ソードアート・オンライン 狂戦士の求める物   作:幻在

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四つの始まり

東京のある高校。

そこの校門から一人の少女が出てくる。

髪は、黒髪で雅よりも長く、腰まであり、その先を紐で結んでいる。

身長は直葉ほどしかないが、その眼や顔だちは、ある人物によく似ている。

少女は歩き出す。

家に帰る為だ。

彼女の家は、古いアパートの台所と、寝室と机がいっしょになった場所のみの部屋だ。

ただし、設備はしっかりしている。

そんな彼女は周りを見回しながら、何かを警戒する様に周囲に気を配っていた。

(つけられてる・・・)

背後から視線を感じていた。

ここの所、ストーカーさせられているように思えているのだ。

ただ、後を着けられているだけで、別にへんな事をしてくる訳じゃない。

だが、気になる。

何故自分のつけるのだろう?

後ろを振り向くとそこには誰もいない。

いや、見えている筈なのだ。だけど見えない。

集団の中、そこに上手く紛れ込んでこちらの眼を完全に誤魔化している。

 

 

―――加速思考(アクセルブレーン)・・・

 

 

思考が加速する。

周りの景色が遅くなり、あらゆる事象を把握出来るようになる。

だが、()()()()()()()()

(ダメか・・・)

兄たちなら、見破る事は容易いだろうが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

彼女の名前は地条円華。

地条蒼穹と地条海利の妹であり、彼女も加速思考の持ち主だ。

どういう事なのか、親である情報処理能力の長けた綾香と、豊富な知識とそれを整理する速さを持つ父の頭脳がどういう訳か、物凄い確率で合致し、超速情報処理演算能力が備え付けられたのだ。

ただ、最もその加速思考に長けているのはおそらく蒼穹だろう。

ただ、自由に発動出来ないだけで、一度発動すると、ありえない行動を起こすのだ。

使い方も知らない機械を自由自在に操ったり、事故の時は車のドアをどうしたらこじ開けられるかを知っているかのように三十秒と立たずに一人で歪んだドアを開けたりと、色々。

そして、詩乃の事になると、必ず・・・

円華は思考を断ち切る。

「忘れろ、忘れろ、忘れろ・・・・」

自分に暗示をかけ、なんとかその思考を排除する。

 

―――自分が彼に会うことは許されない。許サレテハイケナイ。

 

家への歩を早める。

一刻も早く、家へ・・・・

「あれ?地条さん?」

「ん?」

不意に目の前から声が聞こえた。

「あ、新川君・・・」

「やあ」

そこには、帽子を被った一人の少年。

「どうしたの?こんな所で」

「ああ、いや。少し見かけたものだから」

新川恭二。

円華の唯一気の許せる少年だ。

出会いは区立図書館の中で世界の銃なるタイトルの本を見ていた時の事だ。

その本の中には、兄と、その彼が好きな少女の人生を狂わせた銃も載っていた。

その時、声を掛けてきたのが彼なのだ。

相当な銃マニアらしく、銃が好きなのかって尋ねられた時は、とりあえずYESと言ってみると、彼は嬉しそうに銃の事を色々と教えてくれたのだ。

そのお陰で、銃についての知識は相当多く知っている。

「これから帰り?」

「ええ」

「そういえば、聞いたよ。あの『チームブラスターズ』を単独で倒したんだって?すごいね」

「ええ、まあ・・・・」

他愛無い。

そういう言葉が胸の中に疼く。

あんなもの、ただの通過点でしかない。

求めるのはその先。

まだ、届かない、兄の元に・・・・

「じゃあ、もう行くね。今夜、GGOで」

「うん。解った」

そうして、円華は恭二と別れた。

「・・・・お兄ちゃん」

呟く。

きっと、自分を憎んでいるだろう、大切な兄の名を呼ぶ。

 

会う事が、許されない人の名を・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺、地条蒼穹は今、東京都新宿区神室町に来ている。

その理由はある人物に会う為だ。

人が多い中、俺は器用に人込みを避け、抜ける。

他愛無い。

「おいお前」

「ん?」

後ろから声を掛けられたので振り向くと、面倒だと思った。

そこには派手なスーツを着込んだ男が三人たっていた。ヤクザだ。

「・・・・なんすか?」

今の俺の服装はグレーのパーカーにジーンズといったようなものだ。ただ、絡まれた理由としては、この身長だろう。

俺の身長は、年上のアスナよりも高く、更にあれから一年なのでもう百八十センチを超えているのだ。

ならよその街の大人と勘違いされてもおかしくない。

「お前、見ない顔だな」

「初めてな物で」

「そうか、なら、ここでのルールをいっちょ教えてやるよ」

あ、不吉だなこの人・・・・あんたら言う教えるってイコール殴るって事でしょ!?

