須郷と綾香が最後の足掻きをしてから三日後の事だ。
ここは、詩乃と恋次が以前、待ち合わせをした公園だ。
そこに七人の男女がいた。
それは、かつて蒼穹のクラスメイトであった、九重大和、雅遥、布良剛介、砂重勇也、木京夕子、八乙女久太、八坂心愛だ。
「よお、集まったか」
「急に呼び出して何の様よ?いつもなら病院で待ち合わせでしょ?」
召集を掛けたのは大和だ。その事で疑問を抱いている夕子が大和に問う。
そこで大和は遥の方を見た。
「遥」
「ええ。三日前、蒼穹が目覚めたわ」
「な!?」
「本当か!?」
久太が雅を驚きながら見る。
「ええ、
「は・・・・?」
雅の言葉に、大和と剛介以外のメンバーが落胆する。
「なんだよ朝田からの連絡かよ、信じて損した」
勇也が首を横に振りながら、落胆の意志を示す。が、大和が更に彼らにとっては信じがたい事実を言う。
「そうか・・・言っておくが、朝田と蒼穹は付き合っているぞ」
『はあ!?』
遥と剛介以外の全員が素っ頓狂が声を上げる。
「じょ、冗談でしょ大和?」
「・・・・」
心愛が顔を引き攣らせながら大和に聞くが、大和は、しばらく黙り込んで、そして口を開く。
「ALOで戦った時、あいつの眼は本気だった」
「・・・・」
「だから、俺は負けたんだと思う・・・・」
心愛が更に顔を引き攣らせる。
「ちょ、ちょっと待ってくれ!じゃあなんであいつは遥以外に連絡しなかったんだよ!」
勇也が喚くように疑問を投げかける。
「は?そんなもの、私以外の連絡先を知らなかったからに決まってるでしょ?」
「・・・・」
その疑問を即座に一刀両断する遥。
「それで、大和。今回は、お前にとって
剛介が大和に問う。
「ああ。その事で話があるんだ」
そして、大和はメンバーを見回すと、こう言う。
「謝りにいこう。蒼穹に、そして朝田に」
「はあ!?」
そこで心愛が声をあげる。
「蒼穹くんはともかくなんで朝田の奴に謝んなきゃいけないのよ!?普通は『蒼穹くんをたぶらかしてごめんなさい』っていう所でしょ!?なのになんで・・・」
「黙りなさい」
心愛の言葉を遥が威圧で止める。
「蒼穹は、詩乃の為ならどんな時だって本気になれる人よ。それは、私が、いえ、蒼穹と拳で語り合った大和、貴方が一番知っている筈よ」
遥は大和を見る。
「ああ。あいつはそういう奴だ」
それを、迷いなく肯定する。
「薄々気付いていたんだよ。あいつが朝田の事を、好きなんだって。だけどさ、そのせいで、俺たちとの関係が切れちまったらどうよ?あいつは、もしかしたら俺たちと一生口を聞いてくれなくなる」
そして、大和は自分の本心を
「正直に言うぞ。俺は蒼穹の事が親友として好きだ。俺はあいつのと繋がりを失いたくない。だから、謝りに行くんだ。アイツと、いつかアイツの伴侶となる女に」
大和は曇り無き眼差しで、全員を見る。
「・・・・私も」
遥が口を開く。
「蒼穹の事は、好き。幸せになって欲しいとも思う。だけど、彼の幸せが私じゃないという事。そして、彼の幸せが詩乃だという事に、私は嫉妬していた。だけど、ここで謝って、彼の事を諦めて、次の恋を見つける。だから私は、蒼穹に謝りにいく。綾香の計画に参加してしまった事に」
次に剛介。
「俺はもともと朝田、いや、詩乃の事は嫌いでは無かった。寧ろ、蒼穹を幸せに出来るものとして、好意さえ持てた。だが、あの女の眼光に触れた途端、逆らう事が出来なかった。もし、自分の所為で、自分の家族が危険に晒されてしまったら、俺は、どう責任とっていいのか分からなかった。だから、自分は、蒼穹と詩乃、逆らえなかった事を、そして、大切な人を助けるという心意を邪魔してしまった事に謝罪しにいく」
このグループの中で、最も力の持つ三人。
残った四人の内、久太が口を開く。
「ほ、本気で言ってるのか?」
「ああ、本気だ」
「・・・・」
久太は少し黙り、そして天に向かって叫ぶ。
「ああ!!もう分かったよ!謝ればいいんだろぉがぁぁあ!!」
「な!?久太!?」
低い身長でしかも横に太っている久太のいきなりの咆哮に驚く夕子と心愛と砂重。
「俺は朝田の事は嫌いだ。だけどな。俺はあいつについていたあのサラマンダーとのリベンジを果たす。もしかしたら、そいつが蒼穹の病室に来てるかもしれないからな!」
もう半ば心が無茶苦茶になっている久太。
それに続いて夕子が頭を掻きながら口を開く。
「はあ、全く、デブ男がこう言っちゃ、私も謝るしかないか。確かに、あいつの眼は本気だったわ」
「おい夕子!?誰がデブ男だ!?」
