょ・・・!?」

少女が驚いてキリトを止めようとするが、それよりも早く、キリトがパネルに手を置く。

少女の呆れた様なため息が聞こえたがもう遅い。

金額が下ろされた音が響き、ガンマンが先ほどとは違う挑発的な喚きが響く。

そしてカウントが始まる。

3、2、1・・・・

 

数字が0になった瞬間、キリトは恐ろしいスピードで駆け出した。

 

 

 

 

 

 

俺は恋人のシノンと一緒に総督府に来ていた。

その理由は勿論、このGGO最大の大会、『バレット・オブ・バレッツ』に参加する為だ。

シノンは前にも二回参加しているが、俺はは今回初めてである。

既に登録を済ませたところ、俺はBブロック、シノンはDブロックという結果になった。

「いやー、これで同時に本戦に出れる確率が増えましたな」

「そうね」

お互い戦闘服姿。

シノンはデザートカラーのミリタリージャケットに同色系の防弾アーマー、コンバットブーツという服装だ。

一方、俺は前を閉めた森林迷彩のミリタリージャケットの上に防弾ベストを着ている。足も同じ森林迷彩の長ズボンで靴はタクティカルブーツという服装だ。

「そういえば、弾薬は大丈夫なの?」

「ああ、M29の方は一撃で仕留めるつもりだし、イーグルの方は使う気は無い。まあ、やばくなったら強がらずに抜くがな」

「そう・・・ねえ、大和から、『死銃』と『死弾』の情報を貰ったって聞いたけど・・・」

「ああ、それがどうしたのか?」

シノンは真剣な感じになり、言う。

「私にも、聞かせてくれない?」

「・・・」

シノンは既にこの大会に参加している上、GGOプレイヤーであり、一人の戦士だ。

恋人としては、あまり巻き込みたくないが、ここまで神剣になると、どうにも引き下がってくれそうにない。

「ああ、分かった」

そこで、俺は大和と話して出した結論をシノンに話した。

「共犯者・・・そんな人が・・・・」

「これはあくまで推測だ。いくら加速思考(アクセル・ブレーン)でも情報が少な過ぎると、推測程度にしか答えを出せない」

因みに、絶対加速(アブソリュート・アクセル)モードは精神が極限状態になる戦闘でしか発動しないので、この場では発動できない。

「私たちは大丈夫なのよね?」

「まあ・・・家の住所は書いちまったが、家の鍵はしっかりかけたし、俺作成の開錠アプリで絶対に誰にも入れなくなってるから大丈夫だろ?」

俺とシノンの家は、埼玉県のとあるマンションの一部屋を借りている。

ベッドは二つで、リビングと台所が一緒の所になっており、バスルームは二人とも入れるほどの広さになっている。

ちなみに事故で互いの全裸を見た時、シノンだけがソラの体の(たくま)しさに鼻血をだして倒れた事はまた別の話。

「んー、でも何か引っかかるのよね」

「何が?」

「確かゼクシードと薄塩たらこ、そしてガトムって、全員STR(筋力)優先ビルドでしょ?ゼクシードに至ってはこの前のMMOストリームで、嫌みな程にSTRの良さをアピールしてたでしょ?この前まではAGI万能論を語ってた癖にさあ・・・」

「待った」

そこでシノンの言葉を遮る。

「STR・・・ストレングス・・・筋力優先・・・AGI万能論・・・確かガトムは根っからのSTRビルドだったな・・・それに薄塩たらこも・・・それで・・・」

「そ、ソラ?」

シノンが何か言いたげだが、今は無視をする。

そこで何日か前にあった男の顔を思い出す。

その男はなかなかに男前な容姿だが、その男は確か、俺に向かって・・・

『朝田さんは僕のものだ!お前なんかに渡してたまるかァ!』

といって、砂漠で狂った様にアサルトライフルをぶっ放してきやがった。

とにかく、俺は予備のコルト・ガバメントに装填した電気スタン弾で動きを止めると、問いただした。

何故、シノンの、詩乃の事を知っているのか。

すると、その男は・・・

『クソ・・・ゼクシードさえいなければ・・・あいつさえいなければ・・・』

などと呪詛の様に呟いた後、そいつがグレネードを持っているのが見えたので急いで退避して自爆したのだが、未だにそいつの正体は分からず仕舞いだ。

ただ、奴が呪詛の様に呟いたあれが、答えを導いてくれた。

「分かった・・・分かったぞシノン!」

「ふえぇ!?」

俺は思わずシノンの両手首を掴み、歓喜と同時に恐怖した。

「あいつらの目的はこのGGOで《死銃》と《死弾》を本当に伝説にする事だ。それは間違いない。だが、その生贄にされるプレイヤーは無差別という理不尽さじゃない。有名なSTR型なんだ。それも、めちゃくちゃ目立つ方法でだ。隠れてやるんじゃなくて、堂々と、目立つ様にだ」

