ソードアート・オンライン 狂戦士の求める物   作:幻在

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終わりまで後二話!!

詩乃(シノン)和人(キリト)の最後の戦いが始まる!





最後の決戦

雪の降る夜中、詩乃は急いでいる。

ロードレーサーを全力で漕ぎ、病院に急いで向かう。

走るのに特化している上、和人の家より近い為か、たった5分で着いてしまった。

ロードレーサーを駐輪場に置き、駐車場を横断して病院に駆け足で向かう。

夜の駐車場は全くの無人。

障害物となる車はほとんどなく、あるのは銀色のバン。

そこから人影が見えた。

「あ・・・」

すいません。そう言おうとした時、その人影の右手が光った。

そしてすれ違う。

「・・・・・・え?」

何が起こったのか分からなかった。

赤い何かが右腕から舞い上がり、それが数滴、雪の上に落ちた。

次に激痛。

右腕の二の腕の中間あたりから、激しい痛みが走り、左手で抑える。

「あ・・・・つ・・・」

「遅いじゃない。風邪を引かせる気なのかしら?」

「!?」

その声が後ろから聞こえで急いで振り向く。

「あ、綾香!?」

「名前を呼ばないでくれるかしら?」

その人物、綾香と目があった瞬間、いきなり呼吸不全に陥る。

「あ・・・かぁ・・・!?」

まるで、蛇に睨まれた蛙の様に。

「『心の一方』・・・・ある剣術に存在する、蛇睨みと似た極意よ」

呼吸がまともに出来なくなり、地面に膝をつく。

「今、それを強くかけたから、もって二分だけどさぁ・・・」

綾香が詩乃に近付き、いきなりその形相を大きく歪め、詩乃を蹴り飛ばす。

「お前さえいなければ!蒼穹は私の物になれたのに!お前さえいなければァァ!!」

「あ・・があ・・・・」

心の一方を破る方法は二つ。

それをかけた術者を殺すか、それ以上の気合でそれを破るしかない。

綾香が右手に持っているナイフを今横向きに倒れている詩乃に向かって振り下ろす。

「!?」

ナイフは・・・・詩乃の左頬を掠った。いや、深い。

「う・・・あ・・・・!?」

頬の皮の内側の皮ギリギリにまで届き、詩乃をさらなる恐怖に駆り立てる。

「あ・・・ハァ・・・」

肺の中の空気のほとんどが外に出ていき、まともに息が吸えないまま、悶え苦しむ。

「あれ?蒼穹に目をやられたから、狙いがくるちゃったみたい」

「仕方ないだろう。ペインアブソーバをレベルゼロにして、やられたからね」

「!?」

さらなる声、それも男。

須郷だ。

「全く、酷い事してくれるよ。せっかくの成功結果をダメにしてくれてさぁ」

須郷の声は至って普通。だがその声に隠れた殺意までは隠しきれていない。

「お前が来なければ、研究が失敗する事なんてなかったんだよ!!」

須郷は詩乃を蹴り飛ばす。

もう声さえも出ない。

「お前さえいなければなぁ!」

そして須郷が詩乃にナイフを刺そうとした時・・・

「やめろぉぉぉ!!」

その須郷に横からタックルをかます影。

「ぐ・・!?」

「須郷―――!!」

その正体はキリトこと、桐ヶ谷和人。

和人は須郷に覆いかぶさると、右腕を振り上げ、須郷を殴ろうとする。

「貴様ぁ!!」

だがそれよりも速く須郷が右手に持ってナイフで和人を差そうとする。

和人は慌てて右に転がり、そのナイフをかわす。

「このガキがぁ!何の力もない癖に、本当の力なんて持ち合わせていない癖に、僕の邪魔をするなぁぁぁぁ!!!」

須郷が絶叫を上げ、和人に向かって突進してくる。

和人は体を左半身を後ろにしてかわすが、ナイフが左頬をかすり、更には押し倒される。

「き・・・・」

詩乃は彼の名を叫ぼうとするが、呼吸が出来ない為、声を上げる事すらできない。

「死ねぇ!死ねぇ!」

「ぐお・・・!?」

振り下ろされるナイフを腕を交差させ、それを持った右手首を受け止める事で防ぐが、なんども振り下ろす為か、だんだんとガードが甘くなっていく。

一方で綾香が詩乃に近付く。

「お前もだ朝田ぁ」

「!?」

「お前も力が無い癖に、さんざん私と蒼穹の関係を引っ搔き回してくれちゃってさあ。蒼穹をたぶらかして、手中に収めて、汚い手で蒼穹を触ってさあ。何もないお前が蒼穹に触る資格なんてないのよ。お前のようなクズが蒼穹と一緒にいちゃいけないのよ。力のないアリの分際で、クズの分際で、私の蒼穹に触って、生きていられると思わないでよ」