「あんただよあんた!」
「ざけんな!」
夕子の悪口に喰いかかった久太。そこから口喧嘩に発展する。
そして勇也も頭をかかえるも、続く。
「ああ、なんか癪だけど、蒼穹に嫌われるよりはマシだな」
「ちょ、勇也まで・・・」
あと残るは心愛だけ。
「え、ちょ。わ、私は謝らないわよ!蒼穹君はともかく、なんで朝田の奴に・・・・」
「心愛、お前だけ謝り来ないで蒼穹に会えなくなっていいのか?」
「!?」
大和の言葉で言葉を詰まらす心愛。
「それ・・・は・・・」
「別に、謝りたくなけりゃいい。お前は帰れ。俺たちだけでいくから」
体を震わせ、俯く心愛。
「わ、私は・・・・」
八坂心愛。
蒼穹に恋している少女だ。
その恋は盲目的で、部屋に盗撮した写真を大量に張り付けたり、踏み込むようなアプローチをなんどもするのだが、蒼穹の心を未だに開けない上、詩乃という存在がいて、中々仲が進まない事に苛立ちを覚えていた。
いわば、詩乃は恋敵なのだ。
その恋敵に謝るなど彼女のプライドが許さない。
だが、蒼穹には嫌われたくない。
プライドを捨て蒼穹と今までの関係に戻るか、プライドを優先して蒼穹に嫌われるか、二つに一つ。
「どうする?」
大和が問う。
そして心愛は・・・・
「わ、分かったわよ・・・謝ればいいんでしょ?」
「ああ、そうでなくっちゃな」
そうして、全員一致という結果を持ち、蒼穹のいる病院に向かった。
病院で、予想外な事に、蒼穹の兄、海利からパスカードを受け取った一同。
「蒼穹は、結城明日奈っていう人の病室にいるんだって」
「あいつ・・・自分の病室にいなくて大丈夫なのか?」
「大丈夫みたいよ。リハビリなんてしなくても普通に歩いていたみたいだし」
「なぬ・・・・」
「はっはっは、やはり、鍛え方が根本的に違うな」
剛介が声を抑えながら笑い声をあげる。
「ああ、蒼穹くんはやっぱり・・・」
「心愛、それ蒼穹の前で言わない方がいいわよ」
「う・・・」
「ついたぞ」
大和が一つの病室の前で止まる。
そこのネームプレートには『結城明日奈』と、その下に『地条蒼穹』と書かれていた。
「ああ、なるほど」
「部屋が変わったのか」
「同時に見れるからな」
「うお!?」
後ろから声をかけられ、飛び上がる勇也。
「か、海利先輩・・・」
「ここでは海利先生と呼んで貰おうか。さて、入らなくていいのか?大和」
大和は海利を見ると、パスカードをスリットに差し込む。
すると、自動ドアが横にスライドして、大和が中に足を踏み入れる。
そこには・・・・
「よお、起きたか」
「久しぶりだな、大和」
そこにはベッドにあぐらで座っている蒼穹と、その傍らには詩乃、と他にも数人そこにいた。
蒼穹は、来たかとでもいう様に、詩乃は、警戒の色を見せず、彼らを見る。
ほかにも。蒼穹と同じ色の髪だが、蒼穹の男らしい顔つきとは正反対で女らしさが感じられる少年と、その彼の座る横にベッドには、栗色の髪をした、少しやせ細った体つきの少女。更に、中学生と思われるツインテールの少女。ショートカットの茶髪の少女。こちらは社会人なのだが、顔が盗賊の様で、頭にバンダナを巻いている男性。その男性よりも大きく、褐色の黒人とも見紛う巨漢の男。そして、黒髪の少年の妹思われる黒髪のショートカット少女と、その恋人と思われる赤みがかかった黒髪の少年。
「なんだ。他にも来てたのか」
「ああ、紹介するよ」
「その前に、蒼穹。俺たちはお前に言わなきゃならねぇ事がある」
大和は蒼穹の正面に立つ。
そして、大和は蒼穹を真っ直ぐ見つめ、両膝を床につき、頭を深々とさげ、土下座する。
「お前の伴侶となる女を傷付けた。すまない」
それに続いて、剛介と遥が土下座する。
「奴の支配に逆らえず、従ってしまった。すまなかった」
「詩乃を、傷付けた。だから、ごめんなさい」
次に久太、夕子が頭を下げる。
「ごめん蒼穹。こっちは楽しんでたんだ」
「ごめん」
次に勇也。
「俺、もともと朝田の事は嫌いだけど、それでも、ごめん」
そして、心愛。
「ごめん・・・なさい」
その行為に蒼穹と詩乃以外の全員は驚いていた。
「・・・・ちゃんと反省してるか?」
「ああ、どんな罰でも受ける」
「そっか、じゃあ言うぞ」
そして蒼穹はベッドから降りると、大和の前に立つ。
そして、しゃがみ込む。
「ッ・・・」
大和は、覚悟した。
だが・・・
「なら、ここにいる奴らと仲良くなってくれ。俺の仲間たちと」
「え・・・?」
大和は顔を上げる。
「みんなも顔を上げてくれ」
その言葉に、全員が顔をあげる。