くそ、金を渡せば一応見逃して貰えるだろうが、それじゃあ詩乃への土産どころか帰る為の電車代が無くなる。

「どんな?」

とりあえず聞いてみる。

「へ、こうするんだよ!」

目の前にいた男が右拳を振り上げる。

あー、めんどいな。

とりあえず一本背負いしておくか。

「ぐおあ!?」

あ、背中を思いっきり叩き着けちゃった。

男Aは突然の事に反応出来ず、背中を思いっきり背中から落とされ、肺の中の空気を全部吐き出す様に喘ぐ。

「こ、こいつ!」

男Bが背後から殴りかかってくる。左のストレート。

俺はそれを左に体を回転させ、左腕でその軌道を反らし、脇腹にボディーブローを叩き込む。

「ぐお!?」

お、これで倒れないのか。流石ヤクザ。

ならば、これはどうだろう?

反らした左腕を左手で掴み、更に回転!右手を後ろ襟首を持ち、両足に右足をかけ、転ばす。

男Bはうつ伏せに倒れる!

「ぐあ!?」

止め。

倒れた男の後頭部を踏みつける。

「ぎゃあ!?」

最後に残った男C。

「この野郎!!」

懐からドスを取り出す。

おいおいおい、銃刀法違反だろ!?

「死ねぇ!!」

ドス右斜め上から振り下ろす。身を引いてかわす。

男Cは刃を返し、左から水平斬りを繰り出す。

更に身を引いてかわす。

こいつ、あつかい慣れていやがる!?

流石、この日本で一番治安の悪い街だな!

だが、SAOで培ったナイフの使い方を熟知している俺にとってはそんなもの取るに足らない。

俺はおおきく上体をのけ反らせ、ドスの突きを回避する。

そのままサマーソルトキック『弦月』を繰り出す。

その攻撃が顎に直撃し、男が体を大きく仰け反らせる。

その衝撃でドスが宙を舞う。

俺は、それを右手で受け止める。

「ぐ・・・このぉ・・・」

おいおい、もう一本あったのか・・予備を持ってるとか、随分備えが良い事で。

「死ねぇ!」

男が突っ込んでくる。

遅い。

俺は右斜め下から、突きを繰り出す男のドスを弾き飛ばす。

「なぁ・・・!?」

「これぐらいで勘弁してやる。もう関わんな」

と、ドスをアスファルトに突き刺すと、その場を後にした。

しばらく歩くこと数分、目的の場所についた。

ここが大和の経営している()()()()()か。

随分と小さいが、結構繁盛しているらしい。

俺はドアを開ける。

「いらっしゃいませ~」

一人の女性が出迎える。

「ああ、九重大和って奴がここにいるはずなんだ。えっと・・・『奥から三番目の席、ジンジャーエールをメロンソーダを5対2の量』で入れてくれ」

女性は一瞬その眼を細めると、すぐにいつもの営業スマイルに変えると、俺を案内する。

「ここでお待ち下さい」

「ああ」

奥から三番目の机に案内された俺は、そこで店の様子を見る。

ヤクザが多い・・・アイツがいった通り、繁盛してんだな。

キャバ嬢の方は・・・それなりに人気があるみたいだが、そこまで可愛いか?

まあいいか。

「よう」

「ああ、大和」

白いスーツを着込んだ大和が来た。

「中学を卒業した直後にヤクザの仲間入りなんて、お前相当有能だぜ」

「まあな。ここは俺が学生時代につるんでたやつらで構成された俺の組だ。まだ冴島組の参加だが、ここから一気にのし上がってやるよ」

「そっか・・・それで、円華の事は?」

ここで本題に入る。

そこで大和は一枚の写真を取り出す。

そこには、黒髪の少女。

「・・・・円華なのか?」

「ああ、こいつ、この東京にいやがった」

なんか子供の頃よりかなり綺麗になってないか?絶対彼氏の一人や二人・・・いやアイツに限って二股はありえないか。

「東京に?ならなんでこんなに遅く」

「俺はずっと、―――市にいると思っててな。それで時間を喰った。情報が少なすぎてな、どこにいるのか分からなかったんだ」

「そうか・・・・それで、円華はどこに?」

「二つ駅を乗った所にある―――って高校だ。行くか?」

「いや・・・逃げられるかもしれない・・・・」

「はあ、お前、いつも円華の事になると弱気になるよなぁ」

「仕方ないだろ。今まで、こいつの事を・・・・」

そこから先は口にだせない。

俺は、今まで円華の事を拒絶し続けてきた。

その眼に揺らめいた光を見なかった事にして、今まで避けてきたのだ。

そんな俺に、円華に会う資格なんてあるのか・・・?