「ちょ、ちょっと待って!?何言ってるのか分からないんだけど!?」

「お前が()()()()()()()んだよ」

「!?」

それを言われ、激しく動揺するシノン。

「ど・・・して・・・」

「簡単だ。発端はゼクシードだ。ゼクシードのバカはBOBで優勝する前はAGI万能論を語っていやがった。それに騙されたプレイヤーがこの計画をたてたんだ。だけど、それだけじゃ足りない。他にいるSTR型の調子に乗っている奴らを殺して、有名になろうとしたんだ。お前は狙撃手だから、STRを優先的に育てた筈だ。ついでに言って、狙撃手はこのMMOじゃ珍し過ぎる。だから狙われてるんだ」

「で、でも・・・」

「大丈夫。奴らは必ず一つの決まりを守っている。それはあの銃で撃たない限りは絶対に殺せないって事だ」

そう。どういう訳か、直接侵入して即殺すのでは無く、仮想にいる片割れがそのアバターを撃たない限り殺さないのだ。

それを聞いて、少し落ち着いたのか、少し深呼吸するシノン。

「それじゃあ、《死銃》と《死弾》のあの拳銃に撃たれない限り、まず死ぬ事は無いって事ね」

「ああ、そうだ」

肯定すると、今度こそ安心したのか、椅子に背中を思いっきりあずける。

「それで、そいつらはこの大会に参加するのかしら?」

「絶対にな」

だけど・・・どいつだ?

と、辺りを見回していると・・・

「そこまで気付いているとはな」

 

瞬間、背筋がゾッとした。

 

「ッッッ!!!??」

俺は思いっきり椅子から飛び上がり、距離を取る。

「え!?」

シノンは驚いて、俺を見るが関係無い。

「・・・なんでテメェがここにいる・・・」

そこにいるのは黒いぼろマントを羽織った一人の男。

頭の部分は戦闘用ヘルメットに加え、口元を隠すマスクで、眼の部分しか露出していない。

「久しぶりだな、狂戦士」

「その名前で呼ぶな、《(ムクロ)》・・・いや、《死弾(デス・ブレット)》」

するとシノンも飛びのく。

 

骸。

その名前は、かつてSAOに存在した殺人ギルド、《笑う棺桶(ラフィンコフィン)》の幹部を務めていた一人だ。

その武器はアスナと同じレイピア。

だが、奴は『剣を動かす速さ』では無く、『体を動かす速さ』でアスナを凌駕していた。

閃光の名を持つアスナでさえ、その動きを捉える事の出来なかった奴は、ラフィンコフィンで№3の実力を誇っていた。

そいつは・・・・あの日黒鉄宮の監獄エリアに送られた筈だが・・・

 

 

「ほう、さすがの推理力だな」

「うるせえ。それにしても、よく俺だって分かったなオイ」

「あの推理が出来るのはお前以外あり得ないからな。お前が手口まで見抜いた時で、お前だと分かった」

「そうかよ」

俺は射殺すほど、そいつを睨み付ける。

「ふん、ここでドンパチする気などは無い。が・・・もし俺や死銃(デス・ガン)の正体をばらそうというものなら・・・」

骸は俺たちの横を通り過ぎる瞬間・・・・

 

「必ず殺す」

 

それだけを言い残していってしまった・・・

 

 

 

 

 

 

 

「えーっと、アサルトライフルって、サブマシンガンより口径が小さいのに、なんでこんな図体がでかいんですか?」

キリトは、あのガンマンゲームで、圧倒的回避技術を見せつけ、二人目のゲームクリア者の称号を貰うと同時に計三十万四千クレジットなる巨額の金額を受け取ったのだが、今、目の前にあるパネルに映し出されているアサルトライフルの映像を見て、頭を悩ませていた。

その疑問を、傍にいる少女は驚きの余韻が覚めない目で、まるで見慣れぬものを見ている(タカ)のような眼差しを向けてくる。

「あんな回避技術があるのに・・・そんな事も知らないんだ・・・」

「すみません・・・」

「いいよ。教えてあげる。えっと、アサルトライフルが小口径な理由だよね?それは、アメリカのM16に始まる、小径高速弾による命中精度や貫通力重視の設計思想が・・・」

そこで少女は、自分の言葉に苦さを感じたかのように顔をしかめた。

無理矢理、笑顔を作り、話を逸らす少女。

「って、そんな事どうでもいいよね。さ、貴方の銃を早く選ばないとね」

「はい、お願いします」

と、キリトの銃を探していると・・・・

「ん?これは・・・?」

キリトの眼に、あるものが目に留まった。

それは、何か筒の様なもので、直径三センチ、長さは二十五センチほど。片側には登山用のカラビラに似た金具が下がり、もう一方は少し太くなっていて、中央には何かの発射口にも見える黒い穴が開いている。この店に陳列されているからには銃の一種なのだろうが、握りも引金も無い。