そして綾香がナイフを頭上に掲げる。

だが、微かに震えだす。

「クズが・・・お前には、何の力も持ち合わせていないのに!」

それで詩乃も思う。

それは貴方も同じでしょう・・・・貴方の技術は機械があるから成り立つ。だけど、その機械さえなくなってしまえば、貴方はなんの力も持たなくなる。機械があるから貴方は強い。だけど、それがなくなれば、貴方は力を失い、何も出来なくなる。

それは結局・・・・私たちと・・・

「同じじゃないのよぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

「!?」

心の一方を突き破り、呼吸が回復した詩乃は振り下ろされたナイフを持つ右手を両手で受け止める。

「同じじゃない・・・・貴方も私たちと同じ人間じゃない・・・・同じ人間だからこそ・・・」

詩乃は右手を掴みながら無理矢理立ち上がる。

そして、綾香を押す。

「貴方も所詮は力の無い人間じゃない!!」

よろける綾香。だが、すぐに態勢を立て直し、詩乃に突っ込む。

「調子に乗るなァァァァ!!!」

「!?」

その突進を左、()()()()()()()()()()()に避けるが、まだ呼吸不全による影響を脱していないのか、足がもつれ、バランスを崩す。

その隙を綾香は逃さず、右腕を伸ばして、詩乃の腹にナイフを突き立てようとする。

今の詩乃には避ける事も防ぐ事もできない。

「シノン!」

和人の声が聞こえる。

だが、和人は未だに須郷に抑え込まれ、動けない。

絶体絶命。

(蒼穹・・・!)

心の中で彼の名を呼ぶ。

 

――――いやだ・・・死にたくない!

 

「詩乃ぉぉ!!」

いきなり後ろに引っ張られる。そして左側から誰から詩乃と入れ替わる様に前に出た。

次の瞬間、鮮血が舞い上がる。

「な・・・!?」

尻もちをつき、自分を後ろに引っ張った人物を見る。

「そ、蒼穹・・・?」

詩乃がその人物の名を呼ぶ。

蒼穹は、病院で使われるローブを身に纏い、その足は裸足。

下着などつけている訳が無く、胸元がさらけ出されている。

そして、その左手は・・・・ナイフに貫かれていた。

「ぐ・・・あ・・・」

「蒼穹!」

だが、その手は曲がる事無く、真っ直ぐ綾香の右手を受け止めていた。

「な、なんで・・・・二年間も眠っていたのに・・・なんで立っていられるのよぉぉぉ!!」

綾香が信じられない様に絶叫する。

「・・・いい加減にしろ」

綾香がナイフから手を離す。

「お前は、もう終わりだ。刑務所に入って、その罪を償え。それで、全て終わる」

蒼穹が、ナイフを左手から引き抜く。そして、右手の上で手慣れた手つきでくるくると回し、そして、どこかに投げる。

「終わり?何が?まだ終わってなんていないわ。私は・・・・」

「アメリカに逃げる、そうだろ?」

「な!?」

蒼穹が綾香に向かって指を突き付ける。

「お前を必要としている企業はまだほかにも沢山ある。だから、アメリカに逃げてしまえばもう、日本の警察は手を出せなくなる。そういう算段だろ?悪いがそうはいかない」

そこで和人の絶叫が聞こえた。

「おおおおおお!!!!」

「な!?」

和人は須郷を突き飛ばし、その衝撃で須郷がナイフを手放す。

「軽くて、貧弱な武器だ・・・だけど、お前を殺す価値なんて塵一つないな」

そして、ナイフをどこかに放り投げる。

須郷は、和人の眼光に怯え、地を這って逃げようとする。

「逃げるな」

「が!?」

和人が須郷の頭を踏みつける。

「須郷!?チッ、使えない奴が・・・」

「それはお前も同じだろ」

「!?」

「ナイフの使い方が全然なっていないし、やる事が窮地に陥るとまともな判断が出来ず素人同然になる」

蒼穹が綾香に向かって、ゆっくりと近付く。

須郷が和人を見ながら、下がっていると、バンに背中を押し付ける。

「ひ、助けて・・・」

そんな須郷の言葉に耳を貸す筈もない。

「覚悟しろよ」

蒼穹が自分の間合いに綾香を捉える。

「お前がした事全て」

和人が拳を握り締める。

「お前が犯した罪全て」

蒼穹が右足を大きく踏み込む。

「「償いやがれ!!」」

瞬間、和人と蒼穹の右拳が、綾香と須郷の顔面を捉える。

 

ドカッ!!