「改めて紹介するよ。この黒髪の男が桐ヶ谷和人。またの名前をキリトっていって、SAO最強のプレイヤーだ」
「どうも。というか、SAO最強はお前じゃないのか?」
「お前は勇者だろ?俺は戦士で、つねにお前の下にいなきゃなんないのさ。次に、その恋人の結城明日奈。向こうで、最速の速さを持った、『閃光』の二つ名を持つ」
「よろしくね」
「そんで、このちっこいのが綾野桂子。プレイヤーネームはシリカで向こうじゃ有名なビーストテイマーだ」
「よろしくお願いします・・・て、なんですかちっこいのって!?」
「はいはい。あたしは篠崎里香。向こうじゃリズベットて名前で、鍛冶師をやってたのよ」
「それで、この盗賊顔の男がクラインこと壺井遼太郎で、こっちの褐色の男がアンドリュー・ギルバート・ミルズ。通称エギルだ」
「おいソラてめぇ、誰が盗賊顔だって?」
「お前だよ」
「んだと!?」
いきなり取っ組み合いを始める遼太郎と蒼穹。
「・・・・」
唖然とする大和と他のメンバー。そこへエギルが近寄る。
「まあ、なんだ。こういう奴らだって事だ。よろしくな」
「あ、ああ・・・」
手を差し出されたので、握手をする大和。
「と、とにかく。で、そこいる黒髪ショートカットの女の子がキリトの妹の桐ヶ谷直葉でその隣に立ってるのがその恋人の氷鉋恋次だ!クライン!俺は一応左手怪我してんだから手加減しろ!」
「うるせぇ、そんなのお前にとっては関係ねぇ事だろ!?」
「そこまでだクライン」
「うご!?」
和人に後ろ襟首を掴まれ、やっとの事で止まった取っ組み合い。
「さて、今度はこっちだな。この赤髪の奴は俺の喧嘩友達の九重 大和。この大和撫子っぽい女が雅 遥。この大きい奴空手・・・今何段だ?」
「五段だ」
「そう、五段の布良 剛介だ。そんでこの太った奴は八乙女久太で、このねくらそうな女は木京 夕子」
「誰がねくらよ!?」
「お前だよ。そんで、このいまにもずる賢そうな奴が砂重 勇也で、恋する乙女っぽい女が八坂 心愛だ」
一方的に自己紹介されてしまったが、和人が立ち上がり、大和の前に立つ。
そして、手を差し出す。
「よろしくな大和。さっきも言われたが、俺は桐ヶ谷和人。ソラの相棒だ」
「相棒?」
「ああ」
相棒という単語に食いつく大和。和人が肯定すると、大和は、ニヤリと笑うと、差し出された右手を掴み、言う。
「相棒の座は渡さねぇぜ」
「いいね。そういうのは嫌いじゃない」
互いに不敵に笑い合う。
その光景は、まさにライバル同士の様だった。
「みんなも、仲良くしてやってくれないか?俺の友達なんだ」
「分かってるわよ」
蒼穹の言葉に里香が答える。
そこからは交流会だった。
何が好きか、どんな事が得意か。
久太に至っては、恋次があのサラマンダーだとわかると、いきなり決闘を申し込んだりと、とにかく賑やかだった。
やがて、全員が帰っていき、外は暗くなり、病室には明日奈と蒼穹の二人だけになった。
「いい人たちだね」
「まあな。俺が唯一好感を持てた奴らだよ」
「そうなんだ。私たちの知らない間に、沢山の事があったみたいだね」
「そうだな」
ALO最強のプレイヤーを
偽造型モンスターに騙され、地下世界に落ちた事。
本当に色々な事があったらしい。
「この借りを、帰さなきゃな」
「そうだね、まずは、リハビリを頑張らないと」
「俺は左手を治さなきゃな」
蒼穹は、ふと窓を見た。
綺麗な夜空が写り、それが、少し幻想的とも思えた。
「そういえば、SAO帰還者の為に、学校が設立されたらしいぜ」
「そうなの?じゃあ、あの世界で一緒に生きた人たちともあえるんだね」
「ああ」
そこで消灯のアナウンスが入る。
「さて、そろそろ寝るか」
「そうだね」
ベッドに横たわり、天井を仰ぐ。
―――これで、いいよな。ヨウ。
蒼穹は心の中でそう呟いた。
次回!最・終・回!!
SAO帰還者を受け入れる学校にて、蒼穹は詩乃とカフェテリアで昼食を取っていた。
そこには、桂子と里香の姿もあり、そこで、事の顛末を話した。
既に死んでいた茅場晶彦。
最後まで抗った須郷伸之。
そして、最後に謎の言葉を残した地条綾香。
その疑問を抱えたままだが、放課後、開かれたオフ会。
そこには、かつてのSAOの仲間、そして、蒼穹の友人たちがいた。
そこで蒼穹と和人とエギルは、茅場から託された種子『ザ・シード』のこれからを考察する。
そして、ALOの中で新たなステージが現れる。
次回『エピローグ:世界の種子とスタートライン』
「俺は、剣士であることをやめない」