「ゲームの中ならどうだ?」

「は?ゲーム?」

「ああ、円華の奴、GGOやってるぜ」

「な!?」

円華がGGO!?なんで!?

「それは分からねぇ。ただ、円華をつけていたら、ある同級生の男子にバレてな。その時、なんとか理由を話して黙らせた後、そいつから聞いたんだ。お前も朝田もGGOをやってるだろう?なら、会いにいけるんじゃないのか?」

「だ・・・だが・・・」

良いのか・・・?

「だー、うじうじするな!」

「いてぇ!?」

いきなり顔面を殴られた。

「な、何しやがる・・」

「それでも俺たちの地条蒼穹か?お前、他人の事を優先して自分の事には後回しにしてよお、ちったぁ自分の事も考えろよな」

「・・・・」

俺はしばし考えた後、ジンジャーエールを飲み干す。

「ああ、そうだな。なんとか探してみるよ」

「そうだ。それでこそ蒼穹だ」

「そういえば、《デス・ガン》と《デス・ブレット》の事も調べが着いたんだろ?聞かせてくれよ」

「おう」

 

 

 

 

 

 

 

とある喫茶店にて、桐ヶ谷和人はメニューを覗き込みながら、目の前にいる男をにらむ。

「いやぁ、ご足労願って悪かったね」

その男の名は菊岡誠二郎。

総務省のエージェントの一人であり、まだ目覚めたばかりの桐ヶ谷和人にコンタクトを取ってきた男だ。

「そう思うなら銀座なんぞに呼び出すなよ・・・」

と、ため息を吐く和人。

「ああ、好きなもの頼んでいいよ」

にこやかなスマイルを向けてくる菊岡。

「そんな事より、さっさと本題に入ってくれ。どうせバーチャル犯罪絡みのリサーチなんだろうけど」

「お、話が早くて助かるね」

そこで菊岡は笑みを引っ込め、真面目な顔になる。

「君は、可能だと思うかい?仮想の弾丸が()()()()()()()()()()()()()()()()()()を」

和人は眉をぴくりと動かす。

「どういう事だ?」

「こいつを見てくれ」

菊岡は和人にタブレット端末を渡す。

そこには、とある男性の個人情報と思われるデータが移されていた。

「誰だ?」

「先月だったかな・・・11月の14日だな。東京都中野区某のアパートで変死体が発見された」

その男性の名前は茂村(しげむら)(たもつ)。二十六歳。

大家が発見して時点で死後五日半。

部屋が荒らされた様子はなく、遺体はベッドで横になっていた。

その頭には、アミュスフィアを被っていた。

アミュスフィアとは、SAO事件で使われたナーヴギアの後継機で、あれだけの事件が起きたのだが、『今度こそ安全』という銘打たれ発売され、現在高いニーズを持っているのだ。

「この茂村保のアミュスフィアにインストールされていたのが、『ガンゲイル・オンライン』。知っているだろう?」

「ああ、もちろんだ。シノンやソラもやっている。全VRMMO中最もハードなゲーム・・・《プロ》のゲーマーがいるゲームだ」

 

 

 

 

 

「急性心不全・・・・劇薬か毒でも使ってるんじゃないか?」

「へえ、どうしてそう思うんだ?」

大和の組、『九重組』が経営しているキャバクラ『ガールストア』。

そこで俺は自分の考え、いや、推理を大和に述べていた。

「この()()は心不全だがな、まずアミュスフィアは脳を破壊する機能など持っていない」

「ああ、電源を抜かれれば強制遮断するからな。逆にナーヴギアは大容量のバッテリーを内蔵していて、その電気で高出力マイクロウェーブを引き起こす」

「そうだ。そして、こいつらの動機と手口だが、おそらく『デス・ガン』と『デス・ブレット』は二人じゃない。」

「何?」

「この二人、GGOじゃ有名なゼクシードと薄塩たらことガトム。特にゼクシードは前回のBOBで優勝した奴だ。この場合、おそらく、この二人はそれなりに強くて有名な奴しか狙わない。そこにある感情は、邪魔だから消したいか・・・・幻想の力で調子に乗ってる奴を殺したいだけなのか・・・・・」