「あの・・・これは?」

為しに聞いてみることにした。

「ん?ああ、それは『フォトンソード』っていう武器よ」

「ソード・・・って事は剣なんですか!?」

「え、ええ・・・」

急にハイテンションになるキリトに若干引く少女。

「でも、それを使う人なんていないよ」

「な、何故?」

「だって、それを当てるにはかなり接近しなきゃならないからだよ。近付こうと思ったら、直ぐにマシンガンでハチの巣だよ」

それを聞いて、ニヤリ、をぎりぎりニコリにとどめた笑みを浮かべたキリト。

「つまり、接近できればいいんですね?」

「まあ、そうだけど・・・・あ」

少女が何かを言いかけたのを無視して、キリトはパネルに手を置き、それを購入してしまった。

「まあ、好みは人それぞれだけどね」

呆れたかの様な溜息を吐いた少女。

「そうそう。売ってるって事は戦えるって事ですよね」

と、色を黒で購入したキリトは、そのフォトンソードもとい光剣のスライドスイッチをオンにする。

すると、紫がかった光の刃が一メートルほど伸びた。

「おお」

感嘆の声を漏らし、それに見入る。

刀身はよく見ると円柱状で、これまで見てきた剣の中で、実態の無いものは初めてだった。

為しに中段に構え、片手剣四連撃《バーチカル・スクエア》を繰り出してみる。

ブォン、ブォンと音をたて、複雑な軌跡を描いて空中に留まる。

剣技(ソードスキル)を放った後にぱちぱちと手を叩く音が聞こえた。

「へえ、ファンタジー世界の技も捨てたものじゃないね」

「いや、そうでもないかもしてないですよ。にしても軽いなあ・・・」

キリトはもともとヘヴィな武器を好み、相手を一撃のもとに落とすというスタイルを持つ。

それ故に、刃の部分が実体のない光で構成されている光剣じゃ軽すぎるのだ。

とりあえず、左右に剣を振り、背中に持っていく。

「?」

「あ・・・」

その事に気付き、慌てて戻し、スイッチを切る。

その後、サイドアームとして、『FN・ファイブセブン』を買い、更に予備弾倉やら厚手の防弾ジャケット、ベルト型の『対光学銃防護フィールド発生器』他の小物装備を買い込み、気付けは所持金はすっからかんになっていた。

「今日はお世話になりました。もうもありがとう」

「いいんだよ。私も予選までに予定無かったし・・・あ」

そこで少女は自分の腕に装着された時計を見ると、驚いたような表情になる。

「いけない・・・エントリー三時までだったっけ・・・」

「え!?貴方も参加するんですか!?」

「うん」

青ざめる少女につられ、キリトも時計を見ると、十四時五十一分だった。

これはマズイ。

テレポート的なシステムは無いと少女に走りながら聞かされたときには激しく焦ってしまう。

最大でも、エントリーには五分はかかるらしい。

後四分でつけるかどうか・・・

その時、キリトの眼にはあるものが目に留まった。

あれは・・・《Rental A Buggy》なる文字。

つまりは・・・『バギー』だ!

「こっち!」

「え!?」

少女の腕を掴み、その看板の下を通り、バギーの一つに乗り込むと、そこにあったパネルに手をかざす。

「しっかり掴まってて!」

と、いうのと同時にバギーを走らせる。

「きゃあ!?」

少女の可愛らしい悲鳴が聞こえるのと同時に、道路に飛び出す。

ここで電動スクーターでは無く、ギア付きの骨董バイクに乗っていて本気でよかったと思うキリト。

「ど、どうして!?これ、扱いが難しくて、男性プレイヤーでも乗れる人は少ないのに・・・」

すみません。実はその男性プレイヤーなんです。

そういう事をこの状況では言えず、代わりに別の言葉を紡ぐ。

「い、いやぁ。昔、レース系のゲームもやっていまして・・・」

とりあえずこれで誤魔化せただろう。

と、そこで目の前にトラックがいたので慌ててハンドルを切り、避ける。

そして、ギアを落として加速し、一息に抜かす。

この時代、まさかマニュアルシフトの旧式バイクを使っている人間などほとんどいないだろう。

ふと、後ろで少女の笑い声が聞こえた。

「ぷ・・アッハハ!凄い!気持ち良いよ!これ!」

少女の笑い声。

その事に少し違和感を持つ。

(あれ?なんだかソラに似ているような・・・)

少し思考を巡らせたが、次に続いた少女の声で断ち切られる。

「ねえ、もっと飛ばして!」

とにかく、今は急ぐ事にしよう。

「OK!」

ギアをトップに蹴り込み、カァァァン!とエンジンが良い音を出し、加速する。

そして、キリト達は総督府タワーに向かって走り抜けた。




次回

「キャアアアァア!」
キリトの案内をしてくれた少女、アルカに自分の正体をばらして頬を引っぱたかれたキリト。
一方でソラとシノンは《死弾》こと骸に遭遇し、ソラは過去を振り返っていた・・・

それは、殺人ギルド(ラフィンコフィン)と攻略組の、血みどろの戦いの記憶だった。

そして、ソラとかつての親友が相対した時の話だ。

『狂戦士と暗黒剣』

次回も見ろ。見なさい。(双星の陰陽師風)

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