 

須郷は顔をゆがめ気絶し、綾香は地面に大の字になって倒れる。

「・・・・ぐう!?」

蒼穹が左手を押え、地面に膝をつく。

「あ、蒼穹!」

「大丈夫か!?」

どうやらアドレナリンが切れたらしく、痛みがじわりと出てきたようだ。

詩乃と和人が蒼穹の元に駆け寄る。

「ああ、大丈夫、兄さんが治してくれるさ」

と、半分蒼白な顔で笑顔を作って強がる蒼穹。

「・・・・やっぱり、ダメなのね」

綾香が口を開く。

「!?」

蒼穹と和人が警戒する。

だが蒼穹は右手でそれを制する。

「蒼穹、貴方は覚えてる?お父さんの事」

「いや・・・全然・・・」

「病死っていったけど、本当は、事故死なの。貴方をかばってね」

「!?」

詩乃が口元を両手で抑え、和人が顔を強張らせる。

「まだ二歳で、やっと歩けるようになった貴方が、道路に出て、車に轢かれそうになった時、お父さんは、貴方をかばってしんだの・・・・その時、言われたんだ。『蒼穹を頼む』、て」

「それが、いつの間にか歪んだ方向にむかっていた・・・・・」

蒼穹は全てを悟ったかの様に、綾香を見る。

「ごめんね・・・・でも、貴方に殴られて、やっと目が覚めたわ」

綾香は、夜空を見上げながら、そう語る。

「詩乃も、キリト君もごめんなさいね。許してとは言わないけど・・・これで、やっと諦めがついた」

「・・・刑務所に行くか?」

「ええ、出来るだけ重い罪を被るわ。それと良い事を教えてあげるわ」

そして、綾香は予想もしていなかった事を言った。

「円華は、私が詩乃を蒼穹から遠ざけるように言いつけたの。そして、蒼穹の前ではなにがなんでも普段通りに生活しなさいと言った。円華は何も悪くないわ。ただ、私のいう事を聞いただけ」

「な・・・・・・」

蒼穹の顔が遂に強張る。

「お前が・・・円華を操ったていうのか?ありえない・・・だってあいつは・・・」

「そうね。あの子はちょっと、演技が上手過ぎた。だから、こんな誤解を生んでしまった」

ありえない。蒼穹の眼には、円華の眼は・・・・いや、一瞬だけ、揺らめく事が今までになんどかあった。

蒼穹は・・・・それから目を反らし続けた。

「はは、最後に母として出来るのは、兄妹の誤解を解く事ぐらいしかできな・・・か・・・たな・・」

そして、綾香は気絶した。

「・・・・母さん、俺は・・・・・」

詩乃が蒼穹の右手を握る。

「詩乃・・・・」

「いつか・・・円華に謝りにいこう」

「ああ・・・・そうだな・・・」

そして、少しの間俯いた後、蒼穹は改めて和人に向き直る。

「改めて、地条 蒼穹だ。ただいまだ、キリト」

「ああ、桐ヶ谷和人だ。おかえりソラ」

そうして自己紹介をすると、病院の入り口から警備員が数名と、白衣の男性、地条海利がこちらに向かって走ってきた。

「無事か?愚弟」

「兄さん・・・相変わらずその喋り方はやめないんだな・・・」

「ふん、ほれ、左手を見せてみろ」

海利は蒼穹の左手を取り、その容態を見る。

「・・・少し急いだほうがいいな」

「やっぱりなのか?」

海利は首を縦に振り行程すると、須郷と綾香を拘束している警備員に向かって叫ぶ。

「おい!今すぐ手術の準備をしろと受付の看護師に伝えろ!いそげ!」

その言葉で警備員の一人が入り口に戻っていく。

「桐ヶ谷」

「?」

海利は、和人にある物を渡す。明日奈の病室のパスカードだ。

「行って来い。待ってるぞ」

「・・・・」

和人は蒼穹を心配そうに見る。

「心配するな。手を怪我しただけだ。そんな事より、行ってやれよ。アスナの所へ」

そして蒼穹は病院の上層を指さす。

「ああ、そうだな。ありがとうございます」

和人は、海利に頭を下げ、走り出し、入り口に入っていく。

「さて、お前もいくぞ」

「あ、その前に」

と、蒼穹は詩乃の方を向き、言う。

「ただいま、詩乃」

詩乃は、頬から涙をながし、満面の笑みで答える。

「おかえりなさい、蒼穹」

そして、顔を近づけ、口づけを交わす。

その時、道路のほうで、黒いボロマントを羽織った黒髪の少年と、緑色を主とした皮装備を纏った少女が、こちらに微笑みかけ、そして、夜空に消えていった・・・・




次回・・・・

詩乃と恋次が待ち合わせをした公園で、複数の男女があつまっていた。

「行こうぜ。謝りに」

それは、かつて詩乃をいじめていた蒼穹のクラスメイトの、大和、遥、夕子、剛介、勇也、久太、心愛の七人だ。
彼らは、蒼穹に、そして詩乃にあやまるために、病院へ向かう。
そこで彼らは、蒼穹の仲間たちに会う・・・・

「今まで・・・すまなかった」

蒼穹は、彼らにどんな言葉を投げかけるのか・・・・

次回『謝罪と新たな道』

次回をお楽しみに!

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