「動機はあらかた分かった。じゃあ手口はなんなんだ?」

大和が聞いてくる。

「おそらくこの《デス・ガン》と《デス・ブレット》は二人じゃない。()()()()()()()()()()

「共犯者だと!?」

大和が驚きの声を上げる。

「ああ、おそらくそいつが殺されたプレイヤー本人を殺した張本人だ」

手口はこうだ。

まず、標的の住所を調べる。

この場合、相手のリアルを知る事が必要となる。

例えば、何か個人情報を入力している現場を見るだとか、現実から人物を特定するかのどちらかだ。

次にGGO内にいる《デス・ガン》と《デス・ブレット》が標的のアバターを見つける。

後は、予め決めた時間を確認し、拳銃で撃つだけ。

そして、それと同時に現実にいる半身である人物がそいつの家に入り込み、毒を打ち込む。

これで終わりだ。

「なるほどな・・・・」

「ただ、これは推測であって確信は無い。もしかしたら本当に仮想の弾丸が心臓を止めてんのかもしれないしな」

「だけど、その方法が一番現実的だ・・・」

大和は手元を右手で覆い、考え込む様な難しい表情になる。

「一応、GGOで探してみる・・・ただ俺の推測が正しければ、あいつはBOB、『バレット・オブ・バレッツ』に参加する可能性が高い」

「なるほどな。そこなら名高いプレイヤーがいてもおかしくない・・・・ただ、気を付けろよ撃たれて死んだら元も子もないからな」

「ああ、分かってる」

俺は立ち上がる。

「じゃ、俺は帰るよ。ジンジャーエール、美味かったよ」

「おう。それと、円華のプレイヤーネームだが・・・」

俺は大和の方を見る。

 

「アルカ・・・・意味は、『Arcadia(アルカディア)』からとったらしいから、『理想郷』だな」

 

「そうか・・・」

自分だけの理想・・・そういう意味を込めているのかと、俺はそう思った・・・

 

 

 

 

「つまり、俺に撃たれてこいって事だろ?嫌だよあんたが撃たれろ心臓トマレ」

「酷いなぁ・・・・」

「というか、それならGGOやってるソラやシノンに任せればいいだろ?」

「いや、彼は彼なりに忙しいみたいで、君に頼んでくれって言ったからさ~」

あの野郎・・・と内心蒼穹を罵倒する和人。

「というか、そのサーバーに割り込んでログを調べれば誰なのか分かるだろ?」

「それがそうでもないんだよ」

菊岡は本気な感じで弁解する。

「GGOを運営してる《ザスカー》なる企業はアメリカにサーバーがあるんだが所在地はおろか連絡先すら未公開なんだ。仮想化としても直接運営企業に当たってログを解析する事も出来ない。真実をしっぽを掴むにはゲーム内で接触を試みるしかないのだよ。それにゼクシード、たらこ、ガトムはGGO内で有名なプレイヤーだ。つまり、そのゲームの中で有名にならないと狙ってくれないのだよ」

これには、少しぐっとなる和人。

「そこで、あの茅場晶彦が認めた君を指名したわけだ」

「・・・」

そこで和人は少し黙り、菊岡に問う。

「引っかかるな。どうしてあんたがここまでこの事件にこだわる?」

そこで菊岡は少し黙り、理由を話した。

 

仮想世界は現実への影響を及ぼす事は各分野で最も注目されている所だ。ここでもし、危険だと言われれば、法規制になる方向に動く。SAO事件で法案提出寸前まで来たほどだ。菊岡は、というか仮想課はここで後退させる訳にはいかない。和人たち若い世代たちの為にも・・・

 

 

 

もし、仮想世界内から現実世界に干渉する能力があるとしたら、それが、もし本当に実在するならば、それは、茅場晶彦が目指そうとした世界変容の端緒なのだろうか?

SAO事件はまだ終わっていないのか?

もし、そうなら、その流れ行く先を見届ける役目が、和人にはあるのかもしれない・・・・

 

 

 

 

 

朝田詩乃は少し散歩をしていた。

「♪~」

その先にあるは本屋。

ただ単にVRゲームの雑誌を買いに来ただけなのだ。

街の商店街を一人歩く詩乃。

そこへ後ろから声を掛けられた。

「詩乃~」

「ん?」

突然声を掛けられたので、振り向く詩乃。

「あ」

そこでポカンとする。

「久しぶりだなぁ詩乃」

「え、遠藤さん・・・」

かつて詩乃が転校した中学にいた女子だ。

その後ろには取り巻きと思われる女子二人。

「お前がSAOに囚われたっていって心配したんだぞ?」

その顔に心配の色など見られず、むしろ、醜悪な笑みを浮かべている。

「別に・・・それよりなんの用?どうして、ここまで来る必要があったのかしら?」

ここは埼玉。彼女らの学校は東京にある筈だ。なのになぜ?

「そんなのお前に会いに来たに決まってんだろ?でもさぁ、お金無くなっちゃってさぁ。貸してくれない?」

そして遠藤は指を三つ立てる。

三百円でなければ三千円でもない・・・ならば三万か?

ああ、そういう事か。詩乃は落胆しながらため息を一つ。

「貴方に渡すお金は無いわ。それじゃ」

急いでその場を立ち去ろうとする。

だが、二の腕を掴まれ、それを阻止される。

「・・・・何?」

「つれない事いうなよ。あたしたち友達だろ?」

「・・・」

何が友達だ。

友達のいない、一人暮らしのあの頃の私を利用した癖に・・・・

「友達だからってお金は渡せないわ」

「ふ~ん。そんな態度取るんだ」

遠藤は嫌な笑みを浮かべる。

「来いよ」

「・・・・」

腕を引っ張られ、路地裏に連れ込まれる。

 

 

 

 

ああ、めんどくさい。

私は心の中でそう呟いた。

どうして懲りないんだか、この三人は・・・

「こんな事してもお金は出ないわよ」

まあ、銀行に海利さんから貰った大量のお金があるが・・・

「お前、前より偉そうになったじゃねぇか」

「恋人のいない非リア充には言われたくないわね」

「な!?」

ここぞとばかりに反撃してやったり。ざまあみろ!ハッハッハ!

と、因みに私はポーカーフェイスで無表情貫いてます。

「て、てめぇ・・・」

「何?事情しっている幼馴染ですが何か?」

「調子に乗んなよ・・・」

一度は驚きと怒りで顔をゆがめていた遠藤さんでしたが、右手を私の前に突き出す。

握り拳を作り、人差し指だけを立てたその形は、幼稚な子供が作るようなピストル。

「バン!」

と、最後に効果音を付けて私を脅す。

 

ごめんそれもう効かない。

 

「?・・・・」

「・・・・ふ」

とうとうポーカーフェイスが崩れた。

ああ、スイッチが入る。

「次にお前は、『どういう事だ朝田』、という!」

「ど、どういう事だ、朝田・・・ハ!?」

よし。

「て、テメェ!」

遠藤さんがこちらを睨みつける。

ヤバいニヤニヤが止まらない。

「どうしたの?遠藤さん?」

「く・・・」

「あ、ごめんなさい。さっきの脅しのつもりだろうけど、もう克服しちゃったからね」

「な・・・!?」

更に驚く遠藤さんと他二人。

「それじゃあ、そろそろ行くから。じゃあね」

今すぐ立ち去らないとこの人たちの心折りそうで怖い。

「ま、待ちやがれ!」

あー、やっちゃった・・・。

「調子乗んなよ・・・・」

「・・・・・・後悔しても知らないよ?」

最後の忠告。これを聞いてくれれば良いんだけど・・・

「ふざけんな!」

はい終わった終わりましたよこの人ー。

右拳を振り上げて殴ってくる。

この場合、相手にけがをさせず、かつ、自分も怪我しないように勝たなければならない。

こっちが怪我すると蒼穹が後で恐ろしいからなぁ。

避けるか。

顔面を狙った右拳を右側に避ける。

次に来るは左拳。

私はそれを右手で反らし、左で握り拳を作り、それを遠藤さんの顔面に当たる寸前で止める。

「!?」

「私に攻撃を当てようと思ったら、仮想世界で鍛える事ね」

私は茫然している遠藤から離れ、彼女たちに背を向け、その場を去る。

その時、ちょっとした罪悪感を感じたのは黙っておこう。

 

 

 

 

 

 




次回


円華の家。
そこは古ぼけたアパートの一部屋にあった。
そこで円華は、過去を振り返る・・・・

―――あの頃の日常はもう、戻らない・・・

深い後悔を抱えながら・・・・


次回『円華の過去』

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